説明

ポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法およびポリエステル系樹脂発泡成形体

【課題】ポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができるポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を、次の工程:(1)前記一対の発泡成形用金型および前記成形キャビティ内を減圧した後に、水蒸気を一方の金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる一方加熱工程;および(2)水蒸気を前記工程(1)において減圧を行った金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる逆一方加熱工程を含む加熱方法を用いて発泡成形することを特徴とするポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法およびポリエステル系樹脂発泡成形体に関する。
さらに詳しくは、本発明は、ポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができるポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法に関する。
また、前記の製造方法により得られる樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れたポリエステル系樹脂発泡成形体にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なポリエステル系樹脂からなる樹脂発泡成形体が、その優れた成形加工性、緩衝性等のために、土木、建築、園芸分野等での構造部材として、自動車分野でのバンパー用芯材、嵩上げ材、ティビアパット、ツールボックス等の自動車用構造部材等として幅広く使用されている。
【0003】
また、ポリエステル系樹脂の中でもポリ乳酸系樹脂は、天然に存在する乳酸を重合させて得られる樹脂であり、自然界に存在する微生物によって分解可能な生分解性樹脂であると共に、常温での機械的特性についても優れていることから大きな注目を集めている。そして、特許文献1〜3には、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を金型内に充填して加熱、発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡成形体を製造する型内発泡成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−64213号公報
【特許文献2】特開平11−166069号公報
【特許文献3】特開2007−291293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ポリ乳酸を主成分とする樹脂から形成された発泡粒子を型内に5〜70%の圧縮率となるように充填した後、金型内に110℃を超える温度を有する水蒸気を高圧力にて供給して発泡粒子を加熱、融着一体化させるポリ乳酸発泡粒子成形体の製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度は、ポリスチレン系樹脂に比較して極めて低く、約60℃であることから、100℃を超える高圧の水蒸気を金型内に供給してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を加熱した場合、ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度との温度差が大きいために、水蒸気の温度および加圧条件を精度良く調整しないと、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体に収縮が生じたり、あるいは、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面が悪化したり、さらに、発泡粒子を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化が急激に進んでしまい、発泡粒子同士の融着性が阻害されて、融着性の悪いポリ乳酸系樹脂発泡成形体となるといった問題点があった。
【0007】
また、特許文献2には、脂肪族ポリエステル、分散剤および発泡剤を所定割合で含有しかつ脂肪族ポリエステルの結晶化度が20%以下である樹脂組成物からなる発泡性粒子を金型内に充填して加熱発泡させて発泡成形体を製造することが記載されている。
【0008】
そして、発泡性粒子の加熱方法としては、発泡性粒子を加熱発泡させるのに必要なエネルギーを何らかの方法で与える方法であれば公知公用の方法を用いることができ、例えば、金型を熱媒体中に付け込んだり、温調された雰囲気下にさらしたり、金型中に加熱された窒素、水蒸気、炭酸ガス等の不活性ガスを吹き込んだりすることが記載されているものの、具体的には、金型内にスチーム(水蒸気)(第7頁左欄第14〜15行)や熱風(第9頁右欄第18行)を圧入することが記載されているだけであり、発泡性粒子の加熱方法としては、従来から行われている水蒸気や熱風を金型内に圧入することが開示されているに過ぎない。
【0009】
しかも、水蒸気や熱風等の気体は比熱が小さいことから、金型内に供給する際の温度は高い温度に設定せざるを得ず、その結果、前記したように、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体に収縮や、ポリ乳酸系樹脂発泡成形体の表面性の低下が生じ、あるいは、発泡粒子同士の融着性が低下するといった問題点を生じていた。
【0010】
また、特許文献3には前記の課題を解決するため、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を充填した金型を温水中に浸漬して加熱成形した後に水中に浸漬して冷却し発泡成形体を得る方法が記載されている。この方法では良好な成形品が得られるものの、温水槽と冷却水槽間の移動や金型の離型に手間が掛かり、量産化への対応が難しい方法であった。
【0011】
従って、これらの課題に鑑みて、土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野でのバンパー用芯材、嵩上げ材、ティビアパットおよびツールボックスのような自動車用構造部材として幅広く使用し得る、樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れたポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができるポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かくして本発明によれば、一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を、次の工程:
(1)前記一対の発泡成形用金型および前記成形キャビティ内を減圧した後に、水蒸気を一方の金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる一方加熱工程;および
(2)水蒸気を前記工程(1)において減圧を行った金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる逆一方加熱工程
を含む加熱方法を用いて発泡成形することを特徴とするポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、20〜100mmの厚みおよび50〜100%の内部融着率を有し、下記式(I):
0%≦X−Y≦50% (I)
(式中、Xは発泡成形体の表層融着率(%)であり、Yは発泡成形体の内部融着率(%)である)
を満たすポリエステル系樹脂発泡成形体も提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、ポリエステル系樹脂発泡粒子を発泡成形する際、一方加熱工程および逆一方加熱工程を減圧下に行うことによって得ることができる。このため、常圧〜加圧条件下で行われる従来の発泡成形法と比較して、成形キャビティ内で加熱媒体である水蒸気を十分に分散させることができ、局部的な過発泡を抑制することができる。また、発泡成形が減圧下に行われるため、ポリエステル系樹脂発泡粒子の発泡性能を十分に引き出すことができ、その結果、より均一に発泡成形を行うこともできる。よって、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れたポリエステル系樹脂発泡成形体である。従って、本発明によれば、前記のような品質面でばらつきの少ない高品質なポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができる。
【0015】
また本発明によれば、工程(1)および(2)が60〜99℃の温度で行われる場合、発泡成形体の表面収縮を防止し、融着性の向上も図ることができるため、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体をより効率良く安定に製造することができる。
【0016】
また本発明によれば、工程(1)および(2)が0MPaG未満の圧力下で行われる場合、金型内に蒸気を導入した際、蒸気温度を効率よく低下させることができ、また温度制御もしやすくなるため、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体をより効率良く安定に製造することができる。なお、MPaGとは、全型に備えた圧力計のゲージ圧を意味する。
【0017】
また本発明によれば、製造方法が、さらに、次の工程:
(3)水蒸気を両方の金型から成形キャビティ内に導入する両面加熱工程
を含む場合、より均一に発泡成形を行うことができるため、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体をより効率良く安定に製造することができる。
【0018】
また本発明によれば、工程(3)が90〜120℃の温度で行われる場合、発泡成形を樹脂成分の結晶化温度以上の温度で行うことができるため、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体をより効率良く安定に製造することができる。
【0019】
また本発明によれば、ポリエステル系樹脂がポリ乳酸系樹脂である場合、ポリ乳酸系樹脂はその主鎖中に加水分解可能なエステル結合を含むため、より生分解可能で、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができる。
【0020】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂が、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、あるいは、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有している場合、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を上げることができるため、より生分解可能で、かつ、耐熱性に優れた、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができる。
【0021】
他方、本発明によれば、品質面でばらつきの少ない高品質なポリエステル系樹脂発泡成形体を提供することができる。
【0022】
また本発明によれば、ポリエステル系樹脂がポリ乳酸系樹脂である場合、ポリ乳酸系樹脂はその主鎖中に加水分解可能なエステル結合を含むため、より生分解可能で、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体を提供することができる。
【0023】
また本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂が構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、あるいは、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有している場合、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を上げることができるため、より生分解可能で、かつ、耐熱性に優れた、前記のようなポリエステル系樹脂発泡成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の樹脂発泡体の製造装置の一例を示した模式断面図である。
【図2】本発明の樹脂発泡体の製造装置のノズル金型を正面から見た模式図である。
【図3】本発明の発泡成形体の製造装置の一例を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の特徴は、一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を、次の工程:
(1)前記一対の発泡成形用金型および前記成形キャビティ内を減圧した後に、水蒸気を一方の金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる一方加熱工程;および
(2)水蒸気を前記工程(1)において減圧を行った金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる逆一方加熱工程
を含む加熱方法を用いて発泡成形するポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法である。
【0026】
具体的には、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、工程(1)および工程(2)のような、いわゆる一方加熱工程および逆一方加熱工程を減圧下に行うことによって得ることができる。このため、従来、常圧〜加圧条件下で行われていた場合と比べて、金型内に蒸気を導入した際、蒸気温度の低下を十分に抑制することができる。
【0027】
