説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂を製造する際に、従来は使用できなかったジカルボン酸を原料として使用する方法を提供する。特に、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂と、ジカルボン酸、環状アセタール骨格を有さないジオールを原料として、粉体塗料用ポリエステル樹脂、ボトル用ポリエステル樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】 環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)、ジカルボン酸(D)および環状アセタール骨格を有さないジオール(E)を主原料とし、少なくともこれらの原料をエステル化反応により、ジカルボン酸の反応転化率が75%以上となるまで、水を系外に留出させながらオリゴマーとするオリゴマー化工程を含むことを特徴とするポリエステル樹脂(F)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂の製造方法であって、原料として環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含むエステル化合物、ジカルボン酸、環状アセタール骨格を有さないジオールとを用いる事を特徴とするポリエステル樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に有するポリエステル樹脂は、環状アセタールの剛直な骨格やアセタール結合に由来して耐熱性や接着性、難燃性等が向上することが知られている。例えば、米国特許第2,945,008号明細書では、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「SPG」ということがある)で変性されたPETは、ガラス転移点が高く耐熱性に優れるとの記載がなされている。
【0003】
特開昭62−265361号公報にはSPGを共重合したポリエステルのコーティング剤が耐熱性、耐ブロッキング性に優れるとの記載がある。
【0004】
我々は特開2002−69165号公報においてSPGを共重合成分とする、ガラス転移温度が高く、透明性、機械強度に優れたポリエステル樹脂について開示した。更に我々は特開2003−212981号公報、特開2004−137477号公報においてSPGを共重合成分とするポリエステル樹脂の製造方法について開示した。
【0005】
特開2004−137477号公報に記載の通り、環状アセタール骨格を有するジオールは酸により環状アセタール骨格が分解しやすい為、ジカルボン酸を原料とする通常の直接エステル化法で得られるポリエステル樹脂は著しく分子量分布が広かったり、ゲル状である事がある。従って、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に持つポリエステル樹脂の製造方法としては、通常のエステル交換法と、エステルとしてポリエステルやそのオリゴマーを用いた特殊なエステル交換法が開示されているのみである。環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に有するエステル化合物とジカルボン酸、環状アセタール骨格を有さないジオールを原料とした製造方法についてはいずれの先行文献にも記載されていない。
【0006】
ところで、ポリエステル粉体塗料は末端の大部分が水酸基又はカルボキシル基であるポリエステル樹脂と、この末端と反応する硬化剤とからなるものが一般的である。末端の大部分をカルボキシル基にする為には、所謂直接エステル化法を選択する必要があるが、通常の直接エステル化法では環状アセタール骨格を有するジオールがジカルボン酸により分解されるため、末端の大部分がカルボキシル基で、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に持つポリエステル樹脂を安定して製造する事は困難であった。
【0007】
更に、飲料容器として一般的なPETボトルはPETのインジェクションブローにより製造されているが、PETが結晶化しやすい事から、底部の白化と白化部分からの割れといった問題があった。この問題に対処すべく、イソフタル酸を一部共重合したPETでボトルを製造する事も行われている。しかしながら、この方法ではボトルの耐熱性が下がる為、耐熱性を上げつつ結晶性を低下させる事が望まれている。
【特許文献1】米国特許第2,945,008号明細書
【特許文献2】特開昭62−265361号公報
【特許文献3】特開2002−69165号公報
【特許文献4】特開2003−212981号公報
【特許文献5】特開2004−137477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂を製造する際に、従来は使用できなかったジカルボン酸を原料として使用する方法を提供するものである。特に、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂と、ジカルボン酸、環状アセタール骨格を有さないジオールを原料として、酸末端型の粉体塗料用ポリエステル樹脂、ボトル用ポリエステル樹脂を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂を製造する際に、環状アセタール骨格を有するジオール単位の供給源として、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含むエステル化合物を用いる事で、ジカルボン酸を用いた直接エステル化法においてもジカルボン酸による環状アセタール骨格の分解、及びそれによるポリエステル樹脂のゲル化を防げる事を見い出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、一般式(a)、(b)または(c)で表される環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)、ジカルボン酸(D)および環状アセタール骨格を有さないジオール(E)を主原料とし、少なくともこれらの原料をエステル化反応により、ジカルボン酸の反応転化率が75%以上となるまで、水を系外に留出させながらオリゴマーとするオリゴマー化工程を含むことを特徴とする、以下の(1)〜(2)の性状を有するポリエステル樹脂(F)の製造方法に関するものである。
・ ジオール単位中の1〜80モル%が下記一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有するジオール単位である。
・ フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した極限粘度が0.1〜1.5dl/gである。
【化1】

