説明

ポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム

【課題】透明性、耐候性および色相に優れ、押出成形する時にダイス口から紫外線吸収剤が分解劣化又は昇華等による発煙によって成形ロールが汚れることがないポリカーボネート樹脂組成物から形成されるシートまたはフィルムを提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、下記式(1)および(2)で示される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のチオエーテル系化合物0.001〜2.0重量部および下記式(3)で示される環状イミノエステル系化合物0.05〜5重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物から形成される。 (R−S−CH―CH―C(O)O−CH−C (1) (R−O−C(O)−CH−CH−)―S (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムに関する。更に詳しくは透明性、耐候性および色相に優れ、該色相が成形加工時や長期使用後においても安定して保たれるポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐熱性、機械的強度等を有するため電気、機械、自動車、医療用途等に幅広く使用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は長期に屋外で使用する場合、アクリル樹脂等に比較して耐候性が問題となることがある。ポリカーボネート樹脂の耐候性を向上させるために種々の紫外線吸収剤を使用する技術は広く知られている。また、紫外線吸収剤とその他の添加剤を併用することで更なる耐候性を向上させる方法も幾つか提案されている。
ポリカーボネート樹脂に使用される紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系紫外線吸収剤が広く知られるところである。
【0003】
2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、および2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールなどの2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)(アル)アルキルフェノール((アル)アルキルフェノールの表記はアルキルフェノールおよびアルアルキルフェノールのいずれも含む意である)は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の中でも比較的青色光の吸収割合が少なく該紫外線吸収剤を含有するボリカーボネート樹脂組成物は比較的良好な色相を有するが、耐熱性が低いため分解や昇華等が発生し、本来有する性能が十分に発揮出来ていない。
【0004】
また、環状イミノエステル系化合物を樹脂材料の紫外線保護に使用する方法、並びに該化合物をポリカーボネート樹脂に配合した樹脂組成物は公知である(特許文献1〜特許文献3参照)。
【0005】
ポリカーボネート樹脂をシート状又はフィルム状に成形する場合、300℃程度の高温でポリカーボネート樹脂を溶融した溶融物をTダイリップから押出し、冷却ロールで引き取る方法が通常行われている。300℃程度の高温で溶融後成形するために、ポリカーボネート樹脂そのものや添加物には高い耐熱性が要求される。耐熱性が低い場合、シート及びフィルム成形時にポリカーボネート樹脂のヤケが発生し成形品を黄色化したり、紫外線吸収剤が分解劣化又は昇華等による樹脂ダイス口での発煙で成形ロールを汚染させてシートの外観不具合が発生する。この問題を解決する方法としてTダイの外壁にダイリップに沿って吸引装置を設けて昇華性物質を吸引する方法が示されている(特許文献4参照)。また特許文献5にはこれら問題を解決するために環状イミノエステル系化合物にリン系熱安定剤を組み合わせた実施例が示されているが、成形加工時の成形品の黄色化抑制効果は十分といえるものではなかった。
【0006】
また紫外線吸収剤は少なからず可視光の青色光を吸収するために成形品が黄色化するので黄色化の改善が求められる場合もあり、更にかかる色相は成形加工後や長期使用後においても安定して保たれる必要がある。
【0007】
特許文献4に示された様な装置を用いることなく、外観に優れ、成形加工時の黄色化が少ない色相の良好な、紫外線吸収剤を含有するポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムを得られる手段が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−31027号公報
【特許文献2】WO03/095557号パンフレット
【特許文献3】特開2004−137472号公報
【特許文献4】特開平11−48306号公報
【特許文献5】特開2006−28442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、透明性、耐候性および色相に優れ、シートまたはフィルムを溶融押出成形する時にダイス口から紫外線吸収剤が分解劣化又は昇華等による発煙によって成形ロールが汚れることがなく、成形品の外観が良好で、かつ成形品の色相が成形加工時及び長期使用後においても安定して保たれるポリカーボネート樹脂組成物から形成されるシートまたはフィルムを提供することにある。
【0010】
本発明の更なる目的は該シートまたはフィルムからなる成形品として、建築部材やグレージング材に代表される車両用透明部材又はその表層部材、液晶ディスプレーの如き薄型ディスプレー装置用材料又はその表層部材、並びにゴーグルなどのアイウエア用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ポリカーボネート樹脂に、熱安定剤として特定のチオエーテル系化合物を使用し、且つ紫外線吸収剤として特定の環状イミノエステル系化合物を特定量配合させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、
1.(A)ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、(B)下記式(1)および(2)で示される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のチオエーテル系化合物0.001〜2.0重量部および(C)下記式(3)で示される環状イミノエステル系化合物0.05〜5重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物から形成された厚み0.1〜10mmのポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。
