説明

ポリウレタン発泡体の製造方法

【課題】 発泡体を構成するセルの形状を略球状とし、その縦方向及び横方向における物性の相違が少ないポリウレタン発泡体を効率良く製造するためのポリウレタン発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリウレタン発泡体は、密閉容器11内にポリウレタン発泡体の原料20を注入する注入工程、原料20を発泡及び反応させてポリウレタン発泡体を製造する発泡・反応工程、密閉容器11内の圧力を調整する圧力調整工程及び密閉容器11からポリウレタン発泡体を取り出す取出工程とを経て製造される。圧力調整工程における密閉容器11内の圧力を注入工程における密閉容器11内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期がライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯に設定される。かつ、その圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器11内の圧力より高くなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家具、寝具等のクッション材として使用されるポリウレタン発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のクッション材に用いられる材料としては、へたり難く、使用感を綿に近づけた感触の良好なポリウレタン発泡体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このポリウレタン発泡体を得るための製造工程では、主としてポリオールとポリイソシアネートとが反応するが、ポリイソシアネートと発泡剤としての水とが反応してできるウレア結合(尿素結合)が生成する反応も起きる。このウレア結合は凝集しやすいことから、発泡体が硬くなる傾向を示す。
【0003】
これを防止するために、水の量を減らしたり、発泡剤としてポリイソシアネートと反応しないメチレンクロライドを用いたり、ポリオールとして反応性の高いポリオールを使用したり、それに反応性が高く分子量の小さいポリオールを併用したりするという工夫がなされている。そして、得られる発泡体のセルの発泡体厚さ方向(板厚方向)の長さaと厚さ方向と直交する方向(板面方向)の長さbとの比a/bが、0.6〜1.0であるポリウレタン発泡体を得ている。つまり、発泡体の厚さ方向に扁平なセル形状とし、座屈点をなくすように構成されている。
【特許文献1】特開平11−35725号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来の特許文献1に記載されたポリウレタン発泡体は、そのセルの形状が板面方向に扁平であり、特に板厚方向(縦方向)の長さaと板面方向(横方向)の長さbとの比a/bが、0.6に近い場合には、ポリウレタン発泡体を板厚方向で切り取ったときと板面方向で切り取ったときでは硬さ、引張強度、反発弾性等の物性が異なってしまう。このため、例えばポリウレタン発泡体をソファーの肘掛けとして左の肘掛けに縦断面の発泡体、右の肘掛けに横断面の発泡体を用いた場合、左右の肘掛けで硬さの違いが生じ、製品として不適当なものとなる。
【0005】
また、特許文献1に記載のポリウレタン発泡体では、発泡体の使用感を向上させるべくウレア結合の生成を抑えるために、発泡剤の種類、配合量、ポリオールの種類等が変更されている。しかしながら、ポリウレタン発泡体の板厚方向と板面方向とで物性の均一性を図るためには、ポリウレタン発泡体の原料を変更して対処するには限界があった。
【0006】
一方、自然発泡では、板厚方向と板面方向とでは発泡の度合いが異なり、前記の比a/bが一般に1.2〜1.5程度となる。この場合には、セルの形状が板厚方向に扁平となり、前記と同様の問題が生ずる。そこで、発泡体を構成するセルの形状を球状に近づけ、セルの縦方向及び横方向における物性の相違を少なくすることができる製造方法が求められる。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発泡体を構成するセルの形状を略球状とし、その縦方向及び横方向における物性の相違が少ないポリウレタン発泡体を効率良く製造するためのポリウレタン発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法は、密閉容器内にポリウレタン発泡体の原料を注入する注入工程、前記原料を発泡及び反応させてポリウレタン発泡体を製造する発泡・反応工程、前記密閉容器内の圧力を調整する圧力調整工程、及び前記密閉容器からポリウレタン発泡体を取り出す取出工程とを備え、圧力調整工程における密閉容器内の圧力を注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期が原料の注入時から発泡が最も進行して発泡高さが最も高くなるまでの時間を表すライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯であり、かつその圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように設定されることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法は、請求項1に係る発明において、前記加圧はライズタイムの5%以上の時間行われることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記ポリウレタン発泡体の原料は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤及び触媒を含有するものであり、発泡剤として水を用い、その水の含有量がポリオール100質量部に対して1.5〜5質量部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法においては、圧力調整工程における密閉容器内の圧力を注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期がライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯に設定される。かつ、その圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように設定される。このため、発泡時には発泡体を構成するセルの縦方向における発泡を抑制でき、セルの横方向に対する縦方向の比を1に近づけることができる。従って、セルの形状を略球状にすることができ、その縦方向及び横方向における物性の相違が少ないポリウレタン発泡体を効率良く製造することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法によれば、前記加圧がライズタイムの5%以上の時間行われることにより、加圧による効果を十分に発揮することができ、請求項1に係る発明の効果を向上させることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体の製造方法によれば、発泡剤として水を用い、その水の含有量がポリオール100質量部に対して1.5〜5質量部であることにより、発泡を適正範囲に維持することができ、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
本実施形態におけるポリウレタン発泡体の製造方法は、密閉容器内にポリウレタン発泡体の原料を注入する注入工程、前記原料を発泡及び反応させてポリウレタン発泡体を製造する発泡・反応工程、前記密閉容器内の圧力を調整する圧力調整工程、及び前記密閉容器からポリウレタン発泡体を取り出す取出工程とを備えている。
【0014】
上記圧力調整工程における密閉容器内の圧力は、注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期が原料の注入時から発泡が最も進行して発泡高さが最も高くなるまでの時間を表すライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯に設定される。かつ、その圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように設定される。また、前記加圧はライズタイムの5%以上の時間行われることが好ましい。更に、発泡剤としての水の含有量はポリオール100質量部に対して1.5〜5質量部であることが好ましい。
【0015】
このようなポリウレタン発泡体の製造方法を、例えば図1に模式的に示す製造装置を用いて具体的に説明する。この図1に示すように、密閉容器11は有底円筒状をなす容器本体12とその上端開口部を開閉可能に覆う蓋体13とにより構成されている。密閉容器11の側方位置には圧力調整装置14が配置され、連結配管15にて密閉容器11内と連通されている。その連結配管15にはバルブ16が設けられ、連結配管15を開閉できるようになっている。前記蓋体13には排気管17が接続されると共に、該排気管17にはバルブ18が設けられ、密閉容器11内の空気を排気できるようになっている。密閉容器11内の底壁上には発泡容器19が配置され、その中にポリウレタン発泡体の原料20が注入される。
【0016】
続いて、原料供給部21について説明する。ポリオール用容器22とポリイソシアネート用容器23とが並列に配置され、それぞれ内部に収容されたポリオール24及びポリイソシアネート25を撹拌混合するための撹拌機26が備えられている。ポリオール用容器22の底部には第1接続管27が接続され、該第1接続管27にはバルブ28が設けられている。ポリイソシアネート用容器23の底部には第2接続管29が接続され、その先端が前記第1接続管27に接続されると共に、第2接続管29にはバルブ30が設けられている。発泡剤31が収容された発泡剤用容器32、触媒33が収容された触媒用容器34及びその他の添加剤35が収容された添加剤用容器36は並列に配置され、各容器の底部には順に第3接続管37、第4接続管38及び第5接続管39が接続され、それらの接続管の他端がポリイソシアネート用容器23に接続されている。また、各接続管には開閉用のバルブ40が設けられている。
【0017】
