説明

ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体及びその製造方法並びに該粉体を含有する樹脂組成物

【課題】高結晶性高分子ウィスカーと同等の結晶性を有し、且つ他樹脂への混練が容易となるような形状を有する高分子充填材を提供する。
【解決手段】特定のヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を、沸点が270℃以上で、得られるポリエステルが不溶性あるいは難溶性であり、且つ前記化合物と反応しない溶媒中に、該溶媒に溶解させる前記化合物もしくはそのオリゴマー濃度が得られるポリエステルに換算して10〜25(g/100ml)となるように添加し、加熱重合結晶化させて、ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性で高結晶性である繊維凝集体を形成しているポリエステル粉体とその製造方法、並びに該粉体を含有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種樹脂は、その成形加工の容易性により、多くの電気・電子分野の製品部材部品に使用されている。また、樹脂は、電気伝導度が低く、比重が小さいため、電子回路配線基板周辺材料や電子回路の筐体等にも多く使用されている。近年、電気機器の軽薄短小化、電子機器のモバイル化が進み、また作動周波数の高速化で半導体部品の発熱量は加速度的に増大しているため、半導体やブリント配線基板の集積化が進み、それらから発する熱の放熱問題が深刻化している。筐体内では空気が通る空間がほとんどなくなり、空冷ファンでは高い効果が望めないことから、熱伝導性に優れた樹脂組成物が望まれている。
【0003】
この問題を解決する従来の方法としては、樹脂に対し熱伝導性材料を配合することが知られている。例えば、カーボンファイバー、導電性金属粉末等の電気伝導性材料、格子振動による熱伝導効果を有する無機化合物、アルミナ等の金属酸化物の配合が知られているが、電気伝導性材料の配合は樹脂の持つ電気絶縁性がなくなるため使用領域の制限が生じ、また無機化合物や金属酸化物を配合した場合は、比重の増加と成形時の流動性の低下を招くことが知られている。有機物を配合しての熱伝導性付与技術としては、液晶性樹脂の磁場配向する技術(新エネルギー産業技術総合開発機構「精密高分子技術プロジェクト」報告)が近年知られている。但し、この技術は磁場配向という特殊な成形加工が必要である。
【0004】
一方、従来より補強材としてのプラスチック製繊維状物は各種提案されており、その製造方法は、熱可塑性のポリマーを繊維状に押出し、カッティングして補強材として使用するのが常であった。このようなプラスチック製繊維状物を、それよりも熱伝導性の低い樹脂に配合すると、補強効果と共に熱伝導性向上効果も得られる。
【0005】
しかしながら、上記のようなプラスチック製繊維状物は長繊維であり、一方向に対してしか補強することができず、二次元等方的に補強することはできない。
【0006】
この課題を解決する方法として、繊維長を調節した高結晶性の高分子ウィスカーが高分子フィラーとして提案されている。例えば、ポリ(4−オキシベンゾイル)の結晶は、4−アセトキシ安息香酸を熱媒中で加熱することにより、円柱状または平板状結晶として得られることが知られている(非特許文献1)。また、これらを微細形状にしたものとして、ポリ(4−オキシベンゾイル)やポリ(6−オキシ−2−ナフトイル)、ポリ(4’−オキシビフェニレン−4−カルボニル)、さらにそれらの共重合体等のウィスカーが開発されており(特許文献1〜4)、一般に高沸点の炭化水素系溶媒中で重合結晶化することにより製造されている。平板状結晶とウィスカー状結晶とは、形状、重合形態も異なる(非特許文献2〜3)。平板状結晶は、モノマーが平板上を積層しながら重合が進むため、剪断により剥離する場合、繊維垂直方向に様々な形状、大きさを持つ直鎖状の結晶繊維になると考えられ、均一な分散が困難であった。
【0007】
一方、ウィスカーはラメラ晶上を逐次生成するオリゴマーが螺旋状に積層結晶化する六角形状の単結晶であるため、針状結晶の直径が限定されており、また多方面に放射状に針状結晶が成長するため星状の形態を持つ。従って、その極めて嵩高い性状ゆえ、ウィスカーにおいても良好な分散状態を得るのが困難であり、取り扱いも困難であった。更に製造工程においても、ウィスカーとしての形状を保つためにはモノマー濃度を低く抑えなければならず、生産性が極めて悪いという問題があった。
【特許文献1】特開昭61−136516号公報
【特許文献2】特開昭61−276819号公報
