説明

ホログラム

【課題】エンボスホログラムの優れた量産性とリップマンホログラムの模造困難な点を両立させる新しい手法を提供する。
【解決手段】特定の立体物体に対して垂直方向の異なる視点から見た像をそれぞれ対応する視点位置321、322の観察者Eに観察可能に再生する水平方向にのみ視差を持つ複数のレリーフホログラムを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムに関し、さらに詳しくは、目視により真贋判定の容易なホログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、一般的に量産されているホログラムには大別して2つのタイプがある。1つはレリーフホログラム又はエンボスホログラムと呼ばれるものであり、このエンボスホログラム(レリーフホログラム)は量産性に優れているが、上市より期間が経っており、似て非なるレベルの模造品が作製されてしまっている。
【0003】
もう1つはリップマンホログラム又は体積ホログラムである。リップマンホログラムは上下左右方向の立体感があり、波長選択性に優れている等のエンボスホログラムにない特徴があり、模造品を作製することは非常に困難である。
【0004】
しかし、光学複製方式しか採用できないリップマンホログラムは、量産性の点で劣るため、コスト面で高いものとなってしまっている。
【0005】
そこで、本発明では、エンボスホログラムの優れた量産性とリップマンホログラムの模造困難な点を両立させる新しい手法を考案した。
【0006】
ところで、レリーフホログラム又はエンボスホログラムの中に、レインボーホログラムや計算機ホログラム(CGH)のように、白色光再生が可能で、水平方向にのみ視差(立体感)を持つホログラムがある。レインボーホログラムは、再生像から縦方向の視差をすてることによって白色光再生を可能にしたものである(非特許文献1〜3)。また、水平方向にのみ視差を持つCGHは、立体像からなる原画像とホログラム記録面とを多数の平行な切断面によって水平方向に分割することで多数の線状の分割領域を形成し、原画像の分割領域と記録面の分割領域とが1対1の対応関係になるような分割領域を設定し、原画像の多数の分割領域各々に点又は線分光源アレーを配置し、記録面の分割領域上に多数の演算点を定義し、個々の演算点に対して、原画像の対応する分割領域の点又は線分光源アレーから発せられた物体光と特定方向から入射する参照光とによって形成される干渉波の強度を演算し、その干渉縞を記録媒体上に記録したものである(特許文献1〜3)。これらのCGHは、各点又は線分光源からの物体光の垂直方向の広がり角を制限することで、縦方向の視差をなくしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3810917号公報
【特許文献2】特許第3892619号公報
【特許文献3】特開2001−109362号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中俊一著「光応用機械産業技術職員研修会テキスト 光応用技術1988年度版 II−1光学 (2)波動光学」,(社)日本オプトメカトロニクス協会,昭和63年5月20日,p.92〜93
【非特許文献2】辻内順平著「物理学選書22 ホログラフィー」,第1版,(株)裳華房,1997年11月5日,p.134〜143
【非特許文献3】久保田敏弘著「ホログラフィ入門−原理と実際−」,初版第2刷,(株)朝倉書店,1997年3月1日,p.50〜52昭和63年5月20日,p.92〜93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、従来の白色光再生が可能なレリーフホログラム又はエンボスホログラムは、水平方向に視差を持った立体像を再生観察することはできるが、垂直方向に視差を持った像を再生観察することはできない。
【0010】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、白色光再生が可能なレリーフホログラム又はエンボスホログラムにおいて、水平方向に加えて垂直方向にも視差を持った立体像を再生観察可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明のホログラムは、特定の立体物体に対して垂直方向の異なる視点から見た像をそれぞれ対応する視点位置の観察者に観察可能に再生する水平方向にのみ視差を持つ複数のレリーフホログラムを合成してなることを特徴とするものである。
【0012】
