説明

ボラジン化合物用装置の洗浄方法、ボラジン化合物保存用容器、およびボラジン化合物の保存方法

【課題】ボラジン化合物用装置の洗浄方法において、洗浄度をより一層向上させうる手段を提供する。
【解決手段】ボラジン化合物用装置の洗浄方法であって、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して周波数100kHz以下の第1超音波を照射する第1照射段階と、前記被洗浄部位に対して周波数100kHz超の第2超音波を照射する第2照射段階とを含む、洗浄方法により、上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物に関する。ボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。本発明は特に、ボラジン化合物の保存技術に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられうる、新たな低誘電率材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率を示す。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【0005】
従来、ボラジン化合物はフラスコ等を反応容器として用い、実験室レベルで少量合成されるのみであった。一方、ボラジン化合物の有用性に鑑み、今後の大量生産を念頭に置くと、スケールアップされたより大きな反応容器中で大量に合成する必要が生じることは明らかである。
【0006】
ここで、工場などの大規模プラントなどにおいてボラジン化合物を大量に合成する場合を考えると、ボラジン化合物と接触しうる装置(例えば、反応装置と精製装置とを連結する配管や、精製装置からボラジン化合物を取り出すための配管など)にボラジン化合物およびその他の不純物が付着することが予想される。また、長期間に亘ってボラジン化合物を合成すると、配管が腐食し、溶出した金属等が微粒子として付着物中に混入することも予想される。そして、かような付着物を放置したままボラジン化合物の合成を続けると、生成物であるボラジン化合物中に不純物が混入し、純度低下などの品質低下をもたらす虞がある。LSI中の層間絶縁膜のような半導体分野において、材料に不純物が存在すると半導体素子等の特性に悪影響を与えるため、極めて純度の高い品質が要求される。従って、大規模プラントなどにおいてボラジン化合物を大量に合成する際には、定期的にプラントの運転を停止し、装置を開放して洗浄する必要があると考えられる。
【0007】
さらに、ボラジン化合物も他の化合物と同様、保存用容器に充填された状態で貯蔵され、または輸送される。貯蔵・輸送の後、ボラジン化合物を使用する際にはボラジン化合物は保存用容器から抜き出される。そして、抜き出し後の容器は洗浄されて、次回の使用に供される。この洗浄が不十分であると、次回の使用時に充填されるボラジン化合物の純度低下などの品質低下がもたらされる虞がある。
【0008】
従来、化合物の合成装置を洗浄する手段として、例えば、有機化合物を三酸化硫黄ガスでスルホン化または硫酸エステル化する装置に付着した汚れを、高級アルコール類によって洗浄すると有効であることが開示されている(特許文献2を参照)。なお、当該特許文献2において、高級アルコールとしては、アルキル平均炭素鎖長6〜18の高級アルコール(具体的には、ラウリルアルコールやミリスチルアルコールなど)やそのエチレンオキサイド付加物などが例示されている。
【0009】
一方、被洗浄物を超音波により洗浄する技術が多数知られている。例えば、特許文献3には、周波数が異なる(例えば、1、2、3MHz)複数個の超音波振動子が装着されたマルチ高周波数洗浄装置が開示されている。当該技術によれば、被洗浄物に付着した粒径の異なるパーティクルが効率よく洗浄されうる、としている。
【0010】
また、特許文献4には、半導体基板等の洗浄に用いられうる超音波洗浄方法として、水等の分散媒中に微粒子状に分散されたシリコーン等の液体または粒子等の粘弾性物質からなる媒体中で超音波洗浄する技術が開示されている。当該技術によれば、被洗浄物に損傷を与えることなく塵やパーティクルが効果的に除去されうる、としている。なお、特許文献4では、用いられる超音波の周波数の好ましい範囲は20kHz〜3MHzとされている。また、周波数の異なる複数の超音波を洗浄に用いる旨の開示や示唆は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2000−129293号公報
【特許文献3】特開平8−224555号公報
【特許文献4】特開2001−179196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、従来の超音波洗浄技術によって、ボラジン化合物用装置を洗浄することを試みた。しかしながら、従来の技術を利用してボラジン化合物用装置を洗浄しても、十分には洗浄されないことを見出した。
【0013】
そこで本発明は、ボラジン化合物用装置の洗浄方法において、洗浄度をより一層向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、従来の技術によって洗浄したボラジン化合物用装置に残存する不純物の起源を鋭意探索した。その結果、ボラジン化合物の加水分解に起因する化合物が、洗浄後にも不純物として容器中に残存していることを見出した。そして、このように残存した不純物は、当該装置の次回の使用時に当該装置と接触するボラジン化合物中にパーティクルとして含まれることとなり、ボラジン化合物の純度低下やボラジン化合物を用いて作製される層間絶縁膜や半導体装置の特性を著しく低下させることをも見出したのである。
【0015】
その上で、本発明者らは、上述したようなボラジン化合物の加水分解に起因する化合物の残存を抑制しうる手段を鋭意探索した。その結果、比較的小さい周波数を有する超音波と、比較的大きい周波数を有する超音波とを、ボラジン化合物保存用容器の被洗浄部位に照射することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の一形態は、ボラジン化合物用装置の洗浄方法であって、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して周波数100kHz以下の第1超音波を照射する第1照射段階と、前記被洗浄部位に対して周波数100kHz超の第2超音波を照射する第2照射段階とを含む、洗浄方法である。
