説明

ホブ盤の割出機構

【課題】 多条ウオームギヤからなる割出機構を有するホブ盤において、ウオームギヤのなじみ磨耗を利用して隣接ピッチの均等化を図って長期にわたり高精度の割出加工を維持する割出機構を提供する。
【解決手段】 多条ウオーム1と噛合うウオームホイール3の歯数を、ウオーム条数回だけウオームホイール3が回転する間に、全てのウオーム条と全てのウオームホイール歯が噛合う歯数とし、従来の手段のウオーム条数毎の特定の歯とだけのなじみ磨耗を、全ての歯と均等になじみ磨耗させ合うことにより隣接ピッチを均等化し、割出精度の低下を防いだ多条ウオームギヤとした。しかし、かかる多条ウオームギヤ比は必ず帯小数値となり割出機構には不適当なため、機構内の伝導歯車比で帯小数値の小数分を吸収或いは補足して割出定数を整数値としたことにより割出換歯車7の算出を容易にし、また割出加工を可能な手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウオームギヤ(「ウオームとウオームホイールの対」をいう。)からなる割出機構を備えたホブ盤の内、小形歯車の歯切加工を目的とするものであり、日本工業規格(JIS B4355)で小形歯車用ホブの形状・寸法として規定されているが、その規定の寸法以下の小形ホブを使用するホブ盤(以下、「横形ホブ盤」という。)の割出機構に関する。
【0002】
横形ホブ盤は、一般の縦形ホブ盤と異なり、図2に示すように、加工素材である歯車素材6が比較的に小形で軽量のため、独特の構造になっている。すなわち、加工素材である歯車素材6を取り付けるテーブルがないことである。代わりにウオームホイール軸4を備え、先端にコレットチャック5が設けてあり、歯車素材6あるいは素材取り付け軸をコレットチャック5に嵌合し、ウオームホイール軸4の後部より引張ネジで簡単にウオームホイール軸4の軸心に固定できる構造である。また、加工素材の取替えあるいは切削油や切粉の落下方向が好都合であり作業性が良いため、小形ホブを使用するホブ盤は普通では横形になっている。
【0003】
横形ホブ盤は使用するホブ24の径が小さいため、ホブ軸23の回転が比較的高速になっている。したがって少歯数の歯切りの場合には、ウオーム軸2は著しく回転が高速になり、すべり摩擦伝導のため焼損する危険がある。そのため、ウオーム条を複数からなる多条ウオーム1として、ウオームホイール3の回転に対するウオーム軸2の回転速度と回転数をウオーム条数分の1に減じて、割出機構の損耗を防いでいる。この多条ウオーム1は変動負荷の小さい横形ホブ盤だけが有する構造である。
【背景技術】
【0004】
歯車を削りだす方法には、汎用フライス盤に割出台を載せて、インボリュート歯形のフライスで歯車素材に1歯づつ削りだす成形歯切法がある。特殊形状か精度を必要としない場合には非能率であるが、この方法が利用されている。しかし、歯車の需要が増し、また高精度化に伴い、歯切専用の自動加工機が各種開発されてきた。すなわち、インボリュート曲線からなる歯形が自動割出加工できる創成歯切法には、ホブによる法、ラックカッターによる法、ピニオンカッターによる法があり、傘歯車ではG形刃物による法やグリーソン方式の特殊カッターによる法などが主な加工法式で、それぞれ独特の運動機構からなっており、他の機種では加工できない形状の歯車を完成まで能率よく自動で歯切加工できる。普通形状の平歯車、はすば歯車、ウオームホイールはホブにより高能率で加工できるため、ホブ盤が最も多く用いられている。
【0005】
現在では、CNC制御技術が急速に発達して、各種の工作機械がNC化されている。また新しい複合工作機も開発され、歯切機能を備えた機種も出現している。ただし、多機能とはいえ機械の大きさに比べ加工できる歯車は小形で生産性も不十分である。よって便利性はあるがコストの高い歯車となる欠点がある。したがって、これらは多量生産向きには実用性がない。
