説明

ポリエーテルケトン樹脂及びその製造方法

【課題】耐熱性に優れるとともに、成形体の屈折率を改善でき、さらには、複屈折率が低く、透明性に優れるポリエーテルケトン樹脂を提供することにある。
【解決手段】 ポリエーテルケトン樹脂は、フルオレン骨格を有する芳香族エーテルユニット(1a)を有している。前記ポリエーテルケトン樹脂は、複数のハロゲン原子を有するケトン化合物(例えば、ビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物などの芳香族ポリケトン化合物など)と、前記ユニット(1a)に対応するポリオール化合物との重合反応により得ることができる。前記樹脂は、厚み0.1mmのフィルムについて、波長589nmでの屈折率が1.62以上であってもよい。また、樹脂のガラス転移温度Tgは、180℃以上であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有するポリエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに前記ポリエーテルケトン樹脂で形成された成形体(フィルムなど)に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン骨格を有する化合物は、耐熱性などの種々の特性において優れた機能を有することが知られており、樹脂や高分子材料の特性を改善するため、このようなフルオレン骨格を有する化合物を用いる試みがなされている。例えば、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂で構成された成形材料が開示されている。
【0003】
一方、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂は、耐熱性に優れ、難燃性、耐薬品性、耐熱水性、耐摩耗性などの特性に優れており、種々の用途に利用されている。例えば、特許2798028号公報(特許文献2)には、ポリエーテルケトン樹脂及び液晶ポリエステルの組成物に、炭素繊維を配合した樹脂組成物が開示されており、この樹脂組成物が半導体ウエハ加工・処理用キャリアとして有用であることが記載されている。しかし、従来のポリエーテルケトン系樹脂は、可視光透過率が低く、さらに複屈折率も高いため、光学特性を要求される用途に使用するのは困難であった。
【特許文献1】特開2002−284864号公報(請求項1、実施例)
【特許文献2】特許2798028号公報(請求項1及び7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、耐熱性に優れるとともに、成形体の屈折率を改善できるポリエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びにその成形体を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、複屈折率が低く、透明性に優れるポリエーテルケトン樹脂で構成された成形体、並びに前記ポリエーテルケトン樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格を有するポリオール化合物を用いて得られるポリエーテルケトン樹脂が、高い耐熱性を有するとともに、光学的性質に優れた成形体(フィルムなど)を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明のポリエーテルケトン樹脂は、下記式(1a)で表されるエーテルユニットを有している。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、環Z及び環Zは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2a、及びR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってアルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜4の整数であり、n1は1以上の整数であり、n2は0以上の整数であり、n1+n2が2以上の整数であり、m1及びm2は同一又は異なって0〜8の整数であり、p1及びp2は同一又は異なって0〜4の整数である)
前記ポリエーテルケトン樹脂は、複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、下記式(1)で表されるポリオール化合物(前記ユニット(1a)に対応するポリオール化合物)との重合反応により得てもよい。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、環Z、環Z、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、k1、k2、n1、n2、m1、m2、p1及びp2は前記に同じ)
上記ケトン化合物は、例えば、下記式(2)で表される芳香族ポリケトン化合物であってもよい。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Z及びZはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を示し、Zはアルキレン基、シクロアルキレン基、又はアリーレン基を示し、Z、Z及びZのうち、少なくとも1つは芳香族炭化水素環を有している。X、X及びXはハロゲン原子を示し、r1、r2及びr3はそれぞれ0〜4の整数であり、r1+r2+r3は2以上の整数である。R4a、R4b及びR4cは置換基を示し、s1、s2及びs3はそれぞれ0〜4の整数である。qは1〜4の整数を示す)
前記ポリエーテルケトン樹脂は、ビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物と、下記式(1c)で表されるジオール化合物との重合反応により得られる樹脂であってもよい。
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、m1及びm2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってC2−4アルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜2の整数を示し、R1a、R1b、R2a、R2b、p1及びp2は前記に同じ)
また、ポリエーテルケトン樹脂は、ビス(フルオロベンゾイル)C6−14アレーン化合物と、下記式(1d)で表されるジオール化合物との重合反応により得られる樹脂であってもよい。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、m1-1、m1-2、m2-1及びm2-2は、それぞれ同一又は異なっていてもよく、0又は1の整数であり、m1-1が1のとき、R2a−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m2-1が1のときR2b−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m1-2が1のときR2a−2はC1−4アルキル基であり、m2-2が1のときR2b−2はC1−4アルキル基である。R3a及びR3bは同一又は異なってC2−3アルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
