説明

ポリエステルフィラメント

【課題】本発明は、優れた耐湿熱性能を有し、製糸性よく、操業性よく生産することができ、糸質性能が良好で、表面平滑性にも優れるポリエステルフィラメントを提供しようとするものである。
【解決手段】イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を含有するポリエステルからなるフィラメントであって、相対粘度が1.40以上、カルボキシル末端基量が15.0eq/t以下であることを特徴とするポリエステルフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業資材用フィラメント、特にベルト布、フィルター等に好適な優れた耐湿熱性能を有するポリエステルフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメントは優れた物理的性質を有し、産業資材用フィラメント、特に抄紙カンバスやベルト布あるいはフィルターに好適に使用されている。しかし、産業資材用フィラメントは使用される環境が過酷であり、比較的短期間にフィラメントの劣化が起こり使用できなくなることがある。
【0003】
例えば、ポリエステルフィラメントを用いた抄紙カンバスは、抄紙プレスゾーン並びにその後の乾燥ゾーン等の工程に使用されるため、高温多湿状態にさらされる。そのため、水、熱、水蒸気の影響により、ポリエステルフィラメントが熱及び加水分解劣化を起こし、使用できなくなることが知られている。
【0004】
水、水蒸気によるポリエステルの加水分解は、水分子のエステル結合部分への攻撃によって分解し、カルボキシル基と水酸基が形成され、ポリマー鎖の分裂が起こり、加水分解劣化が進行していく。さらに、これにより形成されたカルボキシル末端基は、ポリエステルの加水分解反応の触媒的な役割を担い、カルボキシル末端基量の増加に伴い、その加水分解速度は加速される。特に、熱が加わると加水分解は促進される。
【0005】
そこで、熱加水分解に対する対応策としてカルボキシル末端基量の少ないポリエステルとすることにより、フィラメントの耐湿熱性能を改良する方法が採用されている。例えば、特許文献1、特許文献2には、カルボジイミド化合物を添加し、カルボキシル末端基の封鎖を行うことによって、耐湿熱性能が改善されたポリエステルフィラメントを得る方法が開示されている。しかしながら、ポリエステルフィラメント中のカルボキシル末端基量を低減させるだけでは、耐湿熱性能を長期間にわたって持続させることは困難であった。
【0006】
また、特許文献3には、ポリエステルにポリオレフィン及びカルボジイミドを含有させ耐湿熱性能を向上させる方法が開示されている。しかし、ポリエステルに通常のポリオレフィンを配合すると、相分離を起こしやすく、フィラメントがフィブリル化したり、糸質物性が低下したりするという問題点があった。
【0007】
そこで、上記の問題を解決するために、特許文献4には、ポリオレフィンとして、反応性の官能基であるメタクリル酸グリシジル成分を導入したものを用い、さらにポリエステル及びエチレン成分とメタクリル酸グリシジル成分との共重合体に対して相溶性を有する、エチレン成分とアクリル酸エステル成分との共重合体を相溶化剤として添加することにより、糸中の残存カルボジイミド量をアップした耐湿熱性モノフィラメントが提案されている。
【0008】
このポリオレフィンは、メタクリル酸グリシジル基がポリエステルの末端カルボキシル基と反応するため、ポリエステルとの相分離を低減させることができ、フィブリル化を抑制しながら耐湿熱性に優れたモノフィラメントが得られる。しかしながら、さらに耐湿熱性を向上させるためにメタクリル酸グリシジル成分の共重合比を高くしたポリオレフィンを用いると、ポリエステルとの反応が進行しすぎる結果、溶融粘度の上昇が顕著となり、ポリマーに溶融粘度斑が生じ、製糸性が悪くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平1-15604号公報
【特許文献2】特開平4-289221号公報
【特許文献3】特開平7-258542号公報
【特許文献4】特開平11−323661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、優れた耐湿熱性能を有し、製糸性よく操業性よく生産することができ、糸質性能が良好で、表面平滑性にも優れるポリエステルフィラメントを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討した結果、イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を併用することによりポリエステルに優れた耐湿熱性が発現することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を含有するポリエステルからなるフィラメントであって、相対粘度が1.40以上、カルボキシル末端基量が15.0eq/t以下であることを特徴とするポリエステルフィラメントを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステルフィラメントは、優れた耐湿熱性能を長期間にわたって保持することができ、強度、伸度等の糸質性能及び表面平滑性が良好で、かつ、製糸性よく生産することが可能であり、産業資材用フィラメント、特に工業用織物である抄紙用カンバス糸、ベルト布、フィルター等として好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルは、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルを用いることができる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリ−α−ヒドロキシ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリ−(β−ヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ吉草酸)などのポリ−β−ヒドロキシアルカノエート、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリ−ε−カプロラクトンなどのポリ−ω−ヒドロキシアルカノエートなどが挙げられる。
【0015】
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体としたポリエステルが挙げられ、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0016】
中でも、本発明のポリエステルフィラメントは高温での湿熱処理に対する耐久性の高いものとするため、用いるポリエステルは融点が155℃以上のものが好ましい。コスト、強伸度特性等を考慮すると、ポリエステルとしてはPETを主体とするポリエステルを用いることが好ましい。
【0017】
そして、本発明においては、ポリエステル中にイミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を含有している。まず、イミド基を有する熱可塑性樹脂について説明する。本発明におけるイミド基を有する熱可塑性樹脂とは、分子構造中に−CO−NR’−CO−(R’は有機基)の構造を有する樹脂のことである。
【0018】
イミド基を有する熱可塑性樹脂としては、具体的には熱可塑性ポリイミド(例えば、三井化学社製「オーラム」)、ポリアミドイミド(例えば、ソルベイアドバンストポリマー社製「トーロン」)、ポリエーテルイミド(例えば、GEプラスチック社製「ウルテム」)などが挙げられる。
【0019】
これらの中でも特に、ポリエステルとの相溶性、溶融成形性等の観点から、ポリエーテルイミドが好ましく、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物であるポリエーテルイミドを用いることが好ましい。イミド基を有する熱可塑性樹脂は耐熱性に優れるため、繊維の耐熱性を向上させることができる。
【0020】
ポリエステル中にイミド基を有する熱可塑性樹脂とともに含有させるカルボジイミド化合物は、ポリエステルの末端基と反応し、カルボキシル末端基量を低減させることができる。
本発明に用いるカルボジイミドの具体例としては、N,N′−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2−イソプロピルフェニル)カルボジイミド等が挙げられる。
この中で、耐熱性、工業レベルでの使用が可能であるため、N,N′−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドが最も好ましい。
【0021】
本発明においては、イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物とをポリエステル中に含有させるものであるため、イミド基を有する熱可塑性樹脂を含有させることにより耐熱性が向上し、カルボジイミド化合物を含有させることにより、カルボキシル末端基量を低減させることができる。さらに、イミド基を有する熱可塑性樹脂は、ポリエステルフィラメント中において微分散し、別に添加されるカルボジイミド化合物をその微細な分散体の内部に取り込むことで、カルボジイミド化合物がポリエステルのヒドロキシル末端基や湿熱処理段階における水などと副反応して失活消費されることを抑制する作用を有するものであり、ポリエステルフィラメント中におけるカルボジイミド化合物の含有量を増加せしめる作用を奏する。このように両者の効果が相まって、長時間の湿熱処理による強度低下が生じにくい、耐湿熱性能に優れたポリエステルフィラメントを得ることができるものである。
【0022】
