説明

ポリアミド成形体およびポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法

【課題】ポリアミド成形体、およびそれからのポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(I)
【化1】


で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミドを含有する成形用ドープを吐出し、吐出物を凝固液中に浸漬して凝固させ、凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリアミド成形体の製造方法。およびそれからのポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び力学的性質の優れたポリベンゾオキサゾール成形体を製造するために有用なポリアミド成形体の製造方法、およびそれからのポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾールはその高い耐熱性や機械的物性から幅広く開発が成されている。とりわけ全芳香族ポリベンゾオキサゾールはその剛直構造から特に高い耐熱性や機械的物性を発揮することが期待されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、全芳香族ポリベンゾオキサゾールはポリリン酸、メタンスルホン酸等特定の酸性溶媒を除いて不融不溶であることから、ポリベンゾオキサゾールの状態での成形加工が困難である。
【特許文献1】WO85/04178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、上述の如き先行技術の問題点を解決し、特殊な酸性溶媒を用いることなく有機溶媒を用いた、高度に配向したポリベンゾオキサゾール繊維またはフィルム等の前駆体であるポリアミド成形体、およびそれからのポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、成形用ドープから凝固物を得た後、膨潤剤を使用して膨潤処理を行い、続いて延伸処理をすることで簡便なプロセスで所望のポリアミド成形体が得られることを見出し、本発明を導き出したものである。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0006】
1.下記式(I)
【化1】

で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミドを含有する成形用ドープを吐出し、吐出物を凝固液中に浸漬して凝固させ、凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリアミド成形体の製造方法。
【0007】
2.凝固液が、水とアミド系溶媒とからなる混合液であり、混合液における水の含有量が50重量%以上であることを特徴とする上記1に記載のポリアミド成形体の製造方法。
【0008】
3.膨潤剤が、アミド系溶媒と水とからなる混合液であり、混合液におけるアミド系溶媒の含有量が50重量%以上であることを特徴とする上記1または2に記載のポリアミド成形体の製造方法。
【0009】
4.アミド系溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする上記2〜3のいずれかに記載のポリアミド成形体の製造方法。
【0010】
5.上記1〜4のいずれかの方法により得られるポリアミド成形体。
【0011】
6.上記1〜5のいずれかの方法により得られたポリアミド成形体を200〜900℃で熱処理することを特徴とする、下記式(II)
【化2】

で表わされる繰り返し単位を主成分とするポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法。
【0012】
7.上記6の方法により得られるポリベンゾオキサゾール成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、特殊な酸性溶媒を用いることなく有機溶媒を用いてポリアミド成形体が得られ、それより高度に配向したポリベンゾオキサゾール成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(ポリマー)
本発明に用いられるポリアミドは繰り返し単位が実質的に下記式(I)
【化3】

で表される重合体からなる。
【0015】
本発明に用いられるポリアミドは下記式(II)
【化4】

で表わされる構成単位をさらに含む場合がある。式(II)で表される単位は式(I)で表される単位を閉環させることにより得られるものであって、ドープを反応させることにより混在させることができる。
【0016】
式(II)で表される単位を含む場合、繰り返し単位(II)と(I)の共重合モル比率(II)/(I)は
0<(II)/(I)≦0.1の範囲である。
【0017】
ポリアミド成形体を熱処理して得られるポリベンゾオキサゾールは繰り返し単位が主として下記式(II)
【化5】

で表される重合体からなる。
【0018】
熱処理後のポリベンゾオキサゾールは、下記式(I)
【化6】

で表わされる繰り返し単位をさらに含む場合がある。
【0019】
ポリベンゾオキサゾールが式(I)で表わされる繰り返し単位をさらに含む場合、繰り返し単位(II)と(I)の共重合モル比率(I)/(II)は
0<(I)/(II)≦0.1の範囲である。
【0020】
(製造方法)
本発明のポリマーの製造方法について述べる。原料はジカルボン酸化合物と芳香族ジアミンである。ジカルボン酸化合物としては、下記式(A)
【化7】

