説明

ポリアセタール樹脂組成物の製造方法

【課題】導電性炭素材料を含むマスターバッチを調製することなく、平均径が5から500nmであり、平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料とポリアセタール樹脂とを、2軸押出機で直接溶融混練して、高導電性且つ高強度のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料とポリアセタール樹脂とを2軸押出機により溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を製造する際に、2軸押出機内の上流側に可塑化部を備え、可塑化部の下流側に混練部を備え、混練部の少なくとも一部が溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向(上流方向)にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂と導電性炭素材料とを溶融混練するポリアセタール樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、そのバランスの取れた機械的性質と優れた摺動性から、OA機器や各種精密機器に用いられる部品の材料として広く使用されている。しかし、ポリアセタール樹脂は電気絶縁体であるため、摺動の際に発生する静電気の除去性能に劣り、静電気の発生が問題となる用途では使用しにくい問題がある。
【0003】
かかる問題を解消するために、ポリアセタール樹脂に、カーボンナノチューブ等の導電性の微小な炭素材料を配合して、ポリアセタール樹脂に導電性を付与する方法が多数提案されている。
【0004】
ポリアセタール樹脂材料への種々の添加剤、充填剤の配合は通常、2軸押出機によって行われることが多い。しかし、二軸押出機を用いる常法に従って、ポリアセタール樹脂にカーボンナノチューブ等の導電性の充填材を配合した場合には、導電性の充填材が樹脂中に十分に分散しないため、抵抗率の低いポリアセタール樹脂組成物を得にくいばかりか、ポリアセタール樹脂組成物が十分な機械的性質を発現しないという問題がある。
【0005】
かかる導電性の充填材の分散性の問題を改良する方法として、例えば、カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブと分散性改良剤とを含むマスターバッチとして用いて、ポリアセタール樹脂とカーボンナノチューブとを2軸押出機等で溶融混練する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、一旦マスターバッチを製造する必要があるため、ポリアセタール樹脂組成物の製造工程が煩雑なものとなり、ポリアセタール樹脂組成物の製造コストがかさむ問題がある。
【0007】
このため、2軸押出機にて、直接、ポリアセタール樹脂とカーボンナノチューブ等の導電性の充填材を直接溶融混練して、導電性及び機械的性質に優れたポリアセタール樹脂組成物を製造する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−084604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、導電性炭素材料を含むマスターバッチを調製することなく、平均径が5から500nmであり、平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料とポリアセタール樹脂とを、2軸押出機で直接溶融混練して、高導電性且つ高強度のポリアセタール樹脂組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料とポリアセタール樹脂とを2軸押出機により溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を製造する際に、2軸押出機内の上流側に可塑化部を備え、可塑化部の下流側に混練部を備え、混練部の少なくとも一部が溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向(上流方向)にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機を用いることにより、導電性及び強度に優れたポリアセタール樹脂組成物を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 押出方向の上流端部にポリアセタール樹脂供給口及び導電性炭素材料供給口を備え、バレル内に、押出方向の上流側に配置される可塑化部と、可塑化部の下流側に配置される混練部とを備え、前記混練部の少なくとも一部が、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機を用いて、ポリアセタール樹脂と、平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料と、を溶融混練するポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【0012】
(2) 前記混練部において、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントが配置されている長さの合計が、L/Dで2.0から10.0である、(1)記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【0013】
(3) 前記導電性炭素材料の使用量が、前記ポリアセタール樹脂と前記導電性炭素材料との合計量に対して、0.1質量%以上10質量%以下である、(1)又は(2)記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【0014】
(4) 前記導電性炭素材料が単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンからなる群より選択される1種以上である、(1)から(3)いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【0015】
