説明

ポリウレタンエラストマーとこれを用いた中間転写ベルト

【課題】 複写機、プリンタ等の電子写真装置に使用される部材であって、部材本体の難燃化の要求が強い中間転写体を、環境保護上の問題を有するハロゲン系難燃剤を使用せず、物性低下や、ブリード問題を引き起こすことなく難燃性を付与した中間転写体、とりわけ中間転写ベルトを提供する。
【解決手段】 導電性付与剤としてカーボンブラック3〜10重量%と、難燃性付与剤として平均粒子径1〜20μmの粒状赤燐をリン元素として5〜20重量%とを含有するポリウレタンエラストマーを用いて中間転写体の少なくとも表面層を形成する。特に、中間転写体が薄肉円筒状である中間転写ベルトの少なくともその表面層に前記ポリウレタンエラストマーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置に用いられるベルト状若しくはローラ状の中間転写体であって、感光体に現像されたトナー像を、一旦、前記中間転写体の表面に転写した後、紙等の記録材に再転写する中間転写体に用いられる難燃性のポリウレタンエラストマーと、これを用いた中間転写ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の中間転写体であるベルトやローラは、感光体上に現像されたトナー像を電気的にその表面に受け取り、担持する。中間転写体表面に一旦担持されたトナー像は、次いで転写ローラと中間転写体との間に供給される紙等転写体に電気的に再転写される。紙等に転写されたトナー像は定着部にて加熱溶融して定着され、画像が形成される。
【0003】
カラー画像の場合、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックなどの複数色のトナー像を、中間転写体の表面に順に積層してカラートナー像を形成し、紙等転写体に転写し、定着される。転写後、中間転写体上の残留トナーは、ブレード等によりクリーニングされる。
【0004】
以上のような、電子写真方式による転写工程には、電気的に転写することが不可欠であり、高電圧を印加することが必要になる。従って高電圧による火花が発生する危険性があり、転写部材にも火花に接しても燃えにくいこと、即ち難燃性が要求されてきている。
【0005】
電子写真装置において、高電圧が印加され、難燃性が必要な部材には、中間転写体以外にも帯電ローラ、感光体及び現像部材等があるが、とりわけ中間転写体は部材として大きな容積を占める。帯電ローラ、感光体、現像ローラ等はカートリッジとして組立てて一体化でき、カートリッジ容器等を難燃化することにより対応可能であるが、中間転写体はその容積の大きさ、設置形態からカートリッジ化は難しく、従って、中間転写体そのものに難燃化する必要がある。
【0006】
中間転写体がベルト状である中間転写ベルトである場合、ローラ状でである場合に比して薄肉で熱伝導性が大きく着火すると火焔の伝播が早く燃え易い傾向がある。とりわけ中間転写ベルトに対する難燃性の要求は強い。
【0007】
この要求に対し、従来より中間転写ベルトに難燃性を付与する試みがなされている。例えばハロゲン系難燃付与剤であるテトラブロモビスフェノールAをポリウレタン発泡体中に添加する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、最近の環境保護に対する機運が高まっている中、ダイオキシン発生が懸念されるハロゲン系難燃剤の使用に対する市場の目は厳しく、特にEU諸国の中にはエコラベル表示等の自主規制を設け、法的規制とは別にエコラベル表示によるイメージ向上効果をねらっており、電子写真装置メーカーではハロゲン系難燃剤の使用を禁止している会社もある。
【0008】
また他の難燃性付与手段として、水酸化アルミや水酸化マグネシウム等の無機水酸化物を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらにより難燃性を得るには大量の添加を要し、物性の制御が難しいという問題がある。
【0009】
更に、難燃性付与剤としてリン酸エステル類を添加する試みもあるが、リン酸エステルが常温で液状で、可塑的効果を有するので弾性体が軟化しやすく、物性制御が困難であり、ブリードによる汚染等の問題もある。
【特許文献1】特開2001−72733号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−110083号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記問題に対し、部材本体の難燃化の要求が強い中間転写体を、環境保護上の問題を有するハロゲン系難燃剤を使用せず、物性低下や、ブリード問題を引き起こすことなく難燃性を付与した中間転写体、とりわけ中間転写ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために請求項1に記載のポリウレタンエラストマーは、導電性付与剤としてカーボンブラック3〜10重量%と、難燃性付与剤として平均粒子径1〜20μmの粒状赤燐をリン元素として5〜20重量%とを含有することを特徴とする。
【0012】
カーボンブラック(以下、CBと略する)の含有量が3重量%未満であれば、好ましい体積固有抵抗である108Ω・cmより大きくなり、一方、10重量%を超えると、分散が困難になり、ポリウレタン形成液(ポリウレタンを形成するポリオール、イソシアネートおよび硬化剤などの混合液)の粘度が高く、注入可能時間(ポットライフ)が短くなり、成型品の表面が不均一になるおそれがある。
【0013】