(式中XはOH、ハロゲン原子、またはORで表される基であり、Rは炭素数6〜20の1価の芳香族基を表す。)
で表される化合物、中でも好ましくはX=Clのテレフタル酸クロリドが挙げられる。
【0021】
なお、得られるポリマーの性質を改良する目的でイソフタル酸クロリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロリドなどのジカルボン酸類を共重合することもできる。
【0022】
本発明で使用される芳香族ジアミンとしては、下記式(B)
【化8】

で表される芳香族ジアミン、4,4’ −ジアミノ-3,3’−ビフェニルジオールあるいはこれらの塩酸塩、硫酸塩、りん酸塩が挙げられる。
【0023】
なお、得られるポリマーの性質を改良する目的で下記のジアミンを共重合することもできる。ジアミンの具体例としてはp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。なかでもp−フェニレンジアミンが好ましい。
【0024】
重合を行うのに用いる溶媒については、特に限定はされないが上記の如き原料モノマー(A)、(B)を溶解し、かつそれらと実質的に非反応性であり、好ましくは固有粘度が少なくとも1.0以上、より好ましくは1.2以上のポリマーを得ることが可能なものであれば如何なる溶媒も使用できる。例えば、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン(NCP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NARP)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等のアミド系溶媒、p−クロルフェノール、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,4−ジクロルフェノール等のフェノール系溶媒もしくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
これらの中でも好ましい溶媒はアミド系溶媒であり、より好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)である。
この場合、溶解性を挙げるために重合前、途中、あるいは終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0026】
ポリマーの製造は、前記モノマー(A)、(B)を脱水した上記の溶媒中で通常のポリアミドの溶液重合法と同様に製造する。この際の反応温度は80℃以下、好ましくは60℃以下とする。また、この時の濃度はモノマー濃度として1〜20wt%程度が好ましい。
【0027】
また、本発明ではトリアルキルシリルクロライドをポリマー高重合度化の目的で使用することも可能である。
また、一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
【0028】
(成形方法)
以上の如き成形用ドープは、成形性にすぐれ、湿式法あるいはドライジェット湿式法により繊維、フィルム、パルプ状粒子等に成形することができる。
ドライジェット湿式法とは、紡糸用口金または成形用ダイから吐出したドープ吐出物を一旦気体雰囲気下を通過させた後に凝固浴中に導入する方法で、特に成形体の表面の平滑化、ドラフトの増大等に効果がある。
吐出したドープ吐出物は凝固液に浸漬され、凝固物を得る。
【0029】
ここで凝固液としては、アミド系溶媒と水の混合溶媒を使用することができる。アミド系溶媒としては、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルピロリドン−2(NMP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPR)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0030】
アミド系溶媒と水との混合比率としては、凝固液の50重量%以上が水であることが好ましく、より好ましくは55重量%以上が水であり、さらに好ましくは60重量%以上が水である。50重量%よりも少ない場合は、凝固性が十分ではなく、ハンドリングが困難となる。
ついで、凝固物を膨潤可能な溶媒中に浸漬してから適宜の延伸倍率の下で延伸した後、乾燥することでポリアミド成形体が得られる。
【0031】
ここで、膨潤剤としては、凝固物を溶解することなく膨潤可能なアミド系溶媒と水の混合溶媒を使用することができる。アミド系溶媒としては、N,N,N′,N′−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAC)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPR)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIB)、N−メチルピロリドン−2(NMP)、N−エチルピロリドン−2(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NAPR)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N′−ジメチルエチレン尿素、N,N′−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N′,N′−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0032】
