説明

ポリウレタン系弾性糸およびそれを用いてなる伸縮性布帛

【課題】伸度、回復性、耐熱性、及び耐薬品性に優れると同時に堅牢なカチオン染料可染性を有する、伸縮性布帛や衣服用などに好適なポリウレタン系弾性糸を提供する。
【解決手段】主構成成分がポリマージオール及びジイソシアネートであるポリウレタンからなり、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を含有するポリウレタン系弾性糸である。主構成成分がポリマージオール及びジイソシアネートであるポリウレタンの溶液にアニオン性官能基を有する化合物の重合体を添加して紡糸することによってポリウレタン系弾性糸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色堅牢度に優れたポリウレタン系弾性糸およびそれを用いてなる伸縮性布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用途に幅広く使用されている。特にポリウレタン系弾性糸は様々な用途、素材に混用して用いられており、ナイロン糸やポリエステル糸のような合成繊維だけでなく、綿やウールといった天然繊維、半合成繊維等とも組み合わされ最近ますます広範に使用されている。これらの伸縮性商品は染色されていることと同時に、使用用途に応じた染色堅牢度が良好であることが要求される。
【0003】
従来の伸縮性商品は、各種素材に応じた染色が実施され、染色堅牢度も良好であるが、ポリウレタン系弾性糸そのものは、堅牢な染色を施すことができないため着色させないのが一般的である。これは、ポリウレタン重合体が染料を吸着するための十分な官能基を持たないこと、さらには、結晶化度が低く、いったん吸収した染料を堅牢に保持できないという化学構造上の問題点があるからである。従って、ポリウレタン系弾性糸混用布帛では、実用上十分な染色堅牢度を得るために、ポリウレタン系弾性糸に汚染した染料を繰り返し洗浄することが一般的に行われている。一旦汚染した染料を繰り返し洗浄することは、大量の水やエネルギーを消費するばかりでなく、染色加工ロット別の色再現性が悪くなるという問題があった。
【0004】
一方、ポリウレタン系弾性糸が染色されていない場合、生地を伸張させた際に内部のポリウレタン系弾性糸が外に現れることで審美性や深色性が失われるため、組み合わせる繊維素材と同色に染色されていることが要望されており、特に黒などの濃色の染色布帛で用いる場合には強く要望されている。さらには、繊維製品の色彩を変化させる方法として、ポリウレタン系弾性糸と組み合わせる他素材を異なる色彩に染色することが求められている。
【0005】
これに対し、弾性繊維を染色する従来技術としては、ポリウレタン紡糸溶液中に顔料を含有させて紡糸する原着糸技術が知られている。(例えば、特許文献1参照)
しかし、このように顔料を含有させたポリウレタン系弾性糸の場合、優れた堅牢性は有するが、カラー数が限定され、非常にコストが高くなるため限られた用途にしか使用できなかった。
【0006】
また別の従来技術として、例えばポリウレタン系弾性糸にアミン類の添加剤を導入し、酸性染料や含金染料を吸着させる染色加工技術が知られている。しかし、官能基量が少ない場合は、十分な色濃度が得られず、逆にアミン類官能基量を増加させると、混用されるナイロン等の他繊維との染料吸着特性が異なるために、3原色の配合染料等で染色した場合は色違い現象を生じ、色あわせが難しいという欠点があった。
【0007】
さらに別の従来技術として、分散染料を使用した染色加工技術が知られている。分散染料はポリウレタン系弾性糸によく吸収されるが、染料吸着力が弱く、染料濃度が高い中濃色においては実用上耐久できる染色堅牢度は得られていない。むしろポリウレタン系弾性糸の分散染料防染性を求める技術が知られている。(例えば、特許文献2参照)
さらに別の従来技術として、例えば、カチオン染料可染型のポリエーテル・ポリエステルブロック共重合体弾性繊維を使用した繊維構造物が知られている。ポリエーテル・ポリエステルブロック共重合体弾性繊維は、ポリウレタン系弾性繊維と比較して原糸伸度が低く、耐熱性に劣るためほとんど使用されていない。(例えば、特許文献3参照)
【特許文献1】特公昭60-44406号公報
【特許文献2】特許第3236005号公報
【特許文献3】特公平7-68657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、堅牢なカチオン染料可染性を有するポリウレタン系弾性糸およびその混用により得られる審美性に優れた布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、前記の目的を達成するため、以下の手段を採用する。
【0010】
すなわち、原料の主構成成分がポリマージオール及びジイソシアネートであり、アニオン性官能基(末端基)を有する化合物の重合体を含有し、黒カチオン染料で染色したときにL*≦20の染着性を示すことを特徴とするポリウレタン系弾性糸である。(但し、L*は、CIE1976L*a*b*表色系による色濃度値を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、堅牢なカチオン染料可染性を有するものであるので、この弾性糸を使用した衣服などは、フィット性、着用感などに優れながら、耐変色性、外観品位、染色性にも優れるものとなる。他のカチオン染料可染型繊維との組み合わせにおいては、同色性が得られ、より深色性に優れたものになる。酸性染料可染型繊維との組み合わせにおいては、酸性染料の汚染がないため優れた染色堅牢度が得られるばかりでなく、酸性染料とカチオン染料の両方を用いて異なる色彩に染色することで、特殊な色彩をもった製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の原料ポリマーは、主構成成分がポリマージオール及びジイソシアネートであるポリウレタンであれば、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。
【0013】
例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールからなるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。なお、本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグリコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0014】
