説明

ポリウレタン糸およびその製造方法

【課題】耐熱性を発現しつつ、ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性をバランスよく発現するポリウレタン糸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであり、かつ、ロジン及び/又はその誘導体を含有することを特徴とするポリウレタン糸。ロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点は70℃以上150℃以下であることを特徴とし、その含有量は0.1重量%以上20重量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性、高ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性を有するポリウレタン糸に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用に幅広く使用されている。かかる弾性繊維として、特にポリウレタン弾性繊維には、従来から高耐熱性、高ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性を有するものが求められていた。
【0003】
特許文献1にはセルロースアセテートを含有したポリウレタン糸をアルカリ処理する技術が開示されているが、高ヒートセット性、高耐熱性に関しては満足するものではなかった。また特許文献2にはポリビニルピロリドンを含有したポリウレタン糸についての技術が開示されているが、ポリウレタンが本来発現し易い高い耐熱性を低下させてしまうものであった。また、特許文献3にはセルロースエステルを含有したポリウレタン糸についての技術が開示されているが、ヒートセット後の戻り特性に関しては満足するものではなかった。
【0004】
したがって、耐熱性を発現しつつ、ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性をバランスよく発現するポリウレタン糸が求められていた。
【特許文献1】特開2000−303259号公報
【特許文献2】特開平11−200147号公報
【特許文献3】特開2005−048306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性を発現しつつ、ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性をバランスよく発現するポリウレタン糸およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリウレタン糸は、前記の課題を解決するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであり、かつ、ロジン及び/又はその誘導体を含有することを特徴とするポリウレタン糸。
(2)前記ロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点が70℃以上150℃以下であることを特徴とする、前記(2)に記載のポリウレタン糸。
(3)前記ロジン及び/又はその誘導体の含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のポリウレタン糸。
(4)主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタン糸を製造するに際して、ロジン及び/又はその誘導体を含有させて紡糸することを特徴とするポリウレタン糸の製造方法。
(5)紡糸方法が乾式であることを特徴とする、前記(4)に記載のポリウレタン糸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタン糸がロジン及び/又はその誘導体を含有しているので、耐熱性を発現しつつ、ヒートセット性、ヒートセット後の良好な戻り特性をバランスよく発現することができる。そのため、かかるポリウレタン糸を使用した衣服は、脱着性、フィット性、外観品位、着用感などに優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0009】
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0010】
本発明に使用されるポリウレタンは、主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタンであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートとジアミンからとなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートとジオールとからなるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0011】
なお、「主構成成分」とは、ポリウレタンの構成成分の内50重量%以上を占める成分のことをいい、本発明においては、ポリマージオールおよびジイソシアネートが合計で50重量%以上を占めることを意味する。
【0012】
ここで、本発明のポリウレタン糸を構成する代表的な構造単位について述べる。
【0013】
本発明に使用されるポリマージオールはポリエーテル系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
【0014】
ポリエーテル系グリコールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、THFおよび3−MeTHFの共重合体である変性PTMG(以下、3M−PTMGと略する)、THFおよび2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系グリコールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0015】
また、ポリウレタン糸として耐摩耗性や耐光性を得る観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61−26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系グリコールや、特公平2−289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0016】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0017】
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1800以上6000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を容易に得ることができる。
【0018】
次に本発明に使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
次に本発明における鎖伸長剤は、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0020】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0021】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどは代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高い糸を得ることができるのである。
【0022】
また、本発明のポリウレタン糸の分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0023】
