説明

ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られるフィルム

【課題】 フィッシュアイが少なく外観に優れ、保護する相手材を汚染しない低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 60〜120℃に加温したバックアップロールにより基材を支持し、基材を挟んでバックアップロールの反対面に設置した60〜150℃に加温したダイコーターを用いてポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸散させるポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られるポリオレフィン樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られるポリオレフィン樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は経済性、機械強度、透明性、成形性、衛生性等に優れていることから広範な産業分野で使用されており、例えば単層又は多層フィルムに加工され、光学用の保護フィルムをはじめとして、金属板、樹脂板、自動車、電子材料等の保護フィルムとして広範に用いられている。
【0003】
保護フィルムの品質に対する要求は年々厳しくなっており、特に外観を損ねるフィッシュアイの低減、保護する相手材を汚染しない低汚染性が求められている。ここでフィッシュアイとは、フィルム中に異物やゲルがあるとその周辺部分が肉眼、偏光板、または顕微鏡で見ると魚の目のようにみえることからきた樹脂フィルムの欠点の一つである。
【0004】
ポリオレフィン樹脂フィルムの場合、フィッシュアイの原因の一つであるゲルには未溶融ゲルと架橋ゲルがあることが知られている。
【0005】
架橋ゲルはポリオレフィン樹脂が3次元的に架橋し、加熱溶融、及び溶剤への溶解が難しいゲルである。一方、未溶融ゲルは加熱により溶融又は溶解可能なゲルであり、押出機により溶融混練し、ダイス等から押出した場合には未溶融ゲルとしての状態を保持している比率が高く、製品外観の低下を招く。
【0006】
特にベッセル型反応器又はチューブラー型反応器を用いて高圧ラジカル重合で得られるポリオレフィン樹脂、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン等では上記の未溶融ゲル、架橋ゲルが多いことが知られている。高温の反応器内では生成したポリマーからラジカル的に水素が引き抜かれ、分岐が生成する。この分岐ポリマーは反応器に接続された高圧分離器、及びペレット化の過程で高温に晒されて、凝集体としての未溶融ゲル、又は架橋反応を起こして架橋ゲルを生成することが、この理由である。
【0007】
そこで、この問題を解決する方法として、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、特定の重合条件でエチレンを重合するに際し、反応系内にラジカル重合禁止剤を共存させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
また、樹脂に含まれる架橋ゲル、及び未溶融ゲルを成形時に除去する方法が提案されている。例えば、押出機に高粘度樹脂溶融体輸送用ギヤーポンプ、及び濾過装置として焼結フィルターを設置し、溶融ポリエチレン系樹脂を押出してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
さらには、溶融した膜状のポリオレフィン樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧して得られるフィルムが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−342307号公報
【特許文献2】特開平8−103952号公報
【特許文献3】特開平8−25460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に提案の方法はフィッシュアイを低減する一定の効果はあるもののそのレベルは不充分であり、ラジカル重合禁止剤を共存させるためポリエチレン樹脂フィルムに成形し保護フィルムとして使用した場合、相手剤を汚染する欠点がある。
【0012】
また、特許文献2、3に記載の方法は、ポリオレフィン樹脂が高温にさらされるため架橋ゲルが生成する課題を解決し切れていない。特に特許文献2に記載の方法は、焼結フィルターを用いるため高温にさらされる時間が長くなってしまう。
【0013】
一方、架橋ゲルの生成を抑制するためにラジカル捕捉剤を添加する方法が考えられるが、高温にさらされる樹脂の架橋ゲルの生成を抑制するには多量のラジカル捕捉剤が必要で、これらは保護フィルムとして使用する際に汚染の原因になってしまう。
【0014】
フィルムは一般に外観が良く、取扱い易いことから均一な膜厚を有することが求められ、保護フィルムでは特に膜厚精度に対する要求が厳しい。
【0015】
そこで、本発明は、フィッシュアイが少なく外観に優れ、保護する相手材を汚染しない低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、60〜120℃に加温したバックアップロールにより基材を支持し、基材を挟んでバックアップロールの反対面に設置した60〜150℃に加温したダイコーターを用いてポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸散させるポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られるポリオレフィン樹脂フィルムである。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法では、60〜120℃に加温したバックアップロールにより基材を支持し、基材を挟んでバックアップロールの反対面に設置した60〜150℃に加温したダイコーターを用いてポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸散させる。
【0019】
本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン樹脂としては、何ら制限はなく、例えば、ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体、さらにこれらポリオレフィン樹脂の塩素化物等を挙げることができる。さらに詳しくは、ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン等が挙げられる。エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられ、具体的には、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物、エチレン−ビニルアルコール樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系共重合体としては、例えば、ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー等が挙げられる。また、これらポリオレフィン樹脂は単独で、又は複数選択して用いることができる。