ここで、本発明で使用されるポリウレタンを構成する代表的な構造単位について述べる。
【0015】
ポリウレタンを構成する構造単位のポリマージオールとしては、ポリエーテル系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネート系ジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
【0016】
ポリエーテル系ジオールは、次の一般式(I)で表される単位を含む共重合ジオール化合物を含むことが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
(但し、a、cは1〜3の整数、bは0〜3の整数、R1、R2はH又は炭素数1〜3のアルキル基)
このポリエーテル系ジオールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール、変性ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)と3−メチル−THFの共重合体である変性PTMG、THFおよび2,3−ジメチル−THFの共重合体である変性PTMG、THFとネオペンチルグリコールの共重合体である変性PTMG、THFとエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が挙げられる。これらポリエーテル系ジオール類の1種を使用してもよいし、また2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。その中でもPTMGまたは変性PTMGが好ましい。
【0019】
また、ポリウレタン系弾性糸における耐摩耗性や耐光性を高める観点からは、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとポリプロピレンポリオールの混合物とアジピン酸等と縮重合することにより得られる側鎖を有するポリエステル系ジオールや、3,8−ジメチルデカン二酸及び/又は3,7−ジメチルデカン二酸からなるジカルボン酸成分とジオール成分とから誘導されるジカルボン酸エステル単位を含有するポリカーボネート系ジオール等が好ましく使用される。
【0020】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用されてもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用されてもよい。
【0021】
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、弾性糸にした際の伸度、強度、弾性回復性、耐熱性などを所望水準とするために、数平均分子量で1000〜8000が好ましく、1800〜6000がより好ましい。この範囲の分子量のポリマージオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復性、耐熱性に優れたポリウレタンを得ることができる。
【0022】
次に、ポリウレタンを構成する構造単位のジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ−1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン系弾性糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
次に、ポリウレタンを構成する構造単位の鎖伸長剤としては、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうち少なくとも1種以上を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0024】
低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールの低分子量としては、30〜300が好ましく、40〜200が高融点ポリウレタンを得る観点からより好ましい
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を本発明の効果を失わない程度に加えてもよい。
【0025】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものとして挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることも好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタン系弾性糸としては耐熱性が高く、また、強度の高い糸を得ることができるのである。
【0026】
また、本発明のポリウレタン系弾性糸の分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として40000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィ)で測定しており、ポリスチレンにより換算した値である。
【0027】
そして、本発明の弾性糸を構成するポリウレタンとして特に好ましいものは、工程通過性も含め、実用上の問題がなく、かつ、耐熱性に優れたものを得る観点から、ポリマージオールとジイソシアネートからなり、かつ高温側の融点が150℃以上300℃以下の範囲となるものである。ここで、高温側の融点とは、DSCで測定した際のポリウレタンまたはポリウレタンウレアのいわゆるハードセグメント結晶の融点が該当する。
【0028】
即ち、ポリマージオールとして分子量が1000以上8000以下の範囲にあるPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、鎖伸長剤としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミンからなる群から少なくとも1種選ばれたものが使用されてポリウレタンが合成され、かつ、高温側の融点が150℃以上300℃以下の範囲であるポリウレタンから製造された弾性糸は、特に伸度が高くなり、さらに上記のように、工程通過性も含め、実用上の問題がなく、かつ、耐熱性に優れるので好ましい。
