説明

ポリウレタン弾性糸

【課題】洗濯後においても消臭性、抗菌性に優れたポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンからなる弾性糸であって、金属リン酸塩を1重量%以上10重量%以下の範囲で含有し、4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性および消臭性に優れたポリウレタン弾性糸に関するものであり、抗菌性および消臭性を有する布帛を得るのに好適なポリウレタン弾性糸に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途、紙おむつや生理用ナプキンなどのサニタリー用途(衛材用途)、産業資材用途に幅広く使用されている。
【0003】
近年、より快適な住環境が求められる中で、抗菌性塗料、抗菌性フィルム・シート、抗菌性フィラメント、抗菌性トイレタリー製品、抗菌性台所用品、抗菌性文房具、抗菌砂、抗菌ティシュ、抗菌繊維、抗菌性化粧品などのいわゆる「抗菌性商品」が広く出回るようになってきた。また、同様に、加齢臭などに対する消臭機能を具備する、衣類、寝具などの「消臭性製品」も出回るようになってきた。
【0004】
このような機能を付与するために繊維製品においては、これらの機能を付与する後加工方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、このような後加工による方法では、一時的に抗菌性や消臭性といった機能を持つ製品はえられるものの、伸縮性布帛の場合においては機能剤を付着させるためのバインダーにより風合いが損なわれる。また、加工工程が長くなることによる生産性の低下や洗濯耐久性が著しく低下するといった問題が生じていた。
【0005】
そこで、繊維に直接、抗菌剤や消臭剤を繊維に含有させる方法も提案されている。
【0006】
これらに利用されている抗菌剤としては、無機系抗菌剤、特に銀系抗菌剤が多く見受けられる。また消臭剤としては活性炭、銀含有ゼオライト、ゼオライト、微粒子酸化亜鉛などが挙げられる。
【0007】
上記無機系抗菌剤は、有機抗菌剤に比べて、耐候性・耐薬品性に優れ、急性経口毒性が低いという優れた特性を有している。加えて、耐熱性が有機系抗菌剤に比べて著しく高いため、合成樹脂に添加して多分野で使われるようになってきた。しかしながら、無機系抗菌剤を合成樹脂に添加して成形すると、無機抗菌剤に含有される金属の作用と、成形時の熱や成形物に照射される光の影響で成形品が変色して、製品価値が著しく低下するという問題が生じ易い。
【0008】
また、有機系の抗菌剤として天然抗菌剤であるヒノキチオールとZ n 、S i 、C u 、N i 、Fe 、A l 及びM g から選ばれた少なくとも1 種の元素を含む金属酸化物及び/ 複合金属酸化物とを含有する抗菌消臭ポリウレタン弾性繊維(特許文献2)が提案されており、ポリウレタン弾性糸の抗菌性と消臭性に一定の性能は認められている。しかし、乾式紡糸中の受熱により抗菌剤であるヒノキチオールが昇華することが認められるため、予め多めに紡糸原液に含有させておく必要がある。また、ヒノキチオールは紡糸の熱量条件などによって残存量が変化するため、安定した抗菌性を保有したポリウレタン弾性糸を生産することが難しい。また、天然抗菌剤であるヒノキチオールが高価であることからコスト面でも課題がある。
【0009】
さらに有機系の合成抗菌剤の使用(特許文献3)なども提案されている。しかしながら、これは、単独での使用では消臭性に効果がなく、抗菌性と消臭性の両立という面では課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−248058号公報
【特許文献2】特開2002−105757号公報
【特許文献3】特開2004−292471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、繰り返し洗濯後の抗菌性および消臭性に優れたポリウレタン弾性糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するための本発明は、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンからなる弾性糸であって、金属リン酸塩を1重量%以上10重量%以下の範囲で含有し、かつ4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
(2)前記金属リン酸塩が、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、およびトリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、前記(1)に記載のポリウレタン弾性糸。
(3)前記4級アンモニウム塩系抗菌剤が下記構造をとることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のポリウレタン弾性糸。
【0013】
【化1】

【0014】
(4)前記4級アンモニウム塩系抗菌剤の含有量が0.1重量%以上5重量%以下の範囲であることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
(5)前記ポリウレタンが、分子量300以下のジオール化合物によって鎖伸長されたものであることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタンからなる弾性糸であって、金属リン酸塩を1重量%以上10重量%以下の範囲で含有し、かつ、4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有するので、繰り返し洗濯後における、消臭性、抗菌性に優れたポリウレタン弾性糸を得ることができる。そのため、かかるポリウレタン弾性糸を使用した布帛は伸縮性、繰り返し洗濯後における消臭性、抗菌性に優れたものになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0017】
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0018】
本発明に使用されるポリウレタンは、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからとなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとからなるポリウレタンウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0019】
ポリマージオールはポリエーテル系、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
