説明

ホログラフィック記録媒体およびその製造方法

【課題】本発明は、記録層組成物の選択の自由度を高めることができるホログラフィック記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ホログラフィック記録媒体1は、情報光と参照光との干渉縞を記録するための記録層12と、これに隣接するカバー層11およびボトム基板13を備えている。そして、記録層12は、カバー層11およびボトム基板13に対して接着剤で貼り合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の干渉を利用してデータの記録を行うためのホログラフィック記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の干渉を利用して膨大なデータを干渉縞として記録する厚膜の記録層を備えたホログラフィック記録媒体の開発が行われてきている。このようなホログラフィック記録媒体の製造方法としては、従来、以下に示すような2つの方法が主に知られている。
【0003】
1つ目の方法としては、平行に保持した2枚の基板の間隙に、記録層を形成するための感光性樹脂液を注入し、その表面張力により充填して感光性樹脂液の自発硬化によりホログラフィック記録媒体を得る方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【0004】
また、2つ目の方法としては、ドーナツ形の中空部を有するディスク型セルの一部に形成された孔から感光性樹脂液を注入したのち、加熱または光照射により感光性樹脂液を硬化させてホログラフィック記録媒体を得る方法が挙げられる(特許文献2参照)。
【0005】
これら2つの方法によれば、記録層と基板との間に接着剤層が不要となり、光学的に優れたホログラフィック記録媒体を得ることが可能となっている。なお、これら2つの方法には、感光性樹脂液として、成型に高温溶融を必要とする熱可塑性樹脂(例えば、非特許文献1参照)や、硬化に高温長時間の加熱もしくは厳密な温湿度管理が必要なもの(例えば、特許文献3参照)などを用いている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−17589号公報
【特許文献2】特開2001−5368号公報
【特許文献3】特表2005−537620号公報(比較例2)
【非特許文献1】Brian Lawrence , Xiaolei Shi , Eugene Boden ,Christoph Erben , Kathryn Lngley , Mare Dubois , Matthew Nielsen , InternationalConference on Holography 2005(Holography 2005)Abstract,p.78,Varna,Bulgaria,May2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の製法においては、中空部分に感光性樹脂液を注入した後、硬化させなければならないという原理的な制限があるため、感光性樹脂液(記録層組成物)の選択の自由度が極めて低いという問題があった。詳しくは、従来技術で用いる感光性樹脂液には、低粘度であること、硬化処理時間が短いこと、硬化による体積変化が小さいこと、基板を歪ませない条件で硬化することなど種々の条件が必要であるため、その選択の自由度は極めて低かった。
【0008】
そこで、本発明は、記録層組成物の選択の自由度を高めることができるホログラフィック記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明は、情報光と参照光との干渉縞を記録するための記録層を複数の層のうちの1つとして備えたホログラフィック記録媒体であって、前記記録層と、前記記録層に隣接する層のうち少なくとも一層とが、接着剤で貼り合わされていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、記録層とこれに隣接する層のうち少なくとも一層を接着剤で貼り合わせればよいので、これら各層をそれぞれ別個に硬化成型しておくことができる。そのため、記録層組成物の材料を、従来のように粘度や硬化処理時間などの種々の条件に縛られて選択する必要がなくなり、自由に選択することができる。
【0011】
また、前記接着剤で構成される接着剤層の屈折率nが、前記記録層の屈折率nとの間に、次式(1)〜(4)
0.01 ≧ (r × R) + (r × R)・・・(1)
=tan{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷tan{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(2)
=sin{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷sin{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(3)
θ = θwmax +θ・・・(4)