(5) 前記導電性炭素材料が、多層カーボンナノチューブである、(4)記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性炭素材料を含むマスターバッチを調製することなく、平均径が5から500nmであり、平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料とポリアセタール樹脂とを、2軸押出機で直接溶融混練して、高導電性且つ高強度のポリアセタール樹脂組成物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明において好適に使用される、溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造として切り欠き構造を有するスクリューエレメントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本発明は、押出方向の上流端部にポリアセタール樹脂供給口及び導電性炭素材料供給口を備え、バレル内に、押出方向の上流側に配置される可塑化部と、可塑化部の下流側に配置される混練部とを備え、前記混練部の少なくとも一部が、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機を用いて、ポリアセタール樹脂と、平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料と、を溶融混練するポリアセタール樹脂組成物の製造方法に関する。以下、ポリアセタール樹脂、導電性炭素材料、2軸押出機、及び、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法について順に説明する。
【0020】
[ポリアセタール樹脂]
本発明において用いるポリアセタール樹脂の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されず、従来、種々の用途に使用されるポリアセタール樹脂から適宜選択して使用することができる。
【0021】
ポリアセタール樹脂には、オキシメチレン基(−CHO−)のみを構成単位とするポリアセタールホモポリマー、及びオキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を構成単位として含有するポリアセタールコポリマーが含まれる。コポリマーにおいて、コモノマー単位には、オキシC2−6アルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基等のオキシC2−4アルキレン単位)が含まれる。コモノマー単位の含有量は、ポリアセタール系樹脂の構成単位全体に対して、例えば、0.01〜30モル%、好ましくは0.03〜20モル%、さらに好ましくは0.03〜15モル%程度の範囲から選択できる。
【0022】
ポリアセタール樹脂がポリアセタールコポリマーである場合は、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等であってもよい。ポリアセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってもよい。また、ポリアセタール系樹脂は、線状のみならず分岐構造であってもよく、架橋構造を有していてもよい。さらに、ポリアセタール系樹脂の末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸又はそれらの無水物とのエステル化等により安定化してもよい。
【0023】
ポリアセタール樹脂としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、トリオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール等の環状エーテルや環状ホルマールを重合することにより製造できる。
【0024】
なお、本発明において、ポリアセタール樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲の種類及び量で他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。本発明においてポリアセタール樹脂に配合できる熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール等からなる芳香族ポリエステル;ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル;ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、MXDナイロン等のポリアミド樹脂;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリアクリロニトリル;環状オレフィン(メタ)アクリル樹脂;ポリカーボネート;AS樹脂;ABS樹脂;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等のポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(4,4′−ビスフェノールエーテルスルホン)等のポリスルホン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;液晶性ポリマー;フッ素樹脂等を挙げることができる。またこれらの熱可塑性樹脂は2種以上混合して使用することができる。
【0025】
また、本発明において、ポリアセタール樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲の種類及び量で、後述する導電性炭素材料の他の充填材を含んでいてもよい。導電性炭素材料の他の充填材としては、繊維状充填材、粉粒状充填材、板状充填材等の種々の充填材を用いることができる。繊維状充填材の例としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。粉粒状充填材としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。板状充填材の例としては、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。これらの充填材は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
