説明

ポリエステル組成物及びそれからなる繊維

【課題】従来技術の問題点を克服し、製糸性に優れると共に、高強度な繊維を得ることができるポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートからなり、(1)アンチモン化合物をアンチモン原子換算で0.1〜30ppm、(2)アルカリ金属化合物を金属原子換算で0.5〜20ppm含有し、かつ、下記式を満足する量を含むポリエステルであって、固有粘度が0.75〜2dl/g、ジプロピレングリコール含有量が5.0モル%以下であることを特徴
とするポリエステル組成物。
0.01≦Sb/M≦10
(式中、SbおよびMは、それぞれポリエステル10g中に含まれるアンチモン原子およびアルカリ金属化合物の金属原子のモル数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートからなるポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは製糸性に優れると共に、高強度な繊維を得ることができるポリエステル組成物及びそれからなる繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETという)に代表されるポリエステルは機械的強度、耐薬品性などに優れるため、繊維、フィルムあるいは樹脂用途などに広く使用されている。例えば、繊維の場合、PET繊維は衣料用途、産業資材用途を問わず幅広く使用されている。しかしながら、PET繊維は伸長弾性回復率、屈折回復率が低いため、ストレッチ性を要求される用途、例えば衣料用途のインナー、スポーツ衣料、パンストなどの用途には好適に用いられなかった。このようなPET繊維の特性を改良するために種々な提案がなされているが、その一つとして、エチレングリコールの変わりに1,3−プロパンジオール(以下PGという)を用いたポリプロピレンテレフタレート(慣用名ポリトリメチレンテレフタレート、以下PTTという)を用いることによって伸長弾性回復率、屈折回復率の高い繊維を得ることが提案されている。
【0003】
近年、安価なPGの製造法が開発されるにつれてPTTは安価に製造されるようになってきたものの、PTTはその分子構造上、熱安定性はPETに比べて劣っていることが知られている。特に触媒としてチタン化合物を用いると、PTTポリマーが著しく黄味に着色するだけでなく重合反応時に副反応が生成し易く、分解反応も促進されること(溶融熱安定性の悪化)や重合反応速度が遅いために高分子量のPTT重合体を製造することが困難なことから、低分子量のプレポリマーを溶融重合で製造し、得られたポリマーを一旦冷却して固化させ、次いで融点以下の温度で重縮合を行うことによって高分子量化する方法(固相重合法)が知られている(特許文献1,2)。しかしながら、単に固相重合条件の変更などによる方法ではPTTの固相重合性は十分でなく、高分子量の重合体とするためには長時間を要することから工業的規模での生産が困難であること、また、せっかく固相重合して得られた高分子量のPTTペレットを用いて製糸しても紡糸時における分解反応による分子量の低下や紡糸性が不安定であるために糸切れが多発したり、得られた繊維物性についても、特に強度において満足できるレベルでなく、実用性能に乏しいものしか得られないといった問題があった。
【特許文献1】再公表WO2003/033564号公報
【特許文献2】特開2000−159875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術の問題点を克服し、製糸性に優れると共に、高強度な繊維を得ることができるポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題は、主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートからなり、(1)アンチモン化合物をアンチモン原子換算で0.1〜30ppm、(2)アルカリ金属化合物を金属原子換算で0.5〜20ppm含有し、かつ、下記式を満足する量を含むポリエステルであって、固有粘度が0.75〜2dl/g、ジプロピレングリコール含有量が5モル%以下であることを特徴とするポリエステル組成物によって達成することができる。
【0006】
0.01≦Sb/M≦10
(式中、SbおよびMは、それぞれポリエステル10g中に含まれるアンチモン原子およびアルカリ金属化合物の金属原子のモル数を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステル組成物は従来の問題を解消し、製糸性に優れると共に、高強度な繊維を得ることができるポリエステル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートからなるポリエステルは、酸成分としてテレフタル酸(以下TPAという)を主成分とする芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体であり、グリコール成分としては、PGを主成分とするジオール又はそのエステル形成性誘導体から構成される。
【0009】
また、本発明のポリエステルには、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、共重合成分としてアジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩、スルホイソフタル酸のホスホニウム塩等のジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体等を共重合してもよい。
