説明

ポリエステルの製造法

【課題】重縮合工程で留出したオリゴマーによる配管の閉塞がなく、オリゴマーを効率的に系外へ除去することで、ポリエステルを生産性よく得ることができるポリエステルの製造法を提供する。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとからエステル化工程及び重縮合工程を経てポリエステルを製造するに際し、重縮合工程で発生した留出液に、原料として使用したアルキレングリコールと同一のアルキレングリコールをオリゴマー濃度が3質量%以下となるように投入してオリゴマーを溶解させた後、留出液を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとからポリエステルを生産性よく製造するポリエステルの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとからなるポリエステルは、繊維、フィルム、成形品など各種材料に用いられている。
【0003】
しかし、このポリエステルには、重縮合工程時に炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とアルキレングリコールからなるオリゴマーが副生し、それらが留出系へ留出するが、重縮合反応時もしくは重縮合反応終了後に、オリゴマーを含む留出液を系外へ除去しようとしても、固形化したオリゴマーによって配管の閉塞が起こるなど、生産性に問題があった。(例えば、特許文献1参照)

【特許文献1】特開2000−302726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題を解決し、重縮合工程で留出したオリゴマーによる配管の閉塞がなく、オリゴマーを効率的に系外へ除去することで、ポリエステルを生産性よく得ることができるポリエステルの製造法を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、重縮合工程で留出したオリゴマーを、留出系内に原料として使用したアルキレングリコールと同一のアルキレングリコールを加える方法で、留出系内での閉塞が発生せずに系外へ除去できることを見出して本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとからエステル化工程及び重縮合工程を経てポリエステルを製造するに際し、重縮合工程で発生した留出液に、原料として使用したアルキレングリコールと同一のアルキレングリコールをオリゴマー濃度が3質量%以下となるように投入してオリゴマーを溶解させた後、留出液を除去することを特徴とするポリエステルの製造法。
(2)アルキレングリコールをオリゴマー濃度が3質量%以下となるように投入した留出液を、留出系内で循環させてオリゴマーを溶解させる上記(1)記載のポリエステルの製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、重縮合工程で発生した留出液に、原料として使用したアルキレングリコールと同一のアルキレングリコールをオリゴマー濃度が3質量%以下となるように投入してオリゴマーを溶解させた後、留出液を除去するので、重縮合工程で留出したオリゴマーによる留出系の配管の閉塞がなく、オリゴマーが効率的に系外へ除去されるので、ポリエステルを生産性よく得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとのエステル化反応により、その低重合体を得るエステル化工程と、前記低重合体から所望の重合度のポリエステルを得る重縮合工程との2工程によるポリエステルの製造法に適用される。
【0009】
すなわち、上記の両成分を用いてポリエステルを製造する際に副生するオリゴマーは、留出液中に含有される程度のアルキレングリコールに対しては濃度的に溶解性が悪く、重縮合工程で留出したオリゴマーによって留出系の配管が閉塞しやすいため、ポリエステルの生産性が低下する。そこで、上記の工程に本発明を適用することによって、オリゴマーによる留出系の配管の閉塞を防止し、ポリエステルの生産性を向上させようとするものである。
【0010】
まず、本発明に用いられるジカルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主体とするものである。芳香族ジカルボン酸としては、必要とする樹脂特性やコスト等の理由から、主としてテレフタル酸とイソフタル酸が用いられる。必要に応じて、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のその他の芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。また、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸等を用いることができる。芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜10の脂肪族ジカルボン酸の他に、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体を使用することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、(無水)マレイン酸、フマル酸、ドデセニル無水コハク酸、テルペン−マレイン酸付加体等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びその誘導体を用いることができる。
【0011】
次に、アルキレングリコール(以下、グリコールと称することがある。)としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールを主体とするものを使用することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等を併用してもよい。さらに、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上のポリオールを少量併用することもできる。
【0012】
本発明における、エステル化工程は、例えば芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、酸成分に対し1.01〜2.0 倍モルのグリコール成分とを200 〜280 ℃で約2〜10時間常圧下で反応させることにより行い、低重合体を得る。エステル化工程で生成する水は分離塔を通して留去させるが、エステル化工程においては、オリゴマーの留出系への留出は見られない。
【0013】
また、エステル化反応を行う際に、公知のエステル化触媒や重縮合触媒、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、臭素化合物、リン化合物のような難燃剤等の添加物を共存させてもよい。
【0014】
