説明

ポリオレフィン多孔質膜およびその製造方法ならびにその製造装置

【課題】優れたポリオレフィン多孔質膜を高い生産性で得る製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融混練して混練物を得る工程(a)と、混練物を押出し、冷却してゲル状成形物を得る工程(b)と、ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る工程(c)と、延伸シートから溶剤を除去し、乾燥して微細多孔が形成されたフィルムを得る工程(d)と、フィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う工程(e)と、フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う工程(f)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン多孔質膜に関し、特にリチウム電池用セパレータに適したポリオレフィン多孔質膜及びその製造方法ならびにその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔質膜は、電池用セパレータ、電解コンデンサー用セパレータ等に使用されている。特にリチウム電池においては、有機溶媒に不溶で電解質や電極活物質に対して安定なセパレータとして使用されている。最近は、リチウム電池用セパレータに対して、電池特性、安全性、生産性を向上させることが求められている。特に、電池特性と安全性とを高レベルでバランスさせることは非常に重要である。電池特性の向上のためには、各種電池系において用いる電池用セパレータの孔径、空孔率及びイオン透過性等を最適にすることが要求されている。また、安全性の面では、電極が短絡して電池内部の温度が上昇した時に、発火等の事故が生じるのを防止するために膜強度の向上と熱収縮率の低減が重要視されている。このことから、ポリオレフィン多孔質膜の孔径、空孔率、イオン透過性および膜強度のバランスを維持しつつ、熱収縮率の低減を図るために様々な提案が為されている。
【0003】
例えば、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量1万以上50万未満の高密度ポリエチレンと、溶剤とからなる溶液を溶融混練して押出し、冷却して得られたゲル状成形物を延伸し、得られた延伸物から溶剤を除去し、乾燥後に熱セット工程を行うことを特徴とするポリオレフィン多孔質膜の製造方法(特開2001−172420号公報、特開2001−192487号公報)等が提案され、リチウム電池用セパレータとしての用途例も挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−172420号公報
【特許文献2】特開2001−192487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みて為されたものであり、上記物性バランスを維持あるいは向上させ、かつ熱収縮率の低減を図ったポリオレフィン多孔質膜およびその製造方法ならびにその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融混練して混練物を得る工程(a)と、前記混練物を押出し、冷却してゲル状成形物を得る工程(b)と、前記ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る工程(c)と、前記延伸シートから溶剤を除去し、乾燥して微細多孔が形成されたフィルムを得る工程(d)と、前記フィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う工程(e)と、前記フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う工程(f)とを含む。
【0007】
また、本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造装置は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融する溶融部と、前記溶融部に接続され、前記溶融部において溶融された溶液を混練して混練物を得る混練部と、前記混練部に接続され、前記混練部によって得られた前記混練物を冷却してゲル状成形物を得る冷却成型部と、前記冷却成型部に接続され、前記ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る延伸部と、前記延伸部に接続され、前記延伸シートから溶剤を除去する溶剤除去部と、前記溶剤除去部に直接的または間接的に接続され、前記溶剤が除去され、微細多孔が形成されたフィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う1次熱処理部と、前記1次熱処理部に接続され、前記フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う2次熱処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透気度が高く、MDおよびTD両方向の熱収縮率が低減されたポリオレフィン多孔質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ポリオレフィン多孔質膜の製造装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
【0011】
