説明

ボルト

【課題】 ボルトのナットへのねじ接触部を改良してトルク係数のばらつきを積極的に抑え、締付軸力を効果的に安定させること。
【解決手段】 頭部11と軸部12とを有し、軸部11外周におねじ15が形成されたボルト1において、軸部11のおねじ15におけるねじ山斜面に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部15aを設けて、ナットのめねじにおけるねじ山斜面との接触位置を特定し、ボルト1の中心から接触位置までの距離を一定化させると共に接触面積も一定化させることによってトルク係数を安定させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト、主としてトルシア形高力ボルト(摩擦接合ボルト)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のトルシア形高力ボルトは、例えば図8〜10に示すように頭部71と、軸部72と、軸部72の先端に破断溝73を介して連設されたピンテール部74とを有し、軸部72外周におねじ72aが、またピンテール部74外周にセレーション74aが形成された構成となっている。
【0003】
そして、使用に際しては、図10に示すように被締付け体2Aと被締付け体3Aの両貫通孔2a,3aにボルト7を貫通状に差し込む一方、ボルト7のおねじ72a側に座金4Aを介してナット5Aを螺装し仮止めする。その後、仮想線で示す専用電動レンチ6Aを用い、そのインナースリーブ61をピンテール74に嵌め込み、レンチ6Aを押しながらアウタースリーブ62をナット5Aに嵌め込む。然る後、電動レンチ6Aのスイッチを入れると、アウタースリーブ62が回り、ナット5Aを回転させて締め付けが行われる。その後、所定トルクに達するとピンテール部74で締付トルクの反力を受け破断溝73が破断し、ボルト7の締め付けが完了するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したトルシア形高力ボルト7は建築、土木分野等において多量に使用されている。この建築、土木分野等では特に安全性が重視されるため、締付軸力範囲の上限・下限を、締付軸力のばらつきを考慮して設計軸力を上回り、捻じ切れを生じない値に設定されている。その際、締付軸力と比例関係にあるトルク係数を制御することにより締付軸力の確保を行うようにしている。ここでトルク係数はボルト7とナット5Aのねじ接触部で50%、ナット5Aと座金4Aの間で50%が決定される。
【0005】
しかし、通常、図9に示すようにボルト7とナット5Aの各ねじ山斜面は共に平面であることから、図9仮想線で示すように締結時におけるボルト7のおねじ72aとナット5Aのめねじ5aとの接触位置が常に一定化されにくくトルク係数にばらつきが発生し易い問題があった。つまり、ボルト7の中心から接触位置までの距離の一定化が得られにくいと共に接触面積も一定化が困難であり、そのためトルク係数にばらつきが発生する。トルク係数がばらつきを有すると締付軸力もばらつくといった問題を有していた。
【0006】
そのため、締付軸力範囲の下限はトルク係数のばらつきを考慮して設計軸力を満足するように規定している。なお、試験ロットは5本の平均値と変動係数(σ/x×100(%) σ:標準偏差 x:平均値)で規定されている。
【0007】
また、上記した問題に対して従来では、ナット5Aに潤滑処理を施すことにより、トルク係数を一定の範囲内に制御しようとすることも行われているが、ナット5Aの潤滑処理だけではトルク係数のばらつきを多少は制御できるものの、締付軸力の変動係数が建築物では7%と広い範囲の規定になっている。
【0008】
そこで、本発明は、ボルトのナットへのねじ接触部を改良してトルク係数のばらつきを積極的に抑え、締付軸力を効果的に安定させることができるボルトの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため本願の請求項1記載の発明は、頭部と軸部とを有し、軸部外周におねじが形成されたボルトにおいて、軸部のおねじにおけるねじ山斜面の少なくともナットへ荷重の伝わる側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられていることを特徴とする。
なお、ここでねじとは並目ねじだけではなく、細目ねじをも含む概念である。
【0010】
また、本願の請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成においてトルク係数安定部における有効径部分に膨出頂部となり、かつめねじ側のねじ山斜面と平行状となる係合突面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、本願の請求項3記載の発明は、請求項2記載の構成において各係合突面の長さが1mm以内になっていると共に、隣り合う係合突面がV字状に対向し、その開放角度が60°±20′の範囲に設定されている一方、隣り合う係合突面から谷径に至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、隣り合う係合突面から外径側に至る上側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が62°〜75°の範囲に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボルト軸部のおねじにおけるねじ山斜面のたとえば両側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられているから、ボルトのナットへの締め込み時に、トルク係数安定部がナットにおけるめねじのねじ山斜面と接触することになる。