前記第1接続管27の先端は密閉容器11の周壁に接続されると共に、第1接続管27の途中には混合装置41が設けられている。そして、発泡剤31が発泡剤用容器32から、触媒33が触媒用容器34から及びその他の添加剤35が添加剤用容器36から第3接続管37、第4接続管38及び第5接続管39を介してポリイソシアネート25が収容されたポリイソシアネート用容器23内に供給され、撹拌機26で撹拌混合される。その混合物は第2接続管29を介し、ポリオール用容器22から送り出されたポリオール24が流れる第1接続管27に供給される。更に、第1接続管27内を流れる混合液は混合装置41により混合され、図1の二点鎖線の矢印で示すように密閉容器11内部の発泡容器19内に注入されるようになっている。すなわち、注入工程では、密閉容器11内の発泡容器19にポリウレタン発泡体の原料20が注入される。
【0018】
前記ポリウレタン発泡体の原料20は、前述のようにポリオール24、ポリイソシアネート25、発泡剤31、触媒33及びその他整泡剤等の添加剤35より構成されている。ポリオール24としては、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオールが用いられる。ポリエステルポリオールは、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールは、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、それらの変性体等が挙げられる。このポリオール24は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0019】
ポリオール24と反応させるポリイソシアネート25はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が用いられる。
【0020】
ここで、ポリイソシアネート25のイソシアネートインデックスは80〜130であることが好ましい。イソシアネートインデックスとは、ポリオール24の水酸基及び発泡剤31(水)に対するポリイソシアネート25のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、その値が100未満の場合には水酸基がイソシアネート基より過剰であることを意味し、100を越える場合にはイソシアネート基が水酸基より過剰であることを意味する。イソシアネートインデックスが80未満の場合には、ポリオール24がポリイソシアネート25と十分に反応することができず、柔軟性が大きく、形状保持性が低下する原因となる。一方、イソシアネートインデックスが130を越える場合には、ポリウレタン発泡体が硬くなったりしてその物性が低下する。
【0021】
触媒33はポリオール24とポリイソシアネート25とのウレタン化反応を促進するためのものである。係る触媒33としては、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の3級アミン、オクチル酸スズ等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。これらのうち、軟質のポリウレタン発泡体43を得るためには、3級アミン等のアミン類又はこれと金属含有触媒を併用することが望ましい。
【0022】
発泡剤31はポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体43とするためのものである。この発泡剤31としては、水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。その他の添加剤35としては、界面活性剤等の整泡剤、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等が挙げられる。
【0023】
そして、前記発泡・反応工程では、ポリウレタン発泡体43の原料20を発泡及び反応させてポリウレタン発泡体43を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール24とポリイソシアネート25との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート25と発泡剤31との泡化反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート25との架橋反応である。
【0024】
前記圧力調整工程では、密閉容器11内の圧力が圧力調整装置14により注入工程における密閉容器11内の圧力より高くなるように調整される。加圧を開始する時期が原料の注入時から発泡が最も進行して発泡高さが最も高くなるまでの時間を表すライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯に設定される。かつ、その圧力が注入工程での圧力より高くなるようにゲージ圧で20〜400kPaに設定される。また、前記加圧はライズタイムの5%以上の時間行われることが好ましい。発泡容器19内での発泡は、縦方向(垂直方向)、横方向(水平方向)等へ進行するが、自然発泡では縦方向への発泡の進行が横方向への発泡の進行より大きくなる傾向を示す。
【0025】
