説明

ポリアミド樹脂の製造方法およびポリアミド樹脂ならびにそれからなる成形体

【課題】
本発明は、バイオマス資源のみを原料とし、化石資源由来のエンジニアリングプラスチック並みの耐熱性と機械強度を有するポリアミド樹脂の製造方法およびポリアミド樹脂ならびにそれからなる成形体を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法は、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生するジアミンとジカルボン酸のみを用いて合成することを特徴とするものである。
また、本発明のポリアミド樹脂成形体は、かかる製造方法により得られたポリアミド樹脂であって、その曲げ弾性率が、3〜5GPaであることを特徴とするものである。
また、本発明のポリアミド樹脂成形体は、かかるポリアミド樹脂を用いて構成されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝経路から派生する化合物のみ用いる、弾性および耐熱性に優れたポリアミド樹脂の製造方法およびポリアミド樹脂ならびにそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されているプラスチックの大部分は化石資源を原料としているが、原料の枯渇化や二酸化炭素濃度の上昇などが懸念されている。そこで、化石資源に替わる資源の1つとしてバイオマスが有望視されている。
【0003】
バイオマスとは、生物由来の有機性資源のことで、太陽エネルギーが存在する限り繰り返して生産し利用することが可能な資源である。このバイオマス資源を原料としたプラスチックは、再生産可能であり資源が枯渇することがないという利点だけでなく、焼却などして廃棄処理をしても炭素収支が変わらないことも大きな利点として有している。
上記のバイオマスプラスチックとして、ポリ乳酸やポリカプロラクトンなどが挙げられるが、これらは耐熱性や機械強度でナイロン66やポリエチレンテレフタレートなどの化石資源由来のエンジニアリングプラスチックに劣り、これらの樹脂や樹脂成形体は使用用途がかなり限定されている。耐熱性や機械強度を改善するために、例えば耐衝撃性付与剤を含ませる方法(例えば、特許文献1参照。)や、他のポリマーと共重合させる方法(例えば、特許文献2参照。)などが知られているが、いずれも通常使用されるモノマーを併用して物性改善をしているため、最終製品がバイオマス資源のみを用いたプラスチックではなくなり、バイオマス資源を用いるという本来の利点を十分に活かせていないという問題点があった。
【特許文献1】特開2002−173520号公報
【特許文献2】特開2003−268088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、バイオマス資源のみからなり、かつ、弾性および耐熱性に優れたポリアミド樹脂の製造方法およびポリアミド樹脂ならびにそれからなる成形体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のポリアミド樹脂の製造方法は、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生するジアミンとジカルボン酸のみを用いて合成することを特徴とするものである。かかるポリアミド樹脂の製造方法の好ましい態様としては、
(1)該ジアミンとジカルボン酸が、1,5−ペンタンジアミンと2,6−ピリジンジカルボン酸であることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明のポリアミド樹脂は、かかる製造方法により得られたポリアミド樹脂であって、その曲げ弾性率が、3〜5GPaであることを特徴とするものである。かかるポリアミド樹脂の好ましい様態としては、
(1)示差走査熱量計によって測定した該ポリアミド樹脂のガラス転移温度が、120〜180℃であること、
また、本発明のポリアミド樹脂成形体は、かかるポリアミド樹脂のみを用いて構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、バイオマス資源のみを原料として用い、弾性および耐熱性に優れたポリアミド樹脂およびその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
従来、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生する化合物のみを用いて合成されたポリアミド樹脂は存在しなかったものであるが、本発明は、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生するジアミンとジカルボン酸という特定の化合物に絞って鋭意検討し、かかる特定化合物のみを用いて合成してみたところ、意外にも、前記課題である弾性および耐熱性の両方の性能に優れたポリアミド樹脂を提供することができることを究明したものである。
【0009】
本発明は、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生するジアミンとジカルボン酸という特定の化合物を用いて合成するところに特徴を有するものである。
【0010】
ここで、微生物のリジン代謝経路とは、リジン生産菌によってグルコースからアスパラギン酸、ジヒドロジピコリン酸などを経て最終的にL−リジンを得る代謝経路のことを指す。したがって、本発明でいう微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生する化合物とは、アスパラギン酸やジヒドロジピコリン酸といったリジン代謝経路上の化合物から微生物を介して合成される化合物のことをいう。