【0017】
本発明の他の形態は、上述の洗浄方法により洗浄されたボラジン化合物保存用容器である。
【0018】
本発明のさらに他の形態は、上述のボラジン化合物保存用容器を用いてボラジン化合物を保存する段階を含む、ボラジン化合物の保存方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ボラジン化合物の加水分解に起因する化合物の残存が抑制されうる。その結果、洗浄度がより一層向上したボラジン化合物用装置の洗浄方法が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態を説明する。
【0021】
本発明の一形態は、ボラジン化合物用装置の洗浄方法であって、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して周波数100kHz以下の超音波(本明細書中、「第1超音波」とも称する)を照射する段階(本明細書中、「第1照射段階」とも称する)と、前記被洗浄部位に対して周波数100kHz超の超音波(本明細書中、「第2超音波」とも称する)を照射する段階(本明細書中、「第2照射段階」とも称する)とを含む、洗浄方法である。
【0022】
まず、「ボラジン化合物」および「ボラジン化合物用装置」について、説明する。
【0023】
「ボラジン化合物」とは、ボラジン環骨格を有する化合物を意味し、例えば下記化学式1で表される。
【0024】
【化1】

【0025】
式中、各Rおよび各Rは、それぞれ同一であってもよいし異なってもよく、水素原子または有機基である。有機基としては、例えば、炭素数1〜20個(好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個)の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数3〜20個(好ましくは3〜8個、より好ましくは4〜7個、さらに好ましくは5〜6個)のシクロアルキル基、炭素数6〜20個(好ましくは6〜8個、より好ましくは6〜7個、さらに好ましくは6個)のアリール基、炭素数7〜20個(好ましくは7〜8個、より好ましくは7個)のアラルキル基、炭素数1〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアシル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルケニル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルキニル基などが挙げられる。なお、これらの有機基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などで置換されていてもよい。
【0026】
やRを構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基などが挙げられる。また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−もしくはp−トリル基、2,3−もしくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基などが挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基などが挙げられる。これらのうち、RおよびRはそれぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、アルキル基またはシクロアルキル基であることが特に好ましい。なお、これら以外の基がRやRとして用いられてもよい。ここで、Rがすべて水素原子である場合のボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。また、Rがアルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、B,B’,B”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、B,B’,B”−トリシクロヘキシルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−エチルボラジン、B,B’−ジエチル−B”−メチルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−プロピルボラジンなどが挙げられる。さらに、RまたはRの少なくとも1つがアラルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリベンジルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−ベンジルボラジン、B,B’,B”−トリトリベンジルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−ベンジルボラジン、N,N’,N”−トリベンジル−B,B’,B”−トリベンジルボラジンなどが挙げられる。また、RまたはRの少なくとも1つがアリール基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリフェニルボラジン、N,N’,N”−トリトリルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−フェニルボラジン、B,B’,B”−トリフェニルボラジン、B,B’,B”−トリトリルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−フェニルボラジン、N,N’,N”−トリフェニル−B,B’,B”−トリフェニルボラジンなどが挙げられる。なお、ボラジン化合物の耐水性等の化学的安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、3つのRのうち、少なくとも1つが有機基である(水素原子でない)ボラジン(N−置換ボラジン)であることが好ましく、3つのRのすべてが有機基である(水素原子でない)ボラジン(すなわち、ボラジン環骨格の3つの窒素原子のすべてに有機基が結合したボラジン)であることがより好ましい。
