説明

ホスホリルコリン基含有化合物及びその製造方法

【課題】 表面処理剤若しくは表塩処理剤の原料物質として有用なホスホリルコリン基含有化合物を提供すること。また、工業的利用価値が高い製造方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)又は(2)で示されるホスホリルコリン基含有化合物である。
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COONa (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホスホリルコリン基含有化合物及びその製造方法に関するものである。
本発明のホスホリルコリン基含有化合物は、プラスチック、金属、ガラス等の各種材料の表面処理剤若しくは表面処理剤の原料物質として有用な化合物である。
本発明の化合物からなる表面改質剤は、生体適合性、保湿性、親水性、その他の様々な有用な機能を物体に付与できる。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基含有化合物は、生体適合性等を改善するための表面処理剤として使用されている。例えば、特許文献1には、蛋白質および細胞沈着の減少を目的として、診断装置やコンタクトレンズの表面処理剤として利用されている。
特許文献1において、表面処理剤として用いられているホスホリルコリン基含有化合物は、その請求の範囲の1に記載されている式(I)の化合物である。この化合物は、その5頁右下欄の式(V)で示されたカルボキシルホスホリルコリン誘導体の反応から得られるものである。すなわち、一般式の式(V)のカルボキシルホスホリルコリン誘導体のうち、適当な化合物を使用するものである。
【0003】
式(V)で示された適当なカルボキシルホスホリルコリン誘導体は、表面処理剤の式(I)の化合物を製造するための原料化合物として、使用可能と考えられ得る化学構造の化合物を、広く一般式で示されたものである。そして、この一般式を満たす最も構造がシンプルな化合物をとして、その6頁の右下欄に下記式(4)の化合物が記載されている。このように、式(V)の一般式の中でも最も構造がシンプルな化合物は最も有用であることが理解できる。しかしながら、この反応式(6)は、表面処理剤である式(I)の化合物を製造可能な反応に使用できると考えられ得る理想的化合物として式(4)の化合物を記載したものであるが、特許文献1にて実際に合成された既存化合物ではなく、実際に合成された公知化合物ではない。
[化1]
(CH3)3NCH2CH2PO4C2H4COOH (4)
【0004】
式(V)の一般式に含まれる既存の公知化合物として、シンプルな構造を有するカルボキシルホスホリルコリンとしては、下記式(5)の化合物がMolecular Probe社から購入したと記載されている(非特許文献1)。しかし、非特許文献1には具体的な合成例の記載はないし、Molecular Probe社のウエブサイトを見る限り、該当する化合物は見られない。
[化2]
(CH3)3NCH2CH2PO4C5H10COOH (5)
【0005】
しかしながら、式(5)の化合物は、生体適合性に関与するホスホリルコリン基部分と、処理される材料とを結合させるスペーサーとの関係から(C5H10の部分)、これらの材料に生体適合性を最大限発現させるのは不十分な化合物である。
【0006】
一方、ホスホリルコリン化合物の製造法については、いくつかの合成例が提案されている(特許文献2〜4、非特許文献2)。
しかしながら、これらの方法は出発物質としてオキシ塩化リンを用いる製造方法であって、その製法が煩雑であるという欠点がある。
例えば、反応を厳密な無水条件で行うことが不可避である。したがって、反応雰囲気中の湿度も排除しなければならない。
また、目的とするホスホリルコリン化合物の精製工程が煩雑であり、その精製は極めて困難である。反応収率も低い。
さらに、反応溶媒には有機溶媒を使用し、反応溶媒の精製(水分の除去)も厳密に行う必要があるし、有機溶媒の使用に伴う環境的な問題もある。
このように、従来のオキシ塩化リンを出発物質としたホスホリルコリン化合物の製造方法は、工業的な製造方法として多くの問題点がある。
【特許文献1】特表平5−505121号公報
【特許文献2】特開昭63−222183号公報
【特許文献3】特開平7−10892号公報
【特許文献4】米国特許5,648,442号公報
【非特許文献1】Journal of Protein Chemistry, 117 (10) 1 1991
【非特許文献2】Polymer Journal, vol.22 355-360 (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、式(V)の一般式に含まれる化合物としてはその構造がもっともシンプルな化合物は極めて有用である。
本発明は、かかる観点から、新規に合成されたカルボキシルホスホリルコリンを提供するものであり、前記特許文献1の式(V)のカルボキシルホスホリルコリン誘導体の理想的化合物である式(4)の化合物よりも、さらに構造がシンプルである最も理想的な化合物を提供するものである。
そして、その製造方法は、オキシ塩化リンを出発物質に用いる従来の方法によるものではなく、グリセロホスホリルコリンを出発物質に用いる水系溶媒での反応(無水条件を必要としない反応)であり、従来の方法に伴う多くの問題点を見事に解決した製造方法である。
【0008】
また、本発明の化合物は、特許文献1の表面処理剤の式(I)の化合物を製造するための原料化合物としてだけではなく、それ自体で表面処理剤としての有用性が確認された化合物である。本発明の化合物は表面処理剤として利用され、生体適合性を付与するホスホリルコリン基部分を、材料表面の最も近い位置に存在させることが可能となり(スペーサー部分がC1のメチレンである)、生体適合性を初めとするホスホリルコリン基による様々な表面改質機能が材料表面にて最大限に発揮され得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)または(2)で示されるホスホリルコリン基含有化合物を提供するものである。
[化3]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化4]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COONa (2)
【0010】
また、本発明は、グリセロホスホリルコリンと、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上の過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩と、三価のルテニウム化合物とを、水溶液中にて反応させること特徴とする下記式(1)または(3)で示されるホスホリルコリン基含有化合物の製造方法を提供するものである。
[化5]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化6]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【0011】
さらに、本発明は、グリセロホスホリルコリンと、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上の過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩と、二価のルテニウム化合物とを、水溶液中にて反応させること特徴とする下記式(1)または(3)で示されるホスホリルコリン基含有化合物の製造方法を提供するものである。
[化7]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化8]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【0012】
また、本発明は、グリセロホスホリルコリンと過マンガン酸及び/又は過マンガン酸塩とを水溶液中にて反応させることを特徴とする下記式(1)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法を提供するものである。
[化9]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化10]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【0013】
さらに、本発明は、下記式(1)または(3)で示されるホスホリルコリン基含有化合物からなる表面処理剤を提供するものである。
[化11]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化12]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規化合物は、最もシンプルな構造を有するカルボキシルホスホリルコリンであって、その有用性が高い化合物である。それ自体で表面処理剤として利用され、生体適合性を付与するホスホリルコリン基部分を、材料表面の最も近い位置に存在させることが可能となり(スペーサー部分がC1のメチレンである)、生体適合性を始めとするホスホリルコリン基による表面改質機能が材料表面にて最大限に発揮される。
【0015】
また、本発明の新規化合物を利用して、カルボン酸基以外の有用な反応基を持つ化合物と反応させることにより、新たな表面処理剤を得ることも可能である。例えばアミノプロピルトリメトキシシランと反応させることにより、ホスホリルコリン基を有するシランカップラーが簡便に得られるなど、本発明の新規化合物は表面処理剤の原料物質(中間体)としても有用な化合物である。
【0016】
本発明の製造方法は、グリセロホスホリルコリンを出発物質とする簡便な製造方法である(一段階反応)。グリセロホスホリルコリンは、レシチン等、天然に存在するものを原料とし、商業的に安価に大量に入手可能である。
水系溶媒で製造を行うことができる。反応が定量的に進行し、収率が極めて高い。さらに精製工程が簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の新規化合物(1)及び(2)の構造は下記の通りである。