(r:光のP偏光の強度の比率、r:光のS偏光の強度の比率、R:P偏光の界面反射率、R:S偏光の界面反射率、θwmax:記録層と接着剤層との間の界面の表面うねり角度の最大値、θ:中心平面線の法線に対する光の入射角度の最大値)
の関係を満たすのが望ましい。
【0012】
これによれば、接着剤層の屈折率nと前記記録層の屈折率nとを、接着剤層と記録層との間の界面における光の反射、散乱に影響を与える各パラメータに基づいて決定するので、この界面における光の反射、散乱を抑制することができる。
【0013】
また、前記界面の平均曲線に対する表面粗さRaは、5nm〜90nmの範囲であるのが望ましい。これによれば、表面粗さが光の反射、散乱の原因になる特殊な場合(凹凸の周期が特殊な場合)においても、光の反射、散乱を抑制することができる。
【0014】
また、本発明は、情報光と参照光との干渉縞を記録するための記録層を複数の層のうちの1つとして備えたホログラフィック記録媒体の製造方法であって、前記記録層と前記記録層に隣接する層を、接着剤で貼り合わせたことを特徴とする。
【0015】
なお、前記した製造方法では、前記接着剤で構成される接着剤層の屈折率nが、前記記録層の屈折率nとの間に、次式(1)〜(4)
0.01 ≧ (r × R) + (r × R)・・・(1)
=tan{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷tan{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(2)
=sin{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷sin{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(3)
θ = θwmax +θ・・・(4)
(r:光のP偏光の強度の比率、r:光のS偏光の強度の比率、R:P偏光の界面反射率、R:S偏光の界面反射率、θwmax:記録層と接着剤層との間の界面の表面うねり角度の最大値、θ:中心平面線の法線に対する光の入射角度の最大値)
の関係を満たすよう、接着剤を選定または調製するのが望ましい。
【0016】
また、前記した製造方法では、前記界面の平均曲線に対する表面粗さRaが、5nm〜90nmの範囲となるように前記記録層の表面を形成するのが望ましい。
【0017】
これら各製造方法によれば、前記した効果を奏するホログラフィック記録媒体を良好に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、それぞれ別個に硬化成型しておいた記録層とこれに隣接する層とを接着剤で貼り合わせればよいので、記録層組成物の選択の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、本発明の一実施形態に係るホログラフィック記録媒体を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、ホログラフィック記録媒体1は、カバー層11、記録層12およびボトム基板13を備えて構成されている。そして、記録層12と、これに隣接するカバー層11およびボトム基板13は、それぞれ接着剤層14を介して貼り合わされている。
【0021】
カバー層11は、記録層12の上面を保護する層であり、例えば波長が532nm程度となる記録再生光RWを透過させる材料で形成されている。ここで、「記録再生光RW」とは、情報光、参照光および読出光のいずれかを指す。なお、カバー層11の材料としては、用いる光の波長領域で十分に透明であればよく、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、などが用いられるが、成形性、コストの点から、樹脂が特に好適である。
前記樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、成形性、光学特性、コストの点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0022】
また、成形方法としては、例えば、射出成形などを採用することができる。さらに、カバー層11の厚さは、0.1〜5mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。カバー層11の厚みが、0.1mm未満であると、ディスク保存時の形状の歪みを抑えられなくなることがあり、5mmを超えると、ディスク全体の重量が大きくなってドライブモーターに過剰な負荷をかけることがある。
【0023】
記録層12は、記録再生光RWの照射(詳しくは、情報光と参照光との干渉)によって反応することで、データを干渉縞として記録するものである。そして、この記録層12は、カバー層11やボトム基板13に接合させる前の工程において予め硬化成型されており、カバー層11やボトム基板13に対して接着剤(接着剤層14)により貼り付けられている。なお、この記録層12の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)光照射で重合反応が起こり高分子化するフォトポリマー、(2)フォトリフラクティブ効果(光照射で空間電荷分布が生じて屈折率が変調する)を示すフォトリフラクティブ材料、(3)光照射で分子の異性化が起こり屈折率が変調するフォトクロミック材料、(4)ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウム等の無機材料、(5)カルコゲン材料、などが挙げられる。