前記ジオール化合物は、下記式(1e)で表される化合物であってもよい。
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
ポリエーテルケトン樹脂は、厚み0.1mmのフィルムについて、波長589nmでの屈折率が1.62以上であってもよい。また、ポリエーテルケトン樹脂は、ガラス転移温度Tgが180℃以上であってもよい。
【0020】
本発明には、複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、前記式(1)で表されるポリオール化合物とを、重合させて、ポリエーテルケトン樹脂を製造する方法も含まれる。このような製造方法では、ケトン化合物とポリオール化合物とを、120〜180℃の温度と、次いで190〜350℃の温度との二段階で重合させてもよい。
【0021】
また、本発明には、前記ポリエーテルケトン樹脂で形成された成形体も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、フルオレン骨格を有するポリエーテルユニットを有するため、耐熱性に優れるとともに、ポリエーテルケトン樹脂から得られる成形体の屈折率を改善することもできる。また、前記ポリエーテルケトン樹脂から得られる成形体(フィルムなど)は、複屈折率が低く、透明性に優れており、光学用途などにも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、前記式(1a)で表されるエーテルユニット(フルオレン骨格を有するエーテルユニット)を有している。エーテルユニット(1a)は、前記式(1)で表されるポリオール化合物(フルオレン骨格を有するポリオール化合物)に対応するユニットである。なお、ポリオール化合物(1)は、フルオレン類の9位に、芳香族炭化水素が2つ置換(又は付加)した化合物であり、2つの炭化水素環は、合計で2つ以上のヒドロキシル基(ヒドロキシアルコキシ基及びヒドロキシポリアルコキシ基も含む)を有している。
【0024】
前記ポリエーテルケトン樹脂は、ポリオール化合物(1)とケトン骨格を有する化合物との重合により得られる。
【0025】
(ポリオール化合物)
フルオレン骨格を有するポリオール化合物の式(1)において、環Zおよび環Zで表される芳香族炭化水素環としては、非縮合環及び縮合環のいずれであってもよく、例えば、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、アントラセン環などのC6−20芳香族炭化水素環(好ましくはC6−14芳香族炭化水素環)などが挙げられる。これらの炭化水素環のうち、ベンゼン環などのC6−10芳香族炭化水素環が好ましい。なお、環Z及び環Zの種類は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0026】
ポリオール化合物(1)の環Z上のヒドロキシル基の個数又はポリエーテルユニット(1a)の環Z上のエーテル基(−O−(R3aO)k1−)の個数を示すn1は、1以上、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に1又は2である場合が多い。また、ポリオール化合物(1)の環Z上のヒドロキシル基の個数又はポリエーテルユニット(1a)の環Z上のエーテル基(−O−(R3bO)k2)の個数を示すn2は、0以上、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3の整数であり、特に1又は2である場合が多い。また、n1とn2との合計(n1+n2)は、2以上(例えば、2〜8)、好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4の整数である。なお、n1とn2とは互いに異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。また、環Zにおいて、ヒドロキシル基又はエーテル基の置換位置は特に制限されない。
【0027】
また、環Z及び環Z(以下、これらをまとめて環Zということがある)に置換する置換基R2a及びR2bとしては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−10アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などの置換基(C1−4アルキル基など)を有していてもよいC6−10アリール基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基などが挙げられる。環Z及び環Zは、それぞれ、これらの置換基を1つ又は複数有していてもよく、複数有する場合、同一の置換基を複数有していてもよく、異なる種類の置換基を複数有していてもよい。また、環Zと環Zとの双方が置換基を有する場合、両者の置換基の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、環Zは置換基を置換基R2a、R2bを有していなくてもよい(すなわち、m1及び/又はm2が0であってもよい)。
【0028】
環Zが置換基を有する場合、上記置換基のうち、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが好ましく、特に、C1−4アルキル基が好ましい。
【0029】
環Zにおける置換基の個数を示すm1及びm2は、環の構成原子の個数、n1,n2の値に応じて、それぞれ、例えば、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、0〜5)、さらに好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、特に0〜2の整数(例えば、0又は1)であってもよい。また、置換基の置換位置は特に制限されない。
【0030】
フルオレン骨格における置換基R1a及びR1bとしては、特に限定されず、シアノ基、ニトロ基、炭化水素基(例えば、アルキル基など)などであってもよく、通常、アルキル基である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。基R1aおよびR1bは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0031】
置換基R1a及びR1bの個数を示すp1及びp2は、それぞれ、0〜4、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2の整数であり、1又は2であってもよい。なお、p1とp2とは互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。また、p1及びp2がいずれも0である場合も好ましい。
【0032】
1a(又はR1b)が複数個(すなわち、p1(又はp2)が複数)である場合、R1a(又はR1b)の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R1aとR1bとの双方を有する場合(すなわち、p1が1以上、p2が1以上である場合)、R1a及びR1bの種類は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。また、R1a及びR1bの置換位置は特に制限されない。
【0033】
