説明

ホールドダウン・シンカを有しない編み機

【課題】編み針のべらが編み糸ガイドに接触、摩耗することがない編み糸ガイドを提供する。
【解決手段】本発明の編み機は、ランナ18と連動する編み糸ガイド1を有する。ランナ18は第2のグループの針が送り出される間、第1のグループの送り出された針のべらを開位置に保持するために設けられる。第1のグループおよび第2のグループのべら型針9および10の時間差を伴った送り出しと、第1のグループおよび第2のグループの針が交互に配置されていることにより、針が送り出されている間の編み地の上昇は、ホールドダウン/ノックオーバ・シンカの助けなしで防止される。編み糸ガイド1と分離されたランナ18がべらを開位置に保持するために使われるので、前記ランナ18の位置は編み糸ガイドの位置から独立して、最適に調整されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は編み機、特に動作のためにホールドダウン・シンカを必要としない、丸編機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、丸編機は、外周に、シリンダの長さ方向に延びる多数の針溝を備えた、編成シリンダ(針筒)を有する。これらの針溝の各々に着座しているのは編み針であって、通常はべら型針である。編み針は針溝中で往復運動をする。これは、カム・セグメントに収納されカム・ハウジングを構成する、カム機構またはカム構成部品により達成される。このカム・ハウジングは、シリンダ(針筒)を囲み、少なくとも一つの案内経路を有する。編み針は、案内経路を通るフット(足)を有し、したがって編成シリンダが回転している時に、必要とされる長手方向の往復縦運動が編み針に伝達される。
【0003】
糸は、通常、固定されている編み糸ガイドを介して、回転する編成シリンダの編み針に供給される。例えば、筒状の編み地が形成されて、その編み地は編み針から垂れ下がる。
【0004】
編み針が送り出されるときに編み地が上へ動くのを防止するために、ホールドダウン/ノックオーバ・シンカが通常編み針の付近に配置される。ホールドダウン/ノックオーバ・シンカを構成するにはかなりの工夫が必要である。加えて、編み機の細密さを制限することとなる、構造上の空間が必要となる。
【0005】
特許文献1は、ホールドダウン/ノックオーバ・シンカなしで動作する編み機を開示する。この目的ために、シリンダ(針筒)の編み針は2つのグループに分けられて、針カム機構の異なるガイドカムにより駆動される。例えば、始めに、間に配置された偶数でない編み針がまだ送りだされない間に、第1の偶数の編み針が送り出され、この結果、編み地を押さえる機能が取って代わられる。偶数の編み針が送り出されたあと、奇数の編み針が送り出され、最後に、編み針は順々に、すなわち、奇数の編み針と同様に偶数の編み針が、編み目を形成するために格納される。
【0006】
この種の編み機では、開いた編み針のべらは、他の機械要素、例えば編み糸ガイドに接触することがある。これは、編み針が摩耗する結果となる。加えて、既に送り出された編み針のべらは、途上の特定の位置で開位置に保持さなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/074486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような編み機のための改良された編み糸ガイドを創作することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、請求項1の編み糸ガイドで達成される。本発明の編み機の編み糸ガイドは、べら型針のべらのための滑り面を有するランナと関連する。ランナは、到達する編み針のべらがその滑り面で徐々に動き出して、必要な場合は、開位置において保持されるように、配置される。好ましくは、ランナは、編成シリンダの円周方向、すなわち、編成シリンダの周方向の動作によりあらかじめ指定される方向に伸びる。好ましくは、ランナは編み針の移動方向に関して斜めに配置された初動表面を形作る丸い先端を有する。ランナの先端と編み糸ガイドとの間には空き領域がある。
【0010】
ランナと更に編み糸ガイドとは、送り出されたべら型針の開いたべらを開位置に保持するために用いることができうる。このためには、編み糸ガイドは、べら型針のべらのための滑り面を有してもよい。当該編み糸ガイドの滑り面は、好ましくは、滑らかな、段のない表面であって、編成シリンダの相対的な回転の結果として送り出されたべら型針が編み糸ガイドに相対的に動かされると、べら型針のべらは、それに沿って摺動する。そのために、編み糸ガイドの滑り面は、好ましくは円周方向において延びており、それによって、送り出された編み針の経路にほぼ沿う輪郭を有してもよい。
【0011】
