説明

ポリイミド/金属積層体、およびそれを用いたフレキシブルプリント配線板

【目的】 高温高湿の厳しい環境下でも機能を損なうことなく作動する電気機器回路として好適なポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】 ポリイミドフィルムの片面または両面に、特定の金属を下地層として真空蒸着法などにより10〜300Åの厚み範囲で形成し、かつ該下地層上に真空蒸着法などにより形成された1000〜5000Åの厚み範囲の銅薄膜層と、その銅薄膜層上にメッキ法にて形成された3〜35μmの厚み範囲の銅メッキ層を積層してなるポリイミド/金属積層体において、121℃で100%RHの環境に96時間暴露した後のポリイミドフィルムと金属層との接着強度が5N/cm以上であり、かつ、暴露前の50%以上の保持率であることを特徴とするポリイミド/金属積層体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は接着性に優れたポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に関する。更に詳しくは、電子機器、部品の小型化、軽量化をになう接着剤レスの接着性に優れたポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に関し常態での接着性に併せて高温高湿の環境に暴露した後の接着強度の保持率が高く、たとえば高温高湿の環境でも良好に機能するポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ポリイミドフィルムに銅箔、アルミニウム箔を接着剤で貼り合わせた、いわゆる3層タイプのポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板があるが、このものは使用する接着剤に起因する熱劣化、不純物イオンによる電気特性低下、接着剤厚み分による小型化、軽量化の不都合など欠点を多く有している。これに対してポリイミドフィルム上に接着剤を用いずに直接、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、銅メッキ等の方法で金属層を形成させた2層ポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板が提案されている。これに対して、例えば、■特開平4−329690号公報では、絶縁フィルムにクロム系セラミック蒸着層、銅または銅合金蒸着層及び銅メッキ層を順次設けたフレキシブルな電気回路用キャリヤーが、■特開平6−29634号公報では、ポリイミドフィルム主面上に下地金属薄膜、銅薄膜が形成され、もう一方の主面上に酸素透過率の小さい薄膜を形成し、その片面あるいは両面上に回路用銅箔を付与されたフレキシブルプリント回路基板用材料が、■特公平4−65558号公報では電気絶縁性支持体フィルム上に25〜150Åの厚みのクロム/酸化クロムスパッタリング層、1μm未満の厚みの銅スパッタリング層を付与し、銅層にフォトレジスト組成物を塗布する回路材料の製造方法が、■特開平8−330728号公報では、フィルム中に錫を含有するポリイミドフィルムの片面または両面に、フィルム表面より内に向けた厚み方向に、蒸着金属の一部または全部がフィルムに混在し、該混在層を含めた10〜300Åの範囲の厚みからなる第1蒸着金属層を設け、その層上に銅からなる第2蒸着層を設けたフレキシブルプリント配線用基板が提案されている。しかしながら、これら上記の技術では、常態での接着性におよび高温の環境に暴露した後の接着強度の保持率は改善されているものの、高温高湿の環境下、例えば、121℃で100%RHの環境下96時間でも暴露した後の接着強度の保持率は低く、配線パターンのはく離が観測される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記従来の問題点を解決し、高い耐環境性に優れた、特に高温高湿の環境下でも接着強度の保持率が高いポリイミド/金属積層体及びこれを用いたフレキシブルプリント配線板を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明にかかるポリイミド/金属積層体は、ポリイミドフィルムの片面または両面に、ニッケル、ニッケル合金、ニッケル化合物、クロム、クロム合金、クロム化合物の群から選択した1種以上の金属を下地層として真空蒸着法、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により10〜300Åの厚み範囲で形成し、かつ該下地層上に真空蒸着法、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成された1000〜5000Åの厚み範囲の銅薄膜層と、その銅薄膜層上にメッキ法にて形成された3〜35μmの厚み範囲の銅メッキ層を積層してなるポリイミド/金属積層体についてであり、121℃で100%RHの環境に96時間暴露した後のポリイミドフィルムと金属層との接着強度が5N/cm以上であり、かつ、暴露前の50%以上の保持率であることを特徴とすることを内容とする。
【0005】本発明にかかるポリイミド/金属積層体は、部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムの表面にチタン元素を含有する有機溶媒溶液を塗布し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化し、かつこのフィルムを乾燥したポリイミドフィルムを用いてなることを内容とする。
【0006】本発明にかかるポリイミド/金属積層体は、部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムをチタン元素を含有する有機溶媒溶液に浸漬し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化し、かつこのフィルムを乾燥したポリイミドフィルムを用いてなることを内容とする。
