説明

ホログラム作成方法、ホログラム及びそのホログラムを用いたセキュリティー媒体

【課題】 セキュリティー性に優れたホログラムを効率的な方法で高精度に作成するホログラム作成方法、セキュリティー性に優れたホログラム及びそのホログラムを用いたセキュリティー媒体を提供する。
【解決手段】 計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像10に基づくパターンを記録し、パターンをもとにホログラム200を作成するホログラム作成方法において、原画像10に基づくパターンをホログラム記録面20上の原画像領域1に記録する段階と、ホログラム記録面20上に近接場光領域101を定義する段階と、近接場光領域101内のパターンを決定する段階と、ホログラム記録面20上の原画像領域1のうち、近接場光領域101に対応する部分を消去して近接場光領域101を上書きし、ホログラム記録面20上に原画像領域1及び近接場光領域101のデータを得る段階と、データに基づき描画する段階と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムに関し、特に、ホログラム情報以外の再生可能な情報が記録されるホログラム作成方法、ホログラム及びそのホログラムを用いたセキュリティー媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偽造防止のためホログラムを金券やクレジットカード等に貼り付け又は一体に形成するものがある。
【0003】
従来のホログラムは、レーザー光を2つに分岐し、片方のレーザー光を立体像の基となる被写体(物体)に照射しその散乱および反射光がホログラム記録材料に到達するようにし、もう一方のレーザー光を被写体に照射せずに直接ホログラム記録材料に到達するようにすることで、2つの経路をたどったレーザー光をホログラム記録材料上で干渉させ、その結果生じた干渉縞をホログラム記録材料に記録することで作成していた。この方法では、被写体の実物を用意する必要があるため、実物を用意することができない被写体(例えば、空中に浮いた文字列など)のホログラムを作ることができなかった。
【0004】
これに対し、最近では、被写体を3次元CG(Computer Graphics)の形状及び材質データとして用意し、3次元CGデータを基に、従来のホログラムの作成方法でホログラム記録材料に記録した干渉縞と同様の干渉縞パターンを計算機シミュレーションで生成し、生成した干渉縞パターンを微細加工することで作成する計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)が実用化されている。CGHを用いると実物を用意できない被写体のホログラムを作成することができるため、偽造防止効果の高いホログラムとして注目されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ホログラム素子に対して参照光を照射することによる光学応答以外に、ホログラム素子に対して近接場光を滲出させることによる光学応答を有することで、製品に新たな付加価値を与える技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−214750号公報
【特許文献2】特開2009−31360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された技術は、情報記録媒体が参照光を照射することによって光学応答する第1の層及び近接場光を滲出させることによって光学応答する第2の層を有し、第1の層に加えて、ナノオーダーで構成される第2の層を近接場光のみで識別できるセキュリティー性に優れたものである。
【0008】
本発明の目的は、セキュリティー性に優れたホログラムを効率的な方法で高精度に作成するホログラム作成方法、セキュリティー性に優れたホログラム及びそのホログラムを用いたセキュリティー媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のホログラムの作成方法は、計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像に基づくパターンを記録し、前記パターンをもとにホログラムを作成するホログラム作成方法において、前記原画像に基づくパターンを前記ホログラム記録面上の原画像領域に記録する段階と、前記ホログラム記録面上に近接場光領域を定義する段階と、前記近接場光領域内のパターンを決定する段階と、前記ホログラム記録面上の前記原画像領域のうち、前記近接場光領域に対応する部分を消去して前記近接場光領域を上書きし、前記ホログラム記録面上に前記原画像領域及び前記近接場光領域のデータを得る段階と、前記データに基づき描画する段階と、を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のホログラムは、計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像に基づくパターンを物理的な凹凸として記録した原画像領域と、前記ホログラム記録面上に近接場光でのみ読み取るパターンを物理的な凹凸として記録した近接場光領域と、を有し、前記原画像領域と前記近接場光領域とは、同一層からなることを特徴とする。
