説明

ポリアセタール樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品

【課題】優れた耐衝撃性を有し、且つホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できるポリアセタール樹脂組成物及びこれを用いて得られる成形品を提供すること。
【解決手段】ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、熱可塑性ポリウレタン1〜120質量部(B)、ホルムアルデヒド反応性窒素を有するホルムアルデヒド捕捉剤(C)0.01〜5質量部を配合してなり、前記熱可塑性ポリウレタンが、0.10質量%以下の残存イソシアネート量を含有し、3000質量ppm以下の含水率を有し、180℃において20万ポアズ以上の溶融粘度を示すポリアセタール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアセタール樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックスのポリアセタール樹脂は、優れた機械的性質、摺動特性、摩擦・磨耗特性、耐熱性、成形加工性などを有し、自動車、OA機器などの基幹部品として多く用いられている。一方、熱可塑性ポリウレタンは、ポリアセタール樹脂との相溶性が良く、ポリアセタール樹脂に耐衝撃性を付与できる。このことから、ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリウレタンとを含む組成物がよく使用されている。
【0003】
このような組成物として、下記特許文献1に開示されるものが知られている。下記特許文献1には、ポリオキシメチレン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対してポリオキシメチレン樹脂40〜99重量部及び熱可塑性ポリウレタン樹脂1〜60重量部、並びにポリオキシメチレン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して無水マレイン酸含有化合物0.01〜5重量部を含み、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂中に0.05〜1重量%の活性イソシアネートを含有し、該熱可塑性ポリウレタン樹脂の水分含量が1000ppm以下である組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4183622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の組成物は、ホルムアルデヒドの発生量の抑制、および、十分な耐衝撃性の点で改善の余地を有していた。
【0006】
本発明は、優れた耐衝撃性を有し、かつホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できるポリアセタール樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度を所定値以上とすることが耐衝撃性の改善に有効であることを突き止めた。そして、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
即ち本発明は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、熱可塑性ポリウレタン(B)1〜120質量部、ホルムアルデヒド反応性窒素を有するホルムアルデヒド捕捉剤(C)0.01〜5質量部を配合してなり、前記熱可塑性ポリウレタンが、0.10質量%以下の残存イソシアネート量を含有し、3000質量ppm以下の含水率を有し、180℃において20万ポアズ以上の溶融粘度を示すポリアセタール樹脂組成物である。
【0009】
このポリアセタール樹脂組成物によれば、優れた耐衝撃性を有し、かつホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できる。
【0010】
ここで、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度を上記範囲とすることで耐衝撃性を改善でき、かつホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できる理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0011】
すなわち、溶融粘度が20万ポアズを下回るとポリアセタール樹脂組成物の耐衝撃性が不十分となり、本発明の目的である耐衝撃性に優れたポリアセタール樹脂組成物を得ることが困難となる。また溶融粘度が不十分な熱可塑性ポリウレタンを用いて耐衝撃性を得るためには過剰量の熱可塑性ポリウレタンが必要となるが、それではポリアセタール本来の剛性を損なうと同時に、本発明のもう一つの目的であるホルムアルデヒド発生抑制効果を阻害してしまう。
【0012】
また本発明は、上述したポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐衝撃性を有し、かつホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できるポリアセタール樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、熱可塑性ポリウレタン(B)1〜120質量部、ホルムアルデヒド反応性窒素を有するホルムアルデヒド捕捉剤(C)0.01〜5質量部を配合してなり、熱可塑性ポリウレタンが、0.10質量%以下の残存イソシアネート量を含有し、3000質量ppm以下の含水率を有し、180℃において20万ポアズ以上の溶融粘度を示すポリアセタール樹脂組成物である。
【0016】
(A)ポリアセタール樹脂
ポリアセタール樹脂は、2価のオキシメチレン基を構成単位とするものである。本発明に用いるポリアセタール樹脂は、この構成単位のみからなるアセタールホモポリマー以外に、オキシメチレン基以外の繰り返し構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマー)やターポリマー等も含み、更には線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。