好ましくは、ランナと編み糸ガイドとの間に空き領域が設けられる。この空き領域は、ランナと編み糸ガイドとの間で機器の位置決めによって定められる。例えば、ランナの先端と編み糸ガイドとの間の空き領域は、この空き領域でのべら動作のためのより広い領域を確保するために、拡大することができる。これによって、べら型針のべらは、送り出し動作の途中、ランナまたは編み糸ガイドにぶつかることなく、この空き領域に回転して入ることができる。編み糸ガイドに対するランナの調整は、編み機および処理されるべき糸の設定機能の一つである。
【0012】
本発明の編み糸ガイドは、3つの機能を実行できる。第1に、編成部位に糸を供給するために配置される。次に、残りの針が送り出されている間、引っ込み位置にある各第2の針のべらを押し下げるように、構成ないし調整されてもよい。加えて、当該編み糸ガイドは、すでに送り出された針のべらを開位置に保持できる。
【0013】
同様に、その機能を編み糸ガイドとランナとで以下の様に分けることも可能である:
編み糸ガイドは糸を導き、送り出されたべらをカバーする。さらに追加で用意されたランナは、続く送り出し動作の間に残りの針が送り出されるとき、確実な編み地の押さえができるよう、すでに最初に送り出された針のべらを押さえる機能を実行する。
【0014】
好ましくは、ランナは編み糸ガイドと関連して調節可能であるように配置される。そのようにすると、最も多様な織りとパターンの製造と多様な編み糸の処理が可能なように、編み糸ガイドの上述した機能の3つの全てが満たされる。加えて、給糸およびホールドダウン機能の最適調整が、すなわち、相互独立して可能である。
【0015】
ランナは、べら押さえ(ホールドダウン)要素として作用する。この機能を編み糸ガイドの機能から切り離すことによって、編み糸ガイドから独立してべら押さえ(ホールドダウン)機能の調整の選択が可能になる。
【0016】
ランナは、好ましくは調節可能な把持具を介して、編み糸ガイドと接続されていてもよい。あるいは、ランナは、他の機械部品、例えば針カム機構の部分に結合されてもよい。
【0017】
通常、シリンダはクーリエ・エッジ(ノックオーバ・エッジ)を有する。変更されたクーリエ設定と、結果として針位置およびべらの当りの変更を自動的に補償するために、ランナを追加的に中央のクーリエに取り付けてもよい。例えば、これはランナが適切なラックにより編成シリンダのベアリングに接続されるような形でもよい。
【0018】
ランナが編み糸ガイドに接続されていない場合、編み糸ガイドと独立して、ランナと編み針の間の距離を調整し、したがって、例えば、第1のグループの針がすでに送り出された後に送り出されようとする、そのような針の開いたべらのための空間を形づくることも可能になる。
【0019】
さらにまた、ある編み針のべら上に滑り面を用意し、当該滑り面はランナおよび/または編み糸ガイドの滑り面に沿って摺動するようにし、したがって磨耗予備部(リザーブ)を用意するのも実際的である。
【0020】
本発明の有利な実施例のさらなる詳細は、記載、図面または従属請求項から明らかである。記載は、本発明の本質的な側面および種々の状況に限定される。図面は補助参照引用のために使われるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】編成シリンダの中心軸から外へ放射状に見た、編み地とともに編み糸ガイドおよび編み針から成る丸編機の編成サイトの概略化された斜視図。
【図2】内部へ半径方向に見た、図1の編成サイトの側面図。
【図3】内部へ半径方向に見た、針を省略した、図1の編成サイトの斜視および部分的に概略化された説明図。
【図4】編み糸ガイドおよびそのランナの概略化された縦断面の説明図。
【図5】図1〜4から明らかな構成を有する、編み機に用いられるべら型針。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、編み機の編成サイトを示す。編成サイトは、好ましくは編み機上に基本的に静止状態で保持される編み糸ガイド1によって、規定される。それは、保持脚2と、当該保持している脚から離れる方向に、好ましくはほぼ横方向に、伸びる部分3を有する。部分3は、その何もない方の端に、例えば、通路開口として構成され、それを通して、糸5が編成サイトに供給される、少なくとも一つの小穴4を有しる。特にその部分3上に、編み糸ガイド1は、好ましくは段のない滑らかな滑り面6を有する。
【0023】
さらに、編み機は図1において概略的にのみ示された編み針を有する。図3から部分的に明らかなように、垂直方向に移動可能なように、当該編み針中は編成シリンダの針溝7に支持される。これに関連し、「垂直」とは、編成シリンダの回転軸と基本的に平行である少なくとも一方向を意味すると理解される。
【0024】
