説明

ポテクスウイルスに由来するレプリコン

以下のセグメント(i)〜(iii):i)ポテクスウイルスRNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的変異体をコードする核酸配列;ii)a)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックもしくはその機能‐保存的変異体およびb)ポテクスウイルス外被タンパク質もしくはその機能‐保存的変異体をコードする配列;またはトバゴウイルス移行タンパク質をコードする配列を含む核酸配列;ならびにiii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリカから発現可能な非相同核酸配列をこの順序において含む該レプリカを含むか、またはコードする核酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポテクスウイルスに由来するレプリコンを使用した、植物体、植物組織、または植物細胞における関心のある遺伝子の高収率発現のプロセス、および関心のある遺伝子を発現するために使用可能なポテクスウイルスRNAレプリコンを含むか、またはコードする核酸に関する。本発明はさらに、本発明のRNAレプリコンを一緒にコードする2種以上のベクターを含む部品キットに関する。
発明の背景
植物における非相同タンパク質の高収率発現はウイルスベクターを使用することによって達成されうる。ウイルスベクター系は植物宿主の感染(Donson et al.,1991,Proc Natl Acad Sci USA,88:7204−7208;Chapman,Kavanagh & Baulcombe,1992,Plant J.,:549−557)またはトランスフェクション(Marillonnet et al.,2005,Nat Biotechnol.,23:718−723;Santi et al.,2006,Proc Natl Acad Sci USA.103:861−866;WO2005/049839)後の一過性発現のために主として開発された。最適に確立され、市販可能な系はプラスセンス1本鎖RNAウイルス、好ましくはタバコモザイクウイルス(TMV)に由来するベクター(Kumagai et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,427−430;Mallory et al.,2002,Nature Biotechnol.20,622−625;US5316931;US5589367;US5866785;US5977438;WO02088369;WO2097080;WO0229068;US5491076)に基づく。
【0002】
ポテクスウイルスPVX(ジャガイモウイルスX)に由来するRNAウイルスを基礎にしたベクターの別の群も、TMVに由来するベクターより顕著に低い収率ではあるが、適度に高収率の組換えタンパク質を提供しうる(Chapman,Kavanagh & Baulcombe,1992,Plant J.,:549−557;Baulcombe,Chapman & Santa Cruz,1995,Plant J.,:1045−1053;Zhou et al.,2006,Appl.Microbiol.Biotechnol.,April 13,電子版;Zelada et al.,2006,Tuberculosis,86:263−267)。明らかに、そのようなシステムは関心のある組換えタンパク質の収率を増すためにいっそうの改善を必要とする。
【0003】
全身ウイルスベクターの第1世代では、植物資源のかなりの部分がウイルスレプリコンの全身移行に必要なウイルス外被タンパク質の生産に浪費された。TMVに由来するベクターの場合、この問題はレプリコンの効率的な全身送達のために、外被タンパク質遺伝子を除去することによって、およびアグロ‐浸潤(agro infiltration)を使用することによって解決され、そうして関心のある組換えタンパク質の収率を著しく高めた(WO2005/049839;Marillonnet et al.,(2005),Nat.Biotechnol.,23:718−723)。しかし、TMVに由来するレプリコンとは異なり、ポテクスウイルスに由来するレプリコンは全身移行だけでなく、短距離(細胞間)移行のためにもウイルス外被タンパク質を必要とする。従って、ポテクスウイルスに由来するウイルスベクターの外被タンパク質遺伝子は、タンパク質発現効率の重大な損失なしに除去されるはずがない。さらに、in transでウイルス外被タンパク質を提供する植物宿主の工学的操作は遺伝子サイレンシングのためにめったに良い解決法ではない。その上、外被タンパク質を発現するトランスジェニック植物が植物ウイルスによる挑戦に対して外被タンパク質‐媒介抵抗性を示す可能性がある(Beachy,RN.,1999,Philos.Trans.R.Soc.Lond B Biol.Sci.,354:659−664;Wisniewski et al.,1990,Plant Cell,:559−567)。非相同性CP‐媒介抵抗性と呼ばれる別の類似の現象が、たとえばPVX CPを発現するトランスジェニック植物がTMV RNAの細胞間拡散を減少させる場合、課題であり得る(Bazzini et al.,2006,J.Gen.Virol.,87:1005−1012)。その上、トランスジェニックタバコ植物体におけるPVX外被タンパク質の発現は移行‐欠陥PVXをレスキューするが、細胞間移行およびウイルス複製の効率を低下させる(Spillane et al.,1997,Virology,236:76−84)。同じ植物細胞における2種のウイルスベクター(たとえば、TMV‐およびPVX‐を基礎にしたベクター)の使用がヘテロオリゴマータンパク質の発現に(たとえば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の同時発現に)必要である場合、このことは問題点でありうる(WO2006/079546;Giritch et al.,2006,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,印刷中)。
発明の一般的な説明
従って、植物体における、植物組織における、または植物細胞における関心のあるタンパク質の高収率発現のためにポテクスウイルスを基礎にしたウイルスベクターを提供することが本発明の目的である。ウイルスベクターは細胞間移行が可能であるべきであり、そしてウイルス外被タンパク質を生産するために植物宿主の資源をできるだけ浪費すべきではない。
【0004】
この目的は以下のセグメント:
(i)RNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的誘導体をコードする核酸配列;
(ii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンの細胞間移行に必要な1種以上のタンパク質をコードする核酸配列;
(iii)植物体において、または植物組織において該レプリコンから発現可能な非相同核酸配列;
またはその相補的な配列をこの順序において含む該レプリコンを含むか、またはコードする核酸によって解決される。
【0005】
この目的はさらに、以下のセグメント:
(i)RNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的誘導体をコードする核酸配列;
(ii)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックまたはその機能‐保存的変異体および
ポテクスウイルス外被タンパク質またはその機能‐保存的変異体を含む核酸配列;
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列;
またはその相補的な配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸によって解決される。
【0006】
この目的はさらに、以下のセグメント:
(i)RNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的誘導体をコードする核酸配列;
(ii)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックまたはその機能‐保存的変異体および
トバモウイルス移行タンパク質を含む核酸配列;および
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列;
またはその相補的な配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸によって解決される。
【0007】
RNAレプリコンは植物体において、または植物組織において非相同核酸配列を複製し、発現するためのレプリコンであってもよい。RNAレプリコンはポテクスウイルス上に構築されてもよく、非相同核酸配列を発現するためにポテクスウイルスの複製および発現系を使用する。
【0008】
本発明の核酸は単離された、または単離され、そして精製された核酸であってもよい。本発明の核酸は典型的には、植物体または植物細胞にトランスフェクションするか、またはそれらを形質転換するためのベクターとして使用される。
【0009】
本発明はさらに、部位特異的組換えによって植物細胞に本発明の核酸をアセンブルすることが可能な少なくとも2種のベクター(プロベクター)を含む部品キットを提供する。
本発明はまた、本発明の核酸を植物体または植物組織に提供することを含む、植物体において、または植物組織において関心のある非相同核酸配列を発現するプロセスを提供する。本発明はまた、部位特異的組換えによって植物細胞に本発明の核酸をアセンブルすることが可能な2種以上のベクターを植物体または植物組織に提供することを含む、植物体または植物組織において関心のある非相同核酸配列を発現するプロセスを提供する。
【0010】
