説明

ポリカーボネートの製造方法

【課題】 溶融法ポリカーボネートの製造方法の経済性及び環境安全性を高めるため、重合反応から副生物及びリサイクル可能な成分を分離し、リサイクルする。
【解決手段】 反応器系において、第四ホスホニウム化合物を含む重合触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融重合して副生物流を生成させる段階、及び副生物流を精製してフェノールを分離する段階であって、分離したフェノールのリン濃度が約3ppm以下である段階とを含む、ポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、その高い耐衝撃性、耐熱性、透明度などの優れた機械的特性のため、様々な分野でエンジニアリングプラスチックスとして広く用いられている。
【0003】
ポリカーボネートは、重合触媒の存在下で芳香族ジヒドロキシ化合物を炭酸ジエステルと反応させることによって製造できる。例えば、芳香族ポリカーボネートの製造方法は、概して、アルカリ金属塩を触媒として用いる芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応(溶融重合法)を含む。かかる芳香族ポリカーボネートの製造方法は、低コストで、ホスゲンや塩化メチレンのような有毒物質を使用しないので、近年注目を集めている。そこで、この方法は、例えばホスゲンや塩化メチレンを用いる他の方法に比べて、健康及び環境面で有利である。
【0004】
ポリカーボネートの製造方法の経済性を高め、環境に安全なものとするには、重合反応から副生物及びリサイクル可能な成分を分離し、リサイクルすることが重要である。特に、ジフェニルカーボネートのような反応体を重合反応から分離する場合、反応体をリサイクル可能な形態で分離し、効率的にリサイクルするのが望ましい。
【特許文献1】米国特許第2228973号明細書
【特許文献2】米国特許第6339138号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0236384号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細では、ポリカーボネートの製造方法を開示する。
【0006】
ポリカーボネートの製造方法の一実施形態は、反応器系において、重合触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融重合して副生物流を生成させ、副生物流を精製してフェノールを分離することを含む。重合触媒は第四ホスホニウム化合物を含み、分離したフェノールのリン濃度は3ppm以下とすることができる。
【0007】
ポリカーボネートの製造方法の別の実施形態は、多段反応器において、テトラブチルホスホニウムアセテート及び水酸化ナトリウムの存在下、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融重合させることを含む。多段反応器は、第1反応器と、第1反応器の下流に設けられた第2反応器と、第2反応器の下流に設けられた第3反応器と、第3反応器の下流に設けられた第4反応器とを備える。第1反応器は第1反応器副生物流を含み、第2反応器は第2反応器副生物流を含み、第3反応器は第3反応器副生物流を含み、第4反応器は第4反応器副生物流を含む。第1反応器と流体連絡したスクラバーを用いて第1反応器副生物流からフェノールを分離することができる。第1蒸留塔を用いて第2、第3及び第4副生物流からフェノールを分離することができる。第1蒸留塔は第1塔頂流と第1塔底流とを生じ、第1塔頂流は、約99重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンを含む(フェノールの重量%は第1精製塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)。第1塔底流からは、第2蒸留塔を用いてフェノールを分離することができる。第2蒸留塔は、第2塔頂流と第2塔底流とを生成することができ、第2塔頂流は、約90重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンを含む(フェノールの重量%は第2蒸留塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)。
【0008】
上記その他の特徴は、以下の詳細な説明、図面及び特許請求の範囲から当業者には明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、例示的な実施形態を示すため図面を参照するが、同様の構成要素には同様の符号を付した。
【0010】
最初に述べておくが、本明細書において「第1」、「第2」などの用語は、いかなる量、順序或いは重要性をも意味するものではなく、ある要素を他の要素と区別するために用いる。また、本明細書において単数形で記載したものであっても、その数を限定するものではなく、そのものが少なくとも1つ存在することを意味する。また、