【0020】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(THF)および3−メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG(以下、3M−PTMGと略する)、THFおよび2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0021】
また、ポリウレタン弾性糸として耐摩耗性や耐光性を得る観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61−26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、特公平2−289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0022】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0023】
ポリマージオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1500以上6000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を容易に得ることができる。
【0024】
次に、ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン弾性糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
次にポリウレタンを合成するにあって用いられる鎖伸長剤は、分子量300以下の低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0026】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0027】
また、分子量300以下の低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高い糸を得ることができるのである。
【0028】
また、本発明においてポリウレタンの分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0029】
ポリウレタンには、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0030】
本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタンからなるポリウレタン弾性糸に、金属リン酸塩を含有させることで、ポリウレタン弾性糸が元来保有している酢酸ガス、ノネナールガス、イソ吉草酸ガスに対する消臭性を阻害することなく、アンモニアガスに対しても消臭性を向上させることが可能となる。また、同時に、4級アンモニウム塩系抗菌剤をポリウレタン弾性糸に含有させることで繰り返し洗濯後においても優れた抗菌性を保有させることが可能となる。
【0031】
金属リン酸塩としては、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、カルシウムからなる金属リン酸塩などを用いることができる。中でも、アンモニアに対する消臭性という観点から層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0032】
また、リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩は、アンモニアに対する消臭性という観点から銀イオンや銅イオンといった金属イオンを担持していない物が好ましい。
【0033】
リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩の含有量は、ポリウレタン弾性糸全重量に対して1重量%以上10重量%以下の範囲である。リン酸ジルコニウムの含有量が1重量%未満だと、布帛とした際に十分なアンモニアガスの消臭性が得られにくくなるので、好ましくない。より好ましくは1.5重量%以上である。一方、含有量が10重量%を越えると、伸縮特性の悪化やコスト面で好ましくない。より好ましくは7.0重量%以下である。アンモニアガスに対する消臭性と物性面、コスト面というバランスを考慮すると、1.5重量%以上5.0重量%以下の範囲が特に好ましい。
【0034】
また、本発明においてリン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩は、紡糸原液の紡糸口金への詰まりを抑えるという観点から、平均一次粒子径が3.0μm以下のものが好ましい。より好ましくは1.5μm以下である。また、分散性の観点から平均一次粒子径が0.05μmより小さい場合、凝集力が高まり紡糸原液中に均一に混合することが困難になるため、平均一次粒子径が0.05μm以上のものが好ましい。
【0035】
ポリウレタン弾性糸中の金属リン酸塩の同定方法としては、ポリウレタン弾性糸を一旦溶媒に溶解して希釈溶液とし、遠心分離等で沈降物を得る。得られた沈降物について十分に水洗後、デシケーター内で乾燥させ、IR、原糸吸光光度法、X線回折法、固体NMR等の種々の分析方法によって同定する。また、定量方法については、前記方法によって物質を同定した上で、原糸吸光光度法によってポリウレタン弾性糸中のAl、Zr、Ti、Pといった元素量を定量して求めることができる。
【0036】
本発明において、4級アンモニウム塩系抗菌剤としては、アンモニウムイオン中のアルキル基の鎖長により抗菌力に差があり、抗菌力の強いものが望ましいが、ポリウレタン弾性糸の製造上にかかる受熱等からもアルキル基等の鎖種、鎖長を選ぶことが好ましい。この観点から特に好ましいアンモニウムイオンは、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、オレイルトリメチルアンモニウムイオンなどである。これらは通常、下記のような構造を有するスルホン酸塩、リン酸塩等の有機酸塩や塩化物、臭化物、ヨウ化物などの塩により供給され、中でも、変色や耐熱性等の安定性の観点からスルホン酸塩が好ましい。
【0037】
【化2】

【0038】
上記構造を有する塩の具体例としては、ジデシルジメチルアンモニウム3フッ化メチルスルホン酸塩、ジ−n−デシルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、ジ−n−デシルジメチルアンモニウムペンタフルオロエタンスルホン酸塩、n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、及びベンジルジメチルヤシ油アルキルアンモニウムペンタフルオロエタンスルホン酸塩である。