【0020】
中でも得られるポリオレフィン樹脂フィルムが柔軟であることから、本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0021】
これらのポリオレフィン樹脂を合成するための重合方法に特に限定はなく、通常知られている方法を用いることができ、例えば、高圧ラジカル重合法、中低圧重合法、溶液重合法、スラリー重合法等を挙げることができる。
【0022】
また、重合に使用する触媒に特に制限はなく、例えば、過酸化物系触媒、チーグラー−ナッタ触媒、メタロセン触媒等が挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン樹脂の分子量は、ポリオレフィン樹脂が溶剤に溶解する限り何ら制限は無いが、フィルムの強度を維持し、かつ、ポリマー溶液の流動性が維持して薄いフィルムを得るため、直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)が、10,000〜1,000,000が好ましく、20,000〜700,000がさらに好ましく、25,000〜300,000が特に好ましい。
【0024】
本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン溶液はポリオレフィン樹脂を溶剤に溶解して得られる。
【0025】
本発明の製造方法で用いられる溶剤は、ポリオレフィン樹脂を溶解する溶剤であれば特に制限は無く、例えば、ハロゲン系溶剤、沸点が70〜140℃、溶解度指数が13〜20MPa1/2である脂肪族炭化水素系化合物、芳香族炭化水素系化合物、エーテル系化合物及びアセタール系化合物から選ばれる少なくとも1種類の非ハロゲン系溶剤等を挙げることができる。これらの溶剤は2種以上を混合して使用することもでき、その割合は特に限定するものではない。
【0026】
ハロゲン系溶剤としては、例えば、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の塩素系溶剤、臭化エタン等の臭素系溶剤、モノフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等のフッ素系溶剤、ブロモクロロメタン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロエタン等の臭素とフッ素を含有する溶剤等が挙げられる。
【0027】
沸点が70〜140℃、溶解度指数が13〜20MPa1/2である脂肪族炭化水素系化合物、芳香族炭化水素系化合物、エーテル系化合物及びアセタール系化合物としては、例えば、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、2,2,5−トリメチルヘキサン、1−ヘプテン、1−オクテン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂肪族炭化水素系化合物、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系化合物、シクロペンチルメチルエーテル、エチルアミノエーテル、ジオキサン、ジプロピルエーテル等のエーテル系化合物、ジエチルアセタ−ル等のアセタール系化合物が例示される。
【0028】
これらの溶剤の中で、ポリオレフィン樹脂の溶解性の観点からはポリオレフィン樹脂を例えば、80〜120℃で溶解できる溶剤が好ましく、また、溶剤の蒸散の観点からは沸点の低い溶剤が好ましい。これらの観点から、1,1,2−トリクロロエタン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエン、シクロペンチルメチルエーテルが好ましく、1,1,2−トリクロロエタン、メチルシクロヘキサンがさらに好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂の溶解温度は用いる溶剤とポリオレフィンに樹脂より適宜決定される。使用する溶剤の沸点以下でポリオレフィン樹脂が溶解しない場合には、必要に応じて耐圧容器を用いて溶剤の沸点以上の温度で溶解することも可能であるが、使用する溶剤の常圧での沸点以下で溶解させるのが経済的側面から好ましい。溶解温度は、例えば60〜200℃が好ましく、60〜150℃がさらに好ましい。
【0030】
溶解時間は使用するポリオレフィン樹脂の形状、及び溶解温度に依存し、例えば20分〜8時間が好ましく、30分〜2時間がさらに好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の溶解は完全に行う必要があり、一定の溶液粘度に到達するまで溶解を行うことが好ましい。
【0031】
また、溶解する装置に特に制限はなく、例えば、ベッセル、チューブ、横型反応器、押出機等を用いることができる。また、溶解は撹拌しながら行うのが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン樹脂を溶剤へ溶解して得られたポリオレフィン溶液は、異物を除くために濾過することが好ましく、濾過はポリオレフィン樹脂が溶解した状態で行うことが好ましい。濾過方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、自然濾過、遠心濾過、加圧濾過、減圧濾過、デカンテーション等が挙げられる。濾材としては、例えば、金属網、積層金網焼結体、金属不織布焼結体、樹脂織布、樹脂不織布、樹脂メンブラン、濾布、紙等が挙げられる。これらの濾材は単独、又は複数組み合わせて使用することができ、また濾過精度を上げるため、濾過は多段階に分けて行うこともできる。濾材の目開きは100μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0033】
ポリオレフィン溶液を濾過する際の温度に特に制限は無く、例えば、使用する溶剤の沸点以下で、ポリオレフィン樹脂が溶解した状態等で行うことができる。
【0034】
ポリオレフィン溶液の濃度には特に制限がなく、選択した溶剤により適宜設定することが可能であり、0.1〜50重量%が好ましく、1〜30重量%がさらに好ましく、5〜25重量%が特に好ましい。
【0035】
本発明の製造方法で用いられる基材としては、何ら制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル製フィルムに代表される各種樹脂フィルム、これら樹脂フィルムの表面にシリコン処理、アクリル樹脂等のハードコートによる表面処理を施した各種樹脂フィルム、これら樹脂フィルムに金属蒸着処理を行った各種樹脂フィルム等が挙げられる。さらには、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属箔、金属フィルム、金属シート等の各種フィルム、必要に応じてこれら金属素材上にポリマーコーティングを施したもの、無機コーティングを施したもの等を例示することができ、中でも、耐熱性、強度に優れるため塗布し易いことからポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、バックアップロールにより基材を支持する際、バックアップロールに接触している基材部分は、バックアップロールが円形に見える方向から見たとき、バックアップロールの中心角が0〜180°で接触していることが好ましく、塗布したポリオレフィン溶液が液ダレし難いことから90〜170°で接触していることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の製造方法では、バックアップロールの温度は60〜120℃であり、60〜100℃が好ましい。バックアップロールの温度が60℃未満ではポリオレフィン樹脂が析出し始め、ダイコーターが目詰まりすることがある。120℃を超えると得られるポリオレフィンフィルムに気泡が入ったり、溶剤の蒸散が早くダイコーターが目詰まりすることがある。