【0011】
また、前記原画像領域及び前記近接場光領域は、前記各領域に記録された凹部と凸部との高さの差が同一であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明のセキュリティー媒体は、前記ホログラムを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セキュリティー性に優れたホログラムを効率的な方法で高精度に作成するホログラム作成方法を提供することが可能となる。また、セキュリティー性に優れ偽造防止効果が一層高いホログラムを提供することが可能となる。また、このように作成されたホログラムをセキュリティー媒体に用いることで、セキュリティー媒体のセキュリティー性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】計算機合成ホログラムの記録方法の概念を示す斜視図である。
【図2】図1の演算処理の概念に基づく具体例を示す図である。
【図3】干渉波強度分布から二値画像を得る概念を示す図である。
【図4】記録面状に格子状に配列された領域を示す図である。
【図5】各領域の5値化された干渉縞強度を示す図である。
【図6】二値パターンの構成を示す図である。
【図7】本実施形態により得られる二値画像を示す図である。
【図8】原画像領域1に近接場光領域101を埋め込んだ一例を示す図である。
【図9】任意の近接場光領域101付近の拡大図である。
【図10】図9のA−A線での断面に対応するホログラムの断面図である。
【図11】図9のB−B線での断面に対応するホログラムの断面図である。
【図12】金属蒸着を施したホログラムの図10に対応する部分を示す図である。
【図13】本実施形態のホログラムの画像を示す図である。
【図14】図13のα部分を拡大した図である。
【図15】図14のβ部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照にして本実施形態の計算機合成ホログラムを説明する。図1乃至図8は、計算機合成ホログラムを作成する原理を示す。
【0016】
本実施形態では、図1に示すように、原画像10を記録面20上に干渉縞として記録する方法を用いる。ここでは、説明の便宜上、図示のとおりXYZ三次元座標系を定義し、記録面20がXY平面上に置かれているものとする。光学的な手法を採る場合、記録対象となる物体が原画像10として用意されることになる。この原画像10上の任意の点Pから発せられた物体光Oは、記録面20の全面に向けて進行する。一方、記録面20には、参照光Rが照射されており、物体光Oと参照光Rとの干渉縞が記録面20上に記録されることになる。
【0017】
記録面20の位置に計算機ホログラムを作成するには、原画像10、記録面20、参照光Rを、コンピュータ上にデータとしてそれぞれ定義し、記録面20上の各位置における干渉波強度を演算すればよい。具体的には、図2に示すように、原画像10をN個の点光源P1,P2,P3,…,Pi,…,PNの集合として取り扱い、各点光源からの物体光O1,O2,O3,…,Oi,…,ONが、それぞれ演算点Q(x,y)へと進行するとともに、参照光Rが演算点Q(x,y)に向けて照射されたものとし、これらN本の物体光O1〜ONと参照光Rとの干渉によって生じる干渉波の演算点Q(x,y)の位置における振幅強度を求める演算を行えばよい。物体光および参照光は、通常、単色光として演算が行われる。記録面20上には、必要な解像度に応じた多数の演算点を定義するようにし、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行えば、記録面20上には干渉波の強度分布が得られることになる。
【0018】
具体的には、物体上に配置した点光源の座標をPi(xi,yi,zi)、点光源のもつエネルギーを4πAi2とすると、XY平面上の演算点Q(x,y)の位置における物体光の合成複素振幅値O(x,y)は、次の式(A1)によって求めることができる。
