説明

ポリアミノ酸が施与されたカーボンナノチューブおよびその製造方法

【課題】物理的、化学的に安定で、酵素反応、分子間相互作用等の生化学的な反応の阻害剤として作用せず、かつ安定な分散性を示す、分散剤が施与されたCNTおよびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリアミノ酸が施与されたCNT(カーボンナノチューブ)は優れた分散能を有し、下記の方法により製造出来る。
(1)カーボンナノチューブ水分散液およびポリアミノ酸水溶液をそれぞれ個別に調製するステップと、
(2)該カーボンナノチューブ水分散液と該ポリアミノ酸水溶液とを混合して、カーボンナノチューブをポリアミノ酸により処理するステップと、
(3)カーボンナノチューブ−ポリアミノ酸混合液を遠心分離して、カーボンナノチューブを回収するステップ。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術の分野】
【0001】
本発明は水中での分散性に優れた、ポリアミノ酸が施与されたカーボンナノチューブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛面が円筒の形状をなすカーボンナノチューブ(以下「CNT」という)は、新しい機能材料として、様々な分野で近年注目されている。特にCNTの表面は、化学的に不活性であり、かつ物理的な吸着を起こすという特性が注目されている。例えば、核酸、タンパク質等の生体物質の機能を損なうことなくCNTの表面上に固定することができれば、バイオセンサー、診断機器、ドラッグデリバリー、微生物、動物細胞培養などのバイオテクノロジー分野における、核酸、タンパク質等の生体物質に対する良好な担体として応用することが期待されている。
【0003】
しかしながら、CNT自体は疎水性であるために、生体物質を施与するのに最適な環境である水中での分散性が著しく悪いという特性が問題となる。これまでにCNTの水中の分散性を改善するために、超音波処理によるCNT分散法(特許文献1)、DNAなどの生体物質(特許文献2)、高分子化合物(特許文献3〜5)、又は界面活性剤などの化学物質(特許文献6〜11)を分散剤として用いる方法が研究されてきた。
【0004】
しかしながら、超音波処理によるCNT分散法は、時間経過と共にCNTの再集合が起こるという欠点がある。また、DNA等の生体物質によるCNT分散法は、使用する生体物質の純度が一定せず、またDNase等の分解酵素によって分解されるなどの欠点がある。さらに、高分子化合物および界面活性剤については、酵素反応、分子間相互作用等の生化学的な反応の阻害剤として作用する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−76998号公報
【特許文献2】特表2006−513965号公報
【特許文献3】特開2004−276232号公報
【特許文献4】特開2007−56136号公報
【特許文献5】特開2007−138109号公報
【特許文献6】特開2005−162578号公報
【特許文献7】特開2005−263608号公報
【特許文献8】特開2005−324999号公報
【特許文献9】特開2007−39625号公報
【特許文献10】特開2007−169120号公報
【特許文献11】特開2007−169121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、化学的に安定で、酵素反応等の生化学的な反応の阻害剤として作用せず、かつ安定な分散性を有するCNTおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上述の課題を解決するために、種々の分散剤を鋭意検討した。その結果、本発明者等は、ポリアミノ酸類、特にポリチロシンとポリトリプトファンがCNTの分散性を著しく向上させることを見出した。
すなわち、本発明は、ポリアミノ酸が施与されたCNTおよびその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTは、従来の分散剤が施与されたCNTに比べて、化学的に安定であり、かつ、生化学的な反応を阻害することなく、長期にわたる安定な分散性を有することから、バイオテクノロジー分野での利用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ポリチロシンが施与された単層CNT(SWCNT)の、走査型プローブ顕微鏡による写真である。
【図2】本発明のポリアミノ酸をCNTに施与する、本発明の方法を示すフローチャートである。
【図3】ポリチロシンが施与されたSWCNTの、滅菌水中における室温で静置1ヵ月後の分散状態を示す写真である。
【図4】ポリチロシンが施与されたSWCNTの、滅菌水中における分散安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を説明する。
【0011】
