説明

ポリスチレン系樹脂発泡体、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びその製造方法

【課題】高発泡時の発泡成形性に優れ、かつ曲げ強度に優れたポリスチレン系樹脂発泡体を提供することを課題とする。
【解決手段】平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上である鱗片状珪酸塩を1〜20質量%含有することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡体により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡体、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、高発泡時の発泡成形性に優れ、かつ曲げ強度に優れたポリスチレン系樹脂発泡体、その発泡体の製造に使用できる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡体は、一般に発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を水蒸気等で加熱発泡して一旦予備発泡粒子とし、これを多数の小孔を有する閉鎖金型内に充填し、再び加圧水蒸気等で加熱発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めると共に、発泡粒子を相互に融着させた後、冷却し金型より取り出すことにより製造される。
上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、通常、スチレン系モノマーを水中に懸濁して重合し、発泡剤を含浸して製造するか、特公昭49−2994号公報(特許文献1)に示されるように、ポリスチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させ、これにスチレン系モノマーを連続的もしくは断続的に供給して重合し、発泡剤を含浸させる方法(シード重合法)等により製造される。更には、ポリスチレン系樹脂を押出機内で溶融し、発泡剤を混練した後に小孔を有する金型より加温加熱媒体中に押出すと共に、粒子状に切断して製造される。
ポリスチレン系樹脂発泡体は、例えば魚箱等の梱包材や保温容器、建材用断熱材として使用されている。特に、最近は環境対応、コスト面から高発泡化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭49−2994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高発泡化すると、発泡体の機械的強度が低下するという課題があった。そのため、重量物の梱包や構造材等にも使用可能な、高発泡化した発泡体が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、特定の範囲の平均粒径とアスペクト比を有する鱗片状珪酸塩を含有させることで、高発泡でも、十分な機械的強度を有するポリスチレン系樹脂発泡体を提供できることを見出し本発明に至った。
かくして本発明によれば、平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上である鱗片状珪酸塩を1〜20質量%含有することを特徴とするポリポリスチレン系樹脂発泡体が提供される。
【0006】
また、本発明によれば、平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上の鱗片状珪酸塩を含有するポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中で、スチレン系モノマーを前記ポリスチレン系樹脂種粒子に含浸させるモノマー含浸工程と、
含浸と同時に又は含浸後、前記スチレン系モノマーを重合させる重合工程と、
重合と同時に又は重合後に、発泡剤を含浸させる発泡剤含浸工程と含むことを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、上記方法により得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高発泡でも、十分な機械的強度を有する省資源化に貢献可能な発泡体、発泡体を製造可能な発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及びその製造方法を提供できる。例えば、密度20.0kg/m3の場合、0.4MPa以上の曲げ強度を有する発泡体を提供できる。
【0008】
更に、鱗片状珪酸塩が、雲母又はセリサイトである場合、高発泡でも、より十分な機械的強度を有する発泡体を提供できる。
また、鱗片状珪酸塩が10〜1000のアスペクト比を有し、ポリスチレン系樹脂発泡体が10〜30kg/m3の密度を有する場合、低密度化しても発泡成形性に優れ、かつより曲げ強度に優れたポリスチレン系樹脂発泡体を提供できる。
更に、鱗片状珪酸塩が表面処理剤で表面処理されていることで、ポリスチレン系樹脂粒子との馴染みが向上した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者は、ポリスチレン系樹脂発泡体(以下発泡体ともいう)の高発泡化と高強度化のために、以下に示すように発泡体の構成を見直した。
即ち、一般に発泡体の強度は、発泡体を形成する気泡径、気泡膜厚、気泡密度、連続気泡率及び発泡体密度に大きく影響される。その中でも、気泡径を小さくすること(微細気泡とすること)で、気泡膜数を増やすことが強度の向上に有効であると従来考えられていた。
しかし、気泡径を小さくすると、気泡膜厚が小さくなり、成形時の加熱により気泡に破れが生じることで、成形性及び強度の低下がおきやすい。このように、低密度化と高強度化の両立は非常に困難であった。
【0010】
そこで、本発明者が検討した結果、平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上である鱗片状珪酸塩を1〜20質量%含有させることで、高発泡化しても強度の低下が少ない発泡体が得られることを突き止めた。例えば、0.4MPa以上の曲げ強度を有する密度20.0kg/m3の発泡体を提供できる。また、例えば、密度が10.0kg/m3の発泡体では0.3MPa以上の、密度が30.0kg/m3の発泡体では0.6MPa以上の曲げ強度を得ることができる。