【特許文献3】特開平6−136102号公報
【特許文献4】特開平8−259675号公報
【非特許文献1】J.Polym.Sci.,Polym.Lett.Ed.,Vol.22,433(1984)
【非特許文献2】Polym.J.,Vol.34,426(2002)
【非特許文献3】J.Polym.Sci.,Pt.B,Polym.Phys.Ed.,Vol.37,3532(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、上述の平板状結晶及び高分子ウィスカーは、その特徴ある形状を有するがゆえに、他樹脂中への分散が困難で、その機能を十分に発揮することが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、これら高結晶性高分子ウィスカーと同等の結晶性を有し、且つ他樹脂への混練が容易となるような形状を有する高分子充填材の製造方法について鋭意研究した結果、ある特定の条件下で重合を行うことにより、高結晶性の繊維が嵩密度の大きい凝集体粉末として得られ、混練時に容易に繊維が分散し、取り扱いが容易な形態を有することを見出した。また、このようにして得られた充填材を他樹脂へ混練することで、電気絶縁性を有し、熱伝導性が付与され、剛性が改善された樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、それらの芳香環に置換基を有する化合物、及びそれらのアセチル化物より選ばれるヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を、沸点が270℃以上で、得られるポリエステルが不溶性あるいは難溶性であり、且つ前記化合物と反応しない溶媒中に、該溶媒に溶解させる前記化合物もしくはそのオリゴマー濃度が得られるポリエステルに換算して10〜25(g/100ml)となるように添加し、加熱重合結晶化させることを特徴とするポリエステル繊維凝集体よりなる粉体の製造方法、
かかる製法により得られるポリエステル繊維凝集体よりなる粉体、並びに
該ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を1〜90重量%含有する樹脂組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で製造の対象となるポリエステル粉体は、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、それらの芳香環に置換基を有する化合物の重合体及び共重合体である。
【0012】
本発明のポリエステルは、上記モノマー及びそれらのアセチル化物より選ばれるヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を、沸点が270℃以上で、得られるポリエステルが不溶性あるいは難溶性であり、且つ前記化合物と反応しない溶媒中に、該溶媒に溶解させる前記化合物もしくはそのオリゴマー濃度が得られるポリエステルとして換算して10〜25(g/100ml)となるように添加し、加熱重合結晶化させることによって得られる。
【0013】
好ましいポリエステルは下記式(1) で表されるものである。
【0014】
-[-OAr1CO-]m-[-OAr2CO-]n- 式(1)
〔ここで、m 、n は(1) 式のポリマーの繰り返しユニットのモル分率%を示し、m は85以上で100 未満であり、n は0を超え15以下である。Ar1 は1,4−フェニレン、2,6−ナフチル、4,4’−ビフェニルより選ばれる内の1種であり、Ar2 は1,4−フェニレン、2,6−ナフチル、4,4’−ビフェニル及びこれらの芳香族環に置換基が付与されたものより選ばれる1種若しくは2種以上で、且つ、Ar1 で選ばれる物を除く。〕
(1) 式で得られるポリマーを製造するに際しての出発原料は、ヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物であり、具体的には4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、それらの芳香環に置換基を有する化合物、及びそれらのアセチル化物より選ばれる。好ましくは、4−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸及び/又は4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸及びそれらの誘導体の組み合わせである。又、出発原料であるヒドロキシ芳香族カルボン酸は予めヒドロキシ基をアセチル化したものを使用してもよいが、重合する釜中でアセトキシ化し、そのまま重合に供しても良い。