【0010】
本発明におけるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、五酸化アンチモン、三フッ化アンチモン、ピロアンチモン酸、オキシ塩化アンチモン、オルト亜アンチモン酸、メタ亜アンチモン酸などが挙げられ、中でも三酸化アンチモン、酢酸アンチモンが好適に使用される。
【0011】
本発明のポリエステル組成物が含有するアンチモン化合物の含有量は、アンチモン原子換算で0.1〜30ppmであることが必要である。0.1ppm未満では製糸性に対する効果が不十分であり、また、30ppmを超えるとポリエステル組成物中に存在するアンチモン金属が増加するためにポリエステル繊維中での欠陥となり、強度が低下する傾向となる。かかる観点からアンチモン化合物の含有量はアンチモン原子換算で0.5〜20ppmが好ましく、さらに好ましくは1.0〜10ppmである。
【0012】
また、本発明のポリエステル組成物におけるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物およびその水和物、酢酸塩、炭酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩等の低級脂肪酸カルボン酸塩およびその水和物、安息香酸塩、4−メチルフェニルカルボン酸塩、ナフチルカルボン酸塩等の芳香族カルボン塩およびその水和物、メトキシド、エトキシドなどのアルコキシド類等が挙げられ、中でも水酸化物およびその水和物、酢酸塩およびその水和物が好ましい。ここでアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。具体的なアルカリ金属化合物としては、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸リチウム2水和物、水酸化リチウム、水酸化リチウム1水和物、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム3水和物が挙げられ、中でも酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム3水和物が特に好適に使用される。
【0013】
本発明のポリエステル組成物が含有するアルカリ金属化合物の含有量は、アルカリ金属原子換算で0.5〜20ppmであることが必要である。0.5ppm未満では製糸性に対する効果が不十分であり、また、20ppmを超えるとポリエステル組成物中に存在する粗大異物が増加するためにポリエステル繊維中での欠陥となり、強度が低下する傾向となる。かかる観点からアルカリ金属化合物の含有量は、アルカリ金属原子換算で1.0〜18ppmが好ましく、さらに好ましくは2.0〜15ppmである。
【0014】
また、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステル10g中に含まれるアンチモン原子とアルカリ金属原子のモル比率でSb/M=0.01〜10であることが必要であり、より好ましくは0.02〜5、さらに好ましくは0.05〜2である。
【0015】
本発明のポリエステル組成物は、上記したアンチモン化合物を含有すると共に、アルカリ金属化合物を含有することが必要であり、これらの範囲を同時に
満足することによって、製糸性に優れると共に高強度な繊維を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明のポリエステル組成物の固有粘度(以下IVという)は、0.75〜2dl/gであることが必要である。IVが0.75未満では溶融粘度が低いため、繊維形成能が乏しくなるため製糸性の低下や得られる繊維の強度が低いものとなる。一方、IVが2を越えると溶融粘度が高いためにギヤーポンプでのポリマーの計量がスムーズに行われなくなり、安定して押し出すことができないため紡糸性が低下する。好ましいIVは0.80〜1.75である。
【0017】
また、ジプロピレングリコール(以下DPGという)含有量は5.0モル%以下であることが必要である。5.0モル%を超える場合には強度が低下したり、弾性回復率が低下する傾向となる。かかる観点からDPG含有量は4.0モル%以下が好ましく、更に好ましくは2.0モル%以下である。
【0018】
なお、本発明のポリエステル組成物の製造においては、ポリエステルを製造する際の重縮合反応触媒としては、チタン化合物、ゲルマニウム化合物等を使用することができるが、中でも、重縮合反応活性に優れたチタン化合物が好ましい。このようなチタン化合物としてはチタンアルコキシド、チタンアシレートおよびチタンキレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機チタン化合物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート、テトラステアロキシチタネート、テトラ−n−プロピルチタネートポリマー、テトライソプロピルチタネートポリマー、テトラ−n−ブチルチタネートポリマー、テトラ−t−ブチルチタネートポリマー等のチタンアルコキシド、あるいはこれらの混合チタネート、トリ−n−ブトキシチタンステアレート、イソプロポキシステアレート等のチタンアシレート、あるいはこれらの混合チタネート、ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトネート、ジヒドロキシ・ビスラクタトチタン等のチタンキレート、あるいはこれらの混合チタネートが挙げられる。
【0019】