(式中RCOOH、ROHはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環族基、炭素数が6〜10の芳香族基、−O−およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される炭素数が2〜30の2価の基であり、カルボキシル基および/又は水酸基を有していてもよく、少なくとも一つのROHは下記一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有する二価の基であり、lは1〜150の整数である。)
【化2】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、mは1〜150の整数である。)
【化3】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、nは1〜150の整数である。)
【化4】

(式中R、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の2価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の2価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【化5】

(式中Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の1価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂を製造する際に、従来は使用できなかったジカルボン酸を原料として使用する方法を提供するものである。特に、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位とするポリエステル樹脂と、ジカルボン酸、環状アセタール骨格を有さないジオールを原料として、酸末端型の粉体塗料用ポリエステル樹脂、ボトル用ポリエステル樹脂を製造する方法を提供するものであり、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含み、末端がカルボキシル基であるエステルカルボン酸(A)、末端が水酸基であるエステルアルコール(B)、末端がカルボキシル基と水酸基であるエステルヒドロキシカルボン酸(C)からなる群から選ばれる少なくとも一つの環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)と、ジカルボン酸(D)、環状アセタール骨格を有さないジオール(E)とを原料とする。
【0013】
本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂(F)の環状アセタール骨格を有するジオール単位の供給源として環状アセタール骨格を有するジオールを使用せずに、環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含むエステル化合物(H)を使用する。
【0014】
本発明の製造方法で使用する環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含み、末端がカルボキシル基であるエステルカルボン酸(A)は、一般式(a):
【化6】

(式中RCOOH、ROHはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環族基、炭素数が6〜10の芳香族基、−O−およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される炭素数が2〜30の2価の基であり、カルボキシル基および/又は水酸基を有していてもよく、少なくとも一つのROHは下記一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有する二価の基であり、lは1〜150の整数である。)
で表す事ができる。
末端が水酸基であるエステルアルコール(B)は、一般式(b):
【化7】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、mは1〜150の整数である。)
で表す事ができる。
末端がカルボキシル基と水酸基であるエステルヒドロキシカルボン酸(C)は、一般式(c):
【化8】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、nは1〜150の整数である。)
で表す事ができる。
【0015】
化合物(A)、(B)、(C)の構成単位である環状アセタール骨格を有する二価の基は一般式(d):
【化9】

(式中R、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の2価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の2価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
または一般式(e):
【化10】

