説明

ポリエステルポリマーにおけるスリップ剤としての脂肪族エステル化合物

PETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は6から24炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく;Xは、部分(a):(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)の1つを表わす)の化合物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー添加剤に関する。これは、ポリエステルポリマー、例えばPETの摩擦係数を低減させる添加剤に特に適用しうる。
【背景技術】
【0002】
ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)は、成形ポリエステル製品およびフィルムの製造に広く用いられている重要なプラスチック材料である。PET使用のキーとなる利点は、次のとおりである:
・高い透明度
・軽量
・良好な加工性
・酸素および二酸化炭素に対する優れたバリヤー特性
・良好な衝撃抵抗性
・強靭−ほとんど破れない
・経済的であること。
【0003】
大部分は上記特性の結果として、PETホモポリマーおよびコポリマーにとって最も重要なプラスチック用途は、ボトルの製造にある。
【0004】
PETボトルは優勢的に、二段階ストレッチ吹込み成形プロセスを用いて生産される。まず予備成形物が、射出成形によって生産される。これは、ネック特徴部(features)がこのプロセスの間に成形された、比較的厚い壁で囲まれた部分である。ついでこの予備成形物は、再加熱吹込み機で再加熱され、この機械は、ストレッチピンによってこの予備成形物をストレッチし、所望の形状を与えるために金型に空気を吹き込むことによってこれを膨張させる。これは、二軸延伸容器を生じ、これは、改良された特性、例えば透明度およびガスバリヤー性能を与える。このことは、炭酸ドリンク容器にとって特に重要である。
【0005】
PETボトルはまた、単一機械で実施される2段階技術である射出吹込み成形によって製造されてもよい。予備成形物が射出成形され、まだ熱い間に、吹込みステーションに移され、ここでこれは、所望の形状に膨らませられる。これは、特定のネック細部または仕上げを必要とする小さい容器に好ましい技術であり、それほど二軸延伸されていない容器を生産する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PETからの物品の製造における主要な問題は、このポリマーの比較的高い摩擦係数である。ボトルの製造において、この問題は、いくつかの方法で現われることがある:
・予備成形物がボックスに充填されるときのまったく最適でない充填密度であって、これは付随するより高い貯蔵および輸送費をともなう;
・運搬装置上の流れの悪さ、およびこれによる処理能力の低減;
・低い引掻き抵抗による表面欠陥。
【0007】
このようにして、ポリマーの摩擦抵抗を低減させ、このようにして上記欠陥を克服する、PET用の効果的添加剤系へのニーズがある。
【0008】
ポリマーの摩擦抵抗の低減において効果的な添加剤は、この産業においてスリップ添加剤として知られている。しかしながら飲料容器用に許容しうるものになるために、製造されたPETボトルは、低い色彩および高い透明度を、低い味(taste)および臭いとともに示さなければならず、かつ非毒性でなければならない。これは、その摩擦低減特性に加えて、スリップ剤にほかの重要な必要条件を課す。
【0009】
プラスチック産業における選り抜きの従来のスリップ剤は、脂肪アミドである。これらの添加剤は、ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、および関連コポリマーにおいて広く用いられている。スリップ添加剤として用いられる脂肪アミドは一般に、16から22炭素原子を含有する脂肪酸から製造され、多様な構造形態を特徴とする:
・一不飽和(エルカミドおよびオレアミドによって例示される)または飽和(ステアラミドおよびベヘナミドによって例示される)のどちらかであってもよい第一アミド;
・ステアリルエルカミドおよびオレイルパルミタミドによって例示される第二アミド;
・ビスアミド、例えばエチレンビスステアラミド。
【0010】
ポリマー系におけるこれらの広く行き渡った使用法に鑑みて、脂肪アミドを、ポリエステル、例えばPET用のスリップ剤として考えることが論理的であるように思われるであろう。しかしながら本発明者らは、脂肪アミドが、PETにおいていくらかの摩擦低減特性を証明してはいるが、摩擦係数の低下は、ポリオレフィンにおいてはるかにより小さいことを立証した。さらにはすべてのアミドは、射出成形されたPETにおいて変色を引起こし、このことは、このポリマーにおけるこれらの有用性を厳しく制限するであろう。
【0011】
当業者なら、ポリマーの別々の異なる種類は、幅広く異なる組成および異なる分子構造(architectures)を有することを承知しているであろう。このようにして、ポリエステルポリマー例えばPETは、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリアミド例えばナイロン、またはほかの種類のポリマーと比較することができない。これらは、ポリマーとして様々な挙動をするのみならず、様々なスリップ剤が、様々なポリマーの種類にともなって必要とされる。すなわち、特定の化合物または化合物の混合物が、異なる種類のポリマーにおけるスリップ剤としてのその性能に基づいた1つの作用物質におけるスリップ剤としてどのように機能するかを、推定することも、予測することもできない。
【0012】
したがって、従来のスリップ剤技術は、PETに容易に適用することができない。このことは、低い摩擦係数に加えて、色彩、味、および臭いに関するほかの厳しい必要条件が満たされなければならないボトル(予備成形物)製造の場合に、特に当てはまる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、ポリマー例えばPETに用いられたとき、改良されたスリップおよびブロック防止特徴を有し、かつこのポリマーのほかの特性に悪い影響が及ぼされない組成物を提供することが、本発明の1つの目的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第一の側面によれば、ポリエステルポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1:
R−X−R1 (1)
(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は1から34炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつ
Xは、部分
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)
の1つを表わす)の化合物の使用が提供される。
【0017】
好ましくは、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、16より多きく、より好ましくは22より大きい。
【0018】
特に好ましい実施形態において、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、35より大きい。好ましくは、Xは、部分
【0019】
【化5】

【0020】
を表わし、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、23以上44以下である。
【0021】
特に好ましい実施形態において、一般式1の組成物は、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0022】
特に好ましい実施形態において、このポリエステルポリマーは、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
を含む群から選択される。
【0023】
好ましくは一般式1の前記組成物は、前記ポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下の量で存在する。
【0024】
特に好ましい実施形態において、前記組成物は、前記ポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する。
【0025】
本発明の第二の側面によれば、一般式1:
R−X−R1 (1)
(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は1から34炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつ
Xは、部分
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有する)
の1つを表わす)の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいるポリエステルポリマーが提供される。
【0028】
好ましくは、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、16より多きく、より好ましくは22より大きい。
【0029】
特に好ましい実施形態において、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、35より大きい。好ましくは、Xは、部分
【0030】
【化7】

【0031】
を表わし、R、R1、およびXにおける炭素原子の総数は、23以上44以下である。
【0032】
特に好ましい実施形態において、一般式1のスリップ剤は、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0033】
このポリマーが、繊維生産のために意図されている場合、このスリップ剤は好ましくは、ステアリルエステル、例えばステアリルステアレートではなく、具体的に第GB2152061号(スニア・ファイバー社(Snia Fiber SpA))に指定されているほかの添加剤でもない。第GB2152061号において言及されている添加剤は、繊維の押し出しの状況において記載されているのであって、スリップ添加剤の状況においてではなく、本出願におけるような予備成形物またはボトルの状況においてでもない。
【0034】
好ましくは、前記ポリマーは、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
およびこれらのコポリマー
を含む群から選択される。
【0035】
好ましくは前記1つまたは複数のスリップ剤は、前記ポリエステルポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下の量で存在する。
【0036】
特に好ましい実施形態において、前記1つまたは複数のスリップ剤は、前記ポリエステルポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する。
【0037】
本発明の第三の側面によれば、前記ポリマーのスリップを増加させるためのポリマーの処理方法であって、上記のような一般式1の組成物を、前記ポリマー中に組み込む工程を含む方法が提供される。
【0038】
好ましくは、前記ポリマーは、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
およびこれらのコポリマー
を含む群から選択される。
【0039】
好ましくは、一般式1の前記組成物は、前記ポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下の量で存在する。
【0040】
特に好ましい実施形態において、一般式1の前記組成物は、前記ポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する。
【0041】
本発明のさらなる側面によれば、一般式1のスリップ剤を組み込んでいる、本明細書に記載されているようなポリマーから製造された予備成形物および容器が提供される。
【0042】
好ましくは、前記容器は、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
およびこれらのコポリマー
を含む群から選択されたポリマーから形成される。
【0043】
本発明のさらにもう1つの側面によれば、一般式1のスリップ剤を組み込んでいる、本明細書に記載されているようなポリエステルポリマーから製造されたフィルムが提供される。
【0044】
好ましくは前記フィルムは、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
およびこれらのコポリマー
を含む群から選択されたポリマーから形成される。
【0045】
