説明

ホログラム記録媒体

【課題】特別な前露光スケジュールなしに追記が可能なホログラム記録媒体を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、ポリマーマトリックス、および重合禁止剤を含む記録層を具備するホログラム記録媒体である。前記重合禁止剤は、フェノール誘導体、ヒンダードアミン、およびニトロキシド化合物からなる群から選択され、共有結合を介して前記ポリマーマトリックスに結合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報をホログラムとして記録するホログラフィックメモリーは、大容量の記録が可能であり、次世代の記録媒体として注目されている。ホログラム記録用感光性組成物としては、例えばラジカル重合性モノマー、熱可塑性バインダー樹脂、光ラジカル重合開始剤、増感色素を主成分とするラジカル重合性のフォトポリマーが知られている。
【0003】
現在、ホログラム記録用感光性組成物には、より高い感度が求められている。しかしながら、媒体が高感度になるほど微弱な光にも感光する。例えば、自然光などの照射によって媒体内で望ましくない反応が開始され進行することが想定される。また、保存時の熱的な外部刺激によって、同様の望ましくない反応が引き起こされることが想定される。保存時の重合(暗反応)を防止するために、記録層内に微量の重合禁止剤を分散させることが一般的に行なわれている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このようなホログラム記録媒体では、記録の直前に重合禁止剤を失活させるための記録前露光を行なう必要がある。例えば、記録前露光は、必要とされる記録領域のみに限定的に逐次行なわれる。重合禁止剤は記録層内に自由拡散していることから、前露光処理の後半になるにつれ記録領域の重合禁止剤の濃度は低下する。記録領域における重合禁止剤の濃度は、前露光処理を施した領域の全体からの比率、前露光処理してからの経時時間、記録層を形成するポリマーマトリクスの拡散性など、様々な要因が複雑に絡み合って算出されるものであり、当該濃度を算出するのは容易ではない。
【0005】
この濃度を算出して前露光処理のスケジュールを計算し、そのスケジュールに則って前露光処理を施すためには複雑なシステムを要するので、より簡易に記録が可能なホログラム記録媒体が求められている。
【特許文献1】特開平7−5796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特別な前露光スケジュールなしに追記が可能なホログラム記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるホログラム記録媒体は、エチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、ポリマーマトリックス、および重合禁止剤を含む記録層を具備し、
前記重合禁止剤は、フェノール誘導体、ヒンダードアミン、およびニトロキシド化合物からなる群から選択され、共有結合を介して前記ポリマーマトリックスに結合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特別な前露光スケジュールなしに追記が可能なホログラム記録媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
本発明の実施形態にかかるホログラム記録媒体における記録層には、エチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、および共有結合した重合禁止剤を有するポリマーマトリックスが含有される。
【0011】
エチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、およびビニル化合物などが挙げられる。
【0012】
具体的には、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ビシクロペンテニルアクリレート、アクリル酸フェニル、2,4,6−トリブロモフェニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリル酸アダマンチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、メタクリル酸アダマンチル、イソボルニルメタクリレート、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ビニルピリジン、スチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、トリブロモフェニルアクリレート、トリクロロフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、トリクロロフェニルメタクリレート、ビニルベンゾエート、3,5−ジクロロビニルベンゾエート、ビニルナフタレン、ビニルナフトエート、ナフチルメタクリレート、ナフチルアクリレート、N−フェニルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ビニルピロリジノン、N−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、ビシクロペンテニルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールトリメタクリレート、ジアリルフタレート、およびトリアリルトリメリテートなどが挙げられる。
【0013】
反応性および屈折率が高いことから、ラジカル重合性モノマーとしては、N−ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、トリブロモフェニルアクリレート、トリクロロフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、およびトリクロロフェニルメタクリレートが特に好ましい。