粒状赤燐の平均粒子径が1μmより小さくなると、配合作業中に粒状赤燐が浮遊飛散しやすく、作業環境を悪化させる恐れがあり、また、市販品として入手することも困難である。さらに、平均粒子径が20μmより大きくなると、単位重量当たりの総表面積が小さくなり、難燃性付与性能が不十分になる。
【0014】
粒状赤燐の含有量が5重量%未満であると、難燃性試験法UL94に規定されるV−2レベルの難燃性を得るのが困難であり、一方、20重量%を超えると、CBと同様に、ポリウレタン形成液の粘度上昇をきたし、流動性が悪化して金型への注入作業が困難になる。
【0015】
請求項2に記載の中間転写ベルトは、薄肉円筒状であって、少なくともその表面層が請求項1に記載のポリウレタンエラストマーであることを特徴とする。この種の中間転写ベルトは単層のものまたは複数層のものとがあり、少なくともその表面層に前記請求項1に記載の組成物を用いることにより、中間転写ベルトとして必要な、体積固有抵抗、難燃性、ブリード特性等を兼ね備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
難燃性付与剤として、粒状赤燐を用い、その平均粒径と含有量を特定して、均一に分散含有させることにより、ハロゲン系難燃剤のような環境問題がなく、無機水酸化物のように大量に含有させることによる物性低下を起こすことなく難燃性を付与できる。また、リン酸エステルのようにブリードによるトラブルが生じないポリウレタンエラストマーが得られる。また、上記難燃性ポリウレタンエエラストマーを表面層として薄肉円筒状に形成した中間転写ベルトは、UL94規格におけるV−2レベルの難燃性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ポリオールにカーボンブラックを混合したカーボンマスターバッチと、ポリオールに粒状赤燐を混合した赤燐マスターバッチとを各々に調製し、各マスターバッチを所定量づつ混合してCBと粒状赤燐とを含有するCB・赤燐含有ポリオールとする。これにイソシアネートと架橋剤を混合してポリウレタン原料液を調製した。この原料液を、予熱され高速で回転する遠心成形用円筒金型内に注入し、回転による遠心力をかけつつ硬化させて、薄肉円筒状のポリウレタンエラストマーを得る。これをそのまま中間転写ベルトとして用いることも可能であるが、このような薄肉円筒状のポリウレタンエラストマー(表面層)の内側に、前記ポリウレタンエラストマーが流動性が無くなる程度に半硬化したとき、その内側に、前記表面層より硬度が高い芯体層用のポリウレタン原料液を注入し、前記円心成形用円筒金型を回転させて遠心力をかけつつ両層を架橋一体化して芯体層と表面層の2層構造からなる中間転写ベルトを得ることができる。
【0018】
以下、本発明のポリウレタンエラストマーおよび中間転写ベルトついて実施例により詳細に説明する。
(実施例1)
加熱溶融したポリオール(保土谷化学工業社製、PTG2000SN)100重量部に対し、粒状赤燐(燐化学工業社製、ノーバレッド120UF、被覆処理品、平均粒径10μm)180重量部を添加し攪拌した後、混合ロールにて混練し、リン元素含有量29.2重量部の赤燐マスターバッチを作製した。
【0019】
上記と同じ加熱溶融したポリオール100重量部に対し、カーボンブラック(ライオンアクゾ社製、ケチェンブラックEC)22重量部を混練し、CB含有量18重量%のCBマスターバッチを作製した。
【0020】
上記CBマスターバッチ52重量部と上記赤燐マスターバッチ48重量部を混合攪拌してCB・赤燐含有ポリオールとし、90℃で2時間減圧脱泡した。このCB・赤燐含有ポリオール100重量部に対し、1,4ブタンジオール/トリメチロールプロパンを72/28(重量比)で混合した架橋剤を4.45重量部加え攪拌混合した後、イソシアネートとしてカルボジイミド変性MDI(住化バイエルウレタン社製、スミジュール0632)21.1重量部添加し攪拌、混合した後、100℃に予熱した試料シート成形金型に注入し、100℃で1時間架橋硬化させて脱型し、80℃で12時間架橋させて、CB含有量7.5重量%で、リン元素含有量11.2重量%のポリウレタンエラストマーからなる厚さ0.5mmの試料シートを得て、下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1の赤燐の欄の表示は表2に示す内容を示す(以下、同じ)。
(難燃性評価)
上記試料シートより、長さ125mmで幅13mmの短冊状試験片を5枚作製し、UL94に準じて残炎時間、保持クランプまで燃えた本数、綿着火本数より難燃性のレベルを評価した。
(ゴム硬度評価)
上記試料シートより、10mm角の試験片を作製し、4枚重ねて厚み約2mmにし、JIS K6253のマイクロゴム硬さ計にて国際ゴム硬度(IRHD)を測定した。
(ブリード評価)
上記試料シートより、長さ70mmで幅20mmの試験片を作製し、厚さ1mmのガラス2枚でサンドイッチし、クランプ止めして40℃×85%RHの温湿条件下に2週間放置し、解放して試験片が接触していたガラス面を目視観察して、ブリードの有無を確認した。
(実施例2)
実施例1で用いたCBマスターバッチと赤燐マスターバッチとの重量比を21/79に混合し、架橋剤、イソシアネートを表1に示す重量部にし、実施例1と同様に反応させてCBを3重量%、リン元素含有量を18.5重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を下記の表1に示す。
(実施例3)