本明細書に記載した範囲はすべて、上下限を含み、独立に結合可能である(例えば、「25重量%以下、望ましくは5〜20重量%」という範囲は、「5〜25重量%」の上下限とその範囲内のすべての中間値を含む)。数量に用いられる「約」という修飾語は、記載の数値を含み、文脈毎に定まる意味をもつ(例えば、特定の数量の測定に付随する誤差範囲を含む)。本明細書で用いる技術用語及び科学用語は、特記しない限り、当業者が通常理解する意味をもつ。数量に用いられる「約」という修飾語は、記載の数値を含み、文脈毎に定まる意味をもつ(例えば、特定の数量の測定に付随する誤差範囲を含む)。
【0011】
また、「正味重量」という用語は、本明細書を通して、分離される所定の物質について用いる。この用語が分離装置(例えば、精製塔、蒸留塔など)内に存在する所定の物質の物質収支をいうことは当業者には明らかである。例えば、蒸留塔が塔頂流と塔底流とを含み、分離される所定の物質の合計重量を基準にして90重量%が塔頂流に存在する場合、残りの10重量%は塔底流に存在する。さらに、この情報から、所定の物質の合計量に基づいてある流れ(例えば、塔頂流)に存在する物質の重量百分率を算出することは当業者が容易になし得る。
【0012】
系内の装置(例えば、反応器、精製装置など)の配置を説明するに当たり、「上流」及び「下流」のような用語を用いる。これらの用語は通常の意味を有する。ただし、ある種の構成(例えば、再循環ループを備える系)では、ある装置が同じ装置の「上流」であるとともに「下流」でもあるということが起こり得る。
【0013】
ポリカーボネートは、重合触媒存在下での芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応によって製造することができる。好適な重合触媒としては、特に限定されないが、リン含有化合物(例えば、第四ホスホニウム化合物)が挙げられる。ポリカーボネートの製造に使用される炭酸ジエステルは、炭酸ジエステルの総重量を基準にして、約30ppm以下のリン濃度を有する。好適な芳香族ポリカーボネートは次の式(I)の繰返し構造単位を有する。
【0014】
【化1】

式中、Aは重合反応に用いたジヒドロキシ化合物の二価芳香族基を表す。
【0015】
芳香族カーボネートポリマーの製造に使用できる芳香族ジヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシ基を官能基として有する単環又は多環式芳香族化合物であり、各ヒドロキシ基は芳香環の炭素原子に直接結合していてもよい。好適なジヒドロキシ化合物としては、例えば、レゾルシノール、4−ブロモレゾルシノール、ヒドロキノン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」)、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、trans−2,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブテン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンチン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−n−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジブロモ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(5−フェノキシ−4−ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン、1,6−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオリン、2,7−ジヒドロキシピレン、6,6′−ジヒドロキシ−3,3,3′,3′−テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダンビスフェノール」)、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタリド、2,6−ジヒドロキシジベンゾ−p−ダイオキシン、2,6−ジヒドロキシチアントレン、2,7−ジヒドロキシフェノキサチン、2,7−ジヒドロキシ−9,10−ジメチルフェナジン、3,6−ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6−ジヒドロキシジベンゾチオフェン、2,7−ジヒドロキシカルバゾールなど、並びにこれらのジヒドロキシ化合物の1種以上を含む組合せ及び反応生成物が挙げられる。
【0016】
様々な実施形態では、ホモポリマーではなくカーボネートコポリマー又は共重合体を芳香族ポリカーボネート混合物の製造に用いる場合、2種以上の異なる芳香族ジヒドロキシ化合物、又は芳香族ジヒドロキシ化合物とグリコール又はヒドロキシ末端もしくは酸末端ポリエステル又は二塩基酸もしくはヒドロキシ酸とのコポリマーをポリカーボネートの製造に用いることができる。ポリアリーレート、ポリエステル−カーボネート樹脂及び/又はこれらの1種以上を含むブレンドも使用できる。例示的な実施形態では、芳香族ジヒドロキシ化合物はビスフェノールAである。