【0029】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を含有するものである。このため、ポリウレタン系弾性糸とカチオン染料がイオン結合によって結合することが可能となり、本発明の効果を発揮することができる。これに対し、ポリウレタン系弾性糸中に、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を含有しない場合には、カチオン染料が染着することは困難である。
【0030】
本発明で用いるアニオン性官能基を有する化合物の重合体とは、アニオン性官能基を有する化合物を構成モノマーとして重合した化合物であれば特に制限はなく、一種の構成モノマーからなる重合体でも、他の構成モノマーを併せて有する共重合体でもよい。共重合体の場合は他の構成モノマーとアニオン性官能基を有するモノマーのモル比に特別な制限はない。
【0031】
ここでいうアニオン性官能基とは、スルホン酸基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基及びこれらの末端をカウンターカチオンである金属塩等で封鎖したものが挙げられる。ポリマー構造中にスルホン酸基等やそれらの塩類が導入されることで、布帛を構成する際に混用されるカチオン染料可染型ポリエステル繊維やアクリル繊維と染料種の吸着挙動を近似させることができ、染色性を高めることができる。中でもアニオン性官能基は、カチオン染料との反応性が高いスルホン酸基が好ましい。ポリウレタン系弾性糸にスルホン酸基を有する化合物の重合体を含有させることで、かかる弾性糸は黒カチオン染料で染色したときにより低いL*を示し易くなる。
【0032】
なお、カチオン染料を用いて染色されるポリエステル繊維やアクリル繊維は、その重合体構造中にスルホン酸基及びその塩類を含有するモノマーを一定の割合で共重合すること導入が好ましいが、本発明のポリウレタン系弾性糸においては、コストダウンを図るとともに紡糸原液の粘度を安定化し、良好な紡糸性を得るために、原料原液と相溶性のよいアニオン性官能基をもつ重合体を別に作製し、それをポリウレタンと均一に混合して導入することが望ましい。
【0033】
アニオン性官能基を有する化合物の重合体の重合法については特に制限はなく、付加重合、ホルムアルデヒド架橋を含む縮合重合などが挙げられ、例えば重合体のアニオン性を発現する重要なスルホン酸基を保護するために、出発モノマーも適宜スルホン酸塩やスルホアミドなどの前駆体を選んで、出発物質として重合し、後に、酸によってイオン交換し、スルホン酸基へ誘導することも好ましい。さらに、ポリウレタン系弾性糸の原料紡糸液の粘度を安定化し、良好な紡糸性を得て、耐薬品性の高い糸を得る観点から、スルホン酸基を有する化合物の重合体が、スルホン酸基を有する化合物およびスルホニル基を有する化合物のランダムもしくは交互共重合体であることが好ましく、さらには、紡糸速度を高める観点から分子量2000以上500000以下がより好ましい。
【0034】
本発明のポリウレタン系弾性糸中のアニオン性官能基を有する化合物の重合体の量は、染料発色が十分に得られる官能基量が含まれていればよいが、伸縮特性を考慮して0.1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。染料発色が十分に得られる官能基量としては、ポリウレタン系弾性糸中10ミリモル/キログラム以上200ミリモル/キログラム以下が好ましく、20ミリモル/キログラム以上100ミリモル/キログラム以下がより好ましい。少なすぎると十分量の染料吸着が達成できず、過剰な場合は染料発色は得られるが、ポリウレタン系弾性糸の紡糸性の悪化や弾性回復性の低下が発生する。
【0035】
さらに、本発明で使用されるアニオン性官能基を有する化合物の重合体は、ポリウレタンへの分散および溶解を速くし、製造されるポリウレタン系弾性糸の特性を目標の特性とせしめ、さらに適度な透明度のポリウレタン系弾性糸を得ることができ、さらに紡糸工程で熱などを受けた時でもアニオン性官能基を有する化合物の重合体の含有量が低下せず糸の変色も生じないという観点から、20℃でのN,N’−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す。)またはN,N’−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)の20重量%溶液の粘度が10cP以上10000P以下となる液体状で、重合体自体には着色のないものまたは少ないものが好ましい。
【0036】
さらに、本発明の原料ポリマーには、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤として、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0037】
また、本発明において、ポリウレタン系弾性糸やポリウレタン溶液中に、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)や住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA−80”(製品名)などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”(製品名)などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザーP−16”(製品名)などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらとポリウレタンとを反応させることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素捕足剤が使用されることも好ましい。
【0038】
また、乾式紡糸工程における紡糸速度を上げ易いという観点から、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物の微粒子を添加してもよい。また、耐熱性向上や機能性向上の観点から、無機物や無機多孔質(例えば、竹炭、木炭、カーボンブラック、多孔質泥、粘土、ケイソウ土、ヤシガラ活性炭、石炭系活性炭、ゼオライト、パーライト等)を、本発明の効果を阻害しない範囲内で添加してもよい。
【0039】
次に本発明のポリウレタン系弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
【0040】