その結果、本発明によれば、成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を均一かつ十分に発泡成形させることができ、過発泡や不均一発泡により生じるような、発泡成形体の品質のばらつきをより効果的に抑制することができる。特に、発泡成形体内部と表層の融着率差を著しく解消することができる。このため、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れたポリエステル系樹脂発泡成形体である。従って、本発明によれば、前記のような品質面でばらつきの少ない高品質なポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができる。
以下、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法および本発明の製造方法により得られるポリエステル系樹脂発泡成形体について詳説する。
【0028】
(ポリエステル系樹脂発泡粒子)
本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体はポリエステル系樹脂発泡粒子を発泡成形することによって得ることができる。また、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、樹脂成分として公知のポリエステル系樹脂を含むことができる。ポリエステル系樹脂としては、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合ないし共縮重合によって得られるものであれば使用することができる。
【0029】
ポリエステル系樹脂を合成する際に用いられる成分としては、以下のものが挙げられる。
まず、2価または3価以上のアルコール成分としては、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;
ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールAおよびポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;
ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンおよび1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類
等が例示される。
【0030】
また、2価または3価以上のカルボン酸成分としては、2価または3価のカルボン酸、これらの酸無水物およびこれらの低級アルキルエステル(炭素数1〜30)が用いられる。
具体的には、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、あるいはn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸およびイソドデセニルコハク酸等のアルキルまたはアルケニルコハク酸のような2価カルボン酸;
1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸およびエンポール3量体酸のような3価以上のカルボン酸等が例示される。
【0031】
さらに、ヒドロキシ基およびカルボキシ基を含む乳酸系単量体を単量体成分として縮合重合させたポリ乳酸系樹脂をポリエステル系樹脂として使用することもできる。この場合、ポリ乳酸系樹脂は微生物に対する分解性、即ち生分解性を示すことがある。
【0032】
具体的には、本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂は、乳酸系単量体を重合することによって得られ、下記化1で示され、D−乳酸およびL−乳酸を単量体として共重合させるか、D−乳酸またはL−乳酸のいずれか一方を単量体として重合させるか、あるいは、D−ラクチド、L−ラクチドおよびDL−ラクチドからなる群より選ばれた1または2以上のラクチドを開環重合させることによって得られるポリ乳酸系樹脂が、生分解性の観点から好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
また、ポリ乳酸系樹脂は、発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、乳酸以外の乳酸系単量体として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸およびヒドロキシヘプタン酸のような脂肪族ヒドロキシカルボン酸等を任意に含んでいてもよい。
【0035】
さらに、本発明のポリエステル系樹脂は樹脂成分の粘弾性、耐熱性確保の観点から、好ましくは100000〜350000、より好ましくは100000〜300000の平均分子量を有する。なお、本発明において平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量を意味する。
【0036】
他方、本発明で使用するポリエステル系樹脂は、同様に発泡成形工程や所望の物性等に影響を与えない限り、アルキル基、ビニル基、カルボキシ基、芳香族基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、ニトリル基およびニトロ基のようなその他の官能基を含んでいてもよい。また、同様に、多官能性ビニル系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、過酸化物、酸無水物およびエポキシ化合物のような架橋剤によって架橋されていてもよく、エステル結合以外の結合手を介して結合していてもよい。さらに、ポリエステル系樹脂を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。同様に、さらに、その他のビニル系重合体、ポリエーテル系重合体およびポリウレタン系重合体のような樹脂成分を含んでいてもよい。
【0037】
ポリ乳酸系樹脂を製造するに際して、単量体としてL体またはD体のみ、あるいは、単量体としてL体とD体とを併用した場合においてL体またはD体のいずれか一方を他方に比して多量に用いた時は、得られるポリ乳酸系樹脂は結晶性となる一方、単量体としてL体とD体とを略同量ずつ用いた場合には、得られるポリ乳酸系樹脂は非結晶性となるが、耐熱性および機械的強度に優れている点から、本発明においては、結晶性のポリ乳酸系樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
ポリ乳酸系樹脂を製造する際に用いられる単量体としてL体とD体とを併用した場合、単量体中におけるD体あるいはL体の含有量の少ない方の単量体量は、0.5〜5モル%が好ましい。これは、単量体中におけるD体あるいはL体の含有量の少ない方の単量体量が5モル%以上となると、ポリ乳酸系樹脂の結晶性が低くなって、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の耐熱性が低下することがある。一方、単量体中におけるD体あるいはL体の含有量の少ない方の単量体量が0.5モル%を下回ると、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂の結晶化度が急激に上昇し、その結果、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士の融着性が低下してポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度や外観性が低下することがある。
【0039】
ここで、ポリ乳酸系樹脂中におけるD体またはL体の含有量は以下の方法によって測定することができる。まず、ポリ乳酸系樹脂をクロロホルムに溶解させて、ポリ乳酸系樹脂の濃度が10mg/mLのクロロホルム溶液を作製する。次に、旋光計を用いて25℃にて波長589nmの偏光をクロロホルム溶液に照射して、クロロホルム溶液の比旋光度を測定する。
【0040】
一方、単量体としてD体のみを用いて重合して得られたポリ乳酸系樹脂、あるいは、単量体としてL体のみを用いて重合して得られたポリ乳酸系樹脂について、前記と同様の要領で比旋光度を測定してもよいが、この比旋光度は、通常、既に測定されており、D体のみを用いて重合して得られたポリ乳酸系樹脂は+156度、単量体としてL体のみを用いて重合して得られたポリ乳酸系樹脂は−156度とされている。
【0041】
そして、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂中におけるD体成分またはL体成分の量を算出することができる。
D体成分量(モル%)=100×{クロロホルム溶液の比旋光度−(−156)}
/{156−(−156)}
L体成分量(モル%)=100−(D体成分量)
【0042】
ところが、結晶性のポリ乳酸系樹脂は、その結晶化速度が速いことから、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を後述するような押出発泡によって製造する場合、ポリ乳酸系樹脂の中から押出発泡に適したものを選択する必要があり、溶融粘弾性が押出発泡に適したポリ乳酸系樹脂を選択するか、あるいは、ポリ乳酸系樹脂を粘弾性が押出発泡に適した状態となるように改質することが好ましい。
【0043】
具体的には、ポリ乳酸系樹脂として、融点(mp)と、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとが下記式を満たすポリ乳酸系樹脂を用いることが好ましい。
(ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃)
≦(交点における温度T)≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)
【0044】
ここで、動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率は、粘弾性において弾性的な性質を示す指標であって、発泡過程における気泡膜の弾性の大小を示す指標であり、発泡過程において、気泡膜の収縮力に抗して気泡を膨張させるのに必要な発泡圧の大小を示す指標である。
【0045】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が低いと、気泡膜が伸長された場合、気泡膜が伸長力に抗して収縮しようとする力が小さく、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造に必要とする発泡圧によって発泡膜が容易に伸長してしまう結果、気泡膜が過度に伸長してしまい破泡を生じる一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた貯蔵弾性率が高いと、気泡膜に伸長力が加わった場合、伸長に抗する気泡膜の収縮力が大きく、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造に必要とする発泡圧で一旦、気泡が膨張したとしても、温度低下等に起因する経時的な発泡圧の低下に伴って気泡が収縮してしまう。
【0046】
また、動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率は、粘弾性において粘性的な性質を示す指標であって、発泡過程における気泡膜の粘性を示す指標であり、発泡過程において、気泡膜をどの程度まで破れることなく伸長させることができるかの許容範囲を示す指標であると同時に、発泡圧によって所望大きさに気泡を膨張させた後、この膨張した気泡をその大きさに維持する能力を示す指標でもある。
【0047】
即ち、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率が低いと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造に必要とする発泡圧によって気泡膜が伸長された場合、気泡膜が容易に破れてしまう一方、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた損失弾性率が高いと、発泡力が気泡膜によって熱エネルギーに変換されてしまい、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造時に気泡膜を円滑に伸長させることができず、気泡を膨張させることができない。
【0048】
このように、ポリ乳酸系樹脂を発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造するにあたっては、発泡過程において、ポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得るために必要とされる発泡圧によって気泡膜が破れることなく適度に伸長するための弾性力、即ち、貯蔵弾性率を有している必要があると共に、前記発泡圧によって気泡膜が破れることなく円滑に伸長し、所望大きさに膨張した気泡をその大きさに発泡圧の経時的な減少にかかわらず維持しておくための粘性力、即ち、損失弾性率を有している必要がある。
【0049】
つまり、押出発泡工程において、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率および損失弾性率の双方が押出発泡に適した値を有している必要があり、このような押出発泡に適した貯蔵弾性率および損失弾性率を押出発泡工程においてポリ乳酸系樹脂に付与するために、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T(以下「貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T」ということがある)とポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが下記式を満たすことが好ましく、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率および損失弾性率をそれらのバランスをとりながら押出発泡に適したものとしてポリ乳酸系樹脂の押出発泡性を良好なものとし、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を安定に製造することができる。
【0050】
〔ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)−40℃〕
≦交点における温度T≦ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)
【0051】