【0014】
ラジカル重合性モノマーは、記録層中に1〜50重量%含まれるように混合されることが好ましい。1重量%未満では十分な屈折率変化が得られないおそれがあり、50重量%を越えると体積収縮が大きくなり解像度が低下するおそれがある。ラジカル重合性モノマーの含有量は、3〜30重量%がより好ましい。
【0015】
光ラジカル重合開始剤は、記録光の波長に応じて選択することができる。例えば、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール、ベンジル、アセトフェノン誘導体、アミノアセトフェノン類、ベンゾフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド類、トリアジン類、イミダゾール誘導体、有機アジド化合物、チタノセン類、有機過酸化物、およびチオキサントン誘導体等が挙げられる。
【0016】
具体的には、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルメチルケタール、ベンジルエチルケタール、ベンジルメトキシエチルエーテル、2,2’−ジエチルアセトフェノン、2,2’−ジプロピルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、チオキサントン、1−クロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、3,3’4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)1,3,5−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)1,3,5−トリアジン、2−[(p−メトキシフェニル)エチレン]−4,6−ビス(トリクロロメチル)1,3,5−トリアジン、ジフェニル−(2,4,6―トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア149、184、369、651、784、819、907、1700、1800、1850など各番号のもの、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、デカノイルーパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、およびシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
【0017】
記録光として青色半導体レーザーが用いられる場合には、光ラジカル重合開始剤としては、イルガキュア784(チバスペシャルティケミカルズ)のようなチタノセン化合物が好適である。
【0018】
光ラジカル重合開始剤は、光記録媒体の記録光に対する光透過率が10%から95%になるような量で配合されることが好ましい。10%を下回ると感度および回折効率が低下するおそれがあり、95%を越えると記録光の大半が透過することになり、記録されるべき情報が十分に記録できないおそれがある。より好ましくは、光記録媒体の記録光に対する光透過率が20%から90%となるような量である。
【0019】
さらに、光ラジカル重合開始剤の配合量は、記録層に対して0.1〜20重量%の量で配合することが好ましい。0.1重量%未満の場合には、十分な屈折率変化が得られないおそれがある。一方、20重量%を越えると、光吸収が大きくなりすぎて感度および回折効率が低下するおそれがある。より好ましくは、光ラジカル重合開始剤の配合量は、記録層に対して0.2〜10重量%である。
【0020】
ポリマーマトリックスは、次のような重合反応によって形成されたものを用いることができる。例えば、エポキシ−アミン重合、エポキシ−酸無水物重合、エポキシ−メルカプタン重合、マイケル付加による不飽和エステルとアミンとの重合、イソシアナートとヒドロキシルとによるウレタン形成、イソシアナートとヒドロキシルとによるウレア形成、およびエチニルとアジドとの結合などである。反応が温和に進行する点から、重合反応としては、エポキシ−アミン重合やエポキシ−酸無水物重合が特に好ましい。
【0021】
エポキシと反応する化合物としては、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、m−キシリレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)ヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ドデセニルこはく酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール、テルペンフェノール樹脂、およびポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0022】
ポリマーマトリックスを形成する際には、必要に応じて硬化触媒を加えてもよい。硬化触媒としては、塩基性触媒を用いることができ、例えば、3級アミン類、有機ホスフィン化合物、イミダゾール化合物およびその誘導体などが挙げられる。具体的には、トリエタノールアミン、ピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザジシクロ(2,2,2)オクタン(トリエチレンジアミン)、ピリジン、ピコリン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン)、またはそのフェノール塩、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、および2−ヘプタイミダゾールなどを、硬化触媒として用いることができる。
【0023】