本発明においては最初にポリウレタン溶液を調製するのが好ましい。ポリウレタン溶液、また、その溶液中の溶質であるポリウレタンを製造する方法は、溶融重合法、溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。中でも溶液重合法が好ましく用いられる。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少ないので、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン系弾性糸を製造しやすい。また、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0041】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1000以上8000以下のPTMGを用い、ジイソシアネートとしてMDIを用い、さらに、鎖伸長剤としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミンのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が150℃以上300℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0042】
かかるポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法や、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に溶剤に溶解し、前述の鎖伸長剤と反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0043】
鎖伸長剤に低分子量ジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を150℃以上300℃以下の範囲内とするための代表的な方法としては、ポリマージオール、MDI、低分子量ジオールの種類と比率をコントロールすることが挙げられる。例えば、ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。また、同様に低分子量ジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温側の融点が高いポリウレタンを得ることができる。ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を150℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0044】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0045】
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0046】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0047】
こうして得られるポリウレタン溶液におけるポリウレタンの濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0048】
本発明においては、かかるポリウレタン溶液に、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を添加し、ポリウレタン紡糸溶液とするのが好ましい。アニオン性官能基を有する化合物の重合体のポリウレタン溶液への添加方法は、特に限定されない。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。ここで、添加されるアニオン性官能基を有する化合物の重合体は、ポリウレタン溶液への均一な添加を行う観点から、溶液にして添加することが好ましい。
【0049】
なお、アニオン性官能基を有する化合物の重合体のポリウレタン溶液への添加により、添加後の混合溶液の溶液粘度が添加前のポリウレタンの溶液粘度に比べ予想以上に高くなる現象が発生する場合があるが、この現象を防止する観点から、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどの末端封鎖剤が1種または2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0050】
アニオン性官能基を有する化合物の重合体のポリウレタン溶液への添加の際に、前記した、例えば、耐光剤、酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0051】
そして、かかるポリウレタン紡糸溶液を紡糸して本発明のポリウレタン弾性糸を得る。
【0052】
本発明のポリウレタン系弾性糸の繊度、フィラメント数、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸は1本で構成されるモノフィラメントでもよく、また複数で構成されるマルチフィラメントでもよい。糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0053】
そして、ポリウレタン系弾性糸の紡糸方法は特に限定されるものではないが、乾式紡糸方式が好ましく用いられる。
【0054】
本発明のポリウレタン系弾性糸の強伸度特性は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。
【0055】
すなわち、所望の強伸度特性を有するポリウレタン系弾性糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。
【0056】
また、紡糸速度を高くすることによってポリウレタン系弾性糸の強度を向上させることができるので、450m/分以上の紡糸速度をとることが、実用上好適な強度水準とするために好ましい。さらに工業生産性を考慮すると、450〜1000m/分程度が好ましい。
【0057】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、例えばその他の繊維と混用されて伸縮性布帛を構成するが、かかる伸縮性布帛の形態については何ら制限されるものではなく、その混用率、組み合わせる素材繊維、混用方法は適宜選択されて公知の製造手段によって布帛化されればよい。ポリウレタン系弾性糸は、そのまま裸糸として用いてもよいし、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維ならびにアクリル繊維などの合成繊維や綿、羊毛などの天然繊維等の従来から知られている繊維の1種以上と自由に組み合わせて被覆されていたものを用いてもよい。
