説明

ポリカテナン構造を有する弾性重合体組成物

【課題】タイヤ用およびその他のゴム製品用として使用されるゴム成分との相容性に優れ、タイヤ使用時の温度範囲において流動化することなくゴム特性を有し、エネルギーロスの少ないなどのトポロジカル結合特有の特徴をもった弾性重合体組成物、およびそれを含有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】硫黄原子を有するポリカテナン構造を含む弾性重合体組成物であって、ポリカテナン構造同士が化学架橋またはイオン架橋により結合されている構造を有する弾性重合体組成物、ならびにそれを含有する空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカテナン構造を有する弾性重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロタキサンのような空間的に連結されたポリマー(インターロックトポリマー)組成物についての研究がさかんに行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、架橋ポリロタキサンを有するポリマーが開示されている。しかし、該ポリマーは、環状分子の開口部に対して直鎖状分子を通すことを目的として、それらの分子同士の引力相互作用を上昇させているため、トポロジカル(topological)な結合の特徴である架橋点の自由な動きを制限してしまうため、弾性が充分ではないという問題があった。
【0004】
また、インターロックトポリマー組成物は、ポリエチレンオキサイドなどを含む極性ポリマーから構成されることが多く、該組成物を、例えばタイヤ用ゴム組成物に配合する場合、それらのゴム成分として一般的に使用される低極性ポリマー(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴムなど)との相容性に劣り、得られたタイヤの強度が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、タイヤ用およびその他のゴム製品用として使用されるゴム成分との相容性に優れ、タイヤ使用時の温度範囲において流動化することなくゴム特性を有し、エネルギーロスの少ないなどのトポロジカル結合特有の特徴をもった弾性重合体組成物、およびそれを含有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、硫黄原子を有するポリカテナン構造を含む弾性重合体組成物であって、ポリカテナン構造同士が化学架橋またはイオン架橋により結合されている構造を有する弾性重合体組成物に関する。
【0008】
前記弾性重合体組成物は、環状ジスルフィド化合物を(共)重合することによって得られたポリカテナン構造を含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記弾性重合体組成物を含有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
硫黄原子を有する化合物、なかでも、環状ジスルフィド化合物を重合することで得られたポリカテナン構造同士を化学架橋またはイオン架橋した構造を有することにより、従来技術のようにポリエチレンオキサイドなどの極性分子同士の相互作用を利用する必要がないため、タイヤに使用されるとりわけ極性の低いゴム成分との相容性に優れ、タイヤ使用時の温度範囲において流動化することなくゴム特性、およびトポロジカル結合特有のエネルギーロスが少ないなどの特徴を有する弾性重合体組成物、およびそれからなる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の弾性重合体組成物は、硫黄原子を有するポリカテナン構造を含む。このようなポリカテナン構造は、硫黄原子を有する化合物、とりわけ環状ジスルフィド化合物を重合することにより得られる。ポリカテナン構造とは、環状の重合体が、鎖の輪のように空間的にインターロックされ、網目状に連結したものをいう。架橋点のなかに、このような構造を含むことにより、架橋点が自由に動くことができ、組成物全体の高分子鎖の運動性が高く保持される。
【0012】
硫黄原子を含む環状の重合体の数平均分子量は500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることがさらに好ましく、3000以上であることが最も好ましい。環状の重合体の数平均分子量が500未満では、分子量が小さくて安定な環構造をとりにくい傾向があるとともに、環の大きさも小さすぎて、そのなかに他の鎖を空間的に通して、他の環を安定に形成することが難しくなる傾向がある。また、環状ジスルフィド結合を含む環状の重合体の数平均分子量は2万以下であることが好ましく、1万以下であることがより好ましい。環状の重合体の数平均分子量が2万をこえると、環が大きすぎて、環状の重合体の中に分子鎖が通らずに各々が単独の環として存在するようになるか、あるいは成長種が分子内の主鎖に存在する結合(例えば、−S−S−)を攻撃(バックバイティング)することが困難となり、それにより確率的に環自体を形成することがむずかしくなり、かかるポリカテナン構造を形成しにくくなる傾向がある。