アミド系溶媒と水との混合比率としては、膨潤剤の50重量%以上がアミド系溶媒であり、より好ましくは55重量%以上がアミド系溶媒であり、さらに好ましくは60重量%以上がアミド系である。50重量%よりも少ない場合は、膨潤効果が十分ではなく、延伸処理を行うことが困難となる。
【0033】
これらの1例を示すと、ポリアミドとアミド系溶媒とからなる成形用ドープを水/N−メチル−2−ピロリドン=70/30(wt/wt)の混合溶液からなる凝固液にドライジェット湿式法により吐出し、凝固を完了させ、続いて水/N−メチル−2−ピロリドン=30/70(wt/wt)の混合溶液からなる膨潤剤に通過させて凝固物を膨潤させる。膨潤後、延伸、水洗および乾燥することにより高度に配向したポリアミド成形体を得ることができる。
【0034】
続いて、該ポリアミド成形体を熱処理することで、高度に配向したポリベンゾオキサゾール成形体を得ることが可能である。
熱処理する温度としては200〜900℃の範囲であり、300〜700℃が好ましく、さらには250〜550℃の範囲が好ましい。また、熱処理の雰囲気として空気中および窒素、アルゴンといった不活性雰囲気下で行うことができる。さらに熱処理時に成型体に緊張を加えることも好ましく利用できる。熱処理時に加える張力は成型体の破断強度の0.1%〜80%好ましくは1%〜30%が利用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによっていささかも限定されるものではない。
固有粘度(ηinh)は、濃硫酸を用いてポリマー濃度0.5g/dlで30℃において測定した値である。
【0036】
(成形用ドープ)
[参考例1]
塩化カルシウム16重量部を窒素気流下、フラスコ内で250℃にて1時間乾燥させ、フラスコ内の温度を室温に戻した後、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)130重量部を加えた。4,4’ −ジアミノ-3,3’−ビフェニルジオール10重量部を加え溶解させた。この溶液を外部冷却により−10℃に保ち、テレフタル酸クロリド9.389重量部添加し、−10℃で1時間、50℃で2時間反応せしめ、水酸化カルシウム3.33重量部を加え反応を終了し成形用ドープを得た。
【0037】
なお、反応終了後、成形用ドープの一部を大量のイオン交換水中に投入し重合体を析出させた。得られた重合体を濾別し、更にエタノール、アセトンで洗浄後、真空乾燥した。このようにして得られた重合体の濃硫酸溶液で測定したηinhは3.5であった。
【0038】
[実施例1]
参考例1で得られた成形用ドープを口金0.3mm、吐出温度50℃で50℃の30wt%NMP水溶液に吐出して得られた凝固糸を70wt%NMP水溶液に浸漬し膨潤させた後、1.8倍に延伸した。ついで水洗、150℃で乾燥することでポリアミド繊維を得た。
【0039】
さらにポリアミド繊維を450℃で10分間熱処理することによりポリベンゾオキサゾール繊維を作製した。得られた繊維の繊度は9デシテックス、引張弾性率は75.2GPaであった。
【0040】
[比較例1]
参考例1で得られた成形用ドープを口金0.3mm、吐出温度50℃で50℃の30wt%NMP水溶液に吐出して得られた凝固糸を70wt%NMP水溶液に浸漬し膨潤させた後、延伸しないで水洗、150℃で乾燥することでポリアミド繊維を得た。
【0041】
さらにポリアミド繊維を450℃で5分間緊張下熱処理することによりポリベンゾオキサゾール繊維を作製した。得られた繊維の繊度は29デシテックス、引張弾性率は17GPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

で表される繰り返し単位を主成分とするポリアミドを含有する成形用ドープを吐出し、吐出物を凝固液中に浸漬して凝固させ、凝固物を膨潤剤に浸漬し、次いで延伸することを特徴とするポリアミド成形体の製造方法。
【請求項2】
凝固液が、水とアミド系溶媒とからなる混合液であり、混合液における水の含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド成形体の製造方法。
【請求項3】
膨潤剤が、アミド系溶媒と水とからなる混合液であり、混合液におけるアミド系溶媒の含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド成形体の製造方法。
【請求項4】
アミド系溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載のポリアミド成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法により得られるポリアミド成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法により得られたポリアミド成形体を200〜900℃で熱処理することを特徴とする、下記式(II)
【化2】

で表わされる繰り返し単位を主成分とするポリベンゾオキサゾール成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項6の方法により得られるポリベンゾオキサゾール成形体。

【公開番号】特開2007−77524(P2007−77524A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264933(P2005−264933)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】