説明

ポリウレタン弾性糸およびその製造方法

【課題】
紡糸性、伸縮特性とともに熱接着性にも優れたポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリウレタン弾性糸であって、該ポリウレタンの主構成成分がポリマージオール、ジイソシアネートであり、かつ、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性に優れたポリウレタン弾性糸に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用に幅広く使用されている。
【0003】
かかる弾性繊維は、一般的な衣料分野に使用される場合、通常交編織りされ、その後布帛が裁断、縫製、仕上げ加工等の製造工程を経て製品となる。ポリウレタン弾性繊維を使用して交編織りされた布帛は、裁断して縫製する際に、縁部がほつれやすく、さらにほつれた縁部で布帛の編地組織からポリウレタン弾性繊維が抜けて、その部分の布帛の伸縮特性が低下するという問題が生ずる。
【0004】
また、通常の製品においては、裁断後の縁部がほつれることを防止するために、何らかの縁始末がおこなわれている。例えば、裁断した縁部を折り返して2重にして縫合し、テープ等の別布で包み込んで縫製するのが一般的である。しかし、これら縁始末や縫製といったほつれ止めの後処理作業は、衣料製品の生産工程において手間がかかり、経済的にも大きな負担となる。しかもこのように縁始末や縁部の縫製を施した衣料製品は、その部分の厚みが厚くなり段差が生じるため、ファンデーションなどの下着衣料では、その上にアウターウェアを着用した際に、アウターウェアに段差が凸状になって現れ、外観を損なう。また、ポリウレタン弾性繊維を用いた衣料は、ファンデーション、パンティストッキングなどの体に直接フィットさせる製品が多く、厚くなった縁部が着用感を低下させるという問題もある。
【0005】
ポリウレタン弾性繊維を用いた衣料の縁始末や縁部の縫製に関わる上記の問題を解決するために、近年ファッション化が進むブラジャー、ガードル、ボディスーツ等のファンデーションの分野において、裁断部の縁始末や縫製をしないことで、下着のラインがアウターウェアに現れない、いわゆる切りっぱなし開口部を有する衣類製品の製造方法が検討されている。
【0006】
例えば、編組織が非弾性糸と弾性糸とを同行させた1×1編み組織で、かつ各編針において非弾性糸と弾性糸のうち少なくとも1方が閉じ目により編成された経編地からなる縁始末不要な生地を用いた衣類が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、生地の設計によって構造的に裁断した縁部のほつれを起こりにくくしているため、生地自体が厚地となるなど、生地設計によって得られる布帛に制約があり、衣類の用途が限定されるという問題点がある。
【0007】
また、熱融着弾性糸として低融点ポリウレタン弾性糸を用い、それ以外の糸をプレーティング編により編みたて、ヒートセット加工を施したほつれ止め機能がある編地を用い、同様に切りっぱなし開口部を有する衣類が提案されている。(特許文献2参照)
しかしながら、低融点のポリウレタン弾性糸は、生地や製品を型止めするためのセット工程や、染色工程での熱による物性低下が大きいため、高い温度条件で処理した場合に生地の回復性の低下が起こる。さらに、より厳しい熱的な加工条件を受けた場合、ポリウレタン弾性糸の糸切れが起こる。そのため、この生地を使用する製品では、加工条件に熱的制約があるという問題がある。
【0008】
また、熱融着弾性糸として熱可塑性ポリウレタンを含有させたポリウレタン弾性糸が提案されているが、接着性能としては未だ満足できるレベルには達していない(特許文献3参照)
したがって、より熱接着性能に優れたポリウレタン弾性糸が求められていた。
【特許文献1】特開2003−147618号公報
【特許文献2】特開2005−113349号公報
【特許文献3】特開2007−177359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、紡糸性、伸縮特性とともに熱接着性にも優れたポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリウレタン糸は、前記の課題を解決するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンからなる弾性糸であって、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
(2)前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーがアジペート系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、かかる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が0.3重量%以上40重量%未満であることを特徴とする、前記(1)に記載のポリウレタン弾性糸。
(3)前記ロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点が70℃以上150℃以下であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のポリウレタン弾性糸。
(4)前記ロジン及び/又はその誘導体の含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
(5)ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンの紡糸原液に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有させて紡糸することを特徴とするポリウレタン弾性糸の製造方法。
(6)紡糸方法が乾式であることを特徴とする、前記(5)に記載のポリウレタン弾性糸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタン弾性糸が熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及び/またはその誘導体とを含有するので、優れた伸縮性を有しつつも熱接着性を有したポリウレタン弾性糸となる。
【0012】
そのため、かかるポリウレタン弾性糸を使用した布帛は、加工時の温度領域等の自由度が上がり、外観品位、着用感などに優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0014】
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0015】
本発明に使用されるポリウレタンは、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからとなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとからなるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0016】
ここで、本発明のポリウレタン糸を構成する代表的な構造単位について述べる。
【0017】
本発明に使用されるポリマージオールはポリエーテル系、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
【0018】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(THF)および3−メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG(以下、3M−PTMGと略する)、THFおよび2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0019】