(R−S−CH―CH―C(O)O−CH−C (1)
[式(1)中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐鎖状の炭素数4〜20のアルキル基である。]
(R−O−C(O)−CH−CH−)―S (2)
[式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐鎖状の炭素数6〜22のアルキル基である。]
【化1】

[式(3)中、Arはヘテロ原子を含有してもよい炭素数6〜12の二価の芳香族炭化水素残基である。nは0または1を示す。]
2.チオエーテル系化合物は、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)からなる群より選ばれる少なくとも1種のチオエーテル化合物である前項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム、
3.チオエーテル系化合物は、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である前項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム、
4.環状イミノエステル系化合物は、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である前項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム、および
5.環状イミノエステル系化合物は、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)である請求項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム、
が提供される。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリカーボネート樹脂について]
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムの基材となる(A)成分はポリカーボネート樹脂である。ポリカーボネート樹脂(以下、単に「ポリカーボネート」と称することがある)は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法及び環状カーボネート化合物の開環重合法等を挙げることができる。
【0014】
当該二価フェノールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称“ビスフェノールA”)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、特にビスフェノールA(以下“BPA”と略称することがある)が好ましい。
【0015】
本発明では、ビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。
例えば、二価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の二価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用することが好ましい。
【0016】
当該カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル又はハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0017】
このような二価フェノールとカーボネート前駆体とから界面重合法によってポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また、ポリカーボネートは3官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。ここで使用される3官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0018】
また、ポリカーボネートは、芳香族もしくは脂肪族(脂環式を含む)の2官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、2官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート並びにかかる2官能性カルボン酸及び2官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また、得られたポリカーボネートの2種以上をブレンドした混合物でも差し支えない。
【0019】
ポリカーボネートの重合反応において、界面重縮合法による反応は、通常、二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が好ましく用いられる。有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられる。また、反応促進のために、トリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の3級アミン、4級アンモニウム化合物、4級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0020】
また、かかる重合反応においては、通常、末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類としては、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール等の単官能フェノール類を用いるのが好ましい。
【0021】
溶融エステル交換法による反応は、通常、二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコール又はフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は、生成するアルコール又はフェノールの沸点等により異なるが、殆どの場合120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を1.33×10〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコール又はフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は、通常、1〜4時間程度である。