【0038】
さらに、本発明の製造方法では、ダイコーターの温度は60〜150℃であり、80〜120℃が好ましい。ダイコーターの温度が60℃未満では、ポリオレフィン樹脂が析出し始め、ダイコーターが目詰まりすることがある。150℃を超えると得られるポリオレフィン樹脂フィルムに気泡が入ったり、溶剤の蒸散が早くダイコーターが目詰まりすることがある。
【0039】
バックアップロール,ダイコーターを所定の温度にするためには、加温すればよい。加温の方法としては、何ら制限はなく、例えば、電気式ヒ-ターで加温する方法、加熱した熱媒を循環させる方法、スチームを循環させる方法、温水を循環させる方法、熱風を吹付ける方法、赤外線やマイクロ波等を照射する方法、電磁誘導により加温する方法等が挙げられ、バックアップロール,ダイコーターの温度分布を小さくできることから、加熱した熱媒を循環させる方法、温水を循環させる方法、スチームを循環させる方法が好ましい。
【0040】
ダイコーターの温度とバックアップロールの温度の差は、得られるポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚が均一になるため、50℃以下であることが好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0041】
また、本発明の製造方法では、得られるポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚が均一になることから、バックアップロールに接触している基材部分にポリオレフィン溶液を塗布することが好ましい。
【0042】
塗布により形成された直後の基材上のポリオレフィン溶液の厚みは3〜500μmが好ましく、塗布速度は基材上に形成された直後のポリオレフィン樹脂層の厚みとは独立に0.5〜50m/分が好ましい。
【0043】
本発明の製造方法において、加熱して溶剤を蒸散させるには、例えば、基材上に形成されたポリオレフィン溶液層を1段階から多段階に分けて加熱する方法が挙げられる。その温度範囲は50〜200℃が好ましく、多段階で乾燥する場合には50〜100℃で1次乾燥し、100〜200℃の範囲で2次乾燥する等の方法を例示することができる。また、必要に応じて乾燥を3段階以上に分けて行うことも可能である。この乾燥は工業的にはダイコーターに隣接した乾燥炉を用いて効率的に行うことができる。ポリオレフィン樹脂層は十分な乾燥の後に基材から剥離して巻取る、又は乾燥途中の段階で基材から剥離して、ポリオレフィン樹脂層のみを乾燥し、巻取る等の方法によりフィルム化することができる。
【0044】
本発明の製造方法で得られるポリオレフィン樹脂フィルムは長さ、幅、厚さに特に制限はなく、平面状成形物であり、テープ類、リボン類も含む。
【0045】
本発明の製造方法で得られるポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚は1〜200μmが好ましく、5〜150μmがさらに好ましく、10〜100μmが特に好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明により産業上極めて応用範囲の広い、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性に優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。本発明のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法は、例えば高い品質が求められる保護フィルムの製造方法として有用である。本発明の製造方法により得られるポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性に優れ、膜厚が均一であるため、例えば高い品質が求められる保護フィルムとして有用である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例にもとづき本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明の理解を助けるための例であって本発明はこれらの実施例により何等の制限を受けるものではない。
【0048】
<ポリオレフィン樹脂>
実施例で用いたポリオレフィン樹脂は、添加剤が添加されていない樹脂を用いた。
【0049】
(1)ポリエチレン
1)低密度ポリエチレン
LDPE;ペトロセン(登録商標)175K(MFR=0.6g/10分、密度=922kg/m)、東ソー株式会社製
2)線状低密度ポリエチレン
L−LDPE;ニポロン−Z(登録商標)YB10T(エチレン−ヘキセン共重合体、MFR=1.0g/10分、密度=920kg/m)、東ソー株式会社製
3)高密度ポリエチレン
HDPE;ニポロンハード(登録商標)8022(MFR=0.35g/10分、密度=958kg/m)、東ソー株式会社製
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体
EVA;ウルトラセン(登録商標)546K(酢酸ビニル含有量10wt%、MFR=6g/10分、密度=929kg/m)、東ソー株式会社製
(3)エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物
EVAOH;メルセンH(登録商標)H−6051K(MFR=5.5g/10分、密度=970kg/m)、東ソー株式会社製
<基材>
PETフィルム;メリネックス(登録商標)タイプS(厚み:100μm),帝人デュポンフィルム株式会社製
<塗布>
加温可能な幅300mmのダイコーターを設置した塗工機を用いて行った。ユニコントロールズ(株)製の5Lタンクと幅300mmのダイコーターとをテフロン(登録商標)チューブで連結した。タンクは加圧用の窒素導入バルブ、及び加温用ジャケットを装着しており、(株)マイセック製のHST−120CTを用いて温度を調節した。テフロン(登録商標)チューブは(株)マイセック製のホースヒーター、及びHST−120CTを用いて温度を調節した。ダイコーターは日本金型産業(株)製の金型温調機TSW−75Sを用いて温度を調整した。タンク中のポリオレフィン溶液は、タンクを窒素で加圧してダイコーターから基材上へ塗布した。
【0050】
<膜厚の測定>
得られたポリオレフィン樹脂フィルムの幅方向の厚みを10mm間隔で測定し、測定した膜厚を平均して平均膜厚を算出した。また、最大膜厚と最小膜厚の差を膜厚精度として算出した。装置は、小野測器製の高分解能型リニアゲージセンサHS−3412を用いた。