【数1】

【0019】
ここで、Aiは点光源Piから発せられた物体光の振幅を表す係数を示し、ri(x,y)は、式(A2)に示すように、点光源Piと演算点Q(x,y)との距離を示している。
【数2】

【0020】
すなわち、式(1)におけるAi/ri(x,y)の項は、距離による振幅の減衰を示すものである。
【0021】
また、指数関数の形で記述された次の項は、この物体光の周期的な振幅変動を複素振幅の形式で示す項であり、jは虚数単位、kは波長をλとした場合にk=2π/λ、φiはPiにおける点光源の初期位相を示す。ここで、kri(x,y)なる項は、光路長を示しており、この光路長に初期位相φiを加えることにより、演算点Q(x,y)における物体光の合成複素振幅値が与えられることになる。なお、初期位相φiは各物体光にそれぞれランダムに設定することが可能である。
【0022】
また、平行光からなる参照光Rの入射ベクトルを(Rx,Ry,Rz)、振幅をAR、座標原点での位相をφRとすると、演算点Q(x,y)の位置における参照光Rの複素振幅値R(x,y)は、次の式(A3)によって求めることができる。
【数3】

【0023】
したがって、式(1)で与えられた物体光合成振幅強度O(x,y)及び式(3)で与えられた参照光複素振幅値R(x,y)は、いずれも複素振幅の強度であるから、演算点Q(x,y)の位置における干渉縞の強度I(x,y)は、次の式(A4)によって求めることができる。
【数4】

【0024】
このような強度分布を示す画像データに基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成すれば、原画像10を干渉縞として記録したホログラムが作成できる。媒体上に高解像度の干渉縞を形成する手法としては、電子線描画装置を用いた描画が適している。電子線描画装置は、半導体集積回路のマスクパターンを描画する用途などに広く利用されており、電子線を高精度で走査する機能を有している。そこで、演算によって求めた干渉波の強度分布を示す画像データを電子線描画装置に与えて電子線を走査すれば、この強度分布に応じた干渉縞パターンを描画することができる。
【0025】
ただ、一般的な電子線描画装置は、描画/非描画を制御することにより二値画像を描画する機能しか有していない。そこで、演算によって求めた強度分布を二値化して二値画像を作成し、この二値画像データを電子線描画装置に与えるようにすればよい。
【0026】
図3は、このような二値化処理を用いて干渉縞パターンを記録する一般的な方法の概念図である。上述した演算により、記録面20上の各演算点Q(x,y)には、所定の干渉波強度値、すなわち干渉波の振幅強度値が定義されることになる。たとえば、図3(a) に示す演算点Q(x,y)にも、所定の振幅強度値が定義される。そこで、この振幅強度値に対して所定のしきい値(たとえば、記録面20上に分布する全振幅強度値の平均値)を設定し、このしきい値以上の強度値をもつ演算点には画素値「1」を与え、このしきい値未満の強度値をもつ演算点には画素値「0」を与えるようにする。したがって、図3(a) に示す演算点Q(x,y)には、「1」か「0」のいずれかの画素値が定義されることになる。
【0027】
そこで、図3 (b) に示すように、この演算点Q(x,y)の位置に単位領域U(x,y)を定義し、この単位領域U(x,y)を「1」か「0」のいずれかの画素値をもった画素として取り扱うようにすれば、所定の二値画像を得ることができる。この二値画像のデータを電子線描画装置に与えて描画を行えば、物理的な二値画像として干渉縞を描画することができる。実際には、この物理的に描画された干渉縞に基づいて、たとえばエンボス版を作成し、このエンボス版を用いたエンボス加工を行うことにより、表面に干渉縞が凹凸構造として形成されたホログラムを量産することができる。
【0028】
図4には、記録面20上に二次元配列された単位領域U1〜U24が示されている。この例では、いずれの単位領域も、一辺が400nm×400nmの正方形となっているが、これは、記録面20上に定義された演算点Q1〜Q24が縦に400nm、横に400nmピッチで配置されているためである。記録面20上に定義される演算点は、いわば干渉波強度のサンプル点としての機能を果たすことになるので、原画像10上に定義された点光源のピッチ、原画像10と記録面20との距離、参照光Rの方向、波長などの光学的な条件設定を考慮して、干渉縞を記録するのに最適なピッチで配置すればよい。図4に示す例では、演算点Qのピッチは縦に400nm、横に400nmとしているが、縦横のピッチを変えるようにしてもよい(この場合、各単位領域は長方形となる)。また、図4に示す例では、正方形状の単位領域の中心点が各演算点上に重なるように、個々の単位領域を個々の演算点上に配置しているが、単位領域と演算点との位置関係は、必ずしもこのとおりにする必要はない。たとえば、各単位領域の左上隅点を基準点として定め、この左上隅点の基準点が演算点上に重なるように、個々の単位領域を配置してもかまわない。
