説明

ポリオレフィン粉体の製造方法

【課題】
ポリオレフィン粉体を十分な工業的価値を有するまでに親水化させることが可能なポリオレフィン粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明のポリオレフィン粉体の製造方法は、代表径1μm以上100μm以下のポリオレフィン粉体にプラズマを照射することにより、ポリオレフィン粉体に水分散性を与えかつゼータ電位の絶対値をpH2からpH13の範囲において10mV以上にすることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン粉体の表面処理に好適に用いられるプラズマ処理の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体の表面処理を行う方法の一つに、プラズマを用いる方法がある。これまで、粉体の表面処理を行う方法がいくつか開示されている。
特許文献1には、誘電体で被覆した金属電極と設置電極とが形成された反応容器に粉体を入れ、希ガスおよび/またはモノマーを導入してプラズマ形成行うことを特徴とした方法を開示している。
【0003】
特許文献2には、モノマーを含む蒸気にイオン化ガスプラズマを発生させ、モノマーの重合を0.02MPaから0.3MPAの範囲において行う方法を開示している。
特許文献3には、有機物濃度を1%以下で粉体をプラズマ処理する方法を開示しており、対向する電極間に被処理体の表面処理を行う際に、脂肪族炭素濃度が0.01〜1%になるように濃度調整を行いながらプラズマ処理することを行う方法を開示している。
【0004】
特許文献4には、絶縁体容器の外側に印加電極と接地電極とをそれぞれ配置し、前記容器内に所定のガスを供給し、前記電圧を印加して前記容器内に大気圧プラズマを発生させ、前記容器内の被処理物を前記容器内で転動又は浮動させながらその表面を大気圧プラズマにより処理するようにしたことを特徴とする表面処理方法を開示している。
但し、特許文献4に記載された方法は、実施例に記載された、手でその一つ一つを扱えるような直径40mmのポリプロピレン樹脂球状物やゴルフボールと同程度の比較的大きなサイズのものを対象としている。しかし、粒子を含む粉体のような代表径の小さな材料をプラズマ処理することは実施例にて述べられていない。
実際に、特許文献4の図1、図10、図13、図14、図38、図39に記載されている球状等の被処理物は大きく、転動しながらプラズマ容器の中を動いている様子を観察することができる。また、特許文献4の図12、図40に記載されているように被処理物を浮動させることにより、プラズマ容器の中を動かしている様子を観察することができる。
【0005】
また、特許文献5に記載されているように、粉体を浮遊搬送する過程において、大気圧プラズマにて粉体の表面処理を行う方法は、大気圧プラズマを用いた粉体のプラズマ処理としては好適な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−059560号公報
【特許文献2】特開平6−041214号公報
【特許文献3】特開平6−041755号公報
【特許文献4】特開平6−065739号公報
【特許文献5】特開平6−228739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリオレフィンのような撥水性であり、また比重の軽い粉体に対し親水化処理を行うことは一般に困難である。そのようなポリオレフィン粉体の親水化処理を行う手法としてプラズマによる親水化処理を考えることができる。
また、粉体をプラズマ処理するのに好適と思われる方法が、特許文献1及び5に示されている。しかし、これらの特許文献に示された方法にて、ポリオレフィンの粉体をプラズマ処理した実施例は示されていない。
しかも、親水化された粉体の実際における工業的な利用価値を考慮した場合、処理に供する粉体の一部のみが親水化されていたのでは有益ではない。親水化処理を行ったポリオレフィン粉体のほぼ全てが親水化されている必要がある。
【0008】