【0006】
また、NC化した工作機械で複雑な形状の加工を自動化し、素材の交換だけ人手に頼ることで効果を発揮できるNC加工機がある。これは、一般に素材又は工具の回転が非常に高速切削になっており、超硬工具の使用が殆どであり、よって加工送りを遅くして変動負荷を生じない加工法になっている。ホブ盤のNC化の場合にはホブによる創成歯切のため、変動負荷が大きく、よってホブ軸回転を高速とし、送りを特に遅くする必要がある。そのためには高価なホブを非常に高価な超硬ホブに取り替える必要がある。しかし、超硬ホブは非常に脆弱で、刃が欠損し易いので、歯切り加工中に2軸モーターの回転比が負荷に負けて僅かでもずれると、急激に負荷が増大して瞬時に超硬ホブの刃が欠損する。したがって加工歯車の形状や材質により変動負荷が大きく変わるホブ盤のNC化には、加工効率や採算性の問題が生じる。
【0007】
従来の歯切盤として、歯切りカッターの回転に同期させてワークテーブルを回転させ、当該ワークテーブルにセットしたワークを加工する歯切盤において、ワークテーブルをモーターと一体に形成して上記ワークを直接回転させる構成からなる歯切盤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このものは、大きなモーター8でダイレクト駆動しているが、ダイレクト駆動では変動負荷の大きいホブ盤のテーブルを正確に回転させるには問題が多い。また、テーブルサドルを前後に移動させるネジ軸はモーター取り付けのために下方にあり、トーションによりテーブルサドル摺動面が湾曲磨耗し、加工中の変動負荷により僅かずつ移動して正確な歯切加工が困難となる。
【0008】
また、従来のホブ盤では、切削による加工熱を除去するために切削油を使用する。したがって切削油が切粉とともにテーブル上に落下する。テーブルの外周は溝を設けて壁囲いとなっており、よって加工素材取り付け軸を固定するために、放射状に設けられたT溝を通って、中央にある大きな穴よりベッドに設けられた油槽に切削油が落下する構造になっている。よってモーターが中央に位置すると、その対策が必要となる。したがって、テーブルのダイレクト駆動はトルクの点で、変動負荷の大きいホブ盤のNC化には、加工能力に問題が多い。
【0009】
よって他のホブ盤の駆動装置には、テーブルの駆動機構としてサーボモーターとウオームギヤからなるものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)このものの割出機構はサーボモーターによりウオームギヤ駆動されるが、図面で見る限り、ウオームギヤがテーブルの摺動面から離れているのでテーブルにトーションがかかり正確な歯切加工ができない問題がある。
【0010】
また、NC化したホブ盤で歯切加工中、突然に停電が発生した場合、モーターも電磁による保持力が消えるため、2軸モーターが変動負荷に耐えて回転比を維持しながら同時停止するのは至難である。したがってホブ刃の欠損や加工中の歯車又は素材取り付け軸の破損などが起きる。そのために万一に備えて動力用の無停電電源装置の設置などの停電対策が必要となる。よって、長年の実績により構造がほぼ安定している従来の1軸タイプのホブ盤は加工能力の限度が伝導歯車音などで判断しやすいため、安心して生産能率を高めることができる。
【0011】
ホブ盤は高精度の歯切加工が出来ることが最も重要なため、ホブ盤の製造メーカーはウオームホイール径を機械構造の範囲内で出来るだけ大きくし、歯数も多くして割出精度の向上、維持に特別の努力を払っている。しかし、創成歯切のためホブによる切削と同期して歯車素材を回転させる必要がある。よってホブによる断続切削荷重がすべり摩擦伝導のウオームホイールの歯にかかり偏磨耗を生じて割出精度が低下する。よって、同一の歯車を重切削で継続して歯切加工をする場合には、半数を計画的に割出換歯車の噛合いをずらせて、加工歯車の歯先と歯溝の位置を入れ換えて偏磨耗の均等化を図ることが重要である。