【0027】
また、N−置換ボラジンのなかでも、液状化合物であることから取扱い性にも優れ、かつ耐水性にも優れるという観点から、ボラジン化合物は、Rの少なくとも1つがアルキル基である、N−アルキルボラジンであることがさらに好ましく、3つのR1のすべてがアルキル基であるN,N’,N”−トリアルキルボラジン(「N−トリアルキルボラジン」とも称する)であることが特に好ましい。
【0028】
また、ボラジン化合物は、ボラジン環骨格の窒素原子およびホウ素原子の双方がアルキ
ル基で置換された(すなわち、RおよびRの双方がアルキル基である)、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリエチル−N,N’,N”−トリメチルボラジンなどのヘキサアルキルボラジン化合物であってもよい。
【0029】
なお、ボラジン化合物の合成方法により本発明の技術的範囲が限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ここで、上記の化学式1で表されるボラジン化合物のうち、N−トリアルキルボラジンの好ましい合成方法の一例を挙げると、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは上記と同様の定義であり、Xがハロゲン原子でありnが1であるか、または、Xが硫酸基でありnが2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させる手法が例示される。
【0030】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0031】
アミン塩((RNHX)において、Rは上記と同様の定義であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。nが2である場合、Rは、同一であっても異なっていてもよいことは上述した通りである。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。なお、アルキル基およびシクロアルキル基の具体的な形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0032】
アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)が挙げられる。
【0033】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0034】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0035】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0036】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0037】
一方、ヘキサアルキルボラジンは、出発物質としてB,B’,B”−トリクロロ−N,N’,N”−トリアルキルボラジンなどのハロゲン化ボラジン化合物を原料として、グリニャール試薬を用いて当該化合物の塩素原子をアルキル基で置換することによって合成されうる(D.T.HOWORTH and L.F.HOHNSTEDT,J.Am.Chem.Soc.,82,3860(1960)を参照)。
【0038】
合成装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を合成するのであれば、工業的規模の合成装置が用いられうる。
【0039】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0040】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。
【0041】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0042】
さらに、得られたボラジン化合物の純度を向上させることを目的として、濾過処理などの追加的な処理が施されてもよい。
【0043】
「ボラジン化合物用装置」とは、ボラジン化合物の合成や保存などの工業的な一連のすべての段階において、ボラジン化合物と接触しうるすべての装置を意味する。例えば、以上の説明において例示したボラジン化合物の合成方法において、ボラジン化合物は、合成装置や蒸留精製装置と接触しうる。また、濾過処理が施される場合には、濾過装置にもまた、ボラジン化合物は接触しうる。さらに、これらの各装置どうしの間をボラジン化合物が流通しうるように各装置間を接続する配管にも、ボラジン化合物は接触しうる。従って、これらの合成装置、蒸留精製装置、濾過装置、配管などはすべて、「ボラジン化合物用装置」の概念に包含される。
【0044】
ただし、ボラジン化合物用装置の形態はこれらのみに限定されない。通常、工業的に合成されたボラジン化合物は、ボラジン化合物保存用容器に充填され、密封状態で保存される。そして、必要に応じ、ボラジン化合物は当該容器に充填された状態で輸送され、輸送先において当該容器から抜き出されて、半導体用層間絶縁膜の形成などの目的に使用される。ここで、使用済みのボラジン化合物保存用容器においても同様に、合成装置やその配管などにおける問題が生じうる。すなわち、容器中に充填されたボラジン化合物をその使用時に当該容器から完全に抜き出すことはほとんど不可能であるから、一定の割合のボラジン化合物は当該容器中に残存せざるを得ない。そして、容器中に残存したボラジン化合物は、空気中の水分との接触によりN−B結合が加水分解され、分解物(例えば、メチルアミンおよびホウ酸)が不純物として生成してしまう。従って、もともと充填されていたボラジン化合物の純度が極めて高かったとしても、使用済みのボラジン化合物保存用容器を回収する間に不純物が混入してしまうのはやむを得ない。そして、このように回収時に不純物が混入してしまった使用済みのボラジン化合物保存用容器を従来公知の手法を用いて洗浄しても、十分な洗浄を達成することは困難である。その結果、次回に充填されるボラジン化合物中にこれらの不純物が混入してしまい、ボラジン化合物の純度低下などの問題が生じる虞がある。