本発明は、プラズマ処理に供した粉体が十分な工業的価値を有するまでに親水化させることを可能にするポリオレフィン粉体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 代表径1μm以上100μm以下の被処理ポリオレフィン粉体にプラズマを照射する、水分散性を有し、かつpH2からpH13の範囲におけるゼータ電位の絶対値が10mV以上であるポリオレフィン粉体の製造方法。
【0010】
<2> 誘電体からなる密封容器と、該密封容器内に設けられた印加電極と、該印加電極と対向するように該密封容器の外面に接触して配置された金属接地電極と、該密封容器内に設けられ前記印加電極と前記金属接地電極との間で前記ポリオレフィン粉体を撹拌する撹拌装置と、を備え、前記印加電極と前記金属接地電極との最近接距離が1mm以上50mm以下であるプラズマ処理装置を用い、前記密封容器内で、前記撹拌装置によって前記ポリオレフィン粉体を混合させながら、前記印加電極に電圧を印加して前記印加電極と前記金属接地電極との間に発生したプラズマを前記ポリオレフィン粉体に照射することを特徴とする<1>に記載のポリオレフィン粉体の製造方法である。
【0011】
<3> 前記密封容器内の圧力を1Pa以上、102×10Pa以下とし、希ガスを90体積%以上の量で含むプラズマ形成用ガスの存在下において、前記印加電極に電圧を印加して発生したプラズマを前記ポリオレフィン粉体に照射することを特徴とする<2>に記載のポリオレフィン粉体の製造方法。
【0012】
<4> 前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする<3>に記載のポリオレフィン粉体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、処理に供したポリオレフィン粉体を完全に水分散するように親水化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一例に係るプラズマ処理装置の模式図である。
【図2】本発明の一例に係るプラズマ処理装置において、ヘリウムガスを流したときのガス排出管の出口における酸素濃度の変化を示したものである。
【図3】本発明の一例に係るプラズマ処理装置を45°傾けたときの模式図である。
【図4】平均粒径10μmのポリエチレン粉体のプラズマ処理前後の粒径分布を示したものである。
【図5】ポリエチレン粉体の水分散性を評価するための光線透過率評価方法を模式的に示した図である。
【図6】表1(実施例1)に記載のポリエチレン粉体の光線透過率評価結果である。
【図7】表1(実施例1−1)に記載のポリエチレン粉体のゼータ電位測定結果である。
【図8】表3(実施例3)に記載のポリエチレン粉体の光線透過率測定結果である。
【図9】表5(比較例1)に記載のポリエチレン粉体の光線透過率測定結果である。
【図10】ポリエチレン粉体の振動型プラズマ処理装置の模式図である。
【図11】ポリエチレン粉体の振動型プラズマ処理装置にて測定した酸素濃度の測定結果である。
【図12】振動型プラズマ処理装置にてプラズマ処理されたポリエチレン粉体の光線透過率評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のポリオレフィン粉体の製造方法(プラズマ処理方法)について説明し、引き続き、本発明に用いられるプラズマ処理装置について説明する。
【0016】
<プラズマ処理方法>
本発明のプラズマ処理方法は、代表径(平均粒子径)1μm以上100μm以下の被処理ポリオレフィン粉体にプラズマを照射することにより行われる。これにより、水分散性を有し、かつゼータ電位の絶対値がpH2からpH13の範囲において10mV以上であるポリオレフィン粉体を得ることができる。
【0017】
本発明のプラズマ処理方法は、ポリオレフィン材料からなる粉体被処理体を、撹拌機構を備えた、ガラス等の誘電体からなる容器に封入し、例えば、プラズマ形成用ガスの流通下において、略大気圧下における放電により生成された、プラズマ形成用ガスの励起活性種によって処理することを含む。
【0018】