【0022】
上記カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素原子数1〜4のアルキル基等のエステルが挙げられ、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0023】
(A)成分のポリカーボネートの粘度平均分子量としては、1.0×10未満であると強度等が低下し、5.0×10を超えると成形加工特性が低下するようになるので、1.0×10〜5.0×10の範囲が好ましく、1.2×10〜3.0×10の範囲がより好ましく、1.5×10〜2.8×10の範囲がさらに好ましい。この場合、成形性等が維持される範囲内で、粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネートを混合することも可能である。例えば、粘度平均分子量が5.0×10を超える高分子量のポリカーボネート成分を配合することも可能である。
【0024】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0025】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネートの粘度平均分子量を測定する場合は、次の要領で行うことができる。すなわち、該樹脂組成物をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計を用いて求め、上式によりその粘度平均分子量Mを算出する。
【0026】
[チオエーテル系化合物について]
本発明で使用されるチオエーテル系化合物は、下記式(1)および下記式(2)で示される化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のチオエーテル系化合物である。
(R−S−CH―CH―C(O)O−CH−C (1)
[式中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数4〜20のアルキル基である。]
(R−O−C(O)−CH−CH−)―S (2)
[式中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数6〜22のアルキル基である。]
【0027】
当該チオエーテル系化合物は、ポリカーボネート樹脂に対する安定剤として知られたものであるが、後述する環状イミノエステル化合物との組み合わせにおいて、少量のチオエーテル化合物の配合によって、本発明のポリカーボネート樹脂組成物をシートまたはフィルムに溶融成形する時の変色抑制に効果を発揮する。
【0028】
チオエーテル系化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜2.0重量部の範囲であり、0.01〜1.0重量部の範囲が好ましく、0.02〜0.5重量部の範囲が最も好ましい。0.001重量部より少ないとポリカーボネートシート成形時の変色抑制効果が不十分であり好ましくない。また、2.0重量部を超える量を配合してもより高い効果の向上は見られず、かえって耐熱性が低下するため好ましくない。
【0029】
前記式(1)で示されるチオエーテル系化合物において、Rは炭素数4〜20のアルキル基であり、炭素数10〜18のアルキル基が好ましい。具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられ、なかでもペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0030】
また、前記式(2)で示されるチオエーテル系化合物において、Rは炭素数6〜22のアルキル基であり、炭素数10〜18のアルキル基が好ましい。具体的には、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート等が挙げられ、なかでもジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネートが好ましく、特にジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネートが好ましい。
チオエーテル系化合物は住友化学工業(株)からスミライザーTP−D(商品名)およびスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に利用できる。
【0031】
[環状イミノエステル系化合物について]
本発明で使用される環状イミノエステル系化合物は、下記式(3)で表される環状イミノエステル化合物である。
【0032】
【化2】

[但し、Arはヘテロ原子を含有してもよい炭素数6〜12の二価の芳香族炭化水素残基である。nは0または1を示す。]
【0033】
当該環状イミノエステル系化合物はポリカーボネート樹脂の耐候性を向上させるための紫外線吸収剤として用いられる。これら環状イミノエステル系化合物の含有量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.05〜5.0重量部の範囲であり、0.1〜4.0重量部の範囲が好ましく、0.15〜3.0重量部の範囲が特に好ましい。環状イミノエステル系化合物がポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.05重量部未満では紫外線吸収性能が小さく、十分な耐紫外線性が得られない。一方、環状イミノエステル系化合物が5重量部を超えると押出機の中でサージングが発生しやすくなる上に成形時の吐出変動によってTダイスから溶融された樹脂が安定して供給できないためシートまたはフィルムとして透明性および平滑性に劣り外観が悪くなる。
【0034】
当該環状イミノエステル系化合物の具体例としては、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)(式(3)におけるn=0の場合)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチル−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−ニトロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2−クロロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。なかでも2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適であり、特に2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適である。環状イミノエステルは単独であるいは2種以上を併用して用いることができる。当該環状イミノエステルは、WO03/035735号パンフレットに開示された各種の方法によって製造することができる。すなわち原料として無水イサト酸を利用する方法(殊に再結晶化された無水イサト酸を利用する方法)、並びにアントラニル酸を利用する方法のいずれも利用可能である。これらの酸化合物とカルボン酸クロライド化合物とを反応させて、環状イミノエステル化合物を得ることができる。これらは特公昭62−31027号公報に開示された如く、生成後に再結晶化処理を行ってもよい。かかる化合物は竹本油脂(株)からCEi−P(商品名)、およびCYTEC社からCYASORB UV−3638(商品名)として市販されており、容易に利用できる。