本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTは、透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡を用いて、表面上にポリアミノ酸が存在することが確認できる。図1は、本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTの走査型プローブ顕微鏡の写真を示す。
【0012】
図1の写真から、ポリチロシンはSWCNTに覆うように吸着していることが確認できた。CNTはその表面が疎水性であるため、ポリアミノ酸を疎水性相互作用、および/またはπ電子スタッキングなどの相互作用様式で吸着しているものと考えられる。
【0013】
本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTは、水中での分散性(以下これを単に「分散性」と称することがある)に優れる。該分散性は、600nmにおける濁度を測定することにより判定することができる。一実施例では、ポリチロシンが施与されたSWNTは、蒸留水中で、室温で1ヶ月間以上、初期の分散状態を維持した。
【0014】
また、本発明のポリアミノ酸が施与されたカーボンナノチューブは、
(1)カーボンナノチューブ水分散液およびポリアミノ酸水溶液をそれぞれ個別に調製するステップと、
(2)該カーボンナノチューブ水分散液と該ポリアミノ酸水溶液とを混合して、カーボンナノチューブをポリアミノ酸により処理するステップと、
(3)カーボンナノチューブ−ポリアミノ酸混合液を遠心分離して、カーボンナノチューブを回収するステップ
とを含む方法により調製することができる。
【0015】
上記ポリアミノ酸としては、例えば、ポリロイシン、ポリリシン、ポリセリン、ポリフェニルアラニン、ポリチロシン、及びポリトリプトファン等が挙げられ、これらの混合物であってもよい。好ましくは、ポリチロシン、及びポリトリプトファンが使用される。
【0016】
該ポリアミノ酸の分子量は、後述する可溶化処理を行うことができれば特に制限はないが、1000〜50000Daの範囲が好ましく、より好ましくは12000〜35000Daの範囲である。
【0017】
本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTに用いるCNT類としては、単層CNT(SWCNT)、二層CNT(DWCNT)、複層CNT(MWCNT)のいずれであってもよい。
【0018】
該CNTの長さは、約1〜15μmが好ましく、より好ましくは約5〜15μmである。該CNTの直径は、約0.5〜2nmであることが好ましい。市販されているものは凝集体を形成している場合が多いので、好ましくは、メノウ乳鉢等で細かくした後、処理に付する。
【0019】
本発明において、使用する水としては、特に限定はされないが、蒸留水、脱イオン水、滅菌水、超純水等を使用できる。
【0020】
CNTの水分散液は、CNTと水とを0.01:100〜10:100の重量比で混合した後、公知の分散手段、例えば超音波により分散して調製することができる。
【0021】
また、ポリアミノ酸としてはポリロイシン、ポリセリン、ポリフェニルアラニン、ポリチロシン、ポリトリプトファン等を使用することができる。これらのポリアミノ酸は水難溶性であるので、それぞれのポリアミノ酸の性質に適し、かつ本発明の目的に沿った各種の可溶化処理を行う。一例として、ポリチロシン(分子量12000〜35000)の可溶化処理には、0.005〜0.05Mの水酸化カリウム溶液を用いる。
【0022】
ステップ(2)における混合液は、ポリアミノ酸とCNTの重量混合比が、0.1:1〜5:1、好ましくは0.5:1〜2:1、より好ましくは1.5:1〜2:1となるような比で、CNT水分散液とポリアミノ酸水溶液とを混合して調製する。
【0023】
ステップ(2)における処理は、例えば、混合液を振とうすることにより行うことができる。該処理の温度は、20〜90℃の範囲であり、25〜30℃が好ましい。また、該処理の時間は0.25〜3時間、好ましくは0.8〜1時間行う。
【0024】
上記のカーボンナノチューブを回収するステップの後に、遠心分離等でカーボンナノチューブを洗浄するステップを含むことが好ましい。該洗浄は、蒸留水等で行う。該洗浄するステップの回数に制限はないが、1〜5回行えば十分である。
【0025】
本発明のさらなる詳細を、以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0026】
[実施例1]SWCNT及びポリチロシンの調製
Shenzhen Nanotech Port Co.,Ltd.より購入したSWCNT(長さ約5〜15μm、直径約<2nm)をメノウ乳鉢でよくすりつぶした後、1mg/mlとなるように蒸留水で調製し、8時間超音波処理(W−113 Ultrasonic multicleaner、HONDA社製)を行った。また、ポリチロシンは、12000〜35000DaのMP Biomedicals LLC社製を使用し、0.025MのKOHに溶解して、1mg/mlポリチロシン溶液を調製した。