潜在性触媒を用いることもでき、例えば、三フッ化ホウ素アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリルおよびその誘導体、メラミンおよびその誘導体、アミンイミドなどが挙げられる。さらに、活性水素を有する化合物、例えばフェノール類やサリチル酸などを加えて、三次元架橋ポリマーマトリックスの硬化を促進することも可能である。
【0024】
こうしたポリマーマトリックスには、フェノール誘導体、ヒンダードアミン、およびニトロキシド化合物から選択される重合禁止剤が共有結合を介して結合される。重合禁止剤のなかでも、上述したポリマーマトリックス形成において、重合禁止部位が当該ポリマーマトリックス形成反応の影響を受けにくいニトロキシドが特に好適である。
【0025】
ニトロキシドは通常黄〜赤色を呈し、これを記録層内に添加することによって記録層は着色する。しかしながら、ニトロキシドがラジカルと再結合してアルコキシアミンとなると、脱色するものと推測される。すなわち、保存時に発生したラジカルをトラップした際、ニトロキシドはアルコキシルアミンと変遷して脱色する。前露光処理により発生したラジカルをトラップした際もまた、ニトロキシドはアルコキシルアミンと変遷して脱色する。すなわち、仮に記録層形成時に着色していたとしても、保存時の暗反応、そして前露光処理を経て透明になるので、記録時に悪影響を与えることはない。
【0026】
重合禁止剤は、光ラジカル重合開始剤の重量の0.0001部以上の量で含有されていれば、その効果を得ることができる。しかしながら、光ラジカル重合開始剤よりも高い濃度で含有された場合には、光ラジカル重合開始剤から発生したラジカル全てをトラップして、記録が不能となるおそれがある。したがって、重合禁止剤の濃度は、光ラジカル重合開始剤の重量の1部にとどめることが望まれる。重合禁止剤の濃度は、光ラジカル重合開始剤の0.0001部から0.5部であることがより好ましい。
【0027】
重合禁止剤は、ポリマーマトリックスの構成成分に応じて選択することができる。例えば、二級アミンや一級アミンなどの活性水素が含有されるポリマーマトリックスには、一方の末端にアクリル基、メタクリル基、エポキシ基、またはハロゲン化アシル基を有する重合禁止剤を用いることができる。こうした末端基は、ポリマーマトリックスの活性水素と反応する。また、構成成分としてエポキシ基を含有するポリマーマトリックスには、一方の末端にヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、またはエポキシ基を有する重合禁止剤を用いることができる。こうした末端基は、ポリマーマトリックスのエポキシ基と反応する。いずれの場合も、重合禁止剤は共有結合を解してポリマーマトリックスに結合する。
【0028】
具体的には、以下の化合物が重合禁止剤としてより好ましい。すなわち、4−メタクリロイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−アクリロイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−メタクアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−アクリルアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−メルカプト−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、および4−グリシジルエーテル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド等である。
【0029】
上述したような重合禁止剤がポリマーマトリックス内に取り込まれる際には、ポリマーマトリックスの形成を阻害しないことが望まれる。しかしながら元来、記録層中の重合禁止剤の濃度は微量であるので、仮にポリマーマトリクスの形成を阻害する反応を経てポリマーマトリックス内へ取込まれたとしても、ポリマーマトリックスの形成にはさほど影響はない。
【0030】
本発明の実施形態にかかるホログラム記録媒体を製造するにあたっては、まず、上述したようなラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、ポリマーマトリクスと共有結合を介して結合する結合基を有する重合禁止剤、ポリマーマトリックス構成成分を混合して、記録層原料溶液を調製する。記録層原料溶液中には、必要に応じて架橋剤や増感剤や可塑剤が配合されてもよい。得られた記録層原料溶液を用いて所定の基板上に樹脂層を形成し、ポリマーマトリックスを形成することによって記録層が形成される。
【0031】
例えば、記録層原料溶液を透明基板上に塗布して、記録層を形成する。透明基板としては、例えばガラス基板およびプラスチック基板を用いることができ、記録層原料溶液を塗布する前に、基板の表面にコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、およびアルカリ処理などから選択される易接着処理を施してもよい。溶液の塗布に当たっては、キャスティングやスピンコート法を採用することができる。あるいは、樹脂製のスペーサーを介して2枚の透明基板を配置し、その間隙に記録層原料溶液を流し込むことによって記録層を形成してもよい。
【0032】
ポリマーマトリックスは、硬化剤として脂肪族第一アミンを用いた場合には室温でも進行する。硬化剤の反応性に応じて、30℃以上150℃以下の温度に加熱してもよい。形成される記録層の厚みは、20μm以上2mm以下が好ましく、50μm以上1mm以下がより好ましい。記録層の厚みが20μm未満の場合には、十分な記憶容量を得ることが困難になる。一方、記録層の厚みが2mmを越えると、感度および回折効率が低下するおそれがある。
【0033】
本発明の一実施形態にかかるホログラム記録媒体の断面の概略図を、図1に示す。図示するホログラム記録媒体10においては、一対の透明基板11および15の間に、記録層13が配置される。この記録層13は、上述したようなラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、および共有結合した重合禁止剤を有するポリマーマトリックスを含有する。