【化13】

(1)
【化14】

(2)
【0018】
この化合物は、グリセロホスホリルコリンと、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上の過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩と、三価及び/又は二価のルテニウム化合物とを、水溶液中にて(アセトニトリルを添加すると反応速度が上がる)、攪拌して反応させることにより製造することが出来る。
【0019】
グリセロホスホリルコリン、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、三価のルテニウム化合物、二価のルテニウム化合物、アセトニトリルは市販品を使用できる。過ヨウ素酸とは、例えばオルト過ヨウ素酸やメタ過ヨウ素酸及びこれらの水和物などである。過ヨウ素酸塩とは、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸カルシウム及びこれらの水和物などである。三価のルテニウム化合物とは、例えば、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム及びこれらの水和物などである。二価のルテニウム化合物とは、例えば、ヘキサアンミンルテニウムジクロライド、ヘキサシアノルテニウム酸カリウム及びこれらの水和物などである。
過ヨウ素酸塩を用いると、下記式(1)または式(3)の化合物が製造できる。
式(3)中、Mは、過ヨウ素酸塩に対応する陽イオンであり、nはその陽イオンの価数を示す。代表的な陽イオンは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオンなどである。
【化15】

(1)
【化16】

(3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【0020】
過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩は、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上使用することを特徴とする。好ましくは4等量以上である。4等量以上で収率がほぼ100%となる。2等量では長時間反応させても収率が低く、実用化されない。
三価及び/又は二価のルテニウム化合物は、触媒量程度(0.02mol%程度)の添加で十分である。
【0021】
反応溶媒は水である。有機溶媒を使用しないので、工業的製造法として環境的な意義が大きい。これにアセトニトリルを添加すると反応速度が向上する。水とアセトニトリルとの混合割合は、特に限定されない。なお、水に有機溶媒を添加することは任意である。
【0022】
反応温度は室温で十分に進行する。
【0023】
反応時間は特に限定されないが、2時間程度で十分であり、ほぼ100%の収率で反応が終了する。
【0024】
反応終了後に溶媒を除去する。残留固形物から、メタノールで本発明の化合物を抽出できる。次にメタノールを除去して、上記式(1)、式(3)の化合物が得られる。過ヨウ素酸ナトリウムを用いた場合には、本発明の式(1)、式(2)の化合物が得られる。
得られた化合物は、メタノールの濃厚溶液からの静置による再結晶、またはアセトニトリルを加えることによる再結晶などを行うと更に純度の高い目的化合物を得ることができる。
式(1)の化合物は、2[[[(carboxymethyl)oxy]hydroxyphosphinyl]oxy]-N,N,N-trimethyl-ethanaminiumであり、式(2)の化合物はそのナトリウム塩である。
式(1)、式(2)の化合物は、公知の手段で分離可能である。例えば、式(1)及び(2)の混合物を塩酸などで処理することにより、式(1)だけの化合物を得ることも可能である。また、水酸化ナトリウムなどで中和することにより、式(2)だけの化合物にすることも可能である。
なお、式(1)と式(2)の混合物の状態でも、表面処理剤として利用できるし、その他の化合物(表面処理剤等)を製造するための原料としても利用できる。
【0025】
上記方法以外にも、四酢酸鉛や過マンガン酸担持シリカゲル、さらにはタングステン、鉄、バナジウム、モリブデンなどを触媒に用いた近接ジオールの酸化開裂反応を用いても式(1)の化合物を得ることが出来る。
【0026】
また式(1)または式(3)の化合物はグリセロホスホリルコリンと過マンガン酸および/又は過マンガン酸塩を水溶液中にて、撹拌して反応させることにより製造することができる。過マンガン酸塩とは、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムおよびこれらの水和物などである。
【0027】
