説明

ホットスカーファー

【課題】ホットスカーファーの最先端部の熱変形を長期間にわたり効果的に抑制し、隣接するブロックユニット間の隙間から酸素ガスが吹き出すトラブルを防止する。
【解決手段】燃料ガス噴出孔4を備えたロアブロック2と、燃料ガス噴出孔10を備えたアッパーブロック3とを相互間に酸素ガス通路9を形成して配置したホットスカーファーにおいて、少なくともロアブロック2の燃料ガス噴出孔4の先端部5よりも更に突出した最先端部20に、ロアブロック2の幅方向に延びる冷却水路21を形成した。冷却水路21の内面と最先端部の表面との距離が3〜15mmとする。アッパーブロック3も同様の構成とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の燃焼フレームによってスラブ等の表面を溶削して手入れするために用いられるホットスカーファーの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラブの表面欠陥を溶削して除去するために、従来からホットスカーファーと呼ばれる手入れ装置が広く用いられている。ホットスカーファーはスラブの表面に高温の燃焼フレームを吹付けてスラブの表面を溶削し、介在物や割れ等の表面欠陥を除去する装置である。(特許文献1)
【0003】
上記の目的のためには、スラブ表面の至近位置から燃料ガスと酸素ガスとを高速で噴射し、高温高速の燃焼フレームをスラブの表面に斜め方向から吹付けることが望ましい。そこで従来から図1に示されるように、シュー1の上にロアブロック2とアッパーブロック3とを設けたホットスカーファーが用いられている。図示のように、ホットスカーファーはスラブSの上側と下側とに対をなして設けられており、スラブSの進行方向に対向する方向に燃料ガスと酸素ガスとを噴射するようになっている。またスラブSの幅は1800mmに及ぶことがあり、その全幅を1工程で手入れすることができるように、ホットスカーファーは幅方向(紙面と垂直方向)に広く延びている。
【0004】
シュー1は一般的に銅合金からなり、万一の場合にロアブロック2がスラブSに直接接触することを防止するための部材である。シュー1はスラブSに面する表面がスラブSの表面と平行であり、ロアブロック2側の表面が約30度程度傾斜した略三角形状の断面を有し、ロアブロック2に固定されている。
【0005】
ロアブロック2はシュー1の反対面に近い位置に燃料ガス噴出孔4を備えている。燃料ガス噴出孔4は幅方向に一定ピッチで多数形成され、プロパンガスなどの燃料ガスを噴射する。また燃料ガス噴出孔4の先端部5においてロアブロック2は凹状に切り欠かれている。このためロアブロック2の端面6よりも燃料ガス噴出孔4の先端部5はやや後退した位置にある。
【0006】
またロアブロック2の内部には、幅方向に延びる冷却水路7と、この冷却水路7に向かって冷却水を供給及び排出する多数の冷却水供給排出孔8が形成されている。冷却水供給排出孔8はロアブロック2の幅方向に一定ピッチで形成され、ロアブロック2を冷却している。
【0007】
アッパーブロック3はロアブロック2と所定の間隙を設けて設けられている。この間隙は酸素ガス通路9であり、燃焼用の酸素ガスが噴射される。アッパーブロック3の内部にもロアブロック2と同様に、燃料ガス噴出孔10と、冷却水路11と、この冷却水路11に向かって冷却水を供給及び排出する多数の冷却水供給排出孔12が形成されている。この太径の冷却水路11は燃料ガス噴出孔10の先端部13の近傍に配置されている。
【0008】
従来のホットスカーファーは上記のように構成されており、燃料ガス噴出孔4、10から噴射される燃料ガスを酸素ガス通路9から噴射される酸素ガスで燃焼させることによって発生させた高温の燃焼フレームをスラブSの表面に吹付け、介在物や割れ等の表面欠陥を溶削している。なお、幅が1800mmに及ぶようなロアブロック2やアッパーブロック3を単一のブロックで形成することは困難であるから、これらのロアブロック2やアッパーブロック3は、幅が数十mmのブロックユニットに分割され、幅方向に密着配置された構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−69223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、ホットスカーファーのロアブロック2及びアッパーブロック3は水冷構造となっている。しかし図1に示したように、ロアブロック2の冷却水路7は、燃料ガス噴出孔4の先端部5の近傍に配置されており、アッパーブロック3の冷却水路11は燃料ガス噴出孔10の先端部13の近傍に配置されている。このため燃料ガス噴出孔付近の熱変形は防止することができる。しかし、最も高温となるロアブロック2の最先端部14やアッパーブロック3の最先端部15については、冷却水路7、11との距離が20mm以上離れているため水冷効果が不十分となり、長期間の使用によって熱変形が発生することがあった。