【0024】
また、記録層12は、材料に応じて公知の方法に従って形成することができる。例えば基板上に形成するのであれば、蒸着法、塗布法、LB法、印刷法、転写法などにより好適に形成することができる。また、記録層のみを、他の層との組み合わせを用いずに単独で形成する場合、結晶成長法、湿式製膜法、延伸法、射出成型法などを用いることができる。これらの中でも、特に(1)、(2)、(3)の材料を用いた塗布法、湿式成膜法、射出成型法が好ましく、さらにはその中でも湿式製膜法、射出成型法(特に液状射出成型法(LIM))がさらに好ましい。
【0025】
さらに、記録層12の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1〜1,000μmが好ましく、100〜700μmがより好ましい。
【0026】
ボトム基板13は、記録層12の下面を保護する層であり、前記したカバー層11と同じ材料で形成されている。また、ボトム基板13の厚さは、前記したカバー層11と同様に、0.1〜5mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。
【0027】
接着剤層14は、予め硬化成型してある記録層12を、カバー層11やボトム基板13に貼り合わせるための層であり、記録再生光RWを透過させる材料で形成されている。なお、この接着剤層14の材料としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、塗設型粘着性樹脂、などが好ましい。光硬化性樹脂の具体例としては、感光性アクリル樹脂、感光性エポキシ樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂などが挙げられ、塗設型粘着性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン=ポリアクリル酸共重合体などが挙げられる。好ましくは、光処理による記録層12の劣化を避けるため、熱硬化性樹脂、または塗設型粘着性樹脂が採用される。さらに好ましくは、後述するように屈折率の調整が必要になることがあることから、組成の微調整が容易な特長を有する熱硬化性樹脂が採用される。また、接着剤層14の厚さは、1μm乃至40μmの範囲とするのが望ましい。ただし、接着剤層14の材料については、後述するように記録層12に対応して適宜選択される。
【0028】
上記接着剤層14の材料の屈折率調整の方法を述べる。まず、ベースとなる接着剤(ベース接着剤)を決定し、その屈折率を測定しておく。ここでいうベース接着剤は、これのみでも十分に接着剤としての機能を有するものである。次に、希釈剤、可塑剤、色素(染料が好ましい)、フィラーなどの添加剤を加え均一に混合して、後述の選択方法に合致した屈折率に調整する。その他に、粘度調整剤や安定化剤などの添加剤を加えてもよい。一般にこれらの素材の混合においては分子屈折の理論を用いた加法性が成り立ち、ベース接着剤との混合比およびベース接着剤の屈折率を予め調査しておくことによって、所望の屈折率を有する接着剤を、屈折率差にして±0.01程度の誤差で調製することが可能である。具体的には、例えば熱硬化性エポキシ樹脂であれば、屈折率を下げたい場合にはポリエチレングリコールジグリシジルエーテルやポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等、ポリオキシアルキレン鎖を有するエポキシ化合物を、屈折率を上げたい場合は、9,9´−ジフェニルフルオレン骨格を有するエポキシ化合物やクロロフェニルグリシジルエーテルなど、もしくは、ベンゼン環を多く有する可塑剤、例えばジイソプロピルナフタレンやトリクレジルホスフェートなどを加えればよい。
【0029】
続いて、前述した記録層12と接着剤層14の材料の選択方法、特に各層の屈折率の選択方法の詳細について図2を参照して説明する。参照する図面において、図2は、記録層と接着剤層との間の界面における各パラメータの関係を示した図である。
【0030】
接着剤層14の屈折率nは、記録層12の屈折率をnとして、図2に示す各パラメータを用いて、次式(1)〜(4)の関係を満たすように決定される。
0.01 ≧ (r × R) + (r × R)・・・(1)
=tan{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷tan{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(2)
=sin{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷sin{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(3)