さらに、本発明において、ポリアセタール樹脂に、本発明の目的を阻害しない範囲の種類及び量で、種々の添加剤を配合することができる。好適な添加剤の具体例としては、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、難燃剤等が挙げられる。
【0027】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、他の樹脂材料、導電性炭素材料の他の充填材、各種添加剤等を含むポリアセタール樹脂組成物についても「ポリアセタール樹脂」と記載する。
【0028】
[導電性炭素材料]
本発明において、導電性炭素材料は、平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である、主に炭素から構成される充填材を用いる。導電性炭素材料の平均径は5から300nmがより好ましく、5から50nmが特に好ましい。また、導電性炭素材料の平均長/平均径の比は、5から2000がより好ましく、5から1500が特に好ましい。かかる形状の導電性炭素材料を用いることにより、導電性炭素材料がポリアセタール樹脂中に十分に分散した場合に、導電性及び機械的性質に優れたポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
本発明において好適に使用できる導電性炭素材料の具体例としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又は、カーボンナノホーンが挙げられる。これらの導電性炭素材料は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの導電性炭素材料の中では、得られるポリアセタール樹脂組成物の物性が優れることや、コストの点で多層カーボンナノチューブを用いるのがより好ましい。
【0030】
導電性炭素材料の使用量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下が特に好ましい。かかる範囲の量で導電性炭素材料を用いることにより、導電性及び機械的性質に優れるポリアセタール樹脂組成物が得られる。
【0031】
[2軸押出機]
本発明において用いる2軸押出機は、押出方向の上流端部にポリアセタール樹脂供給口及び導電性炭素材料供給口を備え、バレル内に、押出方向の上流側に配置される可塑化部と、可塑化部の下流側に配置される混練部とを備え、前記混練部の少なくとも一部が、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機である。
【0032】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、単に「上流」又は「下流」と記載されている場合、それぞれ「2軸押出機の押出方向の上流」又は「2軸押出機の押出方向の下流」であることを意味する。
【0033】
本発明において用いる2軸押出機は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、完全かみ合同方向回転型の2軸押出機を使用するのが好ましい。本発明において用いる2軸押出機は、スクリュー有効長さ(L)とスクリュー径(D)との比L/Dが20から70であるのが好ましく、30から60であるのがより好ましい。L/Dが20よりも小さければ、スクリュー径に対してスクリュー有効長さが短すぎるために、十分な混練効果が発揮されず、良好な物性のポリアセタール樹脂組成物を得難く、L/Dが70よりも大きければポリアセタール樹脂の熱劣化が起こりやすくなる。
【0034】
〔可塑化部〕
本発明において用いる2軸押出機は、シリンダー内の上流側に、可塑化部を備えるものである。可塑化部は2軸押出機のシリンダー内において、ポリアセタール樹脂にせん断力を与え発熱させることによりポリアセタール樹脂を十分に溶融させる区間である。可塑化部の長さはL/Dで2.0から10.0であるのが好ましく、2.0から6.0であるのがより好ましい。
【0035】
可塑化部を構成するスクリューエレメントは、可塑化部において十分にポリアセタール樹脂を可塑化できれば特に制限されず、種々のスクリューエレメントを組み合わせて用いることができる。可塑化部に用いられる一般的なスクリューエレメントとしては、例えば、順ニーディングエレメント、逆ニーディングエレメント(2軸押出機の内容物を下流方向に押し戻す作用を有するニーディングエレメント)、ニュートラルニーディングエレメント(ニーディングディスクを位相角90°でずらして重ねあわせて構成される搬送力を有さないエレメント)、及び逆フライトエレメント等から選択されるものが挙げられる。
【0036】
〔混練部〕
本発明において用いる2軸押出機は、シリンダー内の可塑化部よりも下流側に混練部を備えるものである。混練部は、溶融状態のポリアセタール樹脂と導電性炭素材料とを十分に混練し、導電性炭素材料をポリアセタール樹脂中に均一に分散させるための区間である。混練部の長さはL/Dで4.0から25.0であるのが好ましく、4.0から15.0であるのがより好ましい。
【0037】
本発明において用いる2軸押出機は、上記の混練部の少なくとも一部が、溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向(上流方向)にすり抜ける構造のスクリューエレメントにより構成されるものである。このようなスクリューエレメントにおいて溶融樹脂がすり抜ける構造の形状は特に限定されないが、切り欠き形状、ギヤ形状、穴形状等が挙げられる。中でも、逆フライトエレメントの切り欠き形状であるのが好ましく、特に1条ネジであるのが特に好ましい。このような好ましいスクリューエレメントの代表例として、(株)日本製鋼所によるBMS(Backward Mixing Single flight screw)と称するエレメントがある。溶融樹脂がすり抜ける構造として切り欠き構造を有するBMSエレメントのスクリューの回転軸方向から見た図を図1(a)に示し、スクリューの回転軸方向と垂直方向から見た図を図1(b)に示す。