(式中Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の1価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表される。
COOH、ROHは炭素数2〜30の2価の有機基である。
得られるポリエステル樹脂(F)の機械物性、耐熱性、経済性等の面から、RCOOHとしては、芳香族ジカルボン酸に由来する2価の基が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する2価の基がより好ましく、テレフタル酸に由来する2価の基が特に好ましい。
また、環状アセタール骨格を有さないROHとしては、アルキレン基が好ましく、炭素数が2〜10であるアルキレン基がより好ましく、炭素数が2〜4であるアルキレン基がさらに好ましく、エチレン基が特に好ましい。
およびRは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基が例示される。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基が例示される。
一般式(d)または(e)で表される二価の基は、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来する二価の基である事が特に好ましい。
なお、本発明では一般式(a)、(b)、(c)におけるl、m、nの値は、エステル化合物(H)が後述するポリエステル樹脂(G)である場合には、実質的に一義的に決める事ができない。この様な場合はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)、NMR測定により算出する。すなわち、GPCの溶出曲線からポリエステル樹脂(G)の数平均分子量(Mn)を算出、一方でNMRスペクトルからポリエステル樹脂(G)の組成、更に繰り返し単位の分子量(M)を算出し、MnをMで除した値をl、m、nとする。なおGPCでの検量にはポリスチレンを使用する。
【0016】
本発明の製造方法で使用するジカルボン酸(D)としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。ポリエステル樹脂(F)の機械強度、耐熱性を考慮すると芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジカルボン酸の入手の容易さを考慮するとテレフタル酸、イソフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸が特に好ましい。なお、これらの化合物は上記したものの中から1種類を使用しても、2種類以上を使用しても良い。本発明においてポリエステル樹脂(F)の原料としてさらに上記したジカルボン酸のエステル形成性誘導体を用いる事もできる。エステル形成性誘導体としてはアルキルエステルが好ましく、メチルエステルが最も好ましい。
【0017】
また、本発明の製造方法で使用する環状アセタール骨格を有さないジオール(E)は特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオールが例示できる。ポリエステル樹脂(F)の機械強度、耐熱性、及びジオールの入手の容易さを考慮するとエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等が好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。ポリエステル樹脂(F)を粉体塗料用ポリエステルとして使用する場合、ネオペンチルグリコールを使用する事が好ましい。なお、環状アセタール骨格を有さないジオールは上記したものの中から1種類を使用しても、2種類以上を使用しても良い。
【0018】
本発明では、溶融粘弾性や分子量などを調整するために、本発明の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコールなどのモノアルコールやトリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5−ペンタントリオール、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール、安息香酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸やそのエステル形成性誘導体、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸やそのエステル形成性誘導体、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸やそのエステル形成性誘導体を原料として使用しても良い。
【0019】
次に、本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂(F)について述べる。ポリエステル樹脂(F)はジオール中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である。環状アセタール骨格を有するジオール単位を含む事で、ポリエステル樹脂(F)の耐熱性、機械的な強度が向上する。ポリエステル樹脂(F)を例えば、粉体塗料用の樹脂として使用する場合には環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含むことで耐熱性、耐ブロッキング性、表面硬度の向上がなされる。また、ポリエステル樹脂(F)を成形材料、特にボトル用の樹脂として使用する場合には、結晶化速度の抑制、成形性、透明性、耐熱性の向上がなされる。後述するが、この場合、環状アセタール骨格を有するジオールの割合は1〜20モル%である事が好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(F)の極限粘度はフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した値で0.1〜1.5dl/gである。後述するが、ポリエステル樹脂(F)を例えば粉体塗料用途として使用する場合には、極限粘度は0.1〜0.6dl/gである事が好ましく、ポリエステル樹脂(F)を成形材料、特にボトル用の樹脂として使用する場合には、極限粘度は0.6〜1.5dl/gである事が好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂(F)は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体、シート、フィルム、パイプ等の押し出し成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。更に詳しく述べるとすれば、シートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向、又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成形されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押出し発泡体でもよい。これらの中で、ポリエステル樹脂(F)がボトル、粉体塗料用途である場合、本発明の製造方法での製造が特に好ましい物となる。
【0022】
本発明の製造方法は従来既知のポリエステル樹脂の製造方法、すなわち、エステル交換法及び、直接エステル化法における条件、触媒等を適用する事ができる。また、ポリエステル樹脂の製造に用いられる従来既知のバッチ式製造装置及び連続式製造装置をそのまま用いることができる。
【0023】
本発明の製造方法は少なくともオリゴマー化工程を有し、必要に応じ、次いで行われるポリマー化工程を有す。本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂(F)は、前記(1)〜(2)の性状を有する限りにおいて、このオリゴマー工程で得られるオリゴマーをも包含する。
オリゴマー化工程は環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)、ジカルボン酸(D)及び環状アセタール骨格を有さないジオール(E)をエステル化反応させる工程である。エステル化反応は生成水を系外に留出させながら反応を行う必要がある本工程は、反応に関与する全てのジオール単位(環状アセタール骨格を含むか否かに関わらず)のモル数が全てのジカルボン酸単位のモル数に対して、0.9倍〜10倍以下となるように各原料を仕込んで行い、好ましくは0.93倍〜3倍で行う。反応は80〜250℃で行う。反応時の圧力は大気圧以上でも大気圧未満であっても良いが、好ましくは0.5〜6×10Paである。原料は反応開始前に一括で仕込んでも良いし、一部を反応途中に仕込んでもよい。
【0024】
オリゴマー化工程は無触媒で行っても良いし、得られるポリエステル樹脂(F)に対して5〜10000ppmの触媒を用いても良い。触媒は従来既知のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばナトリウム、マグネシウムのアルコキサイド、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタニウム、スズ、ゲルマニウム、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、金属マグネシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、複数のものを用いることもできる。
【0025】
オリゴマー化工程におけるジカルボン酸のエステル化反応転化率は75モル%以上であり、好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。エステル化反応転化率が75モル%未満では、次工程であるポリマー化工程における反応速度が小さくなる事があり好ましくない。
【0026】
本発明のポリマー化工程はオリゴマー化工程で得られたオリゴマーを減圧下、主にエステル交換反応により生成するジオール等を留出させて高分子量化する工程である。ポリマー化工程はオリゴマー化工程におけるジカルボン酸のエステル化物の反応転化率が75モル%以上となった後開始する。
【0027】