プラズマ形成用ガスとして、ヘリウム、アルゴン等の希ガスが90体積%以上含まれることが望ましい。これは、誘電体からなる密封容器内にて、プラズマを形成するためには、希ガスが90体積%以上含まれていることが必要なためである。なお、プラズマ形成用ガスとしては、プラズマ形成用ガス中に90体積%以上含まれる希ガス以外に、窒素ガスを含んでいてもよい。希ガスや窒素以外のガスとして、酸素等が混合されていても、プラズマは形成することができる。しかし、10体積%を超える濃度の酸素ガスが混入されている場合には、プラズマを形成するためにはより高い電圧をかける必要がある。これはプラズマの安定性を損ね、フィラメント状の放電が点滅して発生するようになり、ひいては不安定なプラズマ形態となり、粉体の表面処理を行う条件を満たすプラズマが得られないためである。
【0019】
プラズマ形成用ガスとしては、大気圧近辺で不活性なヘリウムガスが最も好ましいが、同じく大気圧近辺で不活性なアルゴンガスなどの希ガスを用いることができ、窒素ガスと混合して用いることもできる。プラズマ形成用ガスの流通は誘電体容器内の酸素ガス濃度が十分に低くなるようにした後に行うことができる。これらのヘリウムやアルゴン等の希ガスや窒素などの他に、他の反応性ガスを混合させることも可能である。混合するガスとしては、上記のように酸素を用いることができるが、一酸化二窒素(NO),二酸化炭素(CO)など放電場中で分解して容易に酸素を放出する気体なら何でも使用することが可能である。
【0020】
プラズマ形成のために高周波電源が必要である。プラズマ形成のためには高電圧を周期的に印加することが必要である。周波数は50Hz以上、100MHz以下を印加することが可能である。また、直流パルス電源と直列に組み合わせて使用することも可能である。
【0021】
励起活性状態にある希ガス分子等によって、粉体被処理体は、その表面にC−C結合の開裂あるいはC−H結合の切断による未結合手が形成される。この未結合手は、プラズマ処理後に取り出した後、空気に触れることにより、空気中の酸素分子や水分子と反応し、ペルオキシドラジカルを形成するに至り、酸化が進行する。
【0022】
また、今回ヘリウムガスの流通によって、誘電体からなる容器内部の酸素濃度を低減させているが、これらは大気圧状態で行われるため、粉体群の中に取り込まれている残留空気ガスを完全に除去できないことも想定される。この場合、残留空気内の酸素や窒素もヘリウムガスによって励起活性化され、粉体の表面処理を行うこともあり得る。
このようにして、ヘリウムガスを代表とする希ガスを流通させた状態で、略大気圧状態にてプラズマを形成し、かつ粉体を撹拌させることにより、粉体表面を改質することができる。なお、残留空気ガスを除去する観点から、密封容器内の圧力を1Pa以上、102×10Pa以下とすることもできる。
【0023】
<超高分子量ポリエチレン粒子(平均粒径10μm)の製造>
用いるポリオレフィン粒子は、以下のようにして製造することができる。
(Mg含有単体成分(B1−1)の調整)
無水塩化マグネシウム95.2g(1.0モル)、デカン442mlおよび2−エチルヘキシルアルコール390.6g(3.0モル)を130℃で2時間反応を行い均一溶液(成分(B1))を得た。次に、充分に窒素置換した内容積1000mlのフラスコに、成分(B1)50ml(マグネシウム原子換算で50ミリモル)、精製デカン283ml、およびクロロベンゼン117mlを挿入し、オルガノ社製クレアミックスCLM−0.8Sを用い、回転数15000rpmの撹拌下、液温を0℃に保持しながら、精製デカンで希釈したトリエチルアルミニウム52ミリモルを30分間にわたって滴下装入した。その後、液温を5時間かけて80℃に昇温し、1時間反応させた。次いで、80℃を保持しながら、再び、精製デカン希釈のトリエチルアルミニウム98ミリモルを、30分間にわたって滴下装入し、その後さらに1時間加熱反応した。反応終了後、濾過にて固体部を採取し、トルエンにて充分洗浄し、100mlのトルエンを加えてMg含有担体成分(B1−1)のトルエンスラリーとした。
【0024】
(固体触媒成分(B1−1−A2−172I)の調整)
充分に窒素置換した内容積1000mlのフラスコに、Mg含有担体成分(B1−1)をマグネシウム原子換算で20ミリモル、および精製トルエン600mlを装入し、撹拌下、室温に保持しながら、下記遷移金属化合物(A2−172)のトルエン溶液(0.0001mmol/ml)20mlを20分にわたって滴下装入した。1時間撹拌した後、濾過にて固体部を採取し、トルエンにて充分洗浄し、精製デカンを加えて固体触媒成分(B1−1−A2−172I)の200mlデカンスラリーとした。