【0038】
またBMSエレメントに代表される溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造を有するエレメントにおいて、該すり抜け構造の割合は、エレメントをスクリューの回転軸方向へ投影したときの最大径部分の長さを直径とした円の面積に対して、すりぬける構造部の面積が5から40%であるのが好ましい。
【0039】
以下、溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造を有するエレメントの代表例としてBMSエレメントを挙げ、本発明において用いる2軸押出機について説明する。
BMSエレメントは、混練部内に連続して配置されても、不連続に配置されてもよい。
混練部内でのBMSエレメントの長さの合計はL/Dで2.0から10.0であるのが好ましく、2.0から6.0であるのがより好ましい。混練部内でのBMSエレメントの長さを係る範囲とすることで、ポリアセタール樹脂中に導電性炭素材料を十分に分散させることが可能となる。
【0040】
混練部を構成するBMSエレメントの他のスクリューエレメントは、混練部において導電性炭素材料を十分にポリアセタール樹脂中に分散できれば特に制限されず、種々のスクリューエレメントを組み合わせて用いることができる。混練部に用いられる一般的なスクリューエレメントとしては、例えば、順ニーディングエレメント、逆ニーディングエレメント(2軸押出機1の内容物を下流方向に押し戻す作用を有するニーディングエレメント)、ニュートラルニーディングエレメント(ニーディングディスクを位相角90°でずらして重ねあわせて構成される搬送力を有さないエレメント)、及び逆フライトエレメント等から選択されるものが挙げられる。
【0041】
〔ベント口〕
本発明で用いる2軸押出機は、樹脂や充填材と共に2軸押出機内に導入された空気や、ポリアセタール樹脂が2軸押出機内で加熱されることにより発生した副生ガスを2軸押出機の外部に排出する目的で、可塑化部と混練部の中間の区間、及び/又は、混練部の押出方向下流の区間に、ベント口を備えるものであってもよい。また、所望によりベント口からの脱気を促進する目的で、真空ポンプを用いてベント口から減圧を行ってもよい。
【0042】
[ポリアセタール樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造方法は、前述の構成の2軸押出機を用いる他は、従来の2軸押出機を用いるポリアセタール樹脂組成物の製造方法と同様に実施することができる。
【0043】
ポリアセタール樹脂と導電性炭素材料とを溶融混練する温度は、ポリアセタール樹脂組生物を良好に製造できる限り特に制限されない。ポリアセタール樹脂と導電性炭素材料との溶融混練は、通常、ポリアセタール樹脂の融点に対して、20から90℃高い温度、より好ましくは20から60℃高い温度にて行われる。ポリアセタール樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定を行った場合の融解ピーク温度を観測することにより求めることができる。
【0044】
本発明の方法により溶融混練されて製造されたポリアセタール樹脂組成物は、従来知られる方法により、ペレット状、フレーク状、粉末状等の所望の形状に加工される。本発明の方法により製造されたポリアセタール樹脂組成物の形状は、成形加工時の取り扱い性の点でペレット状であるのがより好ましい。
【0045】
以上説明した本発明の方法によって、ポリアセタール樹脂と特定の形状の導電性炭素材料とを2軸押出機により溶融混練することによって、予め導電性炭素材料を含むマスターバッチを調製することなく、導電性炭素材料をポリアセタール樹脂に良好に分散させることが可能となり、導電性及び機械的性質に優れるポリアセタール樹脂を製造することが可能となる。
【0046】
本発明の方法により製造されるポリアセタール樹脂組成物は、導電性及び機械的性質に優れ、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形等の種々の公知の成形方法により、ギア、カム、スライダー、レバー、アーム、プーリー、ローラー、シャッター、リール、シャフト、軸、軸受け及びガイド等に代表される機構部品;プリンター及び複写機等のOA機器用部品;ビデオテープレコーダー、デジタルビデオカメラ、カメラ、及びデジタルカメラ等のカメラ又はビデオ機器用部品;携帯電話、モバイル型パーソナルコンピュータ等の情報通信機器の部品;ガソリンタンク、燃料ポンプ部品、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される自動車の燃料廻り部品等、種々の用途に好適に利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例において、以下のポリアセタール樹脂及び導電性炭素材料を用いてポリアセタール樹脂組成物を製造した。
ポリアセタール樹脂:ジュラコン(登録商標)M90−UPP(ポリプラスチックス株式会社製)
導電性炭素材料:Ctube 100(多層カーボンナノチューブ、CNT Co.,Ltd.製、繊維径:10から50nm、繊維長:1から25μm)
【0049】
〔実施例1から4、及び、比較例1から5〕
ポリアセタール樹脂と導電性炭素材料の溶融混練を、下表1に記載のスクリューデザインの2軸押出機((機種名)TEX−30α(メーカー名)日本製鋼所製、スクリュー径32mm、L/D=38.5)を用いて、表2に記載の条件で行い、導電性炭素材料を含むポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。得られたポリアセタール樹脂組成物の組成、表面抵抗率、体積抵抗率、引張り強度、及び引張り破断伸びを表3に記す。なお、各物性の測定は下記の方法に従って行った。
【0050】
<表面抵抗率測定方法>