発明者らは驚くべきことに、ポテクスウイルスベクターから植物体において、または植物組織において発現される関心のあるタンパク質の発現収率をベクターデザインによって増すための方法を確認していて、ここでは項目(ii)で定義された配列は項目(i)のRNA‐依存的RNAポリメラーゼコーディング配列(RdRpまたはRdRP)の後(5から3′方向の下流)に配置される。ポテクスウイルスベクターの特殊な場合では、このベクターデザインがRNAレプリコンの細胞間移行能力、および同時に慣用のポテクスウイルスベクターに比較して非相同核酸のより高い発現レベルを導き、ここでは非相同核酸はポテクスウイルス外被タンパク質遺伝子の上流に配置された。発明者らによって確認された効果は、項目(ii)の配列の位置がこれらのタンパク質のより低い発現レベル、およびこれらのタンパク質発現のための植物資源のより少ない消費を導き、関心のある3′タンパク質のより高い発現レベルを可能にするという事実に起因してもよい。重要なことに、本発明におけるポテクスウイルス外被タンパク質の限定された発現レベルは、関心のある非相同配列の高収率発現のための効率的な細胞間移行を支持するために十分である。
【0011】
ポテクスウイルスはプラスセンス1本鎖ゲノムを持つ植物RNAウイルスである。従って、本発明の核酸はRNAレプリコンであるか、もしくはそれを含むRNAであってもよく、またはRNAレプリコンをコードするDNAであってもよい。本明細書では、「ポテクスウイルスベクター」または「ポテクスウイルスレプリコン」という用語は、該ベクターまたはレプリコンがポテクスウイルスの複製およびタンパク質発現系を利用することを意味する。該核酸は、たとえばポテクスウイルス由来の遺伝的要素を使用することによって、天然のポテクスウイルス上に構築されてもよい。本発明の核酸は、ポテクスウイルスをコードする核酸コンストラクトに非相同核酸配列を挿入することによって得ることが可能であってもよく、それによって関心のある非相同核酸配列がポテクスウイルス外被タンパク質をコードする配列の下流に挿入される。しかし、天然のポテクスウイルスの種々の遺伝的要素、たとえばポテクスウイルスRdRp遺伝子、トリプル遺伝子ブロック、外被タンパク質遺伝子、またはポテクスウイルスの5′もしくは3′非翻訳領域に対して種々の改変が行われてもよく、それらの例は以下に記載される。
【0012】
本発明のRNAレプリコンは、5′末端から3′末端の順序で、本発明のセグメント(i)から(iii)までを含む。さらに、遺伝的要素は典型的には複製および発現のためにレプリコン上に存在することになる。RNAレプリコンであるために、すなわち植物細胞における自律複製のために、RNAレプリコンはRdRpまたはその機能‐保存的誘導体をコードする。該RNAレプリコンはさらに、RdRpを結合するために、およびRNAレプリコンを複製するために、RNAレプリコンの5′‐または3′‐非翻訳領域において、ポテクスウイルス5′‐または3′‐非翻訳領域およびプロモーター配列を含んでいてもよい。該RNAレプリコンはさらに、項目(ii)および(iii)のセグメントによってコードされるタンパク質の発現のためのサブゲノムRNAを生み出すために、項目(ii)および(iii)のセグメントにおいてサブゲノムプロモーターを有していてもよい。核酸がDNAの場合、それは典型的にはin vitroまたはin plantaにおいてRNAレプリコンの転写による生産を可能にする転写プロモーターを有することになる。in plantaにおいてDNA核酸からのRNAレプリコンの転写を可能にする転写プロモーターの例としては、植物バイオテクノロジーにおいて広範に使用される35Sプロモーターが挙げられる。
【0013】
上記セグメント(i)はジャガイモウイルスXのようなポテクスウイルスのRdRp、またはポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体をコードしてもよい。RNAレプリコンにおいて使用されるRdRpは、項目(i)の配列がSEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質に少なくとも36%の配列同一性を有するタンパク質をコードする場合、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体であると見なしてもよい。別の態様では、配列同一性はSEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質に対して少なくとも45%、別の態様では少なくとも55%、別の態様では少なくとも65%、そしてさらに別の態様では少なくとも75%である。これらの配列同一性はSEQ ID NO:4の配列全体にわたり存在していてもよい。あるいは、これらの配列同一性は、少なくとも300アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、少なくとも500アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、少なくとも900アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、または少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に存在していてもよい。
【0014】
本明細書では、アミノ酸配列同一性は、標準状態で使用するBLASTX2.2.14を使用して測定されてもよい。
一例では、SEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質と、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体間の配列同一性は少なくとも900アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントにおいて45%である。別の例では、SEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質と、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体間の配列同一性は少なくとも900アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントにおいて55%である。
【0015】
あるいは、RNAレプリコンにおいて使用されるRdRpは、項目(i)の配列がSEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質に少なくとも50%の配列相同性を有するタンパク質をコードする場合、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体と見なされてもよい。別の態様では、配列相同性はSEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質に対して少なくとも60%、別の態様では少なくとも70%、そして別の態様では少なくとも80%である。これらの配列相同性は少なくとも300アミノ酸残基、少なくとも500アミノ酸残基、少なくとも900アミノ酸残基、または少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に存在していてもよい。アミノ酸配列相同性は、標準状態で使用するBLASTX2.2.14を使用して測定されてもよい。標準状態は、たとえば、アラインメントにおける配列ギャップを考慮する。
【0016】
一例では、SEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質と、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体間の配列相同性は少なくとも900アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントにおいて70%である。別の例では、SEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質と、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体間の配列同一性は少なくとも900アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントにおいて80%である。
【0017】
あるいは、RNAレプリコンにおいて使用されるRdRpは、項目(i)の配列がSEQ ID NO:4に対して少なくとも55%、少なくとも60%、または少なくとも70%の配列同一性を有する場合、ポテクスウイルスRdRpの機能‐保存的変異体と見なされてもよい。配列同一性はSEQ ID NO:4内に、またはSEQ ID NO:4の少なくとも900ヌクレオチドの配列セグメント内に、少なくとも1500ヌクレオチドの配列セグメント内に、少なくとも2000ヌクレオチドの配列セグメント内に、もしくは少なくとも4200ヌクレオチドの配列セグメント内に存在していてもよい。ヌクレオチド配列同一性は、標準状態で使用するBLASTN2.2.14を使用して測定されてもよい。標準状態は、たとえばアラインメントにおける配列ギャップを考慮する。
【0018】
RNAレプリコンは植物体において、または植物組織において、RNAレプリコンの細胞間移行を可能にするために項目(ii)の核酸配列を含む。RNAレプリコンの細胞間移行は、植物体または植物組織のできるだけ多くの細胞における項目(iii)の配列の発現を達成するために重要である。項目(ii)の核酸配列はポテクスウイルストリプル遺伝子ブロック(本明細書では「TGB」と省略される)またはその機能‐保存的変異体を含んでいてもよい(TGBに関する総説はJ.Gen.Virol.(2003)84,1351−1366に見いだされる)。ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックはポテクスウイルスに細胞間移行能力を提供するために必要な3種のタンパク質をコードする。従って、TGBの変異体が、付加的に別の必要な要素と一緒に植物体において、または植物組織において細胞間移行能力を持つ本発明のRNAレプリコンを提供できる場合、TGBの該変異体はTGBの機能‐保存的変異体であると見なされる。
【0019】