【0011】
(発泡体)
本発明の発泡体は、平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上である鱗片状珪酸塩を1〜20質量%含有している。
発泡体は、10〜30kg/m3の密度を有することが好ましい。この特定の範囲の密度を有することで、より曲げ強度の高い発泡体を提供できる。より好ましい密度は、12.5〜20.0kg/m3である。
発泡体は、魚箱等の梱包材や保温容器、建材用断熱材として好適に用いることができる。
【0012】
(1)鱗片状珪酸塩
鱗片状珪酸塩は、5〜200μmの平均粒径を有することで、高倍率化と高強度化を実現できる。平均粒径が5μm未満の場合、十分な強度向上が見られないことがある。一方、平均粒径が200μmより大きい場合、発泡時に気泡膜破れが発生しやすく、発泡成形性及び強度の低下を招くことがある。好ましい平均粒径は、10〜150μmである。
更に、鱗片状珪酸塩は、30以上のアスペクト比を有する。アスペクト比が30未満では十分な強度が得られないだけでなく、発泡成形性も低下することがある。好ましいアスペクト比は50以上であり、更に好ましいアスペクト比は70以上である。アスペクト比の上限は、発泡成形時の気泡膜の破れを低減する観点から、1000であることが好ましい。
【0013】
鱗片状珪酸塩の含有量は、1〜20質量%である。1質量%未満では発泡体の断熱性が低下することがある。20質量%より多い場合、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させた際に気泡膜が破れ易くなって、発泡体の高発泡倍率化を図ることができないことがある。含有量は、3〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
鱗片状珪酸塩としては、雲母(例えば、天然雲母、合成雲母)、セリサイト等が挙げられる。なお、合成雲母は、天然雲母とは異なり、天然雲母の結晶構造中の全ての−OH基が−F基で置換された組成を有する人工的に作られた雲母であり、KMg3AlSi3102を理想組成とするものである。
【0014】
鱗片状珪酸塩は、その表面が金属酸化物によって被覆されていてもよい。このような金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄が挙げられる。具体的な表面が被覆された鱗片状珪酸塩は、酸化チタンで表面が被覆された天然雲母又は合成雲母、酸化鉄で表面が被覆された天然雲母又は合成雲母等が挙げられる。
金属酸化物の含有量は、金属酸化物によって表面が被覆された鱗片状珪酸塩中、10〜70質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
【0015】
更に鱗片状珪酸塩の表面はポリスチレン系樹脂との相溶性を向上する目的で、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、他表面処理剤にて処理されていることが好ましい。
この表面処理は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造段階で行うことが好ましい。従来では、鱗片状珪酸塩の表面処理により樹脂成分との相溶性を改良するが、作業が煩雑となる為、好ましくなかった。本発明のように種粒子中で表面処理を行うことで、作業が簡易となり更に、表面処理剤を有効に利用できる。
【0016】
(2)ポリスチレン系樹脂
発泡体は、ポリスチレン系樹脂を含む。ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂は、スチレン由来の成分を50質量%以上含有していることが好ましく、ポリスチレンからなることがより好ましい。
【0017】
また、ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体の場合、スチレン系モノマー由来の成分が主成分(50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは99.8〜99.9質量%)を占めることが好ましい。このようなビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の二官能性モノマー、無水マレイン酸、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0018】
(3)発泡体の製造方法
発泡体は、例えば、次の方法により製造できる。まず、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る。次いで、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて予備発泡粒子を得る。この後、予備発泡粒子を金型内に充填し、加熱発泡させることにより発泡体を製造できる。
【0019】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、例えば、
(i)水性媒体中にポリスチレン系樹脂種粒子(以下種粒子)を分散させ、これにスチレン系モノマーを連続的又は断続的に供給して重合開始剤の存在下で懸濁重合し、発泡剤を含浸させる方法、いわゆるシード重合法によって得られた粒子、あるいは
(ii)スチレン系モノマーを連続的又は断続的に水性媒体中に供給して重合開始剤の存在下で懸濁重合し、発泡剤を含浸させる方法、いわゆる懸濁重合法によって得られた粒子
等を使用できる。
特にシード重合法は、懸濁重合法で得られたものよりも気泡径の調製が行いやすいため、本発明の発泡体を得る上で好ましい。
【0020】
シード重合法による発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、例えば、以下の工程を経ることで製造できる。
(A)反応容器内で水性媒体中に分散させてなる鱗片状珪酸塩を含有するポリスチレン系樹脂種粒子に、スチレン系モノマーを含浸させた後に重合させるか又は含浸させつつ重合させることでポリスチレン系樹脂粒子を得る工程