射出成形機(ROBOSHOT S2000i100B、ファナック製、スクリュー径:28mm)を用いて、射出速度100mm/sの条件で成形した直径100mm、厚さ3mmの円板状の試験片を用いて、両面に導電塗料(ドータイトD500、藤倉化成製)を塗布して乾燥後に、低抵抗率測定装置(DIGITAL MULTIMETER R6450、アドバンテスト製)を使用して抵抗を測定し、表面抵抗率を算出した。抵抗率が高くて低抵抗率測定装置で測定できない場合は、高抵抗率測定装置(URTRA HIGH RESISTANCE RS8340A、アドバンテスト製)に交換して測定を行った。
【0051】
<体積抵抗率測定方法>
射出成形機(ROBOSHOT S2000i100B、ファナック製、スクリュー径:28mm)を用いて、射出速度100mm/sの条件で成形した直径100mm、厚さ3mmの円板状の試験片を用いて、両面に導電塗料(ドータイトD500、藤倉化成製)を塗布して乾燥後に、低抵抗率測定装置(DIGITAL MULTIMETER R6450、アドバンテスト製)を使用して抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。抵抗率が高くて低抵抗率測定装置で測定できない場合は、高抵抗率測定装置(URTRA HIGH RESISTANCE RS8340A、アドバンテスト製)に交換して測定を行った。
【0052】
<引張り強度測定方法>
ISO527−1,2に従い、ISOタイプA試験片を用いて引張り強度を測定した。
【0053】
<引張り破断伸び測定方法>
ISO527−1,2に従い、ISOタイプA試験片を用いて引張り破断伸びを測定した。
【0054】
表1における略号は、以下のスクリューエレメントを表す。
FF:順フライトエレメント
BF:逆フライトエレメント
FK:ニーディングエレメント
BK:逆ニーディングエレメント
NK:ニュートラルニーディングエレメント
BMS:BMSエレメント(1条逆フライト)
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1から4で用いたスクリューデザイン1は混練部にBMSエレメントを配したものであり、本発明の方法に係るものである。なお、スクリューデザイン1の混練部におけるBMSエレメントの合計長はL/Dで4.0である。
【0057】
また、比較例1及び2で用いたスクリューデザイン2は、実施例1から4で用いたスクリューデザイン1において、混練部のBMSエレメントをニーディングエレメントに変更したものである。さらに、比較例3から5で用いたスクリューデザイン3は、混練部に可能な範囲で最大数のニーディングエレメントを配することにより混練機能を強化したものである。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表3より、本願発明の方法によりポリアセタール樹脂組成物を製造した、実施例1から4では、体積抵抗値及び表面抵抗値が低く、引っ張り強さ及び引張り伸びに優れるポリアセタール樹脂組成物が得られたことが分かる。
【0061】
実施例1及び3と比較例1及び2との比較から、実施例で用いたスクリューデザイン1におけるBMSエレメントをニーディングエレメントに変えたスクリューデザイン2の2軸押出機では、導電性炭素材料の含有量が3.0%程度であれば実施例に近い体積抵抗値及び表面抵抗値のポリアセタール樹脂組成物を得ることができるが、導電性炭素材料の含有量が2.0%の場合には、体積抵抗値及び表面抵抗値の低いポリアセタール樹脂組成物を得られないことが分かる。また、実施例1及び3と比較例1及び2との比較から、スクリューデザイン2の2軸押出機では、機械的性質(引張り強度、及び引張り破談伸び)に劣るポリアセタール樹脂しか得られないことが分かる。
【0062】
実施例2から4と比較例3から5との比較から、混練部に最大限のニーディングエレメントを配置して、混練機能を強化したスクリューデザイン3の2軸押出機を用いた場合、BMSエレメントを用いた場合と同等の機械的性質のポリアセタール樹脂組成物が得られるが、表面抵抗率及び体積抵抗率の高いポリアセタール樹脂しか得られないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出方向の上流端部にポリアセタール樹脂供給口及び導電性炭素材料供給口を備え、バレル内に、押出方向の上流側に配置される可塑化部と、可塑化部の下流側に配置される混練部とを備え、前記混練部の少なくとも一部が、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントから構成される2軸押出機を用いて、ポリアセタール樹脂と、平均径が5から500nmであり平均長/平均径の比が5以上である導電性炭素材料と、を溶融混練するポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混練部において、押出機内の溶融樹脂の一部が押出方向と逆方向にすり抜ける構造のスクリューエレメントが配置されている長さの合計が、L/Dで2.0から10.0である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記導電性炭素材料の使用量が、前記ポリアセタール樹脂と前記導電性炭素材料との合計量に対して、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記導電性炭素材料が単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンからなる群より選択される1種以上である、請求項1から3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記導電性炭素材料が、多層カーボンナノチューブである、請求項4記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−132370(P2011−132370A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293148(P2009−293148)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】