ポリマー化工程の開始時における反応物の温度は好ましくは190〜300℃で行われる。ポリマー化工程でいう減圧下とは一般には大気圧未満のことを指すが、ポリマー化工程以前の工程を大気圧以下で行っている場合には、更にそれ以下の圧力であることを意味する。ポリマー化工程における圧力は徐々に下げられ、最終的には300Pa以下まで下げる事が好ましい。
【0028】
ポリマー化工程は従来既知の触媒を使用する事ができる。触媒としてはアルミニウム、チタニウム、ゲルマニウム、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、などが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、複数のものを用いることもできる。触媒量は得られるポリエステル樹脂(F)に対して10000ppm以下が好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法ではリン化合物を使用する事ができる。リン化合物は得られるポリエステル樹脂(F)に対して10000ppm以下が好ましい。リン化合物としてはリン酸エステル、亜リン酸エステルが挙げられ、中でもリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルが好ましく、特にはリン酸トリエチルが好ましい。
【0030】
また、本発明のポリエステル樹脂の製造方法では、公知のエーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等を用いることが出来る。具体的には、エーテル化防止剤としてアミン化合物等が例示される。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を加えても良い。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法の好ましい形態の一つとして、エステル化合物(H)として環状アセタール骨格を有するジオールを構成単位に含むポリエステル樹脂(G)を使用する方法が挙げられる。ポリエステル樹脂(G)のジオール単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は2〜80モル%であり、好ましくは5〜70モル%、更に好ましくは10〜60モル%、特に好ましくは15〜50モル%である。2モル%以下では得られるポリエステル樹脂(F)のジオール単位中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は2モル%未満にしかなりえず、限定された組成の樹脂しか得られない為、好ましくない。
【0032】
ポリエステル樹脂(G)の極限粘度はフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した値が0.1〜1.5dl/gである必要がある。ポリエステル樹脂(G)の極限粘度は好ましくは0.15〜1.2dl/g、更に好ましくは0.2〜0.9dl/g、特に好ましくは0.25〜0.75dl/gである。極限粘度が0.1dl/g以下ではポリエステル樹脂(G)の扱いが難しくなるため好ましくない。具体的には溶融状態での粘度が低すぎる事、機械物性が低く脆い事から、例えばポリエステル樹脂の製造装置から取り出してペレット化する事が難しくなる。極限粘度が1.5dl/g以上では、ポリエステル樹脂(F)の原料として使用する際に溶融粘度が大き過ぎて、他の原料であるジカルボン酸(D)、環状アセタール骨格を有さないジオール(E)との混合物の流動性が損なわれたり、流動性を得るために過度の加熱が必要になったりする事があり好ましくない。
【0033】
ポリエステル樹脂(G)としては、環状アセタール骨格を有さないジオール単位として少なくともエチレングリコール単位を、ジカルボン酸単位として芳香族ジカルボン酸単位、特にテレフタル酸単位を有することが、得られるポリエステル樹脂(F)の機械物性、耐熱性、経済性等の面から好ましい。ポリエステル樹脂(G)のジオール単位中の20〜98モル%がエチレングリコール単位であり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であることがより好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂(G)は、従来既知のポリエステルの製造方法で製造された物で良く、通常、末端は大部分が水酸基である。すなわち、通常、ポリエステル樹脂(G)は一般式(b)においてRCOOHが主としてフェニレン基、ROHのうち環状アセタール骨格を有さない二価の基が主としてエチレン基である化合物(B)を主とした化合物である。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、末端の大部分がカルボキシル基である様なポリエステル樹脂(F)を製造する場合に、特に好ましい方法である。末端の大部分をカルボキシル基にする為には酸単位としてジカルボン酸のエステル形成性誘導体ではなく、ジカルボン酸を用いる事が必要であるが、本発明の環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)を用いる事で、環状アセタール骨格を有するジオールの分解を起こさずにポリエステル樹脂(F)を製造する事ができる。この様なポリエステル樹脂(F)の用途として例えば粉体塗料用途が挙げられる。この場合、ポリエステル樹脂(F)の酸価は5〜150mgKOH/gである事が好ましく、極限粘度はフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した値が0.1〜0.6dl/gである事が好ましい。この場合、オリゴマー化工程のみで反応を終了させても良い。粉体塗料用ポリエステル樹脂(F)を製造する場合、ポリエステル樹脂(F)の原料としてさらにトリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸やそのエステル形成性誘導体、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5−ペンタントリオール、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを使用しても良い。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法で、ボトル用ポリエステル樹脂を製造する事もできる。この場合、溶融重縮合反応の後に固相重縮合反応を行う事もできる。ポリエステル樹脂(F)のジオール構成単位中の環状アセタール骨格を有するジオールの割合は1〜20モル%が好ましく、1〜15モル%がより好ましく、1〜10モル%が特に好ましく、極限粘度はフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した値が0.6〜1.5dl/gである事が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し本発明はこれらの実施例により限定するものではない。各評価は以下の様に行い、評価結果は表1に示した。
【0038】
〔ポリエステル樹脂(F)の評価〕
1.環状アセタール骨格を有するジオールの共重合率
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオールの共重合率をH−NMR測定にて算出した。測定装置は日本電子(株)製、NM−AL400で測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。
2.極限粘度
ポリエステル樹脂0.5gをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(質量比=6:4)120gに加熱溶解し、濾過後、25℃まで冷却して測定用サンプルを調製した。装置は(株)柴山科学機械製作所製、毛細管粘度計自動測定装置SS−300−L1を用い、温度25℃で測定を行った。
3.酸価
ポリエステル樹脂0.5gをO−クレゾール/1,1,2,2−テトラクロロエタン/クロロホルムの混合溶媒(質量比70:15:15)50mlに加熱溶解した。この溶液を0.1N水酸化カリウムのエタノール溶液で電位差滴定した。滴定は平沼産業株式会社製 自動滴定装置 COM−2000にて行った。
【0039】
〔ポリエステル樹脂(G)の評価〕
1.環状アセタール骨格を有するジオールの共重合率
上述した方法で実施した。
2.極限粘度
上述した方法で実施した。
3.分子量測定
ポリエステル樹脂2mgを20gのクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定、標準ポリスチレンで検量したものを数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)とした。また、数平均分子量をポリエステル樹脂の繰り返し単位の分子量で除した値を重合度とした。GPCは東ソー株式会社製カラムTSK GMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続した東ソー株式会社製TOSOH 8020を用い、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。
【0040】
実施例1〜3
充填塔式精留塔、全縮器、コールドトラップ、攪拌翼、加熱装置、窒素導入管を備えた1Lのポリエステル製造装置に表1に記載の量のポリエステル樹脂(G)、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール及び触媒としてテトラブチルチタネート、熱安定剤としてリン酸トリエチルを仕込み、常圧、窒素雰囲気下で昇温した。内温を240℃として、エステル化で生成する水を系外に留出させながらオリゴマー化反応を行い、ポリエステル樹脂(F)を得た。
ポリエステル樹脂(G)の評価結果、得られたポリエステル樹脂(F)の評価結果を表1に示す。これらのポリエステル樹脂(F)は粉体塗料用として有用である。
【0041】
表1、2、及び比較例1〜3中、以下の略称を使用した。
テレフタル酸:PTA
イソフタル酸:PIA
エチレングリコール:EG
3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン:SPG
5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン:DOG
ネオペンチルグリコール:NPG
テトラブチルチタネート:TBT
リン酸トリエチル:TEP
【0042】
【表1】