【0025】
(超高分子量ポリエチレン粒子(平均粒径10μm)の調製)
充分に窒素置換した内容積1リットルのSUS製オートクレーブに精製ヘプタン500mlを装入し、室温でエチレン100リットル/hrを15分間流通させ、液相及び気相を飽和させた。続いて63℃に昇温した後、エチレンを12リットル/hrで流通させたまま、トリエチルアルミニウムのデカン溶液(A1原子で1mmol/ml)1.25ml、固体触媒成分(B1−1−A2−172I)を5.33ml(Zr原子換算で、0.00008mmol)を加え、温度を維持したまま5分間撹拌し、エマルゲンE−108(花王(株)製)40mgを加えてすぐ、エチレン圧の昇圧を開始した。10分かけてエチレン圧を0.8MPa・Gに昇圧し、その圧力を維持するようにエチレンを供給しながら65℃で2時間重合を行なった。その後、オートクレーブを冷却し、エチレンを脱圧した。得られたポリマースラリーを濾過後ヘキサンで洗浄し、80℃で10時間減圧乾燥することにより、粒子51.9gを得た。生成粒子のメジアン径は(d50)は9.4μm、Cv値は13.5%であった。なお、標準偏差、d50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、メタノールにより粉体を5分間超音波処理することにより分散させ、粒子径の測定を行うことにより算出した。
【0026】
また、前記に示した、Mg含有単体成分(B1−1)の調整方法、固体触媒成分(B1−1−A2−172I)の調整方法と、エチレンの供給方法の調整により、得られる超高分子量ポリエチレン粒子の粒径を1μmから100μmの範囲に調整することができる。
【0027】
図1に、本発明に用いたポリエチレン粉体のプラズマ処理装置を示した。このプラズマ処理装置は、プラズマが形成される11から13に示す容器、プラズマを形成するための19から22に示す電力印加装置、ポリエチレン粒子の撹拌に用いる30〜32に示す装置おおまかに分けることができる。
【0028】
容器本体12と容器上蓋11は留め金13によって結合されており、ガス導入管41から供給した例えばヘリウムガスを容器内10に流し込み、ガス排出管45から外部に放出される。容器には、ガラス製のフラスコを用いた。ヘリウムガスなどの希ガスは流通させることにより行うが、その流量は誘電体容器内の酸素ガス濃度が十分に低くなるよう行う。目安としてヘリウムガスの流量は、誘電体容器体積の気体が1分で入れ替わる流量を流すことが望ましい。このような流量の希ガスを流すことにより、計算上、n分経過後には、初期の酸素濃度をCとし、n分後の酸素濃度をCnとすると、
Cn = C*(1/2)n
として求めることができる。簡単な試算によれば16分後には初期濃度の10万分の1にまで減少する。実際、1Lの誘電体からなるガラス容器に毎分1Lのヘリウムガスを流したところ、30分強で初期濃度の1万分の1にまで低下することが認められた。
【0029】
<プラズマ処理装置>
図1に示すように、プラズマ形成のための高周波電源20が必要である。プラズマ形成のためには高電圧を周期的に印加することが必要である。その周波数は1kHz以上、10GHz以下であることが望ましい。
【0030】
誘電体からなる密封容器は、印加電極21に対して金属接地電極25となる金属導電体にて覆われていることが必要である。誘電体が金属導電体で覆われていることにより、印加電極21から放出された電流が誘電体表面で蓄積されるとともに過剰の電流が背面に存在する金属に流れることにより誘電体表面に適度な電荷蓄積状態を形成することができる。
プラズマ処理装置は、印加電極21と、これに対向して設けられる金属接地電極25との最近接距離を、1mm以上50mm以下とすることができる。これにより、ポリオレフィン粉体へのプラズマ照射を効率よく行うことができる。
【0031】
