説明

ポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法

【課題】ポリアルキレンオキシドの分解による臭気発生物質が少なく、化粧品、医療機器などへ好適に使用することができるポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法を提供する。
【解決手段】ポリアルキレンオキシド変性シリコーンを、pH7以下の水溶液または酸物質で加熱処理後、芳香族炭化水素溶剤と水とを加えて水溶性の不純物を水抽出し、更に芳香族炭化水素相から溶剤および低揮発分を溜去することにより、副生成物に由来する臭気物質を低減する生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気発生物質が少なく、化粧品、医療機器などへ好適に使用することができるポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンオキシド変性シリコーンはSi−H基を有するポリオルガノシロキサンと末端に不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドとのヒドロシリル化反応によって合成されている。しかしながら、このようにして得られたポリアルキレンオキシド変性シリコーンは経時によって着臭するという欠点があった。
【0003】
このような欠点を改善する手段として種々の提案がされている。古くは、かかる欠点は、経時によってポリアルキレンオキシド変性シリコーンが酸化劣化してアルデヒドが生成するためとされ、酸化防止剤を配合するという提案もされているが、着臭の根本的な原因は、当該変性シリコーンに含有されるプロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドであるとして、これを除去又は変性する提案がされている。プロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドは、ポリアルキレンオキシド変性シリコーンの合成に使用されるポリアルキレンオキシドの末端不飽和部分であるアリルエーテル基が、合成反応中にヒドロシリル反応の白金触媒により不飽和結合が転移して生成されるものである。このプロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドはヒドロシリル化反応に寄与することなく、生成物中に残留し、経時で加水分解して臭いの原因物質であるプロピオンアルデヒドを生成することから、このプロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドを除去または変性させようとする提案がされているのである。
【0004】
プロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドを除去する提案の例の一つは、加水分解し、分解生成物であるプロピオンアルデヒドを溜去する方法である(特許文献1参照)。しかしながら、白金触媒による異性化反応は平衡化反応であるためある程度の未転位アリルエーテル化ポリアルキレンオキシドが存在し、これが経時でプロペニルエーテルに転位し、脱臭効果が減少する問題点があった。また、ポリアルキレンオキシド変性シリコーン保存中に生成した、加水分解物および酸化物等の化合物は、臭いの原因物質となる。例えば、低分子量の化合物としてアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、蟻酸、プロピオン酸、それらのエステル、過酸化物等である。それらもやはり酸を用いた加水分解で除去することはできない。即ち、これらの化合物は高分子量のポリアルキレンオキシド変性シリコーンに存在するため、単にストリッピング条件を工夫するだけで完全に除去することは非常に困難だからである。
【0005】
このような経時の着臭を抑制するべく、未反応のポリアルキレンオキシドに水素を添加して加水分解による臭い物質を発生しない化合物に変性する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、設備や工程の面で必ずしも容易ではなく、水素添加による変性が十分に行われない場合もあった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−302438号公報
【特許文献2】特開平7−330907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記の従来技術により合成されたポリアルキレンオキシド変性シリコーン中の副生成物に由来する臭気物質を低減する精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記問題点を解決すべく、本発明の特定のポリアルキレンオキシド変性シリコーンについて、それに含まれる不純物を加水分解後、特定の比率の芳香族炭化水素化合物と水を併用した抽出操作により副生成物に由来する臭気物質および残留する未反応のポリアルキレンオキシドを低減する精製方法を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、
[1] ポリアルキレンオキシド変性シリコーンを、pH7以下の水溶液または酸物質で加熱処理後、芳香族炭化水素化合物と水を加えて不純物を水抽出し、芳香族炭化水素相から溶剤および低揮発分を溜去することにより、副生成物に由来する臭気物質を低減するポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法であり、更に、