【0029】
上述したように、この図4に示す各演算点Q1〜Q24には、それぞれ所定の干渉波強度値が演算される。そして、従来の一般的な手法では、各強度値は、所定のしきい値に基づいて二値化され、「1」または「0」の画素値に変換される。そこで、たとえば、画素値「1」が定義された演算点Qを含む単位領域Uを白画素、画素値「0」が定義された演算点Qを含む単位領域Uを黒画素として取り扱えば、白黒の二値画像が得られることになる。この二値画像に基づいて、白画素の部分を凹部、黒画素の部分を凸部(あるいはその逆)とする物理的な凹凸構造を形成すれば、ホログラム媒体が得られることになる。
【0030】
しかしながら、このような一般的な計算機ホログラムの作成方法では、各単位領域に割り付けられるのは、白画素か黒画素かのいずれかに限定されることになるため、演算により求められた干渉波強度の階調値は失われてしまう。
【0031】
そこで、本実施形態では、単位領域を第1の画素値をもった第1の領域と第2の画素値をもった第2の領域とに分割することにより定義される二値パターンを、「単位領域に対する第1の領域の占有率」を変えることにより複数通り用意しておき、各演算点の位置に、それぞれ各演算点についての干渉波強度に対応した占有率(「単位領域に対する第1の領域の占有率」)を有する二値パターンを割り付けるようにしたのである。
【0032】
まず、図5に示すように、干渉波強度の値に応じて特定の階調値を画素に割り付ける。本実施形態では、図6に示すように、5種類の二値パターンD0〜D4を予め用意しておく。いずれの二値パターンも、一辺が400nmの正方形からなる単位領域内のパターンであり、第1の画素値「1」をもった第1の領域(図では白い部分)と、第2の画素値「0」をもった第2の領域(図ではハッチングが施された部分)とによって構成されている。もっとも、二値パターンD0には第2の領域のみしか含まれておらず、二値パターンD4には第1の領域のみしか含まれていないが、これは便宜上、他方の領域の面積が0である特別な場合と考えることにする。ここで、「単位領域(正方形全体)に対する第1の領域(白い部分)の占有率」に着目すると、二値パターンD0,D1,D2,D3,D4についての当該占有率は、それぞれ0%,25%,50%,75%,100%となる。
【0033】
いずれの二値パターンにおいても、図示のとおり、第1の領域(白い部分)は、単位領域(正方形全体)の縦幅に等しい縦幅を有し、所定の占有率に応じた横幅を有する矩形から構成されており、しかもこの第1の領域を構成する矩形は、単位領域の横幅に関する中心位置に配置されている。そして、単位領域内の第1の領域が配置された残りの部分が第2の領域(ハッチングが施された部分)となっている。なお、二値パターンは、図6に示したものに限らず、様々なパターン又はそれ以外のパターンでもよい。また、それぞれの二値パターンにそれぞれ異なる屈折率を対応させることで階調を表現してもよい。
【0034】
さて、こうして用意された5種類の二値パターンD0〜D4を、記録面上の各演算点位置に選択的に割り付けることにより、各演算点における干渉波強度を5段階の階調によって表現することが可能になる。図5に示す例では、各演算点における干渉波強度は、0〜4の5段階の強度値として与えられている。この5段階の強度値に、5種類の二値パターンD0〜D4を割り当てるためには、たとえば、強度値0については二値パターンD0、強度値1については二値パターンD1、強度値2については二値パターンD2、強度値3については二値パターンD3、強度値4については二値パターンD4といった対応関係を予め定義しておけばよい。
【0035】
図7は、上述の対応関係に基づいて、図5に示す各強度値に対応する二値パターンを割り付けて得られる二値画像からなる原画像領域1の一例を示す図である。原画像領域1は、図6における凹部2を白、凸部3を黒で示している。一般的な方法により得られる二値画像と比較すると、いずれも二値画像であることに変わりはないものの、各演算点における干渉波強度値が階調情報をもったまま表現されている。
【0036】
図8は原画像領域1に近接場光領域101を埋め込んだ一例を示す図、図9は任意の近接場光領域101付近の拡大図である。