本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタン糸がロジン及び/又はその誘導体を含有する。ロジン及び/又はその誘導体を含有しないと、高いヒートセット性かつヒートセット後の優れた機械特性が得られないという問題が生じる。
【0024】
本発明におけるロジンは、3つの環構造、共役2重結合、カルボキシル基を有するアビエチン酸とその異性体の混合物を主成分とするものであり、採取方法からの分類としてはガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンのいずれでも良い。また、ロジン誘導体としては、例えば、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジン、アクリル化ロジン、ロジンエステル、ロジン含有ジオール等が挙げられる。また、こうしたロジンやその誘導体は単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
そして、ポリウレタン糸の高次加工工程においてより良好なヒートセット性を付与するためには、含有するロジンやその誘導体の熱軟化点が、70℃以上150℃以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、ロジン及び/又はその誘導体の含有量は、良好な紡糸性、バランスの良い機械物性、耐熱性を得る観点から、0.1重量%以上20重量%以下の範囲が好ましく、より良好なヒートセット性および耐熱性を得る観点から、0.3重量%以上10重量%以下がより好ましい。なお、これらの含有量は、用途に応じて事前にテストし、適宜決定することも好ましく行われる。
【0027】
さらに、本発明で使用されるロジンやその誘導体は、適度な透明度のポリウレタン糸を得ること、および紡糸工程で熱などを受けて糸が変色することを防止する観点から、400ハーゼンカラー以下のものが好ましい。
【0028】
さらに、本発明のポリウレタン糸には、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤として、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0029】
また、本発明のポリウレタン糸には、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などにBHTや住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザーP−16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらがポリマと反応させられることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”などの熱酸化安定剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミソーブ300♯622”などの光安定剤が使用されることも好ましい。
【0030】
次に本発明のポリウレタン糸の製造方法について詳細に説明する。
【0031】
本発明においては、主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタン糸を製造するに際して、ロジン及び/又はその誘導体を含有させて紡糸する。ロジンやその誘導体は、ポリウレタンの重合段階で合わせて添加してもよいが、予めポリウレタン溶液を作製しておき、その後で添加するのが好ましい。
【0032】
ポリウレタン溶液の製法、また、溶液の溶質であるポリウレタンの製法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン糸を得やすい。また、当然のことであるが、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0033】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1800以上6000以下のPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、ジオールとしてエチレングリコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上260℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0034】
ポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0035】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節する代表的な方法は、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールすることにより達成され得る。ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができ、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0036】
ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0037】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0038】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0039】
こうして得られるポリウレタン溶液の濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0040】
本発明においては、かかるポリウレタン溶液にロジン及び/又はその誘導体を添加するのが好ましい。ロジン及びその誘導体のポリウレタン溶液への添加方法としては、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。ここで、添加されるロジン及びその誘導体は、ポリウレタン溶液への均一な添加を行う観点から、溶液にして添加することが好ましい。
【0041】
ロジン及び/またはその誘導体のポリウレタン溶液への添加の際には、前記した、例えば、耐光剤、耐酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0042】
以上のように構成した紡糸原液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0043】
本発明のポリウレタン糸の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0044】
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0045】
たとえば、本発明のポリウレタン糸のセット性と応力緩和は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。すなわち、所望のセット性と応力緩和を有するポリウレタン糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.10以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。そして、特に高いセット性と、低い応力緩和を有するポリウレタン糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.4以下の範囲がより好ましく、1.15以上1.35以下の範囲がさらに好ましい。
【0046】