本発明はまた、ポリエステルと、一般式1(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は1から34炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつXは、部分:
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)
の1つを表わす)の化合物とのコポリマーを含んでいる組成物を包含することにまで拡張される。
【0048】
したがって、本発明は、ポリエステルポリマー、例えばPET用の新規範囲のスリップ添加剤であって、低い色彩および高い透明度を維持しつつ、製造された物品の摩擦係数の低下において非常に効果的な添加剤の発見に関する。より詳しくは、この発明に合致する添加剤は、摩擦係数の急速な低減を生じ、これは、成形部品の長期間貯蔵の間維持される。このことは、PETからの予備成形物およびボトルの生産において特に決定的である。
【0049】
この発明を説明するために本明細書において用いられている「PET」という用語は、広い意味を有する。これは、ポリ(エチレンテレフタレート)のすべてのポリマーおよびコポリマー形態を包含する。この発明の化合物はまた、ポリブチレンテレフタレートおよびポリ(エチレンナフタレート)によって例示されるようなほかのポリエステルポリマーおよびコポリマー用の効果的なスリップ剤でもある。このようにして、PETという用語は、この状況において、すべてのテレフタレートポリマーおよびこれらの誘導体(どちらも公知であり、さらに発見されるべきものである)を包含する芳香族二酸に由来するすべてのポリマーを包含する一般名称であると考えるべきである。
【0050】
この発明の添加剤は、一般構造:
R−X−R1 (1)
(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各々は1から34炭素原子を含み、線状もしくは分岐鎖であってもよく、かつ完全に飽和されていてもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)に合致する。
【0051】
Xは、次の構造の1つに合致する:
−C(O)O−
または
−O(O)C−A−C(O)O−
または
−C(O)−O−A−O−(O)C−
(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状もしくは分岐であってもよく、かつ完全に飽和であるか、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、R、R1、およびX中に含有される炭素原子の総数は、22より多きくであり、好ましくは35より大きい。
【0053】
この発明に合致する好ましい添加剤の例は、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物である。
【0054】
PETにおけるスリップ性能の必要とされるレベルを得るために、この発明の添加剤は、0.1wt%以上1wt%以下、好ましくは0.2wt%以上0.75wt%以下のレベルで組み込まれる。
【0055】
この発明のスリップ添加剤は、当業者に周知のいくつかの方法によってポリマー中に組み込まれてもよい。例えばこれらは、押し出し時点での溶融投与によって、または従来のマスターバッチ添加によって、または液体色彩系を用いた組み込みによって、樹脂に直接添加されてもよい。
【実施例】
【0056】
PET表面の摩擦の低減における前記添加剤の有効性を証明するために、次の手順が採用された。
【0057】
射出成形、吹込み成形、または両方の組合わせによる、ボトルおよびほかの食品包装容器の製造に適したPETコポリマー(IV0.8)が用いられた。PETは、145℃で8時間乾燥され、添加剤は、ポリマーがまだ熱いうちにタンブル混合することによって、ポリマーの表面上に直接コーティングされた。
【0058】
PETは、次の条件を用いて、35トン型締(lock)射出成形機で、100×50×2mmのプラーク(Plaque)に成形された:
温度:すべてのゾーンが270℃で
射出圧力:85バール
射出能力:29.0mm
充填:20バール、3秒
保持:75バール、3秒
冷却:20秒
金型温度:10℃
【0059】
結果として生じたプラークの摩擦係数(静的および動的)はついで、成形後、次の時間間隔で、すなわち1時間、24時間、1週間、および2週間の時点でロイド(Llyod)LRX引っ張りテスターおよび10Nロードセルで測定された。この摩擦方法は、ASTM1894から適合させた。このプラークを含むスレッジ(sledge)重量は、1,000gであり、これら2つのプラーク間の表面接触面積は、50mm×50mmであった(ダイアグラム参照)。テストは、150mm/分で60mmの距離にわたって行なわれた。各テストは、各試験のときに新しいプラークを用いて、各時間間隔について5回実施された。このテスト装置のダイアグラムは、図1に示されている。
【0060】
PETの性質によって、摩擦は、プロセスおよび周囲条件およびその吸湿性に応じて、日毎に変わりうる。添加剤をともなわないPETについて記録された摩擦係数は、一般に0.5から1.2であった。異なる日に実施された実験に対して比較を行なうことを可能にするために、各々の日に各々の一連のPET+添加剤の前後に、ブランク試験が実施された。これらの結果は、低い摩擦がそのブランクについて記録された日に、ある一定の添加剤が、比例的により低い結果を生じるであろうということが観察されたので、このブランクのパーセンテージとして報告される。
【0061】
混合されたエステル組成物のいくつかの添加剤もテストされ、代表的な組成が、表IIの配合物1から6と名付けられたものに示されている。
テストされたスリップ添加剤の概要が、下に示される:
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
この発明の添加剤の優れた性能は、上記の結果を参照することによって、容易に理解することができる。
【0066】
エルカミド(4)によって例示されるような従来のアミドスリップ剤は、摩擦係数をブランクの62%から71%に低下させたが、結果としてポリマーのひどい黄変を生じた。それに加えて、この効果は短命であり、7日後には対照値に戻った。
【0067】