これにより、ボルトにおけるおねじのナットにおけるめねじとの接触位置を積極的に特定することができ、トルク係数を安定させることができる。つまり、積極的にボルト中心から接触位置までの距離を一定化させると共に接触面積も一定化させることによってトルク係数をばらつきを狭い範囲に抑えることができる。その結果、トルク係数を安定させることによって安定した締付軸力を確保することができ、安全性も向上する。その上、締付軸力の変動係数が下ることにより、より高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となるため、使用するボルトの削減、省資源につながる。
【0013】
また、トルク係数安定部における有効径部分にその膨出頂部となり、かつめねじ側のねじ山斜面と平行となる係合突面を形成するようにすれば、積極的に有効径部部分、つまり最適な位置において接触させることができると共に、その接触もめねじ側のねじ山斜面に沿った一定の面積で安定よく接触させることができる。これによりトルク係数をばらつきを一層狭い範囲に抑えることができるのでこのましい。
【0014】
さらに、係合突面の長さをそれぞれ1mm以内にすると共に、隣り合う係合突面をV字状に対向させ、その開放角度を60°±20′の範囲に設定する一方、隣り合う係合突面から谷径に至る下側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定すると共に、隣り合う係合突面から外径側に至る上側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度を62°〜75°の範囲に設定するようにすれば、トルク係数安定部の有効径部分に位置する係合突面のみを確実かつ正確にめねじ側のねじ山斜面に一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数をばらつきをより効果的に狭い範囲に抑えることができるのでこのましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0016】
図1〜3は、本発明に係るトルシア形高力ボルト(以下単にボルトという)を示すもので、このボルト1は、図3に示すように大径の頭部11と、軸部12と、軸部12の先端に破断溝13を介して連設される小径のピンテール部14とを有し、軸部12外周におねじ15が、またピンテール部14外周にセレーション16が形成されている。
【0017】
そして、図1及び図2に示すようにボルト1における軸部12のおねじ15におけるねじ山斜面の両側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部15a,15aが設けられている。トルク係数安定部15a,15aにおける有効径d部分には、その膨出頂部となりかつ後記するナットのめねじにおけるねじ山斜面と平行となる係合突面15b,15bが形成されている。このとき各係合突面15b,15bの長さが1mm以内になっていると共に、隣り合う係合突面15b,15bがV字状に対向し、その開放角度が60°±20′の範囲に設定されている一方、隣り合う係合突面15b,15bから谷径dに至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、隣り合う係合突面から外径d側に至る上側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が62°〜75°の範囲に設定されている。
【0018】
トルク係数安定部15aは平ダイス等(丸型転造ダイスでも可能)でおねじ15を転造により形成する際、同時に形成される。
【0019】
図4〜6は、ボルト1の施工状態を示す説明図で、各図中において符号2,3は被締付け体、4は座金、5は段付きナット、6はインナースリーブ61とアウタースリーブ62を有する専用電動レンチ6である。なお、専用電動レンチ6は既存のものであるのでその詳細については省略する。
【0020】
次に、上記したボルトの作用について説明する。
【0021】
まず、図4に示すように、ボルト1の施工前の使用状態を示す説明図で、被締付け体2と被締付け体3の取付孔2a,2bにボルト1を差し込む一方、ボルト1のおねじ15側に座金4を介してナット5を螺装し仮止めする。
【0022】
次に、図5に示すように、専用電動レンチ6を用い、そのインナースリーブ61をピンテール部14に嵌め込み、電動レンチ6を押しながらアウタースリーブ62をナット5に嵌め込む。その後、電動レンチ6のスイッチを入れると、アウタースリーブ62が回り、ナット5を回転させて締め付けが行われる。所定トルクに達するとピンテール部14で締付トルクの反力を受け破断溝13が破断し、ボルト1の締め付けが完了する。破断溝13が破断したら、電動レンチ6のスイッチを離し、レンチ6を手前に引いてアウタースリーブ62をナット5から外して作業を終える。
【0023】