本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造において、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン(以下、超高分子量ポリオレフィンと称する)が用いられる。超高分子量ポリオレフィンとしては、好ましくは重量平均分子量70万〜130万の超高分子量ポリオレフィンが用いられる。重量平均分子量が50万未満では、延伸時に破断が起こりやすいため、欠陥の少ない多孔質膜を安定して得ることが困難になりやすい。また、重量平均分子量の上限は、限定的ではないが、500万以下とすることにより、溶融押出が容易になる。
【0012】
超高分子量ポリオレフィンの種類は、特に限定されないが、入手のし易さなどから、超高分子量ポリエチレンを用いることが好ましい。これらは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどが好適である。
【0013】
また、超高分子量ポリオレフィンに、重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンを混合してもよい。重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンとしては、ポリエチレンが挙げられる。ポリエチレンの種類は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンなどがある。これらはエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどが挙げられる。これらの重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンは、1種類のみ用いることもできるし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンを混合する場合、その混合割合が高すぎるとリチウム電池等のセパレータとして用いた際に、リチウムイオンの透過性に関わる透気度が低下することがある。したがって、超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンの量を0〜25重量部の範囲内にしておくことが好ましい。特に、強度よりも透気度を重視する電池用セパレータを製造する場合、重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンを混合しない方がよい。
【0014】
さらに、必要に応じて、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、無機充填材などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0015】
次に、本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造方法について詳細に説明する。尚、本製造方法は、後に説明するように、図1のポリオレフィン多孔質膜の製造装置100により実施可能である。
【0016】
本発明のポリオレフィン多孔質膜は、超高分子量ポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融混練して混練物を得る工程(a)と、前記混練物を押出し、冷却してゲル状成形物を得る工程(b)と、前記ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る工程(c)と、前記延伸シートから溶剤を除去し、乾燥して微細多孔が形成されたフィルムを得る工程(d)と、前記フィルムのMD(Machine Direction;縦方向)およびTD(Transverse Direction;横方向)の両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う工程(e)と、前記フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う工程(f)とを経ることによって得られる。以下に、上記各工程を説明する。
【0017】
本発明のポリオレフィン多孔質膜の製造方法の工程(a)では、原料となる超高分子量ポリオレフィンの溶液は、先に述べた超高分子量ポリオレフィンを、溶剤に加熱溶解することにより調製する。この溶剤としては、超高分子量ポリオレフィンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、あるいは沸点がこれらに対応する鉱油留分などが挙げられる。特に流動パラフィンのような不揮発性の溶剤が、溶剤含有量が安定なゲル状成形物を得るためには好ましい。流動パラフィンは40℃での動粘度が25〜70mm2/sの範囲内ものが好適に用いられる。加熱溶解は、超高分子量ポリ
オレフィンが完全に溶解する温度で攪拌または押出機中で均一混合して溶解する方法で行う。その温度は、押出機中又は溶媒中で攪拌しながら溶解する場合は使用する重合体及び溶媒により異なるが、例えば140〜250℃の範囲が好ましい。超高分子量ポリオレフィンの高濃度溶液から多孔質膜を製造する場合は、溶解混練まで可能な二軸押出機中で溶解するのが好ましい。
【0018】
押出機への原料投入は、(1)超高分子量ポリオレフィンを供給し溶融させ、押出機の途中からサイドフィードを用いて溶剤を供給する方法、(2)攪拌釜を準備し、超高分子量ポリオレフィンと溶剤を、溶解温度未満の温度で攪拌分散して均一なスラリーを作り、該スラリーを押出機に供給する方法、(3)サイドフィードで溶剤を追加する方法などが挙げられる。特に(2)の攪拌釜にて超高分子量ポリオレフィンと溶剤を攪拌したスラリーを押出機に供給する方法が、樹脂に与えるせん断エネルギーが小さくなり、押出機の軸を回転させる負荷が低減でき、かつ樹脂の劣化も低減できることから、特に好ましい。混練温度は、使用する超高分子量ポリオレフィンの種類によって異なるが、超高分子量ポリオレフィンの融点+20〜100℃が好ましい(なお、本明細書中において融点とは、JISK7121に基づき、DSCにより測定した値を称する)。例えば、超高分子量ポリエチレンの場合は160〜230℃、特に170〜210℃であるのが好ましい。