【0045】
これに対し、かような使用済みのボラジン化合物保存用容器を本発明の手法により洗浄すると、次回に充填されるボラジン化合物への不純物の混入が最小限に抑制され、充填されるボラジン化合物の純度低下といった問題の発生が防止されうる。従って、本発明における「ボラジン化合物用装置」の概念には、「ボラジン化合物保存用容器」もまた、包含されうる。
【0046】
上述したように、本発明の洗浄方法では、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して、第1超音波を照射する段階(第1照射段階)と、第2超音波を照射する段階(第2照射段階)とを含む点に特徴を有する。したがって、これら以外の形態については、特に制限されることはない。以下、超音波を照射する段階について、第1照射段階および第2照射段階の順に詳細に説明する。
【0047】
[第1照射段階]
第1照射段階では、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して、周波数100kHz以下の超音波(第1超音波)を照射する。第1超音波の周波数は100kHz以下であればよいが、好ましくは20〜100kHzであり、より好ましくは20〜80kHzであり、さらに好ましくは25〜60kHzである。かような範囲の周波数を有する第1超音波を第1照射段階において照射することで、ボラジン化合物が分解して生成する無機塩やポリマーなどの、装置に付着した固形物を効率的に除去することができる。第1照射段階において、第1超音波の照射時間は特に制限されない。一例を挙げると、1〜120分間程度であり、好ましくは5〜60分間であり、さらに好ましくは5〜30分間である。なお、第1照射段階において、第1超音波の照射は、連続的に1回のみ行なわれてもよいし、間欠的(断続的)に行なわれてもよい。照射が間欠的に行なわれる場合、上述した「照射時間」とは、すべての照射時間の合計の値を意味する。
【0048】
本段階において第1超音波を照射する際、被洗浄物は洗浄液によって洗浄されている状態であってもよい。かような形態としては、例えば、浸漬洗浄(被洗浄物の洗浄部位を洗浄液に浸漬させる形態)やスプレー洗浄(被洗浄物に洗浄液を噴霧する形態)などが挙げられる。特に、超音波洗浄による洗浄効果をより一層効果的に発現させるという観点からは、浸漬洗浄が好ましく採用されうる。なお、浸漬洗浄としては、a)被洗浄物の全体を洗浄液に浸漬させた状態で超音波照射を行なう形態や、b)被洗浄物の少なくとも洗浄したい部位が洗浄液に浸かるように、被洗浄物を洗浄液に接触させた状態(例えば、被洗浄物に洗浄液を充填した状態)で超音波照射を行なう形態などが好ましく採用されうる。
【0049】
上述したa)およびb)のいずれの場合においても、超音波照射の形態としては、後述するように、超音波振動子(通常は棒状である)を洗浄液に接触(浸漬)させて行なう形態や、超音波振動子を内蔵する超音波洗浄装置の洗浄槽の壁面から超音波を照射する形態などが好ましく採用されうる。ここで、被洗浄物が比較的小さな容器や細い管状の部材である場合には、上述したa)およびb)の双方が好ましく採用され、より好ましくはa)が採用される。一方、固定されている装置や反応釜を被洗浄物とする場合には、上述したb)の形態が好ましく採用されうる。
【0050】
本段階において、ボラジン化合物用装置を洗浄する際の洗浄液の温度は特に制限されないが、好ましくは0〜70℃であり、より好ましくは0〜50℃であり、さらに好ましくは10〜30℃である。かような範囲内の温度の洗浄液を用いて洗浄を行うことで、優れた洗浄効率が達成されうる。
【0051】
この際に用いられうる洗浄液についても特に制限はない。洗浄液の一例としては、水(好ましくは純水、特に好ましくは超純水)が挙げられる。また、場合によっては、有機化合物が洗浄液として用いられてもよい。洗浄液として用いられる有機化合物は、疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。洗浄液として用いられうる疎水性有機化合物としては、例えば、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;酢酸エチルなどの脂肪族エステル等が挙げられる。また、洗浄液として用いられうる親水性有機化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級脂肪族アルコール;アセトンなどの脂肪族ケトン;ジオキサン、テトラヒドロフラン、メトキシ(ポリ)エチレングリコールなどのエーテル化合物;ε−カプロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、2−ブテン1,4−ジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサノール、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの多価アルコール化合物等が挙げられる。上述した洗浄液は、1種のみが単独で洗浄に用いられてもよいし、2種以上が混合されて洗浄に用いられてもよい。なかでも、好ましくは水が、より好ましくは純水が、特に好ましくは超純水が、洗浄液として用いられる。
【0052】
洗浄液として用いられる水の純度を電気伝導率により規定すると、洗浄液として用いられる水は、25℃における電気伝導率が好ましくは1μS/cm以下であり、より好ましくは0.5μS/cm以下であり、さらに好ましくは0.1μS/cm以下であり、特に好ましくは0.06μS/cm以下である。かような形態の水は不純物含有量が極めて少ない。従って、かような水を洗浄液として用いることにより、洗浄効果をより一層向上させることが可能となる。ここで、純度の高い水を洗浄に用いるという観点からは、用いられる水の電気伝導率の下限値は特に限定されず、低いほどよいが、入手の困難性などを考慮すると、当該電気伝導率は0.056μS/cm以上であれば十分である場合も多い。なお、「25℃における水の電気伝導率」の値は、例えば、超純水製造装置に内蔵された電気伝導率計の指示値として測定されうる。
【0053】
上述した所定の電気伝導率を示す水の入手経路は、特に制限されない。かような水が商品として市販されている場合には、当該商品を購入することにより用いてもよいし、市販されている装置を用いて低純度の水の純度を向上させてもよい。
【0054】
本段階において洗浄のために用いられる水は電気伝導率が上述した範囲内の値を示すことが好ましいが、より好ましい形態においては、含まれる粒子の含量もまた規定される。すなわち、当該形態においては、本工程において用いられる水における0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量が100個/mL以下であり、より好ましくは50個/mL以下であり、さらに好ましくは10個/mL以下である。かような形態の水を洗浄液として用いることにより、洗浄効果をより一層向上させることが可能となる。ここで、純度の高い水を洗浄に用いるという観点からは、用いられる水における前記粒子の含量の下限値は特に限定されず、低いほどよい。なお、本明細書において、「水における0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量」の値は、例えば、レーザー光散乱を利用した液中パーティクルカウンター(パーティクル メジャリング システムズ インコーポレイテッド(PMS)社製:LIQUILAZ−S02/LS−200)などによって測定されうる。かような粒子の含量が少ない水の入手経路についても特に制限されない。かような水が商品として市販されている場合には、当該商品を購入することにより用いてもよいし、市販されている装置を用い、例えば濾過などの手段によって粒子含量の低い水を得てもよい。
【0055】
なお、上述した洗浄液は、必要に応じて、界面活性剤や酸・塩基などの添加剤をさらに含んでもよい。界面活性剤の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤や、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤が挙げられる。洗浄液に添加されうる酸・アルカリの具体的な形態についても特に制限はなく、従来公知の形態が適宜採用されうる。用いられうる酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸などが挙げられる。また、用いられうるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0056】
本段階において、被洗浄部位に対して超音波を発生・照射させる手段について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、浸漬洗浄の際に超音波の照射を行なう場合には、洗浄液を満たした洗浄槽の内壁に超音波振動子を取り付け、洗浄槽の外部に設置した超音波発振器からの信号によって、当該超音波振動子から超音波を発生させることにより、洗浄槽の内部に浸漬させた被洗浄装置の被洗浄面に対して超音波を照射することが可能である。また、上述したように、超音波振動子を直接洗浄液に接触させた状態で、超音波を印加する形態も採用されうる。ただし、これらの形態のみには制限されることはなく、本願発明の本質はあくまでも被洗浄面に対して所定の周波数を有する超音波を照射するという点にある。従って、この本質的部分を実施可能である限り、いかなる形態も本願発明の技術的範囲に包含されうる。
【0057】
[第2照射段階]
第2照射段階では、ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して、周波数100kHz超の超音波(第2超音波)を照射する。第2超音波の周波数は100kHz超であればよいが、好ましくは150〜2000kHzであり、より好ましくは400〜1500kHzであり、さらに好ましくは500〜1000kHzであるかような範囲の周波数を有する第2超音波を第2照射段階において照射することで、装置表面の微細な凹凸部に付着した粒子などの不純物を効率よく除去することができる。第2照射段階において、第2超音波の照射時間は特に制限されない。一例を挙げると、1〜120分間程度であり、好ましくは5〜60分間であり、さらに好ましくは5〜30分間である。なお、第2照射段階において、第2超音波の照射は、連続的に1回のみ行なわれてもよいし、間欠的(断続的)に行なわれてもよい。照射が間欠的に行なわれる場合、上述した「照射時間」とは、すべての照射時間の合計の値を意味する。
【0058】
本段階における他の形態(洗浄液、洗浄形態、超音波の発生・照射手段など)については、上述した第1照射段階の欄において説明した形態が同様に採用されうる。従って、ここでは詳細な説明を省略する。
【0059】
[各照射段階の関係]
以上、本発明の必須の工程である第1照射段階および第2照射段階について詳細に説明したが、これらの「第1」や「第2」との接頭辞は、照射される超音波の周波数に基づいて特定の照射段階を命名することを目的として付されたものである。従って、本明細書では、「第1」や「第2」という語自体が、各段階の経時的な序列を表すわけではない。換言すれば、第1照射段階および第2照射段階のそれぞれが実施されるタイミングに特に制限はないのである。
【0060】
各照射段階の実施時期を経時的にみた場合に、例えば、第1照射段階と第2照射段階とを同時に行なってもよいし、これらを異なるタイミングで行なってもよい。ここで、各段階を「同時に行なう」とは、一連の照射プロファイルにおいて、第1照射段階および第2照射段階が同時に行なわれるタイミングが存在することを意味する。従って、各照射段階の開始時点および/または終了時点が一致していない場合であっても、各段階が同時に行なわれるタイミングが存在する限り、各段階を「同時に行なう」形態に含まれることになる。一方、各段階を「異なるタイミングで行なう」とは、一連の照射プロファイルにおいて、第1照射段階が行なわれ、第2照射段階が行なわれないタイミングと、第2照射段階が行なわれ、第1照射段階が行なわれないタイミングとの双方が存在することを意味する。従って、各段階が「異なるタイミングで行なわれる」場合であっても、一連の照射プロファイルの一部には各照射段階が同時に行なわれるタイミングが存在することもありうる。