この発明に合致した添加剤は、従来のアミドスリップ剤と比較したとき、摩擦係数に同等またはそれ以上の低減を生じたが、これらのポリマープラークは、澄んでいて透明のままであった。この発明の好ましい実施形態を代表する、ステアリルベヘネート、ステアリルパルミテート、およびエステル配合物4の例では、わずか0.2から0.3%の添加レベルにおいて、非常に低い摩擦係数が得られた(ブランクの30%bから50%)。
【0068】
PEG200ジエルケートによって例示されるポリエチレングリコールのいくつかのエステル(この発明に合致しない)は、摩擦係数において当初低減を生じたが、この効果は、14日のテスト期間にわたって減少したことに注目すべきである。このことは、この種類の化合物を、PET用長期間スリップ剤としてほとんど価値のないものにする。
【0069】
一般式1のスリップ剤の混合物は、ポリマーおよびコポリマーにおいて用いることができ、このような作用物質はまた、公知のスリップ剤と組み合わせて用いられてもよいと考えられる。
【0070】
このようにして、この発明に合致した添加剤は、低い色彩および高い透明性を維持しつつ、PETの摩擦係数において急速かつ長時間持続低減の独特な組合わせを与えることが、明らかに分かる。
【0071】
本明細書に規定されているような、一般式1のあるいくつかの化合物が、ポリマーにおけるスリップ防止剤として報告されてきたことは公知であるが、このことは一般に、ポリエステル型ポリマー、および特に本明細書に規定されているようなPETポリマーにおいて報告されていない。まったく非限定的であるが、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物を含む群を包含するあるいくつかの化合物の活性。化合物のこの群は、ブランクと比較したとき、テスト濃度において40%またはそれ以上の程度のスリップ値を与える。このような値は特に高く、この状況において現在用いられている添加剤への有意な改良を表わす。
【0072】
調製1
材料
85/90%ベヘン酸、AV=163.7mg KOH/g、(mwt342.7g/モル)、200.0g(0.584モル)。
n−ブタノール(ブタン−1−オール)99.4+%(アルドリッチ(Aldrich))、(mwt74.12g/モル)、400.0g(5.397モル)。硫酸(98%min)触媒、4.0g、またはブタノールの重量上の1%。
【0073】
手順
攪拌機および垂直水冷還流凝縮器を備えたフラスコに、上記の材料が装入され、空気下、大気圧で、ブタノールの一定還流をともなって、約4.5時間、110から120℃に加熱され、これに維持された。その結果生じた混合物は、分離漏斗に移され、ついで1Lのn−ヘプタンが60℃で添加され、ついで2Lの飽和ブライン溶液が添加された。混合物全体が振とうされ、これらの相が分離するままにされた。水相が排出され、ヘプタン相が保持された。ついでこのヘプタン相は、洗浄物がpH6になるまで、約1Lの蒸留温水(60℃)で反復して洗浄された。ついでこのヘプタン相は、無水ナトリウムスルフェート上で乾燥され、濾過された。濾過物は、回転蒸発器で70℃で、700mmHg真空下に一定重量まで蒸発された。最後に、この容器のヘッドスペースに、ブタノール臭の痕跡を除去するために、約15分間窒素が吹き込まれた。
収率186g(理論的最大収率=232.9g)80%収率
最終製品の分析
AV 4.6mgKOH/g
OHV 10.0mgKOH/g
Sap値 137.3mgKOH/g
湿分 0.02%wt
色彩 156ハーゼン
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、実施例におけるテスト装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリマーにおけるスリップ剤(slip agent)としての一般式1:
R−X−R1 (1)
(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は、1から34炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつ
Xは、
【化1】

を表わす)の化合物の使用。
【請求項2】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、16より多きく、より好ましくは22より多きい、請求項1に記載のPETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の化合物の使用。
【請求項3】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、35より大きい、請求項1または2に記載のスリップ剤としての一般式1の組成物の使用。
【請求項4】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、36以上44以下である、いずれかの先行請求項に記載の、ポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の、PETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用であって、一般式1の組成物が、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネートおよびベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物を含む群から選択され、化合物のこの群は、ブランクと比較したとき、テスト濃度において40%オーダーまたはそれ以上スリップ値を与え、このような値は特に高く、この状況において現在用いられている添加剤への有意な改良を表わす、使用。
【請求項6】
請求項6に記載の、ポリエステルポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用であって、前記PETポリマーが、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
およびこれらのコポリマー
を含む群から選択される使用。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の、PETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用であって、一般式1の前記組成物は、前記PETポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下で存在する使用。
【請求項8】