【0043】
比較例1〜3
充填塔式精留塔、全縮器、コールドトラップ、攪拌翼、加熱装置、窒素導入管を備えた1Lのポリエステル製造装置に表2に記載の量のPTA、PIA、SPG、NPG、EG及び触媒としてTBT、熱安定剤としてTEPを仕込み、常圧、窒素雰囲気下で昇温した。内温を240℃として、エステル化で生成する水を系外に留出させながらオリゴマー化反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。これらのポリエステル樹脂はNMR測定用溶媒、極限粘度測定用溶媒、酸価測定用溶媒のいずれにも溶解せず、ゲル化していると考えられる為、粉体塗料用、ボトル用として不適である。
【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(a)、(b)または(c)で表される環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)、ジカルボン酸(D)および環状アセタール骨格を有さないジオール(E)を主原料とし、少なくともこれらの原料をエステル化反応により、ジカルボン酸の反応転化率が75%以上となるまで、水を系外に留出させながらオリゴマーとするオリゴマー化工程を含むことを特徴とする、以下の(1)〜(2)の性状を有するポリエステル樹脂(F)の製造方法。
・ ジオール単位中の1〜80モル%が下記一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有するジオール単位である。
・ フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した極限粘度が0.1〜1.5dl/gである。
【化1】