ポテクスウイルスTGBの例としては、ジャガイモウイルスXのTGB(本明細書では「PVX TGB」と表される)が挙げられる。PVX TGBは、それらのおおよその分子量に従って25K、12K、および8Kと表される3種のタンパク質をコードする3種の遺伝子から構成される。PVX25K、PVX12Kタンパク質、およびPVX8Kタンパク質をコードする遺伝子配列はそれぞれ、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:11、およびSEQ ID NO:13で示される。PVX25Kタンパク質、PVX12Kタンパク質、およびPVX8Kタンパク質のタンパク質配列はそれぞれSEQ ID NO:10、SEQ ID NO:12、およびSEQ ID NO:14で示される。
【0020】
一態様では、ポテクスウイルスTGBの機能‐保存的変異体は3種の遺伝子のブロックであり、該ブロックは3種のタンパク質をコードし、そのうちの1種はPVX25Kタンパク質に少なくとも33%の配列同一性を有し、1種はPVX12Kタンパク質に少なくとも36%の配列同一性を有し、そして1種はPVX8Kタンパク質に少なくとも30%の配列同一性を有する。別の態様では、ポテクスウイルスTGBの機能‐保存的変異体は3種のタンパク質をコードし、そのうちの1種はPVX25Kタンパク質に少なくとも40%の配列同一性を有し、1種はPVX12Kタンパク質に少なくとも40%の配列同一性を有し、そして1種はPVX8Kタンパク質に少なくとも40%の配列同一性を有する。別の態様では、ポテクスウイルスTGBの機能‐保存的変異体は3種のタンパク質をコードし、そのうちの1種はPVX25Kタンパク質に少なくとも50%の配列同一性を有し、1種はPVX12Kタンパク質に少なくとも50%の配列同一性を有し、そして1種はPVX8Kタンパク質に少なくとも50%の配列同一性を有する。別の態様では、対応する配列同一性値は、それぞれのタンパク質に対して60%である。別の態様では、対応する配列同一性値は、それぞれのタンパク質に対して70%である。
【0021】
別の態様では、ポテクスウイルスTGBの機能‐保存的変異体は以下の3種のタンパク質をコードし:第1のタンパク質は少なくとも200アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該セグメントはPVX25Kタンパク質の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有し;第2のタンパク質は少なくとも100アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該配列セグメントはPVX12Kタンパク質の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有し;そして第3のタンパク質は少なくとも55アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該配列セグメントはPVX8Kタンパク質の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有する。別の態様では、対応する配列同一性値は、それぞれのタンパク質に対して50%である。別の態様では、対応する配列同一性値は、第1、第2および第3のタンパク質のそれぞれに対して60%である。
【0022】
項目(ii)の核酸配列はポテクスウイルス外被タンパク質またはその機能‐保存的変異体のような、RNAレプリコンの細胞間移行に必要なタンパク質をコードする別の配列を含んでいてもよい。ポテクスウイルス外被タンパク質の変異体が、植物体において、または植物組織において細胞間移行能力を有するTGBのような他の必要な要素と一緒にRNAレプリコンを提供することが可能である場合、それは外被タンパク質の機能‐保存的変異体と見なされる。一態様では、RNAレプリコンがポテクスウイルス外被タンパク質(またはその機能‐保存的変異体)を含む場合、アセンブルした植物ウイルスの形状での植物から植物へのRNAレプリコンの拡散を避けるために、該RNAレプリコンはウイルス粒子アセンブリーの起点を持たない。RNAレプリコンがポテクスウイルス外被タンパク質遺伝子(またはその機能‐保存的変異体)およびTGB(またはその機能‐保存的変異体)を含む場合、該TGBは外被タンパク質遺伝子の上流に配置されるか、または逆であることが可能である。従って、ポテクスウイルス外被タンパク質遺伝子(またはその機能‐保存的変異体)およびTGB(またはその機能‐保存的変異体)は、項目(ii)の核酸配列においてどんな順番で存在してもよい。
【0023】
PVX外被タンパク質のコーディング配列はSEQ ID NO:7として示され、PVX外被タンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:8として示される。あるタンパク質が少なくとも200、あるいは少なくとも220、さらにあるいは237アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該配列セグメントがSEQ ID NO:8の配列セグメントに少なくとも35%の配列同一性を有する場合、それはポテクスウイルス外被タンパク質の機能‐保存的変異体と見なされうる。別の態様では、あるタンパク質が少なくとも200、あるいは少なくとも220、さらにあるいは237アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該配列セグメントがSEQ ID NO:8の配列セグメントに少なくとも45%の配列同一性を有する場合、それはポテクスウイルス外被タンパク質の機能‐保存的変異体と見なされる。代わりの態様では、対応する配列同一性値は55%または65%である。
【0024】
あるいは、項目(ii)の核酸配列は、付加的にポテクスウイルス外被タンパク質をコードする配列の代わりに、植物ウイルス移行タンパク質(MP)をコードする配列を含んでいてもよい。適切なMPの例としては、タバコモザイクウイルスのMPまたはターニップベインクリアリングウイルスMPのようなトバモウイルスMPが挙げられる。植物ウイルス移行タンパク質をコードする配列および上記ポテクスウイルスTGB(またはその機能‐保存的変異体)配列は項目(ii)の核酸配列においてどんな順番で存在してもよい。
【0025】
項目(iii)の非相同核酸配列は典型的には植物体において、または植物組織において発現されることになる関心のあるタンパク質のコーディング配列を含む。そのような項目(iii)のコーディング配列はまた、関心のある遺伝子として本明細書において言及される。項目(iii)の配列は、RNAレプリコンの根拠となる植物ウイルスに非相同である。多くの場合、該配列はまた、それが発現されることになる植物体または植物組織に対して非相同である。植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能である場合、項目(iii)の配列は典型的にはサブゲノムプロモーター、およびリボソーム結合部位および/または内部リボソーム進入部位(IRES)のような発現に必要な別の配列を含む。好ましい態様では、項目(iii)の非相同核酸配列は関心のある1種のタンパク質をコードする、関心のある1種の遺伝子を有する。
【0026】
本発明の核酸はポテクスウイルス5′‐非翻訳領域(5′‐NTR)およびポテクスウイルス3′‐非翻訳領域(3′‐NTR)を含んでいてもよい。
本発明のプロセスは植物体において、または植物組織において関心のある1種のタンパク質、または1種より多い関心のあるタンパク質を生産するために使用されうる。該プロセスは植物体、植物組織または植物細胞に本発明の核酸を提供する。本発明のプロセスは好ましくは植物体において、または植物組織において実施される。一態様では、該プロセスは一過性発現プロセスであり、従って本発明の核酸の植物宿主クロモソームDNAへの取込みは必要ではない。
【0027】
本発明の核酸がRNAである場合、それは、好ましくは感染した植物組織、たとえば葉部の機械的損傷と組み合わせて、植物体または植物組織を感染させるために使用されてもよい。別の態様では、本発明の核酸はDNAであり、そして該DNAは、たとえば粒子衝突(particle bombardment)によって、またはアグロバクテリウム‐媒介形質転換によって、植物体または植物組織の細胞に導入されてもよい。アグロバクテリウム‐媒介形質転換は、いくつかの植物が本発明の核酸を提供されることになる場合、すなわち大規模タンパク質生産法の場合、一般に好まれる方法である。
【0028】
本発明のプロセスは、プロベクター法(WO02088369;Marillonnet et al.,2004,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,101:6852−6857)を使用して、本発明の部品キットを植物体または植物組織に提供することによって実施されてもよい。本発明の核酸はその後、植物体の細胞においてプロベクター間の部位特異的組換えによって生産される。一態様では、項目(i)および(ii)のセグメントを含むか、またはコードする第1ベクター(プロベクター)および項目(iii)のセグメントを含むか、またはコードする第2ベクター(プロベクター)が植物体または植物組織に提供され、ここで第1および第2プロベクターそれぞれは、第1および第2プロベクター間の部位特異的組換えによって本発明の核酸のアセンブリーを可能にする組換え部位を有する。ベクターの混合物またはそれぞれの系統がベクターの1種を含むアグロバクテリウム系統の混合物を植物体または植物組織に提供することによって、2種以上のベクターが植物体または植物組織に提供されてもよい。
【0029】
関心のある1種以上のタンパク質は植物体または植物組織における生産後に精製されてもよい。植物体または植物細胞からタンパク質を精製する方法は当該技術分野で公知である。一方法では、WO03/020938に記載のように、関心のあるタンパク質は植物アポプラストに誘導され、そこから精製されてもよい。
【0030】