【0019】
超高分子量ポリオレフィンと溶剤との配合割合は、超高分子量ポリオレフィンと溶剤の合計を100重量%として、超高分子量ポリオレフィンが10〜50重量%、好ましくは10〜30重量%であり、溶剤が90〜50重量%、好ましくは90〜70重量%である。超高分子量ポリオレフィンが10重量%未満では(溶剤が90重量%を超えると)、シート状に成形する際に、ダイス出口で、スウェルやネックインが大きくなり、シートの成形性、自己支持性が困難となる。一方、超高分子量ポリオレフィンが50重量%を超えると(溶剤が50重量%未満では)、成形加工性が低下する。
【0020】
なお、ポリオレフィン多孔質膜を安定した品質で製造することを目的として、加熱溶解の際に超高分子量ポリオレフィンの酸化を防止するために、超高分子量ポリオレフィンと溶剤の混合スラリーに、酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。酸化防止剤としては、特に高分子型ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加することが、電池用セパレータとして用いたときに、各工程およびポリオレフィン多孔質膜として製造後にブリードアウトするおそれが小さいため好ましい。具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](商品名:Irganox1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、登録商標)が好ましく用いられる。酸化防止剤はその他の1種類以上の酸化防止剤と混ぜて用いても良い。
【0021】
次に、工程(b)では、混練物を直接に、あるいはさらに別の押出機を介して、ダイス等から最終製品の膜厚が5〜100μmになるように押出して成形する。ダイスは、通常長方形の口金形状をしたシートダイスが用いられるが、2重円筒状のインフレーションダイスなども用いることができる。シートダイスを用いた場合のダイスギャップは通常0.1〜5mmであり、押出し成形温度は140〜250℃である。この際押し出し速度は、通常20〜30cm/分ないし10m/分である。
【0022】
このようにしてダイスから押し出された混練物を冷却することにより、ゲル状成形物が得られる。冷却は少なくとも50℃/分以上の速度で行う。冷却方法としては、冷却ロールに接触させる方法、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法などを用いることができる。冷却ロールを用いる場合、冷却ロールの温度を80℃以下、好ましくは20〜50℃の範囲内で設定する。80℃を越えると、ダイスから押し出された溶液を強度が有る状態まで冷却するのが遅く、取扱いが難しい。エアナイフ等で冷却ロールへの接触を補佐してもよい。
【0023】
次に、工程(c)では、このゲル状成形物を延伸する。延伸は、ゲル状成形物を100〜140℃に加熱し、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で行う。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。また、二軸延伸の場合は、縦横同時延伸または逐次延伸のいずれでもよい。最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の均一性、強度の観点から、同時二軸延伸がより好ましい。また延伸倍率は、ゲル状成形物の厚さによって異なるが、二軸延伸では面倍率で 3倍以上が好ましく、設備設計の制約などを考慮すると面倍率5〜100倍の範囲とするのがより好ましい。
【0024】
次に、工程(d)では、工程(c)で得られた延伸シートを洗浄溶剤で残留する溶剤を除去して、微細多孔が形成されたフィルムを得る。洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類などの易揮発性のものを用いることができる。これらの洗浄溶剤は超高分子量ポリオレフィンの溶解に用いた溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。洗浄方法は、洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組合せによる方法などにより行うことができる。上述のような洗浄は、延伸シート中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行う。その後洗浄溶剤を乾燥するが、洗浄溶剤の乾燥方法は加熱乾燥、風乾などの方法で行うことができる。抽出溶剤の沸点より高い温度で乾燥すれば、溶剤残存が大幅に低減できる。ただし、80℃より高い温度で乾燥させると、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜は通気性に劣る特性になる為、80℃以下の温度に抑えることが好ましい。なお、乾燥時にはフィルムの収縮が起こる為、収縮しないように固定して乾燥させる。このとき、テンターで収縮しないように固定することが好ましい。さらに、60℃以下の乾燥温度に限れば、0%以上20%未満の範囲でTD方向に延伸すれば、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の特性を落とすことなく溶剤の乾燥を促進できるので好ましい。なおこのとき、TD方向に20%以上の延伸を行うと、フィルムを破損することがあるので注意が必要である。
【0025】