【0017】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、トリオキサンを含む主原料が用いられる。主原料は、上記アセタールホモポリマーを製造する場合には、トリオキサンのみで構成される。上記コポリマーやターポリマーを製造する場合には、主原料は、トリオキサンのほか、コモノマーをも含む。
【0018】
コポリマーやターポリマーの製造に用いるコモノマーとしては、環状ホルマールやエーテルが挙げられる。具体例としては、1,3−ジオキソラン、2−エチル−1,3−ジオキソラン、2−プロピル−1,3−ジオキソラン、2−ブチル−1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−フェニル−2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−4−メチル−1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2,2,4−トリメチル−1,3−ジオキソラン、4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−ブチルオキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−フェノキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−クロルメチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキカビシクロ[3,4.0]ノナン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、プチレンオキシド、エピクロルヒドリン、スチレンオキシド、オキシタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、テトラヒドロフラン、およびオキセパン等が挙げられる。これらの中でも1,3一ジオキソランが特に好ましい。
【0019】
コモノマーの添加量は、トリオキサン100質量部に対して0.2〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20質量部である。コモノマーの添加量が30質量部より多い場合は重合収率が低下し、0.2質量部より少ない場合は熱安定性が低下する。
【0020】
(B)熱可塑性ポリウレタン
熱可塑性ポリウレタンとしては、熱可塑性を有するポリウレタンが用いられる。ポリウレタンは、ジオールとジイソシアネートとを反応させることによって得ることができる。
【0021】
ジオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。
【0022】
ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記芳香族ジイソシアネートとしては、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2−メチレンジフェニレンジイソシアネートおよびナフタレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0024】
上記脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0025】
上記脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレン−ビス−(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−ビス−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス−(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0026】
ジイソシアネートは上記芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネート(以下、「イソシアネート化合物」と呼ぶことがある)の2量体、3量体、これらイソシアネート化合物のカルボジイミド変性体、これらイソシアネート化合物と多価アルコールとのプレポリマー、又は、これらイソシアネート化合物をフェノール、第一級アルコール、カプロラクタム等のブロック剤で封鎖したプロックドイソシアネート化合物であってもよい。
【0027】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対する熱可塑性ポリウレタン(B)の配合量は1〜120質量部である。熱可塑性ポリウレタン(B)の配合量が1質量部未満では、耐衝撃性が不十分となる。一方、熱可塑性ポリウレタン(B)の配合量が120質量部を超えると、ホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できなくなる。またポリアセタール樹脂のもつ本来の剛性を著しく損なう。
【0028】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対する熱可塑性ポリウレタン(B)の配合量は、ポリアセタール樹脂のもつ本来の剛性を損なわない範囲で、ポリアセタール樹脂組成物に十分な耐衝撃性を付与するという理由から、好ましくは10質量部〜120質量部であり、より好ましくは33質量部〜110質量部である。
【0029】
熱可塑性ポリウレタンでは、反応に寄与しなかったジイソシアネートが残存することがある。この残存ジイソシアネートは、ホルムアルデヒド捕捉剤と反応し、ホルムアルデヒド発生抑制効果を低下させることから、できるだけ少ないことが好ましい。この残存ジイソシアネート量は、具体的には、熱可塑性ポリウレタンを基準(100質量%)として、0.10質量%以下である。残存イソシアネート量が0.10質量%を超えると、ホルムアルデヒドの発生を十分に抑制することができなくなる。残存イソシアネート量は、好ましくは0.05質量%以下である。
【0030】
残存イソシアネート量を0.10質量%以下にするには、例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂製造後の乾燥条件を調節し、樹脂内に残存している未反応のイソシアネート基の反応を進行させる方法が挙げられる。
【0031】
熱可塑性ポリウレタン中の含水率は、3000質量ppm以下である。熱可塑性ポリウレタン中の含水率が3000質量ppmを超えると、ホルムアルデヒドの発生を十分に抑制することができなくなる。