【0037】
近接場光領域101は、1辺又は径の長さが原画像領域1に用いた光の波長の回折限界未満で規定された領域に、予め決定した微細な凹凸に対応するパターンを形成したものであり、近接場光でのみ読み取り検出することが可能な領域である。
【0038】
図8に示すようにコンピュータによって作成された原画像領域1の二値画像データの一部を消去して近接場光領域データとして上書きされて埋め込まれている。なお、近接場光領域101は、少なくとも一つあればいくつ設けてもよい。
【0039】
図9の拡大図に示すように、本実施形態の近接場光領域101は、1辺が300nmの正方形で形成され、近接場光領域101内には、白い部分102、黒い部分103及び余白104に対応するデータをそれぞれ50nmの幅で形成している。なお、図9に示された凹凸に対応するパターンは、一例にすぎない。
【0040】
この図8に示すような原画像領域1の二値画像が得られたら、この原画像領域1の二値画像に基づいて、媒体上に物理的な干渉縞を形成すれば、品質の高い階調画像を再現することが可能な計算機ホログラム媒体が得られる。具体的には、図8及び図9における黒い部分3,103を凸部、白い部分2,102及び余白104を凹部(またはその逆)とするエンボス構造を媒体上に形成すればよい。
【0041】
実際には、このような原画像領域1の二値画像の形成は、電子線描画装置を用いた電子ビーム走査によって行うのが好ましい。現在、一般的に利用されている電子線描画装置における電子ビームのスポット径は50nm程度、その走査精度は10nm程度であり、図6及び図9に示すような寸法構成をもった二値パターンであれば描画可能である。もちろん、図8に示すような二値画像を得るまでの工程は、所定のプログラムを組み込んだコンピュータによって行われ、このコンピュータによって作成された二値画像データを電子線描画装置に与えることにより、実際の物理的な描画処理が行われることになる。
【0042】
図10は図9のA−A線での断面に対応するホログラム200の断面図、図11は図9のB−B線での断面に対応するホログラム200の断面図である。
【0043】
本実施形態のホログラム200は、図10及び図11に示すように、図8及び図9に示すような原画像領域1の二値画像に基づいて媒体上にエンボス構造を形成することによって作製する。
【0044】
また、本実施形態のホログラム200は、原画像領域1の二値画像の白い部分2を凹部2’、黒い部分3を凸部3’として形成し、近接場光領域101内の白い部分102を凹部102’、黒い部分103を凸部103’及び余白104を凹部104’として形成する。また、本実施形態では、凹部2’,102’,104’と凸部3’,103’との高さの差は、計算機ホログラムに対応する部分も近接場光領域101内も50nmで同一ある。
【0045】
このように、本実施形態のホログラム200は、計算機ホログラムに対応する部分と近接場光領域101が同一層で形成されるので、描画を一度に行うことができ、効率よく、高精度に行うことができる。また、凹部2’,102’,104’と凸部3’,103’との高さの差は、計算機ホログラムに対応する部分も近接場光領域101内も同一なので、さらに効率よく、高精度に行うことができる。
【0046】
図12は、金属蒸着を施したホログラム200の図10に対応する部分を示す図である。ホログラム200は金属蒸着を施すと、近接場光領域101’のパターンの読み取り精度を向上させることができる。特に、金を用いると読み取り時の精度が向上する。
【0047】
図13は本実施形態のホログラム200の画像を示す図、図14は図13のα部分を拡大した図、図15は図14のβ部分を拡大した図である。
【0048】
図13に示すように、肉眼では、ホログラム200の画像内に近接場光領域101’を確認することができない。図14に示すように拡大すると、ホログラム200のパターン内に近接場光領域101’が存在することがわかる。さらに図15のように拡大すると、近接場光領域101’内にパターンが形成されていることがわかる。
【0049】
完成したホログラム200は、原画像領域1’に関しては、画像を肉眼で見ることが可能であり、近接場光領域101’内のパターンは、近接場光を検知可能な読み取り装置により読み取る。例えば、近接場光プローブから近接場光領域101’に近接場光を滲出させ、滲出させた近接場光の戻り光を検出する。そして、近接場光領域101’内のパターンの形状、位置、配列又は近接場光プローブの径の大きさやパターンとの距離等を種々異ならせることにより、異なる情報として取得することができる。また、近接場光は、近接場光領域101’の周囲のパターンにも影響されるので、周囲のパターンを種々異ならせることにより、異なる情報として取得することもできる。