針溝7に着座しているのはべら型針9、10であって、図1ではより良好な区別のための参照番号が付されている。べら型針9は第1のグループに属し、べら型針10は第2のグループに属する。べら型針9、10の各々は、その上端部に、回転するよう支持されたべら12を伴うフック(針頭)11を有する。べら12は、フック11を開閉することができる。
【0025】
べら型針9、10は、編成シリンダ8の回転によって、送り出され、ここでそれらのフットは、さまざまなカム曲線または針カムと接触している。そのため、べら型針9は、べら型針10と異なる位置に、それらのフットを有する。図3において、さまざまなカム曲線13、14は、概略的に示されている。カム曲線13、14は、リング状の編成シリンダを囲む、いわゆる編成カム機構に直接備えられた案内経路である。編成シリンダ8が連続的に静止したカム曲線13、14上のべら型針9、10のフットを駆動すると、編み地17を生産するための編成動作を遂行するために、2つのグループのべら型針9、10は、図1および2に示すような、異なる曲線15、16に沿って動かされる。編み糸ガイド1の下に位置する編み針9、10は、編成サイトを構成する。
【0026】
編み糸ガイド1は、その下側のエッジに、例えば、ランナ18が配置される、ほぼ台形の凹所を有する。このランナ18は、送り出されたべら型針9、10のべら12を開位置に保持するために設けらる。そのために、ランナは滑らかな滑り面19を有し、当該滑り面がべら型針9、10に面する。ランナは、編成作業の際べら型針9、10が到着する一端20に、編み針から離れて曲げられる部分を有してもよい。この部分の上へ伸びる滑り面19の部分は、次のべら12の開始の傾斜を構成する。
【0027】
例えば、ランナ18は、編み糸ガイド1に固定されていてもよい。図3および4で示すようなブラケット21でこれを構成してもよく、当該ブラケットがランナ19と編み糸ガイド1間の空き領域22、22´を橋渡しする。好ましくは、ブラケット21は外へ、すなわち、空き領域22、22´を確保するために、べら型針9、10から離れて、そして、空き領域22を通って延びているべら12がブラケット21に対して接触することから防止するために、曲げられる。
【0028】
好ましくは、ブラケット21は、ブラケット21の両端上に細長い穴23、24を有する調節可能な把持具であって、そこに於いて細長い穴23、24は異なる方向へ伸びている。締付ねじは、前記細長い穴を通って延びる。細長い穴23、24により、ランナ18は、ランナの長手方向において、そして、針の垂直方向または縦方向において、調整されることができる。
【0029】
編み機は、従来のべら型針を装備してもよい。しかしながら、好ましくは、図5に示されるようなべら型針9に類したべら型針が使われる。べら型針9の特徴は、べら12の構成である。通常のべらと同様に、それはべら溝25において回動可能なように支持されている。ピン26は、支持として作用する。べら12は、その端に「鋸カット」とも呼ばれる凹所28を有する匙形のべらヘッド27を有する。凹所28の深さおよび位置の寸法は、閉じたべらの凹所28がフック11の先端29をカバーするような大きさである。
【0030】
べら12の特色は、王冠状の摩耗する或いは滑る面31を有するその摩耗部分または摺動部分30である。べら幹とつながる形で、摺動部分30は、突起のように、ほぼ放射状に、ピン26の方へ、そして、べらヘッド27から離れて伸びる。凹所28に隣接した側に、好ましくは王冠状の滑り面31が用意され、その表面は、特に、ランナ18の滑り面19と滑り接触する。前記滑り面の湾曲のため、べら型針9の経年変化により発生する滑り面31上のいかなる摩耗によっても鋭角な角は生ぜず、したがってべら型針9を動作不能にするようなことはない。
【0031】
これまでに記載された編成装置1は、以下の通りに作動する。
【0032】
図1は、編成作業を示す。2つの異なるグループのべら型針9および10は、編成シリンダの回転の間、カム曲線13、14の動作のため異なって動かされる。動作は、図1の曲線15、16により示される。最初に編み針9が送り出されて、フック11が曲線15上を動く。順々に、各編み針は、べら型針9l、9k、9j他乃至9hの針位置を取る。最初に、図1の右部分に示されているように、他のグループの針10は送り出された状態のままに留まらない。それらは、編み地17を押さえるか下方に保持する。それらが送り出されるにつれ、べらおよびフックの内側は開かれる。べらの旋回範囲は、空き領域22´によって定められる。送り出し動作の間、べら型針10は、べら型針10h、10g、10f、10e、などの経路をたどる。同時に、べら型針9は、べら型針9h、9g、9f、9cの位置に動く。それによって開いたべらは、ランナ18の滑り面19に沿って摺動する。この結果、他のグループのべら型針10が送り出されると共に、当該べらは開いているまま保持されて、編み地の上昇を防止する。最後に、図1の左側に示すように、すべてのべら型針9および10は、小穴4の上を過ぎて動き、糸5を捕えて、各々新しい編み目を形成するために引きこまれる。曲線15および16は、この区域においては重畳している。