3a及びR3bで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−4アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基など)などが例示でき、特に、C2−3アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基)が好ましい。なお、R3a及びR3bの種類は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常、同一のアルキレン基である。
【0034】
オキシアルキレン基の置換数(付加数)k1及びk2は、同一又は異なって、0〜4程度の範囲から選択でき、例えば、0〜3の整数、好ましくは0〜2の整数、さらに好ましくは0又は1であってもよい。なお、k1(又はk2)が2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、異種のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)が混在して構成されていてもよいが、通常、同一のオキシアルキレン基で構成されている場合が多い。
【0035】
好ましいポリオール化合物(1)は、n1及びn2がそれぞれ1であるジオール化合物であり、特に、環Z及びZがそれぞれベンゼン環であるジオール化合物が好ましい。このようなジオール化合物は、下記式(1c)で表すことができ、対応するエーテルユニットは、下記式(1b)で表すことができる。
【0036】
【化7】

【0037】
(式中、m1及びm2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってC2−4アルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜2の整数を示し、R1a、R1b、R2a、R2b、p1及びp2は前記に同じ)
なお、式(1b)及び式(1c)において、ヒドロキシル基又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基[−O(R3aO)k1H及び−O(R3bO)k2H]及びエーテル基[−O(R3aO)k1−及び−O(R3bO)k2−]の置換位置は、フルオレン骨格の置換位置に対して、o−,m−,p−位のいずれであってもよい。好ましい置換位置は、フルオレン骨格の置換位置に対するp−位である。
【0038】
ポリオール化合物(1)の具体例としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−(3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−(2,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−(3,5−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジアルキル−ジ又はモノヒドロキシフェニル)フルオレン;前記9,9−ビス(モノ又はジアルキル−ジ又はモノヒドロキシフェニル)フルオレンに対応する9,9−ビス(モノ又はジアルコキシ−ジ又はモノヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジアリール−ジ又はモノヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど)などの他、9,9−ビス(モノ又はジアルキル−ジ又はモノヒドロキシフェニル)フルオレンに対応し、アルキル基に代えて、前記例示の置換基を有するフルオレン化合物;9,9−ビス(6−ヒドロキシナフチル)フルオレンなどのナフタレン環にアルキル基などの前記置換基を有していてもよい9,9−ビス(モノ又はジヒドロキシナフチル)フルオレンなどのヒドロキシアリールフルオレン化合物が挙げられる。また、前記ポリオール化合物には、前記ヒドロキシアリールフルオレン化合物に対応するヒドロキシモノ又はポリアルコキシアリールフルオレン化合物も含まれる。
【0039】
ヒドロキシモノ又はポリアルコキシアリールフルオレン化合物としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンなど];9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−モノ又はジアルキルフェニル)フルオレン[9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC1−6アルキルフェニル)フルオレンなど];前記9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−モノ又はジアルキルフェニル)フルオレンに対応する9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−モノ又はジアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−モノ又はジアリールフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニル−フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC6−10アリールフェニル)フルオレン)などの他、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−モノ又はジアルキルフェニル)フルオレンに対応し、アルキル基に代えて、前記例示の置換基を有するフルオレン化合物;9,9−ビス(6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)フルオレンなどのナフタレン環にアルキル基などの前記置換基を有していてもよい9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン(9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン);及びこれらの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、前記式(1)においてk1及びk2が2以上である9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシフェニル]フルオレン(k1=k2=2の化合物)など}などが挙げられる。
【0040】
特に好ましいポリオール化合物としては、例えば、下記式(1d)で表される化合物などが挙げられる。
【0041】
【化8】

【0042】
(式中、m1-1、m1-2、m2-1及びm2-2は、それぞれ同一又は異なっていてもよく、0又は1の整数であり、m1-1が1のとき、R2a−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m2-1が1のときR2b−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m1-2が1のときR2a−2はC1−4アルキル基であり、m2-2が1のときR2b−2はC1−4アルキル基である。R3a及びR3bは同一又は異なってC2−3アルキレン基(エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基など)を示し、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