本発明のポリエステルフィラメントは、イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を含有するポリエステル(ポリエステルA)からなるフィラメントであるが、ポリエステルAのみからなる単一型のフィラメントであっても、ポリエステルAと他のポリエステルとからなる複合型のフィラメントであってもよい。
【0023】
複合型のフィラメントとしては、芯鞘型やサイドバイサイド型、多層型のもの等が挙げられるが、ポリエステルAが繊維質量の30質量%以上を占めるものであることが好ましい。
【0024】
そして、単一型、複合型のフィラメントであっても、ポリエステルフィラメント中のイミド基を有する熱可塑性樹脂の含有量は、0.1〜40質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがより好ましい。イミド基を有する熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%未満であれば、耐熱性の向上効果が不十分となり、十分な耐湿熱性を得ることができず、一方、含有量が40質量%を超えると、耐湿熱性は良好となるが、得られる繊維は十分な強度が得られにくくなる。
【0025】
また、カルボジイミド化合物のポリエステルフィラメント中の含有量は、0.1〜4.0質量%とすることが好ましく、0.5〜2.5質量%とすることがより好ましい。0.1質量%未満であると、カルボキシル末端基の封鎖が不十分となり、十分な耐湿熱性能が発現されない。一方、4.0質量%を超えると、製糸性が悪化しやすくなり、それに伴う強伸度特性の低下や表面平滑性の低下が生じやすい。
【0026】
また、本発明のポリエステルフィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、産業資材用途に好適に使用するためには、繊度が100〜20000dtexのものとすることが好ましい。
【0027】
そして、本発明のポリエステルフィラメントは、相対粘度が1.40以上、カルボキシル末端基量が15.0eq/t以下であることが必要である。
【0028】
カルボキシル末端基量は中でも10.0eq/t以下、さらには3.0eq/t以下であることが好ましい。カルボキシル末端基量が15.0eq/tを超えると、耐湿熱性能に劣るものとなる。
【0029】
また、本発明のポリエステルフィラメントには、活性状態のカルボジイミド化合物が20〜30000ppm残存することが好ましく、中でも300〜25000ppm残存することが好ましい。
【0030】
なお、活性状態とは、カルボキシル基や水分子と反応可能な状態のことをいい、活性状態のカルボジイミド化合物の含有量が20ppm未満であると、カルボジイミド化合物の効果が発現され難く、フィラメントのカルボキシル末端基量を15.0eq/t以下とすることが困難となる。一方、30000ppmを超えるようにするには、カルボジイミド化合物の含有量を多くする(4.0質量%以上とする)ことが必要となり、製糸性が悪化する。
【0031】
そして、本発明のポリエステルフィラメントは、相対粘度が1.40以上のものであり、中でも相対粘度が1.45以上であることが好ましい。フィラメントの相対粘度が1.40未満になると十分な強度を満たさないものとなるため、産業資材用途として実用に供することが困難となる。
【0032】
ポリエステルフィラメントの相対粘度を1.40以上とするには、例えばポリエステルとしてPETを用いる場合であれば、まず、通常の溶融重合法によって相対粘度が1.25〜1.45のプレポリマーを得る。次いで、このプレポリマーのペレットを固相状態で減圧下又は不活性ガス流通下に加熱して固相重合反応を行い、相対粘度が1.43以上(ただし、プレポリマーの相対粘度よりも大)のポリエステルとする。プレポリマーの相対粘度が適当でないと、トータルの重合時間が著しく長くなったり、固相重合後のポリエステルのカルボキシル末端基量を所定の範囲のものとすることができなかったりするので、プレポリマーの相対粘度を上記の範囲とすることが望ましい。
【0033】
また、固相重合後のポリエステルが相対粘度が1.43未満であると、製糸性が悪化したり、糸質性能が不十分なものとなったりすると共に、溶融紡糸して得られるフィラメントの相対粘度を1.40以上にすることが困難となりやすい。
【0034】
なお、固相重合により相対粘度がプレポリマーよりも0.10〜0.40程度高くなるように固相重合の条件を選定することが好ましい。これによりポリエステルのカルボキシル末端基量が減少すると共に、オリゴマー等の不純物が除去される。
【0035】
さらに、本発明のポリエステルフィラメントは、耐湿熱性能を示す糸質性能として、135℃の飽和水蒸気中で50時間処理(湿熱処理)した後の強度保持率が40%以上であることが好ましく、中でも50%以上であることが好ましい。強度保持率が40%未満であると、高温で長時間の湿熱処理を受けると糸質性能が低下し、耐湿熱性能に劣るものとなり、産業資材用途に用いることが困難となりやすい。
【0036】
強度保持率は以下のようにして算出するものである。