【0007】本発明にかかるポリイミド/金属積層体は、前記ポリイミドフィルムの厚みが75μm以下であることを特徴とすることを内容とする。
【0008】本発明にかかるフレキシブルプリント配線板は、前記ポリイミド/金属積層体の金属層をエッチングしてパターニングすることを特徴とすることを内容とする。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明にかかるポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板は、耐環境性に優れた特性を有する。詳細には、高温高湿環境に暴露された後の、接着強度の低下の少ない信頼性の高いポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板である。
【0010】以下、本発明にかかるポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板の実施の形態を具体的に説明する。まず、本発明に係るポリイミド/金属積層体について説明する。本発明に係るポリイミド/金属積層体は、ポリイミドフィルムの両面または片面に金属層を積層したものである。このポリイミド/金属積層体の製造方法は、当業者が周知のあらゆる方法により可能であるが、たとえば、この積層体は、通常フィルム状のポリイミドに、金属を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の方法で直接積層したものである。この際、2種類以上の金属を順次積層する、或いは2種類以上の金属を混合して合金として積層することも可能で、ポリイミドフィルムの片面または両面にニッケル、ニッケル合金およびニッケル化合物、クロム、クロム合金、クロム化合物の群から選択した1種以上の金属を下地層として形成しさらに該下地層上に銅層を積層したものが好ましく、下地層がニッケル、ニッケル合金およびニッケル化合物であることがさらに好ましく、その中でニッケルがより好ましい。また、下地層の厚みが、10〜500Åで、さらに好ましくは10〜300Åであり、もっと好ましくは50〜300Åであり、かつ、下地層上に形成される銅層が、真空蒸着法、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成された1000〜10000Åの厚みの、さらに好ましくは1000〜5000Åの厚みの、もっと好ましくは1500〜3000Åの厚み範囲の銅薄膜層と、その銅薄膜層上にメッキ法にて形成された3〜50μmの厚み、さらに好ましくは3〜35μm範囲の銅メッキ層からなるものである。この範囲以外では、例えば、下地層が上記範囲内であっても、銅薄膜層が200Åと範囲外であれば、得られるポリイミド/金属積層体において、121℃で100%RHの環境に96時間暴露した後のポリイミドフィルムと金属層との接着強度が暴露前の50%を下まわってしまう。また、下地層が2000Åと範囲外であれば、銅薄膜層が範囲内であっても、得られるポリイミド/金属積層体において、121℃で100%RHの環境に96時間暴露した後のポリイミドフィルムと金属層との接着強度が5N/cmを下まわり、かつ、接着強度保持率が暴露前の50%を下まわってしまう。下地層の厚みが上記範囲内であれば、銅薄膜層の厚みが10000Åを越える場合には物性には大きな影響は無いが、膜厚形成に多くの時間を要し、生産効率を悪化させる。また、銅薄膜層上にメッキ法にて形成される銅メッキ層の厚みが、3μmを下まわると、得られるポリイミド/金属積層体を用いたフレキシブルプリント配線板において導体パターンに強度がないために折り曲げ使用ができず、50μmを越える厚みでは、得られるポリイミド/金属積層体を用いたフレキシブルプリント配線板において、接着剤レスにした本来の目的であるを小型化、軽量化を満足しなくなる。また、下地層を形成する前に、ポリイミドフィルム表面をクリーニング、物理的改質、化学的改質などの目的で、洗浄処理、加熱処理、電気処理などの前処理を行ってもよく、やらない方が好ましい場合もある。次に、本発明にかかるポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に用い得るポリイミドフィルムについて説明する。
【0011】本発明において使用されるポリイミドフィルムは、公知の方法で製造することができる。即ちポリアミド酸を支持体に流延、塗布し、化学的にあるいは熱的にイミド化することで得られる。好ましくは化学的にイミド化することが、フィルムの靭性、破断強度、及び生産性の観点から好ましい。
【0012】本発明に用いられるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、基本的には、公知のあらゆるポリアミド酸を適用することができる。
【0013】本発明に用いられるポリアミド酸は、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。
【0014】また、ポリイミドはポリアミド酸をイミド化して得られるが、イミド化には、熱キュア法及びケミカルキュア法のいずれかを用いる。熱キュア法は、脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。また、ケミカルキュア法は、ポリアミド酸有機溶媒溶液に、無水酢酸等の酸無水物に代表される化学的転化剤と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表される触媒とを作用させる方法である。ケミカルキュア法に熱キュア法を併用してもよい。イミド化の反応条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ、熱キュア法及び/またはケミカルキュア法の選択等により、変動し得る。
【0015】また、本発明にかかるポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの製造工程中いずれかの段階において、チタン元素を添加することもでき、さらに好ましくは、部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムにチタン元素を含有する有機溶媒溶液を塗布、またはチタン元素を含有する有機溶媒溶液に浸漬した後にフィルム表面に残存する余分な液滴を取り除いた後にポリアミド酸をポリイミドに転化し、かつこのフィルムを乾燥することにより得られる。