【0061】
具体的には、第1照射段階を行ない、その終了と同時に、またはその終了後一定時間経過後に、第2照射段階を行なうことができる。同様に、第2照射段階を行ない、その終了と同時に、またはその終了後一定時間経過後に、第1照射段階を行なってもよい。また、各照射段階の開始時点についていえば、例えば第1照射段階を先に開始し、当該第1照射段階を継続しつつ第2照射段階を開始してもよいし、この逆も可能であり、さらには同時に開始してもよい。また、各照射段階の終了時点についても、いずれの段階を先に終了してもよいし、同時に終了してもよい。なお、ここまでは、各照射段階がそれぞれ連続的に1回ずつのみ行なわれる場合を例に挙げて各照射段階の実施のタイミングを説明したが、かような形態のみに制限されないことはもちろんである。例えば、各照射段階が経時的に重複しないように各照射段階を交互に間欠的に行なってもよいし、各照射段階が一定時間重複するように交互に間欠的に行なってもよい。例えば、第1照射段階/第2照射段階/第1照射段階の順や、第2照射段階/第1照射段階/第2照射段階の順に行なってもよい。上述した各種の照射プロファイルのうち、好ましい形態においては、第2照射段階の実施前に第1照射段階のみが行なわれるタイミングが存在し、より好ましい形態においては、さらにその後、第2照射段階のみが行なわれるタイミングが存在する。最も好ましい形態としては、第1照射段階を行ない、その終了と同時に、またはその終了後一定時間経過後に、第2照射段階を行なう形態が挙げられる。また、この際、第2照射段階の終了と同時に、またはその終了後一定時間経過後に、第1照射段階をさらに行なう形態も好ましい。
【0062】
本発明において、第1照射段階および第2照射段階の少なくとも一方(好ましくは双方)は、所定のクリーン度(清浄度クラス)を有するクリーンルーム内において行われることが好ましい。本形態は、ボラジン化合物用装置がボラジン化合物保存用容器である場合に特に好適である。具体的には、本工程は、クラス10000よりも清浄なクリーンルーム内で行われることが好ましい。なお、本明細書において「クリーン度(清浄度クラス)」とは、FED−STD−209D(米国連邦規格、1988年)による値を採用するものとする。当該規格において、「クリーン度(清浄度クラス)」とは、1ftあたりの0.5μm以上の粒径を有する粒子の個数として定義される。従って、例えば「クラス10000よりも清浄なクリーンルーム」とは、雰囲気中の0.5μm以上の粒径を有する粒子の個数が10000個/ft以下のクリーンルームを意味する。なお、本工程は、クラス1000よりも清浄なクリーンルーム内で行われることがより好ましく、クラス100よりも清浄なクリーンルーム内で行われることがさらに好ましい。
【0063】
[任意の段階]
場合によっては、本発明の洗浄方法は、上述した第1照射段階および第2照射段階以外の段階をさらに含んでもよい。かような追加的な段階としては、例えば、前洗浄段階や後洗浄段階、乾燥段階などが挙げられる。
【0064】
前洗浄段階は、超音波を照射する第1照射段階や第2照射段階を実施する前に、超音波の照射に供されるボラジン化合物用装置(被洗浄物)を予め洗浄する段階である。
【0065】
前洗浄段階における具体的な形態に特に制限はなく、ボラジン化合物用装置を洗浄するために従来用いられている手法が同様に用いられうる。例えば、上述した洗浄液を用いて、ボラジン化合物用装置を洗浄すればよい。この際、被洗浄物の形状やサイズに応じて、浸漬洗浄や噴霧洗浄、通液洗浄など、各種の洗浄形態が適宜選択されうる。前洗浄段階における好ましい形態においては、まず、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素などの疎水性有機化合物を用いて装置を洗浄する。これにより、装置に付着したボラジン化合物等の疎水性汚れが洗浄液に溶解し、洗い流される。次いで、2−プロパノール等のアルコールなどの親水性有機化合物を用いて装置を洗浄する。そして最後に、純水や超純水で装置を洗浄するという形態が例示されうる。ただし、前洗浄段階はかような形態のみに制限されるわけではない。
【0066】
前洗浄段階を行なうことで装置がかなりの程度洗浄され、その後に行なわれる超音波の照射段階における洗浄の負担が軽減されうる。その結果、超音波の照射に要する時間や電力といったコストの削減が可能となる。
【0067】
後洗浄段階は、上述した超音波の照射段階を実施した後に、さらに被洗浄物を洗浄する段階である。後洗浄段階では、例えば、純水や超純水(好ましくは超純水)を用いて、被洗浄物(ボラジン化合物用装置)をすすぐ。なお、後洗浄段階についても、かような形態のみに制限されるわけではない。後洗浄段階を行なうことで、以下のような利点が得られる。例えば、照射段階において洗浄槽に遊離した不純物が、洗浄槽からの装置の取り出し時に当該装置に再付着した場合であっても、後洗浄段階を行なうことで、これを洗い流し、洗浄度の低下を防止することが可能となるのである。
【0068】
乾燥段階は、照射段階をも含めたすべての洗浄段階が終了した後に、洗浄されたボラジン化合物用装置を乾燥させる段階である。上述したように、照射段階やその後に行なわれてもよい後洗浄段階では、洗浄液(例えば、水)を用いてボラジン化合物用装置を洗浄するが、この際に用いた水が当該装置に残留していると、次回に当該装置を用いて合成または保存されるボラジン化合物との接触により当該ボラジン化合物が分解してしまう虞がある。かような観点から、本発明においては、照射段階や後洗浄工程において洗浄されたボラジン化合物用装置を乾燥させる乾燥段階をさらに有することが好ましい。
【0069】
乾燥段階に用いられる乾燥手段は特に制限されず、化合物の合成や保存に用いられる装置の洗浄後の乾燥に従来用いられている形態が同様に採用されうる。例えば、乾燥機を用いた乾燥や、ケミカルクリーンレベルの不活性ガス(例えば、窒素など)を噴射することによる乾燥などが例示されうる。
【0070】
以上説明した通り、本発明の洗浄方法によれば、照射段階を経てボラジン化合物用装置の洗浄を行うことで、一旦ボラジン化合物の合成や保存に使用されたボラジン化合物用装置が高度に洗浄されうる。その結果、当該装置を用いて次回に合成または保存されるボラジン化合物への不純物の混入が最小限に抑制され、合成または保存されるボラジン化合物の純度を長期間に亘って高い値に維持しうる。