【0015】
本発明において用いられる溶媒は、沸点が270℃以上で、反応により生成するポリエステルが不溶性あるいは難溶性のもの、具体的には少なくともポリマー溶解度が0.3(g/100ml)以下であることが望ましい。尚、溶媒が活性な水素等を含有しているとモノマーの分解等が起こるので好ましくない。
【0016】
具体的な例としては、ジイソプロピルナフタレン、ジエチルナフタレン、エチル−イソプロピルナフタレン、シクロヘキシルビフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニル、水素化トリフェニル、ジベンジルトルエン等の芳香族化合物類が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法においては、反応溶媒中に溶解しているモノマーまたはオリゴマーの濃度が得られるポリエステルに換算して10〜25(g/100ml)に保つ必要がある。この範囲内であれば、反応中にモノマーを投入しても構わない。
【0018】
濃度が10(g/100ml)を下回ると、得られる生成物の形状がウィスカーとなり、前述のように他樹脂への混練分散が困難となる。また、25(g/100ml)を超えると平板状結晶あるいはマクロに凝集した塊りを形成し、良好な分散状態を実現するのが難しい。
【0019】
好ましい反応温度は250〜360℃である。250℃未満では十分に分子量が上がらない。一方、反応温度を上昇させると結晶析出速度が大きくなるが、360℃を超えると析出速度はそれほど大きく変化せず、逆に反応機材の腐食等の問題が生じ有効でない。尚、溶媒の沸点が反応温度より低い場合は、加圧下で反応させる。重合に当たっては、ポリエステル重合で用いられる一般的な触媒である錫、チタン等の金属化合物やアルカリ金属、アルカリ土類金属等の化合物が使用できる。又、アセチル化の際も同様にアルカリ金属等の触媒が使用出来る。
【0020】
反応は、非攪拌(剪断)下、攪拌(剪断)下のいずれでも進めることができる。但し、非攪拌(剪断)下では、結晶化したポリエステル集合体が溶液内に塊を形成するため反応器からの排出が困難となるので、攪拌(剪断)を行ってスラリー状態とすることが好ましい。重合中に発生させる剪断の場は攪拌機と釜の壁との間で、攪拌機の回転数を上げることや、攪拌機と釜の形状を円筒状にしてずり応力を発生させること等で実現できる。攪拌機の回転数は20rpm以上にすることが好ましく、線速度は10〜2000mm/sec、好ましくは100〜2000mm/secである。
【0021】
反応開始後、30秒から50分程度でポリマーの結晶析出が発生し、時間と共に急激に結晶析出が増加する。重合が進むにつれて、重合時に発生する不要な酢酸等を系外に排出するのが好ましい。それは、使用する溶媒が高沸点であるため、重合時に使用する溶媒が蒸発しない範囲で釜内を減圧することで達成できる。減圧は20Torr以下が好ましい。
【0022】
重合度は、結晶生成後も結晶内での固相重合により増加し、それに伴い分子量も増加する。尚、重合度は、溶媒の種類、反応温度やモノマー濃度、結晶化後の反応時間等に支配される。
【0023】
このように製造された本発明のポリエステル繊維凝集体は、粉体であるために他樹脂と溶融混練する際に容易に分散され、更に溶融時の剪断により容易に凝集が解かれて微細繊維分散状態を発現できる。従来の平板状結晶では剥離による微細分散は難しく、またウィスカーは嵩高い綿毛状凝集塊であるがため、樹脂とのなじみが悪く、本来の形状を反映した分散状態にまで混練することができない。
【0024】
したがって、本発明のポリエステル繊維凝集体よりなる粉体は、高耐熱性で高結晶性であり、且つ分散製の非常に良いものであり、各種樹脂に配合されて樹脂組成物として使用される。ここで使用される樹脂に特に制限はなく、本発明のポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を配合し混練分散し得る高分子化合物であれば何れのものでもよい。
【0025】