【0058】
また、布帛を構成するにあたりポリウレタン系弾性糸と組み合わせる繊維としては、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維に代表されるポリエステル系合成繊維、アクリル系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、アセテート繊維に代表される半合成繊維、綿や麻や羊毛に代表される天然繊維の単独品または2種以上を混合したものが好ましく使用される。
【0059】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、カチオン染料で染色可能であって、酸性染料では染色されにくい性質を有する。カチオン染料可染型繊維として知られている繊維、例えばアクリル系合成繊維、羊毛、カチオン染料可染型ポリエステル繊維等と組み合わせた布帛の場合、本発明のポリウレタン系弾性糸は同じくカチオン染料で染色できるため、1回の染色工程で同様の色相に染色することができる。また、酸性染料可染型繊維として知られている繊維、例えばポリアミド繊維、絹、羊毛等と組み合わせた場合、本発明のポリウレタン系弾性糸は酸性染料を吸着しないため、ポリウレタン系弾性糸への汚染現象が抑制され、優れた染色堅牢度が期待できる。さらには、酸性染料可染型繊維の染色色相と異なる色相でカチオン染料を用いて本発明のポリウレタン系弾性糸を染色することも可能である。
【0060】
染色の方法は、特に限定されるものではなく、低い浴比で実施される連続染色法でもよいし、液流染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、チーズ染色機などといったバッチ式の染色加工機を用いて処理することもできる。また、公知のプリント技術を用いて精細な柄を布帛にプリントしてもよい。
【0061】
本発明のポリウレタン系弾性糸を染色するには、通常のカチオン染料を用いた染色法を用いることができる。すなわち、染色温度は、80〜135℃の範囲、好ましくは100〜130℃の範囲で実施する。均染剤や、pH調整剤、浴中柔軟剤等を使用してもよいし、例えばカチオン染料可染型ポリエステル繊維との組み合わせにおいては、強度低下を防止するためにボウ硝を2〜3g/L程度添加することが好ましい。染色後は、界面活性剤を用いた洗浄工程を入れてもよい。染色に使用する染料種、化学構造は何ら制限されるものではないが、中淡色の場合は均染性の観点から分散型カチオン染料を使用することが望ましく、黒やネイビー等の濃色の場合は、色相のビルドアップ性に優れた生カチオン染料が好ましい。
【0062】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、上記構成により黒カチオン染料で染色したときに、L*≦20の染着性を示すものとなる。カチオン染料は、色濃度に優れる生カチオン染料と、工程での取り扱いに優れる分散型カチオン染料に分類され、本発明で染着性評価に用いる黒カチオン染料とは、市販されている生カチオン染料のことであり、例えば、保土谷化学(株)製染料“アイゼンカチロン”(登録商標)ブラックCD−BLH、ブラックSH200%、ブラックMH、ブラックKBH、ブラックNH200%、ブラックAWHリキッド、ブラックBHリキッド、ダイスター(株)製染料“アストラゾン”(登録商標)ブラックFDLリキッド、SW200%、ブラックSWリキッド、“ダイアクリル”(登録商標)ブラックESL−N、ブラックNSL−N200%、ブラックCSL−N200%、ブラックVS−N、ブラックSWR−Nリキッド、日本化薬(株)製“カヤクリル”(登録商標)ブラックNP200、ブラックNLが挙げられる。黒カチオン染料の染着性評価は、これらから選ばれるいずれかの染料を生地重量に対して5.0%owf使用し、pH4.5に調製した染浴で、110℃、60分の条件で染色して行うものである。実際の布帛染色においては上記以外の市販カチオン染料を適宜用いることができ、分散型カチオン染料を用いてもよいし、複数の染料を配合したものでもよい。
【実施例】
【0063】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
【0064】
本発明におけるポリウレタン系弾性糸のカチオン染料染着性の測定法を説明する。
【0065】
[評価用筒編地の作成]
ポリウレタン系弾性糸を29ゲージ1口筒編機(ポリウレタン系弾性糸の回転送り出し装置付き)を用いて50%伸張状態で編成し、ポリウレタン系弾性糸100%からなる筒編地を作成した。サンプルの前後耳部はカチオン染料の染着がない東レ(株)製ナイロンフィラメント(78デシテックス24フィラメント)を用いて少量つないで編成し、ほつれないようにした。次いで、作成した筒編地を伸張させない状態で190℃、60秒で乾熱ヒートセットを実施した。続いて本筒編地を、浴比1:20、80℃、20分の条件で、精練剤(日華化学製“サンモール”(登録商標)WX24)を0.1重量%用いて精練を実施し、原糸油剤等を除去した。
【0066】
[黒カチオン染料の染着性]
精練後のサンプルを、容量300ccのステンレス製染色ポットに入れ、浴比1:20、110℃、60分の条件で、黒カチオン染料(ダイスター(株)製染料“アストラゾン”(登録商標)ブラックFDLリキッド)を5%owf使って(株)テクサム技研製ミニカラー染色機を用いて染色した。染浴には、酢酸0.025重量%、酢酸ソーダ0.025重量%を添加しpHを4.5付近にコントロールした。こうして染色された筒編地を水洗し遠心脱水機で絞った後、伸張させない状態で160℃、60秒で乾燥し、評価用筒編地を得た。この筒編地を平面状に折り、2枚重ねの状態で分光測色計(コニカミノルタ(株)製、型式CM−3600d)を使用して測色し、CIE1976L*a*b*表色系におけるL*値を測定し、測定数3回の平均値を測定結果とした。L*値は低い方が深色性が高く、濃く染色されていることを示す。なお、L*値が16以下の場合を◎(濃染性)とし、20以下の場合を○(染着性良)、20より大きい場合を×(染着性不良)と判定した。
【0067】
[洗濯堅牢度]
JIS L―0848 A−2法に従って評価した。試験片の変退色を変退色用グレースケールを用いて判定した。
【0068】
[生地外観品位]