【0016】ここで、本発明にかかるポリイミド前駆体ポリアミド酸組成物に用いられる材料について説明する。
【0017】本ポリイミドにおける使用のための適当な酸無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物 )、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を含む。
【0018】これらのうち、本発明にかかるポリイミド/金属積層体における使用のための最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)であり、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
【0019】本発明にかかるポリイミド組成物において使用し得る適当なジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、及びそれらの類似物を含む。
【0020】これらポリイミドフィルムに用いられるジアミンにおいて、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びp−フェニレンジアミンが特に好ましく、また、これらをモル比で100:0から0:100、好ましくは100:0から10:90の割合で混合した混合物が好ましく用い得る。
【0021】ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミドが特に好ましく用い得る。
【0022】また、イミド化をケミカルキュア法により行なう場合、本発明にかかるポリアミド酸組成物に添加する化学的転化剤は、例えば脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N ' - ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物が挙げられる。それらのうち、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ラク酸等の脂肪族無水物またはそれらの2種以上の混合物が、好ましく用い得る。
【0023】また、イミド化を効果的に行うためには、化学的転化剤に触媒を同時に用いることが好ましい。触媒としては脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等が用いられる。それらのうち複素環式第三級アミンから選択されるものが特に好ましく用い得る。具体的にはキノリン、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等が好ましく用いられる。
【0024】本発明に用いられる、チタン化合物は、有機または無機化合物であれば限定されないが、例えば塩化物、臭化物等のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられる。また、チタン原子との配位結合を形成し得る有機化合物を有する有機チタン化合物であり得る。たとえば、ジアミン、ジホスフィン等の中性分子やアセチルアセトナートイオン、カルボン酸イオン、ジチオカルバミン酸イオン等を有する有機化合物、またポリフィリン等の環状配位子等が挙げられる。これらの化合物はカップリング剤、あるいは金属塩の形で与えられる。これらの化合物は熱重量分析による熱分解温度が100℃から250℃の範囲にあるものが好ましく、この範囲を外れるものは所定の効果を発現しにくい。また、一般式、化1、で示されるものが好ましい。
【0025】
【化1】


具体的にはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ブチルチタネートダイマー、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2ーエチルヘキシル)チタネート、チタンオクチレングリコレートなどが例示される他、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジヒドロキシチタンビスラクテート等も使用可能である。最も好ましいのはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレートあるいはジヒドロキシチタンビスラクテートである。
【0026】上記のチタン元素を含むポリイミドフィルムを用いることにより、本発明にかかる高温高湿環境での耐久性に優れた信頼性の高いポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板を提供し得る。
【0027】チタン元素をポリイミドフィルムに含有させる方法としては、種々あるが、例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液に、チタン元素を含む化合物を混合した後に、ポリアミド酸をポリイミドに転化する方法がある。
【0028】また、チタン元素をポリイミドフィルムに含有させる他の方法としては、部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに該元素を含む化合物の溶液を塗布した後、該フィルムを加熱乾燥し、完全にイミド化する方法がある。
【0029】上記元素をポリイミドフィルムに含有させるさらに他の方法としては、部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムを該元素を含む化合物の溶液に浸漬した後、該フィルムを加熱乾燥し、完全にイミド化することで付与することができる。
【0030】まず、上記元素をポリアミド酸溶液に混合した後、ポリアミド酸をポリイミドに転化する方法について説明する。
【0031】上記酸無水物、ジアミン、およびチタン化合物、さらに好ましく用い得る化学的転化剤、触媒の混合順序は、基本的には限定されない。