(B)ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させるか又はスチレン系モノマーの重合途上で発泡剤を含浸させる工程
【0021】
(a)種粒子
種粒子を得るためのモノマーには、上記発泡体の欄で挙げたスチレン系モノマー及びビニルモノマーをいずれも使用できる。種粒子を構成しているポリスチレン系樹脂のスチレン換算重量平均分子量は、小さい場合、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡体の機械強度を低下させることがある。一方、大きいと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性が低下することがある。好ましい平均分子量は、12万〜60万である。
種粒子は、汎用の方法で製造できる。例えば、ポリスチレン系樹脂及び鱗片状珪酸塩をそれぞれ所定量、押出機に供給して溶融混練し、押出機からストランド状に押出して所定長さ毎に切断することで、種粒子を製造できる。また、懸濁重合、乳化重合、塊状重合法等によっても製造できる。
【0022】
種粒子の粒径は、ある狭い範囲内にあれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の粒径もよく揃ったものとできる。そこで、通常、種粒子として、懸濁重合法によって得られた粒子を一旦ふるい分級し、粒径が平均粒径の±20%の範囲になるように調製した粒子を使用できる。塊状重合法により種粒子を得る場合には、所望の粒径にペレタイズしたものを使用できる。シード重合法によれば、用途に応じた所望の粒径範囲の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子をほぼ100%の収率で製造できる。例えば、0.3〜0.5mm、0.5〜0.7mm、0.7〜1.2mm、1.2〜1.5mm、1.5〜2.5mmのように区分した粒子を、所望する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の平均粒径に合わせて選択できる。
【0023】
種粒子は、ポリスチレン系樹脂と鱗片状珪酸塩とを含むことが好ましい。
種粒子に含まれる鱗片状珪酸塩は、種粒子から得られるポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、3〜10質量部の範囲で使用することが好ましい。この範囲となるように、種粒子の使用量及び分散液中へのスチレン系モノマーの供給総量を調整することが好ましい。
更に、種粒子中の鱗片状珪酸塩の含有量は、6.0〜50.0質量%であることが好ましい。種粒子中における鱗片状珪酸塩の含有量が少ないと、発泡体の断熱性が低下することがある。一方、多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させる際、鱗片状珪酸塩が原因となって気泡膜に破れが発生し、高発泡倍率の発泡体を得るのが困難となることがある。より好ましい含有量は、10〜40質量%であり、15〜25質量%が更に好ましい。
【0024】
種粒子には、ポリオレフィンワックスが0.1〜0.7質量%で含まれていることが好ましい。ポリオレフィンワックスの含有量が0.1質量%未満では鱗片状珪酸塩の分散が悪くなることがある。一方、0.7質量%を超えると発泡性ポリスチレン系樹脂粒子からの発泡剤の逸散が早くなりすぎることがある。より好ましい含有量は0.1〜0.6質量%であり、更に好ましい含有量は0.1〜0.5質量%である。
【0025】
(b)水性媒体
水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。
(c)スチレン系モノマー
スチレン系モノマーとしては、上記発泡体の欄で挙げたスチレン系モノマーを使用できる。また、スチレン系モノマーに上記発泡体の欄で挙げたビニルモノマーを加えてもよい。このビニルモノマーとしては、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートが好ましい。なお、ビニルモノマーの使用量としては、スチレン系モノマーとビニルモノマーの総量に対して0.01〜0.02モル%が好ましい。
【0026】
(d)重合開始剤
重合開始剤としては、いずれも通常のスチレンの懸濁重合において用いられるラジカル発生型重合開始剤を用いることができる。例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。分子量を調製し、残存モノマーを減少させるために、10時間の半減期を得るための分解温度が80〜120℃の範囲にある複数種の重合開始剤を併用することが好ましい。
【0027】
(e)種粒子の使用量
種粒子の使用量は、重合終了時の樹脂粒子全量に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは15〜80質量%、特に好ましくは15〜70質量%、最も好ましくは15〜50質量%である。種粒子の使用量が10質量%未満では種粒子に含浸させるスチレン系モノマー量を所定範囲内に制御することが困難となったり又はポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリスチレン系樹脂が高分子量化したりもしくは微粉末状粒子が多量に発生して製造効率が低下したりすることがある。また90質量%を超えると種粒子中に含有させた鱗片状珪酸塩が発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に均一に含有された状態となってしまい、成形性が低下することがある。
【0028】
(f)他の成分
スチレン系モノマーの液滴及び種粒子の分散性を安定させるために懸濁安定剤を用いてもよい。
懸濁安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機化合物等が挙げられる。ここで、難溶性無機化合物を用いる場合には、アニオン界面活性剤が通常、併用される。
アニオン界面活性剤は、上記懸濁安定剤による分散を安定化させるための補助安定剤として機能すると共に、一部がポリスチレン系樹脂粒子内に溶け込んだり、あるいは巻き込まれたりすることによって、得られる発泡体内の気泡径の大きさに影響することがある。従って、所望の気泡膜厚の範囲内に入るようにアニオン界面活性剤の種類を選択すればよい。