この場合、前記複数のレリーフホログラムが同一の分割パターンに従って細分化され、それれぞれのホログラムの細分化領域が所定周期で選択され、選択された細分化領域の相対位置が固定されたまま他のホログラムの細分化領域と一面上に並列組み合わせることで、前記複数のレリーフホログラムが合成されてなるものであってもよい。
【0013】
その場合に、分割パターンの少なくとも一方向の分割間隔が300μm以下であることが望ましい。
【0014】
あるいは、前記複数のレリーフホログラムが多重化して合成されてなるものであってもよい。
【0015】
また、前記垂直方向の異なる視点の角度差が15°以下であることが望ましい。
【0016】
前記複数のレリーフホログラムは、レインボーホログラムからなっていても、計算機ホログラムからなっていてもよい。
【0017】
また、再生される立体物体の像の側面に少なくとも上下左右を区別するための文字記号が記録されていることが望ましい。
【0018】
この場合に、前記文字記号の一辺の長さが300μm以下であることが望ましい。
【0019】
また、以上において、前記複数のレリーフホログラムから再生される像の垂直方向の視点に応じた視差が強調されるように、各ホログラムに記録される立体物体の形状が変形されていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の立体物体について、左右水平方向のみならず、垂直方向にも立体感を持つようなホログラムを従来のリップマンホログラムに対して安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】2ステップ法により本発明のレインボーホログラムを作製する際の1段階目のH1ホログラムの撮影配置を示す図である。
【図2】図1で作製された1段階目のH1ホログラムから視点の異なる複数の2段階目のH2ホログラムの撮影配置を示す図である。
【図3】図2で作製された2段階目のH2ホログラムから再生される観察像を説明するための図である。
【図4】図3の観察像の例を示す図である。
【図5】図3のH2ホログラムを1枚のホログラムに合成して本発明のホログラムとする方法の1例を説明するための図である。
【図6】H2ホログラムを直接本発明のホログラムとして撮影する方法を示す図である。
【図7】図6の方法で得たホログラムから左右に視差があるだけでなく上下にも視差があり立体感のある立体像が観察できる様子を説明するための図である。
【図8】同一立体物体について垂直方向の視差を強調して撮影するための図1に対応する図である。
【図9】図8の例の場合の図2に対応する図である。
【図10】図9の代わりに直接本発明のホログラムとして撮影する方法を示す図である。
【図11】図9、図10で作製された2段階目のH2ホログラムから再生される観察像を説明するための図である。
【図12】変形した立体物体を用いて複数のH1ホログラムを撮影するための図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のホログラムを実施例に基づいて説明する。
【0023】
まず、本発明のホログラムの作製方法の1例から説明する。この作製方法は、2ステップ法(2段階法)により同一立体物体についての視点の異なる2つのレインボーホログラムを作製し、その2つのレインボーホログラムを面積分割で組み合わせることで、本発明の1実施例のホログラムを作製する方法であり、1段階目のホログラム(以下、H1ホログラムと呼ぶ。)は通常通りの立体物体のフレネルホログラムを1枚作製し、その記録したH1ホログラムから記録立体物体像を再生させ、その再生物体像近傍に順次2段階目のホログラム用のホログラム記録材料を配置して視点の異なる2つのレインボーホログラムを作製する方法である。
【0024】
以下、図面を参照にして説明する。図1は、この2ステップ法により本発明のレインボーホログラムを作製する際の1段階目のH1ホログラムの撮影配置を示す図である。1段階目のH1ホログラム記録用感光材料11を用い、まず、図1に示すように、記録する立体物体(ここでは、小さい方の頂面が記録側に向いている円錐台を想定している。)Oに面してその感光材料11を配置する。そして、その感光材料11の立体物体Oを所定波長のレーザ光で照明して立体物体Oで散乱された物体光12を感光材料11に入射させると共に、感光材料11の面に入射角θで物体光12と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光13を同時に入射させ、感光材料11に立体物体Oのホログラムを露光する。以上のようにして露光されたた感光材料11を現像等をしてH1ホログラム11を作製する。ここで、感光材料11とH1ホログラム11を同じ符号11で示す。