【0035】
環状イミノエステル化合物はそれ自身の紫外線による劣化が少ないため長期的な色相の安定化に有効である。更にそれらの分子構造によって融点をポリカーボネート樹脂の融点に近づけることにより耐熱性及び分散性が向上し、シートまたはフィルムの成形時の昇華や分解が低減されることからロール等の曇り等の汚れが発生しにくくなり、これらの効果が相乗的に発揮され好ましいポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムが得られる。
【0036】
[他の添加剤について]
<離型剤>
本発明において、シートおよびフィルムの成形時の成形性を向上させる為に、ポリカーボネート樹脂に離型剤を配合することができる。離型剤としては、その90重量%以上がアルコールと脂肪酸とのエステルからなるものが好ましい。アルコールと脂肪酸とのエステルとしては、具体的には一価アルコールと脂肪酸とのエステルおよび/または多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルが挙げられる。前記一価アルコールと脂肪酸とのエステルとしては、炭素原子数1〜20の一価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのエステルが好ましい。また、多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルとしては、炭素原子数1〜25の多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。
【0037】
一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルとしては、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等が挙げられ、特にステアリルステアレートが好ましい。
【0038】
多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステルまたは部分エステル等が挙げられる。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドとステアリルステアレートとの混合物が好ましい。特に、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが好ましい。
【0039】
当該エステル以外の離型剤としては、オレフィン系ワックス、カルボキシル基及び/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン、パラフィンワックス、蜜蝋等が挙げられる。
【0040】
本発明において、ポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム中の離型剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005〜2.0重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.6重量部の範囲がより好ましく、0.02〜0.5重量部の範囲が特に好ましい。
【0041】
<リン系熱安定剤>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、リン系熱安定剤をポリカーボネート樹脂100重量部あたり0.001〜0.2重量部配合してもよい。
【0042】
リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられる。具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。
【0043】
なかでも、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、特にテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0044】
<ヒンダードフェノール系熱安定剤>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤をポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.1重量部配合してもよい。
【0045】
当該ヒンダードフェノール系の酸化防止剤としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートおよび3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられ、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが特に好ましい。
【0046】
<帯電防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、帯電防止剤を配合することができる。当該帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、無水マレイン酸ジグリセライド、カーボン、グラファイト、金属粉末等が挙げられる。また、グリセリンモノステアレート等の「多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル」を挙げることができる。当該帯電防止剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。
【0047】
<ブルーイング剤>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、発明の目的を損なわない範囲でブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤は、ポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムの黄色味を消すために有効である。特に耐候性を付与した場合は、特定量の紫外線吸収剤が配合されているため「紫外線吸収剤の作用や色」によってシートまたはフィルムが黄色味を帯びやすい現実があり、自然な透明感を付与するためにはブルーイング剤の配合は非常に有効である。