本発明の化合物は、生体適合性、保湿性、親水性、その他の様々な有用な機能を物体に付与できる。プラスチック、金属、ガラス等の各種材料の表面処理剤若しくは表面処理剤の原料物質として極めて有用な化合物である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0029】
「使用した原料」
下記製造方法にて使用した原料は、下記の市販品である。
グリセロホスホリルコリン(chemi社製)
アセトニトリル(和光純薬工業株式会社、試薬特級)
過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、試薬特級)
三塩化ルテニウム・n水和物(和光純薬工業株式会社、試薬特級)
ヘキサアンミンルテニウムジクロライド(アルドリッチ社製)
過マンガン酸カリウム(和光純薬株式会社、試薬特級)
【0030】
「製造方法1:三価のルテニウム化合物を使用した製造法(請求項2)」
200mlフラスコ内に、グリセロホスホリルコリン5g(19.4mmmol)、過ヨウ素酸ナトリウム17g(79.7mmol, 4.1eq)、三塩化ルテニウム・n水和物81mg(0.39mmol, 0.02mol%)、および、イオン交換水70g、アセトニトリル30gを加える。室温にて2時間攪拌した後、ろ過し、濾液から溶媒を除去した。得られた固形物からメタノールにて目的化合物を抽出、続いてメタノールを除去することによって目的化合物を得た。反応収率はほぼ100%であった。
【0031】
図1に1H NMRスペクトル、図2にMassスペクトルを示す。これより、目的の式(1)、式(2)の化合物が製造されていることが分かる。図3に反応式を示す。
【0032】
「製造方法2:二価のルテニウム化合物を使用した製造法(請求項3)」
200mlフラスコ内に、グリセロホスホリルコリン5g(19.4mmmol)、過ヨウ素酸ナトリウム17g(79.7mmol, 4.1eq)、ヘキサアンミンルテニウムジクロライド107mg(0.39mmol, 0.02mol%)、および、イオン交換水70g、アセトニトリル30gを加える。室温にて2時間攪拌した後、ろ過し、濾液から溶媒を除去した。得られた固形物からメタノールにて目的化合物を抽出、続いてメタノールを除去することによって目的化合物を得た。反応収率はほぼ100%であった。
【0033】
下記「表1」は、上記製造方法において、反応溶媒の種類、過ヨウ素酸ナトリウムの等量、三塩化ルテニウムの有無を変化させた場合の結果である。
「試験番号1、2」
反応溶媒としてイオン交換水を用い、酸化剤として過ヨウ素酸ナトリウムを用い、三塩化ルテニウムを用いなかった場合は目的化合物が得られなかった。
「試験番号3」
反応溶媒としてイオン交換水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、酸化剤として三塩化ルテニウムを用い、過ヨウ素酸ナトリウムを用いなかった場合は目的化合物が得られなかった。
「試験番号4、5」
反応溶媒にイオン交換水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、酸化剤として過ヨウ素酸ナトリウムを用い、さらに三塩化ルテニウムを加えると、過ヨウ素酸ナトリウムの量が1等量の場合は目的化合物が得られなかった。過ヨウ素酸ナトリウムの量が2等量の場合は一部目的化合物が得られたが十分ではなかった。
「試験番号6:本発明」
反応溶媒にイオン交換水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、三塩化ルテニウムを加えて、過ヨウ素酸ナトリウムの量が3等量の場合、目的化合物を75%の収率で得ることに成功した。得られた化合物は、メタノールの濃厚溶液からの静置による再結晶、またはアセトニトリルを加えることによる再結晶などを行うと更に純度の高い目的化合物を得ることができる。
「試験番号7、8:本発明」
反応溶媒にイオン交換水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、三塩化ルテニウムを加えて、過ヨウ素酸ナトリウムの量が4等量の場合、目的化合物を100%の収率で得ることに成功した。また、反応溶媒がイオン交換水の場合も、目的化合物を100%の収率で得ることに成功した。得られた化合物は、メタノールの濃厚溶液からの静置による再結晶、またはアセトニトリルを加えることによる再結晶などを行うと更に純度の高い目的化合物を得ることができる。
「試験番号9、10:本発明」
試験番号8の反応時間を1時間に短縮したところ、目的化合物が80%の収率で得られた。一方、試験番号7の反応時間を1時間に短縮したところ、目的化合物を100%で得ることに成功した。得られた化合物は、メタノールの濃厚溶液からの静置による再結晶、またはアセトニトリルを加えることによる再結晶を行うと、更に純度の高い目的化合物を得ることができる。
【0034】
【表1】