【0012】
また、ウオームギヤは平歯車と異なり、完全なるすべり摩擦のため、変動負荷がないときは、隣接ピッチを均等化する自己修正機能が強く、そのためになじみ磨耗で隣接ピッチが均等になり、割出精度も回復する。ただし、ウオームギヤ歯面のインボリュートカーブが磨耗により変形すると、なじみ磨耗によっても修正できないので、ウオームホイール歯数毎の割出誤差が発生する。よって、ホブ盤製造メーカーはウオームを耐磨耗性の特殊鋼で造り、焼入れ硬化して歯形の変形を防ぎ、またウオームホイールとの焼き付きを防いでいる。
【0013】
横形ホブ盤の内、最も加工能力が大きくはすば歯切も出来るのは、俗にいわれているミクロンホブ盤である。このホブ盤はスイスのミクロン社で開発され、横形ホブ盤の特徴を全て備えており、機構が合理的で歯車関係はバランスが良い歯数比となっており、操作性が良く優れた横形ホブ盤である。よって古くから親しまれ、各地でミクロン形ホブ盤として製造され用いられている。また横形ホブ盤は加工サイクルが短いため、歯切終了後、ホブが加工前の位置に自動復帰するタイプがある。ミクロン形ホブ盤にも自動復帰装置を取り付けたタイプがある。
【0014】
【特許文献1】実開平5−39827号公報
【特許文献2】特公平8−15686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、横形ホブ盤の割出機構に関するものである。横形ホブ盤はウオーム条が複数からなる多条ウオームを有するが、この多条ウオームの各条はウオームホイールの特定の歯としか噛合わない。したがって歯切加工により偏磨耗が生じた場合には、多条ウオームの各条は条数毎の特定の歯となじみ磨耗を繰り返すだけで隣接ピッチとは均等化作用が生じない。このために、ウオームホイールの歯数の条数分の1の割出誤差が生じて消滅することがない。したがって割出精度が次第に低下してゆく弊害があった。本発明はその弊害を除去して長期にわたり高精度の歯切加工を維持する横形ホブ盤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するための本発明の手段は、多条ウオーム1とウオームホイール3の対からなるウオームギヤから形成の割出機構を有する横形ホブ盤において、ウオームホイール3の歯数を、多条ウオーム1の条数の倍数からなる歯数に1歯加えた歯数か、又は1歯減じた歯数の内でホブ盤構造に適合する歯数とすることで、ウオーム条数回だけウオームホイール3が回転する間に、多条ウオーム1の全ての条がウオームホイール3の全て歯と順送りに噛合うものとし、そのため帯小数値となった多条ウオームギヤ比から割出加工を可能にするために、割出機構の割出元軸10よりホブ軸23に至る間に、帯小数値の小数分を吸収又は補足して小数を消去し得る歯数比の歯車を設け、割出定数を整数として割出換歯車の算出を容易にし、かつウオームホイール3の回転のずれにホブ軸23の回転を同調させて歯切加工を可能にしたことを特徴とする横形ホブ盤の割出機構である。
【0017】
すなわち、上記の割出機構は、多条ウオーム1と噛合うウオームホイール3の歯数を、ウオーム条数回だけウオームホイール3が回転する間に、多条ウオーム1の全てのウオーム条と全てのウオームホイール3の歯が噛合う歯数にしたことである。したがって、歯切加工により偏磨耗が生じた場合、本発明のウオームホイール3は、ウオーム条数毎のなじみ磨耗を順次ずらせて隣接ピッチを均等化することにより、次第に全てのピッチが均等になり、割出精度が回復してくる。また、多条ウオームギヤは1条ウオームギヤに比べ進み角が大きくなるため、はすば歯車の如く噛合い率が向上する。したがって1条ウオームホイールに生じる歯数毎の割出誤差が、本発明の多条ウオームギヤでは発生し難くなり、長期にわたり円滑なる回転を維持できる。ただし、このような多条ウオームギヤは、ギヤ比が必ず帯小数値となるので割出機構には適当ではない。したがって、本発明の手段は、割出換歯車7を算出するために整数値の割出定数が必要なため、帯小数に近い任意の整数を割出定数とし、その整数との差分の小数を吸収或いは補足する歯数比の歯車を割出元軸10よりホブ軸23に至る割出機構の間に設けた手段である。