[2] 変性シリコーンが、一般式(1)であらわされる[1]記載のポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法である。
3−XSi−O−[RSiO][RSiO]−SiR3−y (1)
ここで、xおよびyは、1、2、3の整数、mおよびnは整数で、1≦m≦5、0≦n≦3である。式中のRは炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、素ハロゲン置換アルキル基、Rは、一般式(2)であらわされるポリアルキレンオキシド基である。
―C−O−(CO)(CO)―R (2)
ただし、式(2)中のRは炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン置換アルキル基、a、bは整数で、2≦a≦30、0≦b≦30である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の精製法により得られるポリアルキレンオキシド変性シリコーンは、副生成物に由来する経時の臭気の発生が抑制され、本来的には不純物である未反応のポリアルキレンオキシドをも低減するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の特定のポリアルキレンオキシド変性シリコーンは、一般式(1)で表されるものである。
3−XSi−O−[RSiO][RSiO]−SiR3−y (1)
ここで、xおよびyは、1、2、3の整数、mおよびnは整数で、1≦m≦5、0≦n≦3である。
【0012】
一般式(1)中のRは炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基;クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基などのハロゲン置換アルキル基である。特に好ましいRはメチル基である。
【0013】
一般式(1)中のRは、一般式(2)であらわされるポリアルキレンオキシド基である。
―C−O−(CO)(CO)―R (2)
ここで、式(2)中のRは、Rで例示したと同様な炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン置換アルキル基で、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基またはエチル基であり、a、bは整数で、2≦a≦30、0≦b≦30で、好ましくは4≦a≦9、0≦b≦3である。
【0014】
このような本発明の特定のポリアルキレンオキシド変性シリコーンは、末端に炭素―炭素二重結合を有するポリアルキレンオキシドとSi−H結合を有するポリオルガノシロキサンとを溶剤中でヒドロシリル化反応を行い、溶液から溶剤を留去するという、当業者には公知の方法により製造することができる。通常、末端に炭素―炭素二重結合を有するポリアルキレンオキシドの末端二重結合は、アリルエーテル基であり、ポリエチレンオキシドのモノアリルエーテルが好適に用いられる。
【0015】
本発明の精製方法の第1の工程は、加水分解工程であって、本発明のポリオキシアルキレンオキシド変性シリコーンを、pH7以下の水溶液または酸物質を用い、加熱処理することによる。この工程により、ポリオキシアルキレンオキシド変性シリコーンの合成工程中に、ポリアルキレンオキシドの末端アリルエーテル基が白金触媒によりプロペニルエーテル基に転位した、プロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドを加水分解させる。このポリアルキレンオキシドは水を併用しなくても酸のみ、例えば固体酸で分解可能であるが、反応性の点から水溶液を使用することが好ましい。本発明においては、かかる酸として鉱酸、有機酸及びルイス酸のいずれをも使用できる。
【0016】
鉱酸としては例えば塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、リン酸を、有機酸としてはギ酸、酢酸、トリフロロ酢酸等のカルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、フェノール類、第1級及び第2級ニトロ化合物、ルイス酸としてはAlCl、FeCl、TiCl、BF等のものが使用可能である。酸の除去、処理効率の点から、沸点が低く強酸である塩酸を使用することが好ましい。また、処理効率の点から65〜70℃の加熱処理が好ましい。70℃以上で加熱処理した場合シロキサン結合が分解する可能性があるため好ましくない。
【0017】
本発明の精製方法の第2の工程は、加水分解処理後の有機溶剤と水とによる抽出工程である。抽出は、加水分解物を冷却し、NaHCOにより中和後、有機溶剤及び水を加えて混合した後、水相を除去することで、加水分解生成物を除去することによる。この抽出操作により、加水分解物が水相に移行すると共に未反応物の一部も水相に移行し、後に行う減圧溜去によっては除去できない不純物であるポリアルキレンオキシド加水分解生成物の高分子量体を低減することができる。
【0018】
使用する有機溶剤は、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの芳香族系炭化水素化合物またはこれらの混合物である。溶剤としては、トルエンが特に好ましい。脂肪族炭化水素化合物、例えばヘキサンを使用した場合、加水分解生成物が有機溶剤に移行し精製率が下がるため好ましくない。
【0019】