【0034】
図2は、他の実施形態にかかるホログラム記録媒体の断面の概略図である。図示するホログラム記録媒体40においては、反射層46が設けられた透明基板47の上に、ギャップ層45を介して記録層43が順次設けられる。すなわち、反射層付ホログラム記録媒体である。反射層46は、例えばアルミニウムにより形成することができ、ギャップ層45は、例えば透明樹脂やガラスにより形成することができる。
【0035】
記録層43の上には、透明基板41が配置される。図1に示した透過型ホログラム記録媒体10の場合と同様、図2に示される反射層付ホログラム記録媒体40における記録層43もまた、上述したようなラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、および共有結合した重合禁止剤を有するポリマーマトリックスを含有する。
【0036】
本発明の実施形態にかかるホログラム記録媒体に対しては、情報光と参照光とを記録層内部で干渉させることによってホログラム記録がなされる。記録されるホログラム(ホログラフィー)は、透過型ホログラム(透過型ホログラフィー)および反射型ホログラム(反射型ホログラフィー)のいずれでもよい。情報光と参照光との干渉は、二光束干渉法および同軸干渉法のいずれの方法でも行なうことができる。
【0037】
図3に、本発明の実施形態にかかる透過型ホログラム記録再生装置の一例の概略図を示す。図示するホログラム記録再生装置は、透過型二光束干渉法を用いたホログラム型光情報記録再生装置である。
【0038】
光源装置21から照射された光ビームは、ビームエキスパンダー22および旋光用光学素子23を通過して、偏向ビームスプリッター24に導入される。光源装置21としては、透過型ホログラム記録媒体10の記録層13中で干渉可能な任意の光を照射する光源を用いることができる。可干渉性などの観点から直線偏光したレーザーが望ましい。レーザーとしては、例えば、半導体レーザー、He−Neレーザー、アルゴンレーザー、およびYAGレーザーなどが挙げられる。
【0039】
ビームエキスパンダー22によって、光源装置21から出射された光はホログラム記録に適したビーム径に広げられる。旋光用光学素子23は、このビームエキスパンダー22によりビーム径が広げられた光を旋光して、S偏光成分とP偏光成分とを含む光を生成する。旋光用光学素子23としては、例えば1/2波長板、および1/4波長板などを用いることができる。
【0040】
旋光用光学素子23を透過した光のうち、S偏光成分は偏光ビームスプリッター24により反射されて、情報光Iとして用いられる。一方、P偏光成分は偏光ビームスプリッター24を透過して、参照光Rfとして用いられる。なお、透過型ホログラム記録媒体10の記録層13の位置で情報光Iの強度と参照光Rfの強度とが等しくなるように、旋光用光学素子23で偏光ビームスプリッター24に入射する旋光方向が調整される。
【0041】
偏光ビームスプリッター24によって反射された情報光Iは、ミラー26で反射された後、電磁シャッター28を通過し、回転ステージ20の上に載置された透過型ホログラム記録媒体10の記録層13に照射される。
【0042】
一方、偏光ビームスプリッター24を透過した参照光Rfは、旋光用光学素子25によって偏光方向が90度回転してS偏光となり、ミラー27で反射される。その後、電磁シャッター29を通過し、回転ステージ20の上に載置された透過型ホログラム記録媒体10の記録層13に照射される。この記録層13内では、情報光Iと交差して干渉縞が生じ、こうして、屈折率変調領域(図示せず)に透過型ホログラムが形成される。
【0043】
記録された情報を再生するには、電磁シャッター28を閉じることにより情報光Iを遮断して、透過型ホログラム記録媒体10の記録層13内に形成された透過型ホログラム(図示せず)に、参照光Rfのみを照射する。参照光Rfの一部は、透過型ホログラム記録媒体10を透過する際、透過型ホログラムによって回折される。この際の回折光は、光検出器30により検出される。また、媒体を透過する光を検知するために、光検出器31が設けられている。
【0044】
ホログラム記録後の記録媒体に投光露光を行なうために、図示するように、紫外光源装置32および紫外光照射光学系を設けることもできる。これらによって、未反応のラジカル重合性モノマーを重合させた場合には、記録されたホログラムの安定性を高めることができる。紫外光源装置32としては、未反応のラジカル重合性化モノマーを重合させ得る光を照射する任意の光源を用いることができる。紫外発光効率を考慮すると、例えばキセノンランプ、水銀ランプ、高圧水銀ランプ、水銀キセノンランプ、窒化ガリウム系発光ダイオード、窒化ガリウム系半導体レーザー、エキシマーレーザー、Nd:YAGレーザーの第3高調波(355nm)、およびNd:YAGレーザーの第4高調波(266nm)などが好ましい。
【0045】
図4に、本発明の実施形態にかかる反射型ホログラム記録再生装置の一例の概略図を示す。光源装置51としては、透過型ホログラム記録再生装置の場合と同様、コヒーレントな直線偏光を出力するレーザーを使用することが望ましい。レーザーとしては、例えば、半導体レーザー、He−Neレーザー、アルゴンレーザー、およびYAGレーザーなどを使用することができる。
【0046】
光源装置51から出射された光ビームは、ビームエキスパンダー52によりビーム径を広げられ、平行光束として旋光用光学素子53に入射する。旋光用光学素子53としては、例えば1/2波長板および1/4波長板等を使用することができる。こうした旋光用光学素子53は、光ビームの偏波面を回転させることによって、偏波面が紙面に平行な偏光成分(P偏光成分)と偏波面が紙面に垂直な偏光成分(S偏光成分)とを含む光を生成する。P偏光成分およびS偏光成分を含む光は、光ビームを円偏光または楕円偏光とすることによって生成することも可能である。