【発明の効果】
【0018】
以上の本発明の手段としたことで、帯小数値の多条ウオームギヤ比から整数値の割出定数を得て、割出換歯車の算出を容易にし、また多条ウオームギヤが回転するごとに順次に噛合いがずれて絶えずなじみ磨耗により、ウオームホイールの隣接ピッチを均等化するために、歯切加工による偏磨耗が生じても次第に消滅して、長期にわたり高精度の割出加工を維持できる。したがって、シェービングや歯車研削による二次加工で精度を向上することが至難であった薄板材からなる歯車やピニオン歯車の精度が飛躍的に向上し、それらの小形歯車を使用する精密機器の品質向上に大いに寄与できるので、本発明の割出機構は従来の横形ホブ盤にない優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例を説明する前に、従来の横形ホブ盤の割出機構について説明し、その後に本発明による横形ホブ盤の割出機構と比較して、本発明がホブ盤としての機能があることを説明する。そこで横形ホブ盤で最も有名なミクロン形ホブ盤を選び、本発明を適用した例と比較して説明する。
【0020】
先ず、図2のミクロン形ホブ盤の割出機構における歯車系統図を参照して説明する。この多条ウオーム1は5条を1単位とするウオーム条からなってウオーム軸2に設けられており、これと噛合うウオームホイール3の歯数は80でウオームホイール軸4に設けられている。なお、図2で歯数80を80Nとして記載しているように、図面では数値の後に歯数を示すNを付して表している。ウオーム軸2の一端は外部に露出しており、割出換歯車7を取り付けることができる。割出元軸10の一端も外部に露出しており、元軸換歯車9を取り付けることができる。割出元軸10とホブ軸23は機構内部の伝導軸及び歯車を介して1対1の回転比となっている。したがって、割出元軸10とウオーム軸2に同歯数の元軸換歯車9と割出換歯車7を取り付け、中間歯車8で接続すると、ウオームギヤ比が16のため、ホブ軸23が16回転すると割出元軸10が16回転し、さらにウオーム軸2が16回転し、その結果ウオームホイール軸4が1回転する。すなわち、16分割の割出が出来る。
【0021】
したがって、このミクロン形ホブ盤の割出定数は16となり、割出元軸10に歯数が16の元軸換歯車9を取り付けておけば、割出すべき歯数の割出換歯車7をウオーム軸2に取り付け、中間歯車8で接続すれば、目的歯数の割出ができる割出機構となる。ただし、元軸換歯車9の歯数が16では歯車径が小さすぎるので、普通では2倍歯数の32の元軸換歯車9を取り付ける。この場合には、ウオーム軸2の割出換歯車7も比例して2倍の歯数にする必要がある。また、少歯数の歯切のために、歯数64の元軸換歯車9が用意されている。したがって、上記の割出定数の16は割出換歯車7の割り出すべき歯数Zを算出するための基準数値である。
【0022】
このミクロン形ホブ盤の割出元軸10に、割出定数の16と同じ歯数の元軸換歯車9を取り付け、ウオーム軸2に割出すべき歯数Zと同歯数の割出換歯車7を取り付け、中間歯車8で接続してホブ軸23を1回転させた場合に、駆動側の歯車を分子とし、被動側の歯車を分母として、ウオームホイール軸4の回転割合を表すと、次の計算式(1)となる。この場合、ホブ軸23からウオームホイール軸4に至る間の中で中間歯車及び噛合い歯数比が1対1の歯車は回転比に影響しないために省略している。