加圧を開始する時期がライズタイムの0.5倍未満である場合、加圧のタイミングが早過ぎて加圧により横方向への発泡の進行が大きくなる。従って、図5に示すように、得られるポリウレタン発泡体43のセル44は断面が横方向に長い長円となる。加圧を開始する時期がライズタイムの1.3倍を越える場合、加圧を開始するタイミングが遅く、ウレタン化反応が進行して硬化が進み過ぎ、セル44の形状を調整することができなくなる。この場合、セル44の断面形状は図3に示すように、縦方向に長い長円となる。
【0026】
更に、前記加圧はライズタイムの5%以上の時間行なうことが望ましく、5〜50%の時間行なうことがより望ましい。加圧時間の上限はウレタン化反応によって発泡体の硬化が始まるまでの時間である。硬化が始まった段階で加圧を行っても、もはやセル44の形状を変更をすることができなくなる。加圧の時間がライズタイムの5%未満の場合、加圧時間が短く、縦方向への発泡の進行が横方向への発泡の進行に比べて大きくなる傾向を示す。一方、ライズタイムの50%を越える場合、加圧時間が長く、横方向への発泡の進行が縦方向への発泡の進行に比べて大きくなる傾向を示す。
【0027】
図2は反応時間とポリウレタン発泡体43の原料20の粘度との関係を示すグラフで、反応の進行に伴なう粘度変化を表している。前述のように、発泡が高さ方向に最高点に達するまでの時間がライズタイムRTである。ポリウレタン発泡体43の原料20が液状(クリーム状)を保っている状態、言い換えれば発泡が始まるまでの時間(クリームタイム)を経て発泡が開始される。その後、原料20の粘度が上昇してゲル化すると共に、発泡によってセル44が形成される。加圧を開始する時期は、前述のようにライズタイムRTの0.5〜1.3倍の時間帯である。
【0028】
自然発泡の場合には、前記のように発泡が開始されると縦方向への発泡の度合いがそれと直交する横方向への発泡の度合いに比べて発泡の進行が速い。このため、図3に示すように、セル44は縦方向の長さaが横方向の長さbに比べて長くなる傾向を示す。従って、発泡の進行を制御し、図4に示すような断面で横方向の長さbに対する縦方向の長さaの比が0.85〜1.15である略球状のセル44を得るためには、加圧を開始する時期、加圧時の圧力及び加圧の継続時間を前記のように設定することが重要である。
【0029】
そして、前記圧力調整工程における密閉容器11内の圧力が注入工程における密閉容器11内の圧力より高くなるように設定される。このように圧力設定をすることにより、自然発泡に比べてセル44の縦方向への発泡を抑えることができ、セル44の縦方向及び横方向への発泡をより均一なものにすることができる。また、圧力調整工程において、注入工程での密閉容器11内の圧力からゲージ圧で20〜400kPaまで加圧することにより、発泡によって形成されるセル44の縦方向及び横方向への成長が均等になり、つまりセル44の成長に歪みが生ずるのを抑制でき、セル44の縦方向と横方向の長さを略同じに調節することができる。この圧力が20kPa未満又は400kPaを越える場合には、セル44の横方向の長さに対する縦方向の長さの比が0.85未満又は1.15を越えることとなり、発泡体の縦方向及び横方向における物性の相違が大きくなる。
【0030】
更には、前記の加圧はライズタイムRTの5%以上の時間行われることが好ましい。加圧時間が5%未満の場合には、加圧の作用が十分に発揮されず、発泡体の縦方向及び横方向における物性の相違が大きくなる。加圧時間の上限は、ポリウレタン発泡体43の原料20が反応硬化するまでの時間である。
【0031】
前記ポリオール24とポリイソシアネート25とのウレタン化反応を行なう場合には、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール24とポリイソシアネート25とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール24とポリイソシアネート25との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール24又はポリイソシアネート25を反応させる方法である。ワンショット法はプレポリマー法に比べて製造工程が一工程で済み、製造条件の制約も少ないことから好ましい方法であり、製造コストを低減させることができる。
【0032】
最後に、取出工程においては、密閉容器11の排気管17のバルブ18を緩めて密閉容器11内を常圧にした後、蓋体13を開けて発泡容器19を外へ出し、その発泡容器19からポリウレタン発泡体43が取り出される。
【0033】
得られたポリウレタン発泡体43においては、発泡体を構成するセル44はその横方向の長さに対する縦方向の長さの比が例えば0.85〜1.15である略球状に形成される。このため、セルの縦方向及び横方向、すなわち発泡体の縦方向及び横方向における硬さ、密度等の物性の相違を少なくすることができる。従って、例えば発泡体の縦方向と横方向のJIS K6400に基づく硬さの差を5以下にすることができる。また、発泡体の密度を25〜80kg/m3にして利用することができる。
【0034】