【0033】
本発明の編み機は、ランナ18と関連した編み糸ガイド1を有する。ランナ18は、第2グループの編み針が送り出されている間、送り出された第1グループの編み針のべらを開状態に保持するように設けられる。第1と第2のグループのべら型針9および10の時間差をもった送り出し、および第1グループと第2グループの編み針の交互の配置により、編み針が送り出される際の編み地の上昇は、ホールドダウン/ノックオーバ・シンカの助けなしで防止される。編み糸ガイド1と分離したランナ18がべらを開位置に保持するために使われるので、ランナ18の位置は編み糸ガイドの位置から独立して最適に調整されうる。
【符号の説明】
【0034】
1 編み糸ガイド
2 保持脚
3 部分
4 小穴(給糸口)
5 糸
6 滑り面
7 針溝
8 編成シリンダ
9a―9l べら型針(奇数)
10a―10k べら型針(偶数)
11 フック(針頭)
12 べら
13、14 カム曲線
15、16 曲線
17 編み地
18 ランナ
19 滑り面
20 端
21 ブラケット
22、22´ 空き領域
23、24 細長い穴
25 べら溝
26 ピン
27 べらヘッド
28 凹所
29 先端
30 摺動部分
31 滑り面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
べら型針(9、10)のための針溝を有する編成シリンダ(8)と、
編成サイトに給糸するための小穴(4)を有する編み糸ガイド(1)と、
該べら型針(9、10)のべらのための滑り面(19)を有するランナ(18)と、
からなる丸編機。
【請求項2】
前記編み糸ガイド(1)と前記ランナ(18)との間に空き領域(22、22´)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項3】
前記編み糸ガイド(1)は前記べら型針(9、10)のべらのための少なくとも一つの滑り面(6)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項4】
前記べら型針(9、10)が異なって動かされる2つのグループに属するよう、前記べら型針(9、10)は前記編み機のカム機構ハウジングの異なる案内経路(13、14)に関連している
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項5】
第1のグループの前記べら型針(9)は第2のグループの前記べら型針(10)と交互に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項6】
前記ランナ(18)は前記編み糸ガイド(1)の凹所に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項7】
前記ランナ(18)は前記編み糸ガイド(1)に接続される
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項8】
前記ランナ(18)は長手方向に移動可能なように支持される
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項9】
前記ランナ(18)は垂直方向に移動可能なように支持される
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項10】
前記ランナ(18)は前記空き領域(22、22´)を橋渡しし、そこから遠ざかるように曲げられた把持具(21)で支えられる
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。
【請求項11】
前記ランナ(18)は前記編成カム機構で支えられ、それにより前記カム機構の曲線(13、14)が前記べら型針(9、10)を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の丸編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−156095(P2010−156095A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−281034(P2009−281034)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(598132646)グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト (77)
【Fターム(参考)】