【0039】
4級アンモニウム塩系抗菌剤は、抗菌性を発現し、変色や伸縮特性のバランスを保つという観点から、ポリウレタン弾性糸全重量に対して0.1重量%以上5重量%以下の範囲で含有することが好ましい。
【0040】
本発明のポリウレタン弾性糸には、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などにBHTや住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)GA−80などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”(登録商標)などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)P−16などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、シリコーン、鉱物油などの滑剤、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらがポリマと反応させられることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)GA−80などの熱酸化安定剤、住友化学工業株式会社製の“スミソーブ”(登録商標)300♯622などの光安定剤が使用されることも好ましい。
【0041】
次に本発明のポリウレタン弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
【0042】
本発明においては、出発物質としてポリマージオールおよびジイソシアネートを用い、それらから得られるポリウレタンの紡糸原液に、リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩および4級アンモニウム塩系抗菌剤とを含有させて紡糸する。重合を安定化させるという観点から、予めポリウレタン溶液を作製しておき、それにリン酸ジルコニウムと4級アンモニウム塩とを添加することが好ましい。また、溶液の溶質であるポリウレタンの製法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン弾性糸を得やすい。また、当然のことであるが、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0043】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1500以上6000以下のPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、鎖伸長剤としてエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミンのうちの少なくとも1種を使用して合成されたものが挙げられる。
【0044】
ポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述の鎖伸長剤と反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0045】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、耐熱性に優れたものを得るという観点から、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節することが好ましい。代表的な方法は、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールすることにより達成され得る。ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができ、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0046】
ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0047】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0048】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0049】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0050】
こうして得られるポリウレタン溶液におけるポリウレタンの濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0051】
本発明においては、かかるポリウレタン溶液に金属リン酸塩および4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有せしめる。金属リン酸塩および4級アンモニウム塩系抗菌剤をポリウレタン溶液へ添加する場合、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。
【0052】
そして、本発明においては、アンモニアガスに対する消臭性を向上させるため、金属リン酸塩を1重量%以上10重量%以下の範囲でポリウレタン弾性糸に含有させることが好ましい。そのためには、紡糸前のポリウレタン紡糸原液に、金属リン酸塩を斑なく分散させる必要があり、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を溶媒とするポリウレタンの紡糸原液に、上述の金属リン酸塩を加え、斑なく分散するよう攪拌、混合処理することが好ましい。具体的には、金属リン酸塩を、あらかじめN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の溶媒に分散し金属リン酸塩分散液とし、その分散液をポリウレタン紡糸原液に混合することが好ましい。ここで、添加される金属リン酸塩分散液の溶媒は、ポリウレタン溶液への均一な添加を行う観点から、ポリウレタン溶液と同一の溶剤を用いることが好ましい。また、金属リン酸塩のポリウレタン溶液への添加の際には、前記した、例えば、耐光剤、耐酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0053】
また、本発明においては、各種細菌への抗菌性を高めるために4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有させる。そのためには、紡糸前のポリウレタン紡糸原液に4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有させ、紡糸を行う。4級アンモニウム塩系抗菌剤を紡糸原液に含有させる方法としては単独で紡糸原液と混合しても良いし、前記金属リン酸塩分散液に予め混合しておいても良い。