ポリウレタン系弾性糸を29ゲージ1口筒編機(ポリウレタン系弾性糸の回転送り出し装置付き)を用いて編成し、東レ(株)製カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維(56デシテックス24フィラメント)とポリウレタン系弾性糸(50%伸長編み込み)からなるベアー天竺生地を作製した。次いで、作製した編地を伸張させない状態で190℃、60秒で乾熱ヒートセットを実施した。続いて本筒編地を、浴比1:20、80℃、20分の条件で、精練剤(日華化学製“サンモール”(登録商標)WX24)を0.1重量%用いて精練を実施し、原糸油剤等を除去した。続いて、精練後のサンプルを、容量300CCのステンレス製染色ポットに入れ、浴比1:20、110℃、60分の条件で、ブラック染料(ダイスター(株)製染料“アストラゾン”(登録商標)ブラックFDLリキッド)を5%owfを使って(株)テクサム技研製ミニカラー染色機を用いて染色した。染浴には、酢酸0.025重量%、酢酸ソーダ0.025重量%を添加しpHを4.5付近にコントロールした。染色された編地を水洗し遠心脱水機で絞った後、伸張させない状態で160℃、60秒で乾燥し、染着性評価用筒編地を得た。この染色された筒編地を引っ張った時に見えるポリウレタン系弾性糸の色目を判定した。カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相と近似の場合を◎(目剥き無し)とし、近い場合を○(許容できる目剥き)、色相の異なる場合を×(目剥き有り)と判定した。
【0069】
[ポリウレタン系弾性糸におけるアニオン性官能基を有する化合物の重合体含有量およびアニオン性官能基量の定量方法]
まず、糸試料中のアニオン性官能基を有する化合物の重合体と糸試料中のポリウレタンを再沈殿法により分離した。まず、糸試料(A)1gにDMAc50mlを加え、糸を完全に溶解した後、エタノール100mlをゆっくりと加え、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を沈殿分離させ、蒸発乾固した。一方、沈殿物を除去したポリウレタン溶液も蒸発乾固し、糸試料中のポリウレタンをDMAcから単離した。この再沈殿を3回繰り返した。沈殿物側より単離したアニオン性官能基を有する化合物の重合体を(B)、溶液側より単離したポリウレタンを(C)とする。
【0070】
次に、(B)中のアニオン性官能基濃度を求めた。具体的には、(B)について、H−NMR等によりアニオン性官能基種を構造決定し、適する検出方法を選定し(例えば、アニオン性官能基種がスルホン酸である場合には、水酸化ナトリウムによる中和滴定法)、(B)中のアニオン性官能基濃度を定量し、アニオン性官能基濃度(α)ミリモル/キログラムを求めた。
【0071】
そして、糸試料中のアニオン性官能基を有する化合物の重合体含有量を求めた。具体的には、まず、予定された重量のアニオン性官能基を有する化合物の重合体(B)をポリウレタン(C)に含有させて、均一混合物を調整し、IRスペクトル分析測定から検量線を作成した。アニオン性官能基種がスルホン酸である場合には、その手順は(B)と(C)の合計重量中、(B)重量が0重量%、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%、20重量%である試料を作製し、それら6点それぞれのIRスペクトルにおけるν(CO)1700cm-1〜1800cm-1とν(SO)630〜670cm-1のピーク面積比(X)を求めた。IRスペクトル測定にはパーキンエルマー社製FT−IRを、またその測定サンプルはDMAcによるキャストフィルムを使用した。そして、ピーク面積比(X)に対するアニオン性官能基を有する化合物の重合体含有率(重量%)の検量線を作成し、その傾き(β)と切片(γ)を得た。その後、標的の糸試料(A)中のアニオン性官能基を有する化合物の重合体含有量を求めるために、改めて、糸試料(A)をn−ヘキサンで洗浄後、前述と同様に、キャストフィルムを作成し、IRスペクトルを測定した。得られたスペクトルにおいてν(CO)1700cm-1〜1800cm-1とν(SO)630〜670cm-1のピーク面積比(Xs)を求めた。
【0072】
糸試料中のアニオン性官能基を有する化合物の重合体含有量(重量%)=(Xs−γ)/β
糸試料中のアニオン性官能基量(ミリモル/キログラム)=((Xs−γ)/β)×α
[実施例1]
分子量2900のPTMG、MDIおよびエチレングリコールからなるポリウレタン重合体(a1)のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A1とした。次に、アニオン性官能基を有する化合物の重合体として、以下の化学式(II)に示すフェノールスルホン酸と4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホンのモル比20対80(含有モル濃度20%)のホルムアルデヒド縮重合体(b1)を用い、そのDMAc溶液を調製した。その調製には、水平ミルWILLY A.BACHOFEN社製DYNO−MIL KDLを用い、85%ジルコニアビーズを充填、50g/分の流速の条件で均一に微分散させて、アニオン性官能基を有する化合物の重合体のDMAc溶液B1(35重量%)とした。
【0073】
ポリマ溶液A1、アニオン性官能基を有する化合物の重合体の溶液B1を、それぞれ97重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液C1とした。この紡糸溶液C1をゴデローラーと巻取機の速度比1.4として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20dtex、モノフィラメント、アニオン性官能基を有する化合物の重合体の含有量が3重量%であるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量(アニオン性官能基を有する化合物(原料)の官能基量と含有量から算出した糸重量対比の計算官能基量)はスルホン酸基モル量から、24ミリモル/キログラムであった
また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は23ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、極めて良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相と近似し、目剥き無しという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0074】
【化2】

【0075】