【0017】
使用に適した炭酸ジエステルとしては、特に限定されないが、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなど、並びにこれらの炭酸ジエステルの1種以上を含む組合せ及び反応生成物が挙げられる。さらに具体的には、炭酸ジエステルはジフェニルカーボネート(DPC)である。
【0018】
ジフェニルカーボネートの製造方法には、芳香族モノヒドロキシ化合物の反応も含まれ、これはカーボネートエステルに変換できる。好適な芳香族ヒドロキシ化合物としては、炭素原子数6〜30、特に6〜15の単環式、多環式又は縮合多環式芳香族モノヒドロキシ又はポリヒドロキシ化合物が挙げられる。具体例としては、フェノール、アルキルフェノール、o−、m−及びp−クレゾール、o−、m−及びp−クロロフェノール、o−、m−及びp−エチルフェノール、o−、m−及びp−プロピルフェノール、o−、m−及びp−メトキシフェノール、メチルサリチレート、2,6−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、キシレノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、カテコール、クメノール、並びにジヒドロキシナフタレンの各種異性体、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−2,2、α,α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ビスフェノールAのようなモノ及びポリヒドロキシ化合物が挙げられ、これらの1種以上を含む組合せ及び反応生成物も使用し得る。特に、芳香族モノヒドロキシ化合物はフェノールである。
【0019】
芳香族ポリカーボネートの製造に当たり、芳香族ジヒドロキシ化合物1モル当たり約1.0〜約1.30モルの炭酸ジエステルを使用し得る。さらに具体的には、約1.01〜約1.15モルの炭酸ジエステルを使用し得る。
【0020】
一実施形態では、触媒組成物は第四ホスホニウム化合物を含む。第四ホスホニウム化合物としては、次の構造(II)の第四ホスホニウム化合物が挙げられる。
【0021】
【化2】

式中、R17〜R20は各々独立にC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基、又はC〜C20アリール基であり、Xは有機又は無機アニオンである。
【0022】
第四ホスホニウム化合物IIの具体例としては、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドなど、並びにこれらの化合物の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0023】
構造IIにおいて、アニオンXは水酸、ハロゲン、カルボン酸、フェノキシド、スルホン酸、硫酸、炭酸又は重炭酸イオンである。Xが炭酸又はスルホン酸イオンのような多価アニオンの場合、構造IIの正電荷と負電荷は適切に均衡する。例えば、構造IIのR17〜R20が各々ブチル基であり、Xが炭酸アニオンであるテトラブチルホスホニウムでは、Xは1/2(CO2−)を示す。
【0024】
触媒は、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物又はこれらの触媒の1種以上を含む組合せをさらに含む。好適なアルカリ金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びルビジウムが挙げられ、アルカリ土類金属の例としては、マグネシウム、カルシウム及びストロンチウムが挙げられる。アルカリ金属化合物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ヒドロキシホウ酸リチウム、ヒドロキシホウ酸ナトリウム、フェノキシホウ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩及び二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩、並びにこれらのアルカリ金属化合物の1種以上を含む組合せが挙げられる。アルカリ土類金属化合物の例としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、重炭酸カルシウム、重炭酸バリウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム及びステアリン酸ストロンチウム、並びにこれらのアルカリ土類金属化合物の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0025】