【0027】
[実施例2]ポリチロシンが施与されたSWCNTの作製
20μlの超音波処理した1mg/ml SWCNT、30μlのポリチロシン溶液、50μlの蒸留水を混合し、30℃で1時間、1200rpmで振とうした。SWCNTを4℃、15000rpmで30分遠心分離した後、上清を除去した。残った沈殿層に滅菌水を100μl加え、ボルテックスミキサー(Scientific Industries Vortex-gene2)で5〜10秒程度攪拌した後、再度4℃、15000rpmで30分間遠心分離した。この操作を5回繰り返して、ポリチロシンが施与されたSWCNTを調製した。
【0028】
得られたポリチロシンが施与されたSWCNTを蒸留水に懸濁後、室温で1ヶ月静置した。図3に示すように、ポリチロシンが施与されていないSWCNTと比較して、ポリチロシンが施与されたSWCNTは著しく良好な分散性を有していた。
【0029】
[比較例1]TritonX−100が施与されたSWCNTの作製
ポリチロシン溶液に代えて0.1重量% TritonX‐100溶液を用いたことを除き、実施例2と同様にSWCNTを処理した。
【0030】
[比較例2]サケ精子二本鎖DNAが施与されたSWCNTの作製
ポリチロシン溶液に代えて、超音波処理した0.5mg/ml サケ精子二本鎖DNA水溶液を用いたことを除き、実施例2と同様にSWCNTを処理した。
【0031】
[実施例3] ポリチロシンが施与されたSWCNTの分散状態の安定性
実施例1で得られたポリチロシンが施与されたSWCNTの分散状態の安定性を、分光光度計(U‐2001,Spectrometer,HITATI社製)を用いて、600nmにおける濁度を測定することにより、検討した。濁度の測定は、静置時間毎(0時間、1時間、1日、7日、14日)に行った。
【0032】
結果を図4に示す。比較対照として、0.02M KOHまたは蒸留水にそれぞれ分散させたSWCNTを用いた。ポリチロシンが施与されたSWCNTは、TritonX−100が施与されたSWCNT、および超音波処理したサケ精子二本鎖DNAが施与されたSWCNTとほぼ同等の分散性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のポリアミノ酸が施与されたCNTは、化学的に安定であり、かつ、生化学的な反応を阻害することなく、長期にわたる安定な分散性を有するため、バイオテクノロジー分野での利用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミノ酸が施与されたカーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記ポリアミノ酸が、ポリチロシンおよびポリトリプトファンからなる群より選択される、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記ポリアミノ酸の分子量が12000〜35000Daの範囲である、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、単層、二層または多層カーボンナノチューブである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
(1)カーボンナノチューブ水分散液およびポリアミノ酸水溶液をそれぞれ個別に調製するステップと、
(2)前記カーボンナノチューブ水分散液と前記ポリアミノ酸水溶液とを混合して、カーボンナノチューブをポリアミノ酸により処理するステップと、
(3)カーボンナノチューブ−ポリアミノ酸混合液を遠心分離して、カーボンナノチューブを回収するステップ
とを含む、ポリアミノ酸が施与されたカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記混合液中のカーボンナノチューブとポリアミノ酸との重量比が0.5:1〜2:1の範囲である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)における処理温度が20〜90℃の範囲である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)における処理時間が0.25〜3時間である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ水分散液が、超音波処理によって調製される、請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(3)の後に、前記カーボンナノチューブを水で洗浄するステップをさらに含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記洗浄が1〜5回行なわれる、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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