【0025】
次いで、図2(a)に示すように、このH1ホログラム11の入射側あるいは射出側に近接して(図の場合は入射側)、図の比較的上方に水平方向(図の面に直交する方向)に伸びる第1スリット231 を設けた第1スリット板221 を配置し、その第1スリット板221 を介する(入射側に第1スリット板221 を配置した場合)か、直接に(射出側に第1スリット板221 を配置した場合)H1ホログラム11に、記録のときの参照光13
と反対に進む再生照明光24を、H1ホログラム11に対して記録のときの参照光13が入射する側とは反対側から入射させると、第1スリット231 に対応する位置のH1ホログラム11から回折光251 が透過側に発生し、H1ホログラム11の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこの回折光251 により立体物体Oの立体像O’が再生結像される。この立体像O’が結像される位置近傍に2段階目のH2ホログラム記録用感光材料211 を配置し、再生照明光24と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光26を回折光251 と同じ側から任意の入射角φで同時に入射させ、感光材料211 中に2段階目の第1のH2ホログラムを露光し、現像等をすることで、第1のH2ホログラム211 を作製する。ここで、感光材料211 と第1のH2ホログラム211 を同じ符号211 で示す。
【0026】
そして、図2(b)に示すように、H1ホログラム11を図2(a)の配置のまま、第1スリット板221 の代わりに第2スリット板222 を第1スリット板221 の位置に配置する。この第2スリット板222 は、図の比較的下方に第1スリット231 と平行(水平方向)に伸びる第2スリット232 を設けたものである。そして、その第2スリット板222 を介する(入射側に第2スリット板222 を配置した場合)か、直接に(射出側に第2スリット板222 を配置した場合)H1ホログラム11に、記録のときの参照光13と反対に進む再生照明光24を、H1ホログラム11に対して記録のときの参照光13が入射する側とは反対側から入射させると、第2スリット232 に対応する位置のH1ホログラム11から回折光252 が透過側に発生し、H1ホログラム11の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこの回折光24により立体物体Oの立体像O’が再生結像される。この立体像O’が結像される位置近傍に2段階目の第2のH2ホログラム記録用感光材料212 を配置し、再生照明光24と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光26を回折光252 と同じ側から図2(a)の場合と同じ入射角φで同時に入射させ、感光材料212 中に2段階目の第2のH2ホログラムを露光し、現像等をすることで、第2のH2ホログラム212 を作製する。ここで、感光材料212 と第2のH2ホログラム212 を同じ符号212 で示す。
【0027】
このようにして作製された2段階目の第1のH2ホログラム211 、第2のH2ホログラム212 共レインボーホログラムであり、図3(a)、(b)に示すように、H2ホログラム211 、212 露光時の参照光26と反対に進む再生照明光31を、H2ホログラム211 、212 に対して記録のときの参照光26が入射する側とは反対側から入射させると、それぞれ回折光331 、332 が発生し、それぞれ第1スリット231 、第2スリット232 に対応する相対位置321 、322 に第1スリット231 、第2スリット232 と同じ大きさの瞳を形成し、それらの瞳位置に眼Eを位置させることで、立体物体Oの立体像O’を第1スリット231 の位置から見た像O1 ”、第2スリット232 の位置から見た像O2 ”がH2ホログラム211 、212 の位置近傍に再生され、観察することができる。そして、第1のH2ホログラム211 、第2のH2ホログラム212 はそれぞれレインボーホログラムであるため、第1スリット231 、第2スリット232 の長手方向、すなわち、水平方向には視差(立体感)を持つものであり、それぞれの観察像の例を図4(a)、(b)に示す。
【0028】