式(1d)において、m1-1は置換基R2a−1の個数を示し、m1-2は置換基R2a−2の個数を示し、(m1-1)と(m1-2)との合計が、前記m1に対応する。同様に、m2-1は置換基R2b−1の個数を示し、m2-2は置換基R2b−2の個数を示し、(m2-1)と(m2-2)との合計が、前記m2に対応する。また、置換基R2a−1及びR2a−2は、前記R2aに対応し、置換基R2b−1及びR2b−2は、前記R2bに対応し、上記C1−4アルキル基及びC6−10アリール基の例示は、前記R2a及びR2bの項のアルキル基及びアリール基の例示をそれぞれ参照できる。
【0043】
このような化合物のうち、特に、前記式(1d)において、(m1-1)=(m2-1)=1であり、かつ(m1-2)=(m2-2)=0であり、k1=k2=0であり、R2a−1及びR2b−1がメチル基である9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF)、(m1-1)=(m2-1)=(m1-2)=(m2-2)=0であり、k1=k2=0である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、(m1-1)=(m2-1)=(m1-2)=(m2-2)=1であり、k1=k2=0であり、R2a−1、R2a−2、R2b−1及びR2b−2がメチル基である9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BXF)、(m1-1)=(m2-1)=1であり、かつ(m1-2)=(m2-2)=0であり、k1=k2=0であり、R2a−1及びR2b−1がフェニル基である9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BOPPF)などの他、これらの化合物に対応し、k1=k2=1であり、R3a及びR3bがエチレン基である化合物、すなわち、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF又はBPF−EO)、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BXF−EO)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−3−フェニル)フルオレン(BOPPF−EO)などが好ましい。特に好ましいポリオール化合物は、例えば、下記式(1e)で表すことができ、BPF及びBPEFなどが含まれる。
【0044】
【化9】

【0045】
(式中、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
ポリエーテルケトン樹脂において、前記ポリオール化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、必要により、他のモノ又はポリオール化合物、例えば、脂肪族モノ又はポリオール化合物(メタノール、エタノール、ヘキサノールなどのC1−20アルカノール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの(ポリ)C2−10アルキレングリコールなど)、脂環族モノ又はポリオール化合物(シクロヘキサノール、シクロヘキサンジオールなどのモノ乃至トリヒドロキシC6−10シクロアルカンなど)、芳香族モノ又はポリオール化合物(フェノール、ナフチルアルコールなどのモノヒドロキシC6−10アレーン;ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビス(ヒドロキシC6−10アレーン)化合物など)などを、前記フルオレン骨格を有するポリオール化合物(1)と併用してもよい。
【0046】
前記フルオレン骨格を有するポリオール化合物(1)は、市販品であってもよく、慣用の方法及びそれに準じる方法などにより合成してもよい。なお、ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、種々の合成方法、例えば、(a)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(b)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(c)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(d)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させてビスフェノールフルオレンを製造する方法(特開2003−221352号公報)などを利用して製造できる。また、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類は、前記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、ヒドロキシナフタレン類(例えば、ナフトールなどのナフトール類、ジヒドロキシナフタレンなどのポリヒドロキシナフタレン類)を使用することにより製造できる。
【0047】
さらに、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類は、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又は9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類と、基R3aOおよびR3bOに対応する化合物(アルキレンオキサイド、ハロアルカノールなど)とを反応させることにより得られる。例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンにエチレンオキサイドを付加することにより得てもよく、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンは、例えば、9,9−ビス[4−ヒドロキシフェニル]フルオレンと3−クロロプロパノールとをアルカリ条件下にて反応させることにより得てもよい。
【0048】
(ハロゲン原子含有ケトン化合物)
ケトン化合物は、複数のハロゲン原子と、ケトン基(カルボニル基−C(=O)−)とを有する化合物である限り特に制限されず、1つのケトン基を有するモノケトン化合物であってもよく、ジケトン、トリケトン化合物などのケトン基を複数有するポリケトン化合物であってもよい。
【0049】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子などが挙げられる。これらの原子のうち、フッ素原子及び塩素原子などが好ましく、特にフッ素原子が好ましい。ハロゲン原子の個数は、ポリオール化合物(1)におけるヒドロキシル基の個数などに応じて、適宜選択でき、例えば、2〜8個、好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2〜4個程度であってもよい。ポリオール化合物のうち、ジオール化合物と、2つのハロゲン原子を有するケトン化合物とを用いる場合が多い。
【0050】