(式中RCOOH、ROHはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環族基、炭素数が6〜10の芳香族基、−O−およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される炭素数が2〜30の2価の基であり、カルボキシル基および/又は水酸基を有していてもよく、少なくとも一つのROHは下記一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有する二価の基であり、lは1〜150の整数である。)
【化2】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、mは1〜150の整数である。)
【化3】

(式中RCOOH、ROHは前記と同じであり、nは1〜150の整数である。)
【化4】

(式中R、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の2価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の2価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【化5】

(式中Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の1価の脂環式炭化水素基及び炭素数が6〜10の1価の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
【請求項2】
一般式(d)または(e)で表される二価の基が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来する二価の基である請求項1に記載のポリエステル樹脂(F)の製造方法。
【請求項3】
環状アセタール骨格を有するエステル化合物(H)が、主としてジオール単位とジカルボン酸単位からなる以下の(3)〜(4)の性状を有するポリエステル樹脂(G)である事を特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載のポリエステル樹脂(F)の製造方法。
・ ジオール単位中の2〜80モル%が一般式(d)または下記一般式(e)で表される環状アセタール骨格を有するジオール単位である。
・ フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した極限粘度が0.1〜1.5dl/gである。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(G)のジオール単位中の20〜98モル%がエチレングリコール単位であり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である事を特徴とする請求項3に記載のポリエステル樹脂(F)の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法で製造された、以下の(5)、(6)の性状を有する粉体塗料用ポリエステル樹脂(F)。
・ 酸価が5〜150mgKOH/gである。
・ フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した極限粘度が0.1〜0.6dl/gである。
【請求項6】
ジカルボン酸(D)がテレフタル酸であり、環状アセタール骨格を有さないジオール(E)がエチレングリコールである、請求項4に記載のポリエステル樹脂(F)の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で製造された、以下の(7)、(8)の性状を有するボトル用ポリエステル樹脂(F)。
・ ジオール単位中の1〜20モル%が一般式(d)または(e)で表される環状アセタール骨格を有するジオール単位である。
・ フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒中25℃で測定した極限粘度が0.6〜1.5dl/gである。

【公開番号】特開2009−120765(P2009−120765A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298109(P2007−298109)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】