【0011】
ここで、微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生する化合物としては、ε−カプロラクタムなどの環状ラクタム化合物や、1,5−ペンタンジアミンなどのジアミン化合物、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,3−ジヒドロジピコリン酸などのジカルボン酸化合物などが挙げられるが、これらの中でも、1,5−ペンタンジアミンと2,6−ピリジンジカルボン酸が経済的および入手の容易さの上から好ましく使用される。
【0012】
かかる1,5−ペンタンジアミンの製法としては、例えばリジン脱炭酸酵素を用いてリジンから転換する、特開2003−292614や特開2003−292613に記載されている方法を用いることが好ましい。かかる方法を用いることで、反応温度を120℃未満にすることができるため、その脱アンモニア反応により生成する2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジンなどの副生成物の生成量を低減することができる。
【0013】
また、前記2,6−ピリジンジカルボン酸の製法としては、例えば、特開2002−371063に記載されている、胞子を形成する能力を持たない微生物による2,6−ピリジンジカルボン酸の製法を用いることが好ましい。かかる方法を用いることで、実質的にアルキルピリジンを不純物として含まない2,6−ピリジンジカルボン酸を提供することができる。
【0014】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法としては、環状化合物による開環重合法や、ジアミンとジカルボン酸とを用いて合成する縮合重合法を採用することができるが、縮合重合法を用いる方が、ジアミンもしくはジカルボン酸として芳香環や複素環のものを選択することができ、重合したポリアミド樹脂の力学特性や耐熱特性を向上させることができるため好ましい。またその場合好ましいジアミンは、収率やコスト的な観点から1,5−ペンタンジアミンであり、またジカルボン酸については、複素環を持つ2,6−ピリジンジカルボン酸が好ましく採用される。
【0015】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法としては、公知の方法、例えば、「日刊工業新聞社 ポリアミド樹脂ハンドブック」、(福本修編、1988年、p.63)に記載されている方法を採用することができる。生成するポリアミドが可溶な溶媒に、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを溶解させ、重合を行う溶液重合法、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを、高温で加熱し、脱水反応を進行させる溶融重合法などが挙げられる。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂の重合度としては、数平均分子量が二千以上であることが好ましく、より好ましくは一万以上である。かかる範囲とすることで成形体やフィルムとして十分な力学特性を持つことができる。上限は成形性や流動性を損なう等の問題を生じない限り特に制限はないが、通常は百万以下が好ましく採用される。
【0017】
なお、数平均分子量は、以下の測定法により得られる値をいう。
【0018】
樹脂を溶媒中に溶解する。次いで、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略す。)に低角度レーザー光散乱光度計および示差屈折率計を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された分子鎖溶液の光散乱強度および屈折率差を、溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量とその含有率を順次計算し、分子量分布を求める。
【0019】
かかる重合度を調節する方法としては、重合時に一官能の物質を添加して行うことができる。ここで言う重合度調節剤として用いられる一官能物質としては、アニリン、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン等の一価アミン類、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノール等の一価フェノール類、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等の一価酸クロライド類を採用することができる。
【0020】
かくして製造されるポリアミド樹脂は、その機械強度を表す指標としては、一般に次式(I)によって算出される曲げ弾性率が用いられる。
【0021】
E=(1/4)×(L/bh)×(P/δ) (I)
(ここで、E:曲げ弾性率(MPa)、L:支点間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、h:試験片の厚さ(mm)、P/δ:荷重−たわみ曲線の直線部の勾配(N/mm))
なお、1(kgf/mm)=1.01972×10(GPa)
すなわちその数値が大きいほど高弾性率であることを示している。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂としては、3〜5GPaの曲げ弾性率であることが好ましく、さらに好ましくは3.5〜5GPaの曲げ弾性率を有することが、高弾性および高耐熱性の樹脂を得る上で良い。