次に、重縮合工程は 例えば200〜290 ℃の温度で所望の重合度(通常30〜200)となるまで減圧下で行われる。重縮合触媒として、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、スズ、亜鉛等の化合物から選ばれた触媒の存在下に行われ、必要に応じてリン酸、亜リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の安定剤が併用される。
【0015】
重縮合工程においては、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分とグリコール成分からなるオリゴマーが、反応缶より重縮合反応で生じるグリコールとともに減圧ライン(留出系)へと留出するが、重縮合反応時もしくは重縮合反応終了後に、減圧ライン中で冷却され、オリゴマーがグリコール中に溶解しきれず、固形化して配管等に溜まるなどして、減圧不良を引き起こしたり、留出したグリコール液を系外へ排出する際に、配管の閉塞を引き起こし、ポリエステルの生産性が低下する。
【0016】
本発明では、オリゴマーが減圧ライン中の配管で固化して閉塞を引き起こさないように、原料として使用したグリコールと同一のグリコールを、原料として複数種のグリコールを使用した場合には、主成分のグリコールと同一のグリコールを、留出したグリコール液にオリゴマー濃度が3質量%以下、好ましくは1〜2%となるように混合し、オリゴマーを溶解させることが必要である。オリゴマーを溶解させる際には、例えば温度60〜120℃、0.5〜2時間程度で留出系内で循環させてオリゴマーを溶解させることが好ましい。
【0017】
グリコール液中のオリゴマー濃度を3質量%以下とすることで、減圧ライン中で0℃まで冷却されても、オリゴマーの固形化を防ぐことができ、グリコール溶液として減圧ラインより移送して廃棄タンク等に除去できるため、配管の閉塞を防ぐことが可能となる。グリコール液中のオリゴマー濃度が3質量%より高いと、減圧ライン中で冷却されてオリゴマーがグリコール中に溶解しきれずに固形化し、減圧ライン中の配管が閉塞しやすくなり、ポリエステルの生産性が低下する。
【0018】
なお、留出したグリコール液中におけるオリゴマー濃度の測定は、グリコールの投入を重縮合反応終了後に行なう場合には、留出液を採取して行なえばよく、グリコールの投入を重縮合反応時に行なう場合には、あらかじめ推定したオリゴマー濃度を採用してグリコールの投入を行なえばよい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は、次のようにして測定した。
(a)留出液中のオリゴマー濃度
留出液に、留出液の3倍量となる純水を加えてオリゴマーを析出させ、フィルターで濾過し、フィルター上のオリゴマー(乾燥後)の質量よりオリゴマー濃度を求めた。
(b)不溶成分の質量
留出液にグリコールを投入した後の溶液300gを300メッシュのフィルターで濾過し、フィルター上の不溶成分(乾燥後)の質量を求めた。
(c)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合溶媒中、20℃で測定した溶液粘度より求めた。
【0020】
(実施例1)
セバシン酸100モル(20.2kg)、イソフタル酸150モル(24.9kg)、エチレングリコール312モル(19.4kg)をエステル化反応槽に仕込み、圧力0.3MPaG、温度240℃、窒素雰囲気下で4時間エステル化反応を行った。得られたエステル化物を重縮合反応槽に移送した後、テトラブチルチタネート5.3×10−4モル/酸成分1モル(45g)添加し、0.5hPaに減圧し、260℃で4時間重縮合反応を行い、極限粘度0.82dl/gのポリエステルを得た。
【0021】
この反応により5.1kgの留出液が留出した。留出系にエチレングリコール40kgを投入し、オリゴマー濃度を1.3質量%として、80℃の温度で1時間溜出系内を循環させ、不溶成分をエチレングリコール中に溶解させた後、留出系外に排出・除去したが、配管の閉塞はなかった。また、留出系よりエチレングリコール溶液300gを容器に取り出し、0℃まで冷却した後、フィルターで濾過したが、不溶成分はなかった。
【0022】
(実施例2)
酸成分をアゼライン酸83モル(15.7kg)、イソフタル酸167モル(27.7kg)、グリコール成分を2−メチル−1,3−プロパンジオール322モル(29.3kg)として実施例1と同様に反応を行い、極限粘度0.82dl/gのポリエステルを得た。
【0023】
この反応により8.3kgの留出液が留出した。留出系に2−メチル−1,3−プロパンジオール40kgを投入し、オリゴマー濃度を1.3質量%として、80℃の温度で1時間溜出系内を循環させ、不溶成分を2−メチル−1,3−プロパンジオール中に溶解させた後、留出系外に排出・除去したが、配管の閉塞はなかった。また、留出系より2−メチル−1,3−プロパンジオール溶液300gを容器に取り出し、0℃まで冷却した後、フィルターで濾過したが、不溶成分はなかった。
【0024】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でポリエステルを得た後、留出液中のオリゴマーをエチレングリコール10kgで溶解し、留出液中のオリゴマー濃度を4.1質量%とした。
しかし、エチレングリコールの投入量が少なくてオリゴマー濃度が3質量%より高いため、留出系外に排出・除去しようとしたが、配管が閉塞した。また、0℃における溶液300g中の不溶成分の量は1.2gであった。
【0025】
(比較例2)
実施例1と同様の方法でポリエステルを得た後、2−メチル−1,3−プロパンジオール40kgで溶解し、オリゴマー濃度を1.3質量%となした。
しかし、留出液中に投入するグリコール成分として、原料に使用したエチレングリコールではなく、2−メチル−1,3−プロパンジオールを使用したため、オリゴマーが完全に溶けきらず、留出系外に排出・除去しようとしたが、配管が閉塞した。また、0℃における溶液300g中の不溶成分の量は1.5gであった。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸及び炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2〜8のアルキレングリコールとからエステル化工程及び重縮合工程を経てポリエステルを製造するに際し、重縮合工程で発生した留出液に、原料として使用したアルキレングリコールと同一のアルキレングリコールをオリゴマー濃度が3質量%以下となるように投入してオリゴマーを溶解させた後、留出液を除去することを特徴とするポリエステルの製造法。
【請求項2】
オリゴマー濃度が3質量%以下となるようにアルキレングリコールを投入した留出液を、留出系内で循環させてオリゴマーを溶解させる請求項1記載のポリエステルの製造法。







【公開番号】特開2009−197187(P2009−197187A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42916(P2008−42916)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】