説明

ポリエステルの製造方法およびポリエステル

【課題】 耐湿熱性および色調が良好なポリエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステルを製造するに際して、重縮合反応終了後のポリマーに0.1〜10質量%のエチレンカーボネートオリゴマーを添加し、溶融混練することにより、耐湿熱性に優れ、色調が良好であるポリエステルの安定的な製造方法が提供される。オートクレーブ又はスチーム等による高温滅菌の繰り返しにも耐えうる、医療用や食品・バイオ産業向けのユニフォーム用途に好適な繊維用ポリエステルが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿熱性が良好であり、オートクレーブ又はスチーム等による高温滅菌の繰り返しにも耐えうる、医療用や食品・バイオ産業向けのユニフォーム用途に好適な繊維用ポリエステルの製造方法、およびその製造方法により得られたポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた諸物理的性質を有しており、衣料用途をはじめ幅広い用途に使用されているが、病院等においては、布帛に対し、相対湿度100%、115℃での滅菌処理が施されていたが、近年、耐熱性細菌の問題から、さらに高温での滅菌処理を数十回も繰り返すという過酷な滅菌処理が要求されるようになってきた。また、バイオ産業の発展により、上記のような過酷な滅菌処理を要求する用途は広がりつつある。
【0003】
しかしながら、衣料用のポリエステル繊維では、これまで120〜135℃で約1時間程度の染色処理工程に耐え得るだけの耐湿熱性を有していれば十分であったが、たとえば、湿度100%、温度135℃以上で25分間の処理を50〜70回もの多数回繰り返すような過酷な滅菌処理に耐えられるものは無かった。
【0004】
また一方、ドライカンバスやタイヤコード等に用いられる産業資材用ポリエステル繊維については、過酷な高温多湿状態での使用が前提となっており、それに耐え得るよう早くから耐湿熱性を改善するための検討がなされてきた。
【0005】
耐湿熱性を改善するための代表的な方法としては、カルボジイミド化合物を添加して、カルボキシル末端基の封鎖を行うことにより、耐湿熱性の改善されたポリエステル繊維を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、カルボジイミド化合物を添加したポリエステルは色調が悪く、色調が重要な要求特性となる衣料用途への使用は困難であった。
【0007】
また、ポリエステルの固相重合によりカルボキシル末端基濃度を低減する方法も提案されているが、均質なプレポリマーを安定的に得ることは困難であった。すなわち、プレポリマーの粘度や末端基濃度がわずかでも異なると、固相重合速度ならびに末端基濃度の減少速度が著しく変化するため、均質な樹脂を安定的に得ることは困難である。
【特許文献1】特公平1-15604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐湿熱性に優れ、色調が良好であるポリエステルの安定的な製造方法、およびその方法により得られるポリエステルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決しようとするものであり、その要旨は、次の通りである。
(1)テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステルを製造するに際して、重縮合反応終了後のポリマーに0.1〜10質量%のエチレンカーボネートオリゴマーを添加し、溶融混練することを特徴とするポリエステルの製造方法。
(2)上記(1)に記載された製造方法により得られる、末端カルボキシル基の量が10当量/トン以下であるポリエステル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐湿熱性に優れ、色調が良好であるポリエステルの安定的な製造方法、およびその方法により得られるポリエステルが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるポリエステルを構成する酸成分としては、テレフタル酸(以下、TPAと略す)またはこれを主体とする芳香族ジカルボン酸、ジオール成分としてエチレングリコール(以下、EGと略す)が用いられる。
【0013】
本発明の目的を損なわない程度であれば、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、 1,5-ペンタメチレンジオール、 1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAまたはビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を共重合成分として併用してもよい。
【0014】
本発明におけるエチレンカーボネートオリゴマーの投入量は、生成するポリエステルの0.1〜10質量%とすることが必要である。0.1質量%未満であるとカルボキシル末端基濃度の低減効果が小さく、10質量%を超えると、得られるポリエステルの機械的特性や熱的特性が低下し、通常のポリエチレンテレフタレート繊維の製糸条件では紡糸・延伸等が困難となる。
【0015】
本発明におけるエチレンカーボネートオリゴマーの重合度は特に限定されないが、3〜10であることが望ましい。
【0016】
エチレンカーボネートオリゴマーの重合度が3未満の場合には、沸点が低いため、ポリエステルを溶融重合法で製造する際の260℃以上の高温下では揮発量が多くなり、カルボキシル末端低減効果が著しく小さくなる。また、重合度が10を超える場合には、溶融ポリマーの粘度が上昇し、ポリエステルの十分な溶融混練が行えないので好ましくない。
【0017】
本発明において、エチレンカーボネートオリゴマーを投入した後の溶融重合の時間は特に限定されないが、30分以上溶融保持することが望ましい。
【0018】
溶融重合の時間が30分未満であると、ポリエステルの溶融混練が不十分となり、後工程のストランド状での払い出し時にストランドが切断して操業性が悪くなる場合がある。また、溶融重合時間は得られるポリエステルの熱安定性等を考慮すると240分以内が好ましい。また、必要に応じて、攪拌下で減圧を行うと、脱泡反応がスムーズに行われるため好ましい。
【0019】
本発明におけるポリエステルの重縮合反応は、重縮合触媒の存在下で行われ、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト等の金属の化合物を1種類または2種類以上併用しても差し支えない。
【0020】