印加電極21は、内部に冷却用の流体を流すことの可能な金属管(冷却水導入管23、冷却水排出管24)を用いることが好ましい。金属管の形状は、図1に示すように円状に曲げ加工を行ったものを使用することは一例である。その他、コイル状に巻いたもの、円板状に加工したものなどを形成することができる。
また、金属管の内部には、イオン交換水やポリエチレングリコールなどの電気導電性の低い液体を流すことによって冷却を行うことが望ましい。
【0032】
撹拌のために撹拌羽30を厚み1mmのテフロン板をNC加工機にてくし型に加工を行ったものを使用することができる。くしの形状は左右対称でも左右非対称でも良い。撹拌羽30は撹拌棒31によって撹拌モーター(HEIDON社製)32に直結されており、密封容器内で回転する仕組みとなっている。回転数は、1rpmから1000rpmの間で行うことができる。
また、さらに効率よく撹拌するためには羽の形状を工夫することが好ましい。
実際にプラズマ処理を行うには、図3に示すようにガラスフラスコを斜めに傾けて行うことが好ましい。この理由は、粉体の処理を行う際に、図1に示すように平面に置いた場合には、粉体が撹拌羽30によって水平方向に力が加えられるものの、固まりとなって移動し、粉体を構成する個々の粒子が独立して動くことができない場合があった。この場合、個々の粒子表面がプラズマに照射される機会が少なくなることがあった。密封容器を斜めにすることにより、ガラスフラスコ内の粉体が上方に持ち上げられた際に落下運動が働き、粉体の上下運動が働き混合が進み、個々の粒子表面がプラズマに照射される機会が増加する。
【実施例】
【0033】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0034】
〔実施例1〕 10μm粉体 水分散性
図1に、本発明に用いたポリエチレン粉体のプラズマ処理装置を示した。このプラズマ処理装置は、プラズマが形成される密封容器(容器上蓋11、容器本体12、留め金13)、プラズマを形成するための電力機器(高周波電源トランス19、高周波電源20、印加電極21、導線22)、ポリエチレン粉体の撹拌に用いる撹拌装置(撹拌羽30、撹拌棒31、撹拌モーター32)におおまかに分けることができる。
【0035】
容器本体12は容器上蓋11と留め金13によって結合されており、ガス導入口42を介してガス導入管41から供給したヘリウムガスを容器内10に流し込み、ガス排出口46を介してガス排出管45から外部に放出される。容器本体12には、ガラス製のフラスコを用いた。実施例1におけるフラスコの容量は1Lである。ヘリウムガスの流入量は1L/minで実験を行った。ヘリウムガスは、ガス導入バルブ43を開けることで容器内10に投入され、ガス排出バルブ47を開けることで排気される。
【0036】
プラズマ形成のための高周波電源20および高周波電源トランス19には、ハイデン研究所社製のインパルス型高周波電源を用いた。平均出力は、0.1kWであり、プラズマ形成時の出力電圧は、10kVである。周波数は、1kHから30kHzの間で用いることができるが、標準条件は2kHzとした。インパルス型高周波電源から、導線22を介して印加電極21に電圧が印加される。
金属接地電極25には厚み5mmのアルミ板を用いた。金属接地電極25には接地端子27が設けられている。
【0037】
印加電極21は、外径6mm、内径4mmの銅管を用いており、図1に示すように円状に曲げ加工を行ったものを使用した。なお、銅管の内部にはポリエチレングリコールを流通させて冷却を行っている。印加電極21と金属接地電極25との最近接距離が1mm以上50mm以下となるように配置されている。
撹拌のために撹拌羽30を厚み1mmのテフロン板をNC加工機にてくし型に加工を行ったものを使用している。撹拌羽30は撹拌棒31によって撹拌モーター (HEIDON社製)32に直結されており、フラスコ内で回転する仕組みとなっている。回転数は、1rpmから1000rpmの間で行うことができる。
【0038】
ヘリウムガスを流すことによって、ガラスフラスコ内の酸素濃度の確認を行った。図2は、ヘリウムのガス排出管45の出口における酸素濃度を、微小酸素濃度計(東レエンジニアリング社製)を用いて測定したものである。時間経過とともに酸素濃度は低下し、30分後には26.9ppmに達した。
【0039】