【0013】
本発明では、硫黄原子を有する化合物、とりわけ環状ジスルフィド化合物をモノマーとして重合をおこなうことで、従来、モノマーの濃度を低減するなどして分子内反応を優先させることによっておこなわれていたポリカテナン構造の重合を、高いモノマーの濃度において実施できるなどの優れた効果が得られる。これは、モノマーの成長種が分子内の主鎖に存在する結合を攻撃(バックバイティング)する、あるいは、鎖の両末端での結合が停止することにより、環化反応が起こるためであると考えられている。
【0014】
本発明の弾性重合体組成物は、ポリカテナン構造同士が化学架橋またはイオン架橋により結合された構造を有している。弾性重合体組成物が該構造を有することで、その部分で3次元網目構造をとり、広範囲の温度条件においても流動することなく、ゴム特性に近い性質を得ることができる。
【0015】
以下に、ポリカテナン構造同士が化学架橋により結合された構造を有する弾性重合体(1)について記載する。
【0016】
化学架橋とは、ポリカテナン構造同士が有機鎖などにより直接架橋されたものをいう。
【0017】
かかる化学架橋を構成する部分の原子数は2以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が最も好ましい。原子数が2未満では、かかる化学架橋鎖が短く、その部分での耐屈曲疲労特性、耐亀裂成長性、耐摩耗性等が悪化する傾向がある。また、化学架橋を構成する部分の原子数は30以下が好ましく、20以下がより好ましい。反応性の低下やコストの面から、原子数が30をこえるような化学架橋を導入するのは困難である傾向がある。
【0018】
化学架橋中には、酸素原子などのヘテロ原子からなる置換基を有してもかまわない。該置換基としては、具体的にカルボニル基、エステル基などがあげられる。
【0019】
化学架橋は、ポリカテナン構造の形成後に導入されてもよく、硫黄原子を有する化合物、とりわけ環状ジスルフィド化合物からなる環状の重合体の形成後に導入されてもよく、また、硫黄原子を有する化合物や環状ジスルフィド化合物に直接導入されていてもよいが、とくに硫黄原子を有する化合物や環状ジスルフィド化合物に直接導入されており、それらが重合した環状重合体やポリカテナン構造を形成する際に同時にポリカテナン構造間をつなぐ様にしてなることが好ましい。
【0020】
化学架橋が直接導入されている硫黄原子を有する化合物や環状ジスルフィド化合物としては、互いが化学架橋された環状ジスルフィドの2量体(架橋環状ジスルフィド2量体)が好ましい。架橋環状ジスルフィド2量体としては、具体的には、リポ酸2分子とエチレングリコールとからなるジエステルなどがあげられ、かかるジエステルからなる環状ジスルフィド2量体は、原料が工業的に比較的安価に入手できる点で好ましい。
【0021】
架橋環状ジスルフィド2量体は、より重合が促進され、さらに複雑な手順をふむことなく、ポリカテナン構造間に化学架橋を導入するために、環状ジスルフィドの単量体と共重合することが好ましい。
【0022】
環状ジスルフィド単量体としては、具体的に、1,2−ジチアン(1,2-Dithiane(DT))、1,4−ジヒドロ−2,3−ベンゾジチン(1,4-Dihydro-2,3-benzodithiine(XDS))、1,2−ジチアシクロペンタン(1,2-Dithiacyclopentane)、1,2−ジチアシクロオクタン(1,2-Dithiacyclooctane)、リポ酸(Lipoic acid(LPA))、リポアミド(Lipoic amide)、1,2−ジチアシクロドデカン(1,2-dithiacyclododecane)などがあげられる。なかでも、比較的安定な6員環構造を有し、さらに、空気中において、開始剤をとくに使用せずとも塊状重合することが可能であることから、環状ジスルフィドの単量体としては、XDSまたはDTが好ましい。
【0023】
環状ジスルフィド単量体の純度は、99.85mol%以上が好ましく、99.9mol%以上がより好ましい。環状ジスルフィドの純度が99.85mol%未満では、不純物であるチオールが強力な連鎖移動剤としてはたらき、直鎖状のポリマーを生成する傾向がある。
【0024】
弾性重合体(1)は、溶液重合、乳化重合、または塊状重合により重合されるが、特定の環状ジスルフィド化合物を用いた場合、開始剤を使用せず重合できるという理由から、塊状重合により重合されることが好ましい。
【0025】
塊状重合とする場合、重合温度は、モノマーとする環状ジスルフィドが溶融する温度であることが好ましい。例えば、環状ジスルフィドがDTである場合、重合温度は32〜160℃、また、環状ジスルフィドがXDSである場合、重合温度は78〜160℃である必要がある。
【0026】
