説明

ポリエステルフィルム

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、柔軟性に富み、腰が弱く、手触りが柔らかいポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】二軸延伸ポリエステルフィルムは、その物理的、化学的性質が優れていることから、磁気テープ用、コンデンサー用、包装用、製版用、電気絶縁用等の極めて幅広い産業分野において基材として用いられており、また、その需要は増加の一途をたどっている。
【0003】従来の二軸延伸ポリエステルフィルムは、腰が強く、また、手触りも硬いものであったので、例えば、粘着テープの基材として用いた場合、これを凸面に貼り付けると、ポリエステルフィルムの腰の強さのために、次第に端部から剥れてくるという問題が生じていた。また、貼薬の基材として用いると、腰の強さのために肌と動きがなじまず、結果として使用者に不快感を与えることになっていた。さらに、金銀系として用いた場合は、ポリエステルフィルムの手触りの悪さのために、肌に触れると不快感を与えることになり、いずれも改良が求められていた。
【0004】
【問題を解決するための手段】本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、ある特定のポリエステルをある特定の条件下で製膜することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明の要旨は、ガラス転移温度が45℃以下であるポリエステルを二軸延伸後、(Tm−60)〜(Tm−1)℃(Tmはポリエステルの融点)の温度で熱処理して得られる、面配向度(ΔP)が0.1200以下であるポリエステルフィルムに存する。
【0006】以下、本発明を詳細に説明する。本発明におけるポリエステルを構成する酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、中でも、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、とりわけ、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸および/またはセバシン酸を、ポリエステルを構成する酸成分中、5〜30モル%、好ましくは、10〜25モル%用いるのが良い。一方、グリコール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールが好ましい。
【0007】これらの成分を適宜組み合わせて公知の方法でポリエステルが得られるが、ポリマーの黄色化を抑制したり、溶融時の熱安定性を向上させるために、重縮合触媒としてアンチモン化合物が好適に用いられる。また、得られるポリエステルのガラス転移温度(以下、Tgと略す)は45℃以下であり、好ましくは40℃以下である。Tgが45℃を超えると、フィルム化後に柔軟性が発現し難くなる。
【0008】また、本発明で用いるポリエステルの結晶融解熱(以下ΔHmと略す)は、通常、8〜4 cal/gである。ΔHmが8 cal/gを超えると、目的とするフィルムの柔軟性が得られ難く、また、4 cal/g未満では、ポリマーチップの融着が激しくなり、乾燥等の工程において種々のトラブルを引き起こす。フィルムの加工後の作業性を改良するためには、ポリエステルに粒子を配合して、フィルム表面に凹凸を与えて滑りやすくさせるという方法が有効であり、触媒成分を粒子として析出させる析出粒子法、不活性微粒子をポリエステル反応中に添加する添加粒子法等、公知の方法を用いることができる。
【0009】また、ポリエステルを構成する酸成分の一部としてアジピン酸、セバシン酸を用いた場合、例えばポリエチレンテレフタレートと比較して、乾燥時、溶融時の固有粘度〔η〕の低下、着色が大きい傾向にある。これを抑制するためには、抗酸化剤を添加すると良い。抗酸化剤としては、ヒンダードフェノール系、亜リン酸エステル系等が挙げられるが、特にヒンダードフェノール系の抗酸化剤が好ましく用いられる。
【0010】得られたポリエステルは、基本的には次のようにフィルム化される。すなわち、乾燥後、押出機よりシート状に溶融押出しし、これを例えば静電印加冷却法を用いて急冷し、非晶質未配向シートとする。次いで、得られたシートを長手方向にTg〜(Tg+50)℃の温度で2.0〜5.0倍延伸し、さらに幅方向にTg〜(Tg+50)℃で2.0〜5.0倍延伸する。この際、一方向の延伸を2段階以上で行う方法も採用できるが、その場合でも、最終的な延伸倍率が上記の範囲に入るよう選択することが好ましい。また、上記非晶質未配向シートを面積倍率が4〜25倍になるように同時二軸延伸することも可能である。延伸後、熱処理を施すが、熱処理温度は(Tm−60)〜(Tm−1)℃、好ましくは(Tm−40)〜(Tm−1)℃、さらに好ましくは(Tm−20)〜(Tm−1)℃の範囲から選ばれ、熱処理時間は1秒〜10分の範囲から選ばれる。熱処理温度が(Tm−1)℃を超えるとフィルムの溶融により破断が頻発したり、フィルムがクリップ把持面に粘着したりするため好ましくない。一方、(Tm−60)℃未満では、本発明の目的の一つであるフィルムの柔軟性が得られなくなるばかりか、寸法安定性が著しく低下してしまうため好ましくない。かかる熱処理は、フィルムを20%以内の制限収縮もしくは伸長または定長下で行い、また、2段階以上で行ってもよい。さらに必要に応じ、熱処理を施す前または後に再度長手方向および/または幅方向に延伸してもよい本発明のフィルムの面配向度(以下ΔPと略す)は0.1200以下であり、好ましくは0.1100以下、さらに好ましくは0.1000以下である。ΔPが0.1200を超えると、フィルムの引張弾性率が高いため、柔軟性のないフィルムとなる。本発明のポリエステルフィルムの引張弾性率Eは、通常、350kg/mm2 以下、好ましくは300kg/mm2 、さらに好ましくは250kg/mm2 以下である。
【0011】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の物性および特性の測定方法、定義は次の通りである。なお、実施例、比較例中の「部」は「重量部」を示す。
【0012】(1)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、結晶融解熱(ΔHm)
セイコー電子工業(株)製差動熱量計SSC580DSC20型を用いて測定した。試料10mgをN2 気流下、300℃で5分間溶融保持後、急冷して得られたサンプルをDSC装置にセットし、10℃/分の昇温速度で、−30℃から昇温した。ガラス転移温度(Tg)は、比熱の変化によりDSC曲線が屈曲し、ベースラインが平行移動する形で感知されるが、この屈曲点以下での温度のベースラインの接線と、屈曲した部分で傾きが最大となる点の接線との交点を屈曲の開始点とし、この温度をガラス転移温度(Tg)とした。また結晶溶融による吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。また、吸熱ピーク面積からポリエステルの結晶融解熱(ΔHm)を算出した。
【0013】(2)フィルムの屈折率アタゴ光学社製のアッベ式屈折計を用い、フィルム面内の屈折率の最大値nγ、それに直角方向の屈折率nβおよびフィルム厚さ方向の屈折率nαを測定して、下式より平均屈折率、面配向度ΔPを算出した。なお、屈折率の測定は、ナトリウムD線を用い、23℃で行った。
【0014】
【数1】