関心のある1種のタンパク質が生産されなければならない場合、関心のあるタンパク質をコードするヌクレオチド配列はRNAレプリコンをコードするヌクレオチド配列中に含まれていてもよい。関心のある2種以上のタンパク質が同じ植物体において、または同じ植物組織において生産されることになる場合、該植物体または植物細胞は第2の、または別のRNAレプリコンを含むか、またはコードする第2の核酸を提供されてもよい。その時、別のRNAレプリコンは関心のある1種以上の別のタンパク質をコードしてもよい。一態様では、本発明の第1および第2の核酸はWO2006/079546に記載の非競合RNAレプリコンを含むか、またはコードしてもよい。
【0031】
本発明は原則として感染性ポテクスウイルスが存在し、そしてウイルスベクター系が樹立されたいずれの植物体に適用されてもよい。一態様では、双子葉植物の植物体またはその組織もしくは細胞が使用される。別の態様では、ニコチアナベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)およびニコチアナタバクム(tabacum)のようなニコチアナ種が使用され;ニコチアナ種以外の好ましい植物種はペチュニアハイブリダ(Petunia hybrida)、ブラシカカンペストリス(Brassica campestris)、B.ジュンセア(juncea)、クレス(cress)、ルッコラ(arugula)、マスタード(mustard)、ストロベリースピナッチ(Srawberry spinach)、チェノポジウムカピタツム(Chenopodium capitatum)、アルファルファ、レタス、ヒマワリ、ジャガイモおよびキュウリである。本発明のRNAレプリコンが基礎を置いてもよい、最も好ましい植物RNAウイルスは、ジャガイモウイルスX(PVX)、パパイヤモザイクポテクスウイルスまたは竹モザイクポテクスウイルスのようなポテクスウイルスである。
【0032】
本発明の主要な適用は植物体、植物体葉部または植物組織もしくは細胞培養物における関心のあるタンパク質の生産である。本発明のプロセスが植物体において実施される場合、ニコチアナ種のような、ヒトまたは動物食物連鎖に入らない植物が好ましい。ヒトまたは動物の食物連鎖に入らない植物はオープンフィールドで栽培され、RNAレプリコンによる感染後一定期間内に収穫されうる。好ましくは、全植物体または植物部分は、所望された発現レベルを提供するために必要なインキュベーション期間中、たとえば温室、または設計されたチャンバーのような隔離された環境に閉じ込められるべきである。
【0033】
本発明の生産プロセスの効率は、植物発現系において新規な規模が獲得されるようなものである。本発明によって達成可能な発現レベルは、下流のプロセッシング(関心のあるタンパク質の分離および精製を含む)に対する消費が十分に低く、本発明のプロセスを他の大規模発現系に匹敵させるほどである。本発明は大規模スケールで使用されうる、最初の高収率ポテクスウイルス植物発現系を提供する。
発明の好都合な態様
従属する特許請求の範囲に記載されるか、または本明細書に記載される好ましい態様は組み合わせることができる。たとえば、本発明は以下のセグメント(i)〜(iii):
(i)ポテクスウイルスRNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的変異体をコードする核酸配列;
(ii)(a)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックまたはその機能‐保存的変異体
および
(b)ポテクスウイルス外被タンパク質またはその機能‐保存的変異体をコードする配列を含む核酸配列;ならびに
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸を提供し;
ここで、ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックの機能‐保存的変異体は以下の3種のタンパク質をコードし:第1のタンパク質は少なくとも200アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該タンパク質配列セグメントはSEQ ID NO:10の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有し;第2のタンパク質は少なくとも100アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該タンパク質配列セグメントはSEQ ID NO:12の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有し;そして第3のタンパク質は少なくとも55アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該タンパク質配列セグメントはSEQ ID NO:14の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有し;
ここで該ポテクスウイルス外被タンパク質の機能‐保存的変異体は少なくとも200アミノ酸残基の蛋白質配列セグメントを含み、該配列セグメントはSEQ ID NO:8の配列セグメントに少なくとも35%の配列同一性を有し;そしてここで項目(i)の配列は、少なくとも300アミノ酸残基、好ましくは少なくとも500アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも900アミノ酸残基、そして最も好ましくは少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内にSEQ ID NO:4によってコードされるタンパク質に少なくとも36%の配列同一性を有するタンパク質をコードする。
【0034】
上記の態様において示される配列同一性値は、本発明の一般的な説明に開示される、いっそう特定の同一性値および/またはより大きな配列セグメントによって交換することができる。さらに、上記の態様は従属する特許請求の範囲に定義されるか、またはこの説明に記載される好ましい態様と組み合わせることができる。上記の核酸はニコチアナ植物体またはニコチアナ植物組織もしくは細胞のような、植物体において、または植物組織において関心のある非相同核酸配列を発現するプロセスにおいて使用されてもよい。
【0035】
別の態様では、本発明は以下のセグメント(i)〜(iii):
(i)ポテクスウイルスRNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的変異体をコードする核酸配列;
(ii)(a)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックの機能‐保存的変異体および
(b)ポテクスウイルス外被タンパク質の機能‐保存的変異体をコードする配列;ならびに
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸を提供し;
ここで機能‐保存的変異体は先に定義した通りである。
発明の詳細な説明
本発明はポテクスウイルスに由来するRNAレプリコンの新規なデザインを記載し、該デザインは植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現されることになる関心のあるタンパク質の収率を改善する。本発明のプロセスはウイルス外被タンパク質の生産を減らし、結果としてウイルス粒子を少なく形成しうるため、慣用のポテクスウイルスに由来するRNAレプリコンより優れた生物学的に安全な特徴を有する。
【0036】
我々は驚くべくことに、関心のあるタンパク質をコードする非相同核酸配列(iii)に先行する外被タンパク質または非相同移行タンパク質のコーディング配列の位置が、ウイルス外被タンパク質を犠牲にして組換えタンパク質の収率を増すことを見いだしている。PVX外被タンパク質は全身移行だけでなく、トリプル遺伝子ブロックの他の3種のタンパク質と一緒に、細胞間(短距離)移行にとっても必要である(Yang et al.,2000,Mol.Plant Microbe Interact.,13:599−605;Fedorkin et al.,2001,J.Gen.Virol.,82:449−458)。本明細書では、PVX外被タンパク質の欠如がPVXに由来するRNAレプリコンの長距離(図1A、左側パネル)および細胞間(図1A、右側パネル)移行の欠陥を起こすことが示される(実施例1および図1を参照されたい)。細胞間移行はin transでPVX外被タンパク質(CP)またはトバモウイルス移行タンパク質、たとえばタバコモザイクウイルス(TMV)移行タンパク質(MP)を提供することによって回復されうる(実施例1A、右側パネル)。また、TVCV移行タンパク質を持つPVXに由来するRNAレプリコンは短距離(細胞間)移行が可能であることが示される(実施例2、図2)。実験は、in plantaでたとえばプロベクターのAttPおよびAttB部位間の部位特異的組換えを介して、RNAレプリコンのDNA前駆体のアセンブリーを可能にするプロベクター系(Marillonnet et al.,2004,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、101:6852−6857)を使用して実行された(図2B)。
【0037】
TVCV MP(pICH22939)またはPVX CPのいずれかを持つPVXに由来するRNAレプリコンの比較解析は実施例3に記載され、図3に示される。先に記載の場合のように、プロベクター系が使用された。関心のある遺伝子の前に位置するPVX CPがRNAレプリコンの細胞間移行を提供することは図3から明らかである。細胞間移行の効率は、GFPスポット(図3A)の明るさおよび密度からわかるようにTVCV MPによるものより著しく高い。
【0038】
本発明の別の態様では、関心のある遺伝子に先行するPVX CPの位置の効果が試験された。トリプル遺伝子ブロックの後のCPの位置は、PVX RNA依存的RNAポリメラーゼとトリプル遺伝子ブロック間のCPの位置よりいっそう効率的な細胞間移行を提供することは図4Aから明らかである。この実験ではプロベクター系が同様に使用された。関心のあるタンパク質(GFP)の発現レベルにおける差は、PVXに由来するRNAレプリコンを提供するプロベクターまたはアセンブルしたベクターが使用された場合の間で全く見いだされなかった(実施例5、図5を参照されたい)。我々が比較研究に、関心のある遺伝子の後にCPを含むRNAレプリコンを提供するベクターを含んだ場合、そのようなベクターに由来する関心のある遺伝子の発現レベル(GFP発現部分の明るさ)は、驚くべくことにCPが関心のある遺伝子の前に配置されたベクターと比較して著しく弱かった(pICH20799対pICH25488またはpICH25491、図6、実施例6)。