プラズマ処理を行う際には、図3に示すようにガラスフラスコを斜めに傾けて行った。この理由は、粉体の処理を行う際に、図1に示すように平面に置いた場合には、粉体が撹拌羽30によって水平方向に力が加えられるものの、固まりとなって移動し、粉体を構成する個々の粒子が独立して動くことができない場合があった。この場合、個々の粒子表面がプラズマに照射される機会が少なくなることがあった。密封容器を斜めにすることにより、フラスコ内の粉体が上方に持ち上げられた際に落下運動が働き、粉体の上下運動が働き混合が進み、個々の粒子表面がプラズマに照射される機会が増加する。
プラズマ処理装置を用いたプラズマ処理は、具体的には、留め金13を解除して、容器上蓋11を開けて中を開放する。ポリエチレン粉体を10g投入した後、容器上蓋11を閉じてヘリウムを1L/minの流量で30分以上流した。なお、容器内10の圧力は101×10Paであった。
【0040】
高周波電源20により、出力電圧を印加し、周波数2kHz、出力電圧を10kVの条件で平均投入電力が0.1kWになるように調整しながら、ガラスフラスコ内にプラズマを形成し、印加電極21と金属接地電極25との間のプラズマ空間28において平均粒径10μmのポリエチレン粉体のプラズマ処理を行った。印加電極21と金属接地電極25との最近接距離は5mmであった。
平均粒径10μmのポリエチレン粉体一連の実験条件を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
プラズマ処理前後のポリエチレン粉体の粒径分布を図4に示す。プラズマ処理前後ではその粒径分布はほぼ同じであり、プラズマ処理によって体積の増加減少が認められないことが分かる。
【0043】
このようにして得られたポリエチレン粉体を、光線透過率測定用のパイレックス製セルに0.01g入れ、蒸留水3.43gで希釈した後、超音波洗浄器で振動撹拌を行い、更に手振りにてパイレックスセル内にポリエチレン粉体を均一に拡散させた。その後、即座に紫外可視分光光度計 UV−3100PCにて550nmの光線透過率を測定した。図5に示したのは、撹拌によってセル内に水分散させたポリエチレン粉体が浮上によってセルの透明度が向上している様子を示したものである。ポリエチレン粉体の水分散性の向上は、水に対する親水性の向上によるものであり、ポリエチレン粉体の親水化表面処理の効果が発現されているかどうかの指標になる。図5の方法に基づき、表1に示したポリエチレン粉体の親水化表面処理の指標となる光線透過率を測定した。結果を図6に示す。
未処理のポリエチレン粉体は、5分程で光線透過率が大きく向上している。これは水中のポリエチレン粉体が水分散性に欠けるために浮力により浮かんでしまうためである。一方、プラズマ処理を施したものは、30分程度、光線透過率がほぼ0に近い状態のままである。粉体の親水化が進み、水分散性が向上していることが分かる。
【0044】
〔実施例2〕 10μm粉体 ゼータ電位測定
図7および表2に、表1に示した10μmポリエチレン粉体のゼータ電位測定結果を示す。図7より、pH2.84からpH10の範囲において、−10mV以下であることが確認された。表2に示したのは、実施例1のpH10におけるゼータ電位の測定結果である。
【0045】
【表2】

【0046】
〔実施例3〕 30μm粉体 水分散性
図3に示したものと同じ装置を用いて、平均粒径が30μmのポリエチレン粉体のプラズマ処理を行った。
実験にあたっては、ポリエチレン粉体を10g投入した後、容器上蓋11を閉じてヘリウムを1L/minの流量で30分以上流した。その後、実施例1と同じように、高周波電源20により、出力電圧を印加し、周波数2kHz、出力電圧を10kVの条件で平均投入電力が0.1kWになるように調整しながら、ガラスフラスコ内にプラズマを形成して、平均粒径30μmのポリエチレン粉体のプラズマ処理を行った。
平均粒径30μmのポリエチレン粉体一連の実験条件を、表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