【0023】
【数1】

【0024】
上記のとおりで、この計算式(1)はホブ軸23を1回転させるとウオームホイール軸4がZ分の1回転することを示している。すなわちホブ軸23がZ回転でウオームホイール軸4は1回転するので、割出歯車7の歯数Zの割出加工が出来る機構である。よって割出換歯車7の算出が容易に出来る。
【0025】
この計算式(1)のなかで、1はホブ軸23の回転数、分子の70はホブ軸23に固定の歯車22の歯数で、分母の35は伝導軸14cに固定の歯車21の歯数である。次の分子30は伝導軸14aに固定のはすば歯車13の歯数で、分母の60は割出元軸10に固定のはすば歯車11の歯数である。次の分子16は割出元軸10に取り付けた元軸換歯車9の割出定数の歯数で、分母のZはウオーム軸2に取り付けた割出換歯車7の割出すべき歯数である。次の分子の5は多条ウオーム1の条数で、分母の80はウオームホイール軸4に固定のウオームホイール3の歯数である。したがって、この多条ウオームギヤのギヤ比は整数値のため、なじみ磨耗によっても16分の1の割出誤差は解消されることがない。
【実施例1】
【0026】
次に、本発明の実施例について、前記のミクロン形ホブ盤に適用した例として図1を参照して説明する。ところで、ミクロン形ホブ盤は構造が合理的でバランスの良い歯数比となっている。そこで、このミクロン形ホブ盤の構造を出来るだけ変更せず、歯数を僅か変更するだけで、本発明の目的を達成し得るものとしたのである。したがって、従来のホブ盤が使用によって割出精度が劣化した場合にも、本発明の歯車と取り替えるだけで高精度のホブ盤に再生できる利点がある。
【0027】
すなわち、多条ウオーム1は単位条数は5条のままとし、ウオームホイール3の歯数を80から81とする。したがって多条ウオーム1の位置をずらせて噛合いを調整する。このようにウオームホイール3の歯数を81としたので、多条ウオーム1とウオームホイール3からなるウオームギヤの噛合いは順次ずれて、ウオームホイール3が5回転で多条ウオーム1の各条が全てのウオームホイール3の歯と均等に噛合うこととなる。このため、歯切加工により多条ウオームギヤに偏磨耗が生じた場合でも、ウオームホイール3に5歯毎のなじみ磨耗が発生することなく、噛合いが順次ずれていき、絶えず隣接ピッチを均等化する方向になじみ磨耗し合うこととなる。このために、次第にウオームギヤの全てのピッチが均一になる。また、1条のウオームギヤに比べ、多条ウオームギヤは進み角が大きいために、はすば歯車の如く噛合い率が大きくなる。このため、ウオームホイール3の歯数毎の回転誤差が発生し難くなり、長期にわたり高精度の割出加工を維持できる。
【0028】
ただし、上記した多条ウオーム1とウオームホイール3からなるウオームギヤの場合、そのギヤ比は帯小数値の16.2となる。このために割出換歯車7の算出が複雑となり、このままでは実用に適さない。そこで、本発明では、割出元軸10よりホブ軸23に至る割出機構の間に、帯小数16.2の小数分0.2を吸収し得る歯数比のはすば歯車13、歯車21、歯車22を設けて割出定数を整数値の16とした手段である。
【0029】
すなわち、図1に示すように、一端にホブ24を有するホブ軸23に固定の歯車22を歯数72の歯車に取替え、これと噛合う伝導軸14cに固定の歯車21を歯数32の歯車に取り替える。したがって、1歯分の軸間距離が余るのでプラス転位した歯車とする。次に、伝導軸14cの傘歯車20と噛み合う傘歯車19を経て、伝導軸14bのはすば歯車17から、さらに伝導軸14aのはすば歯車16およびはすば歯車13からなる歯車構造において、伝導軸14aに固定の上記のはすば歯車13を歯数27のはすば歯車と取り替える。この取り替えにより中間はすば歯車12とはすば歯車13の軸間距離に1.5歯分の軸間距離が余ることとなる。