次に、工程(e)では、微細多孔が形成されたフィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う。なお、後述する実施例および表1では、本工程の熱処理を「熱処理1」と表記している。この熱処理の際の熱処理温度(装置内温度)は任意に調整可能だが、90〜150℃にて行なうのが好ましい。150℃を超えると、フィルムが多孔構造を維持できず、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の透気度が悪化することがある。90℃未満ではフィルムの熱収縮率の低減効果が十分でなく、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の寸法安定性向上の効果が得られない。熱処理時間も温度設定により適宜調整される。熱処理温度は特に好ましくは120〜140℃に設定される。熱処理の時間は、特に限定されないが、通常は1秒以上10分以下、好ましくは3秒から3分以下で行われる。この工程により、熱処理温度に相応した超高分子量ポリオレフィンの結晶化とフィルムの内部応力緩和が経時的になされ、その結果、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の寸法安定性が向上する。
【0026】
なお工程(e)では、テンター方式、ロール方式、圧延方式のいずれの方式も採用できる。チャックにて幅固定可能なテンターが好ましい。チャックは、部品自体の温度が工程内温度より低いことと、空気の循環が装置構成上阻害されやすい位置にあるため、その影響を低減する為、チャック構造として小面積でフィルムが把持でき、かつ多数あるほうが好ましい。
【0027】
この工程で延伸倍率が0%以下(つまり縮幅)であると、熱収縮率は低減できるものの透気度が高くなり、物性が悪くなる。一方、このとき延伸倍率が0.1%以上では最終的にポリオレフィン多孔質膜を歩留まり良く製造することはできない。この理由は、先述したように、本発明において、重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンを混合する場合、超高分子量ポリオレフィン100重量部に対して0〜25重量部の範囲内にしておくか、もしくは重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンを混合しない方がよいことに関連すると推測される。本発明では超高分子量ポリオレフィン単独またはその割合が非常に高いため、強度が強く、例えば、超高分子量ポリオレフィンの割合が低い上記特許文献1および特許文献2で行われる熱処理は適していない。特に、特許文献2は、本発明と同様、2段階以上の熱処理を実施することによって、ポリオレフィン多孔質膜の熱収縮率の抑制を実現しようとするものであり、最初の熱処理を、MDおよびTD両方向を固定し、MDまたはTDのいずれか一方向に延伸しながら行うことを特徴としている。しかし、特許文献2の[0027]には、最初の熱処理での延伸倍率が具体的に記載されており、「延伸倍率が0.1%未満では、引張強度、突刺強度の高い多孔質膜は得ることは出来ない」と記載されている。このことも上記推測を支持している。
【0028】
次に、工程(f)では、フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向にフィルムの縮幅をしながら熱処理を行う。なお、後述する実施例および表1では、本工程の熱処理を「熱処理2」と表記している。この工程ではフィルムの自由収縮により、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の寸法安定性をさらに向上させることができる。このときの縮幅率は、フィルムの少なくとも一方向に1〜10%の範囲内であることが好ましい。1%未満では寸法安定性向上効果がほとんど現れず、10%より大きいと透気度や空孔率が著しく低下することがある。
【0029】
工程(f)では、温度は、最初の熱処理である工程(e)の熱処理機内の温度より低いことが好ましい。具体的には90〜118℃が好ましい。90℃より低いと縮幅が進みにくく寸法安定性の効果を得にくい。また118℃より高いと透気度が著しく低下する。なお、樹脂の融点に近づくほど分子の運動性も早くなり、短時間で寸法安定化の効果を得ることが出来るようになるため、許容される範囲内で高めの温度に設定することが好ましい。
【0030】
なお、本工程は例えばフローティング、加熱ドラムを利用した方法で行ってもよいが、十分に空走距離(パスライン間隔)があり、抱き角が10°以上になるよう配置されたロールが内部に設置されたオーブンを利用した方法が、自由収縮ができ、かつ高精度な風圧制御も不要であり、好ましい。
【0031】
さらに、工程(e)の最終段階で、フィルムを固定把持具(チャックなど)から取り外すが、このときフィルムの収縮が起こることがある。そこで、工程(e)と工程(f)とを連続して製造ラインを構成する場合には、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の特性が低下しない範囲で、工程(e)よりも工程(f)のライン速度を少し下げる(例えば、(工程(f)のライン速度/工程(e)のライン速度)を0.98などに設定)ことにより、工程(f)の装置入口におけるフィルムのMD方向の張力を低減してもよい。
【0032】
また、本実施形態において、工程(e)と工程(f)との間に、フィルムが室温に曝露される領域を設けてもよい。このような装置設計とすることで、工程(e)と工程(f)と間での互いの温度の影響を排除できる。
【0033】
上記の製造方法によって得られた本発明のポリオレフィン多孔質膜は、膜厚5〜100μm、空孔率30〜50%、透気度が280秒/100cc・20μm以下、突刺強度が4000mN/20μm以上、MDおよびTD両方向の105℃、1時間における熱収縮率が4%以下という優れた物性バランスを有する。
【0034】