強度保持率(%)=(湿熱処理後のポリエステルフィラメントの強度/湿熱処理前のポリエステルフィラメントの強度)×100
ポリエステルフィラメントの強度(cN/dtex)は、島津製作所社製オートグラフ AG−1型を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分、初荷重が繊度の1/20で測定するものである。
【0037】
また、本発明のポリエステルフィラメントの湿熱処理前の強度は、6.0cN/dtex以上であることが好ましく、湿熱処理後の強度は2.5cN/dtex以上であることが好ましい。
【0038】
また、本発明のポリエステルフィラメント中には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を含有していてもよい。
【0039】
次に、本発明のポリエステルフィラメント(モノフィラメント)の製造方法について一例を用いて説明する。
前記のように固相重合して得られたポリエステルを用い、ペレット状にしたポリエステルにイミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を添加して、溶融紡糸を行う。
紡糸温度は350℃以下、好ましくは330℃以下として溶融紡糸を行う。紡出されたフィラメントを液体又は空気中で冷却、固化させる。次に、冷却固化したフィラメントを、一旦巻き取った後又は巻き取ることなく延伸する。
延伸は一段又は二段以上の多段で行うことができるが、多段で行うことが好ましい。まず、65〜95℃の液体中又は70〜200 ℃の気体中で2.8〜6.5倍の第一段延伸を行い、続いて第一段延伸よりも高温の150〜300℃の液体又は気体中で全延伸倍率が4.5〜8.0倍となるように第二段目以降の延伸を行う。
この際、全延伸倍率が第一段延伸倍率よりも高くなるように設定する。延伸温度が上記の範囲より低いと加熱不足となり、延伸斑及び糸切れが発生し、一方、延伸温度が高すぎるとフィラメントの融解及び熱劣化が起こり、好ましくない。また、全延伸倍率が4.5倍未満であると、得られるフィラメントの糸質特性、特に直線強度が低くなりやすい。一方、全延伸倍率を 8.0倍より大きくすると、繊維内での塑性変形に分子配向が対応できなくなるため、繊維中にミクロボイドが発生し、満足な性能を示すフィラメントが得られ難くなる。また、延伸後、150〜500 ℃の気体中で1.0〜15.0%の弛緩率で弛緩熱処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の特性値の測定や評価は次のように行った。
〔相対粘度〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃の条件下でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
〔活性状態のカルボジイミド化合物の残存量〕
ポリエステルフィラメントをヘキサフルオロイソプロパノールとクロロホルムの混合物に溶解させ、アセトニトリルで再沈殿を行い、 アセトニトリルで希釈したものを測定溶液とし、ヒューレットパッカード社製HPLCを用いて測定した。
〔カルボキシル末端基量〕
ポリエステルフィラメントをベンジルアルコールに溶解し、0.1規定の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。
〔強度、強度保持率〕
前記の方法で測定、算出した。
〔製糸性〕
300分間連続して溶融紡糸を行い、60分当たりの糸切れの回数により以下の3段階で評価した。
糸切れが1回未満であった場合・・・○
糸切れが1回〜2回であった場合・・・△
糸切れが3回以上であった場合・・・×
〔表面平滑性〕
得られたポリエステルフィラメントの繊維径をマイクロメーターで測定し、その繊維径値の変動率により以下の4段階で評価した。
変動率が4%未満のもの・・・◎
変動率が4%以上、8%未満のもの・・・○
変動率が8%以上、12%未満のもの・・・△
変動率が12%以上のもの・・・×
【0041】
実施例1
エチレングリコールとテレフタル酸を常法によって溶融重縮合して、相対粘度1.34、カルボキシル末端基量30.9eq/tのプレポリマーペレットとした後、固相重合反応を行い、相対粘度1.60、カルボキシル末端基量15.8eq/tの固相重合ペレットを得た。このペレットに、イミド基を有する熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミド(GEプラスチック社製、「ウルテム1010」)3.0質量%とカルボジイミド化合物としてN,N’―ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(松本油脂社製、「STABAXOL EN-160」)1.5質量%を添加して溶融紡糸した。溶融紡糸は、エクストルーダー型紡糸装置を使用し、紡糸温度 320℃で溶融紡糸した。紡出糸条を冷却した後、引取速度500m/分で引き取って未延伸糸条を得た。得られた未延伸糸条に、150℃、延伸倍率3.0倍で第一段延伸を行い、続いて200 ℃で第二段延伸を行い、全延伸倍率が 5.0 倍となるように延伸を施した。