図4(a)は、第1のH2ホログラム211 を相対位置321 に眼Eを位置させた場合であって、眼Eを左側⇔中央⇔右側と移動させた場合に見える像O1 ”の例を示すものであり、この例の場合、ホログラムとして記録する立体物体Oの円錐台の上下左右の側面には、それぞれ数字“3”、“4”、“1”、“2”が付されており、眼Eを第1のH2ホログラム211 の相対位置321 に位置させて見ると、立体物体Oを上方から見下ろすような像O1 ”が見える。眼Eを相対位置321 の左側に位置させると、円錐台の上側面の“3”と左側面の“1”が見え、相対位置321 の中央に位置させると、主として上側面の“3”が見え、かつ、左右の側面の“1”と“2”が部分的に見え、相対位置321
右側に位置させると、上側面の“3”と右側面の“2”が見える。
【0029】
図4(b)は、第2のH2ホログラム212 を相対位置322 に眼Eを位置させた場合であって、眼Eを左側⇔中央⇔右側と移動させた場合に見える像O2 ”の例を示すものであり、眼Eを第2のH2ホログラム212 の相対位置322 に位置させて見ると、立体物体Oを下方から見上げるような像O2 ”が見える。眼Eを相対位置322 の左側に位置させると、下側面の“4”と左側面の“1”が見え、相対位置322 の中央に位置させると、主として下側面の“4”が見え、かつ、左右の側面の“1”と“2”が部分的に見え、相対位置322 の右側に位置させると、下側面の“4”と右側面の“2”が見える。
【0030】
本発明の目的は、このような立体物体Oに対して視点の上下位置が異なる複数のレインボーホログラム、上記の例では2枚のレインボーホログラムを1枚のホログラムに合成してそれに対する視点を上下に移動させた場合に上下方向にも視差を持つ像が見えるようにすることである。その合成方法の1例を図5を参照にして説明すると、第1のH2ホログラム211 と第2のH2ホログラム212 を同一の分割パターンに従って細分する。図5の例では、水平方向に細長い短冊状の細分領域に垂直方向に等分割する。細分領域を第1のH2ホログラム211 の場合、上から下へA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8とし、第2のH2ホログラム212 の場合は、B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8とする。そして、第1のH2ホログラム211 においては、細分領域として奇数番目のものA1、A3、A5、A7を選択し、相対位置を固定したままその間の位置A2、A4、A6、A8の領域をブランクにしておき、第2のH2ホログラム212 においては、偶数番目のものB2、B4、B6、B8を選択し、相対位置を固定したまま第1のH2ホログラム211 のブランク位置にはめ込み、図のように細分領域をA1、B2、A3、B4、A5、B6、A7、B8と並べて一体化することで、本発明による複合ホログラム1が得られる。
【0031】
この複合ホログラム1に対して相対位置321 (複合ホログラム1の第1のH2ホログラム211 部分に対する相対位置321 )に眼を位置させた場合には、図4(a)のような左右に視差があり立体物体Oを上方から見下ろすような像O1 ”が見える。また、複合ホログラム1に対して相対位置322 (複合ホログラム1の第2のH2ホログラム212 部分に対する相対位置322 )に眼を位置させた場合には、図4(b)のような左右に視差があり立体物体Oを下方から見上げるような像O2 ”が見える。そのため、複合ホログラム1を両眼で観察すると左右に視差があるだけでなく、上下にも視差があり立体感のある立体像が観察できる。
【0032】
ところで、第1のH2ホログラム211 と第2のH2ホログラム212 の同一の分割パターンは上記のように、水平方向に細長い短冊状の細分領域に垂直方向に分割する分割パターンに限らず、他の如何なる分割パターンでもよいが、主たる視差方向である左右方向(水平方向)の分解能を高くするためには、水平方向に細長い短冊状に分割することが望ましい。また、分割パターンの分割間隔は分割パターンが人間の眼で分解できないことが望ましいため、300μm以下、好ましくは100μm以下が望ましい。
【0033】
また、図4の例で説明したように、ホログラムとして記録する立体物体Oの上下左右の側面には、微細な文字記号Cを付してホログラム記録すると、その側面の文字記号Cを判別することで、そのホログラム1が真正品であるか否かの判定を行うようにすることができる。その場合に、側面に付した文字記号Cの文字寸法は一辺の長さが300μm以下であることが望ましい。
【0034】
ところで、以上の例では、水平方向にのみ視差を持ち視点を垂直方向に任意に設定できるホログラムとして図3(a)、(b)に示したようなレインボーホログラムを想定して
