説明

ボルト締付力検査装置

【課題】
ボルトの頭部若しくはナットに作用する圧縮応力の変化による透磁率の変化を電磁的に計測することで、ボルト軸部と被締結体との接触状態等の個別環境の違いによる測定誤差や外部振動ノイズの影響を排除し、締付力を正確且つ簡単に測定できるボルト締付力検査装置を提供する。
【解決手段】
被締結体4に締付力を伝達するボルト2頭部若しくはナット3の外周部に、軸方向と直交するように巻回した励磁コイル8と検出コイル6,7とを同芯状に配置し、両コイルとを取り囲みボルト頭部若しくはナットとでポロイダル方向の磁気回路を形成するように環状ヨーク5を配置し、励磁コイルに供給した交流電流又はパルス電流によってボルト頭部若しくはナットの側面部を略軸方向に磁化し、該側面部の透磁率の大きさに応じて検出コイルに誘起する誘導電流を計測し、ボルト軸部の締付力を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締付力検査装置に係わり、更に詳しくはボルトの頭部又はナットに装着するだけでボルトの締付力を検査することが可能なボルト締付力検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のハンマー打撃法に代わり、ボルト頭部に超音波発生器から振動を与え、超音波がボルト軸端で反射する時間から締付力を計測する手法や電磁的にボルト頭部に超音波振動を与え、振動数の変化から締付力を測定する手法等、いくつかの試みはある。
【0003】
ボルト頭部に一定方向の外部磁界を作用させながら交流励振用コイルにより渦電流を発生させることにより、外部磁界と渦電流との相互作用によりボルト内部に交流励振用コイルの周波数に応じた振動が発生すること、そしてボルトの締付力に応じて振動数が変化することが知られている。そこで、交流励振用コイルの周波数を変化させ、ボルトに発生した振動数を測定し、その共振周波数を測定することで、ボルトの締付力を非破壊的に検査するボルト締付力検査装置が開発されてきた。例えば特許文献1に開示された検査装置がある。この公報記載のボルト締付力検査装置は、ボルト頭部や他端部を納める空間部を備え、この空間部の半径方向外周に励振コイルを配設するとともに、前記励振コイルの外周に、複数の永久磁石を環状配列した環状永久磁石を配設して構成される振動生成体と、この振動生成体に振動緩和材を介して連結し且つ前記空間部に突出する振動伝達棒と接続した振動検出器を中心軸に配設して構成される検出体とを備えたものである。更に、このボルト締付力検査装置は、前記励振コイルに周波数が連続的に繰り返し変わる励振電流を供給する励振回路と、前記振動伝達棒からの縦振動を検出する振動検出回路と、この振動検出回路の出力信号に基づきボルトの固有振動数即ち共振周波数を検出する共振検出回路とを備えた制御装置とを備えている。
【0004】
また、特許文献2には、軸心に貫通孔を有し、該貫通孔の半径方向外周において、軸方向に互いに相反する磁極を有する環状磁石と励振コイルとを同軸状に配設して構成される振動生成体と、前記振動生成体にボルト頭部が当接したとき前記貫通孔を通して突出してボルト頭部に一端を当接する振動伝達棒と、該振動伝達棒の他端に接続した振動検出器とを有する振動検出体と、を備えるとともに、前記励振コイルに段階的に周波数の変動するパルス電流を供給する励振回路と、前記振動検出器において前記振動伝達棒の縦振動を検出して出力される発振信号をデジタル信号に変換するA−D変換器と、該A−D変換器の出力信号に基づき共振周波数を算出する演算部とからなる制御装置を備えたボルト締付力検査装置を提供している。
【0005】