【0035】
「製造方法3:過マンガン酸塩を使用した製造法(請求項4)」
グリセロホスホリルコリン1.0gを水20mlに溶解し、過マンガン酸カリウム1.85gを添加後、60℃で3時間加熱攪拌した。反応液を塩酸により中和し、溶媒を減圧留去後、目的物をメタノールにより抽出、減圧乾燥することによって目的化合物を得た。反応収率は82%であった。
【0036】
「表面処理剤としての実施例」
石英基板を水素と窒素の存在下プラズマ処理を行い、表面にアミノ基を有する石英基板を得た。この石英基板を水中に浸し、そこに、化合物(1)を添加し、さらに N-エチル-N'-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミドを加えて、室温にて5時間攪拌した。石英基板を水で洗浄し、ホスホリルコリン基で表面修飾された石英基板を得た。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のホスホリルコリン基含有化合物は、プラスチック、金属、ガラス等の各種材料の表面処理剤若しくは表塩処理剤の原料物質として有用な新規化合物である。
本発明の化合物からなる表面改質剤は、生体適合性、保湿性、親水性、その他の様々な有用な機能を物体に付与できる。
本発明の製造方法は、水系溶媒による一段階反応による簡便な製造方法であり、反応が定量的に進行し、収率が極めて高い。さらに精製工程が簡便であるため、工業的利用価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例で製造した本発明の化合物のNMRスペクトルである。
【図2】実施例で製造した本発明の化合物のMassスペクトルである。
【図3】製造方法1の反応式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または(2)で示されるホスホリルコリン基含有化合物。
[化1]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化2]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COONa (2)
【請求項2】
グリセロホスホリルコリンと、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上の過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩と、三価のルテニウム化合物とを、水溶液中にて反応させること特徴とする下記式(1)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法。
[化3]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化4]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【請求項3】
グリセロホスホリルコリンと、グリセロホスホリルコリンに対して3等量以上の過ヨウ素酸及び/又は過ヨウ素酸塩と、二価のルテニウム化合物とを、水溶液中にて反応させること特徴とする下記式(1)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法。
[化5]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化6]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【請求項4】
グリセロホスホリルコリンと過マンガン酸及び/又は過マンガン酸塩とを水溶液中にて反応させることを特徴とする下記式(1)または(3)のホスホリルコリン基含有化合物の製造方法。
[化7]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化8]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。
【請求項5】
下記式(1)または(3)で示されるホスホリルコリン基含有化合物からなる表面処理剤。
[化9]
(CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COOH (1)
[化10]
((CH3)3N+CH2CH2PO4-CH2COO-)nMn+ (3)
Mは陽イオンを示し、nはその陽イオンの価数を示す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−169163(P2007−169163A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341934(P2005−341934)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【特許番号】特許第3793546号(P3793546)
【特許公報発行日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】