【0032】上記得られたポリアミド酸溶液は、通常ポリアミド酸固形分として15〜25wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0033】ポリアミド酸溶液に、チタン化合物を混合する場合の形状は、液状、コロイド状、スラリー状、あるいは固形状のものが可能であり、適当な溶媒に希釈した溶液で混合するのが、作業性、混合の均一性等の観点から好ましい。
【0034】具体的に、例えばケミカルキュア法について説明する。上記得られたポリアミド酸組成物をに化学的転化剤と触媒を混合した後、キャスティング面にフィルム状にキャスティングする。次に、例えば100℃程度で緩やかに加熱し、化学的転化剤と触媒を活性化させて、キャストフィルムをポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルム(以下ゲルフィルムという)に転移させる。
【0035】続いて、得られたゲルフィルムを乾燥させて、水分や残留する溶媒及び化学的転化剤を除去することにより、ポリアミド酸がポリイミドに完全に変換される。
【0036】なお、ゲルフィルムは、溶媒等を多く含んでいるので、脱水閉環段階の前に乾燥により溶媒等を除去する。フィルムの溶媒等をこの乾燥により除去する際にフィルムの収縮を回避するため、例えば、連続製造法においては、テンター工程においてゲルフィルムを、収縮を抑制するため、抑制用のテンダークリップまたピンを用いてフィルムの両端を保持することが好ましい。この場合、乾燥の条件は、ポリアミド酸がポリイミドに完全に変換しない比較的温和な条件で行うことができる。
【0037】また、同一段階でフィルムを乾燥かつイミド化するためには、常法に従い、段階的、連続的に加熱し、最終的に短時間の高温を用いるのが好ましい。具体的には、最終的に500〜580℃の温度で15〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり問題が生じる。逆にこの温度より低い及び/または時間が短いと所定の効果が発現しない。
【0038】次に、上記元素を、部分的にイミド化、または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに上記元素を含む化合物の溶液を塗布または浸漬した後、加熱乾燥し、ポリイミドフィルムを得る方法について説明する。
【0039】部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルム(以下ゲルフィルムという)は公知の方法で製造することができる。即ち、ポリアミド酸をガラス板などの支持体上に流延または塗布し、熱的にイミド化することによって、または化学的転化剤及び触媒を低温でポリアミド酸溶液中に混合し、引き続いてこのポリアミド酸溶液を支持体上にフィルム状にキャストし温和な条件で加熱することで化学的転化剤及び触媒を活性化することによって製造することができる。
【0040】ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化の中間段階にあり、自己支持性を有し、式1(A−B)×100/B・・・・式1式1中A,Bは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量から算出される揮発分含量は5〜500%の範囲、好ましくは5〜100%、より好ましくは5〜50%の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、外れると所定の効果が発現しにくい。
【0041】赤外線吸光分析法を用いて式2(C/D)×100/(E/F)・・・・式2式2中C、D、E、Fは以下のものを表す。
C:ゲルフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さD:ゲルフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さE:ポリイミドフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さF:ポリイミドフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さから算出されるイミド化率は50%以上の範囲、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、外れると所定の効果が発現しにくい。
【0042】本発明において、ゲルフィルムに塗布又は浸漬する該元素を含む化合物の溶液に使用される溶剤は、該化合物を溶解するものであれば良く、水、トルエン、テトラヒドロフラン、2−プロパノール、1−ブタノール、酢酸エチル、N,N−ジメチルフォルムアミド、アセチルアセトンなどが使用可能である。これらの溶剤を2種類以上混合して使用しても良い。本発明において、N,N−ジメチルフォルムアミド、1−ブタノール、および水が特に好ましく用いられ得る。
【0043】溶液のチタン化合物の濃度は0.01%〜10%好ましくは0.1%〜5%が好適である。
【0044】上記部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに、上記元素を含む溶液を塗布する方法は、当業者が用い得る公知の方法を用い得るが、例えば、グラビアコート、スプレーコート、ナイフコーター等を用いた塗布方法が利用可能であり、塗布量の制御や均一性の観点より、グラビアコーターが特に好ましく用い得る。塗布量としては0.1g/m2〜100g/m2好ましくは1g/m2〜10g/m2が好適であり、この範囲を外れると、効果と、フィルムの外観のバランスを両立しにくい。
【0045】また、上記元素を含む溶液を浸漬する場合は、特に制限はなく、一般的なディプコート法が利用し得る。具体的には、上記溶液を入れた槽に上記部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムを連続的に、またはバッチで浸すことにより行われる。浸漬時間は1〜100秒好ましくは1〜20秒が好適でありこの範囲を外れると、効果と、フィルムの外観のバランスを両立しにくい。