【0029】
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸又はその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0030】
更に、発泡体の平均気泡径を調整するために、前記シード重合の終了の5〜10分前、シード重合終了直後、又は、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後に、気泡調製剤をポリスチレン系樹脂粒子中に0.01〜0.8質量%となるように添加してもよい。このような気泡調製剤としては、エチレンビスステアリン酸アマイドのようなステアリン酸塩、トリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0031】
(g)重合条件
重合は、使用するモノマー種、重合開始剤種、重合雰囲気種等により異なるが、通常、60〜150℃の加熱を、1〜10時間維持することにより行われる。
重合雰囲気としては、重合反応中での反応容器内の酸素濃度を15体積%以上に保持した雰囲気が挙げられる。この特定の酸素濃度は、発泡体が鱗片状系酸塩を含む場合、有用である。即ち、酸素濃度が15体積%未満の場合、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に鱗片状珪酸塩が多量に含有されやすくなる。そのため予備発泡粒子を二次発泡させた際に、予備発泡粒子の表面部の気泡が鱗片状珪酸塩によって破泡することがある。その結果、発泡体の高発泡倍率化が妨げられることがある。加えて、破泡することによって予備発泡粒子同士が充分に熱融着一体化するための発泡圧を得ることができず、その結果、発泡粒子同士の熱融着一体化が不充分となり、得られる発泡体の機械的強度が低下することがある。より好ましい酸素濃度は、15〜21体積%の範囲である。
種粒子の使用量及び分散液中へのスチレン系モノマーの供給総量は、種粒子に含まれる鱗片状珪酸塩が、得られる発泡体中1〜20質量%の範囲となるように、調製することが好ましい。
【0032】
また、スチレン系モノマーは、スチレン系モノマーの含浸始期から重合終期までの間の種粒子中におけるスチレン系モノマー量が60質量%以下となるように、水性媒体中に供給されることが好ましい。このスチレンモノマー量を重合中維持することで、スチレン系モノマーが種粒子の中心部付近で重合してしまい、その結果、得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に鱗片状珪酸塩が多く含有されてしまうことを防止できる。スチレン系モノマー量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0033】
(h)ポリスチレン系樹脂粒子
ポリスチレン系樹脂粒子の粒径は、後述する予備発泡粒子の成形型内への充填性の点から、0.3〜2.0mmであることが好ましく、0.3〜1.4mmであることがより好ましい。
更に、ポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリスチレン系樹脂のスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、小さいと、発泡体の機械的強度が低下することがある。一方、大きいと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性が低下し、高発泡倍率の発泡体を得ることができないことがある。好ましい重量平均分子量は、通常の発泡成形に適した12万〜60万の範囲である。また、種粒子の重量平均分子量も上記の発泡成形に適合した範囲に調製することが好ましい。
【0034】
重量平均分子量を、通常の発泡成形に適合した範囲に調整するには、重合開始剤を効率よく働かせることが重要であり、無駄な分解を防ぎ重合工程全域でラジカル発生するよう、重合開始剤の配分、重合温度プログラム、シード重合法においては更にモノマーの供給速度、重合時の重合率等を調整し制御することが好ましい。
【0035】
(i)含浸工程
発泡剤の含浸は、スチレン系モノマーの重合後の粒子に行ってもよく、成長途上粒子に発泡剤を含浸させてもよい。重合の途中での含浸は、水性媒体中で含浸させる方法(湿式含浸法)により行うことができる。重合後の含浸は、湿式含浸法か、又は媒体非存在下で含浸させる方法(乾式含浸法)により行うことができる。また、重合の途中での含浸は、通常重合後期に行うことが好ましい。
【0036】
発泡剤としては、沸点がポリスチレン系樹脂の軟化点以下であり、常圧でガス状又は液状の有機化合物が適している。例えばプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル等の低沸点のエーテル化合物、HCFC−141b、HCFC−142b、HCFC−124、HFC−134a、HFC−152a等のハロゲン含有炭化水素、炭酸ガス、窒素、アンモニア等の無機ガス等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。この内、炭化水素を使用するのが、オゾン層の破壊を防止する観点、及び空気と速く置換し、発泡体の経時変化を抑制する観点で好ましい。炭素水素の内、沸点が−45〜40℃の炭化水素がより好ましく、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン等が更に好ましい。
発泡剤の使用量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜7質量%である。
【0037】
(j)発泡性ポリスチレン系樹脂粒子
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、上記方法により得られた粒子である。