触媒は、1種以上の不揮発性酸の塩をさらに含む。「不揮発性」とは、触媒の構成要素である酸が溶融重合条件下でたいした蒸気圧を呈さないことを意味する。不揮発性酸の例としては、亜リン酸、リン酸、硫酸、並びにゲルマニウム、アンチモン、ニオブなどのオキソ酸のような金属「オキソ酸」が挙げられる。不揮発性酸の塩としては、亜リン酸のアルカリ金属塩、亜リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩、硫酸のアルカリ金属塩、硫酸のアルカリ土類金属塩、金属オキソ酸のアルカリ金属塩及び金属オキソ酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。不揮発性酸の塩の具体例としては、NaHPO、NaHPO、NaHPO、KHPO、CsHPO、CsHPO、NaKHPO、NaCsHPO、KCsHPO、NaSO、NaHSO、NaSbO、LiSbO、KSbO、Mg(SbO、NaGeO、KGeO、LiGeO、MgGeO、MgGeO及びこれらの化合物の1種以上を含む組合せが挙げられる。
【0026】
様々な実施形態では、テトラアルキルホスホニウム化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物の量を基準にして、約1〜約1000マイクロ当量とし得る。具体的には、約10〜500マイクロ当量を使用し得る。さらに具体的には、約50〜150マイクロ当量を使用し得る。
【0027】
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物又はこれらの1種以上の触媒の組合せの使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの合計1モル当たり、約1×10−7〜2×10−3モル、具体的には約1×10−6〜4×10−4モルとし得る。
【0028】
第四ホスホニウム化合物を重合触媒として使用する場合、約180℃以上の温度で分解し、第四ホスフィンオキシドのような非イオン性化合物及びリン酸エステルを生ずる。例えば、第四ホスホニウム化合物としてテトラブチルホスホニウムアセテートを用いると、トリブチルホスフィンオキシド(TBPO)及びリン酸エステルが生成する。しかし、TBPOは揮発性であり、重合反応条件下で揮発する可能性がある。処理の際、TBPOは例えばジフェニルカーボネートと同程度の蒸気圧を有するので、相当量のTBPOがジフェニルカーボネートと共に蒸留される。こうして、生成TBPOの一部は回収ジフェニルカーボネートと共にリサイクルできる。
【0029】
ポリカーボネートの製造の一実施形態では、ビスフェノール化合物と炭酸ジエステルを、第1段反応において、大気圧下、約80〜約250℃の温度、具体的には約100〜約230℃の温度、さらに具体的には約120〜約190℃の温度で、通常は0〜約5時間、具体的には0〜約4時間、さらに具体的には0〜約3時間反応させる。次いで、反応系の圧力を下げながら反応温度を高めて、ビスフェノールと炭酸ジエステルを反応せしめ、最終的に、ビスフェノールと炭酸ジエステルとそれらのオリゴマーを、約240〜約320℃の温度及び約5mmHg以下の減圧下での重合反応に付す。
【0030】
製造方法は連続法でも回分法でもよい。この反応の実施に使用される反応装置は、水平型、管型、塔型のいずれでもよい。一実施形態では2以上の重合段階が存在していてもよいが、段階の数に特に制限はない。
【0031】
例示的な実施形態では、反応が実施される装置は、槽型、管型及び/又は塔型などの適当な多段反応器であってもよい。かかる反応器は、垂直攪拌槽型重合反応器、薄膜蒸発式重合反応器、水平撹拌反応器、ベント式二軸押出機、反応型蒸留塔など、並びにこれらの1以上の反応器の組合せのいずれでもよい。
【0032】
図1を参照すると、本発明の方法の実施に適したプロセスフローの例示的な実施形態の概略(全体を符号100で示す)を示す。炭酸ジエステル及び芳香族ジヒドロキシ化合物は、第四ホスホニウム化合物及び任意成分の他の重合触媒と共に、モノマー混合ドラム14で混合される。一実施形態では、炭酸ジエステルはジフェニルカーボネート(DPC)であり、DPCプラント12経由で混合ドラム14に供給できるが、これについては以下で詳しく説明する。ポリカーボネート製造のための重合反応は、直列に接続され、約150〜約400℃、好ましくは約250〜約350℃の漸増温度(つまり、下流の反応器は上流の反応器よりも高温で運転される。)及び約500〜約0.01Torrの漸減圧力(即ち、下流の反応器は上流の反応器よりも低圧で運転される。)で運転される第1反応器16、第2反応器18、第3反応器20及び第4反応器22を備える多段反応器系で実施できる。例えば、第1反応器16は約200℃以上の温度に維持され、第4反応器22は約350℃以下の温度に維持される。さらに、第1反応器16は約500Torr以下の圧力に維持され、第4反応器22は約0.01Torr以上の圧力に維持される。この方法によって、例えば数平均分子量約7000原子重量単位(amu)以上の高分子量ポリカーボネートを合成しながら、フェノール副生物を除去することができる。