【0054】
以上のように構成した紡糸原液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン弾性糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0055】
本発明のポリウレタン弾性糸の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0056】
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0057】
たとえば、本発明のポリウレタン弾性糸の永久歪率と応力緩和は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。すなわち、所望の永久歪率と応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.10以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。
【0058】
また、紡糸速度は、得られるポリウレタン弾性糸の強度を向上させる観点から、250m/分以上であることが好ましい。
【実施例】
【0059】
本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0060】
[消臭性、抗菌性評価用編み地の作成]
33dtexのポリウレタン弾性糸を3.5倍に延伸し、これに鞘糸としてポリアミド加工糸(商標キュープ、東レ(株)製、33デシテックス26フィラメント)を撚り数800T/mでカバーリングして、S撚りとZ撚りのシングルカバリング糸(SCY)を作製した。
【0061】
さらに、パンスト編機(ロナティ社製、針数400本)の給糸口1、3口に上記S撚りSCYを、2、4口に上記Z撚りSCYを、編み込み張力1.0 g で給糸し、編地を編成した。編地中のポリウレタン弾性糸の含有率は21%であった。
【0062】
次いで、編地の染色加工を以下の通り実施し、タイツ編地を得た。
(1)プレセット:真空乾燥機使用、90℃×10分
(2)染色: チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の染料“Lanaset”(登録商標) Black Bを2.0owf%使用して9 0℃で60分間処理し黒色に染めた。染色時のpH調整は酢酸と硫安で実施した。
(3)最後に柔軟処理を行い、セット工程(パンストセット機使用、セット:115℃×10秒、乾燥:120℃×3 0秒) を通して仕上げた。
【0063】
[洗濯方法]
繊維製品新機能評価評議会が制定している、洗濯方法マニュアルに準拠した(JIS L0217:1995の付表1、洗い方103)。すなわち、JIS L0217:1995の付表1、洗い方103に規定される家庭電気洗濯機を使用し、40℃の水30リットルに対しJAFET標準洗剤(繊維製品新機能評価評議会製)40ミリリットルを溶解して洗濯液とし、この洗濯液に1kgの試料である被洗濯物を入れた。5分間洗濯、脱水、2分間濯ぎ洗い、脱水、2分間濯ぎ洗い、脱水の工程を1回とし、洗濯を行った。
【0064】
[消臭性]
消臭試験は、消臭加工繊維製品認証基準(制定者:社団法人繊維評価技術協議会 製品認証部、制定日:平成14年9月1日) に準拠し、以下のように機器試験により臭気成分の消臭性評価を行なった。なお、社団法人繊維評価技術協議会で、該機器分析試験による各臭気成分の減少率について「消臭効果有り」とする合格基準を、表1に示す。
(検知管法)
1.サンプル(10c m×10cm)をテドラーバッグに入れる。
2.表1に示す所定量の試験ガスを注入し、2時間後の残存ガス濃度(ppm)を成分対応検知管( ガステック社製)で測定する。尚ガス充填量は3L、希釈ガスは乾燥空気または窒素ガスとする。
【0065】
【表1】

【0066】
3.サンプルを用いずに同様の評価を行い、空試験とする。
4.評価は下記の式に従って、残存ガス濃度の減少率を算出し、消臭率として表記する。
【0067】
【数1】

【0068】
なお、測定値はn=3の平均値で求めた。
【0069】
[抗菌性]
抗菌試験は、社団法人繊維評価技術協議会が指定した抗菌性試験手順(JIS L1902:2008、菌液吸収法)に準拠して実施した。Xを無加工試料の18時間培養後の生菌数(個)、Yを試験生地の18時間培養後の生菌数(個)として、静菌活性値を下記の式から算出して抗菌力を評価した。なお、測定値はn=3の平均値で求めた。
【0070】
【数2】

【0071】
また、社団法人繊維評価技術協議会では、黄色ブドウ球菌の静菌活性値が2.2以上の時、抗菌に「効果有り」と認める。
【0072】
[平均一次粒子径]
無機粒子を日立製作所(株)製 電解放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−800にて撮影を行い、画像処理ソフトImage−Pro Version4.0にて解析して求めた。なお、測定パラメーターは投影面積円相当径で行い、1サンプル当たりn=20の個数平均により平均一次粒子径を求めた。
【0073】
[ポリウレタン弾性糸中の金属リン酸塩の含有量]
ポリウレタン弾性糸を原糸吸光光度法によって分析し、金属リン酸塩の濃度を測定した。測定は、金属リン酸塩中の金属(Al、Zr、Ti)について行った。なお、測定値はn=3の平均より求め、金属リン酸塩の含有量を以下の式より求めた。
【0074】
【数3】

【0075】
[4級アンモニウム塩の含有量]
試料(ポリウレタン糸)1gを秤量し、メタノール100mlに入れ、4級アンモニウム塩を抽出した。抽出液について、液体クロマトグラフィーにて予め作成しておいた標準液から定量を行った。以下に分析条件を示す。なお、測定はn=2の平均より求めた。
カラム:LiChrospher 100 RP−18(5μm)、内径4.6mm、 長さ150mm、カラム温度:35℃
検出:UV210nm
移動相:メタノール/水混合溶液(60/40容量%)、流速:1ml/分、注入量:2μl