【0071】
従って、本発明によれば、上述した本発明の洗浄方法により洗浄されたボラジン化合物用装置が提供され、より好ましい形態においては、当該ボラジン化合物用装置はボラジン化合物を保存するためのボラジン化合物保存用容器である。
【0072】
ここで、ボラジン化合物保存用容器のサイズや材質などの形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。実験室レベルで合成された少量のボラジン化合物を保存するためには、小さい保存用容器を用いればよい。また、工業レベルで合成された大量のボラジン化合物を保存するためには、大きい保存用容器を用いればよい。
【0073】
保存用容器の材質については、例えば、ステンレス、ハステロイなどの金属材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂等が採用されうる。なかでも、耐圧圧力が高いという観点からは、容器はステンレスから構成されることが好ましい。また、保存用容器の耐蝕性をより一層向上させる目的で、上記の金属等の材料から構成される容器の内面を樹脂でコーティングするとよい。この際、コーティングに用いられる樹脂は特に制限されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂やポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂が例示される。なかでも、耐蝕性の向上効果が優れるという観点からは、PTFEを用いてコーティングすることが好ましい。ここで、樹脂コーティングのコーティング厚さについては特に制限はないが、好ましくは10〜3000μmであり、より好ましくは500〜1000μmである。
【0074】
さらに、保存用容器は密封可能であることが好ましく、容器を密封可能とする手段としては、例えば、容器の一部にバルブを設ける形態が例示される。
【0075】
本発明の洗浄方法により洗浄されたボラジン化合物用装置は、極めて高度に洗浄されている。この清浄の程度は、例えば、以下のパラメータにより規定されうる。すなわち、本発明により提供される(好ましくは、本発明の洗浄方法により洗浄された)ボラジン化合物用装置(例えば、ボラジン化合物保存用容器)は、25℃における電気伝導率が1μS/cm以下である水を充填して1時間放置した場合に、1時間放置後の水1mLあたりにおける0.2μm以上のサイズのパーティクル数が好ましくは100個以下であり、より好ましくは50個以下であり、さらに好ましくは30個以下である。ここで、0.2μm以上のサイズのパーティクル数の値は、例えば、上述したパーティクルカウンターを用いて測定されうる。なお、ボラジン化合物用装置のうち、ボラジン化合物保存用容器のような密封可能な装置については、装置に水を充填した後に当該装置を密封して上述した種々のパラメータを測定すればよいが、密封が困難な装置(例えば配管等)については、同等の清浄度を有する2つの密封可能な容器を準備してその双方に同量の水を充填し、2つの装置の一方に上記のパラメータの測定を希望する装置を浸漬させて上記のパラメータを測定し、他方の容器に充填された水における上記のパラメータをコントロール(比較対照)として、当該配管におけるパラメータ値とすればよい。
【0076】
さらに、本発明により提供される(好ましくは、本発明の洗浄方法により洗浄された)ボラジン化合物用装置がボラジン化合物保存用容器である場合には、当該容器を洗浄後に充分に乾燥させた後、当該容器にボラジン化合物を充填してボラジン化合物を保存すると、極めて純度低下が小さい値に制御されうる。この程度は、例えば、以下のパラメータにより規定されうる。すなわち、本発明により提供されるボラジン化合物保存用容器に、ボラジン化合物を25℃にて保存し、30日間経過した後において、当該ボラジン化合物の純度低下は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、「ボラジン化合物の純度低下が0.5質量%である」とは、例えば保存開始時のボラジン化合物の純度が99.8質量%である場合には、25℃にて60日間保存後のボラジン化合物の純度が99.3質量%であることを意味する。つまり、「純度低下」とは、保存前後の相対値ではなく、ボラジン化合物の絶対純度の低下を意味する。なお、ボラジン化合物の純度の値は、例えば、ガスクロマトグラフィを用いて測定されうる。測定条件の一例は以下の通りである。
【0077】
装置:株式会社島津製作所製 GC−14B
カラム:株式会社日立サイエンスシステムズ Ultra Alloy(8H)
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:3.0mL/分
試料注入温度:300℃
検出器温度:300℃
試料注入量:0.2μL
カラム温度:50℃(5分)→20℃/分の昇温速度で250℃まで昇温
→10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温→300℃(10分)。
【実施例】
【0078】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明の洗浄方法の作用効果をより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の形態によって制限を受けることはない。
【0079】
[実施例]
まず、ボラジン化合物保存用容器として、SUS316製の容器(内容積:2L、容器本体・配管(バルブを含む)・フランジ部を備える)を準備した。そして、準備した容器に、ボラジン化合物であるN,N’,N”−トリメチルボラジン(TMB)を充填した。
【0080】
(前洗浄段階)
まず、容器中に充填されているTMBを、可能な限り、容器本体から抜き出した。
【0081】
次いで、疎水性有機化合物であるn−ヘキサン約100mLを容器内に入れ、容器本体の内面および配管の内部を洗浄した。この操作を合計3回繰り返した。
【0082】