いたが、同様に水平方向にのみ視差を持ち視点を垂直方向に任意に設定できるホログラムとして例えば特許文献1〜3に記載されているような計算機ホログラム(CGH)がある。CGHの場合は、実際の立体物体Oを用いて図1、図2のような撮影方法をとらなくても、計算機中で立体物体Oを定義して計算により図3と同様の特性を持つCGHを作製することができる。ホログラム211 、212 としてこのようなCGHを用いて複合ホログラム1を構成する場合には、図5のような面積分割による両ホログラム211 、212 の合成方法が適している。
【0035】
ところで、レインボーホログラムで本発明による左右に視差があるだけでなく、上下にも視差があるホログラムを構成する別の実施例として同時多重記録する方法がある。その例を図6を参照にして説明する。この図は図2の代わりに用いるH2ホログラムの撮影方法を示す図であり、図2の第1スリット板221 の第1スリット231 の位置に設けた水平方向に伸びる第1スリット231 と、第2スリット板222 の第2スリット232 の位置に設けた水平方向に伸びる第2スリット232 とを相互平行に1枚のスリット板22に設け、このスリット板22を図1の方法で作製された1段階目のH1ホログラム11の入射側あるいは射出側に近接して(図の場合は入射側)配置し、そのスリット板22を介する(入射側にスリット板22を配置した場合)か、直接に(射出側にスリット板22を配置した場合)H1ホログラム11に、記録のときの参照光13と反対に進む再生照明光24を、H1ホログラム11に対して記録のときの参照光13が入射する側とは反対側から入射させると、第1スリット231 に対応する位置のH1ホログラム11から回折光251 が、第2スリット232 に対応する位置のH1ホログラム11から回折光252 がそれぞれ透過側に発生し、H1ホログラム11の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこれら回折光251 、252 により立体物体Oの立体像O’が再生結像される。この立体像O’が結像される位置近傍に2段階目のH2ホログラム記録用感光材料21を配置し、再生照明光24と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光26を回折光251 、252 と同じ側から任意の入射角φで同時に入射させ、感光材料21中に2段階目のH2ホログラムを露光し、現像等をすることで、H2ホログラム21を作製する。ここで、感光材料21とH2ホログラム21を同じ符号21で示す。
【0036】
このようにして作製された2段階目のH2ホログラム21は多重記録レインボーホログラムであり、図7に示すように、H2ホログラム21露光時の参照光26と反対に進む再生照明光31を、H2ホログラム21に対して記録のときの参照光26が入射する側とは反対側から入射させると、それぞれ第1スリット231 、第2スリット232 に対応する相対位置321 、322 に第1スリット231 、第2スリット232 と同じ大きさの瞳を形成し、それらの瞳位置に眼Eを位置させることで、立体物体Oの立体像O’を第1スリット231 の位置から見た像O1 ”(図4(a))と第2スリット232 の位置から見た像O2 ”(図4(b))が空間的に重なって像O”としてH2ホログラム21の位置近傍に再生される。そのため、H2ホログラム21は、複合ホログラム1と同様に、相対位置321 に眼Eを位置させた場合には、図4(a)のような左右に視差があり立体物体Oを上方から見下ろすような像O1 ”が見える。そこから眼Eの位置を垂直方向に移動させて相対位置322 に眼Eを位置させた場合には、図4(b)のような左右に視差があり立体物体Oを下方から見上げるような像O2 ”が見える。そのため、このH2ホログラム21を両眼で観察すると左右に視差があるだけでなく、上下にも視差があり立体感のある立体像が観察できる。
【0037】
ところで、図2の場合も図6の場合、あるいはCGHでH2ホログラム211 、212 を構成する場合も、第1スリット231 と第2スリット232 の立体像O’に対する角度差は最大でも15°である必要がある。この角度差を15°以下とすれば、異なる角度から記録した立体物体あるいは異なる角度で観察する立体像が同一の立体物体のものとして認識できる。この角度差を15°を超える場合には、異なる角度から記録した立体物体が
切り替わるかのように見えてしまい、所望の効果(垂直方向の立体感)が得難くなる。
【0038】