[実施例1]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミンおよび末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体のDMAC溶液(35重量%)を調整した。次に、酸化防止剤として、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタン溶液(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2462)と、p−クレゾ−ルおよびジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2390)とを2対1(重量比)で混合し、酸化防止剤DMAc溶液(濃度35重量%)を調整し、前記ポリウレタンウレア重合体のDMAc溶液96重量部と酸化防止剤溶液4重量部を混合し、ポリマ溶液A1とした。次に、東亞合成社製のリン酸ジルコニウム系消臭剤“ケスモン”(登録商標)NS−10(平均一次粒子径0.9μm)をホモミキサーによりDMAcに分散し、リン酸ジルコニウム分散液B1(35重量%)とした。次に4級アンモニウム系抗菌剤である三洋化成(株)社製の“ネオジャーミDFS”(ジデシルジメチルアンモニウム3フッ化メチルスルホン酸塩)をDMAcに35重量%に調製し、抗菌剤溶液C1とした。ポリマ溶液A1、B1、C1を96重量%、3重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D1とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.3として720m/分のスピードで乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、リン酸ジルコニウムの含有量が3重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤ネオジャーミDFSの含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0076】
得られたポリウレタン弾性糸について、評価用編み地を作成し、消臭性と抗菌性を測定した。各種評価結果について表2に示す。
【0077】
[実施例2]
リン酸ジルコニウム分散液B1に代えて、テイカ(株)社製のトリポリリン酸二水素アルミニウム系消臭剤“K−FRESH”(登録商標)#100P(平均一次粒子径1.0μm)をホモミキサーによりDMAcに分散し、トリポリリン酸二水素アルミニウム分散液B2(35重量%)とした。
【0078】
ポリマ溶液A1、B2、C1を96重量%、3重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D2とし、これを実施例1と同様に乾式紡糸して、33デシテックス、2フィラメント、トリポリリン酸二水素アルミニウムの含有量が3重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤ネオジャーミDFSの含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0079】
各種評価結果について表2に示す。
【0080】
[実施例3]
リン酸ジルコニウム分散液B1に代えて、合成したリン酸チタン(平均一次粒子径1.1μm)をホモミキサーによりDMAcに分散し、リン酸チタン分散液B3(35重量%)とした。
【0081】
ポリマ溶液A1、B3、C1を96重量%、3重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D3とし、これを実施例1と同様に乾式紡糸して、33デシテックス、2フィラメント、リン酸チタンの含有量が3重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤ネオジャーミDFSの含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0082】
各種評価結果について表2に結果を示す。
[実施例4]
分子量2100のPTMG、MDI、エチレングリコールおよび末端封鎖剤として1−ブタノールからなるポリウレタンウレタン重合体のDMAC溶液(35重量%)を調整した。次に、酸化防止剤として、t−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタン溶液(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2462)と、p−クレゾ−ルおよびジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2390)とを2対1(重量比)で混合し、酸化防止剤DMAc溶液(濃度35重量%)を調整し、前記ポリウレタンウレア重合体のDMAc溶液96重量部と酸化防止剤溶液4重量部を混合し、ポリマ溶液A2とした。さらに三洋化成(株)社製の“ネオジャーミDFS”溶液C1に代えて、ロンザジャパン(株)社製4級アンモニウム塩系抗菌剤“BARQUAT”(登録商標)MS−100(ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド)をDMAcに35重量%に調製し、抗菌剤溶液C2とした。
【0083】
ポリマ溶液A2、B1、C2を95重量%、4重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D4とし、これを実施例1と同様に乾式紡糸して、33デシテックス、2フィラメント、リン酸ジルコニウムの含有量が4重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤“BARQUAT”(登録商標)MS−100の含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0084】
[実施例5]
ポリマ溶液A2、B2、C1を97.5重量%、1.5重量%、1.0重量%で均一に混合し、紡糸溶液D5とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、トリポリリン酸二水素アルミニウムの含有量が1.5重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0085】
各種評価結果について表2に示す。
【0086】
[実施例6]
4級アンモニウム塩系抗菌剤溶液C1に代えて、塩化ジデシルジメチルアンモニウムをDMAcに35重量%に調製し、抗菌剤溶液C3とした。
【0087】
ポリマ溶液A2、B1、C3を96.7重量%、3重量%、0.3重量%で均一に混合し、紡糸溶液D6とし、これを実施例1と同様に乾式紡糸して、33デシテックス、2フィラメント、リン酸チタンの含有量が3重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤塩化ジデシルジメチルアンモニウムの含有量が0.3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0088】
各種評価結果について表2に示す。
【0089】
[実施例7]
4級アンモニウム塩系抗菌剤溶液C1に代えて、塩化ベンゼトニウムをDMAcに35重量%に調製し、抗菌剤溶液C4とした。
【0090】