本発明のチタン化合物は、得られるポリエステルに対してチタン原子換算で、5〜200ppmとなるように添加することが好ましい。添加量が5ppmより少ないと触媒活性が不十分で、結果としてポリマーの分子量が低いものしか得られない。また、200ppmを超える量添加すると、ポリマー色調の悪化や重合反応時に副反応が生成し易く、DPGが増加する場合がある。より好ましくは、10〜150ppm、さらに好ましくは20〜100ppmである。
【0020】
本発明のポリエステル組成物においては、アンチモン化合物と併せてリン化合物を特定量含有することが好ましい。
【0021】
本発明のポリエステル組成物に含有されるリンは、主としてポリエステル組成物の製造過程で添加したリン化合物の残渣である。このようなリン化合物としては特に限定されないが、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびこれらの低級アルキルエステルやフェニルエステルが挙げられるが特に限定はない。具体的には、例えばリン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、メチルホスホン酸メチルエステル、フェニルホスホン酸エチルエステル、ベンジルホスホン酸フェニルエステル、ホスホノ酢酸エチルエステル等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、ポリエステル組成物に対してリン原子換算で0.1〜50ppm含有されているとポリマーの耐熱性が良好となり好ましい。より好ましくは0.5〜30ppm、さらに好ましくは1.0〜20ppmである。
【0023】
また、アンチモン化合物のアンチモン原子に対して、リン原子としてモル比率でSb/P=0.01〜10の比率であるとポリエステル組成物の耐熱性が向上する傾向となるだけでなく、製糸性が良好となり好ましい。より好ましくは、Sb/P=0.02〜5、さらに好ましくはSb/P=0.05〜2である。
【0024】
また、本発明のポリエステル組成物に含まれるアンチモン金属量は10ppm以下であることが好ましい。該アンチモン金属はポリエステル重合時に用いたアンチモン化合物の還元によって生成するが、かかるアンチモン金属量とすることによってポリエステル繊維中での欠陥がなく、強度が向上するため好ましい。8ppm以下がより好ましく、さらに好ましくは5ppm以下である。
【0025】
また、本発明のポリエステル組成物においては製糸性の観点から異物数の少ないことが好ましく、具体的には5μm以上の粗大異物が観察サンプル数10個の平均値として、ポリマー10mgあたり10個以下であることが好ましい。これによって製糸時のろ圧上昇や糸切れ、および延伸時の糸切れや毛羽の発生が抑制され、高い生産性を実現することができる。粗大異物数は好ましくはポリマー10mgあたり5個以下、より好ましくは2個以下である。
【0026】
本発明におけるポリエステルは、以下のような方法によって得られる。
例えば、(1)ジメチルテレフタレートとPGを原料とし、エステル交換反応によって低重合量体を得、さらにその後の重縮合反応によって製造する、(2)テレフタル酸とPGを原料とし、直接エステル化反応によって低分子量のPTTまたはそのオリゴマーを得、さらにその後の重縮合反応によって製造する等、によって得ることができる。ここでエステル化、又はエステル交換、および/又は重縮合触媒としてチタン化合物、又はゲルマニウム化合物やスズ化合物を使用してもよく、エステル化又はエステル交換反応が実質的に完結した後に、該反応に用いた触媒を不活性化する目的で、リン化合物を添加してもよい。また、重縮合反応はエステル化、又はエステル交換反応に用いたチタン化合物の活性をそのまま利用して重縮合せしめるか、新たにチタン化合物を添加、あるいは各種触媒化合物を添加して進行させてもよい。
【0027】
本発明の製造方法は、(1)又は(2)の一連のエステル化、又はエステル交換反応の初期から反応終了後、および/又は重縮合反応の初期に、本発明のアンチモン化合物およびアルカリ金属化合物を添加し、エステル化、又はエステル交換反応を行い、さらに減圧下、235〜270℃の温度で重縮合反応を進行させ、固有粘度が0.60以上のPTTポリマーを得るものである。なお、上記の反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の形式で実施されるが、本発明の製造方法はそのいずれの形式にも適用し得る。また、得られたポリマーを133Pa以下の減圧下、170〜210℃の温度で固相重合を行い、固有粘度0.70以上のPTTポリマーを得ることができる。
【0028】
かくして得られた固相重合後のチップを用いて、通常の溶融紡糸法により例えば、紡糸温度265℃、孔径0.3mmφ×24孔の口金を用い、紡糸引き取り速度500m/分以上で紡糸を行い、未延伸糸を得る。得られた未延伸糸を通常のホットロール延伸機を用いて延伸し、75dtex24フィラメントの延伸糸を得る。
【実施例】
【0029】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法によって求めた。
(1)ポリマーの固有粘度(以下IVという)
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)ポリマー中の金属含有量
原子吸光法により求めた。
(3)ポリマーのDPG量
VARIAN社UNITYINOVA600型を用いて、H−NMRを測定し、得られたシグナルの積分比から定量した。
(4)アンチモン金属量