【0047】
旋光用光学素子53を通過した光ビームのうちS偏光成分は、偏光ビームスプリッター54により反射されて、透過型空間光変調器55に入射する。一方、旋光用光学素子53を出射した光ビームのうちP偏光成分は、偏光ビームスプリッター54を透過し、後述するように参照光として利用される。
【0048】
透過型空間光変調器55は、例えば透過型液晶表示装置のようにマトリックス状に配列された多数の画素を有しており、画素毎に出射する光をP偏光成分またはS偏光成分に切り替えることができる。このようにして、透過型空間光変調器55は、記録される情報に対応して、二次元的な偏波面分布が与えられた情報光を出射する。
【0049】
透過型空間光変調器55から出射された情報光は、偏光ビームスプリッター56に入射する。偏光ビームスプリッター56は、情報光のうちS偏光成分のみを反射し、P偏光成分を透過させる。偏光ビームスプリッター56により反射されたS偏光成分は、二次元的な強度分布が与えられた情報光として電磁シャッター57を通過し、偏光ビームスプリッター58に入射する。この情報光は、偏光ビームスプリッター58により反射され、二分割旋光用光学素子59に入射する。
【0050】
二分割旋光用光学素子59は、図の右側部分と左側部分との間で光学特性が互いに異なっている。具体的には、例えば二分割旋光用光学素子59の右側部分に入射した光成分は偏波面を+45°回転させて出射し、左側部分に入射した光成分は偏波面を−45°回転させて出射する。以下、S偏光成分の偏波面を+45°回転させたもの(またはP偏光成分の偏波面を−45°回転させたもの)をA偏光成分と称し、S偏光成分の偏波面を−45°回転させたもの(またはP偏光成分の偏波面を+45°回転させたもの)をB偏光成分と称する。なお、二分割旋光用光学素子59の各部分には、たとえば1/2波長板を用いることができる。
【0051】
二分割旋光用光学素子59を出射したA偏光成分およびB偏光成分は、対物レンズ60を通して反射層付ホログラム記録媒体40に入射し、透明基板41、記録層43、およびギャップ層45を通過して、透明基板47上の反射層46上に集光される。
【0052】
他方、偏光ビームスプリッター54を透過したP偏光成分(参照光)の一部は、ビームスプリッター61で反射され、偏光ビームスプリッター58を透過する。偏光ビームスプリッター58を透過した参照光は、二分割旋光用光学素子59に入射し、その右側部分に入射した光成分は偏波面を+45°回転させてB偏光成分として出射し、左側部分に入射した光成分は偏波面を−45°回転させてA偏光成分として出射する。これらのA偏光成分およびB偏光成分は、対物レンズ60を通して反射層付ホログラム記録媒体40に入射し、透明基板41、記録層43、およびギャップ層45を通過して、透明基板47上の反射層46上に集光される。
【0053】
このように、二分割旋光用光学素子59の右側部分からは、A偏光成分である情報光とB偏光成分である参照光とが出射される。他方、二分割旋光用光学素子59の左側部分からは、B偏光成分である情報光とA偏光成分である参照光とが出射される。これらの情報光および参照光は、反射層付ホログラム記録媒体40の反射層46上に集光される。
【0054】
透明基板41を通して直接光として記録層43に入射された情報光と、反射層46で反射された後に反射光として記録層43に入射された参照光との間では、干渉が生じる。直接光としての参照光と反射光としての情報光との間でも、情報光と参照光との干渉が生じる。こうして、記録層43の内部に、情報光に対応した光学特性の分布を生じさせることができる。一方、直接光としての情報光と反射光としての情報光との干渉や、直接光としての参照光と反射光としての参照光との干渉は生じない。
【0055】
図4に示した反射型ホログラム記録再生装置においても、記録されたホログラムの安定性を高めるために、紫外光源装置および紫外光照射光学系を設けてもよい。
【0056】
反射層付ホログラム記録媒体40に記録された情報は、以下のようにして読み出すことができる。
【0057】
電磁シャッター57を閉じると、P偏光成分である参照光のみが二分割旋光用光学素子59に入射する。この参照光は、二分割旋光用光学素子59によって、その右側部分に入射した光成分は偏波面を+45°回転させてB偏光成分として出射し、左側部分に入射した光成分は偏波面を−45°回転させてA偏光成分として出射する。その後、それらA偏光成分およびB偏光成分は、対物レンズ60を通して反射層付ホログラム記録媒体40に入射し、透明基板41、記録層43、およびギャップ層45を通過して、透明基板47上に設けられた反射層46上に集光される。
【0058】
反射層付ホログラム記録媒体40の記録層43には、情報に対応した光学特性分布が形成されている。したがって、反射層付ホログラム記録媒体40に入射したA偏光成分およびB偏光成分の一部は、記録層43内に形成された光学特性分布屈折率変調領域(図示せず)により回折され、情報光を再現した再生光として反射層付ホログラム記録媒体40を出射する。
【0059】
反射層付ホログラム記録媒体40を出射した再生光は、対物レンズ60により平行光束とされた後、二分割旋光用光学素子59に入射する。二分割旋光用光学素子59の右側部分に入射したB偏光成分はP偏光成分として出射され、二分割旋光用光学素子59の左側部分に入射したA偏光成分はP偏光成分として出射される。このようにして、P偏光成分としての再生光が得られる。
【0060】
その後、再生光は偏光ビームスプリッター58を透過する。偏光ビームスプリッター58を透過した再生光の一部は、ビームスプリッター61を透過し、結像レンズ62を通して二次元光検出器63上に透過型空間光変調器55の像を再現する形で結像される。以上の手法によって、反射層付ホログラム記録媒体40に記録された情報を読み出すことができる。
【0061】