この際、軸部12のおねじ15におけるねじ山斜面の有効径d部分が膨出頂部となるように、外膨らみに膨出するトルク係数安定部15aが設けられているから、ボルト1のナット5への締め込み時に、図7に示すようにトルク係数安定部15aがナット5におけるめねじ5aのねじ山斜面と接触することになる。これにより、ボルト1におけるおねじ15のナット5におけるめねじ5aとの接触位置積極的に特定することができ、トルク係数を安定させることができる。つまり、積極的にボルト1の中心から接触位置までの距離を一定化させると共に接触面積も一定化させることができ、これによってトルク係数のばらつきを狭い範囲に抑えることができる。その結果、トルク係数を安定させることで安定した締付軸力を確保することができ、安全性も向上する。その上、締付軸力の変動係数が下ることにより、より高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となるため、使用するボルトの削減、省資源につながる顕著な効果が得られる。
【0024】
また、トルク係数安定部15aにおける有効径d部分にその膨出頂部となり、かつめねじ側のねじ山斜面と平行となる係合突面15bを形成しているので、積極的に有効径d部分、つまり最適な位置において接触させることができると共に、その接触もめねじ側のねじ山斜面に沿った一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数のばらつきを一層狭い範囲に抑えることができる。
【0025】
さらに、係合突面15bの長さをそれぞれ1mm以内にすると共に、隣り合う係合突面15b,15bをV字状に対向させ、その開放角度を60°±20′の範囲に設定する一方、隣り合う係合突面15b,15bから谷径dに至る下側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定すると共に、隣り合う係合突面から外径d側に至る上側ねじ山斜面をV字状に対向させ、その開放角度を62°〜75°の範囲に設定するようにしているので、トルク係数安定部15aの有効径d部分に位置する係合突面のみを確実かつ正確にめねじ5a側のねじ山斜面に一定の面積で安定よく接触させることができ、トルク係数のばらつきをより効果的に狭い範囲に抑えることができる。
【0026】
因みに、ボルトサイズがM22の本案ボルトを製造し、ボルトサイズがM22の従来ボルトとの締付軸力の比較実験を行った。その実験結果は次の通りであった。
【0027】
【表1】


【0028】
上記した表1から明らかなように、従来品では、締付軸力の変動係数が4.83%程度だが、本案ボルト1ではおねじ15の斜面に外膨らみに膨出するトルク係数安定部15aを設けることにより変動係数を2.22%まで下げることができた。このように変動係数が下ることにより、高い軸力でかつ狭い範囲での締付管理が可能となるため、使用するボルトの削減、省資源につながる。
【0029】
なお、上記した実施の形態では、トルク係数安定部15aを軸部12のおねじ15におけるねじ山斜面の両側に設けたものについて説明したけれども、軸部12のおねじ15におけるねじ山斜面のナットへ荷重の伝わる側だけに設けるようにしてもよい。また、本発明は並目ねじだけではなく、細目ねじにも適用できること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】 本発明に係るボルトのおねじ部分の拡大縦断面図である。
【図2】 同おねじにおける要部の拡大縦断面図である。
【図3】 同ボルト全体の一部省略正面図である。
【図4】 同ボルトの施工前の状態を示す説明図である。
【図5】 同ボルトの施工中の状態を示す説明図である。
【図6】 同ボルトの施工後の状態を示す説明図である。
【図7】 同施工後における要部の拡大縦断面図である。
【図8】 従来ボルトの一部省略正面図である。
【図9】 従来ボルトの要部拡大縦断面図である。
【図10】 従来ボルトの施工状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ボルト
11 頭部
12 軸部
15 おねじ
15a トルク係数安定部
15b 係合突面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と軸部とを有し、軸部外周におねじが形成されたボルトにおいて、軸部のおねじにおけるねじ山斜面の少なくともナットへ荷重の伝わる側に、外膨らみに膨出するトルク係数安定部が設けられていることを特徴とするボルト。
【請求項2】
トルク係数安定部における有効径部分に膨出頂部となり、かつめねじ側のねじ山斜面と平行状となる係合突面が形成されていることを特徴とする請求項1記載のボルト。
【請求項3】
各係合突面の長さが1mm以内になっていると共に、隣り合う係合突面がV字状に対向し、その開放角度が60°±20′の範囲に設定されている一方、隣り合う係合突面から谷径に至る下側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が45°〜58°の範囲に設定されていると共に、隣り合う係合突面から外径側に至る上側ねじ山斜面がV字状に対向し、その開放角度が62°〜75°の範囲に設定されていることを特徴とする請求項2記載のボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−299884(P2009−299884A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178425(P2008−178425)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(592080752)日本ファスナー工業株式会社 (12)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)