ハロゲン原子含有ケトン化合物において、ケトン化合物の骨格としては、脂肪族ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなどのジ(C1−10アルキル)ケトン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、メチルヘプテノンなどのC1−10アルキルC2−6アルケニルケトンの他、ビス(C1−10アルキル−カルボニル)C1−10アルカンなどの脂肪族ジケトンなど)、脂環族ケトン(シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのC4−10シクロアルカノン;ジシクロヘキシルケトンなどのジC5−8シクロアルキルケトン;シクロヘキシルメチルケトンなどのC1−10アルキル−C5−8シクロアルキルケトンなど)などであってもよいが、芳香族ケトン[芳香族モノケトン(アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、2−アセトナフトンなどのC1−10アルキル−C6−10アリールケトン;ベンゾフェノンなどのジC6−10アリールケトンなど)、芳香族ポリケトンなど]を用いる場合が多い。これらのうち、耐熱性の観点から、芳香族ポリケトンを用いるのが好ましい。
【0051】
芳香族ポリケトンとしては、例えば、下記式(2)で表される化合物などが挙げられる。
【0052】
【化10】

【0053】
(式中、Z及びZはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を示し、Zはアルキレン基、シクロアルキレン基、又はアリーレン基を示し、Z、Z及びZのうち、少なくとも1つは芳香族炭化水素環を有している。X、X及びXはハロゲン原子(前記例示のハロゲン原子(好ましくはフッ素原子))を示し、r1、r2及びr3はそれぞれ0〜4の整数であり、r1+r2+r3は2以上の整数である。R4a、R4b及びR4cは置換基を示し、s1、s2及びs3はそれぞれ0〜4の整数である。qは1〜4の整数を示す)
及びZで表されるアルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基としては、前記R2a及びR2bの項で例示の各基が挙げられる。なお、Z及びZの種類は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0054】
で表されるアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ヘキサメチレン基などのC1−10アルキレン(又はアルキリデン)基などが挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロヘキサンジイル、シクロオクタンジイル基などのC5−10シクロアルキレン基(C5−8シクロアルキレン基など)などが例示できる。また、アリーレン基としては、例えば、フェニレン基(例えば、1,4−、1,3−、又は1,2−フェニレン基)、ナフチレン基(例えば、1,2−、2,3−、1,4−、1,5−、又は1,8−ナフチレン基)などのC6−14アリーレン基の他、ビスアリーレン基(ビフェニレン基;ジフェニルメタン、2,2−ジフェニルプロパンなどのビスアリールC1−4アルカンに対応する二価基など)などが挙げられる。なお、qが複数である場合、複数の基Zの種類は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。qは、好ましくは1〜3の整数であり、さらに好ましくは1又は2(特に1)である。
【0055】
、Z及びZのうち、少なくとも1つが芳香族炭化水素環を有していればよく、例えば、Z及びZのうち、少なくとも一方がアリール基であるか、又はZがアリーレン基であればよい。Z及びZの双方がアリール基であるか、Zがアリーレン基であるのが好ましく、特に、Z及びZの双方がアリール基であり、かつZがアリーレン基であるのが好ましい。
【0056】
ハロゲン原子は、基Z、Z及びZのいずれが有していてもよい。r1、r2及びr3は、それぞれ、好ましくは、0〜3の整数、さらに好ましくは1又は2である。特に、基Z及びZがハロゲン原子を有するのが好ましく、r1及びr2はそれぞれ、1〜3の整数、好ましくは1又は2、特に1であり、r3は好ましくは0である。
【0057】
置換基R4a、R4b及びR4cとしては、前記R2a及びR2bの項で例示の基が挙げられる。好ましい置換基は、アルキル基などである。s1、s2及びs3はそれぞれ、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2の整数である。なお、s1及びs2が、0〜2の整数(好ましくは0又は1)であり、s3が1〜4(好ましくは1〜3)の整数であってもよい。
【0058】
複数のハロゲン原子を有する芳香族ポリケトンの具体例としては、例えば、ビス(ハロアリールカルボニル)アレーン化合物[例えば、1,4−ジ(2−、3−又は4−フルオロベンゾイル)ベンゼン、1,5−ジ(4−フルオロベンゾイル)ナフタレン、1,5−ジ(4−フルオロベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレン、2,6−ジ(2−、3−、又は4−フルオロベンゾイル)ナフタレンなどのビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物(好ましくはビス(フルオロC6−10アリールカルボニル)C6−14アレーン化合物);これらのビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物に対応するビス(クロロアリールカルボニル)アレーン化合物、ビス(ブロモアリールカルボニル)アレーン化合物及びビス(ヨードアリールカルボニル)アレーン化合物など]、これらのビス(ハロアリールカルボニル)アレーン化合物に対応し、かつ前記式(2)における基−Z−C(=O)−の繰り返し数qが3又は4である芳香族トリ又はテトラケトン化合物などが挙げられる。
【0059】
好ましいケトン化合物は、ビス(ハロアリールカルボニル)アレーン化合物、特に、ビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物[ビス(フルオロベンゾイル)C6−14アレーン化合物など]である。これらの芳香族ケトン化合物を前記例示のジオール化合物(例えば、前記式(1c)の化合物、特に式(1d)の化合物など)と反応させるのが好ましい。
【0060】
上記ケトン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、必要により、前記ケトン化合物とともに、モノハロ化合物、例えば、フルオロメタン、フルオロエタン、クロロエタンなどのモノハロアルカン(モノハロC1−20アルカンなど)、フルオロベンゼン、クロロベンゼンなどのモノハロアレーン(モノハロC6−14アレーンなど)などを併用してもよい。なお、これらのモノハロ化合物が有するハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子に限らず、臭素原子、ヨウ素原子などであってもよい。
【0061】
なお、ケトン化合物は、市販品であってもよく、慣用の方法により合成したものを用いてもよい。ジケトン化合物の合成には、例えば、Ohno, M.; Takata, T.; Endo, T. Macromolecules, 27[12], 3447-3448(1994)、Ohno, M.; Takata, T.; Endo, T. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 33[15], 2647-2655(1995)などを参照できる。
【0062】
(製造方法)