【0048】
本発明におけるブルーイング剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂に対して好ましくは0.05〜1.5ppmであり、より好ましくは0.1〜1.2ppmである。
ブル−イング剤としては、バイエル社のマクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR並びにクラリアント社のポリシンスレンブル−RLS等が挙げられる。
【0049】
<難燃剤>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、本発明の目的が損なわれない量の難燃剤を使用することができる。難燃剤としては、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、スルホン酸塩等の有機酸金属塩、およびシリコーン系難燃剤などが挙げられ、それらを一種以上使用することができる。当該難燃剤はそれぞれポリカーボネート樹脂に対して公知の量を配合することができる。
【0050】
<熱線遮蔽能を有する化合物>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムには、本発明の目的が損なわれない量の熱線遮蔽能を有する化合物を使用することができる。当該化合物としてはフタロシアニン系近赤外線吸収剤、ATO、ITO、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウムなどの金属酸化物系近赤外線吸収剤、ホウ化ランタン、ホウ化セリウムおよびホウ化タングステンなどの金属ホウ化物系近赤外線吸収剤などの近赤外吸収能に優れた各種の金属化合物、ならびに炭素フィラーが好適である。さらにメタリック顔料(例えば金属酸化物被覆板状充填材、金属被覆板状充填材、および金属フレークなど)も主として熱線を反射し熱線遮蔽能を発現する。
【0051】
当該フタロシアニン系近赤外線吸収剤としては、三井化学(株)製MIR−362が市販され容易に入手可能である。炭素フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト(天然、および人工のいずれも含み、さらにウイスカーも含む)、カーボンファイバー(気相成長法によるものを含む)、カーボンナノチューブ、およびフラーレンなどが挙げられ、好ましくはカーボンブラックおよびグラファイトである。これらは単体または2種以上を併用して使用することができる。フタロシアニン系近赤外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部当たり好ましくは0.0005〜0.2重量部、より好ましくは0.0008〜0.1重量部、更に好ましくは0.001〜0.07重量部である。金属酸化物系近赤外線吸収剤および金属ホウ化物系近赤外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂に対して0.1〜200ppm(重量割合)の範囲が好ましく、0.5〜100ppmの範囲がより好ましい。炭素フィラーの配合量は、ポリカーボネート樹脂に対して0.05〜5ppm(重量割合)の範囲が好ましい。またメタリック顔料の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部当たり好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.0005〜0.8重量部である。
【0052】
<蛍光染料>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムは良好な透明性を有することから、さらに蛍光増白剤を含むことにより、より高い光透過性や自然な透明感を付与することができる。また、蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を含むことにより、発光色を生かした意匠効果を付与することができる。
【0053】
蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。これらの中でも耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、およびペリレン系蛍光染料が好適である。特に環状イミノエステルとの組み合わせにおいても良好な特性を維持する点からクマリン系蛍光染料、即ちクマリン誘導体からなる蛍光染料が好ましい。
【0054】
当該蛍光染料(蛍光増白剤を含む)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.0001〜3重量部、より好ましくは0.0005〜1重量部、さらに好ましくは0.001〜0.5重量部である。この範囲においてより良好な耐紫外線性および色相と、熱安定性および光線透過率とが両立する。
【0055】
<光拡散剤および光高反射用白色顔料>
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムは透明性、色相及び耐光性に優れることから光拡散剤による光拡散機能、白色顔料による光高反射機能がより効果的に発揮される。したがって、本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムは光拡散剤や白色顔料の配合によっても、より良好な特性を有する樹脂シートまたはフィルムを提供する。光拡散剤としては高分子微粒子(好適には粒径1〜20μmのアクリル架橋粒子およびシリコーン架橋粒子など)、低屈折率の無機微粒子、およびこれらの複合物等が挙げられ、その配合割合はポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.005〜20重量部、より好ましくは0.01〜10重量部である。白色顔料としては二酸化チタン(特にシリコーンなど有機表面処理剤により処理された二酸化チタン)顔料が特に好ましく、その割合はポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは1〜30重量部、より好ましくは2〜20重量部である。
【0056】
<他の樹脂、エラストマー>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、他の樹脂やエラストマーを本発明の目的が損なわれない範囲で少割合配合することもできる。