さらに、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式を満たすように調整する理由を下記に詳述する。
【0052】
まず、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも40℃を超えて低い場合には、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の損失弾性率が貯蔵弾性率に比して大き過ぎるために、損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまう。
【0053】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、ポリ乳酸系樹脂の粘性に合わせた発泡力とすると、ポリ乳酸系樹脂の弾性力にとっては発泡力が大き過ぎてしまい、気泡膜が破れて破泡を生じて良好なポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得ることができず、逆に、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、ポリ乳酸系樹脂の弾性に合わせた発泡力とすると、ポリ乳酸系樹脂の粘性力にとっては発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が発泡しにくくなり、やはり良好なポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得ることができない。
【0054】
また、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tが、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)よりも高いと、押出発泡時におけるポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率が損失弾性率に比して大き過ぎるために、前記と同様に損失弾性率と貯蔵弾性率とのバランスが崩れてしまう。
【0055】
そこで、ポリ乳酸系樹脂の貯蔵弾性率に適した発泡力、即ち、ポリ乳酸系樹脂の弾性に合わせた発泡力とすると、ポリ乳酸系樹脂の粘性力にとっては発泡力が大き過ぎてしまい、気泡膜が破れて破泡を生じ良好なポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得ることができず、逆に、ポリ乳酸系樹脂の損失弾性率に適した発泡力、即ち、ポリ乳酸系樹脂の粘性に合わせた発泡力とすると、ポリ乳酸系樹脂の弾性力にとっては発泡力が小さく、ポリ乳酸系樹脂が発泡力で一旦、発泡したとしても、経時的な発泡力の低下に伴って気泡が収縮してしまって、やはり良好なポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得ることができない。
【0056】
そして、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式を満たすように調整する方法としては、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が高くなるにしたがって、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tが高くなることから、ポリ乳酸系樹脂の重合時に反応時間あるいは反応温度を調整することによって、得られるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を調整する方法、押出発泡前にあるいは押出発泡時にポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を増粘剤や架橋剤を用いて調整する方法が挙げられる。
【0057】
この他に、L体の比率がD体の比率に比して大きい単量体から得られたポリ乳酸系樹脂の場合、D体の比率が増加するにつれてポリ乳酸系樹脂の融点(mp)が低下することから、単量体中のD体の比率を調整することによってポリ乳酸系樹脂の融点(mp)を調整し、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tと、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とが前記式を満たすように調整する方法が挙げられる。
【0058】
ここで、ポリ乳酸系樹脂の融点(mp)は下記の要領で測定されたものをいう。即ち、JIS K7121:1987に準拠してポリ乳酸系樹脂の示差走査熱量分析を行い、得られたDSC曲線における融解ピークの温度をポリ乳酸系樹脂の融点(mp)とする。なお、融解ピークの温度が複数個ある場合には、最も高い温度とする。
【0059】
また、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tは下記の要領で測定されたものをいう。即ち、ポリ乳酸系樹脂を9.33×104Paの減圧下にて80℃で3時間に亘って乾燥する。このポリ乳酸系樹脂を該ポリ乳酸系樹脂の融点よりも40〜50℃だけ高い温度に加熱した測定プレート上に載置して窒素雰囲気下にて5分間に亘って放置し溶融させる。
【0060】
次に、直径が25mmの平面円形状の押圧板を用意し、この押圧板を用いて測定プレート上のポリ乳酸系樹脂を押圧板と測定プレートとの対向面間の間隔が1mmとなるまで上下方向に押圧する。そして、押圧板の外周縁からはみ出したポリ乳酸系樹脂を除去した後、5分間に亘って放置する。
【0061】
しかる後、歪み5%、周波数1rad/秒、降温速度2℃/分、測定間隔30秒の条件下にて、ポリ乳酸系樹脂の動的粘弾性測定を行って貯蔵弾性率および損失弾性率を測定する。次に、横軸を温度とし、縦軸を貯蔵弾性率および損失弾性率として、貯蔵弾性率曲線および損失弾性率曲線を描く。なお、貯蔵弾性率曲線および損失弾性率曲線を描くにあたっては、測定温度を基準として互いに隣接する測定値同士を直線で結ぶ。
【0062】
そして、得られた貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tを前記グラフから読み取ることによって得ることができる。なお、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線とが複数箇所において互いに交差する場合は、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との複数の交点における温度のうち最も高い温度を、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tとする。
【0063】
動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度Tは、Reologica Instruments A.B 社から商品名「DynAlyser DAR-100」にて市販されている動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0064】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を構成するポリ乳酸系樹脂には他の樹脂、好ましくは他の生分解性樹脂、具体的には、脂肪族ポリエステルや脂肪族−芳香族ポリエステルが含有されていてもよいが、ポリ乳酸系樹脂が50質量%以上となるように調整することが好ましく、70質量%以上となるように調整することがより好ましく、80質量%以上となるように調整することが特に好ましい。
【0065】
(ポリエステル系樹脂発泡粒子の製造方法)
以下、ポリエステル系樹脂発泡粒子およびポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法等を、樹脂成分としてポリ乳酸系樹脂を使用したものについて説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0066】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、公知の製造方法によって得られたものが用いられる。ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造方法としては、例えば、
(1)公知の要領で製造されたポリ乳酸系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリ乳酸系樹脂粒子を製造し、このポリ乳酸系樹脂粒子を加熱、発泡させてポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造する製造方法;
(2)ポリ乳酸系樹脂を押出機に供給して発泡剤の存在下にて溶融混練して押出機から押出発泡して得られたポリ乳酸系樹脂押出発泡体をその後にあるいは押出発泡直後に粒子状に切断加工してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造する製造方法
等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を制御し易いことから、前記(2)のポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造方法が好ましい。
【0067】
次に、前記(2)のポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造方法について具体的に説明する。まず、前記ポリ乳酸系樹脂を押出機に供給して発泡剤の存在下にて溶融混練した後、押出機の先端に取り付けた金型から押出発泡させるが、この押出発泡させて得られたポリ乳酸系樹脂押出発泡体の形態は、特に限定されず、ストランド状、シート状等が挙げられ、ストランド状が好ましいが、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を効率的にかつ安定に製造するためには、後述するように、押出機の前端に取り付けたノズル金型から押出発泡して押出発泡体を製造し、ノズル金型から押出された直後の押出発泡体を連続的に回転刃によって切断してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造することが好ましい。
【0068】
なお、前記押出機としては、従来から汎用されている押出機であれば、特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、複数の押出機を連結させたタンデム型の押出機が挙げられる。
【0069】
また、前記発泡剤としては、従来から汎用されているものが用いられ、例えば、
アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ヒドラゾイルジカルボンアミド、重炭酸ナトリウム等の化学発泡剤;
プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素、ジメチルエーテル等のエーテル類、塩化メチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、モノクロロジフルオロメタン等のフロン、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の物理発泡剤
等が挙げられる。物理発泡剤としては、ジメチルエーテル、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、二酸化炭素が好ましく、プロパン、ノルマルブタン、イソブタンがより好ましく、ノルマルブタン、イソブタンが特に好ましい。
【0070】
そして、押出機に供給される発泡剤量としては、少ないと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を所望発泡倍率まで発泡させることができないことがある。一方、多いと、発泡剤が可塑剤として作用することから溶融状態のポリ乳酸系樹脂の粘弾性が低下し過ぎて発泡性が低下し良好なポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得ることができなかったり、あるいはポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡倍率が高過ぎる場合があるので、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜4質量部がより好ましく、0.3〜3質量部が特に好ましい。
【0071】
なお、押出機には気泡調整剤が添加されることが好ましいが、気泡調整剤の多くは、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶核剤として作用するため、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を過度に促進しない気泡調整剤を用いることが好ましく、このような気泡調整剤としては、ポリテトラフルオロエチレン粉末、アクリル樹脂で変性されたポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0072】
また、押出機に供給される気泡調整剤の量としては、少ないと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の気泡が粗大となり、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の外観が低下することがある。一方、多いと、ポリ乳酸系樹脂を押出発泡させる際に破泡を生じてポリ乳酸系樹脂発泡粒子の独立気泡率が低下することがあるので、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して0.01〜3質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。
【0073】
そして、押出機から押出発泡されたポリ乳酸系樹脂押出発泡体を冷却して、ポリ乳酸系樹脂押出発泡体の結晶化が進行するのを抑制し、このポリ乳酸系樹脂押出発泡体を粒子状に切断してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得る。
【0074】