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、前記複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、前記式(1)で表されるポリオール化合物と、必要により他のモノマー(例えば、前記他のケトン化合物及び/又はモノハロ化合物など)とを重合させることにより得られる。
【0063】
複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、ポリオール化合物(1)との割合は、ケトン化合物のハロゲン原子とポリオール化合物(1)のヒドロキシル基との当量比をベースに適宜選択できる。なお、複数のハロゲン原子を有するケトン化合物の割合は、ポリオール化合物(1)100重量部に対して、例えば、10〜500重量部、好ましくは20〜300重量部(例えば、50〜200重量部)、さらに好ましくは75〜150重量部程度であってもよい。
【0064】
重合は、通常、加熱下で行う場合が多く、例えば、120〜350℃、好ましくは130〜330℃、さらに好ましくは140〜310℃程度の温度で行ってもよい。加熱は、昇温及び/又は降温操作などを適宜利用してもよく、略一定の温度にて一段階で行ってもよく、異なる温度で複数段階の加熱を行ってもよい。なお、反応時間は、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは1.5〜12時間程度であってもよい。
【0065】
分子量分布幅が狭く、均一で高分子量のポリエーテルケトン樹脂を得る場合には、二段階の加熱により重合を行うのが好ましい。二段階加熱において、一段階目の加熱温度は、例えば、120〜180℃、好ましくは125〜175℃、さらに好ましくは130〜170℃程度であってもよい。また、二段階目の加熱温度は、例えば、190〜350℃、好ましくは200〜330℃、さらに好ましくは210〜310℃程度であってもよい。なお、複数段階の加熱により重合を行う場合、後続の加熱温度への移行は連続的に行ってもよく、時間的間隔を置いて行ってもよい。なお、二段階加熱による重合反応では、一段階目及び二段階目の加熱時間は、それぞれ、例えば、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは1.5〜6時間程度の範囲から適宜選択できる。
【0066】
重合反応には、塩基触媒を用いてもよい。このような塩基触媒としては、無機塩基、例えば、金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物など)、金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸セシウムなどの希土類金属の炭酸塩など)などが挙げられる。これらの塩基触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
塩基触媒の割合は、ポリオール化合物(1)100重量部に対して、例えば、1〜1000重量部、好ましくは10〜700重量部(例えば、50〜600重量部)、さらに好ましくは100〜500重量部(例えば、200〜300重量部)程度である。
【0068】
重合反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒(有機溶媒など)の存在下で行う場合が多い。反応溶媒としては、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アニソールなど)、スルホン系溶媒(ジメチルスルホンなどの脂肪族スルホン、ジフェニルスルホンなどの芳香族スルホンなど)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
溶媒の割合は、特に制限されず、ポリオール化合物(1)100重量部に対して、例えば、0〜1000重量部程度の範囲から選択でき、好ましくは1〜500重量部(例えば、5〜100重量部)、さらに好ましくは5〜50重量部(例えば、10〜20重量部)程度である。
【0070】
反応は、空気中で行ってもよいが、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で行ってもよい。また、反応は、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)などにより確認(又は追跡)できる。
【0071】
なお、反応終了後、生成物であるポリエーテルケトン樹脂は、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0072】
(ポリエーテルケトン樹脂)
本発明のポリエーテルケトン樹脂(ポリエーテルケトン系樹脂)は、モノマーの種類や割合に応じて、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂などであってもよいが、通常、ポリエーテルエーテルケトン樹脂である場合が多い。
【0073】
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、ガラス転移温度Tg及び融点が高く、耐熱性に優れている。ポリエーテルケトン樹脂のガラス転移温度Tgは、180℃以上(例えば、180〜400℃程度)、好ましくは200〜360℃、さらに好ましくは230〜350℃程度である。また、融点Tmは、例えば、250〜550℃、好ましくは270〜400℃、さらに好ましくは300〜380℃程度である。
【0074】
また、前記ポリエーテルケトン樹脂は、フルオレン骨格を有するため、光学特性に優れており、可視光透過率が高い。例えば、厚み0.1mmのフィルムについて、従来のポリエーテルエーテルケトンが、360〜800nm程度の波長の光線に対する透過率が1%以下であるのに対し、本発明のポリエーテルケトン樹脂の上記波長の光線を透過し、特に、400〜800nm程度の波長の光線に対して、60〜95%、好ましくは65〜90%、さらに好ましくは70〜85%程度の透過率を示す。
【0075】
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、光学的等方性が高い(すなわち、屈折率が高く、複屈折が低い)。ポリエーテルケトン樹脂のフィルム(厚み0.1mm)の屈折率は、波長589nmにおいて、1.62以上(例えば、1.62〜1.9)、好ましくは1.63〜1.8、さらに好ましくは1.64〜1.75程度である。
【0076】
ポリエーテルケトン樹脂の数平均分子量Mnは、例えば、10000〜500000、好ましくは15000〜200000、さらに好ましくは18000〜100000程度であってもよい。また、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、例えば、1.2〜10、好ましくは1.5〜9、さらに好ましくは2〜8程度であってもよい。なお、上記、数平均分子量及び分子量分布は、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより評価した値である。
【0077】
(成形体)
本発明の成形体は、前記ポリエーテルケトン樹脂で形成されている。成形体は、ポリエーテルケトン樹脂を、慣用の方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、回転成形などにより、成形することにより製造できる。なお、成形条件は、本発明のポリエーテルケトン樹脂の融点及びガラス転移温度などを考慮して、従来のポリエーテルエーテルケトン樹脂の成形条件を適宜変更して利用することができる。