【0039】
実施例では、我々はPVXを基礎にしたRNAレプリコンを使用する。しかし、ポテクスウイルスに分類される群に属する他のウイルスは本発明に記載のRNAウイルスを基礎にしたベクターの構築のために使用されうる。本発明に使用可能なウイルス種には竹モザイクポテクスウイルス、パパイヤモザイクポテクスウイルス、アルテルナンテラ(alternanthera)モザイクポテクスウイルス、クローバーイエローモザイクウイルス、プランタン(plantain)ウイルスX、ホワイトクローバーモザイクウイルスおよびジャガイモ黄斑モザイクウイルスが挙げられるが、それらに限定されない。植物ウイルス移行タンパク質の詳細に関しては、WJ Lucasの最近の総説(2006,Vilogy,344:169−184)を参照されたい。
【0040】
1種の植物ウイルス、たとえばジャガイモウイルスX(PVX)に由来する1種のRNAレプリコンが本発明のプロセスに使用されてもよい。しかし、関心のある2種の異なるタンパク質を発現するために植物体において、または植物組織において2種以上の異なるRNAレプリコンが使用されてもよく、それに従ってそのような異なるRNAレプリコンは好ましくは異なる植物ウイルスに由来する。異なるRNAレプリコンが由来してもよい異なる植物ウイルスは、好ましくは相乗的または非競合ウイルスである。「相乗的」または「非競合」は本明細書では同じ意味に使用される。相乗的ウイルスは同じ植物細胞において同時に存在し、そして効率的に増殖しうる。同様に、相乗的ウイルスに由来するRNAレプリコンは同じ植物細胞に存在し、効率的に増殖しうる。そのようなRNAレプリコンの相乗的ペアの例としては、1種のRNAレプリコンはTMVまたはTVCVに由来し、そして他のRNAレプリコンはPVXのようなポテクスウイルスに由来するRNAレプリコンのペアが挙げられる。同じ植物細胞において、相乗的RNAレプリコンは、関心のある2種以上のタンパク質またはタンパク質サブユニット、たとえばモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の発現に使用されてもよい。同じ植物体において、または植物細胞において、異なる(非競合)ウイルスベクターを使用した関心のある2種以上のタンパク質を発現するプロセスはEP1686176に記載される。
【0041】
実施例では、我々は主として植物細胞におけるウイルスベクターのアグロバクテリウム‐媒介送達を使用した。植物体の安定な形質転換に通常使用される種々の他の方法、たとえばマイクロプロジェクタイルボンバードメント(microprojectile bombardment)、エレクトロポレーション(electroporation)またはプロトプラストのPEG‐媒介形質転換による植物細胞への非相同ヌクレオチド配列の直接導入が細胞へのベクターの送達に使用されてもよい。アグロバクテリウム‐媒介植物形質転換が好ましい。従って、非相同ヌクレオチド配列はアグロバクテリウムによって運ばれるTi‐プラスミドベクター(US5,591,616;US4,940,838;US5,464,763)、パーティクルまたはマイクロプロジェクタイルボンバードメント(US05100792;EP00444882B1;EP00434616B1)によってのような種々の技術によって植物細胞に形質転換されてもよい。原則として、他の植物形質転換法、たとえばマイクロインジェクション(WO09209696;WO09400583A1;EP175966B1)、エレクトロポレーション(EP00564595B1;EP00290395B1;WO08706614A1)などが同様に使用されてもよい。形質転換法の選択は、とりわけ形質転換されることになる植物種に依存する。たとえば、マイクロプロジェクタイルボンバードメントは単子葉植物の形質転換に好ましくてもよいが、双子葉植物の場合はアグロバクテリウム‐媒介形質転換が一般により良い結果を与える。
【0042】
本発明は好ましくは、より高等の多細胞植物により実行される。本発明における使用に好ましい植物は、栽培学的および園芸学的に重要な種として好ましい、いずれの植物種も含む。本発明における使用のための一般的な栽培植物には、アルファルファ、オオムギ、インゲンマメ、カノラ、ササゲ、ワタ、トウモロコシ、クローバー、ハス、レンズマメ、ウチワマメ、キビ、オートムギ、エンドウマメ、ラッカセイ、コメ、ライムギ、シナガワハギ、ヒマワリ、スイートピー、ダイズ、モロコシ、ライコムギ、クズイモ、ダーリングカズラ、カラスノエンドウ、コムギ、フジおよびナッツ植物が挙げられる。本発明を実行するために好ましい植物種は以下のものを含むがそれらに限定されない:
イネ科、キク科、ナス科およびバラ科の中の代表種。付加的に、先に特定したものに加えて、本発明における使用のための好ましい種、以下の属由来の植物:アラアビドプシス(Arabidopsis)、アグロスティス(Agrostis)、アリウム(Allium)、アンチリニューム(Antirrhinum)、アピウム(Apium)、アラキス(Arachis)、アスパラガス(Asparagus)、アトロパ(Atropa)、アベナ(Avena)、バンブサ(Bambusa)、ブラシカ(Brassica)、ブロムス(Bromus)、ブロワアリア(Browaalia)、カメリア(Camellia)、カンナビス(Cannabis)、カプシクム(Capsicum)、シサー(Cicer)、ケノポジウム(Chenopidium)、チコリウム(Chichorium),シトラス(Citrus),コフェア(Coffea)、コイクス(Coix)、ククムス(Cucumus)、クルクビタ(Curcubita)、シノドン(Cynodon)、ダクチリス(Dactylis)、ダツラ(Datura)、ダウクス(Daucus)、ジギタリス(Digitalis)、ディオスコレア(Dioscorea)、エラエイス(Elaeis)、エレウシン(Eleusine)、フェスチュカ(Festuca)、フラガリア(Fragaria)、ゼラニウム(Geranium)、グリシン(Glycine)、ヘリアンスス(Helianthus)、ヘテロカリス(Heterocallis)、ヘベア(Hevea)、ホルデューム(Hordeum)、ヒオスシアムス(Hyoscyamus)、イポモエア(Ipomoea)、ラクツカ(Lactuca)、レンズ(Lens)、リリウム(Lilium)、リヌム(Linum)、ロリウム(Lolium)、ロータス(Lotus)、リコペルシコン(Lycopersicon)、マジョラナ(Majorana)、マルス(Malus)、マンギフェラ(Mangifera)、マニホット(Manihot)、メディカゴ(Medicago)、ネメシア(Nemesia)、ニコチアナ(Nicotiana)、オノブリキス(Onobrychis)、オリザ(Olyza)、パニクム(Panicum)、ペラルゴニウム(Pelargonium)、ペンニセツム(Pennisetum)、ペチュニア(Petunia)、ピスム(Pisum)、ファセオルス(Phaseolus)、フレウム(Phleum)、ポア(Poa)、プルヌス(Prunus)、ラヌンクルス(Ranunculus)、ラファヌス(Raphanus)、リベス(Ribes)、リシヌス(Ricinus)、ルブス(Rubus)、サッカルム(Saccharum)、サルピグロッシス(Salpiglossis)、セカレ(Secale)、セネシオ(Senecio)、セタリア(Setaria)、シナピス(Sinapis)、ソラヌム(Solanum)、ソルガム(Sorghum)、ステノタフルム(Stenotaphrum)、テオブロマ(Theobroma)、トリフォリウム(Trifolium)、トリゴネラ(Trigonella)、トリチクム(Triticum)、ビシア(Vicia)、ビグラ(Vigra)、ビチス(Vitis)、ゼア(Zea)、およびオリレアエ(Olyreae)、ファロイデアエ(Pharoideae)および他の多くの植物種。
【0043】
本発明のプロセスのある特定の態様では、PVXに由来するRNAレプリコンはニコチアナ植物体と一緒に使用される。
本発明を使用して、センスまたはアンチセンスオリエンテーションにおいて発現されうる、関心のあるタンパク質またはそのフラグメントには以下のものが挙げられる:デンプン改変酵素(デンプンシンターゼ、デンプンリン酸化酵素、枝切り酵素、デンプン枝作り酵素、デンプン枝作り酵素II、顆粒結合デンプンシンターゼ)、スクロースホスフェートシンターゼ、スクロースホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ポリフルクタンスクラーゼ、ADPグルコースピロホスホリラーゼ、シクロデキストリン、グリコシルトランスフェラーゼ、フルクトシルトランスフェラーゼ、グリコーゲンシンターゼ、ペクチンエステラーゼ、アプロチニン、アビジン、細菌レバンスクラーゼ、大腸菌glgAタンパク質、MAPK4およびオルソログ、窒素同化/代謝酵素、グルタミンシンターゼ、植物オスモチン、2Sアルブミン、ソーマチン(thaumatin)、部位特異的レコンビナーゼ/インテグラーゼ(FLP、Cre、Rレコンビナーゼ、Int、SSVIインテグラーゼR、インテグラーゼphiC31、またはその活性フラグメントもしくは変異体)、イソペンテニルトランスフェラーゼ、ScaM5(ダイズカルモジュリン)、鞘翅目型トキシンもしくは殺虫として活性なフラグメント、ユビキチン結合酵素(E2)融合タンパク質、脂質、アミノ酸、糖、核酸および多糖を代謝する酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、プロテアーゼの不活性なプロ酵素型、植物タンパク質トキシン、繊維生産植物において形質を変換する繊維(trait altering fiber)、バチルスチューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来の鞘翅目活性トキシン(Bt2トキシン、殺虫性結晶タンパク質(ICP)、CrylCトキシン、デルタエンドトキシン、ポリオペプチドトキシン、プロトキシンなど)昆虫特異的トキシンAalT、セルロース分解酵素、アシドサームスセルロチクス(Acidothermus