次に、ポリカテナン構造同士がイオン架橋により結合された構造を有する弾性重合体(2)について以下に記載する。
【0027】
イオン架橋は、ポリカテナン構造に導入された側鎖と金属イオンとが、イオン結合したものをいう。
【0028】
ポリカテナン構造の側鎖としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などのように金属イオンと相互作用するものが好ましく、カルボキシル基やスルホン酸基がより好ましく、工業的に原料が安価に入手できるカルボキシル基がとくに好ましい。
【0029】
また、金属イオンとしては、Zn2+、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Fe2+、Fe3+などがあげられるが、なかでも、より強いイオン結合が得られることから、金属イオンとしては、Zn2+、Mg2+、Ca2+などの2価の金属イオンが好ましい。
【0030】
ポリカテナン構造の側鎖は、ポリカテナン構造の形成後に導入されてもよく、硫黄原子を有する化合物、とりわけ環状ジスルフィド化合物からなる環状の重合体の形成後に導入されてもよく、また、硫黄原子を有する化合物や環状ジスルフィド化合物に直接導入されていてもよいが、環状ジスルフィドに直接導入されることが好ましい。
【0031】
側鎖を導入された環状ジスルフィド(側鎖導入環状ジスルフィド)は、より重合が促進され、さらに複雑な手順をふむことなく、ポリカテナン間にイオン結合を導入するために、側鎖導入環状ジスルフィドと環状ジスルフィドの単量体とを共重合することが好ましい。
【0032】
環状ジスルフィド単量体としては、化学架橋の場合と同様に、1,2−ジチアン(1,2-Dithiane(DT))、1,4−ジヒドロ−2,3−ベンゾジチン(1,4-Dihydro-2,3-benzodithiine(XDS))、1,2−ジチアシクロペンタン(1,2-Dithiacyclopentane)、1,2−ジチアシクロオクタン(1,2-Dithiacyclooctane)、リポ酸(Lipoic acid(LPA))、リポアミド(Lipoic amide)、1,2−ジチアシクロドデカン(1,2-dithiacyclododecane)などがあげられる。なかでも、比較的安定な6員環構造を有し、さらに、空気中において、開始剤をとくに使用せずとも塊状重合することが可能であるという理由により、XDSまたはDTが好ましい。
【0033】
環状ジスルフィドの純度は、99.85mol%以上であることが好ましく、99.9mol%以上であることがより好ましい。環状ジスルフィドの純度が99.85mol%未満では、不純物であるチオールが強力な連鎖移動剤としてはたらき、直鎖状のポリマーが生成される傾向がある。
【0034】
弾性重合体(2)は、溶液重合、乳化重合、または塊状重合により重合されるが、特定の環状ジスルフィド化合物を用いた場合、開始剤を使用せず重合できるという理由から、塊状重合により重合されることが好ましい。
【0035】
塊状重合とする場合、重合温度は、モノマーとする環状ジスルフィドが溶融する温度であることが好ましい。例えば、環状ジスルフィドがDTである場合、重合温度は62〜160℃、また、環状ジスルフィドがXDSである場合、重合温度は78〜160℃である必要がある。
【0036】
本発明において、ポリカテナン構造同士の架橋としては、熱安定性に優れ、さらにエネルギーロスが生じにくく、疲労特性などにも優れるため、イオン架橋よりも化学架橋が好ましい。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、本発明の弾性重合体(1)または(2)を含有する組成物を使用することが好ましい。空気入りタイヤは、かかる弾性重合体組成物のほかに、タイヤ工業において一般的に使用されるゴム成分、補強用充填剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などを含有することが好ましい。なお、弾性重合体(1)または弾性重合体(2)は硫黄を(多数)含有することから、硫黄等の加硫剤や加硫促進剤の存在下で、タイヤ工業において使用されるゴム(低極性ポリマー)と反応させ結合させることができる。このようにして得られた重合体組成物は、トポロジカル結合特有の特徴をもちながら、タイヤ使用時の温度範囲において流動化することなくゴム特性を有するので、これを用いることによって燃費が非常によいなどの利点をもった高性能な空気入りタイヤを得ることができる。
【0038】
タイヤ中において弾性重合体は、ゴム成分と親和性を有し、かつ結合しうるため、ゴム成分中に均一に安定して存在しており、タイヤに加わった衝撃をより充分に緩和することが可能となる。
【実施例】
【0039】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、合成において使用したo−キシレン、N−ブロモスクシンイミド(NBS)、チオウレアおよびエチレングリコールは和光純薬工業(株)製のものを、また、1,4−ブタンジチオールおよびリポ酸は東京化成工業(株)製のものを、さらに、1,1’−カルボニルジイミダゾールはシグマアルドリッチジャパン(株)製のものを用いた。