【0078】
成形体は、必要により、慣用の添加剤、例えば、充填剤又は補強剤(ガラス繊維などの無機充填材など)、着色剤(染顔料)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤(天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸やその金属塩、酸アミド類、エステル類、パラフィン類など)、帯電防止剤、分散剤、消泡剤、表面改質剤(シランカップリング剤やチタン系カップリング剤など)、低応力化剤(シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)、耐熱性改良剤(硫黄化合物やポリシランなど)、炭素材などが含まれる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
また、成形体の形状は、特に制限されず、用途に応じて適宜選択でき、粒状、繊維状、棒状、フィルム又はシート状などの二次元的形状、管状などの三次元的形状などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリエーテルケトン樹脂は、耐熱性又は難燃性に優れるため、従来のポリエーテルケトン系樹脂が使用される慣用の用途、例えば、各種電子機器又は機械部品(例えば、航空機用コネクタ、自動車エンジン部品、電子部品、プリント配線基板、ベアリングリテーナ、複写機の剥離つめ、純粋製造器部品など)、各種ケーブル用途(油田用信号ケーブル、電子力発電用ケーブル、船舶ケーブル、ロボット用ケーブルなど)、フィルム、モノフィラメントなどに利用できる。また、ポリエーテルケトン樹脂は、光学特性に優れるため、光学機器用部品、例えば、自動車用ヘッドランプレンズ、CD(コンパクトディスク)[CD−ROM(シーディーロム:コンパクトディスク−リードオンリーメモリー)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθ(エフシータ)レンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ、位相差フィルム、拡散フィルムなどのフィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基板などの用途にも有用である。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
実施例1〜7及び比較例1
反応容器に、表1に示す割合で、1,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレン(表1中、ジフルオライドで表す)、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(表1中、フルオレン化合物で表す)、炭酸セシウム及びジフェニルスルホンを添加し、アルゴン雰囲気下で混合物を撹拌しつつ、140℃で2時間加熱し、さらに200℃まで昇温し(昇温速度:3℃/分)、200℃にて3時間加熱することにより、重合反応を行った。放冷後、反応混合物をクロロホルムに溶解し、この溶液をメタノールに投入し、洗浄することによりフルオレン骨格を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂を得た(実施例1)。得られたポリエーテルエーテルケトン樹脂のIRスペクトル及びH−NMRスペクトルのデータを以下に示す。
【0083】
IR (KBr) :3058 (m), 3036 (m), 3023 (m), 2952 (w), 2921 (m), 2860 (w), 1665 (s), 1593 (s), 1491 (s), 1447 (m), 1416 (m), 1387 (m), 1335 (w), 1304 (m), 1248 (s), 1220 (s), 1153 (s), 1119 (s), 1033 (w), 1010 (w) cm-1
1H NMR (CDCl3):δ7.77 (d, 2H, J=7.6Hz, フルオレンArH), 7.8-7.7 (m, 4H, ベンゾイルArH), 7.46 (d, 2H, J=8.8Hz, ナフタレンArH), 7.41 (d, 2H, J=7.6Hz, フルオレンArH), 7.38 (t, 2H, J=7.6Hz, フルオレンArH), 7.29 (t, 2H, J=7.6Hz, フルオレンArH), 7.21 (d, 2H, J=8.4Hz, ナフタレンArH), 7.1-7.0 (m, 4H, クレゾールArH), 6.9-6.8 (m, 6H, ベンゾイルArH及びクレゾールArH), 2.24 (s, 6H, ナフタレンMe), 2.05 (s, 6H, クレゾールMe)。
【0084】
実施例2〜5では、表1に示す加熱条件にて二段階で加熱することにより重合反応を行う以外は、実施例1と同様に操作を行い、フルオレン骨格を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂を得た。
【0085】
また、実施例6及び7では、表1に示す加熱条件にて一段階で加熱することにより重合反応を行う以外は、実施例1と同様に操作を行い、フルオレン骨格を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂を得た。
【0086】
実施例4で得られたポリエーテルエーテルケトン樹脂の屈折率をアッベ屈折計により測定したところ、656nmの波長に対して1.634、589nmの波長に対して1.646、546nmの波長に対して1.656、486nmの波長に対して1.671、436nmの波長に対して1.690であった。
【0087】
重合反応における加熱の条件及び得られたポリエーテルエーテルケトン樹脂の物性を表1に示す。なお、生成物の収率は、精製前の反応混合物を用いて算出した。また、屈折率はアッベ屈折計を用いて589nmの波長に対して測定した値を示す。数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwは、ポリスチレンを基準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりクロロホルムを用いて測定し、表1には、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnを示した。さらに、比較例1として、市販のポリエーテルエーテルケトン樹脂(三井化学(株)製、450G)の物性を実施例と同様に評価した。
【0088】
【表1】

【0089】
さらに、実施例4で得られたフルオレン骨格を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂及び比較例1のフルオレン骨格を有しないポリエーテルエーテルケトン樹脂について、動的粘弾性及び透過率を比較した。
【0090】
(i)動的粘弾性
測定治具として引張治具を用い、昇温速度3℃/min及び測定周波数10Hzの条件で、各ポリエーテルケトンの動的粘弾性を評価した。logE’(Pa)、logE’’(Pa)、又はlog tanδと温度との関係を図1及び図2に示す。なお、E’は貯蔵弾性率を示し、E”は損失弾性率を示し、tanδは損失正接を表す。
【0091】