このようなボルト締付力検査装置により、以下のようにボルトの締付力が測定される。先ず、ボルトの頭部に振動伝達棒の先端が当接した状態で、励振コイルに所定の周波数を有する励振電流を供給すると、ボルト頭部に電磁誘導起電力による渦電流が流れ、この渦電流とボルト頭部に形成された環状永久磁石がつくる外部磁界との相互作用により、ボルトが励振電流の周波数に対応して縦振動する。この縦振動の周波数が、ボルトの軸部の張力に対応した固有振動数と一致するときボルトは固有振動数で振動し、その共振周波数が制御装置において検出され、検出された共振周波数に相当するボルト締付力(ボルト軸力)が算出される。このボルト締付力検査装置は、電磁的にボルトに直接振動を発生させるので、従来の超音波を外部から導入する方式のものに比べて、前処理が不要、取扱いが簡単といった利点がある。また、振動生成体と振動検出体が分離しているので、振動ノイズに対しても強いといった特長がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2998725号公報
【特許文献2】特許第3172722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のボルト締付力検査装置は、ボルトの頭部に電磁的手段で振動を与え、ボルトの軸部の固有振動を、振動伝達棒を介して機械的に拾うものであるので、ボルトの軸部が被締結体に接触していると、正確な固有振動数を検出することができず、またボルトで締め付けられる被締付体に機械的な振動ノイズが伝達されていると、その振動ノイズがボルトの頭部に伝達されるので、弱い検出信号が不可避の振動ノイズに埋もれて検出できないという課題がある。
【0008】
ところで、鉄鋼、ニッケルなどの強磁性体を磁化したとき、その寸法が変化する現象が磁気ひずみ効果として知られている。この材料に応力を加えると、逆効果によって透磁率が変化する。この透磁率の変化から応力を測定する方法が、磁気ひずみ応力測定法として良く知られており、主応力差が測定されるのである。しかし、この磁気ひずみ応力測定法が、ボルト締付力の測定に用いられたことはなかった。
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ボルト軸部に締付力が作用すると、ボルトの頭部若しくはナットに部分的に圧縮応力が作用する現象を利用し、この圧縮応力の変化による透磁率の変化を電磁的に計測することで、ボルト軸部と被締結体との接触状態等の個別環境の違いによる測定誤差や外部からの振動ノイズの影響を排除し、ボルト締付力を正確且つ簡単に測定することが可能なボルト締付力検査装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の課題解決のために、被締結体に締付力を伝達するボルト頭部若しくはナットの外周部に、ボルト軸部の軸方向と直交するように巻回した励磁コイルと検出コイルとを同芯状に配置するとともに、該励磁コイルと検出コイルとを取り囲み前記ボルト頭部若しくはナットとでポロイダル方向の磁気回路を形成するように環状ヨークを配置し、前記励磁コイルに供給した交流電流又はパルス電流によって前記ボルト頭部若しくはナットの側面部を略軸方向に磁化し、該側面部の透磁率の大きさに応じて前記検出コイルに誘起する誘導電流を計測し、ボルト軸部の締付力を測定することを特徴とするボルト締付力検査装置を構成した(請求項1)。
【0011】
具体的には、前記検出コイルは独立した第1検出コイルと第2検出コイルとからなり、前記ボルト頭部若しくはナットの外周部で、被締結体とは反対側の先端部に第1検出コイルを配置するとともに、被締結体側の基端部に第2検出コイルを配置し、前記第1検出コイルと第2検出コイルの差動出力を計測してボルト軸部の締付力を測定するのである(請求項2)。
【0012】
更に、前記ボルト頭部若しくはナットの外周部に装着するプローブに前記環状ヨークを備え、前記励磁コイル及び第1検出コイルと第2検出コイルとを、該第1検出コイルと第2検出コイルとの間に空間を設けて前記環状ヨークの断面略コ字形のコイル収容溝内に収容してなることがより好ましい(請求項3)。
【0013】
そして、前記第1検出コイルと第2検出コイルの出力を差動増幅器又は減算器からなる検出回路に入力し、その差動出力を増幅回路で増幅した後、DC変換回路で整流して直流電圧に変換して出力信号とするのである(請求項4)。
【0014】