ポリマ溶液A2、B1、C4を96.8重量%、3重量%、0.2重量%で均一に混合し、紡糸溶液D7とし、これを実施例1と同様に乾式紡糸して、33デシテックス、2フィラメント、リン酸チタンの含有量が3重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤塩化ジデシルジメチルアンモニウムの含有量が0.3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0091】
各種評価結果について表2に示す。
【0092】
[実施例8]
ポリマ溶液A2、B1、C2を91.5重量%、8重量%、1.5重量%で均一に混合し、紡糸溶液D8とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、リン酸ジルコニウムの含有量が8重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤“BARQUAT”(登録商標)MS−100の含有量が1重量%であるポリウレタン糸の100g巻糸体を得た。ただし、紡糸中に口金の詰まりと思われる糸切れが発生し、他の実施例に比べて紡糸性は良くなかった。
【0093】
各種評価結果について表2に示す。
【0094】
[比較例1]
ポリマ溶液A1を実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメントのポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。 各種評価結果について表2に示す。
【0095】
[比較例2]
ポリマ溶液A2を実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメントのポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。 各種評価結果について表2に示す。
【0096】
[比較例3]
ポリマ溶液A2、B1を98重量%、2重量%で均一に混合し、紡糸溶液D9とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、リン酸ジルコニウムの含有量が2重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0097】
評価の結果、酢酸ガスに対する消臭性と抗菌性に劣るものであった。各種評価結果について表2に示す。
【0098】
[比較例4]
ポリマ溶液A2、B1、C1を98.5重量%、0.5重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D10とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、リン酸ジルコニウムの含有量が0.5重量%、4級アンモニウム塩系抗菌剤ネオジャーミDFSの含有量が1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0099】
評価の結果、金属リン酸塩の含有量が少ないためアンモニアに対する消臭性に劣るものであった。各種評価結果について表2に示す。
【0100】
[比較例5]
ポリマ溶液A2、C2を99.5重量%、0.5重量%で均一に混合し、紡糸溶液D11とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメントのポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0101】
評価の結果、金属リン酸塩が含まれていないため消臭性に劣り、洗濯処理後の抗菌性も劣るものだった。各種評価結果について表2に示す。
【0102】
[比較例6]
リン酸ジルコニウム分散液B1に代えて、堺化学(株)社製超微粒子酸化亜鉛“FINEX”−25(平均一次粒子径0.04μm)をホモミキサーによりDMAcに分散し、酸化亜鉛分散液B4(35重量%)とした。
【0103】
ポリマ溶液A1、B4、C1を96.5重量%、3重量%、0.5重量%で均一に混合し、紡糸溶液D12とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、酸化亜鉛の含有量が3重量%、ネオジャーミDFSの含有量が0.5重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0104】
評価の結果、アンモニアに対する消臭性が劣る結果であった。各種評価結果について表2に示す。
【0105】
[比較例7]
4級アンモニウム塩溶液に代えて、天然抗菌剤のヒノキチオールをDMAcに35重量%に調製し、溶液C5(35重量%)とした。
【0106】
ポリマ溶液A2、B4、C5を95.9重量%、4重量%、0.1重量%で均一に混合し、紡糸溶液D13とした。これを実施例1と同様に乾式紡糸し、33デシテックス、2フィラメント、酸化亜鉛の含有量が4重量%、ヒノキチオールの含有量が0.1重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
評価の結果、アンモニアに対する消臭性が劣り、洗濯10回後の酢酸に対する消臭性に劣るものであった。各種評価結果について表2に示す。
【0107】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするポリウレタンからなる弾性糸であって、金属リン酸塩を1重量%以上10重量%以下の範囲で含有し、かつ4級アンモニウム塩系抗菌剤を含有することを特徴とするポリウレタン弾性糸。
【請求項2】
前記金属リン酸塩が、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、およびトリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
前記4級アンモニウム塩系抗菌剤が下記構造をとることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリウレタン弾性糸。
【化1】

【請求項4】
前記4級アンモニウム塩系抗菌剤の含有量が0.1重量%以上5重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項5】
前記ポリウレタンが、分子量300以下のジオール化合物によって鎖伸長されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。

【公開番号】特開2012−127015(P2012−127015A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277891(P2010−277891)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】