一方、二分割旋光用光学素子59を透過して反射層付ホログラム記録媒体40に入射したA偏光成分およびB偏光成分の残りは、反射層46によって反射され、反射層付ホログラム記録媒体40を出射する。この反射光としてのA偏光成分およびB偏光成分は、対物レンズ60により平行光束とされた後、A偏光成分は二分割旋光用光学素子59の右側部分に入射してS偏光成分として出射し、B偏光成分は二分割旋光用光学素子59の左側部分に入射してS偏光成分として出射する。
【0062】
二分割旋光用光学素子59を出射したS偏光成分は、偏光ビームスプリッター61により反射されるため、二次元光検出器63には到達しない。したがって、この記録再生装置によると、優れた再生SN比を実現することができる。
【0063】
必要に応じて、全ての記録が終了した後に、一様光を照射して残存モノマーを重合させてもよい。また、必要に応じて、すべての記録が終了した後に酸素雰囲気下でホログラム記録媒体の記録層内へ酸素を浸透させてホログラム記録媒体内のラジカル種を不活性化させてもよい。
【0064】
図5には、同軸干渉法を用いた光記録再生装置の概略図を示す。図示する記録再生装置においては、一つの空間光変調器を用いて情報光と変調された参照光とを生成し、ホログラムを記録する同軸干渉の手法が用いられる。
【0065】
光源装置65としては、前述の透過型ホログラム記録再生装置の場合および反射型ホログラム記録再生装置の場合と同様、可干渉性などから直線偏光をしたレーザーが望ましい。具体的には、半導体レーザー、He−Neレーザー、アルゴンレーザー、およびYAGレーザーなどが挙げられる。また、光源装置65は、その出射波長を調整できる機能を有している。
【0066】
ビームエキスパンダー66は、光源装置65から出射される出射光を拡張し、平行光束に整形することができる。整形された光は、ミラー67を介して反射型空間光変調器68に照射される。反射型空間光変調器68は、格子状に2次元に配置された複数の画素を有しており、画素毎に反射光の方向を変えることができる。あるいは、画素毎に反射光の偏光方向を変えることによって、二次元パターンとして情報を付与した情報光と、空間的に変調された参照光を同時に生成する。反射型空間光変調器68としては、例えばデジタルミラーデバイスや反射型液晶素子、磁気光学効果を用いた反射型変調素子などを用いることができる。
【0067】
図示する例においては、デジタルミラーデバイスが反射型空間光変調器68として用いられる。反射型空間光変調器68によって反射された記録光は、結像レンズ69および70を介して、偏光ビームスプリッター71に入射する。ここで、記録光は偏光ビームスプリッター71を透過するように、光源装置65からの出射時点で偏光方向が調整されている。
【0068】
偏光ビームスプリッター71を透過した記録光は、旋光用光学素子72を透過し対物レンズ73によって反射層付ホログラム記録媒体40に照射される。記録光は、反射層付ホログラム記録媒体40の反射層46の表面において、そのビーム径が最小になるように集光する。旋光用光学素子72としては、例えば1/4波長板や1/2波長板などを用いることができる。
【0069】
記録された情報を再生する場合には、反射型空間光変調器68によって空間的に変調された参照光の一部が反射層付ホログラム記録媒体40を透過する際、屈折率変調領域(図示せず)により回折され再生光となる。再生光は、反射層46によって反射された後、対物レンズ73および旋光用光学素子72を透過する。旋光用光学素子72を透過する際には、この光には参照光とは異なる偏光成分が含まれるようになり、偏光ビームスプリッター71によって反射される。
【0070】
なお、偏光ビームスプリッター71での再生光の反射率が最も高くなるように、旋光用光学素子72の回転角度が調節されていることが望ましい。偏光ビームスプリッター71によって反射された再生光は、結像レンズ74により二次元光検出器75上に再生像として結像される。なお、再生信号のSN比を高めるために、光検出器75の前にアイリス76を配置してもよい。
【0071】
本発明の実施形態にかかるホログラム記録媒体においては、記録層中のポリマーマトリクスに重合禁止剤が共有結合を介して結合しているために、記録層内を自由拡散しない。したがって、未記録領域の重合禁止剤濃度は不変のままである。追記の際の前露光処理の露光スケジュールは常に同じであってもよく、当該ホログラム記録媒体を用いたホログラム記録媒体記録装置としては簡便な装置となった。
【0072】
以下に、本発明の具体例を示す。
【0073】
(実施例1)
エポキシ化合物として6.04gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEx−212、ナガセケムテックス)、硬化剤として1.62gのテトラエチレンペンタミン、およびラジカル重合性モノマーとして1.35gのN−ビニルカルバゾールを混合して攪拌して、均一な溶液を得た。
【0074】
この溶液に、光ラジカル重合開始剤として0.033gのイルガキュア784(チバスペシャルティケミカルズ)、重合禁止剤として4−メタクリロイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドを0.09g添加し、脱泡して記録層の前駆体溶液を得た。
【0075】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシートからなるスペーサーを介して2枚のガラス板を配置して、空隙を形成した。この空隙に、前述の記録層原料溶液を流し込んだ。これを、遮光して室温で24時間硬化させることによって、厚さ200μmの記録層を有するホログラム記録媒体の試験片を複数作製した。以上の工程によって、図1に示したような構成の透過型ホログラム記録媒体が得られた。
【0076】