あるいは、前記第1検出コイルと第2検出コイルのそれぞれの出力をDC変換回路で整流して直流電圧に変換し、両出力電圧を差動増幅器又は減算器からなる検出回路に入力し、その差動出力を出力信号とするのである(請求項5)。
【0015】
そして、被締結体とボルト頭部若しくはナットとの間にワッシャを備える締結構造において、前記環状ヨークの軸方向一端部を前記ワッシャに当接するとともに、軸方向他端部をボルト頭部若しくはナットの先端部に当接し、前記環状ヨーク、前記ボルト頭部若しくはナット及び前記ワッシャとでポロイダル方向の磁気回路を形成してなることも可能である(請求項6)。
【0016】
また、前記環状ヨークの一部が、前記ボルト頭部若しくはナットに係合し、回転締付可能なレンチを構成していることも好ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる請求項1に係る発明のボルト締付力検査装置は、被締結体に締付力を伝達するボルト頭部若しくはナットの外周部に、ボルト軸部の軸方向と直交するように巻回した励磁コイルと検出コイルとを同芯状に配置するとともに、該励磁コイルと検出コイルとを取り囲み前記ボルト頭部若しくはナットとでポロイダル方向の磁気回路を形成するように環状ヨークを配置し、前記励磁コイルに供給した高周波電流又はパルス電流によって前記ボルト頭部若しくはナットの側面部を略軸方向に磁化し、該側面部の透磁率の大きさに応じて前記検出コイルに誘起する誘導電流を計測し、ボルト軸部の締付力を測定するので、ボルト軸部と被締結体との接触状態等の個別環境の違いによる測定誤差や外部からの振動ノイズの影響を排除し、ボルト締付力を正確且つ簡単に測定することができる。尚、ボルト軸部に装着したひずみゲージ等によって実測したボルト締付力と、本発明のボルト締付力検査装置の出力信号とをデータテーブルとして取得しておけば、出力信号からボルト締付力を絶対値として数値的に算出することは簡単である。また、正常に締め付けられたボルトを基準として、他のボルトの締付具合を相対的に診断することも可能である。本発明はボルト締付力の検査以外にも、ボルトに生じたクラックの有無を検査することも可能である。また、励磁コイルと検出コイルは、環状ヨークとボルト頭部若しくはナットの外周部とで囲まれているので、磁気シールド効果があり、外部の電磁ノイズにも影響されないのである。
【0018】
請求項2によれば、第1検出コイルは圧縮応力が殆ど作用していないボルト頭部若しくはナットの先端部を検出し、第2検出コイルは圧縮応力が最も作用している基端部を検出し、それらの差動出力を得るので、ノイズやその他の不具合を相殺し、真に圧縮応力による透磁率の変化のみが反映された出力信号となり、正確なボルト締付力を測定できるのである。
【0019】
請求項3によれば、プローブをボルト頭部若しくはナットの外周部に装着だけで、励磁コイル及び第1検出コイルと第2検出コイルを所定位置にセットすることができ、また第1検出コイルと第2検出コイルとの間に空間を設けて前記環状ヨークの断面略コ字形のコイル収容溝内に収容しているので、第1検出コイルと第2検出コイルとの干渉を少なくすることができ、正確且つ簡単なボルト締付力の測定に寄与するのである。
【0020】
請求項4又は5によれば、第1検出コイルと第2検出コイルで拾った出力を処理し、ボルト締付力に対応した出力信号を取得するための回路構成が簡単であり、また励磁コイルに交流電流又はパルス電流を供給する発振回路も簡単であるので、携帯可能なコンパクトな制御装置とすることができる。
【0021】
請求項6によれば、被締結体とボルト頭部若しくはナットとの間にワッシャを備える締結構造において、前記環状ヨークの軸方向一端部を前記ワッシャに当接するとともに、軸方向他端部をボルト頭部若しくはナットの先端部に当接し、前記環状ヨーク、前記ボルト頭部若しくはナット及び前記ワッシャとでポロイダル方向の磁気回路を形成してなるので、ワッシャが存在しても同様にボルト締付力を正確且つ簡単に測定することができる。
【0022】