【0046】部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムは、上記元素を含む化合物の溶液を塗布、又は浸漬した後フィルム表面の余分な液滴を除去する工程を加えることが、フィルム表面にムラのない外観の優れたポリイミドフィルムを得ることが出来るので好ましい。液滴の除去は、ニップロールによる液絞り、エアナイフ、ドクターブレード、拭き取り、吸い取りなどの公知の方法が利用可能であり、フィルムの外観、液切り性、作業性等の観点より、ニップロールが好ましく用いられ得る。
【0047】この上記元素を含む溶液を塗布または浸漬したゲルフィルムを支持体から剥離し、端部を固定してイミド化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤及び触媒を除去し、そしてポリアミド酸を完全にポリイミドに転化して、本発明にかかるポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドフィルムを得る。
【0048】残留揮発分を完全に除去しかつポリアミド酸を完全にポリイミドに転化しするためには、常法に従い、段階的、連続的に加熱し、最終的に短時間の高温を用いるのが好ましい。具体的には、最終的に500〜580℃の温度で15〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり問題が生じる。逆にこの温度より低い及び/または時間が短いと所定の効果が発現しない。上記種々の方法で得られるポリイミドフィルムは、公知の方法で無機あるいは有機物のフィラー、有機リン化合物等の可塑剤や酸化防止剤を添加してもよく、またコロナ放電処理やプラズマ放電処理等の公知の物理的表面処理や、プライマー処理等の化学的表面処理を施し、さらに良好な特性を付与し得る。また、上記製造方法で製造されたポリイミドフィルムを、15kg/m以下の、さらに好ましくは1〜10kg/mの張力で、150℃〜500℃で、さらに好ましくは200℃〜450℃で加熱処理することにより加熱収縮を除去するのが好ましい。
【0049】本発明にかかるポリイミド/金属積層体に使用する、ポリイミドフィルムの膜厚は、用途に応じて適切な厚さを選択し得るが、具体的には5〜225μm、好ましくは5〜125μm、より好ましくは、5〜75μmである。
【0050】次に、本発明にかかるフレキシブルプリント配線板について説明する。フレキシブルプリント配線板は、上記のポリイミド/金属積層体の金属部分を湿式或いは乾式の方法でエッチングし所定の回路をパターニングすることで得られる。
【0051】パターニングの後所定の素子を実装し、必要に応じて保護フィルムを金属層の上に積層する。或いは保護樹脂を塗布する。
【0052】本発明にかかるポリイミド/金属積層体を用いることにより高温、高湿下の厳しい環境において、耐久性があり、信頼性の高いポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0053】以下に実施例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、及び改変を行い得る。
【0054】なお、実施例中のフレキシブルプリント配線板の接着強度はJIS、C−6481に従って銅パターン幅3mmで90度ピールで評価した。
【0055】
【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明する。
(実施例1)ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の17wt%のDMF溶液90gに無水酢酸17gとイソキノリン2gからなる転化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に厚さ700μmで流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を110℃4分間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発分含量は30wt%であり、イミド化率は90%であった。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。得られたゲルフィルムを、チタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/イソプロピルアルコール溶液に10秒間浸漬し、圧縮空気を吹き付けて余分な液滴を除去した後、300℃、400℃、500℃で各1分間加熱して厚さ50μmのポリイミドフィルムを製造した。
【0056】このポリイミドフィルムの片面に電子線加熱方式の真空蒸着装置(日本真空社製、EBH−6)を用いて、槽内を1×10-5トールに排気した後、電圧10キロボルトにて厚み100Åのニッケルを蒸着し、更にそのニッケル層上に、排気条件が同じ槽内で、電圧10キロボルトにて厚み2000Åの銅を蒸着し、さらに硫酸電気銅メッキ(陰極電流密度2A/dm2、メッキ時間40分)により厚み15μmの銅メッキ層を形成し、ポリイミド/金属積層体を作製した。このポリイミド/金属積層体の常態での接着強度と、121℃100%RHの環境に96時間曝露した後の金属層とポリイミドフィルムの接着強度をJIS、C−6481に従って銅パターン幅3mmで90度ピールで評価した。
【0057】この測定の結果を表1に示す。