得られたポリエステルフィラメント(モノフィラメント)は、繊度160dtex、カルボキシル末端基量1.2eq/tのものであった。
【0042】
実施例2〜3 比較例2
ポリエーテルイミドの添加量を変更し、繊維中の含有量が表1の値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィラメントを得た。
【0043】
実施例4〜5 比較例3〜4
カルボジイミド化合物の添加量を変更し、繊維中の含有量が表1の値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィラメントを得た。
【0044】
実施例6
カルボジイミド化合物として、N,N’―ジイソプロピルカルボジイミドを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィラメントを得た。
【0045】
実施例7
イミド基を有する熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリアミドイミド(ソルベイアドバンストポリマー社製、「トーロン4301」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィラメントを得た。
【0046】
実施例8
イミド基を有する熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリイミド(三井化学社製、「オーラムPL450C」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィラメントを得た。
【0047】
比較例1
実施例1と同様にして固相重合して得たPETペレットに、実施例1と同様のカルボジイミド化合物のみを含有量1.5質量%となるように含有させた以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントを得た。
【0048】
比較例5
溶融重縮合して得た、相対粘度1.34、カルボキシル末端基量30.9eq/tのプレポリマーペレットを用いた(プレポリマーペレットに固相重合反応を行わなかった)以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントを得た。
【0049】
比較例6
イミド基を有する熱可塑性樹脂に代えてポリエチレンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントを得た。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より明らかなように、実施例1〜8で得られたポリエステルフィラメントは、耐湿熱性能、強伸度等の糸質物性に優れ、繊維表面にざらつきや糸斑もない品位の高いものであり、製糸性にも優れていた。
一方、比較例1のポリエステルフィラメントは、イミド基を有する熱可塑性樹脂を含有していなかったため、比較例3のポリエステルフィラメントはカルボジイミド化合物を含有していなかったため、強度保持率が低く、耐湿熱性能が不十分なものであった。比較例2のポリエステルフィラメントは、イミド基を有する熱可塑性樹脂の含有量が多すぎたために、強度が弱く、製糸性が悪く、表面平滑性にも劣るものであった。比較例4のポリエステルフィラメントは、カルボジイミド化合物の含有量が多すぎたため、製糸性が悪く、表面平滑性にも劣るものであった。また、比較例5のポリエステルフィラメントは、原料ポリエステルの相対粘度が低すぎたため、相対粘度が1.40未満となり、強度が低く、産業資材用途に不向きなものであった。比較例6のポリエステルフィラメントは、イミド基を有しない熱可塑性樹脂を含有させたものであるため、製糸性が悪く、表面平滑性にも劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド基を有する熱可塑性樹脂とカルボジイミド化合物を含有するポリエステルからなるフィラメントであって、相対粘度が1.40以上、カルボキシル末端基量が15.0eq/t以下であることを特徴とするポリエステルフィラメント。
【請求項2】
イミド基を有する熱可塑性樹脂がポリエーテルイミドである請求項1記載のポリエステルフィラメント。
【請求項3】
カルボジイミド化合物がN,N’―ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドである請求項1又は2記載のポリエステルフィラメント。


【公開番号】特開2010−275669(P2010−275669A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130563(P2009−130563)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】