さて、ポリウレタン発泡体43を製造する場合には、注入工程において、密閉容器11内に配置された発泡容器19内にポリウレタン発泡体43の原料20として、ポリオール24、ポリイソシアネート25、発泡剤31、整泡剤、触媒等の添加剤35を混合装置41で混合して注入する。このとき、図2に示すように、発泡・反応工程において、原料20が液状で低粘度の状態から一定時間後に発泡が開始され、クリーム状態となって次第に原料20の粘度が上昇して最も粘度の高いライズタイムRTに到る。ライズタイムRTを経過した後には、略一定の粘度で推移すると共に、反応硬化が進行し、ポリウレタン発泡体43が製造される。この過程で圧力調整工程において、ライズタイムRTの0.5〜1.3倍の時間帯で圧力調整装置14により密閉容器11内を加圧する。それと共に、その圧力をゲージ圧で20〜400kPaに設定し、加圧時間をライズタイムRTの5%以上に設定する。
【0035】
この加圧操作によって、発泡体を構成するセル44の縦方向への発泡の進行を抑えることができ、セル44の横方向の長さbに対する縦方向の長さaの比を1に近づけることができる。
【0036】
その後、取出工程において、前記密閉容器11の蓋体13を開けて発泡容器19を外へ出し、その発泡容器19からポリウレタン発泡体43が取り出される。このようにして得られたポリウレタン発泡体43は、図4に示すように、セル44の形状を略球状にすることができる。従って、図6に示すように、ポリウレタン発泡体43のブロック45から縦方向に延びるように板状に切り出した製品46aと、横方向に延びるように板状に切り出した製品46bとは略同じ物性を有するものとなる。
【0037】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 上記実施形態のポリウレタン発泡体43の製造方法においては、圧力調整工程における密閉容器11内の圧力を注入工程における密閉容器11内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期がライズタイムRTの0.5〜1.3倍の時間帯に設定される。かつ、その圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように設定される。このため、発泡時には発泡体を構成するセル44の縦方向における発泡を抑制でき、セル44の横方向に対する縦方向の比を1に近づけることができる。従って、セル44の形状を略球状にすることができ、その縦方向及び横方向における物性の相違が少ないポリウレタン発泡体43を効率良く製造することができる。
【0038】
・ また、前記加圧がライズタイムRTの5%以上の時間行われることにより、加圧による効果を十分に発揮することができ、加圧に基づくセル44の形状の調節を容易に行うことができる。
【0039】
・ 更に、発泡剤31として水を用い、その水の含有量がポリオール100質量部に対して1.5〜5質量部であることにより、発泡を適正範囲に維持することができ、セル44の形状調節を容易に行うことができる。
【0040】
・ 図7(a)に示すように、成形されたポリウレタン発泡体43からブロック45を切り出した後一定の大きさの直方体状をなす製品46を得る場合、図7(b)に示すように、セル44が断面長円状をなしているとき端部47(図中のハッチング部分)で方向を変えて製品46を取ると方向によって物性が変わってしまう。これに対して、図7(c)に示すように、本実施形態のポリウレタン発泡体43ではセル44が球状をなしていることから、ブロック45の端部47で方向を変えて製品46を取っても、異なる方向で同じ物性を発揮することができる。従って、製品46の歩留りが良く、少量多品種の製品46として有用である。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1〜3及び比較例1〜4)
ポリウレタン発泡体の原料として、ポリエーテルポリオール〔三洋化成工業(株)製、GP3000、水酸基価56〕100質量部、ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製、T−80〕51.8質量部(イソシアネートインデックスを105とした)、発泡剤として水4.2質量部、触媒としてアミン化合物〔中京油脂(株)製、33LV〕0.6質量部とオクチル酸第1スズ〔城北化学(株)製、MRH110〕0.2質量部、及び整泡剤としてシリコーン化合物〔ゴールドシュミット社製、B8110〕1.0質量部を用意した。
【0042】
そして、前記図1に示す製造装置を用い、ポリウレタン発泡体43を製造した。すなわち、発泡剤31としての水、触媒33及び整泡剤、その他の添加剤35をポリイソシアネート用容器23内へ供給して撹拌すると共に、第2接続管29から第1接続管27へ供給した。一方、ポリオール24をポリオール用容器22から第1接続管27へ供給し、混合装置41でポリオール24をポリイソシアネート25等と混合した。この混合液を、大気圧下、20℃で密閉容器11内部の発泡容器19へ注入した。
【0043】