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、少ないと、発泡体の高発泡倍率化が困難となることがあると共に、予備発泡粒子同士の熱融着が不充分となって発泡体の外観性が低下することがある。一方、多いと、発泡体に収縮が生じたり又は予備発泡粒子中の発泡ガスの調整や発泡成形に時間を要して製造効率が低下することがある。好ましい含有量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全量の2.0〜9.0質量%であり、より好ましい含有量は、3.0〜7.0質量%である。なお、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、製造直後に13℃の恒温室内に5日間放置した上で測定されたものである。
【0038】
(k)その他
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に溶剤や可塑剤を添加してもよい。
溶剤としては、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族有機化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、ジアセチル化グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ジイソブチルアジペートのようなアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0039】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における溶剤及び可塑剤の含有量は、それぞれ、少ない場合、溶剤及び可塑剤を添加した効果が発現しないことがある。一方、含有量が多い場合、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて得られた発泡体に収縮や溶けが発生して外観が低下することがある。好ましい含有量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の全量の0.1〜1.5質量%であり、0.2〜1.0質量%がより好ましい。
溶剤及び可塑剤の含浸は、スチレン系モノマーの重合後の粒子又はスチレン系モノマー含浸中の種粒子に対して行うことができる。更に、種粒子に予め溶剤や可塑剤を添加しておいてもよい。
【0040】
溶剤及び可塑剤のポリスチレン系樹脂粒子、種粒子又はスチレン系モノマー含浸中の種粒子への含浸温度が低い場合、含浸に時間を要し、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造効率が低下することがある。一方、高い場合、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子同士の合着が多量に発生することがある。含浸温度は、60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0041】
更に、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、物性を損なわない範囲内において、発泡セル造核剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、着色剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤は、溶剤や可塑剤と同様の要領で発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に含ませることができる。
難燃剤としては、例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられる。そして、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における難燃剤の含有量が少ない場合、発泡体の難燃性が不充分となることがある。一方、多い場合、発泡体の成形性が低下することがある。難燃剤の含有量は、0.5〜1.5質量%が好ましい。
また、難燃助剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物が挙げられる。そして、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における難燃助剤の含有量が少ない場合、難燃助剤を添加した効果が発現しないことがある。一方、多い場合、発泡体の成形性が低下することがある。難燃助剤の含有量は、0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0042】
(l)予備発泡粒子
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、予備発泡機で水蒸気等を用いて予備発泡されて多数の小孔を有する予備発泡粒子とされる。予備発泡粒子の嵩密度は、0.01〜0.03g/cm3の範囲であることが好ましい。予備発泡粒子の嵩密度が0.01g/cm3より小さい場合、得られる発泡体に収縮が発生して外観性が低下することがある。加えて発泡体の断熱性能及び機械的強度が低下することがある。一方、嵩密度が0.03g/cm3より大きい場合、発泡体の軽量性が低下するばかりか、鱗片状珪酸塩を添加する効果が少なくなることがある。
【0043】
(m)発泡体の成形
予備発泡粒子を多数の小孔を有する閉鎖金型内に充填し、再び加圧水蒸気等で加熱発泡させ、予備発泡粒子間の空隙を埋めると共に、予備発泡粒子を相互に融着させることにより一体化させることで、発泡体が製造できる。その際、発泡体の密度は、例えば、金型内への予備発泡粒子の充填量を調製する等して調製できる。
予備発泡粒子は、発泡体の成形前に、例えば常圧で、熟成させてもよい。予備発泡粒子の熟成温度は、20〜60℃が好ましい。熟成温度が低いと、予備発泡粒子の熟成時間が長くなることがある。一方、高いと、予備発泡粒子中の発泡剤が散逸して成形性が低下することがある。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における各種測定法を下記する。
<鱗片状珪酸塩の平均粒径及びアスペクト比>