第1スリット231 と第2スリット232 の立体像O’に対する角度差が小さくても、垂直方向の立体感をより強調するには、ホログラム1、21で再生される複数の像O1 ”、O2 ”が、図3のように同一空間的形態をとる立体物体Oの視点の異なる像でなく、視差を強調した像とすることにより、垂直方向の立体感がより得やすくなる。その例を以下に説明する。
【0039】
図8は図1に対応するH1ホログラムの撮影配置を示す図である。この場合は、複数の像O1 ”、O2 ”と同じ枚数のH1ホログラムを撮影する。図8(a)に示すように、立体物体(ここでは、小さい方の頂面が記録側に向いている円錐台を想定している。)Oを図の面の法線の回りで若干右に傾けて立体物体Oの上側の側面がその前方に配置した第1のH1ホログラム記録用感光材料111 の面により向くようにし、その感光材料111 の立体物体Oを所定波長のレーザ光で照明して立体物体Oで散乱された物体光121 を感光材料111 に入射させると共に、感光材料111 の面に入射角θで物体光121 と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光13を同時に入射させ、感光材料111 に上記のような角度配置の立体物体Oのホログラムを露光する。感光材料111 を現像等をして第1のH1ホログラム111 を作製する。また、図8(b)に示すように、同じ立体物体Oを図の面の法線の回りで若干左に傾けて立体物体Oの下側の側面がその前方に配置した第2のH1ホログラム記録用感光材料112 の面により向くようにし、その感光材料112 の立体物体Oを第1のH1ホログラム111 の場合と同じ波長のレーザ光で照明して立体物体Oで散乱された物体光122 を感光材料112 に入射させると共に、感光材料112 の面に入射角θで物体光122 と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光13を同時に入射させ、感光材料112 に上記のような角度配置の立体物体Oのホログラムを露光する。感光材料112 を現像等をして第2のH1ホログラム112 を作製する。ここで、感光材料111 、112 とH1ホログラム111 、112 を同じ符号111 、112 で示す。
【0040】
次いで、図9(a)に示すように、第1のH1ホログラム111 の入射側あるいは射出側に近接して(図の場合は入射側)、図2(a)の第1スリット板221 と同様の第1スリット板221 を配置し、その第1スリット板221 を介するか、直接に第1のH1ホログラム111 に、記録のときの参照光13と反対に進む再生照明光24を、第1のH1ホログラム111 に対して記録のときの参照光13が入射する側とは反対側から入射させると、第1スリット231 に対応する位置の第1のH1ホログラム111 から回折光251 が透過側に発生し、第1のH1ホログラム111 の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこの回折光251 により立体物体Oの立体像O1 ’が再生結像される。この立体像O1 ’が結像される位置近傍に2段階目のH2ホログラム記録用感光材料21を配置し、再生照明光24と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光26を回折光251 と同じ側から任意の入射角φで同時に入射させ、感光材料21中に2段階目の第1のH2ホログラムを露光する。
【0041】
次いで、図9(b)に示すように、第1のH1ホログラム111 の位置に代わりに第2のH1ホログラム112 、第1スリット板221 の代わりに図2(b)の第2スリット板222 と同様の第2スリット板222 を第1スリット板221 の位置に配置する。そして、図9(a)の場合と同様に再生照明光24と参照光26を入射させると、第2スリット232 に対応する位置の第2のH1ホログラム112 から回折光252 が透過側に発生し、第2のH1ホログラム112 の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこの回折光252 により立体物体Oの立体像O2 ’が再生結像され、H2ホログラム記録用感光材料21中には、立体像O1 ’と立体像O2 ’を再生する2枚のホログラムが多重露光される。この2段階目のH2ホログラム記録用感光材料21を現像等をすることで、H2ホログ
ラム21を作製する。ここで、感光材料21とH2ホログラム21を同じ符号21で示す。
【0042】