このようなポリオレフィン多孔質膜は、透気度が高く、尚かつ、熱収縮率が非常に低いので、リチウム電池用セパレータとして非常に適している。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、各種特性については、下記要領にて測定を行なった。
【0036】
(重量平均分子量)
ウォーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフ[GPC−150C]を用い、溶媒にo−ジクロロベンゼンを、また、カラムとして昭和電工(株)製の[Shodex−80M]を用いて135℃で測定した。データ処理は、TRC社製データ収集システムを用いて行なった。分子量はポリスチレンを基準として算出した。
【0037】
(厚さ)
1/10000シックネスゲージにより測定した。
【0038】
(空孔率)
測定対象の多孔質フィルムを6cm×4cmの長方形状に切り抜き、その体積と重量を求め、得られる結果から次式を用いて計算した。
空孔率(体積%)=100×(体積(cm3)−重量(g)/樹脂及び無機物の平均密
度(g/cm3))/体積(cm3
【0039】
(透気度(ガーレ値))
JIS P8117に準拠して測定した。
【0040】
(突刺強度)
カトーテック(株)製圧縮試験機「KES−G5」を用いて、突刺試験を行った。得られた荷重変位曲線から最大荷重を読みとり、突刺強度とした。針は直径1.0mm、先端の曲率半径0.5mmのものを用い、2mm/secの速度で突刺を行った。
【0041】
(熱収縮率)
MD方向60mm、TD方向40mmの形状に打ち抜いた長方形の測定方法のサンプルを、105℃の高温乾燥機中に1時間保持し、取り出した後に投影機(PJ−A3000, ミツトヨ社製)を用いてMD、TD方向のサンプルの大きさを測り、次式を用いて収縮率を求めた。
収縮率(MD)= 100 ×(60−L1)/60
〔ここで、L1は収縮後のMDの大きさ(mm)である〕
収縮率(TD)= 100 ×(40−L2)/40
〔ここで、L2は収縮後のTDの大きさ(mm)である〕
以下、本発明の好適な実施例を例示的に説明する。本実施例は、図1に示す製造装置100を用いて実施される。製造装置100は、溶融部としての溶融ユニット11と、平型ダイス12aを備える混練部としての二軸押出機12と、冷却成型部としての冷却ロール13と、延伸部としての同時二軸延伸機14と、溶剤除去部としての液体槽15と、乾燥部としてのテンター16と、1次熱処理部としてのテンター17と、2次熱処理部としての熱処理機18と、巻取りロール19とを備える。
【0042】
(実施例1)
まず、重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(ティコナGUR4012、融点137℃)15重量部、流動パラフィン85重量部、酸化防止剤(商品名:Irganox1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、登録商標)0.04重量部を、溶融ユニット11を用いてスラリー状に均一に混合した。次に、170℃で二軸押出機12にて100rpmのスクリュー回転速度で溶解混練した。得られた混練物を、リップ間隔2mmの平型ダイス12aよりシート状に押出し、引き取りながらシートを冷却ロール(35℃に設定)13に接触させ冷却し、厚さ1.75mmのゲル状成形シートを作製した。得られたゲル状成形シートを同時二軸延伸機14にて126℃でMD方向に5倍、TD方向に5倍で延伸を行ない(つまり5倍×5倍の面倍率25倍延伸)、延伸シートを得た。この延伸シートをジクロロメタン(沸点40℃)が満たされた液体槽15中に3分浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、テンター16にて50℃の温度で幅方向に10%延伸しながら乾燥した。得られたフィルムを機内温度130℃のテンター17にてTD方向に0.05%延伸しながら2分間熱処理を行った(以下、この工程を「熱処理1」と便宜上称する)。続いて機内温度110℃の熱処理機18に、130℃のテンター17での速度に対して1.0倍速で通し、自由収縮によりTD方向に3.5%縮幅させ(以下、この工程を「熱処理2」と便宜上称する)、巻取りロール19により巻取り、ポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
熱処理2の熱処理機18において、130℃のテンター17での速度に対して0.98倍速とした以外は、実施例1と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
厚さ0.90mmのシートを作製し、このシートを同時二軸延伸機14にて124℃で延伸を行った以外は、実施例2と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
冷却ロール13の温度を40℃設定に変更し、熱処理1のテンター17において機内温度を126℃に変更し、熱処理2の熱処理機18において機内温度を115℃に変更し、TD方向への縮幅を5%とした以外は、実施例2と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
熱処理2の熱処理機18において、温度を115℃に変更し、TD方向への縮幅を5%とした以外は、実施例2と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
熱処理1のテンター17にてTD方向に3.00%縮幅しながら2分間熱処理を行ったこと以外は、実施例1と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
熱処理1のテンター17にてTD方向に1.00%延伸しながら2分間熱処理を行ったこと以外は、実施例1と全て同じ条件でポリオレフィン多孔質膜を得た。得られたポリオレフィン多孔質膜の物性評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