[実施例2]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミン、および末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体(a2)のDMAc溶液(35重量%)を常法により重合し、ポリマ溶液A2とした。次に、このDMAc溶液A2、実施例1で調製したアニオン性官能基を有する化合物の共重合体溶液B1を、それぞれ、98.5重量%、1.5重量%で均一に混合し、紡糸溶液C2とした。この紡糸溶液C2をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメント、アニオン性官能基を有する化合物の共重合体の含有量が1.5重量%であるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0076】
得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸基モル量から、12ミリモル/キログラムであった。得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は10ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4―5級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相に近い、許容できる目剥きという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0077】
[実施例3]
アニオン性官能基を有する化合物の重合体として化学式(III)に示すもの(b2)を用い、そのDMAc溶液を調製した。その調製には、水平ミルWILLY A.BACHOFEN社製DYNO−MIL KDLを用い、85%ジルコニアビーズを充填、50g/分の流速の条件で均一に微分散させて、アニオン性官能基を有する化合物の重合体のDMAc溶液B2(35重量%)とした。
【0078】
実施例2と同様に調製したDMAc溶液A2、アニオン性官能基を有する化合物の重合体の溶液B2を、それぞれ、97.0重量%、3.0重量%で均一に混合し、紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメント、アニオン性官能基を有する化合物の共重合体の含有量が3.0重量%であるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0079】
得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸基モル量から、150ミリモル/キログラムであった。また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は135ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、極めて良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相と近似し、目剥き無しという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0080】
【化3】

【0081】
[実施例4]
アニオン性官能基を有する化合物の重合体として、以下の化学式(IV)に示すもの(b3)を用い、そのDMAc溶液を調製した。アニオン性官能基を有する化合物の重合体をb3とした以外は実施例3と同一の方法で20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメントであるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0082】
得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸基モル量から、172ミリモル/キログラムであった。また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は156ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、極めて良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相と近似し、目剥き無しという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0083】
【化4】

【0084】
[実施例5]
アニオン性官能基を有する化合物の重合体として、以下の化学式(V)に示すもの(b5)を用い、そのDMAc溶液を調製した。アニオン性官能基を有する化合物の重合体をb5とした以外は実施例3と同一の方法で20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメントであるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0085】
得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸ナトリウム塩モル量から、51ミリモル/キログラムであった。また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は45ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、極めて良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相と近似し、目剥き無しという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0086】
【化5】

【0087】
[実施例6]
アニオン性官能基を有する化合物の重合体としての、上記官能基b5の含有量を少なくした以外は実施例5と同一の方法で20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメントであるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0088】