鱗片状珪酸塩の平均粒径の測定方法にはマイクロトラックレーザー回折法やマイクロシーブ網篩法により平均粒径を求める方法や電子顕微鏡の観察によって求める方法等がある。測定方法によって粒径の数値に差があるが、マイクロシーブ網篩法と電子顕微鏡が実際の粒径に近く、マイクロトラックレーザー回折法では実際よりやや大きい値となる。本明細書の平均粒径は、測定のしやすさ及び再現性の高さ等から、マイクロトラックレーザー回折法により測定する。
【0045】
鱗片状珪酸塩のアスペクト比の測定は、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製走査電子顕微鏡S−2400、以下SEMと称す)による観察下で行なう。具体的には、SEMの試料台に固着させた試料を、一つの粒子が視野に入る最大限まで観察倍率を高くして、劈開面(平滑面)、もしくは積層断面(破断面)の方向から、画像を取り込む(撮影する)。次に、試料台を回転させて、先程とは異なる方向から、画像を取り込む(撮影する)。このようにして得られた画像(写真)から、劈開面の最大長さと積層断面の厚さを計測する。劈開面の計測値を積層断面の計測値で除して、試料毎のアスペクト比を求める。この操作を、任意に抽出した100個の雲母フレークに対して行なう。100個のアスペクト比の平均値を、本明細書のアスペクト比とする。
【0046】
<スチレン系モノマー量>
スチレン系モノマー含浸中の種粒子(以下、成長途上粒子という)中におけるスチレン系モノマー量の測定方法は、下記要領で測定されたものをいう。
即ち、成長途上粒子を分散液中から取り出し、表面に付着した水分をガーゼにより拭き取り除去する。成長途上粒子を0.08g採取し、この採取した成長途上粒子をトルエン24ミリリットル中に溶解させてトルエン溶液を作製する。次に、このトルエン溶液中に、ウイス試薬10ミリリットル、5質量%のヨウ化カリウム水溶液30ミリリットル及び1質量%のでんぷん水溶液30ミリリットルを加える。得られた溶液を、N/40チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果を試料の滴定数(ミリリットル)とする。なお、ウイス試薬は、氷酢酸2リットルにヨウ素8.7g及び三塩化ヨウ素7.9gを溶解してなるものである。
【0047】
一方、成長途上粒子を溶解させることなく、トルエン24ミリリットル中に、ウイス試薬10ミリリットル、5質量%のヨウ化カリウム水溶液30ミリリットル及び1質量%のでんぷん水溶液30ミリリットルを加える。得られた溶液を、N/40チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した結果をブランクの滴定数(ミリリットル)とする。
得られた滴定数から、成長途上粒子中におけるスチレン系モノマー量を下記式に基づいて算出する。
成長途上粒子中のスチレン系モノマー量(質量%)
=0.1322×(ブランクの滴定数−試料の滴定数)/試料の滴定数
【0048】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、下記の要領で測定されたスチレン換算重量平均分子量をいう。
即ち、ポリスチレン系樹脂30mgをクロロホルム10ミリリットルで溶解する。得られた溶液を、非水系0.45μmのクロマトディスクで濾過した後、クロマトグラフを用いて平均分子量を下記条件にて測定する。
ガスクロマトグラフ:Water社製商品名「Detector 484,Pump 510」
カラム:昭和電工社製
商品名「Shodex GPC K−806L(φ8.0×300mm)」2本
カラム温度:40℃
キャリアーガス:クロロホルム
キャリアーガス流量:1.2ミリリットル/分
注入・ポンプ温度:室温
検出:UV254nm
注入量:50マイクロリットル
検量線用標準ポリスチレン:昭和電工社製商品名「shodex」重量平均分子量:1030000及び東ソー社製の重量平均分子量:5480000,3840000,355000,102000,37900,9100,2630,495のポリスチレン
【0049】
<鱗片状珪酸塩含有量>
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を150℃×3時間処理して発泡剤を逸散させる。逸散後の残留物1.0g(灰化前試料の質量)を容量30mLの磁性ルツボに入れる。残量物を電気炉(マッフル炉STR−15K(いすず社製))にて550℃で5時間加熱することで灰化する。磁性ルツボをデシゲーター内で室温(25℃)まで放冷する。放冷後の磁性ルツボ内の灰化後試料の質量を測定する。灰化前後の試料の質量を次式に代入することで、ポリスチレン系樹脂100質量部に対する鱗片状珪酸塩含有量(質量部)を算出する。
鱗片状珪酸塩含有量(質量部)=灰化後試料質量/灰化前試料質量
【0050】
<嵩密度>
予備発泡粒子の嵩倍数は、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定する。具体的は、まず、予備発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させる。メスシリンダー内に落下させた測定試料の体積Vcm3をJIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用いて測定する。Wg及びVcm3を下記式に代入することで、予備発泡粒子の嵩密度を算出する。
予備発泡粒子の嵩密度(g/cm3)=測定試料の質量(W)/測定試料の体積(V)
【0051】
<発泡体の密度>
発泡体(成形後、40℃で20時間以上乾燥させたもの)から切り出した試験片(例75×300×35mm)の質量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(a)/(b)により発泡体の密度(kg/m3)を求める。
【0052】
<最大曲げ強度>
発泡体の最大曲げ強度をJIS K9511:1999「発泡プラスチック保温材」に記載の方法に準拠して測定する。具体的には、密度20kg/m3の発泡体から縦75mm×横300mm×厚さ30mmの直方体形状の試験片を切り出す。しかる後、この試験片の最大曲げ強度を、曲げ強度測定器(オリエンテック社製商品名「UCT−10T」)を用いて、圧縮速度10mm/分、支点間距離200mm、加圧くさび10R及び支持台10Rの条件下にて測定する。試験片を3個用意し、各試験片ごとに前記要領で最大曲げ強度を測定し、その相加平均を最大曲げ強度とする。
