説明

ポリエステルフィルム

【課題】 結晶性が良好であり、かつ低い融点を有するポリエステルを製膜してフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルを製膜してなるフィルムであって、ポリエステルがジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含有し、ジオール成分として1,6−ヘキサンジオールとエチレングリコールとを含有し、全ジオール成分の50モル%以上が1,6−ヘキサンジオールであり、融点が100〜150℃であり、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルを製膜してなるフィルム。
b/a≧0.02mW/mg・℃ ・・・ (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操業性が良好であり、低融点にも関わらず結晶性に優れたポリエステルを製膜してなるフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、機械的特性、化学的安定性、透明性等に優れ、かつ、安価であるポリエステルであり、各種のシート、フィルム、容器等として幅広く用いられている。
近年、リサイクル可能という観点から、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の他素材が使用されていた用途まで、ポリエステルが使われるようになってきている。
【0003】
しかし、通常のPETは、これらの他素材に比べると融点が非常に高いため、他素材からPETに代替してフィルムを製造する場合には、製膜条件を大幅に変えねばならないという問題があった。
そこで、これらのポリエステルには、種々の共重合成分を共重合したポリエステルを用いることが試みられている。例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルは、耐熱性や耐衝撃性が良好であることから、成形用途においては幅広く用いられている。しかし、このような共重合ポリエステルは、PETとは異なり非晶性であるため、PETフィルムのような延伸を行うことで強度やガスバリア性を高めることができないという問題があった。
【0004】
上記問題を回避するには、共重合ポリエステルは、明確な結晶融点を示すことが望ましい。しかしながら、例えば比較的安価であり広く用いられる脂肪族酸であるアジピン酸を共重合した場合、ポリエステルの結晶性は良好であるが、ガラス転移温度が低くなることがある。したがって、重合したポリエステルをストランド状に払い出してチップ化する際、ポリマーをガラス転移温度以下に冷却することが困難となり、ポリマーの固化が不足してしまうため、カッターブレードへのポリエステルの固着や、ストランド間の融着等が発生するなど、操業性に問題が生じる場合があった。
【0005】
また、繊維用途においては、酸成分が芳香族ジカルボン酸と脂肪族ラクトンからなり、ジオール成分が脂肪族ジオール成分からなり、融点が130〜200℃の範囲であるポリエステルも提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしこの組成でも、融点が130〜200℃の範囲であり、他素材に比べると、まだ高温領域を含み、フィルム製膜条件を変えずに他素材からの置き換えはできないものであった。
【特許文献1】特開平9−12693号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、結晶性が良好であり、かつ低い融点を有するポリエステルを用いてフィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
ポリエステルを製膜してなるフィルムであって、ポリエステルがジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含有し、ジオール成分として1,6−ヘキサンジオールとエチレングリコールとを含有し、全ジオール成分の50モル%以上が1,6−ヘキサンジオールであり、融点が100〜150℃であり、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルを製膜してなるフィルム。
b/a≧0.02mW/mg・℃ ・・・ (1)
(aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明では、融点が低く、かつ十分な結晶性を備えているポリエステルを用いるため、低温での製膜や延伸配向が可能であり、強度やガスバリア性が良好なポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(以下、TPAと略す。)を、またジオール成分として1,6−ヘキサンジオール(以下、HDと略す。)とエチレングリコール(以下、EGと略す。)とを主成分とすることが必要である。また、HDは、全ジオール成分に対し、50モル%以上含まれていることが必要であり、60〜95モル%含まれていることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が本発明で規定した範囲を超えるため好ましくない。また、HDやEG以外のジオール成分を主成分として用いると、融点やb/aが本発明で規定する範囲から外れるため好ましくない。
【0010】
なお、ポリエステルには、その特性を損なわない範囲で、他の共重合成分を含有させてもよい。共重合成分の具体例としては、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタメチレンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。
【0011】
本発明において、ポリエステルの融点は、100〜150℃であることが必要であり、110〜140℃であることが好ましい。融点が100℃未満の場合、結晶性が小さく、製膜時の延伸性が悪い等の問題があり好ましくない。一方、融点が150℃を超えると、製膜温度を高くする必要があり、他素材における製膜温度と異なるため、製膜条件を変えねばならず好ましくない。
【0012】
本発明で用いるポリエステルは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線において、b/aが0.02mW/mg・℃以上であることが必要であり、0.03以上であることが好ましい。
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。図1に示したように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.02mW/mg・℃未満の場合、結晶化速度が遅いため、ポリエステルのチップ化や貯蔵・運搬、および乾燥工程においてもブロッキングが生じやすくなるといった問題が生じるため好ましくない。また製膜時に、延伸ができず、フィルムの強度が低く、あるいは、ガスバリア性が不十分となるため、好ましくない。
上記b/aは、ポリエステルの共重合組成を調節することにより、本発明で規定する範囲に設定することができる。
【0013】
本発明においてポリエステルは、極限粘度が0.5以上であることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても溶融粘度が高くなるため、押出が困難になったり、また溶融粘度を下げるべく製膜温度を上げねばならず、実用上1.5以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においてポリエステルには、目的を損なわない範囲内で、タルクやポリエチレンワックスのような結晶核剤、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上含有してもよい。