また、非結晶性樹脂の耐熱性を表す指標としては一般にガラス転移温度が用いられ、本発明では示差走査熱量計(以下DSCと略す)を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミド樹脂を溶融状態から50℃/minの降温速度で0℃まで降温した後、10℃/min昇温速度で昇温した場合に吸熱ピークが現れる温度によって定義する。すなわちその温度が高いほど高耐熱性であることを示している。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂としては、120〜180℃のガラス転移温度を有することが好ましく、さらに好ましくは150〜180℃のガラス転移温度を有することが、高弾性および高耐熱性の樹脂を得る上で良い。
本発明のポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、充填剤を添加することができる。充填剤としては一般に樹脂用フィラーとして用いられる公知のものが用いられ、本発明のポリアミド樹脂組成物の強度、剛性、耐熱性、寸法安定性などを改良できる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどが挙げられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填材を2種類以上用いることも可能である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理して使用してもよい。また、モンモリロナイトについては、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。ポリアミド樹脂を補強するには、前記充填材の中でも、特にガラス繊維、炭素繊維が好ましい。
【0024】
さらに本発明のポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を任意の時点で添加することができる。
本発明のポリアミド樹脂は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形など任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に制限されるものではない。実施例で使用するデータの測定方法は以下の方法によって行った。
[曲げ弾性率]
オリエンテック社製 ロボットテンシロン RTM100を用いて、温度23℃、相対湿度65%の条件下、幅約10mm、長さ約30mm、厚さ約1mmの試験片の曲げ弾性率を荷重速度0.5mm/minで測定した。
[ガラス転移温度]
セイコー電子工業製 ロボットDSC RDC220を用いて、窒素雰囲気下、試料約5mgを採取し、次の条件で測定した。試料を10℃/min昇温速度で昇温した時に観測される吸熱ピークの温度(ガラス転移温度)を求めた。
[数平均分子量]
GPCを用いた絶対検量線法によって、数平均分子量を決定した。GPCの測定条件は以下の通りであった。
【0026】
装置:Waters2690(Waters社)
カラム:TOSOH社製、TSK−gel−α4000,TSK−gel−α2500の2本を直列に連結。
【0027】
溶媒:10mMのリチウムブロマイド含有のN−メチルピロリドン(以下、NMPと略す。)フロー(flow)=0.2ml/min
検出器:紫外線検出
試料:0.1重量%のNMP溶液
注入量:10μl
参考例1(リジン脱炭酸酵素の調製)
E.coli JM109株の培養は以下のように行った。まず、この菌株をLB培地5mlに1白金耳量植菌し、30℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0028】
次に、LB培地50mlを500ml容の三角フラスコに入れ、予め115℃、10分間蒸気滅菌した。この培地に前培養した上記菌株を植え継ぎ、振幅30cmで、180rpmの条件下で、1N塩酸水溶液でpHを6.0に調整しながら、24時間培養した。こうして得られた菌体を集め、超音波破砕および遠心分離により無細胞抽出液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を定法(例えば、「生化学実験講座、vol.11上」、左右田健次・御園春雄、1976年、p.179)に従って行った。
【0029】
リジンを基質とした場合、本来の主経路と考えられるリジンモノオキシゲナーゼ、リジンオキシダーゼおよびリジンムターゼによる転換が起こり得るので、この反応系を遮断する目的で、75℃で5分間、E.coli JM109株の無細胞抽出液を加熱した。さらにこの無細胞抽出液を40%飽和および55%飽和硫酸アンモニウム水溶液により分画した。こうして得られた粗精製リジン脱炭酸酵素溶液を用いて、リジンから1,5−ペンタンジアミンの生成を行った。
【0030】
参考例2(1,5−ペンタンジアミンの製造)
50mMリジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mMピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、40mg/L−粗精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5〜6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、1,5−ペンタンジアミン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5−ペンタンジアミン塩酸塩を1,5−ペンタンジアミンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ペンタンジアミンを得た。