このようにして得られたポリエチレン粉体は、光線透過率測定用のパイレックス製セルに0.04g入れ、蒸留水3.43gで希釈した後、実施例1で示したのと同じ手順で、超音波洗浄器で振動撹拌を行い、更に手振りにてパイレックスセル内にポリエチレン粉体を均一に拡散させた後、即座に紫外可視分光光度計 UV−3100PCにて550nmの光線透過率を測定した。図8に示したのは、撹拌によってセル内に水分散させたポリエチレン粉体の550nmの光線透過率の時間変化を追跡したものである
未処理のポリエチレン粉体は、5分程で光線透過率が大きく向上している。これは水中のポリエチレン粉体が水分散性に欠けるために浮力により浮かんでしまうためである。一方、プラズマ処理を施したものは、5分程度、光線透過率がほぼ0に近い状態のままである。粉体の親水化が進み、水分散性が向上していることが分かる。
【0049】
〔実施例4〕 30μm粉体 ゼータ電位測定
表4に、表3に示した30μmポリエチレン粉体のゼータ電位測定結果を示した。いずれもpH10の時のゼータ電位値であるが、−62mVから−72mVの範囲に入っていることが確認された。
【0050】
【表4】

【0051】
〔比較例1〕
図3に示した装置を用いて、実施例1と同じ手順でプラズマ処理を行った。印加電力は、0.1kWとしたが、プラズマ処理時間を3分にまで短縮した。この条件を表5に示す。このようにして得られたポリエチレン粉体の水分散性を確認するために、実施例1に示した手順にて評価を行った。結果を図9に示す。これを実施例1の代表的な結果、実施例1−1および未処理のものと比較している。図9より、印加電力が低くプラズマが十分に照射されていない場合には、水分散性が低いことが確認された。
また、このポリエチレン粉体のゼータ電位を測定したが分散不十分のため測定不可であった。
【0052】
【表5】

【0053】
〔比較例2〕
特許文献4に記載のプラズマによる粉体の表面処理方法に類似のプラズマ処理装置を作製した。作製したプラズマ処理装置を図10に示す。
このプラズマ処理装置は、プラズマが形成される円筒管116、プラズマを形成するための電力機器(高周波電源120、印加電極121、導線122)におおまかに分けることができる。
円筒管116は円筒管キャップに差し込まれた印加電極121を備え、印加電極121によりプラズマが円筒容器内110に形成される。円筒管116には、比較例2ではスクリュー管を用いた。比較例2におけるスクリュー管の容量は110mLである。ヘリウムガスの流入量は1L/minで実験を行った。
【0054】
プラズマ形成のための高周波電源120には、ハイデン研究所社製のインパルス型高周波電源を用いた。平均出力は、0.1kWであり、プラズマ形成時の出力電圧は、10kVである。周波数は、1kHzから30kHzの間で用いることができるが、標準条件は、1.5kHzとした。インパルス型高周波電源から、導線122を介して印加電極121に電圧が印加される。
金属接地電極125には厚み約50μmのアルミ箔を用い、円筒管116本体を下から覆うように重ねて用いた。
印加電極121は、外径6mm、内径4mmの銅管を用いており、直管のまま用いた。ヘリウムガスは、ガス導入管141を介してガス導入口142から供給し、ガス排出口146から排出させた。
円筒管116は板上に設置され、板を振動させる。この振動により、中に入れられた粉体は撹拌作用を受け、均一にプラズマ照射されることを狙ったものである。
【0055】
まず、ヘリウムガスを流すことによって、円筒管116であるスクリュー管内の酸素濃度の確認を行った。図11は、ガス排出口146における酸素濃度を、微小酸素濃度計(東レエンジニアリング社製)を用いて測定したものである。1L/minのガスを流すことにより、酸素濃度は30分後には30ppmにまで低減した。
高周波電源120により、出力電圧を印加し、周波数1.5kHz、出力電圧を6.5kVの条件で平均投入電力が0.04kWになるように調整しながら、スクリュー管内にプラズマを形成して、印加電極121と金属接地電極125との間のプラズマ空間128において実施例1で用いた平均粒径10μmのポリエチレン粉体のプラズマ処理を30分間行った。この実施条件を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