celluloticus)由来のE1セルラーゼ、リグニン修飾酵素、シンナモイルアルコールデヒドロゲナーゼ、トレハロース−6−ホスフェートシンターゼ、サイトカイニン代謝経路の酵素、HMG−CoAレダクターゼ、大腸菌無機ピロホスファターゼ、種子貯蔵タンパク質、エルウィニアヘルビコラ(Erwinia herbicola)リコペンシンターゼ、ACCオキシダーゼ、pTOM36にコードされたタンパク質、フィターゼ、ケトヒドロラーゼ、アセトアセチルCoAレダクターゼ、PHB(ポリヒドロキシブタノエート)シンターゼ、アシルキャリアタンパク質、ナピン、EA9、非高等植物フィトエンシンターゼ、pTOM5にコードされたタンパク質、ETR(エチレン受容体)、プラスチジックピルベートホスフェートジキナーゼ、線虫‐誘導性膜貫通ポアタンパク質、植物細胞の光合成または色素体機能を高める形質、スチルベンシンターゼ、フェノールを水酸化することが可能な酵素、カテコールジオキシゲナーゼ、カテコール2,3−ジオキシゲナーゼ、クロロムコネートシクロイソメラーゼ、アンスラニレートシンターゼ、ブラシカ(Brassica)AGL15タンパク質、フルクトース1,6−ビホスファターゼ(FBPアーゼ)、AMV RNA3、PVYレプリカーゼ、PLRVレプリカーゼ、ポチウイルス外被タンパク質、CMV外被タンパク質、TMV外被タンパク質、ルテオウイルスレプリカーゼ、MDMVメッセンジャーRNA、変異体ジェミニウイルスレプリカーゼ、ウンベルラリアカリホルニカ(Umbellularia californica)C12:0嗜好性アシル‐ACPチオエステラーゼ、植物C10またはC12:0嗜好性アシル‐ACPチオエステラーゼ、C14:0嗜好性アシル‐ACPチオエステラーゼ(luxD)、植物シンターゼ因子A、植物シンターゼ因子B、6−デサチュラーゼ、植物細胞における脂肪酸のペルオキシソーム‐酸化において酵素活性を有するタンパク質、アシル‐CoAオキシダーゼ、3−ケトアシル‐CoAチオラーゼ、リパーゼ、トウモロコシ(maize)アセチル‐CoAカルボキシラーゼ、5−エノールピルビルシキメート−3−ホスフェートシンターゼ(EPSP)、ホスフィノトリシンアシルトランスフェラーゼ(BAR、PAT)、CP4タンパク質、ACCデアミナーゼ、リボザイム、翻訳後開裂部位を有するタンパク質、Gal4転写アクチベーターのDNA‐結合ドメインおよび転写活性化ドメインからなるタンパク質融合物、脂質相に融合タンパク質を指向させることが可能な関心のあるタンパク質とオレオシンタンパク質の翻訳融合物、スルホンアミド抵抗性を与えるDHPS遺伝子、細菌ニトリラーゼ、2,4−Dモノオキシゲナーゼ、アセトラクテートシンターゼまたはアセトヒドロキシ酸シンターゼ(ALS、AHAS)、ポリガラクツロナーゼ、細菌ニトリラーゼ、色素体の内側エンベロープ膜に存在する成熟ホスフェートトランスロケ−タータンパク質のアミノ末端疎水性領域と該膜に指向することになる関心のあるタンパク質の融合物。
【0044】
任意のヒトまたは動物タンパク質は本発明の系を使用して発現されうる。関心のあるそのようなタンパク質の例としては、とりわけ、以下のタンパク質(薬剤的タンパク質)が挙げられる:免疫反応タンパク質(モノクローナル抗体、1本鎖抗体、T細胞受容体など)、抗原、コロニー刺激因子、レラキシン、ポリペプチドホルモン、サイトカインおよびそれらの受容体、インターフェロン、成長因子および凝固因子、酵素的に活性なリソソーム酵素、線維素溶解ポリペプチド、血液凝固因子、トリプシノーゲン、1−抗トリプシン(AAT)、並びに上記タンパク質の融合物のような機能‐保存的タンパク質,変異体型および合成誘導体。
【0045】
2006年9月6日に出願された欧州特許出願第06 018 713.5号の優先権は本特許出願によって主張され、その内容はそのまま参照として本明細書に援用される。
実施例
実施例1
CPを欠くPVXコンストラクトは細胞間移行をしない
GFP遺伝子を含むPVXコンストラクト(pA3151)はYuri Dorokhov教授(Moscow State University、Russia)から得た。このコンストラクトは、GFPコーディング配列を含むNhel−SallフラグメントをNhelおよびSallによって消化されたpPVX201にクローニングし(Baulcombe,D.,Chapman,S. & Santa Cruz,S,1995,Plant J.,:1045−1053)、そして得られたコンストラクトからHind3−Saclフラグメント(全ウイルスインサートおよびGFP遺伝子を含む)をpBIN19にサブクローニングすることによって作製された。ウイルスインサートは次にpA3151からSacl−SphlフラグメントとしてpICBV52(小さいpBIN19−を基礎にしたKanバイナリーベクター)にサブクローニングされた。このコンストラクトは35Sプロモーターの制御下でクローニングされたPVXコンストラクトを含む(図1B)。GFPコーディング配列は複製されたCPサブゲノムプロモーター(sgc)から発現され、トリプル遺伝子ブロック(TGB)とCPコーディング配列間に配置される。GFP上流の複製されたサブゲノムプロモーターフラグメントもCP開始コドンを含んでいたため、開始コドンはATGからAGGへの突然変異によって除去された。
【0046】
CPを欠如する対照コンストラクトはCP遺伝子およびそのサブゲノムプロモーターを(欠失エンドポイントを重複するプライマーの1種を用いたPCRを使用して)欠失させることによってpICH20799(図1B)から作製された。得られたコンストラクト、pICH21333(図1B)はアグロバクテリウムに形質転換し、ニコチアナベンサミアナ葉部に浸潤させた。予想したように、ウイルスレプリコンは細胞間、または全身に移行することが不可能であった。レプリコンの移行は、それぞれTVCV MPまたはPVX CPの一過性発現を提供するコンストラクトpICH10745またはpICH22066と一緒にpICH21333を同時浸潤させた場合、レスキューされた(図1A)。pICH10745またはpICH22066コンストラクトは、35Sプロモーターの制御下で、それぞれTVCV MPまたはPVX CPコーディング配列を含む。
【0047】
実施例2
TGBと関心のある遺伝子間にクローニングされたTVCV遺伝子を持つPVXレプリコンは細胞間移行が可能である
TVCV MPはPVX CPを欠くPVXレプリコンに細胞間移行を提供することが可能であるため、TVCV MP遺伝子は複製されたCPサブゲノムプロモーターの制御下でPVXコンストラクトにおいてトリプル遺伝子ブロックと関心のある遺伝子(この場合GFP)間にクローニングされた。実際上の理由のために、このコンストラクト(pICH22939、図2BおよびSEQ ID NO:1)は、5′ウイルスベクター配列に融合した35Sプロモーターを含むが、関心のある遺伝子のコーディング配列を含むコンストラクトの3′部分とPVX3′NTRを欠く5′プロベクターモジュールとして作製された。組換え部位(ストレプトミセスファージC31 AttP部位)およびイントロン配列がウイルスコンストラクト配列に続く。3′プロベクターモジュール、pICH21282 図2B)は、適合した組換え部位(ストレプトミセスファージC31 AttB組換え部位)を含み、イントロン配列、GFP遺伝子およびPVX NTRが続く。コンストラクトの5′および3′部分はin vivoで、5′および3′モジュール、ならびにPhiC31レコンビナーゼを含むアグロバクテリアの同時浸潤による組換え部位での部位特異的組換えによってアセンブルされる(pICH10881、アラビドプシスACT2プロモーターの制御下でPhiC31レコンビナーゼを含む、Marillonnet et al.,2005,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,101:6852−6857を参照されたい)。植物細胞への5′および3′モジュールのT−DNA送達およびAttPおよびAttB部位における組換え後、組み換えられたDNAは35Sプロモーターから転写される。組換え部位は隣接するイントロン配列のスプライシングにより転写物から切り取られ、スプライシングされた転写物は核から細胞質に運ばれ、そこで通常のウイルスRNAレプリコンとして増幅される。
【0048】
対照プロベクターコンストラクト(pICH22922、TVCV MP配列を持たない5′プロベクター)と3′プロベクターpICH21282との浸潤は、細胞間移行が不可能なレプリコンの形成を導いた。対照的に、pICH22939の浸潤は細胞間移行が可能なレプリコンを導いた(図2A)。
【0049】
TMVは他のウイルスタンパク質を必要とせずにTMVレプリコンに細胞間移行を提供することが可能であるため、12Kおよび8Kタンパク質が欠失された第2のPVXコンストラクトが作製され、コンストラクトpICH22953を生み出した(図2BおよびSEQ ID NO:2)。この場合、TMV MPは12Kサブゲノムプロモーター(sg12)から発現される。pICH21282とpICH22953の浸潤は細胞間移行が可能なレプリコンを導いた。しかし、細胞間移行およびGFP蛍光はコンストラクトpICH22939を使用した場合より多くも強くもなかった(図2)。
【0050】
実施例3
TGBと関心のある遺伝子間にクローニングされたPVX CPを持つPVXベクターは細胞間移行が可能である。
【0051】
pICH22939に類似するが、TVCV MPと入れ換えてPVX CPを持つコンストラクトが作製された。このコンストラクトの配列は、ウイルスの5′末端からCPの末端に至るまで野生型ウイルスの配列と同じである。CPの後に、複製されたCPサブゲノムプロモーターが続き、それが関心のある遺伝子の発現に使用される。このコンストラクト、pICH22988(図3B)とpICH21282(図2B)との浸潤は、pICH22939から生産されたレプリコンよりずっと速く細胞間を移行し、そしてより明るいGFP蛍光を発するレプリコンの形成を導いた(図3A)。
【0052】
実施例4