【0057】
他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0058】
また、エラストマーとしては、イソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コア−シェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/ステレン/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム等が挙げられる。
【0059】
[ポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムの製造方法について]
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムの製造方法としては、ポリカーボネート樹脂(A成分)、チオエーテル系化合物(B成分)および環状イミノエステル系化合物(C成分)を含む各成分を溶融混練することにより製造することが好ましい。
溶融混練の具体的方法としては、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機などを挙げることができ、なかでも混練効率の点から押出機が好ましい。
【0060】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0061】
A成分、B成分、C成分およびその他添加剤(以下、単に“添加剤”と称する)の押出機への供給方法として、(i)添加剤をポリカーボネート樹脂とは独立して押出機中に供給する方法、(ii)添加剤とポリカーボネート樹脂粉末とをスーパーミキサーなどの混合機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法、および(iii)添加剤とポリカーボネート樹脂とを予め溶融混練してマスターペレット化する方法が挙げられる。
【0062】
溶融押出する際には、押出機の溶融ゾーンを1.33〜66.5kPaに減圧して押出すことが好ましい。また、押出機のシリンダー温度をポリカーボネート樹脂の融点をTm℃として、Tm+20〜Tm+80℃の範囲に調製することが好ましい。溶融押出しされた溶融樹脂は所定の厚さのシート状またはフィルム状に成形される。
【0063】
溶融樹脂を所定の厚さに成形する方法としては、溶融押出されたポリカーボネート樹脂組成物を第1ロール(鏡面ロールやゴムロール等)と第2ロール(鏡面ロールやゴムロール等)との間に挟持して当該2本のロールで押圧し、所望によりこのシートを第3ロール(鏡面ロール)と接触させながら引取ロールによりシートを引き取る方法が採用される。
【0064】
ここで使用する第1ロール、第2ロールおよび第3ロールのロール径は特に制限されず、また同じロール径に統一する必要はないが、ロール径は通常200mm以上であり、特に250〜500mmの同一径ものが好ましく使用される。
【0065】
また、溶融押出されたポリカーボネート樹脂組成物を第1ロールと第2ロールとの間に挟持して当該2本のロールで押圧する際の線圧が4〜8MPa・cmの範囲であることが好ましく、5〜7MPa・cmの範囲であることがより好ましい。
【0066】
さらに、使用するポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、第1ロールおよび第2ロールのロール温度はTg−50〜Tg+20℃の範囲に調整することが好ましい。使用するポリカーボネート樹脂がビスフェノールAから得られたポリカーボネート樹脂の場合、第1ロールおよび第2ロールのロール温度は95〜165℃の範囲に調整することが好ましい。
【0067】
第3ロールのロール温度はTg−25〜Tg℃の範囲に調整することが好ましい。使用するポリカーボネート樹脂がビスフェノールAから得られたポリカーボネート樹脂の場合、第3ロールのロール温度は120〜145℃の範囲に調整することが好ましい。
【0068】
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムは、その厚みが0.1〜10mmであり、好ましくは0.1〜5mmである。なお、本発明では厚みが0.5mmを超えて10mm以下のものをポリカーボネート樹脂シート、厚みが0.1〜0.5mmのものをポリカーボネート樹脂フィルムと定義する。
【発明の効果】
【0069】
本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムは、溶融成形時の変色が抑制でき、また添加剤の分解や昇華等による発煙等で成形ロールが汚れることなく成形品の外観も良好で、かつ成形品の色相が長期使用後においても安定して保たれ、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、遊戯具および雑貨などの各種用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、評価は下記の方法によった。
(1)透明性(ヘーズ):実施例で得られた厚さ2.0mmのシートおよび厚さ0.2mmのフィルムのヘーズを、日本電色(株)製NDH−300AによりJIS K7105に準じて測定した。ヘーズの数値が大きいほど光の拡散が大きく、透明性に劣ることを示す。
【0071】
(2)色相(YI値):実施例で得られた厚さ2.0mmのシートおよび厚さ0.2mmのフィルムを日本電色(株)製色差計SE−2000型を用いて透過光を測定したX、YおよびZ値からASTM−E1925に基づき、下記式を用いて算出した。YI値が大きいほど成形板の黄色味が強いことを示す。
YI=[100(1.28X−1.06Z)]/Y
【0072】
(3)成形耐熱性(滞留試験):各実施例において、押出機シリンダー内に10分間溶融したポリカーボネート樹脂組成物を滞留させてから押出しする以外は同様にしてシートおよびフィルムを得た。このシートおよびフィルムのYI値を、評価(2)と同様の方法で測定した。この10分間滞留後のシートおよびフィルムのYI値と各実施例で得たシートおよびフィルム(1分間滞留)との差ΔYIをそれぞれ求めた。
【0073】
(4)耐紫外線性試験:実施例で得られた厚さ2.0mmのシートおよび厚さ0.2mmのフィルムをサンシャイン・ウェザー・メーター(スガ試験機(株)製:WEL−SUN:HC−B)を使用しブラックパネル温度63℃、湿度50%、18分間水噴霧と102分間噴霧無しの計120分サイクルで1000時間処理した後の色相(YI値)を上記評価(2)と同様の方法で測定した。この耐紫外線性試験後のシートおよびフィルムのYI値と各実施例で得たシートおよびフィルム(耐紫外線性試験前)との差ΔYIをそれぞれ求めた。
【0074】