また、ポリウレタン弾性糸として耐摩耗性や耐光性を得る観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61−26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、特公平2−289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0020】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1800以上6000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を容易に得ることができる。
【0021】
次に本発明に使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
次に本発明における鎖伸長剤は、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0023】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0024】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高い糸を得ることができるのである。
【0025】
また、本発明のポリウレタン弾性糸の分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0026】
本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタン弾性糸が、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及び/又はその誘導体の両者を同時に含有させることで紡糸性や伸縮特性を損なうことなく、優れた熱接着力を発現することができる。
【0027】
本発明における熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、融点が70〜160℃のものが好ましい。融点が70℃未満だと、可紡性が悪くなり、巻き取った際に膠着しやすくなるので好ましくない。また逆に融点が160℃を越えると、熱処理温度を上げなければ所望の接着性が得られなくなるので好ましくない。
【0028】
本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリマージオールとしてアジペート系、エーテル系、カプロラクトン系、ポリカーボネート系が好ましいが、その中でもアジペート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーが良好な紡糸性と熱接着性との点で好ましい。
【0029】
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、良好な紡糸性、バランスの良い機械物性、熱接着性、耐熱性を得る観点から、繊維においてその含有量が0.3重量%以上40重量%以下の範囲になるようにすることが好ましい。すなわち、ポリウレタン弾性糸において熱可塑性ポリウレタンエラストマーの割合が0.3重量%未満だと、十分な熱接着性が得られず、40重量%を越えると、紡糸性や基本物性が低下してしまうので、好ましくない。より良好な熱接着性および耐熱性を得る観点からは、2重量%以上20重量%以下となるようにすることがより好ましい。なお、これらの含有量は、用途に応じて事前にテストし、適宜決定することも好ましく行われる。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーをポリウレタン弾性糸に0.3〜40重量%含有させる方法としては、紡糸前のポリウレタンのN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の紡糸原液に、上述の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを加え、斑なく分散もしくは溶解するよう攪拌、混合処理すればよい。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを予め同様の溶剤により均一分散または溶解させてから、ポリウレタン溶液と混合処理しても良い。
【0031】
なお、熱可塑性ポリウレタンエラストマーがN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の溶剤に溶解しない場合は、平均粒子径10ミクロン以下の微粒子状として、ポリウレタン紡糸原液に分散させる事もできる。
【0032】
また、本発明の弾性糸においては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとともにロジンおよび/又はその誘導体を含有させる。本発明におけるロジンは、3つの環構造、共役2重結合、カルボキシル基を有するアビエチン酸とその異性体の混合物を主成分とするものであり、採取方法からの分類としてはガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンのいずれでも良い。また、ロジン誘導体としては、例えば、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジン、アクリル化ロジン、ロジンエステル、ロジン含有ジオール等が挙げられる。また、こうしたロジン及び/又はその誘導体は単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0033】
そして、ロジン及び/又はその誘導体は、加工時の熱で熱接着性を発現させるために、熱軟化点が70℃以上150℃以下であることが好ましい。なお、糸中のロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点を測定するには、次のように行えばよい。始めに糸を溶剤(トルエン/アセトン、体積比1/1)に3時間浸漬し、糸を取り出す。次に、溶剤を室温で蒸発させ、ロジン及び/又はその誘導体を析出させる。析出させたロジン及び/又はその誘導体の軟化点を、JIS K5902(1969年)に準じた環球法を用いて測定する。即ち、ロジン及び/又はその誘導体を蒸発皿の中で、なるべく低温で溶解させ、あらかじめ適温に加熱したリングの中に満たし、放冷後、少し加熱した小刀でリングの上端を含む平面から盛り上がった部分を切り取る。次に、上記粘着付与樹脂を詰め込んだリングを、支持器の所定の孔にはめ込み、ガラス容器(径85mm、高さ127mm以上)に入れる。ガラス容器中の熱媒体であるグリセリンの液温は、所定の軟化点より、45℃以上低くならないように15分保つ。次に、リングの中の上記ロジン及び/又はその誘導体の中央に鋼球を載せ、支持器の上の定位置に置く。リングの上端より、グリセリン液までの距離を50mm以上に保ちながら加熱する。加熱が始まって所定の軟化点よりも45℃前より、1分間につき5.0±0.5℃で昇温させ、軟化して底板に接触したときの温度を軟化点とする。
【0034】
ポリウレタン弾性糸におけるロジン及び/又はその誘導体の含有量は、良好な紡糸性、バランスの良い機械物性、熱接着性、耐熱性を得る観点から、0.1重量%以上20重量%以下の範囲が好ましく、より良好な熱接着性および耐熱性を得る観点から、0.3重量%以上10重量%以下がより好ましい。なお、これらの含有量は、用途に応じて事前にテストし、適宜決定することも好ましく行われる。
【0035】
さらに、本発明で使用されるロジン及び/又はその誘導体は、適度な透明度のポリウレタン糸を得ること、および紡糸工程で熱などを受けて糸が変色することを防止する観点から、400ハーゼンカラー以下のものが好ましい。
【0036】
さらに、本発明のポリウレタン弾性糸には、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0037】