得られたポリウレタン系弾性糸の組成(重量%)は表1のとおりであった。計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸ナトリウム塩モル量から、26ミリモル/キログラムであった。また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は25ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸の黒カチオン染料の染着性を評価した結果、良好な染着性を示し、かつ洗濯堅牢度は変退色4―5級と良好な結果を得た。さらに外観品位を評価した結果、カチオン可染性共重合ポリエステル系繊維との色相に近い、許容できる目剥きという判定であり、外観品位に優れたものであった。
【0089】
[比較例1]
実施例1で調製したポリマ溶液A1を100%使用した紡糸溶液を用い、ゴデローラーと巻取機の速度比を1.40として540m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、モノフィラメントのポリウレタン系弾性糸を作製した。
【0090】
アニオン性官能基は存在せず、このポリウレタン系弾性糸は全く黒カチオン染料の染着性を示さなかった。さらに生地による外観品位を評価した結果、目剥き有りという判定であり、外観品位に劣るものであった。
【0091】
[比較例2]
実施例2で調製したポリマ溶液A2を100%使用した紡糸溶液を用い、ゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメントであるポリウレタン系弾性糸を作製した。
【0092】
アニオン性官能基は存在せず、このポリウレタン系弾性糸は全く黒カチオン染料の染着性を示さなかった。さらに生地による外観品位を評価した結果、目剥き有りという判定であり、外観品位に劣るものであった。
【0093】
[比較例3]
実施例2で調製したポリマ溶液A2をベースポリマーとし、スルホン酸基を有する化合物の共重合体として、市販のナイロン用合成染料固着剤(オージー(株)製“ハイフィックス”(登録商標)GM、b4)を用い、そのDMAc溶液を調製した。それぞれ、97重量%、3重量%で均一に混合し、紡糸溶液C3とした。この紡糸溶液C3をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメント、アニオン性官能基を有する化合物の共重合体の含有量が3重量%であるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0094】
計算上のアニオン性官能基量は不明であるが、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は10ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸はほとんど黒カチオン染料の染着性を示さなかった。さらに生地による外観品位を評価した結果、目剥き有りという判定であり、外観品位に劣るものであった。
【0095】
[比較例4]
実施例2で調製したポリマ溶液A2をベースポリマーとし、アニオン性官能基を有する化合物の共重合体として、実施例5および実施例6で用いたb5を用い、そのDMAc溶液を調製した。それぞれ、99重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸溶液C4とした。この紡糸溶液C4をゴデローラーと巻取機の速度比を1.20として600m/分の紡糸速度で乾式紡糸して巻取り、20デシテックス、2フィラメントのマルチフィラメント、アニオン性官能基を有する化合物の共重合体の含有量が1重量%であるポリウレタン系弾性糸(200g巻糸体)を作製した。
【0096】
計算上のアニオン性官能基量はスルホン酸ナトリウム塩モル量から、17ミリモル/キログラムであった。また、得られたポリウレタン系弾性糸から定量したアニオン性官能基量は15ミリモル/キログラムであった。このポリウレタン系弾性糸は十分な黒カチオン染料の染着性を示さなかった。さらに生地による外観品位を評価した結果、目剥き有りという判定であり、外観品位に劣るものであった。
【0097】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリウレタン系弾性糸は、その伸長回復特性を失うことなく、堅牢なカチオン染料可染性を有するものであるので、この弾性糸を使用した衣服などは、耐変色性、外観品位、染色性、フィット性、着用感などに優れたものとなる。これらの優れた特性を有することから、本発明のポリウレタン系弾性糸は単独での使用はもとより、各種繊維との組み合わせにより、優れた伸縮性布帛を得ることが可能で、編成、織成、紐加工に好適である。
【0099】
カチオン染料可染型繊維との組み合わせにおいては、同色性が得られ、より深色性に優れたものになる。酸性染料可染型繊維との組み合わせにおいては、酸性染料の汚染がないため優れた染色堅牢度が得られるばかりでなく、酸性染料とカチオン染料の両方を用いて異なる色彩に染色することで、特殊な色彩をもった製品を得ることができる。その使用可能な具体的用途としては、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋等の各種繊維製品、さらには、紙おしめなどサニタリー用品の漏れ防止用締め付け材料、防水資材の締め付け材料、似せ餌、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の主構成成分がポリマージオール及びジイソシアネートであり、アニオン性官能基を有する化合物の重合体を含有し、黒カチオン染料で染色したときにL*≦20の染着性を示すことを特徴とするポリウレタン系弾性糸。(但し、L*は、CIE1976L*a*b*表色系による色濃度値を表す。)
【請求項2】
アニオン性官能基の含有量がポリウレタン系弾性糸中10ミリモル/キログラム以上200ミリモル/キログラム以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン系弾性糸。
【請求項3】
アニオン性官能基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン系弾性糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン系弾性糸とその他の繊維を混用してなることを特徴とする伸縮性布帛。

【公開番号】特開2009−24320(P2009−24320A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156274(P2008−156274)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】