【0015】
ポリエステルは、通常の方法により製造することが出来る。すなわち、テレフタル酸とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行って所定のポリエステルを製造する。具体的には、重縮合反応は通常0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度域で、所定の極限粘度のものが得られるまで行われる。
この重縮合反応は、触媒存在下で行われ、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o−スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物が用いられる。触媒の添加量としては、ポリエステルの繰り返し単位1molに対し、通常0.1×10−4〜100×10−4mol、好ましくは0.5×10−4〜50×10−4mol、最適には1×10−4〜10×10−4molが適当である。
また各種添加剤についても本発明を損なわない範囲で使用することができ、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
上記重縮合反応において、ポリエステルが所定の極限粘度に到達したら反応を終了し、ポリエステルをストランド状に払い出して、冷却カットすることによりチップ化する。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、未延伸のシート状のものでもよいし、一軸または二軸に延伸された延伸フィルムであってもよいが、二軸延伸フィルムが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、従来公知の任意の方法を用いて製膜することができる。例えば二軸延伸フィルムの場合、上述のポリエステルを乾燥した後、溶融押し出しして未延伸シートとし、次いで二軸に延伸しさらに熱処理を行なうことにより得られる。二軸延伸は、縦、横逐次延伸あるいは同時二軸延伸のいずれでもよく、延伸倍率は特に限定されるものではないが、通常は縦、横それぞれ2.0〜5.0倍が適当である。あるいは縦、横延伸後、縦、横方向のいずれかに再延伸してもよい。得られる二軸延伸フィルムの厚さは1〜20μmとするのが好ましく、より好ましくは5〜15μmである。
【実施例】
【0018】
次に、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、特性値等の測定、評価方法は、次の通りである。
【0019】
(a)極限粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
【0020】
(b)融点、b/a
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計Diamond DSCを用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/minで測定し、得られたDSC曲線より、融点とb/aを求めた。
【0021】
(c)ポリエステル組成
ポリエステルを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比 1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA−400型NMR装置にて1H−NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
【0022】
(d)操業性
(d−1)チップ化
重合したポリエステルをAUTOMATIK社製USG−600型カッターでチップ化する際、フィードローラーまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の密着による連チップの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、融着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○とし、○を合格とした。
(d−2)チップのブロッキング
チップの貯蔵・運搬および乾燥工程で、手で触れても崩れないブロック状物や壁面への融着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○とし、○を合格とした。
【0023】
(e)フィルムの引張強度
ASTM−D882に準じて、幅10mm、長さ10cmの試験片を用いて測定を行った。なお、フィルムの機械方向(MD)及びその直角方向(TD)にそれぞれ各10枚の試験片を採取して測定し、200MPa以上を合格(○)、200MPa未満を不合格(×)とした。
【0024】
実施例1
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEG(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
このPETオリゴマー40kgを重縮合反応缶に移送し、HD28kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。ついで、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%EG液として1.0kg重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
得られたポリエステルチップを乾燥後、押し出し機に供給して180℃で溶融しT型口金よりシート状に押し出し、冷却固化せしめ未延伸フィルムを得た。次いで、未延伸フィルムを70℃に予熱した後、90℃で縦、横方向に各々3.3倍延伸して、厚さ12μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0025】
実施例2、比較例1
HDの投入量を変更したこと以外は実施例1と同様にして実施した。
【0026】
比較例2
重縮合反応缶へのPETオリゴマーの投入量を24kgへ変更し、イソフタル酸(IPA)を15kg、EGを10kg、投入したこと以外は実施例1と同様にして実施した。
【0027】
得られたポリエステルについて組成、特性、操業性を、またフィルムについて引張強度を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜2により得られたポリエステルについては、チップ化工程での操業性に優れ、それより得られたフィルムの特性は良好であったが、比較例では、以下の問題があった。
比較例1では、HDが少ないため融点が220℃と高く、180℃の製膜温度で製膜ができなかった。比較例2では、TPAが少なかったため融点がDSCでは確認できず、結晶性を有しておらず、チップ化が困難であり、ブロッキングが起きた。得られたフィルムは引張強度が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明におけるDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを製膜してなるフィルムであって、ポリエステルがジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含有し、ジオール成分として1,6−ヘキサンジオールとエチレングリコールとを含有し、全ジオール成分の50モル%以上が1,6−ヘキサンジオールであり、融点が100〜150℃であり、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルを製膜してなるフィルム。
b/a≧0.02mW/mg・℃ ・・・ (1)
(aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。)

【図1】
image rotate