評価:最大曲げ強度が0.40MPa以上:○
0.40MPa未満:×
【0053】
[実施例1]
重量平均分子量が18万であるポリスチレン系樹脂(積水化成品工業社製 ポリスチレン)7975gと、平均粒径が20μm、アスペクト比85の天然雲母2000g、ポリエチレンワックス(ベーカーペトロライト社製ポリワックス1000)25gとを二軸押出機に供給した。供給物を230℃にて溶融混練して押出機からストランド状に押出した。このストランドを所定長さ毎に切断して、円柱状の種粒子(直径:0.8mm、長さ:0.8mm)を作製した。
次に、撹拌機付き重合容器に、水2000g、種粒子500g、ピロリン酸マグネシウム6g及びドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム0.3gを供給した。供給物を撹拌しつつ75℃に加熱して分散液を作製した。
【0054】
続いて、シラン系カップリング剤(3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)3.0g、ベンゾイルパーオキサイド9.0g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート1.0gをスチレンモノマー200gに溶解させた。このスチレンモノマー含有溶液を全て上記分散液中に撹拌しつつ供給した。
そして、分散液中にスチレンモノマー含有溶液を供給し終えてから60分経過後に分散液を90℃とした。その後、この分散液中に更にスチレンモノマー1300gを150分かけて一定の供給速度で供給しつつ、シード重合を行なった。なお、シード重合は反応容器を大気開放状態で行った。反応容器の空隙部の酸素濃度は19.8%であった。続いて反応容器を密閉し、125℃に加熱して2時間恒温で放置し、その後に室温(約25℃)まで冷却することでポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0055】
次に、ポリスチレン系樹脂粒子が分散した分散液を90℃に保持した。続いて、反応容器内にブタン162gを圧入した後、6時間に亘って保持し、ポリスチレン系樹脂粒子中にブタンを含浸させた。この後、反応容器内を25℃に冷却することで発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に帯電防止剤としてポリエチレングリコールを塗布した後、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面にステアリン酸亜鉛及びヒドロキシステアリン酸トリグリセリドを塗布した。なお、ステアリン酸亜鉛及びヒドロキシステアリン酸トリグリセリドの塗布量を、それぞれ、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中、0.05質量%となるように調整した。
【0056】
しかる後、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を13℃の恒温室にて5日間放置した。放置後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中のブタン含有量をガスクロマトグラフにより測定したところ、5.8質量%であった。
そして、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して嵩密度0.019g/cm3に予備発泡させて予備発泡粒子を得た。この予備発泡粒子を20℃で24時間熟成させた。
【0057】
次に、予備発泡粒子を金型内に充填して加熱発泡させて、縦400mm×横300mm×厚さ30mmの発泡体を得た。この発泡体を50℃の乾燥室で6時間乾燥した後、発泡体の密度を測定したところ、20kg/m3であった。この発泡体は、収縮もなく外観性にも優れていた。
発泡体の鱗片状珪酸塩含有量、及びポリスチレン系樹脂発泡体の最大曲げ強度を、測定した。その結果、雲母の含有量は4.9質量%、最大曲げ強度は0.48MPaであった。
【0058】
[実施例2]
平均粒径が8μm、アスペクト比80の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.8質量%、最大曲げ強度は0.47MPaであった。
【0059】
[実施例3]
平均粒径が15μm、アスペクト比84の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は5.0質量%、最大曲げ強度は0.48MPaであった。
【0060】
[実施例4]
平均粒径が55μm、アスペクト比89の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.9質量%、最大曲げ強度は0.48MPaであった。
【0061】
[実施例5]
平均粒径が100μm、アスペクト比90の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.8質量%、最大曲げ強度は0.47MPaであった。
【0062】
[実施例6]
平均粒径が155μm、アスペクト比87の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は5.1質量%、最大曲げ強度は0.46MPaであった。
【0063】
[実施例7]
平均粒径が15μm、アスペクト比80のセリサイトを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.8質量%、最大曲げ強度は0.46MPaであった。
【0064】
[実施例8]
重量平均分子量が18万であるポリスチレン系樹脂8584gと、平均粒径が20μm、アスペクト比85の天然雲母1400g、ポリエチレンワックス(ベーカーペトロライト社製:ポリワックス1000)16gとを使用し、シラン系カップリング剤(3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)2.1g使用したこと以外は、実施例1と同様にして発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は2.8質量%、最大曲げ強度は0.43MPaであった。
【0065】
[実施例9]