【0015】(3)柔軟性の評価柔軟性の指標として引張弾性率Eを用いた。すなわち引張弾性率Eが低いほど柔軟性が発現される。(株)インテスコ製引張試験機インテスコモデル2001型を用いて、温度23℃湿度50%RHに調節された室内において、長さ300mm、幅20mmの試料フィルムを、10%/min のひずみ速度で引張り、引張応力−ひずみ曲線の初めの直線部分を用いて次の式によって計算する。
【0016】
E=Δσ/ΔεE=引張弾性率(kg/mm2
Δσ=直線上の2点間の元の平均断面積による応力差Δε=同じ2点間のひずみ差実施例1ジメチルテレフタレート84部、セバシン酸ジメチル19部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム4水塩0.09部を加熱昇温するとともにメタノールを留去しつつエステル交換反応させた。反応開始後、約5時間かけて230℃まで昇温し、実質的にエステル交換反応を終了させた。次いで、遠心沈降式で測定した平均粒径が0.82μmである湿式法シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、シリカの含有量がポリエステルに対して0.02重量%になるように添加した。さらに、エチルアシッドホスフェート0.04部および三酸化アンチモン0.04部を添加した後、温度を徐々に高め、最終的に280℃まで昇温し、また圧力を常圧から徐々に減じ、1mmHgまで減圧した。重縮合反応開始後5時間を経た時点で反応を停止し、融点222℃、ガラス転移点36℃のポリエステルを得た。
【0017】得られたポリエステルを280℃で押出機よりシート状に押出し、静電印加冷却法を用いて厚さ310μmの非晶質未配向シートを得た。次いで得られたシートを長手方向に38℃で3.5倍、さらに幅方向に55℃で3.5倍延伸し220℃で7秒間熱処理を施し、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの平均屈折率は1.5811、面配向度ΔPは0.0934であり、引張弾性率Eが210kg/mm2 で柔軟性に富み、手触りが柔らかいフィルムが得られた。
【0018】実施例2ポリエステルの酸成分、グリコール成分を表1に示す成分とし、また、製膜処方を適宜変更して表2に示す平均屈折率,ΔPを有する厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムは、柔軟性に富み、手触りが柔らかいフィルムであった。
【0019】比較例1,2ポリエステルの酸成分、グリコール成分を表1に示す成分とし、また、製膜処方を適宜変更して表2に示す平均屈折率,ΔPを有する厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。いずれも柔軟性に乏しく、手触りも硬いものであった。
【0020】
【表1】


【0021】
【表2】


【0022】
【発明の効果】本発明のフィルムは柔軟性に富み、手触りが柔らかいことから、金銀糸、貼り薬の基材、粘着テープの基材等幅広い用途に適用でき、その工業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス転移温度が45℃以下であるポリエステルを二軸延伸後、(Tm−60)〜(Tm−1)℃(Tmはポリエステルの融点)の温度で熱処理して得られる、面配向度(ΔP)が0.1200以下であるポリエステルフィルム。

【特許番号】第2887904号
【登録日】平成11年(1999)2月19日
【発行日】平成11年(1999)5月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−405978
【出願日】平成2年(1990)12月25日
【公開番号】特開平4−221622
【公開日】平成4年(1992)8月12日
【審査請求日】平成9年(1997)6月18日
【出願人】(000108856)三菱化学ポリエステルフィルム株式会社 (187)
【参考文献】
【文献】特開 平2−204020(JP,A)
【文献】特開 昭64−11820(JP,A)
【文献】特開 平4−33829(JP,A)
【文献】特開 平4−216830(JP,A)