【0011】
このような熱変形を放置すると、隣接するブロックユニット間の隙間から酸素ガスが噴出し、正規の燃料ガス噴出孔4、10以外の部分でも高温のフレームが形成されることとなる。その結果、銅合金からなるシュー1が損傷したり、過剰な高温フレームがスラブSの表面を異常に溶削し、ノロを発生させてスラブS表面が劣化してしまう等のトラブルに至ることがある。このトラブルは特にスラブSに近いロアブロック2において著しい傾向がある。
【0012】
そこでロアブロック2やアッパーブロック3を構成するブロックユニットの工作精度を高めて間隙を小さくする工夫もなされたが、これらの部分は加熱による膨張と冷却による収縮が繰り返される部分であるため、有効な解決策とならなかった。またロアブロック2やアッパーブロック3を幅方向に分割することを止めて一体化することも検討されたが、一部の溶損によって全体を交換しなければならないうえ、製作コストが非常に高くなるため、実用的な解決策とはならなかった。
【0013】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、特にロアブロックの最先端部の熱変形を長期間にわたり効果的に抑制し、隣接するブロックユニット間の隙間から酸素ガスが吹き出すトラブルを防止することができるホットスカーファーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、燃料ガス噴出孔を備えたロアブロックと、燃料ガス噴出孔を備えたアッパーブロックとを相互間に酸素ガス通路を形成して配置したホットスカーファーにおいて、ロアブロックの燃料ガス噴出孔の先端部よりも更に突出した最先端部に、ロアブロックの幅方向に延びる冷却水路を形成し、冷却水路の内面と最先端部の表面との距離を3〜15mmとしたことを特徴とするものである。
【0015】
なお請求項2のように、ロアブロックの燃料ガス噴出孔の先端部にも、さらに別の冷却水路を形成することができる。また請求項3のように、アッパーブロックの燃料ガス噴出孔の先端部よりも更に突出した最先端部にも、アッパーブロックの幅方向に延びる冷却水路を形成し、冷却水路の内面と最先端部の表面との距離を3〜15mmとすることが好ましく、この場合においても、アッパーブロックの燃料ガス噴出孔の先端部の近傍にも、さらに別の冷却水路を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロアブロックの燃料ガス噴出孔の先端部よりも更に突出した最先端部に、ロアブロックの幅方向に延びる冷却水路を形成し、冷却水路の内面と最先端部の表面との距離を3〜15mmとしたので、ロアブロックの最先端部を確実に冷却することができる。これによりロアブロックの熱変形が防止でき、異常な酸素ガスの噴出しトラブルを防止することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、ロアブロックの最先端部のほかに燃料ガス噴出孔の先端部にも別の冷却水路を形成したので、より高い冷却効果を得ることができる。さらに請求項3、4のように、アッパーブロックにも同様の冷却構造を組み込めば、ロアブロックのみならずアッパーブロックの熱変形をも防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のホットスカーファーを示す断面図である。
【図2】第1の実施形態のホットスカーファーを示す断面図である。
【図3】第1の実施形態のホットスカーファーを示す幅方向の断面図である。
【図4】第2の実施形態のホットスカーファーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図2と図3は本発明の第1の実施形態を示す断面図であり、従来と同様に1はシュー、2はロアブロック、3はアッパーブロックである。またロアブロック2には燃料ガス噴出孔4が形成され、アッパーブロック3には燃料ガス噴出孔10が形成され、ロアブロック2とアッパーブロック3との間には酸素ガス通路9が形成されていることも従来と同様である。しかし本実施形態においては、ロアブロック2に形成された冷却水路と、アッパーブロック3に形成された冷却水路との位置を、図1に示した従来のホットスカーファーよりも先端側に移動させてある。
【0020】