しかし、この余った軸間距離を調整するための中間歯車軸12aは噛合いを調整するために多少位置を移動することができる。また、中間はすば歯車12ははすば歯車11と直角に噛合っているため、できるだけはすば歯車11の歯幅の中心と噛合わせる必要がある。したがって新規なはすば歯車13との噛合い位置の関係から、中間はすば歯車12の歯数を2歯増した歯車とする。このようにすることで、中間はすば歯車12ははすば歯車13と噛合い、かつ、はすば歯車11の歯幅のほぼ中心とも噛合うので、中間歯車軸12aの位置を固定し直す。以上が本発明の割出機構をミクロン形ホブ盤に適用した手段である。なお、伝導軸14aのはすば歯車16の嵌合部および伝導軸14bのはすば歯車17の嵌合部にはスライドキー溝18が形成されているのではすば歯車16及びはすば歯車17は噛合いを保ちながら摺動することができる。
【0030】
上記のように、本発明をミクロン形ホブ盤に用いた手段であるが、多条ウオームギヤ比が帯小数値でありながら、割出定数を整数値の16として算出した割出換歯車7で割出加工が可能なことを、次の計算式(2)により説明する。前記の計算式(1)の如く、割出元軸10に新規の割出定数16と同じ歯数の元軸換歯車9を取り付け、ウオーム軸2には割出すべき歯数Zと同じ歯数の割出換歯車7を取り付け、中間歯車8で接続する。またホブ軸23よりウオームホイール軸4に至る間の中間歯車及び歯数比が1対1の歯車は省略して、ホブ軸23を1回転させた場合に、駆動歯車を分子とし被動歯車を分母として、ウオームホイール軸4がZ分の1回転すれば、Z歯数の割出換歯車7でZ歯数の歯切加工が出来ることになる。また伝導軸14aには駆動用プーリー15を有し、駆動力が伝達される。
【0031】
【数2】

【0032】
本発明の割出機構をミクロン形ホブ盤に適用した手段は上記の通りで、多条ウオームギヤ比を帯小数値の16.2として、全てのウオーム1の条が全てのウオームホイール3の歯と均等に噛合う歯数81としたことにより、5歯毎のなじみ磨耗を隣接ピッチ均等化方向に変えて、絶えずなじみ磨耗によりウオームホイール3の割出精度を向上する割出機構にしたものである。しかし、多条ウオームギヤ比が帯小数値では、割出換歯車7の算出が困難でホブ盤には不適当である。よって、本発明の手段は、上記の如く割出元軸10よりホブ軸23に至る割出機構の間に、小数分の0.2を吸収し得る歯数比の歯車を設けたことにより、整数値の16を割出定数として割出換歯車7の算出を容易にし、かつ、高精度の歯切加工を長期にわたり維持することができる手段である。
【0033】
横形ホブ盤は比較的に割出定数の数値が小さいため、割出換歯車の精度がウオームギヤを介して加工精度に及ぼす影響が大きい。本発明の割出機構の場合には、その誤差が加工歯車の全周に分散するが、加工送りも同時進行するため、螺旋状の縞模様となり歯面精度が低下する。したがって、高精度の歯切加工をするには、割出換歯車を歯車研削などの二次加工したピッチ精度の良い割出換歯車を使用する必要がある。また図1には記載していなかった差動装置を使用してはすば歯切をする場合、ウオームホイール1歯分回転が遅れるため、差動定数を変更する必要がある。もし、従来のリード表を変更したくない時は送りねじピッチ5mmを81分の80に縮小する必要がある。
【0034】
ホブ盤製造メーカーが多条ウオームと噛合うウオームホイールを製造する場合、多条ウオームと同径、同条のウオームホイール歯切専用のホブを使用する必要がある。よってミクロン形のウオームホイール歯数80の場合には、マザーホブ盤の割出数は80ではなく16である。よって5歯毎のピッチ誤差が出来やすく、正確なウオームホイールが得難い。したがって、歯車研削ができるはすば歯車を使用したウオームホイールがある。しかし、多条ウオームと点接触となるため、摩擦圧が高くなり焼損を起こしやすい欠点がある。本発明のウオームホイールは歯数が81のため、5条毎のピッチ誤差が生じないため、高精度のウオームホイールが得られる。ただし、割出数が16.2となるので、小数分を割り出すため81歯と80歯の組合わせ割出換歯車が余分に必要となる。