【0031】
参考例3
(ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(EC1.3.1.26)が欠損した微生物の作成)
ブレビバクテリウム ラクトファーメンタムのジヒドロジピコリン酸レダクターゼの遺伝子配列(「J.Bacteriol. 175」、Pisabarro, A. et. al、1993年、P.2743)を参考に、5’−GCTTCTAGACTGGTGGGCGTTTGAAAAACT−3’(配列番号:1)と5’−GCTAAGCTTCACGCTATCAACTCCACGCTCAAT−3’(配列番号:2)の2種類のプライマーを合成した。上記各プライマーを20pmol、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/ml ゼラチン、50μM各dNTP、4単位ExTaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量100μlとした。ブレビバクテリウム ラクトファーメンタム ATCC13869の菌体を少量反応液に加えた後、DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、2分、プライマーの伸長条件を72℃、3分の各条件で、Perkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約890bpのジヒドロジピコリン酸レダクターゼの遺伝子を含むDNA断片を常法(例えば、「Molecular Cloning. New York」、Cold Spring Harbor Laboratory、1982年)に従って調製した。
【0032】
このDNA断片を、制限酵素XbaIおよびHind IIIで制限酵素処理し、pUC18(宝酒造(株)製)のXbaI−Hind III部位へ常法に従い挿入し、組換えプラスミドpDAP1を得た。
【0033】
次に、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの遺伝子配列(「FEMS Microbiol. Lett. 201」、Tauch, A. et. al、2001年、P.53)を参考に、5’−ACGGTCGACTCGCAGAATAAATAAATCCTGGTG−3’(配列番号:3)と5’−ATGAGGCCTGAGAGGCGGTTTGCGTATTGGA−3’(配列番号:4)の2種類のプライマーを合成した。
プラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)の溶液を0.5ml容のミクロ遠心チューブに2μlずつ取り、各プライマーを20pmol、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl、25mM KCl、100μg/ml ゼラチン、50μM各dNTP、4単位ExTaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量100μlとした。DNAの変性条件を94℃、1分、プライマーのアニーリング条件を55℃、2分、プライマーの伸長条件を72℃、3分の各条件で、Perkin−Elmer Cetus社のDNAサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を含む約970bpのDNA断片を常法(例えば、「Molecular Cloning. New York」、Cold Spring Harbor Laboratory、1982年)に従って調製した。得られたDNA断片を、SalIとStuIで制限酵素処理した後、1%アガロースゲルにて電気泳動し、DNA断片SAT/SalI、StuIを得た。また、上記pDNA1をSalIとStuIで制限酵素処理した後、1%アガロースゲルにて電気泳動し、ベクター部分の約2.9KbpのDNA断片pDAP/SalI、StuIを得た。DNA断片CAT/SalI、StuIとDNA断片pDAP/SalI、StuIを混合し、常法に従ってライゲーションした後、大腸菌JM109に形質転換した。得られたアンピシリン耐性の形質転換体から、常法に従ってプラスミドpDP−CAT1を得た。
【0034】
エレクトロポーレーション法を用いて、プラスミドpDP−CAT1を常法通りにブレビバクテリウム ラクトファーメンタム ATCC13869に導入し、形質転換体を得た。
【0035】
得られた形質転換体を、表1に示す最少平板培地に100mg/lのL−リジンを加えたリジン添加最少平板培地に塗布し、30℃で3日間培養した。その結果、全ての形質転換体は、リジン添加最少平板培地でのみ生育が認められた。このことから得られた形質転換体がリジン要求性を有することが確認できた。
【0036】
【表1】

【0037】
参考例4(2,6−ピリジンジカルボン酸の生産)