このようにして得られたポリエチレン粉体の水分散性は、実施例1で示したのと同じようにその光線透過率を測定することにより評価した。図5の方法に基づき、表1に示したポリエチレン粉体の親水化表面処理の指標となる光線透過率を測定した。結果を図12に示す。
未処理のポリエチレン粉体と比較して、水分散性が若干改良されているのが分かる。しかし、実施例1や実施例3で示したような良好な水分散性を得るまでには至らないことが確認された。
【0058】
水分散性が不良であるのは、粉末の撹拌状態に問題のあることが原因であることが確認された。粉体は、スクリュー管の中で振動に応じて粉体の集合体として揺れているような状態であり、撹拌されているような状態にはほど遠い状況であった。この撹拌の不良が粉体への親水化の妨げになっていることが確認された。
なお、上記の実施例および比較例においては、ポリエチレン粉体を10g投入した場合において実施したが、ポリエチレン粉体3gから10gの何れの量においても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリオレフィン粉体の製造方法により、水に対する分散性の高いポリオレフィン粉体を作成することができた。このポリオレフィン粉体は、溶剤分散塗料、水性塗料、焼結体などに使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 容器内
11 容器上蓋
12 容器本体
13 留め金
19 高周波電源トランス
20 高周波電源
21 印加電極
22 導線
23 冷却水導入管
24 冷却水排出管
25 金属接地電極
27 接地端子
28 プラズマ空間
30 撹拌羽
31 撹拌棒
32 撹拌モーター
41 ガス導入管
42 ガス導入口
43 ガス導入バルブ
45 ガス排出管
46 ガス排出口
47 ガス排出バルブ
110 円筒容器内
116 円筒管
120 高周波電源
121 印加電極
122 導線
125 金属接地電極
128 プラズマ空間
141 ガス導入管
142 ガス導入口
146 ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代表径1μm以上100μm以下の被処理ポリオレフィン粉体にプラズマを照射する、水分散性を有し、かつpH2からpH13の範囲におけるゼータ電位の絶対値が10mV以上であるポリオレフィン粉体の製造方法。
【請求項2】
誘電体からなる密封容器と、該密封容器内に設けられた印加電極と、該印加電極と対向するように該密封容器の外面に接触して配置された金属接地電極と、該密封容器内に設けられ前記印加電極と前記金属接地電極との間で前記ポリオレフィン粉体を撹拌する撹拌装置と、を備え、前記印加電極と前記金属接地電極との最近接距離が1mm以上50mm以下であるプラズマ処理装置を用い、
前記密封容器内で、前記撹拌装置によって前記ポリオレフィン粉体を混合させながら、前記印加電極に電圧を印加して前記印加電極と前記金属接地電極との間に発生したプラズマを前記ポリオレフィン粉体に照射することを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン粉体の製造方法。
【請求項3】
前記密封容器内の圧力を1Pa以上、102×10Pa以下とし、希ガスを90体積%以上の量で含むプラズマ形成用ガスの存在下において、前記印加電極に電圧を印加して発生したプラズマを前記ポリオレフィン粉体に照射することを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィン粉体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする請求項3に記載のポリオレフィン粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−174022(P2011−174022A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40904(P2010−40904)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.パイレックス
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】