試料40gをオルソクロロフェノール500mlに溶解し、遠心分離(12,000rpm×2hr)後、洗浄、乾燥する。得られた遠心沈降粒のスペクトルをX線回折装置により、スペクトルから求めた。
(5)ポリエステル組成物中の粗大粒子数
ポリマーの少量を定量した後、2枚のカバーグラスの間に挟んで290℃で溶融し、均一な膜厚となるようにプレスした後、急冷する。このようにして得た試料を光学顕微鏡を用いて観察する。一定面積に存在する5μm以上の粗大粒子の個数をカウントし、サンプルの重量およびプレス後の全面積から、ポリマー10mg当たりの粗大粒子個数を算出した。なお、観察サンプル数10個の平均値を示した。
(6)製糸性(糸切れ、毛羽)
紡糸工程での糸切れ、および延伸工程での糸切れ、毛羽の発生回数を総合して次のようにランク付けし、A、Bを合格とした。
【0030】
A級 紡糸時の糸切れなし、延伸時の糸切れ、毛羽なし
B級 紡糸時の糸切れなし、延伸時の糸切れ、毛羽ほとんどなし
C級 紡糸時の糸切れあり、延伸時の糸切れ、毛羽あり
D級 紡糸時の糸切れ多発、延伸時の糸切れ、毛羽多発
(7)強度、伸度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長20cm、引張り速度10cm/分の条件で応力―歪み曲線から値を求めた。
【0031】
実施例1
ジメチルテレフタレート94.2重量部、PG73.8重量部を反応器に仕込み、エステル交換反応触媒としてテトラブチルチタネート0.04重量部を添加し、さらに三酸化アンチモン9.6×10−3重量部と酢酸カリウム0.0025重量部を添加し、140〜240℃まで撹拌しながら4時間かけて昇温、撹拌を行い、エステル交換反応を進行させた。エステル交換反応終了後、リン酸を1.86×10−3重量部(リン原子換算5ppm)を添加し、その後、テトラブチルチタネート0.10重量部を追加添加した。
【0032】
その後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を240から260℃まで徐々に昇温すると共に、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間は60分とした。所定のトルクとなった時点で反応系を窒素パージし、常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッテングしてポリエステルのチップを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルクまでの時間は3時間20分であった。
【0033】
得られたポリマーの固有粘度は0.85、DPG量0.73モル%、また、アンチモン金属量0.2ppmであり、5μm以上の異物0個であった。なお、原子吸光分析にてアンチモン原子8ppm、カリウム原子10ppm、リン原子5ppmであることを確認した。
【0034】
次いで得られたポリエステルチップを200℃、133Pa以下の減圧下にて固相重合を行い、13.5時間でIV1.55のチップを得た。続いて該固相重合後のチップを用いて、紡糸温度265℃にて、孔径0.3mmφ×24孔の口金を用いて、紡糸速度750m/分で紡糸を行い、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸をホットロール延伸機にて1HR55℃、2HR80℃、3HR140℃、合計の延伸倍率4.0倍で延伸して75dtex24フィラメントの延伸糸を得た。強度5.4cN/dtex、伸34%であり、良好な繊維を得た。なお、紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく、良好な製糸性を示した。結果を表1に示した。
【0035】
実施例2〜9、比較例1〜5
アンチモン化合物として三酸化アンチモン量を変更、また、アルカリ金属化合物として酢酸カリウム量を変更する以外は、実施例1と同様にして重合を行い、固相重合後のチップを用いて紡糸・延伸した。
【0036】
本発明の範囲を満たす実施例2〜9は紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であった。また、得られた原糸の強度に優れていた。結果を表1に示した。
【0037】
一方、アルカリ金属化合物を単独で重合したものやアルカリ金属化合物(酢酸カリウム)を用いないで重合したもの、さらに本発明の範囲外の三酸化アンチモン量やアルカリ金属化合物(酢酸カリウム)量を用いて重合したものは、いずれも紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生があり、得られた原糸についても強度の低いものであった。結果を表1に示した。
【0038】
【表1】

実施例10、比較例6
実施例1において得られたチップ(固有粘度0.85)を用いて、180℃、133Pa以下の減圧下にて固相重合を行い、6.5時間でIV0.89のチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸した。紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であり、得られた原糸の強度も優れていた。結果を表2に示した。
【0039】
一方、比較例6は、実施例1において減圧開始からの重縮合反応時間2時間05分で反応終了し、吐出したものであり、固有粘度0.60のチップを得た。このチップを用いて、175℃、133Pa以下の減圧下にて固相重合を行い、11時間でIV0.71のチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸したが、紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生があり、製糸性が不良であった。また、得られた原糸は低強度であり劣っていた。結果を表2に示した。