θ = θwmax +θ・・・(4)
(r:光のP偏光の強度の比率、r:光のS偏光の強度の比率、R:P偏光の界面反射率、R:S偏光の界面反射率、θwmax:記録層12と接着剤層14との間の界面の表面うねり角度の最大値、θ:中心平面線の法線に対する光の入射角度の最大値)
【0031】
具体的に、前述した各パラメータは、以下に示すような観察・測定を行うことで得ることができる。
【0032】
まず、記録層12の表面形状を、例えば、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)による断面形状の観察、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)による接触形状観察、光学顕微鏡による表面形状観察などにより特定する。具体的には、例えば、JIS B 0601:´01/ISO4287:´97、およびJIS B 0601:´01/ISO3274:´96といった方法(触針式変位検知型表面形状計測法)を採用することができる。
【0033】
なお、表面形状については、前述の計測法で得られた表面形状データのうち、凹凸周期(凹部の中心から凸部を介して隣接する凹部の中心までの長さ)が90nmを超えない凹凸に関してはこれを平均化して1つの凹部または凸部として設定する。そして、このようにして得られた凹凸周期が90nmを超える凹凸曲線(平均線)を以って本発明の表面形状評価を行うものとする。
【0034】
すなわち、JIS B 0601:´01/ISO4287:´97に準じた粗さ曲線の評価方法に基づき、カットオフ値λcを90nmとし、これより細かい粗さ曲線成分を除き、残った平均曲線(周期が90nmを超えるうねり)を以って、表面うねりの角度θを求める。
ある表面の一点の表面うねりの角度θは、前述のように設定した表面形状の平均曲線のある点において、この平均曲線の接線と中心平面線とがなす角度として定義する。ここで、「中心平面線」とは、平均曲線の略中央を通り、平均曲線の凸部を形成する線との間の面積と、凹部を形成する線との間の面積とが等しくなるように描かれる直線をいう。
【0035】
そして、この表面うねりの角度θを表面全体で計測し、その中から最大値のものをθwmaxとする。なお、表面うねりの角度θの計測は、製造時間を短縮するために、表面全体に限らず一部のみを行ってもよく、例えば測定長さ1mm以上の範囲で数箇所をランダムにピックアップして計測してもよい。
ここで、θwmaxは、0〜75°の範囲が好ましく、0〜60°の範囲がより好ましい。そして、θwmaxが0°(下限値)であるときには、記録層12の表面形状に凹凸周期90nmを超えるうねりが存在しない。また、θwmaxが上限値を超えたときには、記録層12と接着剤層14との界面において散乱や屈折が生ずるおそれがでてくる。
【0036】
凹凸周期が90nm以下の凹凸は、通常、光の散乱や回折の原因にはなりにくいが、形状や凹凸の周期性が特殊な場合に光の散乱や回折の原因となる可能性があるため、少ない方が好ましい。具体的には、平均曲線からの表面粗さRaを、小さくすることが望まれる。ここで、表面粗さRaとは、表面形状の平均曲線から実際の表面形状の凹凸までの高さ、深さの絶対値をとり、これらの絶対値を算術的に平均した値である。なお、平均曲線の算出方法や実際の表面形状の凹凸の高さ、深さの測定方法は、前述した方法を適宜利用すればよい。また、凹凸周期が90nm以下となる部分の表面粗さRaは、0〜100nmの範囲が好ましく、0〜90nmの範囲がより好ましい。ここで、表面粗さRa=0とは、測定上、平均曲線と実際の表面形状とが完全に一致していることを示す。なお、このように凹凸周期が90nm以下となる部分の表面粗さRaを、0〜90nmとすることで、表面粗さが情報光等の反射、散乱の原因になる特殊な場合(凹凸の周期が特殊な場合)においても、情報光等の反射、散乱を抑制することができる。
【0037】
なお、前述した計測法は、一次元的な計測方法であるが、これを二次元的に拡張してもよい。すなわち、凹凸曲線は、凹凸曲面と読み替えればよく、また、うねりの角度の最大値θwmaxは、ある点における凹凸曲面に引かれる接線と、平均曲面の中心平面がなす角度の最大値として定義される。ここで、中心平面とは、平均曲面の略中央を通り、平均曲面の凸部を形成する曲面との間の体積と、凹部を形成する曲面との間の体積とが等しくなるように描かれる平面をいう。なお、θwmax等の好ましい数値範囲は、前述と同様である。
【0038】
接着剤層14の屈折率nは、例えばエリプソメトリの手法、また、アッベの屈折率計、プリズムカプラーの原理を応用して測ることができる。精度および簡便さの点から、エリプソメトリの手法を用いることが好ましい。計測の方法としては、例えば、屈折率既知の鏡面仕上げシリコンウエハ上に接着剤層14の素材である接着剤をスピンコートした後硬化させ、形成された膜の屈折率を測ればよい。本発明における接着剤層の屈折率とは、この硬化後の膜状態における温度25℃での屈折率を指す。
【0039】