暗室内にて、得られた前記透過型ホログラム記録媒体からガラス基板を剥離し、記録層を取り出し、それをテトラヒドロフラン中に浸漬させ、記録層中に分散している成分を抽出した。抽出液を電子スピン共鳴にて観察したところ、ラジカルのスペクトルは観測されず、4−メタクリロイルー2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドが同テトラヒドロフランへ流出していなかったことが確認された。また、赤外分光によりメタクリロイル由来の吸収ピークが消失していることが確認された。4−メタクリロイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドは、ポリマーマトリクスと共有結合により結合している。
【0077】
得られた試験片を、図3に示したホログラム記録装置の回転ステージ20に載置して、ホログラムを記録した。光源装置21としては、波長405nmの半導体レーザーを用いた。この試験片上の複数の位置で角度多重記録を行なって、記録ダイナミックレンジを表わすM/#(Mナンバー)により、ホログラムの記録性能を評価した。その際、均一な露光量で前露光処理を各記録工程直前に行なった。M/#は、ηiを用いて下記数式で定義される。ηiは、ホログラム記録媒体の記録層内の同一領域に記録が不可能となるまでnページのホログラムを角度多重記録・再生した際の、i番目のホログラムからの回折効率である。角度多重記録・再生は、回転ステージ20を駆動させつつ、所定の光を透過型ホログラム記録媒体10に照射することによって行なわれる。
【数1】

【0078】
なお、回折効率ηとしては、参照光Rfのみを透過型ホログラム型光記録媒体10に照射した際、光検出器31で検出される光強度をItと光検出器30で検出される光強度をIdとを用いて定義した。すなわち、η=Id/(It+Id)で表わされる内部回折効率を用いた。
【0079】
このようにして試験片上に複数のホログラムの記録を行ない、記録領域が試験片上の面積の75%を占めるまで記録した。ここでの記録は、加速試験前の記録である。記録されたNo.1〜35の各ホログラムについてのM/#を、下記表1にまとめる。
【表1】

【0080】
上記表1に示されるように、加速試験前には、M/#の平均値は7.1であり、M/#の最大値と最小値との差(バラツキ)は0.7である。
【0081】
バラツキが平均値の10%以下程度であれば、M/#のバラツキは無視することができ、実質的に一定とみることができる。加速試験前の記録工程においては、角度多重記録したホログラムのM/#は、バラツキがほとんどない。しかも、記録工程の初期段階(No.1)と後期段階(No.35)との間には、差がないといえる。実施例の試験片では、複数のホログラムを角度多重記録しても、重合禁止剤が記録工程の初期段階から後期段階にかけて記録層内を拡散しなかったものと推測される。
【0082】
記録が終了した試験片は遮光下、60℃のオーブン内に一週間保存して加速試験を行なった。加速試験後の試験片は、未記録領域の複数の位置に前述と同様の手法により角度多重記録を行なった。前述と同様、各記録工程の直前には、均一な露光量で前露光処理を施した。記録後、回転ステージ20を駆動させながら、試験片上に記録されたホログラムに参照光を照射して、光強度を求めた。記録のダイナミックレンジは、前述の手法と同様にM/#を用いて評価した。なお、前露光処理の露光量は1週間の加速試験前後とも同一である。記録されたNo.1’〜10’の各ホログラムについてのM/#を、下記表2にまとめる。
【表2】

【0083】
上記表2に示されるように、加速試験後のM/#の平均値は6.9であり、M/#の最大値と最小値との差は0.5である。加速試験前と比較すると、加速試験後にはM/#の平均値は3%程度減少している。5%以内の変化であれば、M/#は実質的に変化しないと判断することができる。すなわち、一週間の加速試験を行なった後でも、ほとんど変化しないことが示されている。このことから、60℃の加速試験前後でも、本実施例の試験片内の各記録領域においては重合禁止剤の濃度が不変であったことが推測される。
【0084】
(比較例1)
エポキシ化合物として6.04gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEx−212、ナガセケムテックス)、硬化剤として1.62gのテトラエチレンペンタミン、およびラジカル重合性モノマーとして1.35gのN−ビニルカルバゾールを混合して攪拌して、均一な溶液を得た。
【0085】
この溶液に、光ラジカル重合開始剤として0.033gのイルガキュア784(チバスペシャルティケミカルズ)、重合禁止剤として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドを0.09g添加し、脱泡して記録層の前駆体溶液を得た。
【0086】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシートからなるスペーサーを介して2枚のガラス板を配置して、空隙を形成した。この空隙に、前述の記録層原料溶液を流し込んだ。これを、遮光して室温で24時間硬化させることによって、厚さ200μmの記録層を有するホログラム記録媒体の試験片を複数作製した。以上の工程によって、図1に示したような構成の透過型ホログラム記録媒体が得られた。
【0087】
暗室内にて、得られた前記透過型ホログラム記録媒体からガラス基板を剥離し、記録層を取り出し、それをテトラヒドロフラン中に浸漬させ、記録層中に分散している成分を抽出した。抽出液を電子スピン共鳴にて観察したところ、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド由来のスペクトルが観測された。また、ポリマーマトリクス内には重合禁止剤としての2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドが結合することなく、分散していることが確認された。
【0088】
得られた試験片を、図3に示したホログラム記録装置の回転ステージ20に載置して、(実施例1)と同様に複数のホログラムを角度多重記録した。光源装置21としては、波長405nmの半導体レーザーを用いた。この試験片上の複数の位置で角度多重記録を行なって、M/#ホログラムの記録性能を評価した。その際、均一な露光量で前露光処理を各記録工程直前に行った。角度多重記録・再生は、回転ステージ20を駆動させつつ、試験片上に記録されたホログラムに照射することによって行なわれる。