撹拌機付き重合容器に、水2000g、実施例1と同様にして得た円柱状の種粒子1000g、ピロリン酸マグネシウム6g及びドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム0.3gを供給して撹拌しつつ75℃に加熱して分散液を作製した。
続いて、シラン系カップリング剤(3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)6.0g、ベンゾイルパーオキサイド9.0g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート1.0gをスチレンモノマー200gに溶解させた。このスチレンモノマー含有溶液を全て上記分散液中に撹拌しつつ供給した。
【0066】
そして、分散液中にスチレンモノマー含有溶液を供給し終えてから60分経過後に分散液を90℃とした。その後、この分散液中に更にスチレンモノマー200gを60分かけて一定の供給速度で供給しつつ、シード重合を行なった。なお、シード重合は反応容器を大気開放状態で行った。反応容器の空隙部の酸素濃度は19.8%であった。続いて反応容器を密閉し、125℃に加熱して2時間恒温で放置し、その後に室温まで冷却することでポリスチレン系樹脂粒子を得た。
次に、上記ポリスチレン系樹脂粒子から、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は14.3質量%、最大曲げ強度は0.44MPaであった。
【0067】
[比較例1]
重量平均分子量が18万であるポリスチレン系樹脂を二軸押出機に供給した。供給物を230℃にて溶融混練して押出機からストランド状に押出した。このストランドを所定長さ毎に切断して、円柱状の種粒子(直径:0.8mm、長さ:0.8mm)を作製した。この種粒子を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。実施例1と同じく、発泡体の最大曲げ強度を測定した。最大曲げ強度は0.37MPaであった。
比較例1で得られた発泡体は、鱗片状珪酸塩を含有していないため、機械的強度に劣るものであった。
【0068】
[比較例2]
平均粒径が3μm、アスペクト比70の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.9質量%、最大曲げ強度は0.38MPaであった。
比較例2で得られた発泡体は、鱗片状珪酸塩の粒径が小さく、曲げ強度に劣るものであった。
【0069】
[比較例3]
平均粒径が300μm、アスペクト比85の天然雲母を使用したこと以外は、実施例1と同様にして発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は4.9質量%、最大曲げ強度は0.33MPaであった。
比較例3で得られた発泡体は、鱗片状珪酸塩の粒径が大きい為、発泡成形性に劣り、強度面で不十分であった。
【0070】
[比較例4]
重量平均分子量が18万であるポリスチレン系樹脂9784gと、平均粒径が20μm、アスペクト比85の天然雲母200g、ポリエチレンワックス16gから得られた種粒子を使用したこと以外は、実施例1と同様にして発泡体を得た。
実施例1と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の鱗片状珪酸塩含有量、発泡体の最大曲げ強度を測定した。天然雲母の含有量は0.5質量%、最大曲げ強度は0.37MPaであった。
比較例4で得られた発泡体は、曲げ強度に劣るものであった。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上である鱗片状珪酸塩を1〜20質量%含有することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記鱗片状珪酸塩が、雲母又はセリサイトである請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項3】
前記ポリスチレン系樹脂発泡体が、密度20.0kg/m3の場合、0.4MPa以上の曲げ強度を有する請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項4】
平均粒径が5〜200μm、かつアスペクト比が30以上の鱗片状珪酸塩を含有するポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中で、スチレン系モノマーを前記ポリスチレン系樹脂種粒子に含浸させるモノマー含浸工程と、
含浸と同時に又は含浸後、前記スチレン系モノマーを重合させる重合工程と、
重合と同時に又は重合後に、発泡剤を含浸させる発泡剤含浸工程と含むことを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記モノマー含浸工程が、
第1のスチレン系モノマーと共に、前記鱗片状珪酸塩の表面処理剤と重合開始剤とを前記ポリスチレン系樹脂種粒子に含浸させ、次いで重合させることにより表面処理剤で鱗片状珪酸塩の表面を処理する工程と、
前記表面処理された鱗片状珪酸塩を含むポリスチレン系樹脂種粒子に第2のスチレン系モノマーを、酸素濃度を15%以上に保持された反応容器中で、前記ポリスチレン系樹脂種粒子中における前記第2のスチレン系モノマーの量が60重量%以下となるように、含浸させる工程
とを含む請求項4に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記鱗片状珪酸塩が、雲母又はセリサイトである請求項4又は5に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1つに記載の方法により得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡して得られたポリスチレン系樹脂発泡粒子。

【公開番号】特開2012−153826(P2012−153826A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15370(P2011−15370)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】