RdRPとTGB間にクローニングされたPVX CP遺伝子を持つPVXベクターは細胞間移行が可能である。
【0053】
PVX CP遺伝子は複製された25Kサブゲノムプロモーター(sg25)の制御下で、RdRPとトリプル遺伝子ブロック間にクローニングされ、コンストラクトpICH24180(図4B、SEQ ID NO:3)を生み出した。pICH21282およびインテグラーゼ供給源(pICH10881)と組み合わせたpICH24180の浸潤は細胞間移行が可能なウイルスレプリコンの形成を導いた(図4A)。対照実験では、コンストラクトpICH22577(pICH22922に類似するが、いくつかの制限部位が異なる)がpICH24180の代わりに浸潤し、予想されたように細胞間移行を全く示さなかった。pICH22988に関してのように、pICH24180からのGFP蛍光は、コンストラクトpICH22939によるものより強かった。
【0054】
実施例5
CPを含む完全にアセンブルしたベクターPVXウイルスベクターも細胞間移行を提供する。
【0055】
GFP部分を持つ3′プロベクター(pICH21282、図2B)を含むプロベクターpICH22988またはpICH24108に対応するアセンブルしたコンストラクトが作製され、それぞれプラスミドpICH25488およびpICH25491を生み出した(図5B)。pICH25488およびpICH25491のT−DNA領域のヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO:5およびSEQ ID NO:6として示された。両方のコンストラクトは、予想されたように、プロベクターのように働くことが見いだされ、細胞間移行および強いGFP蛍光を提供した(図5A)。GFP蛍光は、CP遺伝子が関心のある遺伝子の後に配置される標準コンストラクト(pICH20799)によるものよりもいっそう強く、より多い組換えタンパク質の発現を示唆した〈図6A〉。クーマシー−染色したタンパク質ゲルは、pICH20799からより、pICH25491とpICH25488からはるかに多い量のGFPタンパク質が発現されたこと、対照的に、他の2種のコンストラクトからより、pICH20799からはるかに多い量のPVX CPが生産されたことを示した。
【0056】
実施例6
PVXクローニングベクター
RdRPとTGBの間、またはTGBと関心のある遺伝子間にCPを持つ2種の型のPVXクローニングベクターの概要が示される。CS:クローニング部位。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】A−異なるPVXベクターによるアグロ‐浸潤後UV光下でモニターされたN.ベンサミアナ植物体(左側写真)および植物体葉部(右側写真)。35S−PVX−CP:CaMV 35Sプロモーターの制御下でPVX外被タンパク質(CP)を提供するベクター;35S−TVCV MP:CaMV 35Sプロモーターの制御下でトバモウイルスのターニップベインクリアリングウイルス(TVCV)移行タンパク質(MP)を提供するベクター。B−コンストラクトpICH20799およびpICH21333のT−DNA領域の概要。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;GFP:クラゲ緑色蛍光タンパク質;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;RB:T−DNA右側境界;LB:T−DNA左側境界。棒引きされたATGは、ATGコドンが翻訳開始を妨害するために示された位置で変異したことを意味する。
【図2】異なるPVXプロベクターモジュールを使用したGFPの発現。A−3′プロベクターpICH21282と組み合わせた異なる5′PVXプロベクターによるアグロ‐浸潤後、およびウイルスレプリコンをコードするDNAの部位特異的組換えによって媒介されるアセンブリーを提供するファージC31インテグラーゼの存在下で、UV光下でモニターされたN.ベンサミアナ葉部。5′プロベクター(たとえば、pICH22922;pICH22942など)だけが接種スポットをマークする。35S−TVCV MP:CaMV 35Sプロモーターの制御下でトバモウイルスのターニップベインクリアリングウイルス(TVCV)移行タンパク質(MP)を提供するベクター。写真は浸潤後7日目(7dpi)に撮られた。浸潤に使用されるアグロバクテリウム懸濁液は発現レベルの差の肉眼的検出を可能にする発現レベルを達成するために10倍に希釈された。BはプラスミドpIC22922、pICH22939、pICH22942、pICH22953およびpICH21282のT−DNA領域を示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;25K(trunk):25Kタンパク質をコードする切断された遺伝子;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;GFP:クラゲ緑色蛍光タンパク質;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;int:植物体イントロンの5′末端;AttPおよびAttB:ファージC31の部位特異的インテグラーゼによって認識される配列。
【図3】植物組織において細胞間移行を提供しない(pICH22922)または提供する(pICH22939またはpICH22988)PVXプロベクターモジュールを使用したGFP発現の比較。A−3′プロベクターpICH21282と組み合わせた異なる5′PVXプロベクターによるアグロ‐浸潤後、およびウイルスレプリコンをコードするDNAの部位特異的組換えによって媒介されるアセンブリーを提供するファージC31インテグラーゼの存在下で、UV光下でモニターされたN.ベンサミアナ葉部。写真は浸潤後7日目(7dpi)に撮られた。浸潤に使用されるアグロバクテリウム懸濁液は示したように10または10倍に希釈された。B−プラスミドpIC22922、pICH22939およびpICH22988、pICH22953およびpICH21282のT−DNA領域を示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;25K(trunk):25Kタンパク質をコードする切断された遺伝子;TVCV MP:トバモウイルスターニップベインクリアリングウイルス移行タンパク質;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;GFP:クラゲ緑色蛍光タンパク質;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;int:植物体イントロンの5′末端;AttPおよびAttB:ファージC31の部位特異的インテグラーゼによって認識される配列。
【図4】細胞間移行を提供しない(pICH22577)または提供する(pICH22988またはpICH242180)PVXプロベクターモジュールを使用したGFP発現の比較。A−3′プロベクターpICH21282と組み合わせた異なる5′PVXプロベクターによるアグロ‐浸潤後、およびウイルスレプリコンをコードするDNAの部位特異的組換えによって媒介されるアセンブリーを提供するファージC31インテグラーゼの存在下で、UV光下でモニターされたN.ベンサミアナ葉部。写真は浸潤後7日目(7dpi)に撮られた。浸潤に使用されるアグロバクテリウム懸濁液は示したように10または10倍に希釈された。B−プラスミドpIC22577、pICH22988およびpICH24180のT−DNA領域を示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;sg25:25K遺伝子のサブゲノムプロモーター;int:植物体イントロンの5′末端;AttP:ファージC31の部位特異的インテグラーゼによって認識される配列。
【図5】GFP遺伝子の前の異なる位置に配置されたCPを持つ異なるPVX発現カセット(プロベクターモジュールおよびアセンブルしたベクター)を使用したGFP発現。A−3′プロベクターpICH21282と組み合わせた、アセンブルしたウイルスベクターpICH25491、pICH25488または異なる5′PVXプロベクター(pICH22980またはpICH24180)によるアグロ‐浸潤後、およびウイルスレプリコンをコードするDNAの部位特異的組換えによって媒介されるアセンブリーを提供するファージC31インテグラーゼの存在下で、UV光下でモニターされたN.ベンサミアナ葉部。写真は浸潤後7日目に撮られた。浸潤に使用されるアグロバクテリウム懸濁液は10倍に希釈された。B−プラスミドpIC22988、pICH25491、pICH25488およびpICH24180のT−DNA領域を示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;sg25:25K遺伝子のサブゲノムプロモーター;int:植物体イントロンの5′末端;AttP:ファージC31の部位特異的インテグラーゼによって認識される配列。
【図6】GFP遺伝子の前の異なる位置に配置されたCPを持つアセンブルしたPVX発現カセットを使用したGFPの発現。A−アセンブルしたウイルスベクターpICH25491、pICH25488およびpICH20799によるアグロ‐浸潤後、10日目(左側パネル)および16日目(右側パネル)にUV光下でモニターされたN.ベンサミアナ葉部。浸潤に使用されるアグロバクテリウム懸濁液は10倍に希釈された。B−プラスミドpIC20799、pICH25491、およびpICH25488のT−DNA領域を示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;sg25:25K遺伝子のサブゲノムプロモーター。
【図7】複数のクローニング部位(CS)を持つPVXクローニングベクターを示す。PVX Pol:ジャガイモウイルスX RNA‐依存的RNAポリメラーゼ;35S:CaMV 35Sプロモーター;25K、12K、8K:トリプル遺伝子ブロック;CP:PVX外被タンパク質;PVX ntr:PVX非翻訳領域;sgc:外被タンパク質遺伝子のサブゲノムプロモーター;sg25:25K遺伝子のサブゲノムプロモーター。
