説明

ホワイトアスパラガスの夏期長期生産技術

【課題】 ホワイトアスパラガス生産の多くは、畦面への盛土、または遮光資材の被覆による春期の1期採り栽培に限られ、収穫期間はせいぜい1〜2カ月である。そこで、春期だけでなく夏期の収穫期間を少なくとも3〜4ヶ月以上の長期とする。
【解決手段】 グリーンアスパラガスの長期採り栽培法である全期立茎栽培法を基本とし、畦上の若茎萌芽位置に頑強な資材で格子棚を設置し、日照を99%以上遮光し、昇温抑制と保温機能を有する資材で被覆することにより春採りのホワイトアスパラガスを生産する。春採り終了後に、被覆資材を一時的に除去し、根株養成のために立茎を開始する。この時、既存の母茎地際押し倒し誘引法を用いて母茎を格子棚の外側に向かって押し倒す。規定の立茎本数が得られた後、格子棚を再び前出の遮光、昇温抑制と保温機能を有する資材で被覆する。被覆資材の下で萌芽した若茎は白色であり、6月〜9月下旬の夏期において少なくとも3〜4ヶ月以上にわたるホワイトアスパラガスの長期生産が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホワイトアスパラガスの夏期長期生産技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホワイトアスパラガスの生産は、多くは畦面への盛土、または遮光資材の被覆による春期の1期採り栽培で、収穫期間はせいぜい1〜2カ月に限られ、少なくとも夏期の3〜4ヶ月以上にわたる長期生産方法が求められている。
【0003】
アスパラガスの長期生産方法としては、広島県で全期立茎栽培(例えば非特許文献1)が開発され、日本全国に普及しているが、この栽培をさらに省力化しようとする母茎地際押し倒し誘引法(非特許文献2、特許文献1)が開発された。これらの報告は、緑色の若茎を生産するグリーンアスパラガス栽培についてのみの報告であり、ホワイトアスパラガスの生産法は開発されていなかった。
一方、ホワイトアスパラガスの栽培方法とそれに用いる被覆フィルムとして特許文献2が開発されている。しかし、この方法は、母茎を立茎して根株を養成し、平行してホワイトアスパラガスを収穫する方法ではない。すなわち、2畦分を同時に遮光フィルムで覆い、根株の養成時期とホワイトアスパラガスの収穫時期を完全分離して行う栽培法である。遮光資材を被覆して行う春採り終了後、被覆資材を除去し、母茎を立茎して光合成により根株を養成した後、それらの母茎を剪定除去して後、再び遮光資材で被覆し、夏期のホワイトアスパラガスを生産するものである。年2回以上ホワイトアスパラを栽培するという記載があるものの、実施例をみても15日程度の短期間であり、本発明の母茎地際押し倒し誘引法による根株養成と平行して夏期のホワイトアスパラガスを約4ヶ月程度収穫できる生産方法とは大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−220330号
【特許文献2】特開2007−330121号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】伊藤悌右他 広島県立農業技術センター研究報告 60号,1994年,p.35−40
【非特許文献2】田中昭夫他 園芸学会雑誌 75号別冊2,2006,p.257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、畦上に頑強な格子棚を設置し、母茎地際押し倒し誘引法と遮光・昇温抑制・保温機能をもつ被覆資材を併用することによるホワイトアスパラガスの夏期の長期生産にある
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、畦上に頑強な格子棚を設置し、母茎地際押し倒し誘引法と遮光・昇温抑制・保温機能をもつ被覆資材を併用することにより、ホワイトアスパラガスの夏期における長期生産が可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の特徴は要約すると以下の通りである。