図9の別々の露光を時間的にずらして立体像O1 ’と立体像O2 ’のホログラムが多重露光する代わりに、図10に示すように、第1のH1ホログラム111 の上半分と第2のH1ホログラム112 の下半分を接続して1枚のH1ホログラム113 とし、そのH1ホログラム113 の入射側あるいは射出側に近接して図6のスリット板22と同様のスリット板22を配置し、そのスリット板22を介する(入射側にスリット板22を配置した場合)か、直接に(射出側にスリット板22を配置した場合)H1ホログラム113 に、それぞれの記録のときの参照光13と反対に進む再生照明光24を、H1ホログラム113 に対して記録のときの参照光13が入射する側とは反対側から入射させると、第1スリット231 に対応する位置のH1ホログラム111 から回折光251 が、第2スリット232 に対応する位置のH1ホログラム112 から回折光252 がそれぞれ透過側に発生し、H1ホログラム11の面に対して記録のときの立体物体Oの位置にこれら回折光251 により立体物体Oの立体像O1 ’とO2 ’が空間的に重畳して再生結像される。これら立体像O1 ’とO2 ’が結像される位置近傍に2段階目のH2ホログラム記録用感光材料21を配置し、再生照明光24と可干渉な同一光源からの平行光からなる参照光26を回折光251 、252 と同じ側から任意の入射角φで同時に入射させ、感光材料21中に2段階目のH2ホログラムを露光し、現像等をすることで、H2ホログラム21を作製する。ここで、感光材料21とH2ホログラム21を同じ符号21で示す。
【0043】
このようにして作製された2段階目のH2ホログラム21は、図6の場合と同様に、多重記録レインボーホログラムであり、図11に示すように、H2ホログラム21露光時の参照光26と反対に進む再生照明光31を、H2ホログラム21に対して記録のときの参照光26が入射する側とは反対側から入射させると、それぞれ第1スリット231 、第2スリット232 に対応する相対位置321 、322 に第1スリット231 、第2スリット232 と同じ大きさの瞳を形成し、それらの瞳位置に眼Eを位置させることで、相対位置321 では、立体物体Oの上側の側面がより観察されるように視差を強調して記録したO1 ”が、相対位置322 では、立体物体Oの下側の側面がより観察されるように視差を強調して記録したO2 ”がそれぞれ再生される。そのため、H2ホログラム21は、相対位置321 に眼Eを位置させた場合には、図4(a)のような左右に視差があり立体物体Oを上方から見下ろすようなO1 ”であって上下の視差がより強調されて見える。そこから眼Eの位置を垂直方向に移動させて相対位置322 に眼Eを位置させた場合には、図4(b)のような左右に視差があり立体物体Oを下方から見上げるようなO2 ”であって上下の視差がより強調されて見える。そのため、このH2ホログラム21を両眼で観察すると左右に視差があるだけでなく、上下にも強調された視差があり、立体感のある立体像が観察できる。
【0044】
なお、図8の場合は、垂直方向の立体感をより強調するために、垂直方向の視点の異なる複数のH1ホログラム撮影時に同じ立体物体Oの傾き位置をそれぞれ変えて撮影していたが、このようにすると、立体物体Oの像O1 ”、O2 ”の頂面(特に、円錐台のように頂面を持つ場合)のピントが合わない等の観察し難くなったり、自然に見えない問題が生じる恐れがある。そこで、図8に代えて、図12に示すように、それぞれのH1ホログラム記録用感光材料111 、112 に別々の立体物体O1 、O2 のH1ホログラム111 、112 を撮影するようにしてもよい。これら立体物体O1 、O2 は頂面を同じにしてそれぞれ背後の形態を上方へ平行に変形したものO1 、下方へ平行に変形したものO2 としている。なお、本発明のホログラムをCGHで構成する場合は、ホログラム211 、212 に記録するために定義する立体物体をこのように変形してそれぞれ記録することになる。
【0045】
なお、以上の説明では、本発明のホログラムをレインボーホログラムで構成する場合も
CGHで構成する場合も、垂直方向に視点の異なる2つのホログラムを組み合わせるものとしているが、垂直方向の異なる視点の数を3つ以上にしてももちろんよい。ただし、その視点数が増えると個々の視点での観察像に垂直方向の波長分散によるノイズが増加するため、白色光下で観察するホログラムとする場合は、2〜3個の異なる視点とすることが望ましく、単色光下で観察するホログラムの場合はそれより多い視点数としてもよい。
【0046】