実施例1で用いたCBマスターバッチと赤燐マスターバッチとを重量比で70/30に混合し、架橋剤、イソシアネートを表1に示す重量部にし、実施例1と同様に反応させてCBを10.7重量%、リン元素含有量を5.8重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
(実施例4)
粒状赤燐として平均粒子径1μmのもの(燐化学工業社製「ノーバエクセルF5」)を用いて赤燐マスターバッチを調製した以外、実施例1と同様に調合、反応させ、CBを7.5重量%、リン元素含有量を11.2重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
(実施例5)
粒状赤燐として平均粒子径20μmのもの(日本化学工業社製「ヒシガードEL−Z」)を用いて赤燐マスターバッチを調製した以外、実施例1と同様にしてCBを7.5重量%、リン元素含有量を11.2重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1に用いたCBマスターバッチと燐マスターバッチとの重量比を79/21に混合し、架橋剤、イソシアネートを表1に示す重量部とし、実施例1と同様に反応させてCBを11.1重量%、リン元素含有量を5.1重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1に用いたCBマスターバッチと燐マスターバッチとの重量比を17/83に混合し、架橋剤、イソシアネートを表1に示す重量部にし、実施例1と同様に反応させてCBを2.5重量%、リン元素含有量を19.5重量%含有する厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を下記の表1に示す。
(比較例3)
粒状赤燐として平均粒子径25μmのもの(燐化学工業社製、商品名:ノーバエクセル140)を用いて赤燐マスターバッチを調製した以外、実施例1と同様にしてCBを7.5重量%、リン元素含有量を11.2重量%とする厚み0.5mmの試料シートを得、実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
(比較例4)
難燃剤として実施例1で用いた赤燐マスターバッチ(平均粒子径10μmの粒状赤燐、リン元素含有量29.2重量%)28重量部と別途調製の水酸化アルミ〔Al(OH)3〕マスターバッチ20重量部を用いた以外、実施例1と同様にしてカーボンブラックを7.5重量%、リン元素と水酸化アルミとの難燃有効成分を14.2重量%含有する試料シートを得、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0021】
なお、上記Al(OH)3マスターバッチは、ポリオール(保土ヶ谷化学社製、PTG2000SN)100重量部にスアリン酸で表面処理したAl(OH)3粒子(昭和電工社製、ハイジライトH34HL)180重量部を添加し、攪拌後ロール混練したAl(OH)3含量29.2重量%に調製した。
(比較例5)
難燃剤として実施例1で用いた赤燐マスターバッチ(平均粒子径10μmの粒状赤燐、リン元素含有量29.2重量%)26重量部とリン酸エステル(大八化学工業社製[CR−741]リン元素含有量:6.82重量%)22重量部を用いた以外、実施例1と同様にしてカーボンブラックを7.5重量%、リン元素とリン酸エステルの難燃有効成分を9.1重量%含有する試料シートを得、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

つづけて、上記実施例に記載の難燃性のポリウレタンエラストマーを用いた中間転写ベルトの実施例を説明する。
【0024】
CBマスターバッチ52重量部と赤燐マスターバッチ48重量部とを混合攪拌し、90℃で2時間減圧脱泡してCB・赤燐含有ポリオールとした。このCB・赤燐含有ポリオール100重量部に対し、1,4ブタンジオール/トリメチロールプロパンを72/28(重量比)で混合した架橋剤を4.45重量部加えて攪拌混合した後、イソシアネートとしてカルボジイミド変性MDI(住化バイエルウレタン社製、スミジュール0632)21.1重量部を添加し、攪拌混合し表面層用原料液を調製した。
【0025】
上記のポリウレタン形成液を、回転振れ0.05mm以内に調整し、120℃に予熱され500rpmで回転している遠心成形用円筒金型(内径170mm、幅400mm)の内側に注入し、2500rpmで3分回転後500rpmに戻し60分間硬化させ脱型して、厚み0.5mmの薄肉円筒体を得た。110℃で約12時間アフターキュアして単層の中間転写ベルトを得た。得られた中間転写ベルトを中間転写方式のレーザープリンターに取り付け、ラフ紙を用いて画像出しし、画像欠陥の有無を目視で調べたところ、良好な転写画像が得られることを確認した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性付与剤としてカーボンブラック3〜10重量%と、難燃性付与剤として平均粒子径1〜20μmの粒状赤燐をリン元素として5〜20重量%とを含有することを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【請求項2】
薄肉円筒状であって、少なくともその表面層が請求項1に記載のポリウレタンエラストマーであることを特徴とする中間転写ベルト。


【公開番号】特開2006−28342(P2006−28342A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209610(P2004−209610)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】