【0051】
<フィッシュアイの測定>
得られたフィルムの下から蛍光灯を照射し、目視やルーペを用いフィルム中のフィッシュアイの個数と大きさを測定し、個数は1m当たりの個数として算出した。ここでフィッシュアイとは、ポリオレフィン樹脂フィルム中で光学的に不均一な状態を示している領域と定義される。
【0052】
<汚染性の測定>
得られたポリオレフィン樹脂フィルムをポリカーボネート板と貼り合せ積層体を作製した後、40℃に設定したギアオーブンに24時間放置した後取出して、ポリオレフィン樹脂フィルムをポリカーボネート板から剥離し表面の汚染状態を目視で評価した。評価結果は、汚染が見られない場合は◎、ほとんど見られない場合には○、汚染が見られた場合には×とした。
【0053】
実施例1
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0054】
95℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した105℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0055】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0057】
実施例2
LDPEのペレット2.5kg、及びメチルシクロヘキサン15.4kgを30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下95℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、90℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0058】
65℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した90℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0059】
PETフィルムの速度は1m/分で、中心角150°でバックアップロールに接触していた。また、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は90℃であった。その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に合わせて示す。
【0060】
得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0061】
実施例3
L−LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してL−LDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0062】
75℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した105℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0063】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからL−LDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に合わせて示す。
【0064】
得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0065】
実施例4
HDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下120℃で2時間攪拌してHDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、115℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0066】
100℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した115℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0067】
PETフィルムの速度は1.5m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからHDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に合わせて示す。
【0068】
得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0069】
実施例5
EVAのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してEVAを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、90℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0070】
60℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した80℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0071】
PETフィルムの速度は2m/分で、中心角150°でバックアップロールに接触していた。また、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は80℃であった。その後、130℃で乾燥し、PETフィルムからEVAフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に合わせて示す。
【0072】
得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0073】
実施例6
EVAOHのペレット3.0kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下115℃で2時間攪拌してEVAOHを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、115℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0074】
95℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した115℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0075】
PETフィルムの速度は2m/分で、中心角150°でバックアップロールに接触していた。また、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからEVAOHフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、汚染性、フィッシュアイを測定した結果を表1に合わせて示す。