有機溶剤および水の量は、ポリアルキレンオキシド変性シリコーン100重量部に対し、抽出溶剤80〜120重量部及び水15〜50重量部になる水を同時に加えることが望ましい。ここで水は、加水分解および中和に水溶液を使用した場合にはその水分量を除いた数量が加えられる。水が15重量部未満の場合、加水分解生成物が水相の飽和溶解量に対し過剰となり抽出溶剤に移行するため、精製率が下がり好ましくない。一方、水を50重量部より多く加えるとポリアルキレンオキシド変性シリコーンが水相に移行するため、収率が低下し好ましくない。なお抽出操作は数回繰り返してもよい。
【0020】
本発明の精製方法では、最後に、抽出工程の溶剤を除去する。条件としては10mmHg以下、好ましくは8mmHg以下の減圧下、40〜60℃の温度で溶剤を系外に排除する。この操作により溶剤相に一部残留した加水分解物も溜去される。溶剤の排除手段としては、薄膜蒸留装置及び回転蒸留装置等を用いるのが好ましい。
【0021】
本発明により精製されたポリアルキレンオキシド変性シリコーンは、抽出溶媒と水を併用することにより、ポリアルキレンオキシド変性シリコーンの回収率を維持しながら、これまでストリッピングでは完全には除去できなかった低分子及び高分子量の化合物が水相に溶解除去されており、また操作・工程が容易である。
【実施例】
【0022】
公知のヒドロシリル化反応を行い合成した次の式(3)で示される平均組成を有する変性ポリシロキサンを粗ポリアルキレンオキシド変性シリコーンとして用いた。ただし式(3)中、MeはCHを示す。
【0023】
【化1】

【0024】
精製されたポリアルキレンオキシド変性シリコーンを以下の方法により評価した。
1)臭い
100mlサンプルビンにポリアルキレンオキシド変性シリコーン組成物を10g入れ密閉し24時間放置後の臭いを評価した。
2)プロトンNMRによる残存プロペニルエーテル基量
ポリアルキレンオキシド変性シリコーンのプロトンNMRを重クロロホルム中で測定した。化学シフト4.4ppm、6.2ppmはそれぞれシス、トランスのプロペニルエーテルのCHCH=CHO―に帰属できる。これらのシグナルの変化を観測することにより抽出操作の効果を評価した。
3)プロトンNMRによるポリアルキレンオキシドの末端OH基量
ポリアルキレンオキシド変性シリコーンのプロトンNMRを重クロロホルム中で測定した。化学シフト2.5ppmはポリアルキレンオキシド加水分解生成物の高分子量体であるポリアルキレンオキシドの末端−OHに帰属できる。このシグナル強度より、プロペニルエーテル化ポリアルキレンオキシドが分解して発生するOH基末端を有するポリアルキレンオキシドの残存量を定量し抽出操作の効果を評価した。
【0025】
[実施例1]
ガラス製500mLの3つ口フラスコに粗ポリアルキレンオキシド変性シリコーン100gに対して0.05規定の塩酸15gを加え65℃で4時間攪拌加水分解させた。NaHCOで中和した後、トルエンを100g加え3分間攪拌した。15分間静置し2相を分液させた後水相を除去し、得られた有機相を回転式蒸発装置により50℃/8mmHgでトルエン、加水分解生成物を除去し、ポリアルキレンオキシド変性シリコーン79gを得た。臭いの評価および残存プロペニルエーテル基を表1に示した。
【0026】
[実施例2]
トルエン100gと共に蒸留水25gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアルキレンオキシド変性シリコーン75gを得た。臭いの評価および残存プロペニルエーテル基を表1に示した。
【0027】
[比較例1]
粗ポリアルキレンオキシド変性シリコーンを比較例1とした。臭いの評価および残存プロペニルエーテル基を表1に示した。
[比較例2]
トルエンに変えてヘキサンを100g及び蒸留水25gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリアルキレンオキシド変性シリコーン84gを得た。臭いの評価および残存プロペニルエーテル基を表1に示した。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明で精製されたポリアルキレンオキシド変性シリコーンは、近年無香料化する化粧品分野を中心に、医療機器、コンタクトレンズの材料など、ポリアルキレンオキシド変性シリコーンの着臭のため使用が困難であった分野にも利用することができるので産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンオキシド変性シリコーンを、pH7以下の水溶液または酸物質で加熱処理後、芳香族炭化水素化合物溶剤と水を加えて不純物を水抽出し、芳香族炭化水素相から溶剤および低揮発分を溜去することにより、副生成物に由来する臭気物質を低減するポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法。
【請求項2】
変性シリコーンが、一般式(1)であらわされる請求項1記載のポリアルキレンオキシド変性シリコーンの精製方法。
3−XSi−O−[RSiO][RSiO]−SiR3−y (1)
ここで、xおよびyは、1、2、3の整数、mおよびnは整数で、1≦m≦5、0≦n≦3である。式中のRは炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン置換アルキル基、Rは、一般式(2)であらわされるポリアルキレンオキシド基である。
―C−O−(CO)(CO)―R (2)
ただし、式(2)中のRは炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン置換アルキル基、a、bは整数で、2≦a≦30、0≦b≦30である。