ここで、ノズル金型から押出発泡させて押出発泡体を製造し、この押出発泡体を連続的に回転刃によって切断してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造するために用いられる製造装置の一例について説明する。図1中、1は、押出機の前端に取り付けられたノズル金型である。このノズル金型は、ポリ乳酸系樹脂を押出発泡させて均一微細な気泡を形成でき好ましい。そして、図2に示したように、ノズル金型2の前端面1aには、ノズルの出口部11、11・・・が複数個、同一仮想円A上に等間隔毎に形成されている。なお、押出機の前端に取り付けるノズル金型は、ノズル内においてポリ乳酸系樹脂が発泡しなければ、特に限定されない。
【0075】
ノズル金型のノズルの数は、少ないと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造効率が低下する。一方、多いと、互いに隣接するノズルから押出発泡される押出発泡体同士が接触して合体し、あるいは、押出発泡体を切断して得られるポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士が合体することがあるので、2〜80個が好ましく、5〜60個がより好ましく、8〜50個が特に好ましい。
【0076】
ノズル金型におけるノズルの出口部11の直径は、小さいと、押出圧力が高くなりすぎて押出発泡が困難となることがある。一方、大きいと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の径が大きくなって金型への充填性が低下するので、0.2〜2mmが好ましく、0.3〜1.6mmがより好ましく、0.4〜1.2mmが特に好ましい。
【0077】
そして、ノズル金型におけるノズルの出口部11におけるポリ乳酸系樹脂の剪断速度は、小さいと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡倍率が低下しあるいはポリ乳酸系樹脂発泡粒子の気泡が粗大となることがある。一方、大きいと、フラクチャーが発生して安定に押出発泡することができないことがあるので、1000〜30000秒-1が好ましく、2000〜25000秒-1がより好ましく、3000〜20000秒-1が特に好ましい。
【0078】
なお、ノズル金型のノズルの出口部11における剪断速度は、下記式に基づいて算出されたものをいう。
剪断速度(秒-1)=4×Q/(πr3
但し、Qは、ポリ乳酸系樹脂の体積押出量(cm3/秒)であり(Qを質量押出量(g/秒)から算出する場合は、ポリ乳酸系樹脂の密度は1.0g/cm3とする)、rは、ノズルの半径(cm)である。
【0079】
また、フラクチャーを低減させるために、ノズル金型のランド部の長さは、ノズル金型のノズルにおける出口部11の直径の4〜30倍が好ましく、ノズル金型のノズルにおける出口部11の直径の5〜20倍がより好ましい。これは、ノズル金型のランド部の長さがノズル金型のノズルの出口部直径に比較して小さいと、フラクチャーが発生して安定に押出発泡することができないことがある。一方、ノズル金型のランド部の長さがノズル金型のノズルの出口部直径に比較して大きいと、ノズル金型に大きな圧力が加わり過ぎて押出発泡ができない場合があるからである。
【0080】
そして、ノズル金型の前端面1aにおけるノズルの出口部11、11・・・で囲まれた部分には、回転軸2が前方に向かって突出した状態に配設されており、この回転軸2は、後述する冷却部材4を構成する冷却ドラム41の前部41aを貫通してモータ等の駆動部材3に連結されている。
【0081】
さらに、前記回転軸2の後端部の外周面には一枚または複数枚の回転刃5、5・・・が一体的に設けられており、全ての回転刃5は、その回転時には、ノズル金型の前端面1aに常時、接触した状態となる。なお、回転軸2に複数枚の回転刃5、5・・・が一体的に設けられている場合には、複数枚の回転刃5、5・・・は回転軸2の周方向に等間隔毎に配列されている。また、図2では、一例として、4個の回転刃5、5・・・を回転軸2の外周面に一体的に設けた場合を示した。
【0082】
そして、回転軸2が回転することによって回転刃5は、ノズル金型の前端面1aに常時、接触しながら、ノズルの出口部11が形成されている仮想円A上を移動し、ノズルの出口部11から押出された押出発泡体を順次、連続的に切断可能なように構成されている。
【0083】
また、ノズル金型の少なくとも前端部と、回転軸2とを包囲するように冷却部材4が配設されている。この冷却部材4は、ノズル金型よりも大径な正面円形状の前部41aと、この前部41aの外周縁から後方に向かって延設された円筒状の周壁部41bとを有する有底円筒状の冷却ドラム41を備えている。
【0084】
さらに、冷却ドラム41の周壁部41bにおけるノズル金型の外方に対応する部分には、冷却液42を供給するための供給口41cが内外周面間に亘って貫通した状態に形成されている。冷却ドラム41の供給口41cの外側開口部には冷却液42を冷却ドラム41内に供給するための供給管41dが接続されている。
【0085】
冷却液42は、供給管41dを通じて、冷却ドラム41の周壁部41bの内周面に沿って斜め前方に向かって供給されるように構成されている。そして、冷却液42は、供給管41dから冷却ドラム41の周壁部41bのうち周面に供給される際の流速に伴う遠心力によって、冷却ドラム41の周壁部41b内周面に沿って螺旋状を描くように前方に向かって進む。そして、冷却液42は、周壁部41bのうち周面に沿って進行中に、徐々に進行方向に直交する方向に広がり、その結果、冷却ドラム41の供給口41cより前方の周壁部41bのうち周面は冷却液42によって全面的に被覆された状態となるように構成されている。
【0086】
なお、冷却液42としては、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を冷却することができれば、特に限定されず、例えば、水、アルコール等が挙げられるが、使用後の処理を考慮すると、水が好ましい。
【0087】
そして、冷却ドラム41の周壁部41bの前端部下面には、その内外周面間に亘って貫通した状態に排出口41eが形成されており、この排出口41eの外側開口部には排出管41fが接続されており、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子および冷却液42を連続的に排出できるように構成されている。
【0088】
続いて、ノズル金型から押出された押出発泡体は引き続き切断工程に入る。押出発泡体の切断は、回転軸2を回転させ、ノズル金型の前端面1aに配設された回転刃5を2000〜10000rpmの一定の回転数で回転させて行う。
【0089】
全ての回転刃5はノズル金型の前端面1aに常時、接触しながら回転しており、ノズル金型から押出発泡された押出発泡体は、回転刃5と、ノズル金型におけるノズルの出口部11は支援との間に生じる剪断応力によって、一定の時間間隔毎に大気中において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡粒子とされる。この時、押出発泡体の冷却が過度とならない範囲内において、押出発泡体に水を霧状に吹き付けてもよい。
【0090】
本発明では、ノズル金型のノズル内においてポリ乳酸系樹脂が発泡しないようにしている。そして、ポリ乳酸系樹脂は、ノズル金型のノズルの出口部11から吐出された直後は、未だに発泡しておらず、吐出されてから僅かな時間が経過した後に発泡を始める。従って、押出発泡体は、ノズル金型のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部と、この未発泡部に連続する、未発泡部に先んじて押出された発泡途上の発泡部とからなる。
【0091】
そして、全ての回転刃5はノズル金型の前端面1aに常時、接触した状態で押出発泡体を切断していることから、押出発泡体は、ノズル金型のノズルの出口部11から吐出された直後の未発泡部において切断されてポリ乳酸系樹脂発泡粒子が製造される。
【0092】
得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、押出発泡体をその未発泡部で切断していることから、切断部の表面には気泡断面は存在しない。そして、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の表面全面は、気泡断面のない表皮層で被覆されている。従って、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、発泡ガスの抜けがなく優れた発泡性を有していると共に連続気泡率も低く、さらに、表面の融着性にも優れている。
【0093】
そして、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を型内発泡成形に用いた時、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の表面は、気泡断面が露出していない表皮層から形成されていることから、発泡粒子同士の融着性が良好であり、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、表面ムラがなく外観に優れていると共に優れた機械的強度を有している。
【0094】
また、前記したように、回転刃5は一定の回転数で回転しているが、回転刃5の回転数は、2000〜10000rpmが好ましく、3000〜9000rpmがより好ましく、4000〜8000rpmが特に好ましい。
【0095】
これは、回転刃5が2000rpmを下回ると、押出発泡体を回転刃5によって確実に切断することができず、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士が合体したり、あるいは、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の形状が不均一となることがあるからである。
【0096】
一方、回転刃5の回転数が10000rpmを上回ると下記の問題点を生じることがあるからである。第一の問題点は、回転刃による切断応力が大きくなって、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子がノズルの出口部から冷却部材に向かって飛散される際に、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の初速が速くなる。その結果、押出発泡体を切断してから、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子が冷却部材に衝突するまでの時間が短くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡が不充分となってポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡倍率が低くなる。第二の問題点は、回転刃および回転軸の摩耗が大きくなって回転刃および回転軸の寿命が短くなるからである。
【0097】
そして、前記のようにして得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、回転刃5による切断応力によって切断と同時に外方あるいは前方に向かって飛散され、冷却ドラム41の周壁部41bのうち周面に直ちに衝突する。ポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、冷却ドラム41に衝突するまでの間も発泡をし続けており、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子は発泡によって略球状に成長している。
【0098】
冷却ドラム41の周壁部41bのうち周面は全面的に冷却液42で被覆されており、冷却ドラム41の周壁部41bのうち周面に衝突したポリ乳酸系樹脂発泡粒子は直ちに冷却されて、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡は停止する。このように、押出発泡体を回転刃5によって切断した後に、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を直ちに冷却液42によって冷却していることから、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度が上昇するのを防止していると共に、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子が過度に発泡するのを防止している。
【0099】
従って、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、型内発泡成形時に優れた発泡性および融着性を発揮する。そして、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を上昇させて、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性を向上させることができ、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、優れた耐熱性を有している。
【0100】
なお、冷却液42の温度は、低いと、冷却ドラム41の近傍に位置するノズル金型が過度に冷却されて、ポリ乳酸系樹脂の押出発泡に悪影響が生じることがある。一方、高いと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を構成しているポリ乳酸系樹脂の結晶化度が高くなり、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の融着性が低下することがあるので、0〜45℃が好ましく、5〜40℃がより好ましく、10〜35℃が特に好ましい。
【0101】
そして、得られるポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度は、30%以下が好ましく、3〜28%がより好ましく、5〜26%が特に好ましい。ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を30%以下とすることによって、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の融着性を向上させ、発泡粒子同士の融着が良好で機械的強度の優れたポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。また、型内発泡成形途上において、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を上昇させてポリ乳酸系樹脂の耐熱性を向上させることができ、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、優れた融着性および耐熱性を有している。