【0040】
(1,2−ジチアン(DT)の合成)
7mlの濃塩酸を、10mlの1,4−ブタンジチオールを含む200mlのジメチルスルホキシド溶液に加え、室温で24時間攪拌し、反応終了後、大量の氷−水によく攪拌しながら注ぎ入れ、クロロホルムにより抽出した。そして、有機層を大量の水で数回洗浄した後、無水炭酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、減圧下において濃縮することで、淡黄色の液体を得た。かかる液体を減圧下で分別蒸留し、得られた蒸留物(純度99.8%)をメタノールから数回再結晶し、1H−NMRで得られた下記ピークにより同定してDTを確認した(純度>99.9%、m.p.31.0〜31.5℃(文献値のm.p.32−33℃あるいは32℃))。なお、純度はHPLCにより測定した。1H NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)1.97(s,CH2−CH2−CH2,2H),2.85(s,S−CH2−CH2,2H);13C NMR(CDCl3,100MHz)δ(ppm)27.7(CH2−CH2−CH2),33.2(S−CH2−CH2
【0041】
(α,α’−ジブロモ−o−キシレンの合成)
25.06g(236mmol)のo−キシレンおよび84.12g(473mmol)のNBSを、2.1g(12.79mmol)のAIBN(ラジカル開始剤として使用)を含むシクロヘキサン250mlに溶解させ、12時間加熱還流した。反応生成物を冷却し浮遊物をとりのぞき、ろ過してクロロホルムにより溶液を抽出した後、有機層を多量の水により数回洗浄し、無水炭酸水素ナトリウムにより乾燥させた。溶媒を減圧留去して得られた淡黄色オイルを、ドライアイスを用いて冷却したメタノールから再結晶させた。1H−NMRおよび13C−NMRにより同定して、α,α’−ジブロモ−o−キシレンを確認した(収率37%)。
【0042】
(α,α’−メルカプト−o−キシレン(XDT)の合成)
30.02g(102.1mmol)のα,α’−ジブロモ−o−キシレンおよび17.40g(228.6mmol)のチオウレアを、エタノール230mlに溶解させ、3時間加熱還流し、得られた白色生成物を、10g(250.0mmol)の水酸化ナトリウムを溶解させた100mlの水溶液に加え、2時間加熱還流した。還流後、混合物を希硫酸水溶液(5ml/35ml aq)により中和して得られた溶液をクロロホルムにて抽出し、有機層の反応生成物を大量の水で数回洗浄し、無水炭酸ナトリウムにより乾燥させた。溶媒を減圧留去して、得られたオイルをドライアイスを用いて冷却したメタノールから再結晶することで、白色沈殿物が得られ、それを1H−NMRおよび13C−NMRにより同定してα,α’−メルカプト−o−キシレンであることを確認した(収率91%)。
【0043】
(1,4−ジヒドロ−2,3−ベンゾジチン(XDS)の合成)
XDTを0.85g(4.99mmol)含有するジメチルスルホキシド溶液25mlに濃塩酸1mlを添加し、室温にて24時間攪拌した。反応終了後、生成物を多量の氷水に注いで強く攪拌し、クロロホルムにて抽出した。有機層を多量の水により数回洗浄し、無水炭酸ナトリウムにより乾燥させた。溶媒を減圧留去して、得られた淡黄色オイルをクロマトグラフ(Wakogel C−200 EB,展開溶媒n−ヘキサン)にかけ、さらにジエチルエーテルとn−ヘキサンにより数回、再結晶することにより白色沈殿物が得られた。それを1H−NMR、13C−NMRおよび融点測定により同定して、XDSであることを確認した(収率30%、m.p.76.6〜77.7℃(文献値のm.p.77℃))。1H NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)4.07(s,S−CH2−Ph,4H),7.07−7.10(m,phenyl−H3,−H6,2H),7.15−7.19(m,phenyl−H4,−H5,2H);13C NMR(CDCl3,100MHz)δ(ppm)34.5(S−CH2−Ph),126.8(phenyl−C4,−C5),130.1(phenyl−C3,−C6),132.8(phenyl−C1,−C2)
【0044】
(エチレンビスリポエート(LPA−EG−LPA)の合成)