【図8】pICH25491のマップを示す。pICH25491のT−DNA領域のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:6において示される。
【図9】pICH25488のマップを示す。pICH25488のT−DNA領域のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:5において示される。
【図5A】

【図5B】

【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のセグメント(i)〜(iii):
(i)ポテクスウイルスRNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的変異体をコードする核酸配列;
(ii)(a)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックもしくはその機能‐保存的変異体および
(b)ポテクスウイルス外被タンパク質もしくはその機能‐保存的変異体をコードする配列;またはトバモウイルス移行タンパク質をコードする配列を含む配列;ならびに
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸。
【請求項2】
ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックの機能‐保存的変異体が以下の3種のタンパク質:SEQ ID NO:10の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有する、少なくとも200アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントを含む第1のタンパク質;SEQ ID NO:12の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有する、少なくとも100アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントを含む第2のタンパク質;およびSEQ ID NO:14の配列セグメントに少なくとも40%の配列同一性を有する、少なくとも55アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントを含む第3のタンパク質をコードする、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックの機能‐保存的変異体が3種のタンパク質をコードし:その中の1種はSEQ ID NO:10に少なくとも33%の配列同一性を有し;1種はSEQ ID NO:12に少なくとも36%の配列同一性を有し;そして1種はSEQ ID NO:14に少なくとも30%の配列同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項4】
ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックの機能‐保存的変異体が3種のタンパク質をコードし:その中の1種はSEQ ID NO:10に少なくとも50%の配列同一性を有し;1種はSEQ ID NO:12に少なくとも50%の配列同一性を有し;そして1種はSEQ ID NO:14に少なくとも50%の配列同一性を有する、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
ポテクスウイルス外被タンパク質の機能‐保存的変異体が少なくとも200アミノ酸残基のタンパク質配列セグメントを含み、該配列セグメントがSEQ ID NO:8の配列セグメントに少なくとも35%の配列同一性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項6】
項目(i)の配列が、少なくとも300アミノ酸残基、好ましくは少なくとも500アミノ酸残基、いっそう好ましくは少なくとも900アミノ酸残基、そして最も好ましくは少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、SEQ ID NO:4によってコードされたタンパク質に少なくとも36%の配列同一性を有するタンパク質をコードする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項7】
項目(i)の配列が、少なくとも300アミノ酸残基、好ましくは少なくとも500アミノ酸残基、いっそう好ましくは少なくとも900アミノ酸残基、そして最も好ましくは少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、SEQ ID NO:4によってコードされたタンパク質に少なくとも45%の配列同一性を有するタンパク質をコードする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項8】
項目(i)の配列が、少なくとも300アミノ酸残基、好ましくは少なくとも500アミノ酸残基、いっそう好ましくは少なくとも900アミノ酸残基、最も好ましくは少なくとも1400アミノ酸残基のタンパク質配列セグメント内に、SEQ ID NO:4によってコードされたタンパク質に少なくとも50%の配列相同性を有するタンパク質をコードする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項9】
項目(i)の核酸配列が、少なくとも900ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1500ヌクレオチド、いっそう好ましくは少なくとも2700ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも4200ヌクレオチドの配列セグメント内に、SEQ ID NO:4に対して少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%の配列同一性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項10】
レプリコンがポテクスウイルスレプリコン、好ましくはジャガイモイルスXに、竹モザイクポテクスウイルスに、またはパパイヤモザイクポテクスウイルスに由来するレプリコンである、請求項1〜9に記載の核酸。
【請求項11】
レプリコンがウイルス粒子アセンブリーの起点を持たない、請求項1〜10に記載の核酸。
【請求項12】
以下の群:項目(i)の上流の植物細胞において活性な転写プロモーター、ウイルスサブゲノムプロモーター、ポテクスウイルス5′または3′非翻訳領域から選択される配列を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の核酸。
【請求項13】
項目(a)および(b)が項目(ii)の核酸配列においてどんな順番でもあり得る、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項14】
項目(ii)においてポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックまたはその機能‐保存的変異体がポテクスウイルス外被タンパク質遺伝子もしくはその機能‐保存的変異体の上流に位置するか、または逆である、請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
トバモウイルス移行タンパク質がタバコモザイクウイルスもしくはターニップベインクリアリングウイルス(turnip vein clearing virus)の移行タンパク質または移行タンパク質の機能‐保存的変異体である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の核酸の相補的配列を含む、核酸。
【請求項17】
以下のセグメント(i)〜(iii):
(i)ポテクスウイルスRNA‐依存的RNAポリメラーゼまたはその機能‐保存的変異体をコードする核酸配列;
(ii)(a)ポテクスウイルストリプル遺伝子ブロックおよび
(b)ポテクスウイルス外被タンパク質をコードする配列;またはトバモウイルス移行タンパク質をコードする配列を含む核酸配列;ならびに
(iii)植物体において、または植物組織においてRNAレプリコンから発現可能な非相同核酸配列をこの順序において含む、該レプリコンを含むか、またはコードする核酸。
【請求項18】
部位特異的組換えによって植物細胞に請求項1〜16のいずれか1項に記載の核酸をアセンブルすることが可能な、少なくとも2種のベクターを含む部品キット。
【請求項19】
少なくとも2種のベクターを含む請求項18に記載の部品キットであって、第1のベクターは請求項1〜15のいずれか1項に記載の項目(i)および(ii)のセグメントを含むか、またはコードし、そして第2のベクターは請求項1〜15のいずれか1項に記載の項目(iii)のセグメントを含むか、またはコードし、ここで第1および第2ベクターはそれぞれ、部位特異的組換えによって請求項1〜15のいずれか1項に記載の核酸のアセンブリーを可能にする組換え部位を有する、キット。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の核酸を植物体または植物組織に提供することを含む、植物体において、または植物組織において関心のある非相同核酸配列を発現するプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−502203(P2010−502203A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527057(P2009−527057)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007785
【国際公開番号】WO2008/028661
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(507254997)アイコン・ジェネティクス・ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】