ブレビバクテリウム ラクトファーメンタム ATCC13869(親株)と参考例3で得られたブレビバクテリウム ラクトファーメンタムを、3mlブイヨン培地(ニッスイ製)に1白金耳量を植菌し、30℃で一晩振とう培養した。得られた培養液を、500ml容エーレンマイヤーフラスコ中の2,6−ピリジンジカルボン酸生産培地(表2)30mlに加え、30℃で3日間回転振とう培養した。得られた培養液から、遠心分離(4℃、6000rpm)によって菌体を除去し、上清中の2,6−ピリジンジカルボン酸を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、2,6−ピリジンジカルボン酸が検出された。
【0038】
【表2】

【0039】
参考例5(2,6−ピリジンジカルボン酸の単離)
50mlのブイヨン培地(ニッスイ製)を500ml容エーレンマイヤーフラスコに入れ、120℃、20分間滅菌した後、ブイヨン寒天培地(ニッスイ製)に生育させた参考例3で得た形質転換体1株の1白金耳量を植菌し、30℃で一晩回転振とう培養した。得られた培養液を、表2から炭酸カルシウムを除いた2,6−ピリジンジカルボン酸生産培地1lを仕込んだ2l容ミニジャーファーメンターに植菌し、通気量1vvm、回転数800rpm、培養温度30℃、pH7.0の条件で通気撹拌培養を行った。得られた培養液から遠心分離(4℃、6000rpm)によって菌体を除去し、培養上清950mlを得た。
【0040】
培養上清900mlを、500mlカチオン交換樹脂SK−1B(三菱化学製)を充填したカラムに通液し、素通り画分を回収した。さらに、1lイオン交換水をカラムに通液し、カラム洗浄液約1lを得た。素通り画分と洗浄液を混合し、その混合液1lを60℃で減圧濃縮した後4℃で晶析した。得られた淡黄白色固体を水に溶解させ濃縮した後、再度、4℃で晶析することによって、白色固体の2,6−ピリジンジカルボン酸を得た。
【0041】
実施例1
窒素雰囲気下、参考例5で得た2,6−ピリジンジカルボン酸83.6gをジクロロメタン500ml中に投入し、さらにジメチルホルムアミドを10滴加え、常温で30分間撹拌した。その後氷浴下で、シュウ酸クロライド96.0mlとジクロロメタン120mlの混合溶液を2時間かけて滴下し、その後氷浴を取り除き3時間撹拌した。反応溶液からエバポレーションによって溶媒を取り除き粗2,6−ピリジンジカルボン酸クロライドを得た。得られた粗製物を0.4mmHgの減圧下120℃で蒸留を行い、2,6−ピリジンジカルボン酸の精製物を収率79%で得た。
【0042】
窒素雰囲気下、参考例2で得た1,5−ペンタンジアミンのNMP溶液(1.65M)60.6mlおよびトリエチルアミン28.6mlを混合し、常温で1時間撹拌した。その後氷浴下で、上記の方法によって得た2,6−ピリジンジカルボン酸クロライドのジクロロメタン溶液(2.73M)36.6mlを2時間かけて滴下し、2時間撹拌した。続いて、得られた反応溶液にNMP20mlを加え、濾過した後水中に投入して再沈殿し、ポリマーを濾取後、乾燥して目的の樹脂粉末を収率62%で得た。数平均分子量は30600、試験片の曲げ弾性率は3.21GPa、ガラス転移温度は151℃であった。70℃での曲げ弾性率は2.88GPa、100℃での曲げ弾性率は2.70GPaであり、機械強度に優れ、高い耐熱性を有していた。
【0043】
比較例1
ポリ乳酸であるレイシアH100J(三井化学製)の試験片の曲げ弾性率は3.7GPa、ガラス転移温度は57℃であった。なお、70℃での曲げ弾性率は約0.1GPa、100℃での曲げ弾性率は約0.01GPaであった。常温では機械強度に優れていたが、耐熱性が低かった。
【0044】
比較例2
ポリカプロラクトンであるセルグリーンP−CA00(ダイセル化学工業製)の試験片の曲げ弾性率は1.5GPa、ガラス転移温度は−60℃であった。なお、JIS規格(K7207)に準ずる18.6kg/cmでの熱変形温度は59℃であった。機械強度に劣るものであった。
比較例1、2より、従来のバイオマスプラスチックであるポリ乳酸やポリカプロラクトンは、曲げ弾性率が小さく機械強度に劣るか、常温では曲げ弾性率が3GPa以上と化石資源由来のエンジニアリングプラスチック並みの高い曲げ弾性率を有するものでも、耐熱性が低く、100℃程度の高温下では使用することが困難になってしまい、実用的に使用するためには用途がかなり限定されてしまう。これに対し本発明の樹脂は、ガラス転移温度が151℃と非常に高温であるため、100℃以上の条件下でも3GPa以上の高い曲げ弾性率を保持することができ、通常の化石資源由来のエンジニアリングプラスチックと同様に利用できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物のリジン代謝経路上の化合物から派生するジアミンとジカルボン酸のみ用いて合成することを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
該ジアミンとジカルボン酸が、1,5−ペンタンジアミンと2,6−ピリジンジカルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2により製造されたポリアミド樹脂であって、その曲げ弾性率が、3〜5GPaであることを特徴とするポリアミド樹脂。
【請求項4】
示差走査熱量計によって測定した該ポリアミド樹脂のガラス転移温度が、120〜180℃であることを特徴とする請求項3に記載のポリアミド樹脂。
【請求項5】
請求項3、4のいずれかに記載のポリアミド樹脂を用いたポリアミド樹脂成形体。

【公開番号】特開2006−137820(P2006−137820A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327412(P2004−327412)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】