図から明らかなように、比較例のポリエーテルエーテルケトン樹脂では、160℃付近にガラス転移温度(Tg)のピークを有しているのに対し、実施例のフルオレン骨格を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂は、260℃付近にガラス転移温度(Tg)のピークを有しており、比較例のポリエーテルエーテルケトン樹脂より高い耐熱性を示している。
【0092】
(ii)透過率
実施例4のポリエーテルエーテルケトン樹脂を、350℃にて、40MPaの圧力で成形することにより、フィルムを得た。また、温度を370℃にする以外は、実施例4の樹脂の場合と同様に、比較例1のポリエーテルエーテルケトン樹脂のフィルムを作製した。
【0093】
各フィルムについて、HITACHI製U−3010を用いて波長300〜800nmの光線に対する光線透過率を測定した。
【0094】
その結果、比較例1のフィルムは、上記波長域の光線に対する透過率は実質的に0%であり、不透明であった。それに対し、実施例4のフィルムは、350nm付近から長波長になるほど、透過率が高くなり、波長400〜800nmでは、70〜85%程度の光線透過率が得られた。すなわち、実施例4のフィルムは、可視光域で、実質的に透明であった。なお、実施例4のフィルムは、透明であり、比較例1のフィルムは不透明であった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は実施例4のポリエーテルエーテルケトン樹脂の動的粘弾性を示すグラフである。
【図2】図2は比較例1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の動的粘弾性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)で表されるエーテルユニットを有するポリエーテルケトン樹脂。
【化1】

(式中、環Z及び環Zは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2a、及びR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってアルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜4の整数であり、n1は1以上の整数であり、n2は0以上の整数であり、n1+n2が2以上の整数であり、m1及びm2は同一又は異なって0〜8の整数であり、p1及びp2は同一又は異なって0〜4の整数である)
【請求項2】
複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、下記式(1)で表されるポリオール化合物との重合反応により得られる請求項1記載のポリエーテルケトン樹脂。
【化2】

(式中、環Z、環Z、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、k1、k2、n1、n2、m1、m2、p1及びp2は前記に同じ)
【請求項3】
下記式(2)で表される芳香族ポリケトン化合物と、式(1)で表されるポリオール化合物との重合反応により得られる請求項2記載のポリエーテルケトン樹脂。
【化3】

(式中、Z及びZはアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を示し、Zはアルキレン基、シクロアルキレン基、又はアリーレン基を示し、Z、Z及びZのうち、少なくとも1つは芳香族炭化水素環を有している。X、X及びXはハロゲン原子を示し、r1、r2及びr3はそれぞれ0〜4の整数であり、r1+r2+r3は2以上の整数である。R4a、R4b及びR4cは置換基を示し、s1、s2及びs3はそれぞれ0〜4の整数である。qは1〜4の整数を示す)
【請求項4】
ビス(フルオロアリールカルボニル)アレーン化合物と、下記式(1c)で表されるジオール化合物との重合反応により得られる請求項1記載のポリエーテルケトン樹脂。
【化4】

(式中、m1及びm2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってC2−4アルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜2の整数を示し、R1a、R1b、R2a、R2b、p1及びp2は前記に同じ)
【請求項5】
ビス(フルオロベンゾイル)C6−14アレーン化合物と、下記式(1d)で表されるジオール化合物との重合反応により得られる請求項1記載のポリエーテルケトン樹脂。
【化5】

(式中、m1-1、m1-2、m2-1及びm2-2は、それぞれ同一又は異なっていてもよく、0又は1の整数であり、m1-1が1のとき、R2a−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m2-1が1のときR2b−1はC1−4アルキル基又はC6−10アリール基であり、m1-2が1のときR2a−2はC1−4アルキル基であり、m2-2が1のときR2b−2はC1−4アルキル基である。R3a及びR3bは同一又は異なってC2−3アルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
【請求項6】
ジオール化合物が、下記式(1e)で表される化合物である請求項5記載のポリエーテルケトン樹脂。
【化6】

(式中、k1及びk2は同一又は異なって0又は1である)
【請求項7】
厚み0.1mmのフィルムについて、波長589nmでの屈折率が1.62以上である請求項1〜6のいずれかの項に記載のポリエーテルケトン樹脂。
【請求項8】
ガラス転移温度Tgが180℃以上である請求項1〜6のいずれかの項に記載のポリエーテルケトン樹脂。
【請求項9】
複数のハロゲン原子を有するケトン化合物と、下記式(1)で表されるポリオール化合物とを、重合させて、ポリエーテルケトン樹脂を製造する方法。
【化7】

(式中、環Z及び環Zは芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2a、及びR2bは同一又は異なって置換基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なってアルキレン基を示し、k1及びk2は同一又は異なって0〜4の整数であり、n1は1以上の整数であり、n2は0以上の整数であり、n1+n2が2以上の整数であり、m1及びm2は同一又は異なって0〜8の整数であり、p1及びp2は同一又は異なって0〜4の整数である)
【請求項10】
ケトン化合物とポリオール化合物とを、120〜180℃の温度と、次いで190〜350℃の温度との二段階で重合させる請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載のポリエーテルケトン樹脂で形成された成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−69211(P2008−69211A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247309(P2006−247309)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会(2006)講演予稿集CD−ROM」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集2」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】