また、本発明のポリウレタン弾性糸には、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などにBHTや住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザーP−16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらがポリマと反応させられることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などの熱酸化安定剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミソーブ300♯622”などの光安定剤が使用されることも好ましい。
【0038】
次に本発明のポリウレタン弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
【0039】
本発明においては、出発物質としてポリマージオールおよびジイソシアネートを用い、それらから得られるポリウレタンの紡糸原液に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及び/又はその誘導体とを含有させて紡糸する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーやロジン及び/又はその誘導体は、ポリウレタンの重合段階で合わせて添加してもよいが、予めポリウレタン溶液を作製しておき、その後で添加するのが好ましい。
【0040】
ポリウレタン溶液の製法、また、溶液の溶質であるポリウレタンの製法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン弾性糸を得やすい。また、当然のことであるが、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0041】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1800以上6000以下のPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、ジオールとしてエチレングリコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上260℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0042】
ポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0043】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節する代表的な方法は、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールすることにより達成され得る。ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができ、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0044】
ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0045】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0046】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0047】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0048】
こうして得られるポリウレタン溶液の濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0049】
本発明においては、かかるポリウレタン溶液に熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及び/又はその誘導体とを添加するのが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及びその誘導体とのポリウレタン溶液への添加方法としては、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。ここで、添加される熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及びその誘導体とは、ポリウレタン溶液への均一な添加を行う観点から、溶液にして添加することが好ましい。
【0050】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジン及び/またはその誘導体とのポリウレタン溶液への添加の際には、前記した、例えば、耐光剤、耐酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0051】
以上のように構成した紡糸原液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0052】
本発明のポリウレタン弾性糸の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0053】
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0054】
たとえば、本発明のポリウレタン弾性糸の永久歪率と応力緩和は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。
【0055】
すなわち、所望の永久歪率と応力緩和を有するポリウレタン糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.10以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。そして、特に低い永久歪率と、低い応力緩和を有するポリウレタン糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.4以下の範囲がより好ましく、1.15以上1.35以下の範囲がさらに好ましい。一方、高い永久歪率と、高い応力緩和を有するポリウレタン糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.25以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましく、1.35以上1.65以下の範囲がより好ましい。
【0056】
また、紡糸速度は、得られるポリウレタン弾性糸の強度を向上させる観点から、450m/分以上であることが好ましい。
【0057】
以上のようにして得られたポリウレタン弾性糸は、たとえば他の繊維とともに布帛を製造する際に用いられる。布帛を製造するために、ポリウレタン弾性糸とともに用いられる他の繊維としては、ポリアミド繊維やポリエステル繊維等が挙げられる。
【0058】
ここで、ポリアミド繊維は、ナイロン6繊維やナイロン66繊維に代表される繊維であるが、これに限定されるものではない。また、ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ジオール成分としてポリテトラメチレングリコールとエチレングリコールを主成分として含むエステル系共重合体、及び、それらのカチオン可染変性ポリエステル等のポリエステルから構成される繊維である。
【0059】
布帛は、これらポリアミド繊維又はポリエステル繊維と、本発明のポリウレタン糸とから主として構成される布帛であることが布帛の加工性や耐久性の観点から好ましいが、ポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系等からなる合成繊維や、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、精製セルロースからなる再生セルロース繊維や、再生タンパク繊維、半合成繊維、綿、絹、羊毛等の天然繊維素材を併用してもよい。