請求項7によれば、環状ヨークの一部に設けたレンチを、ボルト頭部若しくはナットに係合して回転させ、締め付けながらボルト軸部の締付力を確認することができ、トルクレンチに代わる正確な締め付けが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るボルト締付力検査装置のプローブの斜視図である。
【図2】同じくプローブの縦断面図である。
【図3】ボルト・ナットによる被締結体の締結状態においてナットにプローブを装着して締結力を計測する状態を示す部分断面図である。
【図4】本発明のボルト締付力検査装置を構成する制御回路の第1例を示すブロック図である。
【図5】本発明のボルト締付力検査装置を構成する制御回路の第2例を示すブロック図である。
【図6】SCM400の磁気特性を示し、(a)は各圧縮応力に応じた初期磁化曲線(B−H曲線)、(b)は各圧縮応力に応じた透磁率(μr−H曲線)を示すグラフである。
【図7】SS400の磁気特性を示し、(a)は各圧縮応力に応じた初期磁化曲線(B−H曲線)、(b)は各圧縮応力に応じた透磁率(μr−H曲線)を示すグラフである。
【図8】SCM400とSS400の圧縮応力に対する導電率を示すグラフである。
【図9】励磁電流が0.5A、1kHzの場合にボルト締付力を変化させたときの磁束密度の減衰率の計算値と実測値を示すグラフである。
【図10】励磁電流が0.5A、各周波数におけるボルト締付力を変化させたときの磁束密度の減衰率の計算値を示すグラフである。
【図11】トルクレンチで締め付けたM30のボルトの頭部に本発明のプローブを装着して測定した場合のトクルレンチの読みと出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1及び図2は本発明に係るボルト締付力検査装置のプローブを示し、図3はプローブを実際に装着してボルトの締付力を測定する状態を示し、図中符号1はプローブ、2はボルト、3はナット、4は被締結体、5は環状ヨーク、6は第1検出コイル、7は第2検出コイル、8は励磁コイルをそれぞれ示している。
【0025】
本発明のボルト締付力検査装置は、ボルト2による締付力によってボルトの頭部若しくはボルト2に螺合したナット3に生じる圧縮応力による透磁率の変化を電磁的に測定し、ボルトの軸部に作用する締付力を測定するものである。本発明の測定原理は、磁気ひずみ応力測定法である。ここで、ボルト2による締付力、即ち軸部9に作用する引張応力と、ボルトの頭部若しくはナット3に生じる圧縮応力に関する相関データを、ボルト・ナットの種類毎に取得しておく必要がある。
【0026】
ボルト2を被締結体4の貫通孔10に挿通し、本体部の螺孔に螺合して本体部に被締結体4を締め付ける場合、あるいは複数の被締結体4の貫通孔10にボルト2の軸部9を挿通し、該軸部9の先端部にナット3を螺合して、ボルト頭部とナット3とで被締結体4,4同士を締め付ける場合、ボルト2の軸部9には引張応力が作用し、ボルト頭部若しくはナット3の側面部であって、被締結体4側の基端部に圧縮応力が作用し、被締結体4とは反対側の先端部には殆ど応力が生じない。
【0027】
一般的に、鋼材に圧縮応力が作用すると、磁気ひずみ効果のため圧縮応力の方向には磁化し難く、つまり透磁率は小さくなり、圧縮応力に直交する方向では磁化し易くなることは良く知られている。引張応力の場合にはこの関係は逆になる。本発明の場合には、ボルト2の軸部に引張応力が作用すると、ボルト頭部若しくはナット3で被締結体4に直接又はワッシャを介して接触している部位を最大として、その近傍に圧縮応力が作用する。ボルト締結時にボルト頭部若しくはナット3の外周部に作用する圧縮応力の方向は、軸部9の軸方向と略平行であり、また被締結体4と反対側の先端部には殆ど応力が作用しないことがシミュレーション結果により確認されている。また、鋼材の微視組織によっても透磁率は変化し、これを分離して測定することは困難をともなう場合が多いので、実際にはひずみゼロの同一材料との差から応力測定精度の向上を図るのである。
【0028】