一方、低いセット性と、高い応力緩和を有するポリウレタン糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.25以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましく、1.35以上1.65以下の範囲がより好ましい。
【0047】
また、紡糸速度は、得られるポリウレタン糸の強度を向上させる観点から、450m/分以上であることが好ましい。
【0048】
以上のようにして得られたポリウレタン糸は、たとえば他の繊維とともに布帛を製造する際に用いられる。布帛を製造するために、ポリウレタン糸とともに用いられる他の繊維としては、ポリアミド繊維やポリエステル繊維等が挙げられる。
【0049】
ここで、ポリアミド繊維は、ナイロン6繊維やナイロン66繊維に代表される繊維であるが、これに限定されるものではない。また、ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ジオール成分としてポリテトラメチレングリコールとエチレングリコールを主成分として含むエステル系共重合体、及び、それらのカチオン可染変性ポリエステル等のポリエステルから構成される繊維である。
【0050】
本発明のポリウレタン糸は、布帛の加工性や耐久性の観点から、これらポリアミド繊維又はポリエステル繊維とで構成される布帛であることが好ましいが、ポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系等からなる合成繊維や、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、精製セルロースからなる再生セルロース繊維や、再生タンパク繊維、半合成繊維、綿、絹、羊毛等の天然繊維素材を併用してもよい。
【0051】
また、布帛中のポリウレタン糸は、裸糸の状態で用いてもよいし、他の繊維によってカバーリングしたコアスパンヤーン、エアーカバリングヤーン、他の繊維との合撚糸、交撚糸、インターレース糸等の複合糸の状態で用いてもよい。また、ポリウレタン糸と他の繊維とから構成される布帛は、上記複合糸から構成される編織物でもよいし、もしくは、経編み、丸編み、緯編み等の製編において、他の繊維と交編することでもよい。
【0052】
布帛が編み地の場合、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダプルアトラス編み、ダブルデンビー編み等のいずれの編組織でもよいが、編地表面はポリウレタン糸以外の天然繊維、化学繊維、合成繊維で構成されていることが風合の点で好ましい。
【実施例】
【0053】
本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0054】
最初に本発明における強度、応力緩和、セット性、伸度、ヒートセット性、ヒートセット後の戻り特性の測定法を説明する。
【0055】
[強度、応力緩和、セット性、伸度]
強度、応力緩和、セット性、伸度は、試料糸をインストロン4502型引張試験機にて、引張テストをすることにより測定した。
【0056】
これらは下記により定義される。5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。このときの応力を(G1)とした。
【0057】
次に300%伸長を30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料糸の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料糸の長さを(L3)とした。
【0058】
以下、前記特性は下記式により与えられる。
【0059】
強度 =(G3)
応力緩和=100×((G1)−(G2))/(G1)
セット性=100×((L2)−(L1))/(L1)
伸度 =100×((L3)−(L1))/(L1)
[ヒートセット性]
試料糸(長さ=L5)を100%伸長した(長さ=2×(L5))。この長さのまま160℃で1分間処理した。さらに同長さで、1日室温で放置した。次に、試料糸の伸長状態をはずし、その長さ(L6)を測定した。
【0060】
ヒートセット性=100×((L6)−(L5))/(L5)
ヒートセット性は値が高いほうが良好であることを示している。
【0061】
[耐熱性、ヒートセット後の戻り特性]
ヒートセット後の戻り特性は、前記のとおりヒートセットした後の試料糸をインストロン4502型引張試験機にて、引張テストをすることにより測定した。
【0062】
これらは下記により定義される。5cm(L7)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。次に伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料糸の長さを(L8)とした。さらに6回目に試料糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G4)とした。以下、前記特性は下記式により与えられる。
【0063】
耐熱性 =(G4)
ヒートセット後の戻り特性=100×((L8)−(L7))/(L7)
耐熱性は値が高い方が優れていることを示しており、ヒートセット後の戻り特性は値が低い方が伸縮特性に優れていることを示している。
【0064】
[実施例1]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミンおよび末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体のDMAc溶液(35重量%)を調整し、ポリマ溶液A1とした。次に、荒川化学社製ロジン(品名パインクリスタル(R)KR−614、軟化点86℃)のDMAc溶液(50重量%)を25℃下で攪拌して調整し、溶液(B1)とした。さらに、米国特許第3555115号明細書に記載されているt−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタンと米国特許第3553290号に記載されているp−クレゾ−ルとジビニルベンゼンの縮合重合体の2対1重量比の混合物のDMAc溶液(35重量%)を調整し、酸化防止剤溶液C1(35重量%)とした。ポリマ溶液A1、B1、C1を92重量%、6重量%、2重量%で均一に混合し、溶液D1とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.4として490m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメント、ロジンの含有量が3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0065】
得られた糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に示した。ヒートセット性はB1未配合の比較例1に比べ、約1.6倍に増大した。また、耐熱性とヒートセット後の戻り特性は比較例1と同等であった。
【0066】
[実施例2]
ポリマ溶液A1、B1、C1を97重量%、1重量%、2重量%で均一に混合し、溶液D2とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.25として540m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメント、ロジン含有量が0.5重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0067】
得られた糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に示した。ヒートセット性はB1未配合の比較例1に比べ、約1.5倍に増大した。また、耐熱性とヒートセット後の戻り特性は比較例1と同等であった。
【0068】
[実施例3]