【0060】
また、布帛中のポリウレタン弾性糸は、裸糸の状態で用いてもよいし、他の繊維によってカバーリングしたコアスパンヤーン、エアーカバリングヤーン、他の繊維との合撚糸、交撚糸、インターレース糸等の複合糸の状態で用いてもよい。また、ポリウレタン弾性糸と他の繊維とから構成される布帛は、上記複合糸から構成される編織物でもよいし、もしくは、経編み、丸編み、緯編み等の製編において、他の繊維と交編することでもよい。
【0061】
布帛が編み地の場合、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダプルアトラス編み、ダブルデンビー編み等のいずれの編組織でもよいが、編地表面はポリウレタン糸以外の天然繊維、化学繊維、合成繊維で構成されていることが風合の点で好ましい。
【実施例】
【0062】
本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明する。最初に本発明における各種特性の評価方法を説明する。
【0063】
[糸中のロジン及び/又はその誘導体の分析方法]
糸を溶剤(トルエン/アセトン、体積比1/1)に3時間浸漬し、溶剤をIR計で測定した。1580cm−1付近の吸収から、既知溶剤濃度溶剤を用いた検量線により糸中の含有量を求めた。
【0064】
[熱接着性]
約10cm長さでサンプリング(両端は結びつけて固定)した2本の試験糸1を、
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のように中心で交絡させ、1cmの間隔を空けて金枠2に固定する(a)。各試験糸1が30%伸長となるように伸長させた状態で、乾熱180℃で1分間処理する(b)。処理後、金枠2からサンプルを外し、接着部3だけで2本が接する状態にし(c)、インストロン4502型引張試験機にて、各々の試験糸の一方の端部を試験機上下チャックにあわせてつかみセットする。50cm/分で引張り接着部が剥がれる際の最大応力を測定し、ポリウレタン弾性繊維サンプルの繊度で除する。
【0065】
[強度、応力緩和、永久歪率、伸度]
強度、応力緩和、永久歪率、伸度は、試料糸をインストロン4502型引張試験機にて、引張テストをすることにより測定した。
【0066】
これらは下記により定義される。
【0067】
すなわち、5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。この5回目の応力を(G1)とした。次にそのまま300%伸長を30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料糸の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料糸の長さを(L3)とした。
【0068】
以下、前記特性は下記式により与えられる。
【0069】
強度 =(G3)
応力緩和=100×((G1)−(G2))/(G1)
永久歪率=100×((L2)−(L1))/(L1)
伸度 =100×((L3)−(L1))/(L1)。
【0070】
[ヒートセット性]
試料糸(長さ=L5)を100%伸長した(長さ=2×(L5))。この長さのまま180℃で1分間処理した。さらに同長さで、1日室温で放置した。次に、試料糸の伸長状態をはずし、その長さ(L6)を測定した。
【0071】
ヒートセット性=100×((L6)−(L5))/(L5)
ヒートセット性は値が高いほうが良好であることを示している。
【0072】
[紡糸性]
紡糸を連続して10時間行い、その時の糸切れ回数にて判定した。回数が少ない方が紡糸性に優れていることを示す。
【0073】
[実施例1]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミンおよび末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体のDMAC溶液(35重量%)を調整し、ポリマ溶液A1とした。次に、日本ミラクトラン社製熱可塑性ポリウレタンエラストマー(品名E790PNAT、
アジペート系)のDMAc溶液(30重量%)を60℃下で攪拌して調整し、溶液(B1)とした。次に、荒川化学社製ロジン(品名パインクリスタル(R)KR−614、軟化点86℃)のDMAc溶液(50重量%)を25℃下で攪拌して調整し、溶液(C1)とした。さらに、アメリカ合衆国特許3555115号に記載されているt−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタンとアメリカ合衆国特許3553290号に記載されているp−クレゾ−ルとジビニルベンゼンの縮合重合体の2対1重量比の混合物のDMAc溶液(35重量%)を調整し、酸化防止剤溶液D1(35重量%)とした。ポリマ溶液A1、B1、C1、D1を89.8重量%、7.1重量%、2.1重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E1とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が6重量%、ロジンの含有量が3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0074】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性はB1、C1未配合の比較例1に比べ、約10倍に増大した。
【0075】
[実施例2]
ポリマ溶液A1、B1、C1、D1を83.0重量%、13.9重量%、2.1重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E2とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が12重量%、ロジンの含有量が3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0076】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性はB1、C1未配合の比較例1に比べ、約13倍に増大した。
【0077】
[実施例3]
日本ミラクトラン社製熱可塑性ポリウレタンエラストマー(品名P660MZAA、アジペート系)のDMAc溶液(25重量%)を60℃下で攪拌して調整し、溶液(B2)とした。
【0078】
ポリマ溶液A1、B2、C1、D1を91.4重量%、6.9重量%、0.7重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E3とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が5重量%、ロジンの含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0079】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性はB2、C1未配合の比較例1に比べ、約7倍に増大した。
[実施例4]
分子量2900のPTMG、MDIおよびエチレングリコールからなるポリウレタン重合原料のDMAC溶液(35重量%)を重合し、ポリマ溶液A2とした。A2、B1、C1、D1を90.6重量%、7.0重量%、1.4重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E4とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.35として440m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が6重量%、ロジンの含有量が2重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0080】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性はB1、C1未配合の比較例2に比べ、約9倍に増大した。