本発明のポリエステルには、目的を損なわない範囲において、ヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上含有させてもよい。
【0021】
本発明のポリエステルの製造方法としては、例えば次のようにして行うことができる。
【0022】
ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、PETオリゴマーと略す)の存在するエステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールのスラリーを投入し、温度200〜290℃、圧力0.01〜0.5MPaの条件で反応させ、エステル化反応率が90〜95%のエステル化反応物を得る。
【0023】
これを、重縮合反応缶へ移し、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルの全酸成分1モルに対し、1×10−5〜1×10−2モル添加し、その後、重縮合反応缶を徐々に減圧にして、最終的に0.01〜60hPa程度の圧力下で、温度240〜310℃、好ましくは260〜290℃で重縮合反応を行う。その重縮合反応後にエチレンカーボネートオリゴマーを生成するポリエステルの0.1〜10質量%を投入する。その後、必要に応じて減圧脱泡等を行い、ストランド状に払い出して、冷却カットすることによりペレット化する。
【0024】
本発明におけるポリエステルの極限粘度[η]は0.55以上であることが好ましい。[η]が0.55未満の場合には紡糸・延伸が困難となり、仮に製糸できても、糸条の強度が不足し実用に供することができない場合がある。
【0025】
また、本発明におけるポリエステルの末端カルボキシル基の量が10当量/トン以下であることが好ましい。末端カルボキシル基量が10当量/を上回ると、過酷な湿熱条件下で使用する場合、耐湿熱性が不足する場合がある
【実施例】
【0026】
次に、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0027】
なお、特性値等の測定、評価方法は、次の通りである。
(a)極限粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
【0028】
ポリエステルの[η]は0.55以上を合格とした。
(b)カルボキシル末端基量(COOH)
ポリエステルをベンジルアルコールに溶解して、0.1規定の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。(10当量/トン以下を合格とした。)
(c)色調
日本電色工業社製の色差計ND-Σ80型を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系(+は黄味、−は青味)を表す。ポリエステルの色調としてはL値が大きいほど、a値が0に近いほど、また極端に小さくならない限りb値が小さいほど良好である。ここでは、b値が4.0以下を色調良好で合格とした。
(d)耐湿熱性
ポリエステルを常法により糸条にした後、そのサンプルを120℃の飽和水蒸気で10日間処理した後の未処理サンプルに対する[η]保持率で評価した。(90%以上を合格とした。)
実施例1
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEGのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
【0029】
このPETオリゴマー60kgに、重合触媒として、三酸化アンチモンをポリエステルの酸成分1モルに対して2×10−4モル、艶消し剤として二酸化チタンを全ポリマー量に対して0.4質量%を加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で3.5時間重縮合反応を行った。そして、系内を窒素ガスで常圧にもどし、重合度3〜7の分布を有するエチレンカーボネートオリゴマーを1.8kg(ポリエステルの3質量%)投入した後、30分間攪拌しながら、280℃で溶融保持した。この時、1.5hPaに減圧して脱泡を同時に行った。
【0030】
その後、常法によりストランド状に払出し、チッピングした。
【0031】
得られたポリエステルは、[η]が0.75、COOHが7.0当量/トン、b値が2.9であった。
【0032】
次いで、このポリエステルを常法により乾燥した後、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸温度295℃で溶融紡糸し、3200m/分の速度で半未延伸糸を巻き取った。この半未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら1.5倍に延伸、熱処理して巻き取ることにより、84dtex/36Fのポリエステルフィラメントヤーンを得た。
【0033】
得られたポリエステル繊維を120℃の飽和水蒸気で10日間処理した後の[η]保持率は94%であり、優れた耐湿熱性を有していた。結果を表1に示す。
実施例2〜3、比較例1〜3
エチレンカーボネートオリゴマー投入量を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

実施例1〜3では、色調、耐湿熱性共に良好なポリエステルを得られた。
【0035】
比較例1では、エチレンカーボネートオリゴマーを投入しなかったため、得られたポリエステル繊維の耐湿熱性は悪かった。([η]保持率は60%であった。)
比較例2では、エチレンカーボネートオリゴマーの投入量が少なかったため、得られたポリエステル繊維の耐湿熱性は悪かった。([η]保持率は78%であった。)
比較例3では、エチレンカーボネートオリゴマーの投入量が多すぎたため、色調も悪く、またポリマーが脆いため製糸できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステルを製造するに際して、重縮合反応終了後のポリマーに0.1〜10質量%のエチレンカーボネートオリゴマーを添加し、溶融混練することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された製造方法により得られる、末端カルボキシル基の量が10当量/トン以下であるポリエステル。

【公開番号】特開2006−63217(P2006−63217A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248415(P2004−248415)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】