グリーンアスパラガスの長期採り栽培法である全期立茎栽培法を基本とし、畦上の若茎萌芽位置に頑強な資材で格子棚を設置し、日照を99%以上遮光し、昇温抑制と保温機能を合わせ持つ資材で被覆することにより春採りのホワイトアスパラガスを生産する。春採り終了後に、被覆資材を一時的に除去し、根株養成のために立茎を開始する。この時、既存の母茎押し倒し誘引法を用いて母茎を格子棚の外側に向かって押し倒す。規定の立茎本数が得られた後、格子棚を再び前出の遮光資材で被覆する。被覆資材の下で萌芽した若茎は白色であり、6月〜9月下旬の夏期において、少なくとも3〜4ヶ月以上にわたるホワイトアスパラガスの長期生産が可能となる。
【0009】
なお、本明細書において「若茎」とは、茎長約40cmまでで、萌芽直後のものを含み、また、萌芽後収穫を行う茎だけでなく、収穫せずに立茎させるための若茎も含むものとする。
【0010】
本明細書において「立茎」とは、根株養成を行うため、若茎を収穫せずに生長させ、茎葉を繁茂させることをいう。
【0011】
本明細書において「母茎」とは、立茎させて株養成を行うため、茎葉を繁茂させた成茎をいう。
【0012】
本明細書において「地際押し倒し」とは、通常、地面に対してほぼ垂直方向に生長するアスパラガスを、地面に対して90度未満の角度で傾斜して生長するように人為的に誘導することをいう。
【0013】
本明細書において「格子棚」とは、直径数センチのパイプを高さ50cm程度の直方体の格子状に組み、畦上に作成した棚状のものをいう。
【0014】
本明細書において「遮光」とは、畦上に発生した若茎に照射される日照の99%以上を遮る特性を持つ資材を用いて格子棚を被覆することをいう。
【0015】
本明細書において「昇温抑制」とは、夏期高温時においても、若茎が発生する被覆内部の温度を、発生適温の35℃以内に抑制することをいう。
【0016】
本明細書において「保温」とは、若茎が発生するものの冷涼である早春期(3〜4月)や秋期(9〜10月)の夕方・夜間・早朝において、若茎が発生する被覆内部の温度を、発生最低温度の10〜15℃以上に保温することをいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アスパラガスの母茎地際押し倒し誘引を行うことで母茎の茎葉が繁茂する位置と収穫するための若茎が萌芽する位置が水平方向で離れ、若茎の発生位置に格子棚を設置し、遮光・昇温抑制・保温資材を被覆することにより白色の若茎、つまりホワイトアスパラガスの夏期における長期生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 アスパラガスの母茎地際押し倒し誘引法と格子棚への遮光・昇温抑制・保温資材による被覆を示した畦方向を正面からみた平面図である。
【図2】 アスパラガスの畦上に格子棚を設置し、遮光・昇温抑制・保温資材を被覆しない状態で、母茎押し倒しと格子棚の設置状況を示した斜め上から見た外観図である。
【図3】 ホワイトアスパラガスの生産状況(夏期) 左:タイベック被覆右:被覆下のホワイトアスパラガス萌芽状況
【図4】 春採り終了後の被覆資材除去時の母茎地際押し倒し誘引状況
【図5】 生産したホワイトアスパラガス
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、アスパラガスの畦の低い側に長さ約50cm、畦の高い側を長さ約40cm、幅約70cmで同じ高さとなるように頑強なパイプを打ち込み、横は被覆する畦の長さに応じてパイプ接合して高さを揃え、適度に補強パイプを打ち込みながら長さを延長し、直方体状の格子棚を作成する。その上に遮光・昇温抑制・保温機能を持つ資材で被覆することにより、白い若茎つまりホワイトアスパラガスを春期に生産する。その後、根株養成のために被覆を一時的に除去し、母茎押し倒し誘引法を用い、立茎する母茎を格子棚の外に向かって押し倒す。全期立茎栽培における所定の立茎本数、畦1mあたり10本の母茎が得られた上で、再度遮光資材で格子棚の被覆を行うことで、ホワイトアスパラガスが夏期においても3〜4ヶ月以上の長期にわたって生産できることを特徴とする。
【0020】