そこで、本発明のボルト締付力検査装置は、被締結体4に締付力を伝達するボルト頭部若しくはナット3の外周部に、ボルト軸部9の軸方向と直交するように巻回した励磁コイル8と検出コイル6,7とを同芯状に配置するとともに、該励磁コイル8と検出コイル6,7とを取り囲み前記ボルト頭部若しくはナット3とでポロイダル方向の磁気回路を形成するように断面略コ字形のコイル収容溝11を設けた環状ヨーク5を配置し、前記励磁コイル8に供給した交流電流又はパルス電流によって前記ボルト頭部若しくはナット3の側面部を略軸方向に磁化し、該側面部の透磁率の大きさに応じて前記検出コイル6,7に誘起する誘導電流を計測し、ボルト軸部の締付力を測定するのである。ここで、前記励磁コイル8と検出コイル6,7は、環状ヨーク5とボルト頭部若しくはナット3の外周部とで囲まれているので、磁気シールド効果もあり、電磁ノイズを遮蔽することができる。
【0029】
具体的には、前記検出コイルは独立した第1検出コイル6と第2検出コイル7とからなり、前記ボルト頭部若しくはナット3の外周部で、被締結体4とは反対側の先端部に第1検出コイル6を配置するとともに、被締結体4側の基端部に第2検出コイル7を配置し、前記第1検出コイル6と第2検出コイル7の差動出力を計測してボルト軸部の締付力を測定するのである。原理的には、前記検出コイルは一つあれば検出可能であるが、前述のように、応力が殆ど作用しない、つまりひずみがゼロのボルト頭部若しくはナット3の先端部を第1検出コイル6で計測し、圧縮応力が作用するボルト頭部若しくはナット3の基端部を第2検出コイル7で計測し、両検出コイルの出力の差分を取ることにより、応力測定精度を高めるのである。勿論、測定対象が小型のボルト等では、コイル巻回スペースが大きく取れないので、一つの検出コイルを用いて励磁コイル8と内外に同心状に巻回することも可能である。
【0030】
ここで、前記ボルト頭部若しくはナット3に作用する応力は、外周部と深部では異なるので、ボルト締付力によって圧縮応力が現れる外周部のみを計測範囲とする。そのため、前記励磁コイル8に供給する交流電流の周波数は程度に高い方が好ましい。前記励磁コイル8に供給する交流電流の周波数が高くなると、前記ボルト頭部若しくはナット3に浸透する磁場の深さは浅くなるからである。また、前記励磁コイル8にパルス電流を供給する場合も、パスルの立上り部、立下り部は周波数が非常に高い交流電流と同様の作用をするので、前記ボルト頭部若しくはナット3に浸透する磁場の深さを浅くすることができる。
【0031】
更に詳しく、前記プローブ1の構造を図1及び図2に基づいて説明する。前記プローブ1は、少なくとも環状ヨーク5の部分が透磁率の高い材料で作製し、該環状ヨーク5の断面略コ字形のコイル収容溝11には、前記第1検出コイル6と第2検出コイル7及び励磁コイル8を収容するとともに、環状ヨーク5の一側に各コイルに接続する配線のコネクター12を設けている。前記第1検出コイル6と第2検出コイル7及び励磁コイル8は、空芯となっており、前記ボルトの頭部若しくはナット3にプローブ1を装着した際に、該ボルトの頭部若しくはナット3がヨーク芯となり、環状ヨーク5とでコイルの周囲を取り囲み、磁力線が外部に逃げないようにしている。
【0032】
前記プローブ1は、軸方向一側面に開放した箱型の本体部13と、該本体部13の開放面側を閉じるカバー体14とから構成されている。前記本体部13は、底面部に前記ボルトの頭部若しくはナット3に係合する六角孔15を形成するとともに、該六角孔15の最大径よりも内径が大きな円筒状立壁16を形成し、更に該円筒状立壁16に連続して全周に側面部17を形成している。前記カバー体14は、前記本体部13の平面視形状と同じ外形を有し、前記円筒状立壁16及び側面部17の端面に当接してネジ止め固定される。また、前記カバー体14には、前記六角孔15と対面した位置に同軸状に円孔18を形成し、前記プローブ1を前記ボルトの頭部若しくはナット3に装着した際に、該円孔18の口縁がボルトの頭部若しくはナット3の上端周囲に当接するようになっている。そして、前記本体部13の六角孔15の周囲の底面部と円筒状立壁16及び前記カバー体14の円孔18の周囲部分とで、内方へ開放した環状ヨーク5を形成している。更に、前記円筒状立壁16より外側へ連続した部分の前記カバー体14には前記コネクター12を取付けている。尚、ワッシャを介して締め付ける場合には、前記プローブ1の六角孔15の周辺部を該ワッシャの上面に当接するようにする。