ポリオレフィン多孔質膜をセパレータとして電池に組み込んだ際に、リチウムイオンはセパレータの孔の中を通過して移動するため、高出力電池ではセパレータの抵抗を出来る限り低減することが求められる。そのため空孔率および透気度が高いことが求められる。
【0051】
その一方で、高出力電池では安全性も求められ、短絡の1つの原因となるセパレータの熱収縮は極力抑えることも求められる。
【0052】
実施例1〜5と比較例1とを比較すると、最終的に得られるポリオレフィン多孔質膜の熱収縮率にさほど大きな差は無く、実施例1〜5のポリオレフィン多孔質膜の空孔率および透気度が向上していることから、本発明の製造方法が、好ましい特性が得られる特異な領域であることがわかる。
【0053】
また、比較例2で示されるとおり、熱処理1においてTD方向に大きく延伸するとチャック近傍が破膜している。熱処理1のテンターは、フィルムを挟んで保持するチャックが多数備わっているが、このチャック近傍にフィルムに発生する張力が局所的に集中し、孔が形成されやすい。このような孔が発生した場合、熱処理1の加熱条件下では局所的に自由収縮し、チャック近傍においてフィルムの物性に均一性が著しく低下する。このためポリオレフィン多孔質膜の製造歩留まりが低下する。
【0054】
なお、本発明は上記の実施形態において示されたものに限定されるものではなく、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法は、電池用セパレータ、特に、発熱の大きいリチウム電池用セパレータを提供するために利用でき、リチウム電池の高い電池特性と安全性に寄与するセパレータを得る場合において好適に利用できる。本発明の製造方法により得られるポリオレフィン多孔質膜は従来の多孔質膜よりも電池用セパレータとして優れており、高い性能を有する。
【符号の説明】
【0056】
11 溶融ユニット
12 二軸押出機
12a 平型ダイス
13 冷却ロール
14 同時二軸延伸機
15 液体槽
16,17 テンター
18 熱処理機
19 巻取りロール
100 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融混練して混練物を得る工程(a)と、
前記混練物を押出し、冷却してゲル状成形物を得る工程(b)と、
前記ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る工程(c)と、
前記延伸シートから溶剤を除去し、乾燥して微細多孔が形成されたフィルムを得る工程(d)と、
前記フィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う工程(e)と、
前記フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う工程(f)と、
を含むポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記重量平均分子量50万以上のポリオレフィンは、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記溶液は、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンおよび溶剤のみからなることを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、前記溶液に高分子型ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加することを特徴とする、請求項1または2に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を溶融する溶融部と、
前記溶融部に接続され、前記溶融部において溶融された溶液を混練して混練物を得る混練部と、
前記混練部に接続され、前記混練部によって得られた前記混練物を冷却してゲル状成形物を得る冷却成型部と、
前記冷却成型部に接続され、前記ゲル状成形物を延伸して延伸シートを得る延伸部と、
前記延伸部に接続され、前記延伸シートから溶剤を除去する溶剤除去部と、
前記溶剤除去部に直接的または間接的に接続され、前記溶剤が除去され、微細多孔が形成されたフィルムのMDおよびTDの両方向を固定して、MDおよびTDの少なくとも一方向に0%を越えて0.1%未満の延伸倍率で前記フィルムを延伸しながら熱処理を行う1次熱処理部と、
前記1次熱処理部に接続され、前記フィルムのMDおよびTDの少なくとも一方向に前記フィルムの縮幅をしながら熱処理を行う2次熱処理部と、
を備えるポリオレフィン多孔質膜の製造装置。
【請求項6】
前記溶剤除去部と前記1次熱処理部との間に接続され、前記延伸シートから溶剤を除去した後に、前記延伸シートを乾燥させる乾燥部をさらに備える請求項5に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造装置。
【請求項7】
実質的に重量平均分子量50万以上のポリオレフィンからなり、透気度が280秒/100cc・20μm以下、MDおよびTD両方向の熱収縮率が4%以下であるポリオレフィン多孔質膜。
【請求項8】
実質的に重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンのみからなることを特徴とする、請求項7に記載のポリオレフィン多孔質膜。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52085(P2012−52085A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293506(P2010−293506)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】