特に熱伝導性を要求される樹脂としては、熱可塑性樹脂として、一般にポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、ABS、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、塩化ビニリデン、熱可塑性ポリウレタン、フッ素系樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、アセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエステル、熱硬化性樹脂として、一般に不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユレア樹脂、メラミン樹脂、ブアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、樹脂としては、上記繰り返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、それら異種繰り返し単位を含んだコポリマー、または異種ポリマーを混合したブレンド物でもよい。
【0026】
ここで、ポリエステル繊維凝集体を繊維状に分散するには、樹脂と共に溶融混練することが必要となるが、好ましくは30秒以上、剪断速度20/sec以上、好ましくは40/sec以上で溶融混練分散させるのがよい。繊維状となる分散は長時間混練するほど繊維径の小さな繊維となる。使用する混練装置に制限はなく、一般なミキサーや二軸混練機、ロール、ブラベンダー、一軸もしくは二軸押出機等が使用可能である。
【0027】
本発明の樹脂組成物において、ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体の配合量は1〜90重量%が好ましく、特に好ましくは4〜80重量%である。1重量%未満では熱伝導効果、補強効果を得られず、90重量%を超えると流動性が悪くなり、成形性、成形表面の平滑性が低下する。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、特に必須ではないが更に無機充填剤、有機充填剤、その他の配合剤を添加することができる。その他の配合剤としては、樹脂材料で通常用いられているものであれば格別な制限はなく、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、難燃剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、上記成分を必要に応じて混合して調製される。混合方法はこれらの成分が十分に分散する方法であれば特に限定されず、前記混練装置にて混合すればよい。
【0030】
樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、特に押出機を用いて溶融状態にて混練した後、棒状に押出し、これを適当な長さに切ってペレットとするのが、生産性が高く、好適である。溶融混練時の温度は、樹脂成分が溶融する温度より5℃ないし100℃高い温度であり、特に好ましくは樹脂の融点より10℃ないし60℃高い温度である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例における評価項目・方法は以下の通りである。
(1) 電子顕微鏡観察
樹脂組成物の成形品中に分散された繊維の形状について、成形片を破断し、破断表面を電子顕微鏡(日立製作所(株)製S−470)観察し、以下の基準で評価した。
○;ほとんど繊維状にまで分散
△;50%以上繊維状に分散
×;一部のみ繊維状に分散
☆;星型ウィスカーの凝集体
(2) 熱伝導性
直径22mm、厚み7mmの成形片をホットディスク法熱物性率測定装置(京都電子工業(株)製TPA−501)にて測定した。
(3) 表面性
目視により成形片の表面光沢(表面)を観察し、良○、可△、不可×のランク付けを行った。
(4) 曲げ弾性率
ASTM D790 に準拠した方法で評価した。
実施例1
窒素ガス導入管、温度計、攪拌器を備えた500ml 3口フラスコに溶媒としてサームエス800(トリエチルビフェニル混合物、新日鐵化学(株)製)300ml、および4−アセトキシ安息香酸を60.0g(20g/100ml)を入れ、窒素ガスを用いて3回置換した。フラスコをマントルヒーターに入れ、窒素ガス気流下150rpmで攪拌を行い加熱した。30分で330℃まで加熱し、そのまま330℃に系を保った。270℃付近から酢酸が留出し、沈殿が生成し始めた。2時間後に反応を停止して沈殿物を濾別し、クロロホルムで繰り返し洗浄した。100℃で減圧乾燥し、36.8gの白色粉末生成物(収率92%)を得た。見かけの嵩密度は約0.8g/mlであった。
【0032】
得られた生成物の電子顕微鏡写真を図1に、X線回折曲線を図2に示す。この粉体は、繊維長約3〜4μm、繊維径約0.1μmの繊維の凝集体であり、極めて結晶化度が高いことがわかる。
実施例2