【0033】
本実施形態では、前記第1検出コイル6と第2検出コイル7及び励磁コイル8の内周面の形状を、前記ボルトの頭部若しくはナット3に密着して効率良く磁化できるように六角形の筒状としているが、円筒形としても良い。また、記第1検出コイル6と第2検出コイル7及び励磁コイル8の内周面に、薄い非磁性体の保護層19を設けても良い。しかし、前記プローブ1の構造は、前記環状ヨーク5以外の構成は任意であり、各種の構造を採用し得る。本実施形態では、前記環状ヨーク5の一部に六角孔15を設けてレンチを構成しているので、前記コネクター12を設けた部分を延長してハンドルとすれば、前記ボルトの頭部若しくはナット3に係合し、回転締め付けと同時に、締付力を測定できるのである。
【0034】
次に、本発明のボルト締付力検査装置における制御回路を簡単に説明する。図4は制御回路の第1例である。第1例の制御回路は、先ず発振回路20で所定周波数の発振信号を作り、それを励磁電流供給回路21で所定の電流値まで増幅して前記プローブ1の励磁コイル8に供給する。励磁コイル8で発生させた交番磁場により、前記ボルトの頭部若しくはナット3の側面部の内部に誘起された磁束が、断面略コ字形の前記環状ヨーク5内を通ってボルトの頭部若しくはナット3の側面部に戻る、閉じた磁気回路が形成される。つまり、前記励磁コイル8を中心部に有するトーラスにおいて、磁力線はポロイダル方向に向いている。このとき、前記第1検出コイル6と第2検出コイル7には、それぞれボルトの頭部若しくはナット3の側面部であって先端部と基端部の透磁率を反映した磁束の変化によって誘導電流が流れる。ここで、前記ボルト2を締め付けると、ボルトの頭部若しくはナット3の側面部の基端部に、軸部9の軸方向と略平行な方向に圧縮応力が作用し、軸方向に対する透磁率が低下するので、前記第1検出コイル6の誘導電流より第2検出コイル7の誘導電流が小さくなる。この場合、第1検出コイル6と第2検出コイル7との間に空間を設けて前記環状ヨーク5のコイル収容溝11内に収容することにより、両コイル6,7の干渉を極力抑制し、それぞれ独立した誘導電流を得るのである。そして、前記第1検出コイル6と第2検出コイル7の出力を差動増幅器又は減算器からなる検出回路22に入力し、その差動出力を増幅回路23で増幅した後、DC変換回路24で整流して直流電圧に変換して出力信号とし、表示器25に表示するのである。前記表示器25での表示は、アナログ表示でもデジタル表示でも良く、更に締付力が基準値以上か以下か、良否の場合には音声等で検査結果を表しても良い。
【0035】
また、図5は制御回路の第2例である。第2例の制御回路は、前記同様に発振回路20で所定周波数の発振信号を作り、それを励磁電流供給回路21で所定の電流値まで増幅して前記プローブ1の励磁コイル8に供給する。前記第1検出コイル6と第2検出コイル7の出力をそれぞれ増幅回路26,27で増幅した後、それぞれの出力をDC変換回路28,29で整流して直流電圧に変換し、両出力電圧を差動増幅器又は減算器からなる検出回路30に入力し、その差動出力を出力信号とし、表示器31で表示するのである。
【0036】
次に、鋼材に圧縮応力が作用すると、その応力の方向に対して初期磁化曲線と透磁率及び導電率がどのように変化するかを測定した結果を図6〜図8に示す。試験した鋼材は高張力ボルト(SCM400)とワッシャ用鋼板(SS400)である。図6(a)はSCM400の各圧縮応力に応じた初期磁化曲線(B−H曲線)、図6(b)はSCM400の各圧縮応力に応じた透磁率(μr−H曲線)を示すグラフである。また、図7(a)はSS400の各圧縮応力に応じた初期磁化曲線(B−H曲線)、図6(b)はSS400の各圧縮応力に応じた透磁率(μr−H曲線)を示すグラフである。そして、図8は、SCM400とSS400の圧縮応力に対する導電率を示すグラフである。導電率は、ケルビンダブルブリッジ回路の4端子法を用いて各圧縮応力における導電率を測定した。