記録層12の屈折率nは、接着剤層14の屈折率nと同様の測定法で測ることができる。ただし、サンプルの作成方法は、スピンコートに限定されず、測定したい記録層組成物に応じて適宜変更される。なお、記録層12の屈折率nは、1.38〜1.8の範囲が好ましく、1.4〜1.7の範囲がより好ましく、1.45〜1.6の範囲がさらに好ましい。
【0040】
光の入射角度の最大値は、情報の記録再生に用いられる光線のうち、記録層12の表面形状の中心平面線の法線に対する角度が最も大きい光線の入射角度とする。ここで、光線には、記録層12に対して記録再生を行う記録再生光RWが含まれる他、予めホログラフィック記録媒体中にサーボ層が形成されている場合には、このサーボ層を読み取るためのサーボ光も含まれる。なお、この光の入射角度の最大値は、80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましく、60°以下であることがさらに好ましい。また、光の入射角度の下限値は、用いるシステムごとに制限される値を用いればよい。すなわち、2光束のホログラム記録再生システムを用いる場合、光の入射角度の最大値は、2つの光束(情報光と参照光)が成す角度の1/2以下の角度には、原理的になりえないため、入射角度の最大値を決めるための下限値は、2つの光束が成す角度の1/2を超える角度とすればよい。また、情報光と参照光を対物レンズに通す場合には、対物レンズの開口度によって、下限値は自ずと制限される。
【0041】
なお、光のP偏光またはS偏光の強度の比率であるr,rや、P偏光またはS偏光の界面反射率、R,Rは、従来公知の方法にて計測される。すなわち、強度の計測においては、計測したい光束に対し、計測したい偏光に適した偏光子を通した上で計測することで強度および強度比を得ることができる。界面反射率に関しては、PまたはS偏光を所望の界面に反射させた反射光の反射強度を測定することで計測することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係るホログラフィック記録媒体1の製造方法について説明する。
まず、記録層の材料を予め1枚の板状の記録層12として形成しておく。併せて、カバー層11やボトム基板13も、同様に予め射出成型して、1枚の板状に形成しておく。この際、記録層12の形成の手法は上述に例示したとおりであり、記録層材料単独の1枚の板状の記録層として形成されてもよいし、予めボトム基板またはカバー層、もしくはその他任意の層上に形成されてもよい。他の層と組み合わせて形成した場合、その界面には接着剤は介在しない。次に、前述した方法により、使用すべき記録層12の屈折率nに対し、接着剤層14の屈折率nを選択し、これらを満たすような接着剤、および希釈剤や屈折率調整剤を選択し、用いるべき接着剤を調製する。そして、この板状の記録層12を、前述の方法で選択された接着剤を用いて、予め硬化されているカバー層11やボトム基板13等に貼り合わせることで、ホログラフィック記録媒体1の製造が完了する。
【0043】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
接着剤で各層を貼り合わせる製法を用いることで、記録層12を予め硬化成型しておくことができるので、記録層組成物の材料を、従来のように粘度や硬化処理時間などの種々の条件に縛られて選択する必要がなくなり、自由に選択することができる。
【0044】
接着剤層14の屈折率nを、記録層12の屈折率nに対し接着剤層14と記録層12との間の界面における光の反射、散乱に影響を与える各パラメータに基づいて決定するので、記録層12の材料に制限を加えることなく、この界面における光の反射、散乱を抑制することができる。ちなみに、ホログラフィック記録媒体において、各層を接着剤で貼り合わせる製造方法を採用すると界面が増えることにより光学的な特性が落ちることとなるが、本発明によれば、光学的な特性を落とすことはない。また、このようなメリットに加え、前述した貼り合わせ型の製造方法を用いると、製造時間の短縮等、コスト的にも利点がある。
【0045】
なお、貼り合わせ型の製造方法において、記録層の界面を完全に平坦として、層間の屈折率差以外の光学的ロスを低減する方法や、接着剤層の屈折率を記録層と完全に一致させて、記録層の凹凸を光学的に補償する方法を採用することも考えられる。しかし、前者の方法では、成型に精密さを要求されるためコスト的に不利となり、また、後者の方法では、接着剤や記録層組成物の選択肢を狭めることに繋がり、貼り合わせ型の製造方法の利点が失われることとなる。そのため、本発明の方法のように接着剤層14の屈折率nを記録層12の屈折率nに対し選択するのが望ましく、この方法によれば、コストを低減させることができるとともに記録層材料の選択肢の幅を広げることができる。
【0046】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、カバー層11、記録層12およびボトム基板13を備えて構成される透過型(カバー層11側から情報の記録を行い、ボトム基板13側から情報の再生を行うタイプ)のホログラフィック記録媒体1に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、反射型(カバー層11側から情報の記録・再生を行うタイプ)のホログラフィック記録媒体に本発明を適用してもよい。具体的には、図1の構造における記録層12とボトム基板13との間に反射層を設けてもよい。また、適宜スペーサー層やフィルター層を設けてもよい。