(実施例2)ピロメリット酸二無水物/ p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/p−フェニレンジアミンをモル比で1/1/1/1の割合で合成したポリアミド酸の15wt%のDMF溶液90gに無水酢酸10gとイソキノリン8gとDMF25gからなる転化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に厚さ250μmで流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を140℃2分間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発分含量は40wt%であり、イミド化率は90%であった。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムをチタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/イソプロピルアルコール溶液に10秒間浸漬し、ニップロールで余分な液滴を除去した後、300℃、450℃、530℃で各30秒間加熱して厚さ25μmのポリイミドフィルムを製造した。このポリイミドフィルムを用いて実施例1と同様の方法でニッケル厚み200Å、蒸着銅厚み2000Å、メッキ銅厚み15μmのポリイミド/金属積層体を作製した。実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(実施例3)3,3‘,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物/ p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/p−フェニレンジアミンをモル比で4/5/7/2の割合で合成したポリアミド酸の15wt%のDMF溶液90gに無水酢酸10gとイソキノリン8gとDMF25gからなる転化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に厚さ250μmで流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を140℃2分間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発分含量は40wt%であり、イミド化率は0%であった。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムをチタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/イソプロピルアルコール溶液に10秒間浸漬し、ニップロールで余分な液滴を除去した後、300℃、450℃、530℃で各30秒間加熱して厚さ25μmのポリイミドフィルムを製造した。このポリイミドフィルムを用いて実施例1と同様の方法でニッケル厚み100Å、蒸着銅厚み2000Å、メッキ銅厚み15μmのポリイミド/金属積層体を作製した。実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(比較例1)実施例1と同様の方法で得られたポリイミドフィルムを用いて実施例1と同様の方法で、ニッケル厚み2000Å、蒸着銅厚み2000Å、メッキ銅厚み15μmのポリイミド/金属積層体を作製した。実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(比較例2)実施例2と同様の方法で得られたポリイミドフィルムを用いて実施例1と同様の方法で、ニッケル厚み200Å、蒸着銅厚み200Å、メッキ銅厚み15μmのポリイミド/金属積層体を作製した。実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】


【0059】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板は耐環境性、特に高温高湿環境に暴露された後での接着強度が優れる。
【0060】これによれば、高温高湿の厳しい環境下でも機能を損なうことなく作動する電気機器回路として好適なポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板を提供することができるという有利性が与えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリイミドフィルムの片面または両面に、ニッケル、ニッケル合金、ニッケル化合物、クロム、クロム合金、クロム化合物の群から選択した1種以上の金属を下地層として真空蒸着法、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により10〜300Åの厚み範囲で形成し、かつ該下地層上に真空蒸着法、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成された1000〜5000Åの厚み範囲の銅薄膜層と、その銅薄膜層上にメッキ法にて形成された3〜35μmの厚み範囲の銅メッキ層を積層してなるポリイミド/金属積層体。
【請求項2】部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムの表面にチタン元素を含有する有機溶媒溶液を塗布し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化し、かつこのフィルムを乾燥したポリイミドフィルムを用いてなる請求項1記載のポリイミド/金属積層体。
【請求項3】部分的にイミド化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムをチタン元素を含有する有機溶媒溶液に浸漬し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化し、かつこのフィルムを乾燥したポリイミドフィルムを用いてなる請求項1記載のポリイミド/金属積層体。
【請求項4】ポリイミドフィルムの厚みが75μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載のポリイミド/金属積層体。
【請求項5】請求項1乃至請求項4記載のポリイミド/金属積層体の金属層をエッチングしてパターニングすることを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項6】121℃で100%RHの環境に96時間暴露した後のポリイミドフィルムと金属層との接着強度が5N/cm以上であり、かつ接着強度の保持率が、暴露前の50%以上であることを特徴とする請求項1乃至5に記載のポリイミド/金属積層体。