[実施例5]
ポリマ溶液A1とA2とを90重量%、10重量%の比率で混合し、ポリマ溶液A3とした。A3、B1、C1、D1を90.6重量%、7.0重量%、1.4重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E5とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が6重量%、ロジンの含有量が2重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0081】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性は実施例4と同様に優れたものであった。
【0082】
[実施例6]
日本ミラクトラン社製熱可塑性ポリウレタンエラストマー(品名P433RNAT、エーテル系)のDMAc溶液(25重量%)を60℃下で攪拌して調整し、溶液(B3)とした。
【0083】
ポリマ溶液A1、B3、C1、D1を89.9重量%、7.0重量%、2.1重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液E6とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が5重量%、ロジンの含有量が3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0084】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。紡糸性は安定しており、熱接着性はB2、C1未配合の比較例1に比べ、約4倍に増大した。
【0085】
[比較例1]
ポリマ溶液A1、D1を99.0重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液F1とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比を1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメントの200g巻糸体を得た。得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。
【0086】
[比較例2]
ポリマ溶液A2、D1を99.0重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液F2とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比を1.35として440m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメントの200g巻糸体を得た。得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。
【0087】
[比較例3]
ポリマ溶液A1、B1、D1を92.0重量%、7.0重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液F3とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が6重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。
【0088】
[比較例4]
ポリマ溶液A1、C1、D1を97.6重量%、1.4重量%、1.0重量%で均一に混合し、溶液F4とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、ロジンの含有量が2重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒートセット性および熱接着性を表1に示した。
【0089】
[比較例5]
ポリマ溶液A1、B1、D1を50.1重量%、49.0重量%、0.9重量%で均一に混合し、溶液F5とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として490m/分のスピードで乾式紡糸した。巻き取り時に粘度25mm2/sのシリコーン系油剤を3重量%付与し、33デシテックス、3フィラメント、熱可塑性プリウレタンエラストマーが45重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0090】
得られた糸の紡糸性、伸度、強度、永久歪率、応力緩和、ヒート永久歪率および熱接着性を表1に示した。
【0091】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリウレタン弾性糸を用いれば、脱着性、フィット性、外観品位、着用感などに優れた衣服を提供できる。また、加工時の熱により熱接着性が発現することから、生地端のほつれが抑制され、加工上の制約の少ない高品位な生地を得ることが出来る。これらの優れた特性を有することから、本発明のポリウレタン弾性糸は単独での使用はもとより、各種繊維との組み合わせにより、例えば、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、洋服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋や靴下等の各種繊維製品の締め付け材料等において着用感や外観品位に優れた製品を提供できる。本発明のポリウレタン弾性糸は、その他、紙おむつなどサニタニー品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなど、種々の用途にも使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ポリウレタン弾性糸の熱接着力の測定方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0094】
1 試験糸
2 金枠
3 接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンからなる弾性糸であって、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーがアジペート系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、かかる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が0.3重量%以上40重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
前記ロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点が70℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項4】
前記ロジン及び/又はその誘導体の含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項5】
ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンの紡糸原液に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとロジンおよび/又はその誘導体とを含有させて紡糸することを特徴とするポリウレタン弾性糸の製造方法。
【請求項6】
紡糸方法が乾式であることを特徴とする請求項5に記載のポリウレタン弾性糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150676(P2010−150676A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327094(P2008−327094)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】