請求項7に記載の、PETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用であって、前記組成物は、前記PETポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する使用。
【請求項9】
実質的に本明細書に記載されているような、PETポリマーにおけるスリップ剤としての一般式1の組成物の使用。
【請求項10】
一般式1:
R−X−R1 (1)
(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は、1から34の炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつ
Xは、
【化2】

を表わす)の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいるポリエステルポリマー。
【請求項11】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、16より大きく、より好ましくは22より大きい、一般式1の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいる、請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、35より大きい、請求項10または11に記載のポリマー。
【請求項13】
R、R1、およびXにおける炭素原子の総数が、23以上44以下である、請求項10、11、または12のいずれかに記載のポリマー。
【請求項14】
一般式1の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいる、請求項10、1、12、または13のいずれかに記載のポリマーであって、この組成物が、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールジステアレート、エチルベヘネート、ベヘニルアセテート、パルミチルミリステート、パルミチルパルメート、またはこれらの混合物を含む群から選択されるポリマー。
【請求項15】
請求項10から14のいずれかに記載のポリマーであって、前記ポリマーが、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
またはこれらのコポリマー
を含む群から選択されるポリマー。
【請求項16】
一般式1の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいる、請求項10から15のいずれかに記載のポリマーであって、前記1つまたは複数のスリップ剤は、前記ポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下の量で存在するポリマー。
【請求項17】
前記1つまたは複数のスリップ剤は、前記ポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する、請求項16に記載のポリマー。
【請求項18】
実質的に本明細書に記載されているような、一般式1の1またはそれ以上のスリップ剤を組み込んでいるポリマー。
【請求項19】
前記ポリマーのスリップを増加させるためのポリエステルポリマーの処理方法であって、請求項1から9のいずれかに記載の一般式1の組成物を、前記ポリマー中に組み込む工程を含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載のポリマーの処理方法であって、前記ポリマーが、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
またはこれらのコポリマー
を含む群から選択される方法。
【請求項21】
一般式1の前記組成物が、前記ポリマー中に、0.1wt%以上1.0wt%以下の量で存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
一般式1の前記組成物が、前記ポリマー中に、0.2wt%以上0.75wt%以下の量で存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項10から18のいずれか1項に記載のポリマーにより製造された容器。
【請求項24】
前記容器が、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
またはこれらのコポリマー
を含む群から選択されたポリマーにより形成される、請求項23に記載の容器。
【請求項25】
請求項10から18のいずれか1項に記載のポリマーから製造されたフィルム。
【請求項26】
前記フィルムが、
ポリ(ブチレンテレフタレート)
ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)
ポリ(エチレンイソフタレート)
ポリ(エチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート)
ポリ(エチレンフタレート)
ポリ(エチレンテレフタレート)
またはこれらのコポリマー
を含む群から選択されたポリマーから形成される、請求項25に記載のフィルム。
【請求項27】
ポリエステルと、一般式1(式中、RおよびR1は、炭化水素部分を表わし、各炭化水素部分は1から34炭素原子を含み、Rおよび/またはR1は、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよく、かつXは、部分:
【化3】

(式中、Aは、2から36炭素原子を含む炭化水素部分を表わし、線状、分岐鎖、飽和であってもよく、または1またはそれ以上の二重結合を含有してもよい)
の1つを表わす)の化合物とのコポリマーを含んでいる組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−526382(P2007−526382A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501348(P2007−501348)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000805
【国際公開番号】WO2005/085340
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(399049659)クロダ・インターナショナル・パブリック・リミテッド・カンパニー (2)
【Fターム(参考)】