【0033】
反応器16,18,20,22は、各反応器でそれぞれオーバーヘッド(副生物)流24,26,28,30として副生物(例えば、フェノール)を除去できるように構成されている。以下、詳しく説明する通り、オーバーヘッド流24,26,28,30に含まれる副生物をさらに分離するために、追加の分離法が用いられる。例えば、フェノールを第1反応器のオーバーヘッド流24から分離することができる。具体的には、オーバーヘッド流24を、第1反応器16と流体連絡した精製装置(例えば、スクラバー44)に供給する。スクラバー44は塔底流46と塔頂流48とを含む。塔底流46には、ジフェニルカーボネート(DPC)、ビスフェノールA(BPA)、及び第四ホスホニウム化合物(例えば、テトラブチルホスホニウムアセテート(TBPA))分解生成物が含まれ、これらは反応器16に戻される。塔頂流48は、スクラバー44で分離されるフェノールの正味重量を基準にして約99重量%以上のフェノールと、3ppm以下、さらに好ましくは約1ppm以下のリンを含む。塔頂流48で回収されたフェノールは、それ以上精製せずに、DPCプラント12に再循環させることができる。
【0034】
さらに、フェノールは、フェノール、ジフェニルカーボネート、ビスフェノールA及び第四ホスホニウム化合物分解生成物を含んでいるオーバーヘッド流26,28,30から分離することができる。第四ホスホニウム化合物がテトラブチルホスホニウムアセテートである場合、テトラブチルホスホニウムアセテートの分解生成物の過半量(約50重量%以上)はトリブチルホスフィンオキシド(TBPO)からなる。上述の反応条件では、TBPOは比較的揮発性で蒸発できるので、その分離に役立つ。第1精製塔32と第2精製塔34とを備える回収システム(例えば、精製系)にオーバーヘッド流26,28,30を一緒に供給すればよい。
【0035】
第1精製塔32は第2精製塔34と流体連絡している。精製塔(32,34)は例えば蒸留塔でよい。さらに、第1精製塔32は、塔頂流36と塔底流40とを含み、塔頂流36は、フェノールの重量%は第1精製塔32で分離されるフェノールの正味重量を基準にして約99重量%以上のフェノールと、約3ppm以下、さらに好ましくは約1ppm以下のリンを含む。塔頂流36で回収されたフェノールは、それ以上精製せずに、DPCプラント12に再循環させることができる。塔底流40には、残りのフェノール、ジフェニルカーボネート、ビスフェノールA及び第四ホスホニウム化合物分解生成物(トリブチルホスフィンオキシドなど)が含まれ、これらは第2精製塔34に供給される。
【0036】
第1精製塔32は、フェノールの所望の分離を達成するのに適した条件下で運転すればよい。例えば、第1精製塔32は、約100〜約220℃の温度、約90〜約150mbarの圧力及び約0.5〜約5の還流比で運転できる。
【0037】
第2精製塔34は、塔頂流38と塔底流42とを含み、塔頂流38は、第2精製塔34で分離されるフェノールの正味重量を基準にして約90重量%以上のフェノールと、約3ppm以下、さらに好ましくは約1ppm以下のリンを含む。塔頂流38で回収されたフェノールは、それ以上精製せずに、DPCプラント12に再循環させることができる。塔底流42には、ジフェニルカーボネート、ビスフェノールA及び第四ホスホニウム化合物の分解生成物(トリブチルホスフィンオキシドなど)が含まれる。
【0038】
第2精製塔34は、フェノールの所望の分離を達成するのに適した条件下で運転すればよい。例えば、第2精製塔34は、約70〜約220℃の温度、約20〜約10mbarの圧力及び約2〜約20の還流比で運転できる。
【実施例】
【0039】
サンプルのリン濃度の測定は、Varian Liberty II ICP−AESで分析した。被分析物濃度は、一群の既知濃度の外部較正標準と対比して算出し、別の起源から調製した標準でチェックした。装置は、20ppm、10ppm、4ppm、0.5ppmのリンのマトリックス適合標準で較正した。
【0040】
実施例1
本例では、実験規模の連続反応器系(ポリマー処理量2kg/hr)を用いた。本例で使用した装置の概略を図2に示す。この装置は、図1に示したプロセススキームの簡略版であり、3つの反応器を備える。
【0041】
モル比1.08:1のビスフェノールAとジフェニルカーボネートを混合ドラム14に連続的に供給し、混合ドラム14で均一溶液を生じさせた。この溶液中に、触媒として、約75マイクロ当量(μeq)(75×10−6モル/モルビスフェノールA)のテトラブチルホスホニウムアセテート及び0.9μeq(0.9×10−6モル/モルビスフェノールA)の水酸化ナトリウム(NaOH)を添加した。溶液は予備重合槽(第1反応器16及び第2反応器18)及び水平撹拌型重合槽(第3反応器20)に連続供給し、ポリカーボネート合成のための重合を進行せしめた。槽内の反応条件を表1に示す。
【0042】
【表1】

本例では、表2に示す通り反応器オーバーヘッド中のリン濃度を測定した。
【0043】
【表2】