【0035】
本発明をミクロン形のホブ盤に適用した場合には、在来の伝導歯車を取り替えて目的を達したが、他機種の横形ホブ盤で構造がより簡単な場合に、本発明を適用した例を簡単に説明する。例えば、割出機構のウオームホイールの歯数が30、噛合う多条ウオームの条数が3、割出定数が10である横形ホブ盤において、割出元軸よりホブ軸に至る間で、本発明の歯数に交換できる伝導歯車が無いホブ盤の場合、本発明を適用するには、例えばウオームホイールの歯数を29とすれば多条ウオームギヤ比が9.6666・・・と無限の帯小数となる。すなわち、9+2/3の帯分数となる。したがって、10との差の1/3を補足するため、新規に割出元軸側に歯数30の伝導歯車を設け、ホブ軸側に29の伝導歯車を設け、その間に回転方向が逆になるのを正すため任意歯数の中間歯車を設けて噛合わせれば、伝導構造が余分に増えるが、従来の多条ウオームギヤの弊害を除去できて永く高精度の歯切り加工を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のミクロン形のホブ盤の割出機構のうち、差動装置を除いて示す歯車系統の斜視略図である。
【図2】従来のミクロン形のホブ盤の割出機構のうち、差動装置を除いて示す歯車系統の斜視略図である。
【符号の説明】
【0037】
1 多条ウオーム
2 ウオーム軸
3 ウオームホイール
4 ウオームホイール軸
5 コレットチャック
6 歯車素材
7 割出換歯車
Z 割出換歯車の歯数
8 中間歯車
9 元軸換歯車
10 割出元軸
11 はすば歯車
12 中間はすば歯車
12a 中間歯車軸
13 はすば歯車
14a 伝導軸
14b 伝導軸
14c 伝導軸
15 駆動用プーリー
16 はすば歯車
17 はすば歯車
18 スライドキー溝
19 傘歯車
20 傘歯車
21 歯車
22 歯車
23 ホブ軸
24 ホブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多条ウオームとウオームホイールから形成の割出機構を有する横形ホブ盤において、ウオームホイールの歯数を、多条ウオーム条数の倍数からなる歯数に1歯を加えた歯数か又は1歯を減じた歯数の内でホブ盤構造に収まる範囲の成る丈多い歯数にして、ウオーム条数回だけウオームホイールが回転する間に多条ウオームの噛合いが順次ずれて全てのウオーム条と全てのウオームホイール歯が均等に噛合うものとし、よって帯小数値となった多条ウオームギヤ比から割出換歯車の算出を容易にし、また割出加工を可能にするため、割出元軸よりホブ軸に至る伝導軸間に、多条ウオームギヤ比から、帯小数値の小数分を吸収或いは補足する歯数比の歯車を設けて整数値の割出定数にし、ウオームホイールの回転のずれにホブ軸回転を同調させたことを特徴とする横形ホブ盤の割出機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−125545(P2010−125545A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301453(P2008−301453)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【特許番号】特許第4468473号(P4468473)
【特許公報発行日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(508350513)
【Fターム(参考)】