【0050】
本実施形態のホログラム200の作成方法は、計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像10に基づくパターンを記録し、パターンをもとにホログラム200を作成するホログラム作成方法において、原画像10に基づくパターンをホログラム記録面20上の原画像領域1に記録する段階と、ホログラム記録面20上に近接場光領域101を定義する段階と、近接場光領域101内のパターンを決定する段階と、ホログラム記録面20上の原画像領域1のうち、近接場光領域101に対応する部分を消去して近接場光領域101を上書きし、ホログラム記録面20上に原画像領域1及び近接場光領域101のデータを得る段階と、データに基づき描画する段階と、を有する。
【0051】
さらに、本発明のホログラムは、計算機を用いた演算によりホログラム記録面20上に原画像10に基づくパターンを物理的な凹凸として記録した原画像領域1と、ホログラム記録面20上に近接場光でのみ読み取るパターンを物理的な凹凸として記録した近接場光領域101と、を有し、原画像領域1と近接場光領域101とは、同一層からなる。
【0052】
また、原画像領域1及び近接場光領域101は、各領域に記録された凹部と凸部との高さの差が同一である。
【0053】
さらに、本発明のセキュリティー媒体は、前記ホログラムを用いたことを特徴とする。
【0054】
本発明によれば、セキュリティー性に優れたホログラムを効率的な方法で高精度に作成するホログラム作成方法を提供することが可能となる。また、セキュリティー性に優れ偽造防止効果が一層高いホログラムを提供することが可能となる。また、このように作成されたホログラムをセキュリティー媒体に用いることで、セキュリティー媒体のセキュリティー性がさらに向上する。
【0055】
なお、本実施形態では、3次元計算機ホログラムに近接場光領域を重畳するものとしたが、例えば、疑似ホログラム(本出願人により出願された特願2008−315225号参照)やフーリエ変換ホログラム等の表面に凹凸を施すホログラム全般に適用することが可能である。
【0056】
以上、本発明のホログラムを実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されず種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…原画像
20…記録面
1,1’…原画像領域
2’…凹部
3’…凸部
101,101’…近接場光領域
102’…凹部
103’…凸部
104’…余白部
200…ホログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像に基づくパターンを記録し、前記パターンをもとにホログラムを作成するホログラム作成方法において、
前記原画像に基づくパターンを前記ホログラム記録面上の原画像領域に記録する段階と、
前記ホログラム記録面上に近接場光領域を定義する段階と、
前記近接場光領域内のパターンを決定する段階と、
前記ホログラム記録面上の前記原画像領域のうち、前記近接場光領域に対応する部分を消去して前記近接場光領域を上書きし、前記ホログラム記録面上に前記原画像領域及び前記近接場光領域のデータを得る段階と、
前記データに基づき描画する段階と、
を有することを特徴とするホログラム作成方法。
【請求項2】
計算機を用いた演算によりホログラム記録面上に原画像に基づくパターンを物理的な凹凸として記録した原画像領域と、
前記ホログラム記録面上に近接場光でのみ読み取るパターンを物理的な凹凸として記録した近接場光領域と、
を有し、
前記原画像領域と前記近接場光領域とは、同一層からなる
ことを特徴とするホログラム。
【請求項3】
前記原画像領域及び前記近接場光領域は、前記各領域に記録された凹部と凸部との高さの差が同一である
ことを特徴とする請求項2に記載のホログラム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のホログラムを用いたことを特徴とするセキュリティー媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−59436(P2011−59436A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209671(P2009−209671)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】