流速1.2kg/hrの第1反応器16のオーバーヘッド(副生物)流24から回収したフェノールはリンを実質的に含んでいなかった(つまり、リン濃度が検出限界未満であった)ので、少量のDPC(例えば、約5重量%未満)の分離後にジフェニルカーボネートの製造に再循環することができた。これらの運転条件では、有意量のリンが副生物流24中のフェノールに混入しないようにするのにスクラバーは必要でなかった。
【0044】
実施例2
本例では、溶融法ポリカーボネート生産のパイロット装置を使用した。プロセスフロー図は図1と同じである。ビスフェノールA製造装置から配管で直接供給した溶融ビスフェノールA(供給速度37.5kg/hr)、蒸留後に配管で直接供給した溶融ジフェニルカーボネート(DPC:供給速度35.5kg/hr)及び1.5×10−4モル/モルビスフェノールAのテトラブチルホスホニウムアセテート(TBPA)及び0.9×10−6モル/モルビスフェノールAの水酸化ナトリウム(NaOH)を攪拌槽(14)に連続的に供給した。これらは、第1反応器16、第2反応器18、第3反応器20及び第4反応器に連続的に供給し、以下の表3に示す合成条件下で重合を実施した。
【0045】
【表3】

本例では、表4に示す通り反応器の副生物流中のリン濃度を測定した。
【0046】
【表4】

スクラバーから回収したフェノール(スクラバー44からの副生物流48、流速25kg/hr)はリンを実質的に含んでいなかった(つまり、リン濃度が検出限界未満であった)ので、ジフェニルカーボネートの製造に再循環することができた。
【0047】
有益な効果として、本明細書に開示した方法は、リサイクルされる有機リンの量を最小限に抑制するので、ポリカーボネート中の有機リンの量が低減される。なお、ポリカーボネート中の有機リンは酸化/加水分解されてリン酸誘導体となり、ポリカーボネート樹脂の加水分解安定性に問題を生じる。ポリカーボネート中の有機リンの低減によって、このような加水分解安定性の問題が低減するという有益な効果が得られる。
【0048】
例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲内で様々な変更をなすことができ、構成要素を均等物で置換できることは、当業者には明らかであろう。さらに、本発明の技術的範囲内で、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるために、多くの修正をなすことができる。したがって、本発明は、その最良の実施形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ポリカーボネートの製造に適したシステムの例示的な実施形態を示す概略図。
【図2】ポリカーボネートの製造に適した反応器系の例示的な実施形態の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートの製造法であって、
反応器系において、第四ホスホニウム化合物を含む重合触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融重合して副生物流を生成させる段階、及び
副生物流を精製してフェノールを分離する段階であって、分離したフェノールのリン濃度が約3ppm以下である段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記リン濃度が約1ppm以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ジヒドロキシ化合物がビスフェノールであり、炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートであり、第四ホスホニウム化合物がテトラブチルホスホニウムアセテートである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
分離したフェノールをDPCプラントにリサイクルする段階と、DPCプラント内でジフェニルカーボネートを製造する段階と、ジフェニルカーボネートを反応器系に供給する段階とをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記反応器系が第1反応器とその下流に設けられた第2反応器を備えており、第1反応器及び第2反応器が各々約150〜約400℃の温度で運転され、第2反応器の温度が第1反応器の温度よりも高い、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第1反応器が、スクラバーと流体連絡した第1反応器オーバーヘッド流を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応器系が第2反応器の下流に設けられた第3反応器と第3反応器の下流に設けられた第4反応器をさらに備え、第2反応器及び第3反応器が各々約250〜約350℃の温度で運転され、第3反応器の温度が第2反応器の温度よりも高く、第4反応器の温度が第3反応器の温度よりも高い、請求項5記載の方法。
【請求項8】