すなわち、図1に示した従来のホットスカーファーにおいては、前記したようにロアブロック2の冷却水路7は、燃料ガス噴出孔4の先端部5の近傍に配置され、アッパーブロック3に形成された冷却水路11は、燃料ガス噴出孔10の先端部13の近傍に配置されていた。これに対して本実施形態のホットスカーファーにおいては、ロアブロック2の燃料ガス噴出孔4の先端部5よりも更に突出した最先端部20に冷却水路21を形成し、またアッパーブロック3の燃料ガス噴出孔10の先端部13よりも更に突出した最先端部30に冷却水路31を形成した。
【0021】
これらの冷却水路21、31は、ロアブロック2やアッパーブロック3の幅方向に延びるもので、図3に示すように多数の細径の冷却水供給排出孔8、12が連通している。これらの冷却水供給排出孔8、12は各ブロックの後端に達しており、冷却水を冷却水路21、31に供給及び排出してロアブロック2やアッパーブロック3を冷却している。これによって各ブロックの最先端部20、30の熱変形が防止でき、異常な酸素ガスの噴出しトラブルを解消することができる。
【0022】
ロアブロック2の最先端部20やアッパーブロック3の最先端部30を十分に冷却するためには、冷却水路21、31の内面とブロックの最先端部の表面との距離を3〜15mmとすることが好ましい。この距離が15mmを超えると最先端部の冷却が不十分となり、3mm未満であると何らかの衝撃を受けたような場合に冷却水漏洩のおそれがあるからである。実用上より好ましい範囲は、5〜15mmの範囲である。
【0023】
このような冷却水路21、31は、ロアブロック2とアッパーブロック3との両方に設けることが好ましいが、アッパーブロック3よりも熱変形が発生し易いロアブロック2のみに設けても、一定の効果を挙げることができる。
【0024】
図4は本発明の第2の実施形態を示す断面図である。この第2の実施形態では、燃料ガス噴出孔の先端部近傍にある従来の冷却水路7、11をそのまま残したまま、更にロアブロック2の最先端部20やアッパーブロック3の最先端部30にも冷却水路21、31を増設したものである。この場合には既存のブロックを追加加工することができる。なお、従来の冷却水路7、11と新たな冷却水路21、31との間を連通水路22、32で結び、冷却水が供給されるようにしておく。
【0025】
この第2の実施形態においても、冷却水路21、31は、ロアブロック2とアッパーブロック3との両方に設けることが好ましいが、アッパーブロック3よりも熱変形が発生し易いロアブロック2のみに設けても一定の効果を挙げることができる。
【0026】
尚、冷却水は、熱交換器を配置して循環使用してもよいし、より冷却能力が必要なときは新水を常に供給する使い捨てにすることも好ましい。
【0027】
以上に説明したように、本発明によればホットスカーファーの最先端部の熱変形を長期間にわたり効果的に抑制し、隣接するブロックユニット間の隙間から酸素ガスが吹き出すトラブルを防止することができ、出願人の工場における使用実績によれば、従来設置後1日でブロックユニット間の隙間が設置時の2倍に変形し、2〜3ヶ月で隙間からの漏れによる異常燃焼が発生していたものが、本発明では3ヶ月後の観察においても同様に隙間間隔に変化がなく異常燃焼の発生もなかった。
【符号の説明】
【0028】
1 シュー
2 ロアブロック
3 アッパーブロック
4 燃料ガス噴出孔
5 先端部
6 端面
7 冷却水路
8 冷却水供給排出孔
9 酸素ガス通路
10 燃料ガス噴出孔
11 冷却水路
12 冷却水供給排出孔
13 先端部
14 最先端部
15 最先端部
20 最先端部
21 冷却水路
22 連通水路
30 最先端部
31 冷却水路
32 連通水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス噴出孔を備えたロアブロックと、燃料ガス噴出孔を備えたアッパーブロックとを相互間に酸素ガス通路を形成して配置したホットスカーファーにおいて、ロアブロックの燃料ガス噴出孔の先端部よりも更に突出した最先端部に、ロアブロックの幅方向に延びる冷却水路を形成し、冷却水路の内面と最先端部の表面との距離を3〜15mmとしたことを特徴とするホットスカーファー。
【請求項2】
ロアブロックの燃料ガス噴出孔の先端部にも、さらに別の冷却水路を形成したことを特徴とする請求項1記載のホットスカーファー。
【請求項3】
アッパーブロックの燃料ガス噴出孔の先端部よりも更に突出した最先端部にも、アッパーブロックの幅方向に延びる冷却水路を形成し、冷却水路の内面と最先端部の表面との距離を3〜15mmとしたことを特徴とする請求項1記載のホットスカーファー。
【請求項4】
アッパーブロックの燃料ガス噴出孔の先端部にも、さらに別の冷却水路を形成したことを特徴とする請求項3記載のホットスカーファー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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