反応中攪拌を行わないこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、37.1gの白色粉末生成物(収率93%)を得た。見かけの嵩密度は約0.8g/mlであった。この生成物も繊維長約3μm、繊維径約0.1μmの繊維の凝集体であり、極めて結晶化度が高いことが、電子顕微鏡写真、X線回折曲線により確認された。
実施例3
モノマーとして6−アセトキシ−2−ナフトエ酸を60.0g(20g/100ml)使用すること以外は実施例1と同様にして重合を行い、39.5gの淡黄色粉末生成物(収率89%)を得た。見かけの嵩密度は約0.7g/mlであった。この生成物も繊維長約2〜3μm、繊維径約0.1μmの繊維の凝集体であり、極めて結晶化度が高いことが、電子顕微鏡写真、X線回折曲線により確認された。
実施例4
4−アセトキシ安息香酸を30.0g(10g/100ml)使用すること以外は実施例1と同様にして重合を行い、18.1gの白色粉末生成物(収率91%)を得た。見かけの嵩密度は約0.8g/mlであった。この生成物も繊維長約3〜4μm、繊維径約0.1μmの繊維の凝集体であり、極めて結晶化度が高いことが、電子顕微鏡写真、X線回折曲線により確認された。
比較例1
窒素ガス導入管、温度計、攪拌器を備えた500ml 3口フラスコに溶媒としてサームエス800 400ml、および4−アセトキシ安息香酸を4.0g(1.08g/100ml)を入れ、窒素ガスを用いて3回置換した。フラスコをマントルヒーターに入れ、窒素ガス気流下150rpmで攪拌を行い加熱した。150℃付近で溶液が均一となった時点で攪拌を止め、そのまま330℃まで加熱し、そのまま330℃に系を保った。2時間後に反応を停止して沈殿物を濾別し、クロロホルムで繰り返し洗浄した。100℃で減圧乾燥し、1.7gの白色綿毛状生成物(収率65%)を得た。電子顕微鏡による観察では、長さが数十μm、径が1μm程度のウィスカーを形成していることが確認された(図3)。また、このウィスカー状の生成物は極めて嵩高い凝集塊を形成しており、粉体のように流動させることができなかった。
比較例2
4−アセトキシ安息香酸を90.0g(30g/100ml)使用すること以外は実施例1と同様にして重合を行った。反応終了後、薄黄色状の固体が反応器内壁および攪拌翼に付着した状態となり、粉体として得ることができなかった。
実施例5
モノマーとして4−アセトキシ安息香酸60.0gおよび6−アセトキシ−2−ナフトエ酸2.4g(21g/100ml)を使用すること以外は実施例1と同様にして重合を行い、36.8gの白色粉末生成物(収率88%)を得た。見かけの嵩密度は約0.7g/mlであった。
比較例3
モノマーとして4−アセトキシ安息香酸12.9gおよび6−アセトキシ−2−ナフトエ酸0.5g(4.5g/100ml)を使用すること以外は実施例5と同様にして重合を行い、7.2gの白色綿毛状生成物(収率80%)を得た。電子顕微鏡による観察では、長さが約1〜2μm、径が約0.1〜0.3μmのフィブリル状結晶であることがわかった。このフィブリル状の生成物は極めて嵩高い凝集塊を形成しており、粉体のように流動させることができなかった。
実施例6
モノマーとして4’−アセトキシ−4−ビフェニルカルボン酸を30.0g(10g/100ml)使用すること以外は実施例1と同様にして重合を行い、20.2gの白色粉末生成物(収率88%)を得た。見かけの嵩密度は約0.7g/mlであった。この生成物も繊維長約2〜3μm、繊維径約0.1μmの繊維の凝集体であり、極めて結晶化度が高いことが、電子顕微鏡写真、X線回折曲線により確認された。
実施例7〜19、比較例4〜12
以下に示すA1〜A6の樹脂に対し、上記実施例・比較例で調製したB1〜B3、b1のヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を原料とするポリエステル繊維凝集体あるいはウィスカーを表1〜2に示す配合量で加え、溶融レオメータDSR(レオメトリックス(株)製)の25mm径パラレルプレートを使い、表1〜2に示す混練温度、剪断速度、剪断時間にて混練して試料を調製した。これらの試料を用いてホットプレス機にて板状の成形片を作成し、切削加工し、各種評価を行った。但し、実施例19、比較例9は、120℃で2時間硬化させた板状の樹脂から切削加工し、評価した。
【0033】
結果を表1〜2に示す。
【0034】
尚、使用した樹脂等は以下のものである。
A1:ポリフェニレンサルファイド、(株)クレハ製フォートロンKPS(310℃・ズリ速度1200sec-1における粘度140Pa・s)
A2:ポリプロピレン、日本ポリプロ(株)製MA3
A3:ポリブチレンテレフタレート、ウィンテックポリマー(株)製2002