【0076】
得られたポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムであった。
【0077】
比較例1
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0078】
40℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した105℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布したところ、ポリオレフィンが析出し縞模様が見られた。
【0079】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。
【0080】
その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚を測定したところ、平均膜厚は32μmで、膜厚精度は18μmであり、厚さが不均一なフィルムであった。そのため、汚染性,フィッシュアイを測定するに値しなかった。
【0081】
比較例2
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0082】
130℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した105℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0083】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。
【0084】
その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの汚染性を測定したところ◎、膜厚を測定したところ平均膜厚は31μm、膜厚精度は3.1μmであったが、フィッシュアイを測定したところ直径150μm程度の大きさの気泡が10個/m見られ、外観の悪いフィルムであった。
【0085】
比較例3
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0086】
95℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した50℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布したところ、ポリオレフィンが析出してダイコーターが部分的に目詰まりし、PETフィルム上に筋状のポリオレフィン溶液がない部分が見られた。
【0087】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。
【0088】
その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離したところ、ポリオレフィン樹脂フィルムは筋状に切れてしまった。
【0089】
比較例4
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン20L(28.8kg)を30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解し、ポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網でろ過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。
【0090】
95℃に加温したバックアップロールによりPETフィルムを支持し、PETフィルムを挟んでバックアップロールの反対面に設置した160℃に加温したダイコーターからポリオレフィン溶液を、バックアップロールに接触しているPETフィルム上に塗布した。
【0091】
PETフィルムの速度は2m/分、加温ジャケット付のテフロン(登録商標)チューブの温度は105℃であった。
【0092】
その後、150℃で乾燥し、PETフィルムからLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルムを得た。得られたポリオレフィン樹脂フィルムの汚染性を測定したところ◎、膜厚を測定したところ平均膜厚は42μm、膜厚精度は4.5μmであったが、フィッシュアイを測定したところ直径150μm程度の大きさの気泡が21個/m見られ、外観の悪いフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、保護する相手材を汚染しない低汚染性にも優れた膜厚の均一なポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供する。本発明の製造方法により得られるポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れ、さらには低汚染性に優れ、膜厚が均一であるため、例えば高い品質が求められる保護フィルムとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60〜120℃に加温したバックアップロールにより基材を支持し、基材を挟んでバックアップロールの反対面に設置した60〜150℃に加温したダイコーターを用いてポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸散させることを特徴とするポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
ダイコーターの温度とバックアップロールの温度の差が50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
バックアップロールに接触している基材部分にポリオレフィン溶液を塗布することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
ダイコーターを80〜120℃に加温することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
バックアップロールを60〜100℃に加温することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
溶剤が1,1,2−トリクロロエタン及び/又はメチルシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂がポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
基材がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかの項に記載のポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法により得られることを特徴とするポリオレフィン樹脂フィルム。

【公開番号】特開2010−202796(P2010−202796A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50828(P2009−50828)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】