【0102】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度は、ノズル金型から押出発泡体が押出されてからポリ乳酸系樹脂発泡粒子が冷却液42に衝突するまでの時間や、冷却液42の温度によって調整することができる。
【0103】
ここで、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)を用いてJIS K7121に記載の測定方法に準拠して10℃/分の昇温速度にて昇温しながら測定された1mg当たりの発熱量および1mg当たりの融解熱量に基づいて下記式により算出することができる。
【0104】
【数1】

【0105】
このように、本発明では、結晶化度が30%以下のポリ乳酸系樹脂粒子が用いられる。これは、結晶化度が30%を超えるポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、結晶性ポリ乳酸系樹脂の融点である130〜180℃に近い高い耐熱性を有しており、後述するように、60〜99℃の水蒸気でポリ乳酸系樹脂発泡粒子を加熱、発泡させても、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士を良好に融着一体化させることができず、機械的強度および外観性に劣るポリ乳酸系樹脂発泡成形体しか得られないからである。
【0106】
さらに、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を30%以下に限定することによって、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の融着性を確保し、型内発泡成形時に、60〜99℃の水蒸気によって加熱した際のポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士の融着性を良好なものとすることができると共に、型内発泡成形途上において、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の結晶化度を上昇させて、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性を向上させることができ、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体に優れた融着性および耐熱性を付与することができる。
【0107】
このようにして得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子の嵩密度は、小さいと、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の連続気泡率が上昇して、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡粒子に必要な発泡力を付与することができないおそれがある。一方、大きいと、得られるポリ乳酸系樹脂発泡粒子の気泡が不均一となって、型内発泡成形時のポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡性が不充分となることがあるので、0.01〜0.6g/cm3が好ましく、0.015〜0.5g/cm3がより好ましく、0.02〜0.4g/cm3が特に好ましい。
【0108】
なお、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の嵩密度は、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定されたものをいう。具体的には、JIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用い、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡粒子の嵩密度を測定することができる。
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の嵩密度(g/cm3
=〔試料を入れたメスシリンダーの質量(g)−メスシリンダーの質量(g)〕
/〔メスシリンダーの容量(cm3)〕
【0109】
そして、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の連続気泡率は、高いと、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡粒子が殆ど発泡せず、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士の融着性が低くなって、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがあるので、30%以下が好ましく、26%以下がより好ましく、24%以下が特に好ましい。なお、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の連続気泡率の調整は、押出発泡温度および発泡剤量を調整することによって行われる。
【0110】
ここで、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の連続気泡率は下記の要領で測定される。まず、体積測定空気比較式比重計の試料カップを用意し、この試料カップの80%程度を満たす量のポリ乳酸系樹脂発泡粒子の全重量A(g)を測定する。次に、前記ポリ乳酸系樹脂発泡粒子全体の体積B(cm3)を、比重計を用いて1−1/2−1気圧法により測定する。なお、体積測定空気比較式比重計は、例えば、東京サイエンス社から商品名「1000型」にて市販されている。
【0111】
続いて、金網製の容器を用意し、この金網製の容器を水中に浸漬し、この水中に浸漬した状態における金網製の容器の重量C(g)を測定する。次に、この金網製の容器内に前記ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を全量入れた上で、この金網製の容器を水中に浸漬し、水中に浸漬した状態における金網製の容器とこの金網製容器に入れたポリ乳酸系樹脂発泡粒子の全量とを併せた重量D(g)を測定する。
【0112】
そして、下記式に基づいてポリ乳酸系樹脂発泡粒子の見掛け体積E(cm3)を算出し、この見掛け体積Eと前記ポリ乳酸系樹脂発泡粒子全体の体積B(cm3)に基づいて下記式によりポリ乳酸系樹脂発泡粒子の連続気泡率を算出することができる。なお、水1gの体積を1cm3とした。
E=A+(C−D)
連続気泡率(%)=100×(E−B)/E
【0113】
このようにして得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子を金型の成形キャビティ内に充填して加熱し、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を発泡させることによって、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士をそれらの発泡圧によって互いに融着一体化させると共にポリ乳酸系樹脂の結晶化度を上昇させて、融着性および耐熱性に優れた所望形状を有するポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。
また、前記ポリ乳酸系樹脂発泡粒子にさらに不活性ガスを含浸させて、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡力を向上させてもよい。このようにポリ乳酸系樹脂発泡粒子の発泡力を向上させることにより、型内発泡成形時にポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士の融着性が向上し、得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体はさらに優れた機械的強度を有する。なお、前記不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0114】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子に不活性ガスを含浸させる方法としては、例えば、常圧以上の圧力を有する不活性ガス雰囲気下にポリ乳酸系樹脂発泡粒子を置くことによってポリ乳酸系樹脂発泡粒子中に不活性ガスを含浸させる方法が挙げられ、このような場合、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を金型内に充填する前に不活性ガスを含浸させてもよいが、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を金型内に充填した後に金型ごと不活性ガス雰囲気下に置き、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子に不活性ガスを含浸させてもよい。なお、不活性ガスが二酸化炭素である場合、0.1〜1.5MPaGの二酸化炭素雰囲気中にポリ乳酸系樹脂発泡粒子を20分〜24時間に亘って放置することが好ましい。
【0115】
また、前記のように、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子に不活性ガスを含浸させた場合、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子をこのまま、金型内にて加熱、発泡させてもよいが、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を金型内に充填する前に加熱、発泡させて、高発泡倍率のポリ乳酸系樹脂発泡粒子とした上で金型内に充填して加熱、発泡させてもよい。このような高発泡倍率のポリ乳酸系樹脂発泡粒子を用いることによって、高発泡倍率のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得ることができる。なお、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を加熱する加熱媒体としては、乾燥した空気が好ましい。
【0116】
なお、高発泡倍率のポリ乳酸系樹脂発泡粒子とした上で金型内に充填し成形する場合にも、0.1〜1.5MPaGの不活性ガス雰囲気、好ましくは二酸化炭素中にポリ乳酸系樹脂発泡粒子を20分〜24時間に亘って置いて、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子中に不活性ガスを含浸させて発泡性を向上させておくことが好ましい。
【0117】
そして、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を発泡させて高発泡倍率の発泡粒子とする際の温度としては、高いと、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度が上昇し、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子同士の融着性が低下して得られるポリ乳酸系樹脂発泡成形体の機械的強度および外観性が低下するので、70℃未満が好ましい
【0118】
(ポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法)
本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内にポリエステル系樹脂発泡粒子を供給し、次いで発泡成形することによって得ることができる。本発明では、発泡成形用金型(本発明においては、雌雄両金型とも称する)から同時または別々に減圧する必要があるため、型内発泡成形機には真空ポンプ等の減圧装置を取り付けることが好ましい。減圧装置は型内発泡成形機毎に取り付けても良く、複数台の型内発泡成形機で共有した設備として取り付けても良い。また、金型内を速やかに効率良く減圧できるよう、予め大容量の減圧状態を作っておく真空タンクを設けても良い。
【0119】
本発明で用いられる型内発泡成型機は、一般的な熱可塑性樹脂発泡成形体の型内発泡成形機を用いることができる。型内発泡成形機の種類としては、テーブル成形機やオートクレーブ成形機、自動成形機等が挙げられる。自動成形機の例としては積水工機製作所製ACE成形機やWIZ成形機、ダイセン工業社製VS成形機やQMC成形機、笠原工業社製PEONY成形機、東洋機械金属社製TH成形機やFU成形機等、特に限定することなく用いられる。
【0120】
本発明で用いられる金型は特に限定されず、従来の型内発泡成形用の密閉し得ない雌雄一対の金型を用いることができる。金型には金型の成形キャビティ内と金型外部とを連通させた水蒸気の供給口を設けることが好ましい。なお、供給口は、金型内に充填したポリエステル系樹脂発泡粒子がこの供給口を通じて金型外に流出しないように形成されている一方、金型の供給口を通じて金型外から成形キャビティ内に水蒸気を円滑に供給することができることが好ましい。
【0121】
なお、金型を形成している材料としては、特に限定されず、例えば、鉄系金属、アルミニウム系金属、銅系金属、亜鉛系金属等が挙げられ、熱伝導性および加工性の観点からアルミニウム系金属が好ましい。
【0122】
金型には、雌雄両金型ともに加熱媒体としての水蒸気と冷却媒体としての冷却水の供給口と、金型下部に蒸気ドレン等を排出するための排出口を設けることが好ましい。水蒸気の供給配管と冷却水の供給配管には供給弁が、またドレン等の排出配管(以下ドレン配管とも呼ぶ)にはドレン弁がそれぞれ設けられる。また、水蒸気の供給配管には蒸気圧を調整するための調圧弁を設けることが好ましい。
【0123】
金型内の減圧は雌雄両金型それぞれの排出配管から分岐させた配管(以下真空配管とも呼ぶ)に接続された真空ポンプ等の減圧装置によって行われる。真空配管には雌雄両金型と減圧装置との間にそれぞれ真空弁が設けられる。
【0124】
本発明のポリエステル系樹脂発泡体は、一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を、次の工程:
(1)水蒸気を一方の金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる一方加熱工程;および
(2)水蒸気を工程(1)において減圧を行った金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる逆一方加熱工程
により、型内成形することによって得ることができる。
【0125】
また、本発明の製造方法は、次の工程:
(3)水蒸気を両方の金型から成形キャビティ内に導入する両面加熱工程
を含むことが好ましい。
【0126】
まず、工程(1)について説明する。蒸気チャンバー内の圧力は、減圧が不十分な場合、金型内に蒸気を導入した際に、蒸気温度が十分に下がらないことがあるため、0MPaG未満に減圧できることが好ましく、−0.06MPaG以下に減圧できることがより好ましく、−0.08MPa以下に減圧できることがさらに好ましい。
【0127】
本発明において、蒸気チャンバー内の圧力は、金型から直接および/あるいは金型に接続されたドレン配管において測定される圧力を意味する。また、本発明の製造工程中、蒸気導入側の蒸気チャンバー、蒸気弁二次側の蒸気配管、ドレン配管等の圧力は略同一である。同様に減圧側の蒸気チャンバー、蒸気弁二次側の蒸気配管、ドレン配管等の圧力は略同一である。また、蒸気チャンバー内の圧力は蒸気弁、ドレン弁および真空弁のような発泡成形機内を密閉状態とする圧力弁の開閉によって適宜調節される。
【0128】
また、減圧時間が長いと、成形サイクルが長くなるだけでなく、ポリエステル系樹脂発泡粒子の発泡力が低下し、発泡成形体が成形後に収縮することがある。このため、減圧時間は20秒以内が好ましく、15秒以内がより好ましく、10秒以内がさらに好ましい。
【0129】
本発明において、減圧時間とは、成形キャビティ内に発泡粒子を充填後、金型内に蒸気を導入する前に予め金型内を減圧しておく時間を意味する。
【0130】
雌雄両金型内が減圧された後に、一方の金型内を減圧しつつ、もう一方の金型に水蒸気を導入する。ここで、導入された水蒸気が、成形キャビティ内に充填されたポリエステル系樹脂発泡粒子同士の隙間を通じて、他方の金型に吸引されていく。その際、金型内を通過する蒸気により、ポリエステル系樹脂発泡粒を全体的に加熱することができる。
【0131】
この際、蒸気導入側の金型チャンバーの圧力と減圧側の金型チャンバーの圧力は、成形キャビティに設けられた蒸気孔の抵抗や成形キャビティ内に充填された発泡粒子の抵抗により、同一の圧力にはならないことがある。
【0132】
また、工程(1)における加熱の温度は、融着が良く外観に優れたポリエステル系樹脂発泡成形体を得るため、ポリエステル系樹脂発泡粒子の結晶化温度以下であり、かつポリエステル系樹脂が軟化し十分に発泡し得る温度以上にすることが好ましい。
【0133】
金型チャンバーから成形キャビティ内に導入される水蒸気の温度は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、60〜99℃が好ましく、70〜95℃がより好ましく、80〜92℃がさらに好ましい。
【0134】
同様に、発泡粒子が充填された成形キャビティ内の温度も、60〜99℃が好ましく、70〜95℃がより好ましく、80〜92℃がさらに好ましい。
【0135】
本発明において、金型チャンバー内の温度は熱電対等によって測定された金型チャンバー内の空中の温度を意味する。また、成形キャビティ内の温度は、蒸気導入側の金型チャンバー内の温度と減圧側の金型チャンバー内の温度の平均値としている。本発明の製造工程中、蒸気導入側の蒸気チャンバー、蒸気弁二次側の蒸気配管、ドレン配管等の温度は略同一である。同様に減圧側の蒸気チャンバー、蒸気弁二次側の蒸気配管、ドレン配管等の温度は略同一である。また、成形キャビティおよび蒸気チャンバー内の温度は蒸気弁、ドレン弁および真空弁のような発泡成形機内を密閉状態とする圧力弁の開閉によって適宜調節される。
【0136】
また、導入する蒸気の圧力は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、0.005〜0.08MPaGが好ましく、0.01〜0.06MPaGがより好ましく、0.015〜0.04MPaGがさらに好ましい。
【0137】
蒸気は両金型を減圧した後に導入される。金型が減圧される前に蒸気を導入すると、蒸気温度が高いままとなり、成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり好ましくない。両金型内が減圧された後に、一方の金型内を減圧しつつ、もう一方の金型に水蒸気を導入する。
【0138】
減圧する側の蒸気チャンバー内の圧力は、減圧が不十分な場合、金型内に蒸気を導入した際に、蒸気温度が十分に下がらないことがあり、また成形キャビティ内の発泡粒子間の空隙に蒸気を十分に通過させることが出来ず加熱不足になることがあるため、−0.04MPaG以下が好ましく、−0.06MPaG以下がより好ましく、−0.08MPaG以下がさらに好ましい。
【0139】
蒸気が導入された側の圧力は、高いと蒸気温度が高いままとなり、成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり好ましくないため、−0.08〜−0.01MPaGが好ましく、−0.06〜−0.02MPaGがより好ましく、−0.05〜−0.025MPaGがさらに好ましい。金型チャンバー内の圧力は温度が60〜99℃、より好ましくは70〜95℃、さらに好ましくは80〜92℃の範囲となるよう適宜調整される。
【0140】
ここで、ポリエステル系樹脂発泡粒子が加熱されるに従い、発泡粒子間の空隙が埋まってくると、水蒸気が発泡粒子間を通過できなくなり、水蒸気導入側の金型内圧力が上昇してくる。
【0141】
工程(1)における加熱としてはこの段階で十分であり、これ以上加熱すると加熱のし過ぎで成形体の表面が収縮したりすることがあり、またこの段階より前に加熱を止めると成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがある。従って、加熱時間は水蒸気導入側の金型内圧力が上昇してきた段階で十分であり、5〜50秒が好ましく、10〜40秒がより好ましく、15〜30秒がさらに好ましい。
【0142】
本発明において、加熱時間とは、蒸気を金型チャンバーに導入している時間を意味する。
【0143】
次に工程(2)について説明する。前述した工程(1)と同様に、金型内の減圧は、不十分な場合、金型内に蒸気を導入した際に、蒸気温度が十分に下がらないことがあるため、0MPaG未満に減圧できることが好ましく、−0.06MPaG以下がより好ましく、−0.08MPaG以下がさらに好ましい。
【0144】
前述した工程(1)とは逆の金型内を減圧しつつ、もう一方の金型に水蒸気を導入する。ここで、導入された水蒸気が、成形キャビティ内に充填されたポリエステル系樹脂発泡粒子同士の隙間を通じて、他方の金型に吸引されていく。その際、金型内を通過する蒸気により、ポリエステル系樹脂発泡粒を全体的に加熱することができる。
また、工程(1)における蒸気の導入により工程(2)における蒸気導入側の減圧が不十分となっている場合には、蒸気導入前に両金型を減圧しても良い。
【0145】
金型チャンバーから成形キャビティ内に導入される水蒸気の温度は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、60〜99℃が好ましく、70〜95℃がより好ましく、80〜92℃がさらに好ましい。
【0146】
また導入する蒸気の圧力は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、0.005〜0.08MPaGが好ましく、0.01〜0.06MPaGがより好ましく、0.015〜0.04MPaGがさらに好ましい。
【0147】
減圧する側の蒸気チャンバー内の圧力は、減圧が不十分な場合、金型内に蒸気を導入した際に、蒸気温度が十分に下がらないことがあり、また成形キャビティ内の発泡粒子間の空隙に蒸気を十分に通過させることが出来ず加熱不足になることがあるため、−0.04MPaG以下が好ましく、−0.06MPaG以下がより好ましく、−0.08MPaG以下がさらに好ましい。
【0148】
蒸気が導入された側の圧力は、高いと蒸気温度が高いままとなり、成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり好ましくないため、−0.08〜−0.01MPaGが好ましく、−0.06〜−0.02MPaGがより好ましく、−0.05〜−0.025MPaGがさらに好ましい。金型チャンバー内の圧力は温度が60〜99℃、より好ましくは70〜95℃、さらに好ましくは80〜92℃の範囲となるよう適宜調整される。
【0149】
ここで、ポリエステル系樹脂発泡粒子が加熱されるに従い、発泡粒子間の空隙が埋まってくると、水蒸気が発泡粒子間を通過できなくなり、水蒸気導入側の金型内圧力が上昇してくる。
【0150】
工程(2)における加熱としてはこの段階で十分であり、これ以上加熱すると加熱のし過ぎで成形体の表面が収縮したりすることがあり、またこの段階より前に加熱を止めると成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがある。また、工程(2)においては先の工程(1)で既に加熱していることから、金型内圧力の上昇は工程(1)に比べて早く起こるため、加熱時間としては、2〜40秒が好ましく、3〜30秒がより好ましく、4〜20秒がさらに好ましい。
【0151】
本発明においては、発泡成形体の所望の物性に影響を与えない限り、工程(1)と工程(2)との間で、成形キャビティ内の圧力、加熱時間および成形キャビティ内の温度は同一であってよく、また、それぞれ、0.06MPaG、40秒および20℃程度の差異があってもよい。
【0152】
次に工程(3)について説明する。前述した(1)および工程(2)では、融着に優れた成形体を得るために、加熱温度を60〜99℃としている。しかし工程(3)では、ポリエステル系樹脂の結晶化度を上げて耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、結晶化温度以上の温度で加熱することが好ましい。但し、この場合でも、金型内における水蒸気の温度は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、90〜120℃が好ましく、92〜115℃がより好ましく、95〜110℃がさらに好ましい。
【0153】
また、導入する蒸気の圧力は、高いと成形体の表層だけが先に融着し内部に水蒸気が通らなくなったり、加熱し過ぎて成形体の表面が収縮したりすることがあり、また低いと成形体の融着が悪くなったり、表面伸びが悪く外観が劣ることがあるので、0.02〜0.1MPaGが好ましく、0.03〜0.07MPaGがより好ましく、0.04〜0.06MPaGがさらに好ましい。
【0154】
加熱の時間は、短いと結晶化度が上がらずに発泡成形体の耐熱が得られないことがあり、長いと発泡成形体が収縮することがあるので、3〜30秒が好ましく、5〜20秒がより好ましく、8〜15秒がさらに好ましい。
【0155】
そして、得られたポリエステル系樹脂発泡成形体の結晶化度は、低いと、ポリエステル系樹脂発泡成形体の耐熱性が低下する一方、高いと、ポリエステル系樹脂発泡成形体が脆くなることがあるので、好ましくは30〜60%、より好ましくは32〜59%、特に好ましくは34〜58%となるように型内発泡成形条件を調整するのがよい。なお、ポリエステル系樹脂発泡成形体の結晶化度は、ポリエステル系樹脂発泡粒子の結晶化度の測定方法と同様であるのでその説明を省略する。
【0156】
他方、工程(1)〜(3)を行う前に、水蒸気をより均一に成形キャビティ内を通過させることができるため、成形キャビティ内は予め所定の減圧下に置かれていることが好ましい。
【0157】
そして、ポリエステル系樹脂発泡粒子を加熱して型内発泡成形を行った後、金型内に形成されたポリエステル系樹脂発泡成形体を冷却した上で金型を開放して所望形状を有するポリエステル系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0158】
金型内に形成されたポリエステル系樹脂発泡成形体の冷却は、高いと、金型内のポリエステル系樹脂発泡粒子が充分に固化しておらず、金型から取り出した時に膨らんで金型の成形キャビティの形状通りのポリエステル系樹脂発泡成形体とならないおそれがあるので、ポリエステル系樹脂発泡成形体の表面温度が好ましくは50℃以下となるように、より好ましくは0〜45℃となるように、特に好ましくは0〜40℃となるように、最も好ましくは0〜35℃となるように冷却する。
【0159】
ここで、金型内に形成されたポリエステル系樹脂発泡成形体を冷却する方法としては、特に限定されないが、
(1)金型を50℃以下の雰囲気中に放置する方法;
(2)金型に50℃以下の水または空気を吹き付ける方法;
(3)金型を50℃以下の水中に浸漬させる方法
が挙げられる。複雑な形状の金型であっても金型全体を均一に冷却することができることから、前記(2)あるいは(3)の冷却方法が好ましい。なお、冷却時間は、冷却方法や金型の大きさ等に応じて適宜、調整されればよく、例えば、50℃以下の水中に金型を浸漬させる場合には、1〜10分が好ましい。また、水により冷却した後に、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態とし、水の蒸発潜熱により金型を冷却してもよい。
【0160】
本発明の製造方法はポリエステル系樹脂発泡体を均一に発泡成形することができるため、得られるポリエステル系樹脂発泡成形体は、20〜100mm、好ましくは20〜80mm、より好ましくは20〜60mmの厚みを有することもできる。本発明によれば、前記のような大きな厚みを有するポリエステル系樹脂発泡成形体であっても、その内部と表層において、品質の差異を小さくすることができる。
【0161】
具体的には、ポリエステル系樹脂発泡成形体の内部の融着率(本発明においては、内部融着率とも称する)は、50〜100%、好ましくは60〜90%とすることができ、その表層の融着率(本発明においては、表層融着率とも称する)は好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜90%とすることができる。
【0162】