(5)ダイ圧変動:シートおよびフィルムの成形時に押出機内の圧力変動の1時間当たりの最大振れ幅を測定し、5MPa以下を○、5MPa〜10MPaを△、10MPa以上を×とした。
【0075】
(6)ロール汚れ:連続6時間成形後の第1ロールの曇り状態について、製品の外観不良に影響する曇りが目立つ場合を×、製品には影響が見られないが曇りが目立つものを△、曇りが目立たないものを○とし、目視にて評価した。
【0076】
[実施例1〜6、比較例1〜6]
ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたポリカーボネート樹脂パウダー100重量部に、表1および表2記載の各種添加剤を各配合量で、ブレンダーにて混合した。図1に示した装置を用いて、ベント付きTダイ押出機により、押出機温度250〜300℃、ダイス温度260〜300℃、ベント部の真空度を26.6kPaに保持して溶融したポリカーボネート樹脂組成物を1,000mm幅で押出し、第1ロール〜第3ロールはすべて鏡面金属ロール(ロール径300mm)を使用し、第1ロール、第2ロール及び第3ロールの温度をそれぞれ140℃、150℃及び145℃に設定し、押出した溶融ポリカーボネート樹脂組成物を第1ロールと第2ロールとの間に狭持し6MPa・cmの線圧で押圧して、第2ロールと第3ロールとの間を第3ロールに接触させながら通過させて、所望の厚みのポリカーボネート樹脂シート(厚み2mm)またはフィルム(厚み0.2mm)を成形し、引取ロールにより引取りシートまたはフィルムを得た。得られたシートおよびフィルムの算術平均粗さ(Ra)は0.03μmであった。得られたシートおよびフィルムの各種評価結果は表1および表2に示した。
【0077】
なお、表1および表2中記号表記の各成分の内容は下記の通りである。
(A成分);ポリカーボネート樹脂
PC:ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造された粘度平均分子量23,900のポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライト(登録商標)L−1250WP(商品名)/融点:224℃/Tg145℃)
(B成分);熱安定剤
B−1;ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(住友化学工業(株)製:スミライザーTP−D(商品名))
B−2;ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネート(住友化学工業(株)製:スミライザーTPM(商品名))
B−3(比較用);トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製:イルガフォス168)
(C成分);紫外線吸収剤
C−1;2,2´−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)(竹本油脂(株)製:CEi−P(商品名)/融点:314℃)
C−2(比較用);2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(ケミプロ化成(株)製:ケミソーブ79(商品名)/融点:104℃)
C−3(比較用);2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール](旭電化工業(株)製:アデカスタブLA−31(商品名)/融点:195℃)
(その他の成分)
離型剤(PETS);ペンタエリスリトールテトラステアレート(コグニスジャパン(株)製:ロキシオールVPG861(商品名))
ブルーイング剤(MB);アントラキノン系化合物(バイエル(株)製:マクロレックスバイオレットB(商品名))
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルムの製造装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0082】
1.Tダイス
2.第1ロール(鏡面ロール)
3.第2ロール(鏡面ロール)
4.第3ロール(鏡面ロール)
5.引取ロール
6.溶融押出しされたポリカーボネート樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、(B)下記式(1)および(2)で示される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のチオエーテル系化合物0.001〜2.0重量部および(C)下記式(3)で示される環状イミノエステル系化合物0.05〜5重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物から形成された厚み0.1〜10mmのポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。
(R−S−CH―CH―C(O)O−CH−C (1)
[式(1)中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐鎖状の炭素数4〜20のアルキル基である。]
(R−O−C(O)−CH−CH−)―S (2)
[式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよく、直鎖状または分岐鎖状の炭素数6〜22のアルキル基である。]
【化1】

[式(3)中、Arはヘテロ原子を含有してもよい炭素数6〜12の二価の芳香族炭化水素残基である。nは0または1を示す。]
【請求項2】
チオエーテル系化合物は、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)からなる群より選ばれる少なくとも1種のチオエーテル化合物である請求項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。
【請求項3】
チオエーテル系化合物は、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である請求項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。
【請求項4】
環状イミノエステル系化合物は、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。
【請求項5】
環状イミノエステル系化合物は、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)である請求項1記載のポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム。

【図1】
image rotate