反応器系から副生物流を精製する段階が、副生物流を一連の精製塔を備える精製系に通してジフェニルカーボネートを分離する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
副生物流が、フェノール、ビスフェノールA、ジフェニルカーボネート、及び第四ホスホニウム化合物の分解生成物を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
精製系が、第1精製塔と、その下流に設けられ第1精製塔と流体連絡した第2精製塔とを備える、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第1精製塔が、約100〜約220℃の第1精製塔温度、約90〜約150mbarの第1精製塔圧力及び約0.5〜約5の還流比で運転される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
第2精製塔が、約70〜約220℃の第2精製塔温度、約20〜約100mbarの第2精製塔圧力及び約2〜約20の還流比で運転される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第1精製塔の第1塔頂流が約99重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンとを含む(ただし、フェノールの重量%は第1精製塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)、請求項10記載の方法。
【請求項14】
リン濃度が約1ppm以下である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
第2精製塔の第2塔頂流が90重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンとを含む(ただし、フェノールの重量%は第2精製塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)、請求項10記載の方法。
【請求項16】
リン濃度が約1ppm以下である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
ポリカーボネートの製造方法であって、
多段反応器において、テトラブチルホスホニウムアセテート及び水酸化ナトリウムの存在下、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融重合させる段階であって、多段反応器が、第1反応器と、第1反応器の下流に設けられた第2反応器と、第2反応器の下流に設けられた第3反応器と、第3反応器の下流に設けられた第4反応器とを備え、第1反応器が第1反応器副生物流を含み、第2反応器が第2反応器副生物流を含み、第3反応器が第3反応器副生物流を含み、第4反応器が第4反応器副生物流を含む段階、
第1反応器と流体連絡したスクラバーを用いて、第1反応器副生物流からフェノールを分離する段階、
第1蒸留塔を用いて、第2、第3及び第4副生物流からフェノールを分離する段階であって、第1塔頂流が約99重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンとを含む(ただし、フェノールの重量%は第1精製塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)段階、及び
第2蒸留塔を用いて、第1塔底流からフェノールを分離する段階であって、第2蒸留塔が第2塔頂流と第2塔底流とを含み、第2塔頂流が90重量%以上のフェノールと約3ppm以下のリンとを含む(ただし、フェノールの重量%は第2精製塔で分離されるフェノールの正味重量に基づく。)段階
を含んでなる方法。
【請求項18】
第1塔頂流及び第2塔頂流の各々のリン濃度が約1ppm以下である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
第1蒸留塔が、約100〜約220℃の第1蒸留塔温度、約90〜約150mbarの第1蒸留塔圧力及び約0.5〜約5の還流比で運転される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
第2蒸留塔が、約70〜約220℃の第2蒸留塔温度、約20〜約100mbarの第2蒸留塔圧力及び約2〜約20の還流比で運転される、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−519097(P2008−519097A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539068(P2007−539068)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/038553
【国際公開番号】WO2006/049987
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
【Fターム(参考)】