続いて、親水性有機化合物である2−プロパノール約100mLを容器内に入れ、容器本体の内面および配管の内部を洗浄した。この操作を合計3回繰り返した。
【0083】
その後、超純水を用いて容器本体の内部およびフランジ部分をかけ洗いし(100mL×10回)、バルブおよび配管の内部については超純水を用いて通水洗い(10分間)することにより、洗浄を行なった。なお、超純水は、超純水製造装置(日本ミリポア株式会社製:Milli−Q Element A−10)により製造されたものである。この超純水は、超純水製造装置に内蔵された電気伝導率計によれば、25℃にて0.055μS/cmの電気伝導率を示した。また、0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量を測定したところ、10個/mLであった。なお、0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量の測定には、レーザー光散乱を利用した液中パーティクルカウンター(パーティクル メジャリング システムズ インコーポレイテッド(PMS)社製:LIQUILAZ−S02/LS−200)を用いた。
【0084】
(照射段階)
上記の前洗浄段階において洗浄した容器を、超音波振動子を設置し超純水(約60L)を満たした洗浄槽に浸漬させた。その後、超音波発振器(ブランソン製:S8540−24)から超音波振動子を介して40kHzの周波数の超音波(第1超音波)を発生させ、洗浄槽中の超純水に対して6分間印加した。次いで、10分後に、超音波発振器(ブランソン製:MegaCoustic BG6909)から超音波振動子を介して950kHzの周波数の超音波(第2超音波)を発生させ、洗浄槽中の超純水に対して6分間印加した。
【0085】
その後、洗浄槽より容器を取り出し、超純水を用いてすすぎ洗いを行なった。
【0086】
[比較例1]
第2超音波の印加を行なわず、第1超音波の印加を12分間行なったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、容器の洗浄を行なった。
【0087】
[比較例2]
第1超音波の印加を行なわず、第2超音波の印加を12分間行なったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、容器の洗浄を行なった。
【0088】
[比較例3]
40kHz(6分間)(第1超音波)−950kHz(6分間)(第2超音波)のパターンに代えて、25kHz(ブランソン製:S8525−24)(6分間)−40kHz(ブランソン製:S8540−24)(6分間)のパターンで超音波の印加を行なったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、容器の洗浄を行なった。
【0089】
[比較例4]
40kHz(6分間)(第1超音波)−950kHz(6分間)(第2超音波)のパターンに代えて、750kHz(ブランソン製:MegaCoustic BG8709)(6分間)−950kHz(ブランソン製:MegaCoustic BG6909)(6分間)のパターンで超音波の印加を行なったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、容器の洗浄を行なった。
【0090】
[容器の洗浄度評価]
上記の実施例または比較例で洗浄した容器の容器本体の内部に超純水を充填し、1時間静置した。その後、充填した超純水中の0.2μm以上のサイズのパーティクル数を測定することにより、洗浄度を評価した。なお、パーティクル数の測定は、液中パーティクルカウンター(パーティクル メジャリング システムズ インコーポレイテッド(PMS)社製:LIQUILAZ−S02/LS−200)を用いて行なった。洗浄度の評価結果を下記の表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示す結果から、本発明の洗浄方法によれば、比較的小さい周波数を有する超音波(第1超音波)と、比較的大きい周波数を有する超音波(第2超音波)とを用いてボラジン化合物保存用容器を洗浄することで、洗浄後に残存するパーティクル数を低減させうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボラジン化合物用装置の洗浄方法であって、
ボラジン化合物用装置の被洗浄部位に対して周波数100kHz以下の第1超音波を照射する第1照射段階と、
前記被洗浄部位に対して周波数100kHz超の第2超音波を照射する第2照射段階とを含む、洗浄方法。
【請求項2】
前記第1照射段階と前記第2照射段階とを異なるタイミングで行なう、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記第1照射段階を行ない、その終了と同時に、またはその終了後一定時間経過後に、前記第2照射段階を行なう、請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記第1照射段階と前記第2照射段階とを同時に行なう、請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記第1超音波の周波数が20〜100kHzである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記第2超音波の周波数が150〜2000kHzである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
ボラジン化合物用装置がボラジン化合物保存用容器である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
請求項7に記載の洗浄方法により洗浄されたボラジン化合物保存用容器。
【請求項9】
請求項8に記載のボラジン化合物保存用容器を用いてボラジン化合物を保存する段階を含む、ボラジン化合物の保存方法。

【公開番号】特開2010−180176(P2010−180176A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26592(P2009−26592)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】