A4:ポリアセタール、ポリプラスチックス(株)製M90−44
A5:液晶性樹脂、ポリプラスチックス(株)製A950
A6:エポキシ樹脂、住友ベークライト(株)製ECR−9058
B1:出発原料 4−アセトキシ安息香酸(実施例1)
B2:出発原料 6−アセトキシ−2−ナフトエ酸(実施例3)
B3:出発原料 4’−アセトキシ−4−ビフェニルカルボン酸(実施例6)
b1:出発原料 4−アセトキシ安息香酸(比較例1)
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で調製した白色粉末生成物の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で調製した白色粉末生成物のX線回折曲線を示す図である。
【図3】比較例1で調製した白色綿毛状生成物の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、それらの芳香環に置換基を有する化合物、及びそれらのアセチル化物より選ばれるヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を、沸点が270℃以上で、得られるポリエステルが不溶性あるいは難溶性であり、且つ前記化合物と反応しない溶媒中に、該溶媒に溶解させる前記化合物もしくはそのオリゴマー濃度が得られるポリエステルに換算して10〜25(g/100ml)となるように添加し、加熱重合結晶化させることを特徴とするポリエステル繊維凝集体よりなる粉体の製造方法。
【請求項2】
4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸、それらの芳香環に置換基を有する化合物、及びそれらのアセチル化物より選ばれるヒドロキシ芳香族カルボン酸化合物を、沸点が270℃以上で、得られるポリエステルが不溶性あるいは難溶性であり、且つ前記化合物と反応しない溶媒中に、該溶媒に溶解させる前記化合物もしくはそのオリゴマー濃度が得られるポリエステルに換算して10〜25(g/100ml)となるように添加し、加熱重合結晶化させることを特徴とする下記式(1) で表されるポリエステル繊維凝集体よりなる粉体の製造方法。
-[-OAr1CO-]m-[-OAr2CO-]n- 式(1)
〔ここで、m 、n は(1) 式のポリマーの繰り返しユニットのモル分率%を示し、m は85以上で100 未満であり、n は0を超え15以下である。Ar1 は1,4−フェニレン、2,6−ナフチル、4,4’−ビフェニルより選ばれる内の1種であり、Ar2 は1,4−フェニレン、2,6−ナフチル、4,4’−ビフェニル及びこれらの芳香族環に置換基が付与されたものより選ばれる1種若しくは2種以上で、且つ、Ar1 で選ばれる物を除く。〕
【請求項3】
請求項2において、(1) 式のAr1 が1,4−フェニレンであり、Ar2 が2,6−ナフチル及び/又は4,4’−ビフェニル4,4'−ビフェニルであるポリエステル繊維凝集体よりなる粉体の製造方法。
【請求項4】
重合を、攪拌機の回転数が20rpm以上で実現される剪断下で行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法。
【請求項5】
ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を製造するに際し、出発原料であるヒドロキシ芳香族カルボン酸を重合する釜中でアセトキシ化し、そのまま重合することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法。
【請求項6】
ポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を製造するに際し、重合時に使用する溶媒が蒸発しない範囲で釜内を減圧することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項記載の方法により製造されるポリエステル繊維凝集体よりなる粉体。
【請求項8】
請求項7記載のポリエステル繊維凝集体よりなる粉体を1〜90重量%含有する樹脂組成物。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−177004(P2007−177004A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374561(P2005−374561)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】