【0037】
これらの結果から、SCM435とSS400は圧縮応力に比例して磁気特性が低下することがわかった。更に、圧縮応力の変化によって透磁率が大きく変化する外部磁場(H)の大きさは比較的小さい範囲にあることもわかる。従って、前記励磁コイル8によって発生する磁場の大きさをこの範囲に設定すると、検出コイル7で検出する信号の変化が大きくなる。SCM400とSS400とでは、透磁率が大きく変化する外部磁場(H)の範囲は異なり、SCM400の方がやや大きい方にシフトしている。実際には、前記励磁コイル8で発生する磁場の強さは、測定対象の鋼種に応じて決定すべきであるが、本実施形態では1000〜2000A/m程度になるように巻数と励磁電流量を決定した。尚、導電率は、圧縮応力によって殆ど変化しないことがわかったので、以後導電率は一定として扱うことにした。
【0038】
次に、ボルト頭部の各圧縮応力を有限要素法の3次元応力解析で求め、各応力に見合った磁化曲線を使用した非線形電磁界解析を行い、ボルトの締め付けによって変化する電磁気特性差を検出することで、ボルトの締付力と対応させる検討を検証実験も含めて行った。解析にはM10のボルトの諸元を用いた。図9に、励磁コイル8に供給する励磁電流が0.5A、1kHzの場合に、ボルト締付力を変化させたときの検出コイル内の磁束密度の減衰率の変化を解析した結果を示す。この結果、ボルトの締付力が1〜30kNで変化させたとき、磁束密度は約1%低下することがわかる。
【0039】
また、本発明の測定原理の整合性を検証するため検証実験を行った。実験では長さ75mmのM10半ねじ六角ボルトを用い、軸部の中心部にひずみゲージを埋め込み、基準となるボルトの締付力を測定した。実験結果を併せて図9に示す。磁束密度の減衰率において、前述の解析の計算結果と実験による測定結果では同じ傾向が見られた。
【0040】
次に、本発明のボルト締付力検査装置を用いて、ボルトの締付力の検査を行う場合の最適な励磁周波数を実験によって検討した。ボルトに与える締付力は、1〜30kNとし、励磁電流は0.5Aで固定し、励磁周波数は50Hz〜20kHzで評価を行った。検出コイルに得られる磁束密度の減衰率の実験結果を図10に示す。図10より、磁束密度の減衰率が一番大きくなる周波数は20kHzであることがわかった。しかし、励磁電流の周波数が高くなり過ぎると、表皮効果によって磁場の浸透深さが浅くなり、圧縮応力が作用している領域を十分にカバーできなくなるため、適度な周波数に設定する必要がある。
【0041】
図11は、M30のボルトを手動トルクレンチで締め付けたときのトルクレンチの読み(締付トルク)と第1検出コイルと第2検出コイルの差動出力の関係を示したグラフである。ここで、励磁コイルに供給する励磁電流は0.5A、周波数2.5kHzである。視覚的に理解し易いように、締付トルクの増加につれて差動出力が増加するように極性を表示した。締付トルクは、ボルト頭部と被締結体との間の摩擦力、あるいはワッシャを介在させる場合には、ボルト頭部、ワッシャ、被締結体の各間の摩擦力が反映されるので、ボルトの締付力に正確に対応しないが、締付トルクと検出コイルの差動出力は略比例する関係が得られた。本発明によりボルト締付力が比較的正確に測定できることが実証された。
【0042】
また、前述のプローブ1をナットランナーのソケット体に内蔵させることも可能である。つまり、ナットランナーのソケット体は、円筒状の端部に六角孔が形成された円板が交換可能に取付けられており、その円板の内方に断面略コ字形の環状ヨークを形成するとともに、環状ヨークの断面略コ字形のコイル収容溝に励磁コイルと検出コイルを収容した構造となる。このナットランナーは、例えばエンジンのシリンダヘッドの取付ボルトを締め付けると同時に、その締付力を測定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のボルト締付力検査装置は、各種産業機器や構造物のボルトの締付具合を検査するために使用することができる。例えば、車両のタイヤの取付ボルトや橋梁等の鋼材の締結ボルト等の締付力の測定あるいは締付状態の良否を検査することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 プローブ