なお、レインボーホログラム又はCGHからなる本発明のホログラムは一般的にレリーフホログラムとして構成されるが、そのレリーフホログラムを作製するには、その凹凸レリーフパターンが形成された金型を用いて合成樹脂等にエンボスして賦型することでエンボスホログラムとして作製される。CGHの場合、EB描画方式により原版を作製し、その凹凸レリーフパターンを金型に設け、賦型することでエンボスホログラムとしてのCGHが作製される。なお、そのエンボスホログラムのレリーフ面あるいは反対側の面に金属メッキ等の反射層を設けることで、反射型のエンボスホログラムとして本発明のホログラムを構成することができる。
【0047】
以上、本発明のホログラムを実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、特定の立体物体について、左右水平方向のみならず、垂直方向にも立体感を持つようなホログラムを従来のリップマンホログラムに対して安価に提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
E…眼
O…立体物体
1 、O2 …立体物体
O’…立体物体の立体像
O”…立体物体の立体像を第1スリットの位置から見た像と第2スリットの位置から見た像が空間的に重なって像
1 ”…立体物体の立体像を第1スリットの位置から見た像
2 ”…立体物体の立体像を第2スリットの位置から見た像
C…文字記号
1…複合ホログラム
11…H1ホログラム記録用感光材料(H1ホログラム)
111 …第1のH1ホログラム記録用感光材料(第1のH1ホログラム)
112 …第2のH1ホログラム記録用感光材料(第2のH1ホログラム)
113 …第1のH1ホログラムと第2のH1ホログラムを接続してなるH1ホログラム
12…物体光
121 、122 …物体光
13…参照光
21…H2ホログラム記録用感光材料(H2ホログラム)
211 …第1のH2ホログラム記録用感光材料(第1のH2ホログラム)
212 …第2のH2ホログラム記録用感光材料(第2のH2ホログラム)
22…スリット板
221 …第1スリット板
222 …第2スリット板
231 …第1スリット
232 …第2スリット
24…再生照明光
251 、252 …回折光
26…参照光
31…再生照明光
321 …第1スリットに対応する瞳位置
322 …第2スリットに対応する瞳位置
331 、332 …回折光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の立体物体に対して垂直方向の異なる視点から見た像をそれぞれ対応する視点位置の観察者に観察可能に再生する水平方向にのみ視差を持つ複数のレリーフホログラムを合成してなることを特徴とするホログラム。
【請求項2】
前記複数のレリーフホログラムが同一の分割パターンに従って細分化され、それれぞれのホログラムの細分化領域が所定周期で選択され、選択された細分化領域の相対位置が固定されたまま他のホログラムの細分化領域と一面上に並列組み合わせることで、前記複数のレリーフホログラムが合成されてなることを特徴とする請求項1記載のホログラム。
【請求項3】
分割パターンの少なくとも一方向の分割間隔が300μm以下であることを特徴とする請求項2記載のホログラム。
【請求項4】
前記複数のレリーフホログラムが多重化して合成されてなることを特徴とする請求項1記載のホログラム。
【請求項5】
前記垂直方向の異なる視点の角度差が15°以下であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載のホログラム。
【請求項6】
前記複数のレリーフホログラムがレインボーホログラムからなることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載のホログラム。
【請求項7】
前記複数のレリーフホログラムが計算機ホログラムからなることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載のホログラム。
【請求項8】
再生される立体物体の像の側面に少なくとも上下左右を区別するための文字記号が記録されていることを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載のホログラム。
【請求項9】
前記文字記号の一辺の長さが300μm以下であることを特徴とする請求項8記載のホログラム。
【請求項10】
前記複数のレリーフホログラムから再生される像の垂直方向の視点に応じた視差が強調されるように、各ホログラムに記録される立体物体の形状が変形されていることを特徴とする請求項1から9の何れか1項記載のホログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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