【0040】
実施例11、12、および比較例7
実施例11および実施例12は、実施例1において得られたチップ(固有粘度0.85)を用いて、200℃、133Pa以下の減圧下にて固相重合を行った。実施例11は、10.5時間でIV1.01のチップを得た。また、実施例12は、同様にして固相重合し、18.5時間でIV1.86のチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸した。紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であり、得られた原糸の強度も優れていた。結果を表2に示した。
【0041】
一方、比較例7は、実施例1において得られたチップ(固有粘度0.85)を用いて、200℃、133Pa以下の減圧下にて固相重合を行い、26時間でIV2.2のチップを得た。このチップを用いて実施例1と同様にして紡糸・延伸したが、紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生があり、製糸性が不良であった。また、得られた原糸は低強度であり劣っていた。結果を表2に示した。
【0042】
実施例13
アンチモン化合物として酢酸アンチモンを用いた外は、実施例1と同様にして重合を行い、固相重合後のチップを用いて紡糸・延伸した。
【0043】
紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であり、得られた原糸の強度も優れていた。結果を表2に示した。
【0044】
実施例14、比較例8
実施例14はアルカリ金属化合物として酢酸ナトリウムを用いた外は、実施例1と同様にして重合を行い、固相重合後のチップを用いて紡糸・延伸した。本発明の範囲を満たす実施例14は紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であった。また、得られた原糸の強度についても優れていた。結果を表2に示した。
【0045】
一方、比較例8はアルカリ金属化合物の代わりにアルカリ土類金属化合物である酢酸マグネシウムを用いて重合したものである。紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生があり、製糸性が不良であった。得られた原糸は低強度であり劣っていた。結果を表2に示した。
【0046】
実施例15、16
リン量を変更する以外は、実施例1と同様にして重合を行い、固相重合後のチップを用いて紡糸・延伸した。本発明の範囲を満たす実施例15および実施例16は紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であった。また、得られた原糸の強度に優れていた。結果を表2に示した。
【0047】
実施例17、18、比較例9
実施例1における重合開始前段階においてDPGを添加して重合したものである。本発明の範囲を満たす実施例17および実施例18は固相重合反応性が良好であり、紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生はなく製糸性は良好であった。また、得られた原糸の強度に優れていた。結果を表2に示した。
【0048】
一方、比較例9はDPG量が6.5モル%であるチップを用いて紡糸・延伸したが、紡糸工程および延伸工程において糸切れや毛羽の発生があり、製糸性および得られた原糸の強度も劣っていた。結果を表2に示した。
【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートからなり、(1)アンチモン化合物をアンチモン原子換算で0.1〜30ppm、(2)アルカリ金属化合物を金属原子換算で0.5〜20ppm含有し、かつ、下記式を満足する量を含むポリエステルであって、固有粘度が0.75〜2dl/g、ジプロピレングリコール含有量が5.0モル%以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
0.01≦Sb/M≦10
(式中、SbおよびMは、それぞれポリエステル10g中に含まれるアンチモン原子およびアルカリ金属化合物の金属原子のモル数を示す。)
【請求項2】
アルカリ金属化合物が、ナトリウム化合物又はカリウム化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
リン化合物をリン原子換算で0.1〜50ppm含有し、かつアンチモン化合物とリン化合物の含有量が、モル比率でSb/P=0.01〜10であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル組成物において、アンチモン金属として存在するアンチモン金属量が10ppm以下であり、かつ、5μm以上の粗大異物個数が10個/10mg以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル組成物を溶融紡糸して得られる繊維。

【公開番号】特開2007−161766(P2007−161766A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356379(P2005−356379)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】