格子棚の作成・設置および遮光・昇温抑制・保温機能を持つ資材の被覆は、アスパラガスの若茎の春採り開始前に完了することが望ましい。また、母茎立茎用の支柱の設置も同様とすることが望ましい。春採り終了後、被覆資材のみ撤去し、母茎の地際押し倒し誘引を開始する。被覆資材は、母茎を畦1mあたり10本程度ずつ、15日程度かけて順次立茎するために、撤去した方が作業性がよく望ましい。母茎は格子の中から外側の一定方向に向けて、母茎地際押し倒し誘引法に従って、斜めに伸長させつつ、90度押し倒す。押し倒しが完了後、再び遮光・昇温抑制・保温機能を持つ資材で格子棚を被覆する。その際に、母茎が90度にしっかり押し倒されていると被覆資材内に光もれが少なく望ましい。格子棚・被覆資材内で発生した白色の若茎を夜間に収穫することにより、ホワイトアスパラガスが生産できる。なお、格子棚は、縦にパイプを畦下約50cm深まで打ち込み固定・安定化させため、直径2〜3cm、全長1m程度のものが望ましい。
【0021】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例1】
【0022】
以下の実験は、1999年5月植付けの10年生アスパラガス品種‘ウェルカム’を用い、2009年の全期立茎・ハウス雨除け栽培で行った。
【0023】
格子棚の作成・設置および被覆は、アスパラガスの若茎の春採り開始の10日以上前の3月下旬に完了した。被覆資材としては遮光・昇温抑制・保温機能を持つデュポンタイベ

柱の設置も同様に完了した。4月12日から春採りを開始し、5月10日まで行った。同日に被覆資材を撤去し、母茎の地際押し倒し誘引を開始した。母茎は格子の中から外側(図では左側)の一定方向に向けて、誘導部材を用いて若茎水分の少ない昼間に斜めに誘引し、最終的に90度押し倒した。押し倒しが完了し、母茎が2m程度に伸長した6月1日に遮光・昇温抑制・保温機能を持つ資材で再び格子棚全面を被覆した。その後、新たに発生した若茎はホワイトアスパラガスとして9月30日まで約4ヶ月間収穫できた。なお、格子棚の縦パイプは畦下50cm深まで打ち込むことで固定・安定化した。また、母茎を支えるための支柱を設置したことにより立茎も安定しており、11月まで強風等により母茎が折れるなどの被害もなかった。
【実施例2】
【0024】
母茎地際押し倒し誘引法によるホワイトアスパラガスの収量
【0025】
2009年4月から9月にかけて、慣行の全期立茎栽培(慣行1)と母茎地際押し倒し誘引(慣行2)によるグリーンアスパラガス生産と、母茎地際押し倒し誘引(被覆資材の種類により被覆資材1、被覆資材2と記載)によるホワイトアスパラガス生産の収量調査を行った。いずれも5月1日に母茎の立茎を開始し、春採りを4月12日から5月10日まで、夏採りを6月8日から9月30日までとして調査し、月別収量として表に記載した。
【表1】

【0026】
慣行1区の通常立茎によるグリーンアスパラガスの総収量は、131kg/aなのに対し、慣行2区の母茎地際押し倒し誘引では101kg/aで若干低下した。母茎地際押し倒しで被覆資材を用いた被覆資材1区でのホワイトアスパラガスの収量は、98kg/aで、被覆資材2では102kg/aであった。母茎地際押し倒しの慣行2区、被覆資材1区・2区の収量はほぼ同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のホワイトアスパラガス若茎の夏期長期生産方法は、これまでホワイトアスパラガスを少量でしか収穫できなかった夏期の大量生産技術として、既存のアスパラガス生産者および新規参入者への普及が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガスの既存の母茎地際押し倒し誘引法を用いて長期採りを行う全期立茎栽培において、若茎の萌芽する位置に頑強なパイプ等で格子棚を作成し、これに、ほぼ99%以上の日照遮断である遮光と内部の温度上昇を抑制、または適度に保温する機能をもつ資材を被覆することにより、ホワイトアスパラガスを夏期に3〜4ヶ月以上の長期にわたり生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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