【0032】
熱可塑性ポリウレタン中の含水率は好ましくは1500質量ppm以下である。
【0033】
熱可塑性ポリウレタン中の含水率は除湿乾燥機を使用しペレット中の水分を除去することで低減でき、また湿度が調節された環境下でペレットを吸水させることで増加させることができる。
【0034】
熱可塑性ポリウレタンの180℃における溶融粘度は20万ポアズ以上である。この溶融粘度が20万ポアズ未満では耐衝撃性が顕著に低下する。
【0035】
熱可塑性ポリウレタンの180℃における溶融粘度は好ましくは25万ポアズ以上である。但し、熱可塑性ポリウレタンの180℃における溶融粘度は60万ポアズ以下であることが好ましい。この場合、熱可塑性ポリウレタンの180℃における溶融粘度は60万ポアズを超える場合に比べて、ポリアセタール樹脂との分散性をより向上させることができる。
なお、本発明のポリアセタール樹脂組成物においては、無水マレイン酸含有化合物は含まれないことが好ましい。すなわち、無水マレイン酸含有化合物の配合量/(ポリアセタール樹脂(A)の配合量+熱可塑性ポリウレタンの配合量)は0であることが好ましい。この場合、無水マレイン酸が含まれないことでポリアセタール樹脂の分解をより十分に抑制でき、本発明の目的であるホルムアルデヒド発生抑制効果をより実現しやすくすることができる。
【0036】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤
ホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒドと反応し、ポリアセタール樹脂組成物の外部へのホルムアルデヒドの放出を抑制できるものであればよい。具体的には、ホルムアルデヒド捕捉剤としては、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する材料が用いられる。このような材料としては、例えば、ドデカン二酸ジヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、ベンゾグアナミンなどのホルムアルデヒド反応性を有する窒素原子を含有するものが挙げられる。
【0037】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対するホルムアルデヒド捕捉剤の配合量は、0.01〜5質量部である。ホルムアルデヒド捕捉剤の配合量が0.01質量部未満であると、ホルムアルデヒドを十分に抑制することができなくなる。一方、ホルムアルデヒド捕捉剤の配合量が5質量部を超えると、耐衝撃性が低下する。
【0038】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対するホルムアルデヒド捕捉剤の配合量は、好ましくは0.02〜2質量部である。
【0039】
ポリアセタール樹脂組成物には、公知の酸化防止剤(例えばトリエチレングリコール−ビス〔3(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)、熱安定剤(例えばメラミン)等の添加剤を1種又は2種以上を添加することができる。
【0040】
更にポリアセタール樹脂組成物には、公知の離型剤(ポリエチレンワックス、又はペンタエリスリトールテトラステアレート等の脂肪酸エステル系又はシリコン系化合物等の離型剤)を1種又は2種以上を添加することができる。
【0041】
更に、着色剤、核剤、可塑剤、蛍光増白剤、摺動剤、ポリエチレングリコール、グリセリンのような帯電防止剤、高級脂肪酸塩、ペンゾトリアゾール系若しくはペンゾフェノン系化合物のような紫外線吸収剤、又はヒンダードアミン系のような光安定剤等の添加剤を所望により添加することができる。
【0042】
また本発明は、上述したポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品である。
【0043】
成形方法は、特に限定されるものではなく、成形方法としては、射出成形法、押出成形法などが用いられる。
【0044】
成形品としては、例えば成形加工時のホルムアルデヒドの発生が抑制されていることから、いわゆるシックハウス症候群対策として、自動車内装部品、家屋等の内装部品(熱水混合栓等)、衣料部品(ファスナー、ベルトバックル等)や建材用途(配管、ポンプ部品等)、機械部品(歯車等)などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
ポリアセタール樹脂(A)100質量部、表1に示す物性を有する熱可塑性ポリウレタン(B)33質量部、及びドデカン二酸ジヒドラジドからなるホルムアルデヒド捕捉剤(C)0.04質量部を、川田製作所社製スーパーミキサーを用いて均一に混合したのち、常法に従って2軸押出機(池貝鉄工社製PCM−30、スクリュー径30mm)を用いて、スクリュー回転数120rpm、シリンダー設定温度190℃の条件下で溶融混練したのち、ストランドに押出し、ペレタイザーにてカットすることでポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0047】
このとき、ポリアセタール樹脂(A)としては、商品名「ユピタールF20」(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を使用した。このポリアセタール樹脂のメルトインデックス(ASTM−D1238規格:190℃、2.16kg)は10.5g/10分であり、含水率は400質量ppmであった。
【0048】
また、このとき、熱可塑性ポリウレタン(B)としては、アジピン酸、1,4−ブタンジオールおよび4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを反応させて得られた熱可塑性ポリウレタンを使用した。
【0049】
また熱可塑性ポリウレタン及びポリアセタール樹脂の含水率、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度、および、熱可塑性ポリウレタンの残存イソシアネート(NCO)量については以下のようにして測定した。
(1)熱可塑性ポリウレタン及びポリアセタール樹脂中の含水率
熱可塑性ポリウレタン及びポリアセタール樹脂中の含水率については、三菱化学社製水分測定装置CA−100を用い、カールフィッシャー法(ISO15112/A法)に準拠して測定した。
(2)熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度
熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度については、高下式フローテスターCFT500C型(島津製作所製)の測定機器を用い、測定温度180℃、荷重294Nにて測定した。
(3)熱可塑性ポリウレタン中の残存イソシアネート(NCO)量
熱可塑性ポリウレタン中の残存イソシアネート(NCO)量については、JIS K 1603−1(ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法-イソシアネート基含有率の求め方)に記載された方法に準拠して測定した。
【0050】
(実施例2〜9及び比較例1〜9)
熱可塑性ポリウレタン(B)の配合量、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)の配合量、熱可塑性ポリウレタン中の含水率、熱可塑性ポリウレタン中の残存イソシアネート(NCO)量、および、熱可塑性ポリウレタンの180℃における溶融粘度を表1又は表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にしてポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
なお、表1及び表2において、熱可塑性ポリウレタン(B)としては、(B−1)〜(B−9)の9種を用いた。また表1及び表2において、ホルムアルデヒド捕捉剤(C−1)、(C−2)及び(C−3)としてはそれぞれ以下のものを用いた。
(C−1)ドデカン二酸ジヒドラジド
(C−2)ステアリン酸ヒドラジド
(C−3)ベンゾグアナミン
【0051】
[特性評価]
(1)ホルムアルデヒド発生量の抑制効果
ホルムアルデヒド発生量の抑制効果については、ホルムアルデヒド発生量を測定し、そのホルムアルデヒド発生量に基づいて評価した。
ホルムアルデヒド発生量については以下にようにして測定した。
<平板試験片の作製>
まず日精樹脂工業社製射出成形機PS−40を用い、シリンダー温度215℃、金型温度80℃にて、実施例1〜9及び比較例1〜9で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレットを射出成形し、100mm×40mm×2mmの平板試験片を作製した。
<ホルムアルデヒド発生量の測定>
そして、この平板試験片を作製した日の翌日に、この平板試験片につき、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品−改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の方法によりホルムアルデヒド発生量を測定した。
(i)まずポリエチレン容器中に蒸留水50mlを入れ、上記平板試験片を空中に吊るした状態で蓋を閉め、密閉状態で60℃にて、3時間加熱した。
(ii)室温で60分間放置した後、平板試験片を取り出した。
(iii)ポリエチレン容器内の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、UVスペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定し、このホルムアルデヒド量をホルムアルデヒド発生量とした。結果を表1及び表2に示す。
なお、表1及び表2において、ホルムアルデヒドの発生量は、(比較例1)で得られたホルムアルデヒド発生量を基準値(1.00)とした相対値で表した。またホルムアルデヒド発生抑制効果に関する合否の基準は下記の通りとした。
・ホルムアルデヒド発生量が0.25以下 :合格
・ホルムアルデヒド発生量が0.25を超える:不合格
【0052】
(2)耐衝撃性
ポリアセタール樹脂組成物の耐衝撃性は、ポリアセタール樹脂組成物のノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定し、その測定値に基づいて評価した。
ノッチ付きシャルピー衝撃強度については以下のようにして測定した。
<ノッチ付きシャルピー試験用試験片の作製>
まず東芝機械社製射出成形装置EC−100Sを用い、シリンダー温度195℃、金型温度90℃にて、実施例1〜9及び比較例1〜9で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレットを射出成形し、JIS K 7113に記載された4mm厚ISO1号ダンベル試験片を作製した。
次いでそのダンベル試験片をJIS K 7113−1/1eAに記載された方法に準拠して切削することによりノッチ付きシャルピー試験用試験片を得た。
<ノッチ付きシャルピー衝撃強度の測定>
上記ノッチ付きシャルピー試験用試験片を用い、ISO−179に記載の方法に準拠してエッジワイズ平行試験方法によりノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、ノッチ付きシャルピー衝撃強度に関する合否基準は以下の通りとした。
・ノッチ付きシャルピー衝撃強度が18kJ/m以上:合格
・ノッチ付きシャルピー衝撃強度が18kJ/m未満:不合格

【表1】



【表2】

【0053】
表1及び表2に示すように、実施例1〜9はすべて、ホルムアルデヒド発生抑制効果及び耐衝撃性の点で合格基準を満たすことが分かった。これに対し、比較例1〜9は、ホルムアルデヒド発生量又は耐衝撃性の点で合格基準を満たさないことが分かった。
【0054】
従って、本発明のポリアセタール樹脂組成物によれば、優れた耐衝撃性を有し、且つホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、熱可塑性ポリウレタン(B)1〜120質量部、ホルムアルデヒド反応性窒素を有するホルムアルデヒド捕捉剤(C)0.01〜5質量部を配合してなり、
前記熱可塑性ポリウレタンが、0.10質量%以下の残存イソシアネート量を含有し、3000質量ppm以下の含水率を有し、180℃において20万ポアズ以上の溶融粘度を示すポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2013−57044(P2013−57044A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197719(P2011−197719)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】