その状態で放置すると、ポリオール24とポリイソシアネート25とが触媒33の存在下にウレタン化反応すると共に、発泡剤31及び整泡剤により自然発泡が行われる。この場合、ライズタイムRTは90秒であった。また、原料20が発泡を始めるまでの時間を表すクリームタイムは20秒であった。それに対し、発泡容器19へ原料20を注入した後、加圧を開始するまでの時間(設定の圧力になるまでの時間)及び圧力を表1及び表2に示すように変えてポリウレタン発泡体43を成形した。但し、実施例1〜3における加圧時間を30秒間とした。得られたポリウレタン発泡体43について、セル44の横方向の長さbに対する縦方向の長さaの比(セル径比)、密度(kg/m3)、硬さ(N)、通気度(L/min)、引張強度(kPa)、伸び(%)及び反発弾性(%)を次の方法によって測定し、それらの結果を表1及び表2に示した。
(セル径比)
セル44の横方向の長さbに対する縦方向の長さaの比を10点測定し、それらの平均を算出して求めた。
(密度、硬さ及び反発弾性)
長さ400mm、幅200mm及び厚み50mmのサンプルを切り出し、JIS K6400に準拠して測定した。
【0044】
(通気度)
ASTM D3574に準拠して測定した。
(引張強度及び伸び)
JIS K6251に準拠して測定した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜3においては、加圧を開始する時期が60秒(ライズタイムRTの67%)で、かつその圧力が注入工程での圧力より25〜200kPa高い圧力に設定されている。このため、セル44の縦方向におけるセル径比は0.89〜1.12で略球状をなしていた。また、ポリウレタン発泡体43の硬さは、縦方向と横方向との差が2N以下でほとんど差がなかった。更に、ポリウレタン発泡体43の密度、通気度、引張強度、伸び及び反発弾性は、縦方向と横方向との差が±10%以下で大きな差は認められなかった。
【0047】
一方、表2に示すように、加圧を行わない場合(比較例1)には、セル44の縦方向におけるセル径比は1.32でセルは縦方向に長い長円形であった。加圧を開始するまでの時間が20秒(ライズタイムRTの22%)という早過ぎる時間の場合(比較例2)には、セル44の縦方向におけるセル径比は1.28でセル44は縦方向に長い長円形であった。加圧を開始するまでの時間が100秒(ライズタイムRTの110%)という遅過ぎる時間の場合(比較例3)には、セル44の縦方向におけるセル径比は1.30でセル44は縦方向に長い長円形であった。加圧の圧力が500kPaという高い圧力の場合(比較例4)では、セル44の縦方向におけるセル径比は0.80で横方向に長い長円形であった。そのため、ポリウレタン発泡体43の硬さ、伸び及び反発弾性について、縦方向と横方向との差が±10%以上となる場合が認められた。
(実施例4〜11及び比較例5、6)
ポリウレタン発泡体43の原料20として、ポリエーテルポリオール〔三洋化成工業(株)製、GP3000、水酸基価56〕100質量部、ポリイソシアネート25としてトリレンジイソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製、T−80〕28.6質量部(イソシアネートインデックスを102とした)、発泡剤31として水2.0質量部、触媒33としてアミン化合物〔中京油脂(株)製、33LV〕0.06質量部とオクチル酸第1スズ〔城北化学(株)製、MRH110〕0.12質量部、及び整泡剤としてシリコーン化合物〔信越化学工業(株)製、F650〕0.3質量部を用意した。
【0048】
そして、前記実施例1と同様にしてポリウレタン発泡体43を製造した。この場合、ライズタイムRTは4分57秒(297秒)、クリームタイムは24秒であった。発泡容器19へ原料20を注入した後加圧を開始するまでの時間(設定の圧力になるまでの時間)及び圧力を表3及び表4に示すように変えてポリウレタン発泡体43を成形した。但し、実施例1〜3における加圧時間を30秒間とした。得られたポリウレタン発泡体43について、セル44の横方向の長さに対する縦方向の長さの比(セル径比)、密度(kg/m3)、硬さ(N)、通気度(L/min)、引張強度(kPa)、伸び(%)及び反発弾性(%)を前記の方法によって測定し、それらの結果を表3及び表4に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

表3に示すように、実施例4〜7においては、加圧を開始する時期がライズタイムRT以前で、かつその圧力が注入工程での圧力より100〜150kPa高い圧力に設定されている。このため、セル44の縦方向におけるセル径比は0.88〜0.98で略球状をなしていた。また、ポリウレタン発泡体43の密度、硬さ、引張強度及び反発弾性は、縦方向と横方向との差が±15%以下で大きな差は認められなかった。
【0051】
また、表4に示すように、実施例8〜11においては、加圧を開始する時期がライズタイムRT以後で、ライズタイムRTの1.3倍までで、かつその圧力が注入工程での圧力より150kPa高い圧力に設定されている。このため、セル44の縦方向におけるセル径比は1.08〜1.15で略球状をなしていた。また、ポリウレタン発泡体43の密度、引張強度、伸び及び反発弾性は、縦方向と横方向との差が±15%以下で大きな差は認められなかった。
【0052】