また、発泡成形体の表層融着率(X(%))と発泡成形体の内部融着率(Y(%))とは、下記式(I):
0%≦X−Y≦50% (I)
を満たし、好ましくは下記式(II):
0%≦X−Y≦40% (II)
を満たし、好ましくは下記式(III):
0%≦X−Y≦30% (III)
を満たす。このことは、発泡成形体の表層と内部の強度が大きく異ならないことを示している。
【0163】
他方、ポリエステル系樹脂発泡成形体の全体としての融着率(本発明においては、全体融着率とも称する)は、好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜90%とすることができる。
【0164】
なお、本発明において、発泡成形体の表層とは、発泡成形体の表皮から成形体の厚みの20%内側までの部分が、発泡成形体の内部とは、発泡成形体の表裏の二つの表層に挟まれた部分が意味される。ただし、発泡成形体の厚みに対し発泡粒子径が大きく、一粒で成形体厚みの20%を超える場合には、発泡粒子一粒分の厚みをその発泡成形体の表層とする。
【0165】
また、ポリエステル系樹脂発泡成形体の密度は、好ましくは0.01〜0.6g/cm3、より好ましくは0.015〜0.5g/cm3、さらに好ましくは0.02〜0.4g/cm3とすることができる。
【0166】
また、ポリエステル系樹脂発泡成形体の落球衝撃強度は、好ましくは10〜20cm、より好ましくは12〜20cmとすることができる。このことは本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は機械的強度に優れていることを示している。
【0167】
前記のポリエステル系樹脂発泡成形体の融着率および密度は、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、その内部と表層において品質面で差異を有さず、実質的に均質な発泡成形体であることを示している。また、本発明の製造方法によれば、過発泡や不均一発泡等が認められないため、ポリエステル系樹脂発泡成形体の表面も美麗である。
【0168】
よって、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れた樹脂発泡成形体である。従って、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野でのバンパー用芯材、嵩上げ材、ティビアパットおよびツールボックスのような自動車用構造部材として幅広く使用することができる。
【実施例】
【0169】
以下実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
(ポリ乳酸系樹脂のD体またはL体の乳酸含有量)
ポリ乳酸系樹脂中におけるD体またはL体の乳酸含有量は以下の方法によって測定することができる。
ポリ乳酸系樹脂を凍結粉砕し、ポリ乳酸系樹脂の粉末200mgを三角フラスコ内に供給した後、三角フラスコ内に1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mLを加える。そして、三角フラスコを振りながら65℃に加熱してポリ乳酸系樹脂を完全に溶解させる。しかる後に、1N塩酸を三角フラスコ内に供給して中和し、pHが4〜7の分解溶液を作製し、メスフラスコを用いて所定の体積とする。次に、分解溶液を0.45μmのメンブレンフィルタで濾過した後、液体クロマトグラフィを用いて分析し、得られるチャートに基づいてD体およびL体由来のピーク面積から面積比を存在比としてD体量およびL体量を算出する。そして、前記と同様の要領を5回繰り返して行い、得られるD体量およびL体量をそれぞれ相加平均して、ポリ乳酸系樹脂のD体量およびL体量とする。
【0170】
液体クロマトグラフィの測定条件
HPLC装置(液体クロマトグラフィ):日本分光社製 製品名PU−2085 Plus型システム
カラム:住友分析センター社製 製品名SUMICHIRAL OA5000(4.6mmφ×250mm)
カラム温度:25℃
移動相:2mM CuSO4水溶液と2−プロパノールとの混合液(CuSO4水溶液:2−プロパノール(体積比)=95:5)
移動相流量:1.0mL/分
検出器:UV 254nm
注入量:20μL
【0171】
(ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量)
各実施例および比較例において発泡剤を用いないこと以外は同様の要領にてポリ乳酸系樹脂粒子を作製し、得られるポリ乳酸系樹脂粒子約30mgをクロロホルム10mLに溶解し、非水系0.45μmクロマトディスクでろ過後、HPLC装置(液体クロマトグラフ)(Water社製 製品名「Detector484、Pump510」)を用いてポリスチレン換算重量平均分子量を測定する。
なお、測定条件としては、
カラム:昭和電工社製 製品名「Shodex GPC K−806L」(φ8.0mm×300mm)2本
カラム温度:40℃
移動相:クロロホルム
移動相流量:1.2mL/分
注入・ポンプ温度:室温
検出:UV254nm
注入量:50mL
検量線用標準ポリスチレン:
昭和電工社製 製品名「Shodex」重量平均分子量1030000
東ソー社製 重量平均分子量5480000、3840000、355000、102000、37900、9100、2630、495
【0172】
(ポリ乳酸系樹脂の結晶化度)
ポリ乳酸系樹脂の結晶化度測定は、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子3粒を、示差走査熱量計(DSC)を用いてJIS K7121に記載の測定方法に準拠して10℃/分の昇温速度にて昇温しながら測定される1mg当たりの発熱量および1mg当たりの融解熱量に基づいて下記式により算出する。
【数2】

【0173】
<発泡成形体の密度>
発泡成形体の密度は、発泡成形体から直方体を切り出し、ノギスを用いて縦、横、高さを測定して体積を算出し、そのサンプルの重量を体積で除して算出する(g/cm3)。
【0174】
(発泡成形体の融着率)
樹脂発泡成形体を折り曲げて所定箇所から切断する。
(全体融着率)
樹脂発泡成形体の切断面に露出している発泡粒子の全粒子数N1を目視により数えると共に、材料破壊した発泡粒子、即ち、分割された発泡粒子の粒子数N2を目視により数え、下記式に基づいて発泡成形体全体の融着率を算出することができる。
全体融着率(%)=100×材料破壊した発泡粒子の粒子数N2/発泡粒子の全粒子数N1
(表層融着率)
上記発泡成形体の表皮から成形体厚みの20%内側までの範囲で、全体融着率と同様の測定を行い、発泡成形体表層の融着率を算出することができる。ただし、発泡成形体の厚みに対し発泡粒子径が大きく、一粒で成形体厚みの20%を超える場合には、発泡粒子一粒分の厚みをその発泡成形体の表層として算出する。
(内部融着率)
上記発泡成形体の表裏二つの表層に挟まれた範囲で、全体融着率と同様の測定を行い、発泡成形体内部の融着率を算出することができる。
【0175】
本発明においては、全体融着率が
(1)60%以上の場合:合格(○)
(2)60%未満の場合:不合格(×)
と判定する。
【0176】
(発泡成形体の落球衝撃強度(落球試験))
JIS K 7211に準拠し、所定の倍数の発泡成形体から切り出した215mm(長さ)×40mm(幅)×20mm(厚さ)の試験片を支点間の間隔150mmの上に載置して、321gの剛球を落とし、落球衝撃強度、即ち、50%破壊高さを次の計算式により算出する。なお、試験片は、6面とも表皮はないものとする。
H50=Hi+d[Σ(i・ni)/N±0.5]
H50:50%破壊高さ(cm)
Hi:高さ水準(i)が0のときの試験高さ(cm)であり、試験片が破壊することが予測される高さ
d:試験高さを上下させるときの高さ間隔(cm)
i:Hiのときを0とし、1つずつ増減する高さ水準
(i=…−3、−2、−1、0、1、2、3…)
ni:各水準において破壊した(または破壊しなかった)試験片の数
N:破壊した(または破壊しなかった)試験片の総数(N=Σni)(いずれか多いほうのデータを使用する。なお、同数の場合はどちらを使用してもよい)
±0.5:破壊したデータを使用するときは負を、破壊しなかったデータを使用するときは正をとる。
【0177】
本発明においては、発泡成形体の密度が0.08g/cm3未満のとき
(1)10cm以上の場合:合格(○)
(2)10cm未満の場合:不合格(×)
また、発泡成形体の密度が0.08g/cm3以上のとき
(1)12cm以上の場合:合格(○)
(2)12cm未満の場合:不合格(×)
と判定する。
【0178】
(発泡成形体の外観)
本発明においては、発泡成形体表面の発泡粒子間の伸びおよび発泡粒子の収縮について目視にて判定を行う。
(1)表面伸びおよび収縮が共に見られない場合:合格(○)
(2)表面伸びおよび収縮の一方でも見られる場合:不合格(×)
と判定する。
【0179】
(ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造例)
図1および図2に示した製造装置を用いて型内発泡成形用ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造した。まず、結晶性のポリ乳酸系樹脂(ユニチカ社製 商品名「TERRAMAC HV−6250H」、融点(mp):169.1℃、D体比率:1.2モル%、L体比率:98.8モル%、動的粘弾性測定にて得られた、貯蔵弾性率曲線と損失弾性率曲線との交点における温度T:138.8℃)100質量部および気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(旭硝子社製 商品名「フルオンL169J」)0.1質量部を口径が65mmの単軸押出機に供給して溶融混練した。なお、単軸押出機内において、ポリ乳酸系樹脂を始めは190℃にて溶融混練した後に220℃まで昇温させながら溶融混練した。
【0180】
続いて、単軸押出機の途中から、イソブタン35質量%およびノルマルブタン65質量%からなるブタンをポリ乳酸系樹脂100質量部に対して1.0質量部となるように溶融状態のポリ乳酸系樹脂に圧入して、ポリ乳酸系樹脂中に均一に分散させた。
しかる後、溶融状態のポリ乳酸系樹脂を冷却した後、単軸押出機の前端に取り付けたマルチノズル金型の各ノズルから剪断速度7639秒-1でポリ乳酸系樹脂を押出発泡させた。なお、マルチノズル金型は、出口部11の直径が1.0mmのノズルを10個有しており、ノズルの出口部11は全て、マルチノズル金型の前端面1aに想定した、直径が139.5mmの仮想円A上に等間隔毎に配設されていた。マルチノズル金型は200℃に保持されていた。
【0181】
そして、回転軸2の後端部外周面には、4枚の回転刃5が回転軸2の周方向に等間隔毎に一体的に設けられており、各回転刃5はマルチノズル金型の前端面1aに常時、接触した状態で仮想円A上を移動するように構成されていた。
さらに、冷却部材4は、正面円形状の前部41aと、この前部41aの外周縁から後方に向かって延設されかつ内径が315mmの円筒状の周壁部41bとからなる冷却ドラム41を備えていた。そして、供給管41dおよびドラム41の供給口41cを通じて冷却ドラム41内に冷却水42が供給されており、周壁部41bの内面全面には、この内面に沿って20℃の冷却水42が前方に向かって螺旋状に流れていた。
【0182】
そして、マルチノズル金型の前端面1aに配設した回転刃5を4800rpmの回転数で回転させてあり、マルチノズル金型の各ノズルの出口部11から押出発泡されたポリ乳酸系樹脂押出物を回転刃5によって切断して略球状のポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造した。ポリ乳酸系樹脂押出物は、マルチノズル金型のノズルから押出された直後の未発泡部と、この未発泡部に連続する発泡途上の発泡部とからなっていた。そして、ポリ乳酸系樹脂押出物は、ノズルの出口部11の開口端において切断されており、ポリ乳酸系樹脂押出物の切断は未発泡部において行われていた。
なお、前記のポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造にあたっては、まず、マルチノズル金型に回転軸2を取り付けずかつ冷却部材4をマルチノズル金型から退避させておいた。この状態で、押出機からポリ乳酸系樹脂押出物を押出発泡させ、ポリ乳酸系樹脂押出物が、マルチノズル金型のノズルから押出された直後の未発泡部と、この未発泡部に連続する発泡途上の発泡部とからなることを確認した。次に、マルチノズル金型に回転軸2を取り付けかつ冷却部材4を所定位置に配設した後、回転軸2を回転させ、ポリ乳酸系樹脂押出物をノズルの出口部11の開口端において回転刃5で切断してポリ乳酸系樹脂発泡粒子を製造した。
【0183】
このポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、回転刃5による切断応力によって外方あるいは前方に向かって飛ばされ、冷却部材4の冷却ドラム41の内面に沿って流れている冷却水42に衝突して直ちに冷却された。
冷却されたポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、冷却ドラム41の排出口41eを通じて冷却水42と共に排出された後、脱水機にて冷却水42と分離された。得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、嵩密度が0.19g/cm3で、その粒径が2.2〜2.6mmであった。
【0184】
(実施例1)
前述した製造例で得られたポリ乳酸系樹脂発泡粒子を密閉容器内に入れ、この密閉容器内に二酸化炭素を1.0MPaGの圧力で圧入して常温にて6時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡粒子に二酸化炭素を含浸した。
前記ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を密閉容器から取り出し、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を60℃の乾燥した熱風で3分間に亘って加熱して発泡させ、嵩密度が0.054g/cm3、結晶化度が23.0%、連続気泡率が4.4%のポリ乳酸系樹脂高倍発泡粒子を得た。
次いで、前記ポリ乳酸系樹脂高倍発泡粒子を密閉容器内に入れ、この密閉容器内に二酸化炭素を0.3MPaGの圧力で圧入して常温にて4時間に亘って放置してポリ乳酸系樹脂発泡粒子に二酸化炭素を含浸した。