荒川化学社製ロジンエステル(品名パインクリスタル(R)KE−100、熱軟化点100℃)のDMAc溶液(50重量%)を調整した。調整は実施例1と同一の方法で実施した。これをロジン含有溶液B2とした。ポリマ溶液A1、B2、C1を74重量%、24重量%、2重量%で均一に混合し、溶液D3とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.25として540m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメント、ロジンエステルの含有量が12重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0069】
得られた糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に示した。ヒートセット性はB2未配合の比較例1に比べ、約1.6倍に増大した。また、耐熱性とヒートセット後の戻り特性は比較例1と同等であった。
【0070】
[実施例4]
荒川化学社製ロジン含有ジオール(品名パインクリスタル(R)D−6011、軟化点120℃)のDMAc溶液(50重量%)を調整した。調整は実施例1と同一の方法で実施した。これをB3とした。ポリマ溶液A1、B3、C1を82重量%、16重量%、2重量%で均一に混合し、溶液D4とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.25として540m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメント、ロジン含有ジオールの含有量が8重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0071】
得られた糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に示した。ヒートセット性はB3未配合の比較例1に比べ、約1.5倍に増大した。また、耐熱性とヒートセット後の戻り特性は比較例1と同等であった。
【0072】
[実施例5]
分子量2900のPTMG、MDIおよびエチレングリコールからなるポリウレタン重合原料のDMAc溶液(35重量%)を重合し、ポリマ溶液A2とした。A2、B1、C1を92重量%、6重量%、2重量%で均一に混合し、溶液D5とした。溶液D5をゴデローラーと巻取機の速度比を1.35として500m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックスの2フィラメント、ロジン含有量が3重量%であるポリウレタン糸の200g巻糸体を得た。
【0073】
得られた糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に示した。ヒートセット後の戻り特性はB1未配合の比較例2に比べて0.74倍と小さく良好であった。また、耐熱性とヒートセット性は比較例2と同等であった。
【0074】
[比較例1]
ポリマ溶液A1、C1を98重量%、2重量%で均一に混合し、溶液E1とした。溶液E1をゴデローラーと巻取機の速度比を1.25として540m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメントの200g巻糸体を得た。この糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に併せて示した。
【0075】
[比較例2]
ポリマ溶液A2、C1を98重量%、2重量%で均一に混合し、溶液E2とした。溶液E2をゴデローラーと巻取機の速度比を1.35として500m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックスの2フィラメントの200g巻糸体を得た。この糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を表1に併せて示した。
【0076】
[比較例3]
特開平11−200147号公報開示のポリビニルピロリドン(K−30)のDMAc溶液(35重量%)を調整し、これをF1とした。A1、F1、C1を78重量%、20重量%、2重量%で均一に混合し、均一溶液E4とした。溶液E4をゴデローラーと巻取機の速度比を1.25として540m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックスの3フィラメントのポリビニルピロリドン(K−30)含有量が7重量%である200g巻糸体を得た。この糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、およびヒートセット後の戻り特性を併せて表1に示した。ヒートセット性は実施例1と同等で良好であったが、耐熱性とヒートセット後の戻り特性は比較例1よりも劣る結果であった。
【0077】
[比較例4]
イーストマン社製セルロースエステル(品名テナイト(R)ブチレート、主成分セルロースアセテートブチレート、熱軟化点145℃)のDMAc溶液を、実施例1と同一の方法で調整し、セルロースエステル溶液B5(35重量%)とした。
【0078】
ポリマ溶液A1、セルロースエステル溶液B5、C1を、それぞれ78重量%、20重量%、2重量%で均一に混合し、紡糸溶液E5とした。紡糸溶液E5を、ゴデローラーと巻取機の速度比を1.25として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取ることにより、33デシテックスの3フィラメントのセルロースエステルの含有量が7重量%である200g巻糸体を得た。この糸の破断伸度、破断強度、セット性、応力緩和、ヒートセット性、耐熱性およびヒートセット後の戻り特性を併せて表1に示した。ヒートセット性は実施例5と同等で良好であったが、耐熱性は比較例1に比べてやや劣り、ヒートセット後の戻り特性は比較例1よりも大幅に劣る結果であった。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリウレタン糸は単独での使用はもとより、各種繊維との組み合わせにより、例えば、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、洋服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋や靴下等の各種繊維製品の締め付け材料、紙おしめなどサニタニー品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなど、種々の用途に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであり、かつ、ロジン及び/又はその誘導体を含有することを特徴とするポリウレタン糸。
【請求項2】
前記ロジン及び/又はその誘導体の熱軟化点が70℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン糸。
【請求項3】
前記ロジン及び/又はその誘導体の含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン糸。
【請求項4】
主構成成分がポリマージオールおよびジイソシアネートであるポリウレタン糸を製造するに際して、ロジン及び/又はその誘導体を含有させて紡糸することを特徴とするポリウレタン糸の製造方法。
【請求項5】
紡糸方法が乾式であることを特徴とする請求項4に記載のポリウレタン糸の製造方法。

【公開番号】特開2009−144267(P2009−144267A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320470(P2007−320470)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】