一方、表3に示すように、加圧を行わない場合(比較例5)には、セル44の縦方向におけるセル径比は1.53でセル44は縦方向に長い長円形であった。そのため、ポリウレタン発泡体43の特に硬さ及び引張強度について、縦方向と横方向との間に大きな差が認められた。更に、表4に示すように、加圧を開始するまでの時間がライズタイムRT以後で、ライズタイムRTの1.43倍の場合(比較例6)には、セル44の縦方向におけるセル径比は1.42でセル44は縦方向に長い長円形であった。そのため、ポリウレタン発泡体43の硬さ及び通気度について、縦方向と横方向とに大きな差が認められた。
【0053】
尚、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 圧力調整装置14によって密閉容器11内を加圧する場合、圧力を次第に高くしたり、次第に低くしたりして調整することもできる。
【0054】
・ 圧力調整装置14による加圧を、例えば初期と終期とに分けて行う等間欠的に実施することもできる。
・ ポリウレタン発泡体43の原料20中の触媒、整泡剤等の種類、使用量等によってセル44の形状を調節することも可能である。
【0055】
・ 注入工程における密閉容器11内の圧力が減圧状態である場合であっても、圧力調整工程における密閉容器11内の圧力を注入工程における密閉容器11内の圧力よりも高い圧力、例えば常圧に設定すれば実施形態の効果を発揮することができる。
【0056】
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記加圧を開始する時期がポリウレタン発泡体の原料の反応により硬化する前であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、加圧による効果を確実に発揮することができる。
【0057】
・ 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明により得られるポリウレタン発泡体であり、発泡体を構成するセルは、その横方向の長さに対する縦方向の長さの比が0.85〜1.15である略球状に形成されていると共に、密度が25〜80kg/m3であることを特徴とするポリウレタン発泡体。このように構成した場合、得られたポリウレタン発泡体は、全体に略均質なものとなり、縦方向及び横方向における密度を略均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態におけるポリウレタン発泡体の製造装置を示す概略説明図。
【図2】反応時間とポリウレタン発泡体の原料の粘度との関係を示すグラフ。
【図3】自然発泡させたときのポリウレタン発泡体のセルを示す模式的な断面図。
【図4】本実施形態のポリウレタン発泡体のセルを示す模式的な断面図。
【図5】圧力を高く設定した場合のポリウレタン発泡体のセルを示す模式的な断面図。
【図6】ポリウレタン発泡体のブロックを縦切りしたとき及び横切りしたときの状態を示す説明図。
【図7】(a)はポリウレタン発泡体からブロックを切り出した状態を示す断面図、(b)はセルが長円状の場合にポリウレタン発泡体のブロックから製品を切り出すときの説明図、(c)はセルが真円状の場合にポリウレタン発泡体のブロックから製品を切り出すときの説明図。
【符号の説明】
【0059】
11…密閉容器、14…圧力調整装置、20…ポリウレタン発泡体の原料、24…ポリオール、25…ポリイソシアネート、31…発泡剤、33…触媒、43…ポリウレタン発泡体、RT…ライズタイム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内にポリウレタン発泡体の原料を注入する注入工程、前記原料を発泡及び反応させてポリウレタン発泡体を製造する発泡・反応工程、前記密閉容器内の圧力を調整する圧力調整工程、及び前記密閉容器からポリウレタン発泡体を取り出す取出工程とを備え、圧力調整工程における密閉容器内の圧力を注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように加圧を開始する時期が原料の注入時から発泡が最も進行して発泡高さが最も高くなるまでの時間を表すライズタイムの0.5〜1.3倍の時間帯であり、かつその圧力がゲージ圧で20〜400kPaの範囲内にて注入工程における密閉容器内の圧力より高くなるように設定されることを特徴とするポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記加圧はライズタイムの5%以上の時間行われることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン発泡体の原料は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤及び触媒を含有するものであり、発泡剤として水を用い、その水の含有量がポリオール100質量部に対して1.5〜5質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−2086(P2006−2086A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181568(P2004−181568)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】