【0089】
このようにして試験片上に複数のホログラムの記録を行ない、記録領域が試験片上の面積の75%を占めるまで記録した。ここでの記録は、加速試験前の記録である。記録されたNo.1〜35の各ホログラムについてのM/#を、下記表3にまとめる。
【表3】

【0090】
上記表3に示されるように、加速試験前には、M/#の平均値は6.6であり、M/#の最大値と最小値との差(バラツキ)は1.6である。
【0091】
M/#のバラツキが平均値の10%を越えると、当該媒体の性能は位置依存性があると言え、このような媒体へ安定した記録を行なうことは困難である。また、記録工程の初期段階(No.1)と後期段階(No.35)とでは、有意な差が見受けられる。比較例の試験片では、複数のホログラムを角度多重記録した際、重合禁止剤が記録工程の初期段階から後期段階にかけて記録層内を拡散したものと推測される。
【0092】
記録領域での重合禁止剤の濃度が低下したため、均一な前露光処理を施したとき、未記録領域での重合禁止剤濃度が当初の濃度よりも低下し、この領域へ均一な前露光処理を施したため、当該領域における重合禁止剤よりも多くのラジカルが発生した。重合禁止剤で発生したラジカルをトラップすることができず、残存したラジカルは周囲のモノマーと次々と重合を起こしていたものと推測される。この反応により、モノマーが消費されM/#は低下したものと考えられる。
【0093】
記録が終了した試験片は遮光下、60℃のオーブン内に一週間保存して加速試験を行なった。加速試験後の試験片は、未記録領域の複数の位置に前述と同様の手法により角度多重記録を行なった。前述と同様、各記録工程の直前には、均一な露光量で前露光処理を施した。記録後、回転ステージ20を駆動させながら、試験片上に記録されたホログラムに参照光を照射して、光強度を求めた。記録のダイナミックレンジは、前述の手法と同様にM/#を用いて評価した、なお、前露光処理の露光量は1週間の加速試験前後とも同一である。記録されたNo.1’〜10’の各ホログラムについてのM/#を、下記表4にまとめる。
【表4】

【0094】
上記表4に示されるように、加速試験後のM/#の平均値は4.0であり、M/#の最大値と最小値との差は.1.6である。加速試験前と比較すると、加速試験後にはM/#の40%程度減少している。M/#の減少は、当該領域にそれだけ多重記録できるポテンシャルが低下したことを意味する。
【0095】
これは、60℃の加速試験の間に重合禁止剤が未記録領域から既記録領域へ拡散したことが原因である。未記録領域においては、重合禁止剤の濃度が当初の濃度よりも低下している。こうした領域へ均一な前露光処理を施したため、当該領域における重合禁止剤よりも多くのラジカルが発生した。
【0096】
発生したラジカルは、重合禁止剤で完全にはトラップすることができず、残存したラジカルは周囲のモノマーと次々と重合を起こしていたものと推測される。その結果、モノマーが消費されM/#は低下したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態にかかるホログラム記録媒体の概略断面図。
【図2】本発明の他の実施形態にかかるホログラム記録媒体の概略断面図。
【図3】本発明の一実施形態にかかるホログラム情報記録再生装置の概略図。
【図4】本発明の他の実施形態にかかるホログラム情報記録再生装置の概略図。
【図5】本発明の他の実施形態にかかるホログラム情報記録再生装置の概略図。
【符号の説明】
【0098】
10…ホログラム記録媒体; 11…透明基板; 13…記録層
15…透明基板; 40…反射層付ホログラム記録媒体; 41…透明基板
43…記録層; 45…ギャップ層; 46…反射層; 47…透明基板
21…光源装置; 22…ビームエキスパンダー; 23…旋光用光学素子
24…偏光ビームスプリッター; 25…旋光用光学素子; 26…ミラー
27…ミラー; 28…電磁シャッター; 29…電磁シャッター
30…光検出器; 31…光検出器; 32…紫外光源装置; 51…光源装置
52…ビームエキスパンダー; 53…旋光用光学素子
54…偏光ビームスプリッター; 55…透過型空間光変調器
56…偏光ビームスプリッター; 57…電磁シャッター
58…偏光ビームスプリッター; 59…二分割旋光用光学素子; 60…対物レンズ
61…ビームスプリッター; 62…結像レンズ; 63…二次元光検出器
65…光源装置; 66…ビームエキスパンダー; 67…ミラー
68…反射型空間光変調器; 69…結像レンズ; 70…結像レンズ
71…偏光ビームスプリッター; 72…旋光用光学素子; 73…対物レンズ
74…結像レンズ; 75…2次元光検出器; 76…アイリス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性モノマー、光ラジカル重合開始剤、ポリマーマトリックス、および重合禁止剤を含む記録層を具備し、
前記重合禁止剤は、フェノール誘導体、ヒンダードアミン、およびニトロキシド化合物からなる群から選択され、共有結合を介して前記ポリマーマトリックスに結合されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項2】
前記重合禁止剤は、前記光ラジカル重合開始剤に対して0.0001部から1部の量で含有されることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−66326(P2010−66326A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230293(P2008−230293)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】