2 ボルト
3 ナット
4 被締結体
5 環状ヨーク
6 第1検出コイル
7 第2検出コイル
8 励磁コイル
9 軸部
10 貫通孔
11 コイル収容溝
12 コネクター
13 本体部
14 カバー体
15 六角孔
16 円筒状立壁
17 側面部
18 円孔
19 保護層
20 発振回路
21 励磁電流供給回路
22 検出回路
23 増幅回路
24 DC変換回路
25 表示器
26,27 増幅回路
28,29 変換回路
30 検出回路
31 表示器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結体に締付力を伝達するボルト頭部若しくはナットの外周部に、ボルト軸部の軸方向と直交するように巻回した励磁コイルと検出コイルとを同芯状に配置するとともに、該励磁コイルと検出コイルとを取り囲み前記ボルト頭部若しくはナットとでポロイダル方向の磁気回路を形成するように環状ヨークを配置し、前記励磁コイルに供給した交流電流又はパルス電流によって前記ボルト頭部若しくはナットの側面部を略軸方向に磁化し、該側面部の透磁率の大きさに応じて前記検出コイルに誘起する誘導電流を計測し、ボルト軸部の締付力を測定することを特徴とするボルト締付力検査装置。
【請求項2】
前記検出コイルは独立した第1検出コイルと第2検出コイルとからなり、前記ボルト頭部若しくはナットの外周部で、被締結体とは反対側の先端部に第1検出コイルを配置するとともに、被締結体側の基端部に第2検出コイルを配置し、前記第1検出コイルと第2検出コイルの差動出力を計測してボルト軸部の締付力を測定する請求項1記載のボルト締付力検査装置。
【請求項3】
前記ボルト頭部若しくはナットの外周部に装着するプローブに前記環状ヨークを備え、前記励磁コイル及び第1検出コイルと第2検出コイルとを、該第1検出コイルと第2検出コイルとの間に空間を設けて前記環状ヨークの断面略コ字形のコイル収容溝内に収容してなる請求項2記載のボルト締付力検査装置。
【請求項4】
前記第1検出コイルと第2検出コイルの出力を差動増幅器又は減算器からなる検出回路に入力し、その差動出力を増幅回路で増幅した後、DC変換回路で整流して直流電圧に変換して出力信号とする請求項2又は3記載のボルト締付力検査装置。
【請求項5】
前記第1検出コイルと第2検出コイルのそれぞれの出力をDC変換回路で整流して直流電圧に変換し、両出力電圧を差動増幅器又は減算器からなる検出回路に入力し、その差動出力を出力信号とする請求項2又は3記載のボルト締付力検査装置。
【請求項6】
被締結体とボルト頭部若しくはナットとの間にワッシャを備える締結構造において、前記環状ヨークの軸方向一端部を前記ワッシャに当接するとともに、軸方向他端部をボルト頭部若しくはナットの先端部に当接し、前記環状ヨーク、前記ボルト頭部若しくはナット及び前記ワッシャとでポロイダル方向の磁気回路を形成してなる請求項1〜5何れか1項に記載のボルト締付力検査装置。
【請求項7】
前記環状ヨークの一部が、前記ボルト頭部若しくはナットに係合し、回転締付可能なレンチを構成している請求項1〜6何れか1項に記載のボルト締付力検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−220713(P2011−220713A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86972(P2010−86972)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【特許番号】特許第4605307号(P4605307)
【特許公報発行日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(597021738)センサ・システム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】