15mlの無水THF中に2.50g(12.1mmol)のα−リポ酸を溶解させ、バブリングを5分すぎて止めるまでかけて、固体状の1,1’−カルボニルジイミダゾール2.50g(15.4mmol)を攪拌しながら少しずつ添加した。そして、その溶液を、アイスバス中で、エチレングリコール0.38g(6.05mmol)の無水THF(10ml)溶液に攪拌しながら徐々に添加し、アイスバス中において0.5時間、次に室温にて6日間攪拌した。黄色の溶液を塩化ナトリウム(10wt%)水溶液および2回蒸留した水にて洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下にて濃縮した。そして、1H−NMR、13C−NMRにより同定して、LPA−EG−LPAであることを確認した。1H NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)1.41−1.56(m,CH−CHH−CHH−CH2,2H),1.63−1.76(m,CHH−CHH−CH2−CH2,4H),1.88−1.96(m,S−CH2−CHH−CH,1H),2.34,2.36,2.38(t,CH2−CH2−C,2H),2.43−2.51(m,S−CH2−CHH−CH,1H),3.09−3.22(m,S−CH2−CH2,2H),3.54−3.61(m,CH,1H),4.28(s,O−CH3,3H);13C NMR(CDCl3,100MHz)δ(ppm)24.5(CH2−CH2−C),28.7(CH−CH2−CH2−CH2),33.8(CH−CH2−CH2−CH2),34.5(CH2−CH2−C),38.6(S−CH2−CH2),40.2(S−CH2−CH2−CH),56.3(CH),62.0(O−CH2−CH2),173.2(C)
【0045】
(XDSとLPA−EG−LPAとの共重合体(弾性重合体1))
前記XDS(85mol%)およびLPA−EG−LPA(15mol%)を、シュレンク管中で90℃の温度条件下で6時間塊状重合して、XDSとLPA−EG−LPAとの共重合体を合成した。その後、大量のクロロホルムで洗浄し、室温で一晩減圧乾燥して、弾性重合体1を得た。
【0046】
(DTとLPA−EG−LPAとの共重合体(弾性重合体2))
前記DTおよびLPA−EG−LPAを、上記と同様に塊状重合して、DTとLPA−EG−LPAとの共重合体を合成し、弾性重合体2を上記と同様にして得た。ただし、収率は弾性重合体1より低かった。
【0047】
(Zn2+イオンによりイオン架橋されたXDSとLPAとの共重合体(弾性重合体3))
前記XDSおよびLPAを、上記と同様に塊状重合して、さらに、酢酸亜鉛2水和物を添加することにより共重合体3を合成し、それを上記と同様に洗浄、乾燥した。
【0048】
(Zn2+イオンによりイオン架橋されたDTとLPAとの共重合体(共重合体4))
前記DTおよびLPAを、上記と同様に塊状重合して、DTとLPAとの共重合体を合成し、さらに、酢酸亜鉛2水和物を添加することにより共重合体4を合成した。それを上記と同様に洗浄、乾燥した。
【0049】
得られた弾性重合体1〜4を用いて、以下の試験をおこなった。
【0050】
<粘弾性試験>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で、−50℃〜200℃の範囲で粘弾性(E*、tanδ)を測定した。昇温速度は3℃/minとした。
【0051】
上記手順で合成した弾性重合体1〜4について測定することにより、上記いずれの弾性重合体も、タイヤの実用温度域20℃〜150℃で、E*の急激な低下やtanδの大幅な上昇がみられず、流動化せずにゴムとしての特性を有することが確認された。なかでも弾性重合体1および2、とくには弾性重合体1のE*、tanδの上記範囲での温度依存性が小さく良好であった。また、tanδの値も小さくエネルギーロスが小さいことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子を有するポリカテナン構造を含む弾性重合体組成物を含有するタイヤ用ゴム組成物であって、
ポリカテナン構造を形成する硫黄原子を含む環状の重合体の数平均分子量が500〜20000であり、
ポリカテナン構造同士がイオン架橋により結合されている構造を有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
環状ジスルフィド化合物を(共)重合することによって得られたポリカテナン構造を含む請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記イオン架橋が2価の金属イオンによる架橋である請求項1または2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物からなる空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−105946(P2011−105946A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2938(P2011−2938)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2005−136310(P2005−136310)の分割
【原出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】