【0185】
型内発泡成形機としては発泡スチロール自動成形機であるWIZ12型成形機(積水工機株式会社製)を用いた。
成形に用いた発泡成形用金型はアルミニウム合金製で、キャビティ金型とコア金型の雌雄一対からなり、それぞれインナープレートに取り付けられ、インナープレートと金型アダプターとバックプレートを組み合わせてなるチャンバーを有していた。なお、金型アダプターには雌雄それぞれに、水蒸気の供給配管と供給弁、冷却水の供給配管と供給弁、および排水用の配管が取り付けられていた。排水用配管にはドレンを外部に排出する排出弁と、排水用配管から分岐し真空ポンプにつながった真空弁が取り付けられていた。
次いで、二酸化炭素が含浸されたポリ乳酸系樹脂高倍発泡粒子を金型の成形キャビティ内に充填した。なお、金型は成形キャビティの形状が縦300×横400×厚み50mmの平板形状であった。また、金型に、この金型の成形キャビティ内と金型外部とを連通させるために、直径が8mmの円形状の供給口を25mm間隔毎に形成した。なお、供給口には、幅1mmのスリット部を複数、形成してあり、金型内に充填したポリ乳酸系樹脂発泡粒子がこの供給口を通じて金型外に流出しないように形成されている一方、金型の供給口を通じて金型外から成形キャビティ内に水蒸気を円滑に供給することができるように構成されていた。
【0186】
続いて、工程(1)として、真空ポンプを用いて雌雄両金型を−0.06MPaGまで5秒間で減圧した後に、金型Lの減圧は続けたままで金型Rの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.015MPaGの水蒸気を20秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型L内の圧力は−0.04MPaGであり、金型R内の圧力は−0.02MPaGであり金型Rの温度は93℃であった。
【0187】
次いで、工程(2)として、金型Rへの水蒸気の導入を止めると同時に金型Rの真空弁を開けて、金型Rの減圧を続けたままで、金型Lの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.015MPaGの水蒸気を8秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型R内の圧力は−0.04MPaGであり、金型L内の圧力は−0.01MPaGであり金型Lの温度は95℃であった。
【0188】
続いて工程(3)として、雌雄両金型の真空弁を閉じて密閉状態とした後に、雌雄両金型に0.06MPaGの蒸気を10秒間導入し加熱した。加熱終了時の両金型内の圧力は0.06MPaGであり金型温度は105℃であった。
【0189】
次に冷却水を雌雄両金型内に10秒間導入し金型を冷却した後に、真空ポンプを用いて金型内を減圧し水の蒸発潜熱で金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
十分に冷却した後に、金型を開放して平板形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は外観良好で、その密度が0.054g/cm3で、結晶化度が48.8%で、表層融着率80%、内部融着率70%、全体融着率が77%であった。
【0190】
(実施例2)
工程(1)として、真空ポンプを用いて雌雄両金型を−0.08MPaGまで10秒間で減圧した後に、金型Lの減圧は続けたままで金型Rの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.015MPaGの水蒸気を20秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型L内の圧力は−0.05MPaGであり、金型R内の圧力は−0.02MPaGであり金型Rの温度は91℃であった。
【0191】
次いで、工程(2)として、金型Rへの水蒸気の導入を止めると同時に金型Rの真空弁を開けて、金型Rの減圧を続けたままで、金型Lの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.015MPaGの水蒸気を8秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型R内の圧力は−0.04MPaGであり、金型L内の圧力は−0.02MPaGであり金型Lの温度は93℃であった。
【0192】
続いて工程(3)として、雌雄両金型の真空弁を閉じて密閉状態とした後に、雌雄両金型に0.06MPaGの蒸気を10秒間導入し加熱した。加熱終了時の両金型内の圧力は0.06MPaGであり金型温度は105℃であった。
【0193】
次に冷却水を雌雄両金型内に10秒間導入し金型を冷却した後に、真空ポンプを用いて金型内を減圧し水の蒸発潜熱で金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
十分に冷却した後に、金型を開放して平板形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は外観良好で、その密度が0.054g/cm3で、結晶化度が48.5%で、表層融着率80%、内部融着率70%、全体融着率が77%であった。
【0194】
実施例3
工程(1)として、真空ポンプを用いて雌雄両金型を−0.06MPaGまで5秒間で減圧した後に、金型Lの減圧は続けたままで金型Rの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.03MPaGの水蒸気を15秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型L内の圧力は−0.04MPaGであり、金型R内の圧力は−0.01MPaGであり金型Rの温度は96℃であった。
【0195】
次いで、工程(2)として、金型Rへの水蒸気の導入を止めると同時に金型Rの真空弁を開けて、金型Rの減圧を続けたままで、金型Lの真空弁を閉じて減圧を止めると同時に0.03MPaGの水蒸気を5秒間導入し加熱した。加熱終了時の金型R内の圧力は−0.03MPaGであり、金型L内の圧力は−0.005MPaGであり金型Lの温度は98℃であった。
【0196】
続いて工程(3)として、雌雄両金型の真空弁を閉じて密閉状態とした後に、雌雄両金型に0.06MPaGの蒸気を10秒間導入し加熱した。加熱終了時の両金型内の圧力は0.06MPaGであり金型温度は106℃であった。
【0197】
次に冷却水を雌雄両金型内に10秒間導入し金型を冷却した後に、真空ポンプを用いて金型内を減圧し水の蒸発潜熱で金型内のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を冷却した。
十分に冷却した後に、金型を開放して平板形状のポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は外観良好で、その密度が0.054g/cm3で、結晶化度が49.2%で、表層融着率70%、内部融着率60%、全体融着率が66%であった。
【0198】
(比較例1)
工程(1)および(2)で金型内を減圧しないこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。工程(1)および(2)における金型内温度は金型R、Lともに104℃であり、工程(3)における金型内温度は111℃であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は全体的に収縮し、外観も融けや発泡粒の陥没が見られ、また融着は表層から8mm程度の厚みまで融着していたが、中心部は全く融着しておらず、発泡粒子がこぼれ落ち発泡成形体の内部が空洞化した。表層融着率は20%であった。
【0199】
(比較例2)
工程(1)で金型内を減圧しないこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。工程(1)における金型R内温度は104℃であり、(2)における金型L内温度は98℃であり、工程(3)における金型内温度は109℃であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、外観は、金型L側は良好であったが、金型R側は発泡成形体の表面に融けや収縮が見られた。また融着に関しては、金型L側は表層から10mm程度の厚みまで融着していたが、金型L側は表面の発泡粒子だけしか融着しておらず中心部は全く融着しておらず、発泡粒子がこぼれ落ち発泡成形体の内部が空洞化した。表層融着率は30%であった。
【0200】
(比較例3)
工程(2)で金型内を減圧しないこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂発泡成形体を得た。工程(1)における金型R内温度は93℃であり、(2)における金型L内温度は102℃であり、工程(3)における金型内温度は108℃であった。得られたポリ乳酸系樹脂発泡成形体は、外観は、金型R側は良好であったが、金型L側は発泡成形体の表面に融けや収縮が見られた。また融着に関しては、金型R側は表層から20mm程度の厚みまで融着していたが、金型L側は表面の発泡粒子だけしか融着しておらず中心部は全く融着しておらず、発泡粒子がこぼれ落ち発泡成形体の内部が空洞化した。表層融着率は40%であった。
【0201】
表1に実施例および比較例の評価結果を示す。
【0202】
【表1】

【0203】
表1に記載の樹脂発泡成形体の評価結果から、実施例で得られたものは比較例のものと比べて、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は、樹脂発泡粒子同士の融着性、外観および機械的強度に優れていることを示している。よって、本発明によれば、前記のような品質面でばらつきの少ない高品質なポリエステル系樹脂発泡成形体を効率良く安定に製造することができる。
【0204】
このため、本発明のポリエステル系樹脂発泡成形体は土木、建築、園芸分野等での構造部材、自動車分野でのバンパー用芯材、嵩上げ材、ティビアパットおよびツールボックスのような自動車用構造部材として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0205】
1 ノズル金型
1a ノズル金型の前端面
2 回転軸
3 駆動部材
4 冷却部材
5 回転刃
11 ノズルの出口部
41 冷却ドラム
41a 冷却ドラムの前部
41b 冷却ドラムの周壁部
41c 冷却ドラムの供給口
41d 冷却ドラムの供給管
41e 冷却ドラムの排出口
41f 冷却ドラムの排出管
42 冷却ドラムの冷却液
A 回転刃フォルダー
【0206】
a1 蒸気弁L
a2 金型L
a3 蒸気チャンバーL
a4 ドレン弁L
a5 蒸気弁R
a6 金型R
a7 蒸気チャンバーR
a8 成形キャビティ
a9 真空弁L
a10 真空弁R
a11 真空ポンプ
a12 ドレン弁R

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の発泡成形用金型を閉鎖して形成される成形キャビティ内のポリエステル系樹脂発泡粒子を、次の工程:
(1)前記一対の発泡成形用金型および前記成形キャビティ内を減圧した後に、水蒸気を一方の金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる一方加熱工程;および
(2)水蒸気を前記工程(1)において減圧を行った金型から前記成形キャビティ内に導入し、他方の金型から前記成形キャビティ内を減圧しつつ、他方の金型へ前記成形キャビティ内を通過させる逆一方加熱工程
を含む加熱方法を用いて発泡成形することを特徴とするポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)および(2)が、60〜99℃の温度で行われる請求項1に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)および(2)が、0MPaG未満の圧力下で行われる請求項1または2に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法が、さらに、次の工程:
(3)水蒸気を両方の金型から成形キャビティ内に導入する両面加熱工程
を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)が、90〜120℃の温度で行われる請求項4に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリ乳酸系樹脂である請求項1〜5のいずれか1つに記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリ乳酸系樹脂が、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、あるいは、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有している請求項6に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
20〜100mmの厚みおよび50〜100%の内部融着率を有し、下記式(I):
0%≦X−Y≦50% (I)
(式中、Xは発泡成形体の表層融着率(%)であり、Yは発泡成形体の内部融着率(%)である)
を満たすポリエステル系樹脂発泡成形体。
【請求項9】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリ乳酸系樹脂である請求項8に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体。
【請求項10】
前記ポリ乳酸系樹脂が、構成単量体成分としてD体およびL体の双方の光学異性体を含有しかつD体またはL体のうちの少ない方の光学異性体の含有量が5モル%未満であるか、あるいは、構成単量体成分としてD体またはL体のうちのいずれか一方の光学異性体のみを含有している請求項9に記載のポリエステル系樹脂発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214636(P2012−214636A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81007(P2011−81007)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】