【0047】
また、ホログラフィック記録媒体の層構造は、前記実施形態に限定されず、その他の層、例えばサーボ制御を行うためのサーボ層を設けるようにしてもよい。
また、接着剤は、記録層と、記録層に隣接する層のうち少なくとも一層との間に介在していればよい。つまり、例えば、記録層が基板または層上に接着剤を用いずに直接形成される場合には、記録層の基板等とは反対側の面のみを接着剤を用いて隣接する層と貼り合せればよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係るホログラフィック記録媒体を示す断面図である。
【図2】記録層と接着剤層との間の界面における各パラメータの関係を示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ホログラフィック記録媒体
11 カバー層
12 記録層
13 ボトム基板
14 接着剤層
RW 記録再生光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報光と参照光との干渉縞を記録するための記録層を複数の層のうちの1つとして備えたホログラフィック記録媒体であって、
前記記録層と、前記記録層に隣接する層のうち少なくとも一層とが、接着剤で貼り合わされていることを特徴とするホログラフィック記録媒体。
【請求項2】
前記接着剤で構成される接着剤層の屈折率nが、前記記録層の屈折率nとの間に、次式(1)〜(4)
0.01 ≧ (r × R) + (r × R)・・・(1)
=tan{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷tan{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(2)
=sin{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷sin{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(3)
θ = θwmax +θ・・・(4)
(r:光のP偏光の強度の比率、r:光のS偏光の強度の比率、R:P偏光の界面反射率、R:S偏光の界面反射率、θwmax:記録層と接着剤層との間の界面の表面うねり角度の最大値、θ:中心平面線の法線に対する光の入射角度の最大値)
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のホログラフィック記録媒体。
【請求項3】
前記記録層と前記接着剤層との間の界面の平均曲線に対する表面粗さRaが、5nm〜90nmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のホログラフィック記録媒体。
【請求項4】
情報光と参照光との干渉縞を記録するための記録層を複数の層のうちの1つとして備えたホログラフィック記録媒体の製造方法であって、
前記記録層と、前記記録層に隣接する層のうち少なくとも一層とを、接着剤で貼り合わせることを特徴とするホログラフィック記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤で構成される接着剤層の屈折率nが、前記記録層の屈折率nとの間に、次式(1)〜(4)
0.01 ≧ (r × R) + (r × R)・・・(1)
=tan{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷tan{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(2)
=sin{θ−asin(n÷n×sinθ)}÷sin{θ+asin(n÷n×sinθ)}・・・(3)
θ = θwmax +θ・・・(4)
(r:光のP偏光の強度の比率、r:光のS偏光の強度の比率、R:P偏光の界面反射率、R:S偏光の界面反射率、θwmax:記録層と接着剤層との間の界面の表面うねり角度の最大値、θ:中心平面線の法線に対する光の入射角度の最大値)
の関係を満たすよう接着剤の屈折率を決定することを特徴とする請求項4に記載のホログラフィック記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記界面の平均曲線に対する表面粗さRaが、5nm〜90nmの範囲となるように前記記録層の表面を形成することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のホログラフィック記録媒体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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