ポリテトラフルオロエチレン多孔膜
【目的】 半導体工業などのクリーンルームで使用される空気及び気体中の浮遊微粒子の捕獲に適し、空気及び気体の圧力損失の小さいエアフィルターとしての優れた新規なポリテトラフルオロエチレン多孔膜を提供する。
【構成】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を延伸したのちこれをポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上の温度でヒートセットすることにより、走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、かつ平均孔径が0.2μm〜0.5μmであるポリテトラフルオロエチレン多孔膜を製造する。
【構成】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を延伸したのちこれをポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上の温度でヒートセットすることにより、走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、かつ平均孔径が0.2μm〜0.5μmであるポリテトラフルオロエチレン多孔膜を製造する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)多孔膜およびその製法に関し、さらに詳しくは、半導体工業などのクリーンルームで使用される空気及び気体中の浮遊微粒子の捕獲に適し、空気及び気体の圧力損失の小さいエアフィルターとしての優れた新規なPTFE多孔膜およびその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】クリーンルームで使用されるエアフィルターの材料として、ガラス繊維にバインダーを加えて抄紙した濾材が多く使用されている。しかし、このような濾材にはいくつかの欠点がある。例えば、濾材中の付着小繊維の存在、または加工による折り曲げ時の自己発塵の発生、あるいは自己発塵を防ぐためにバインダーを増大させると圧力損失が増大することなどである(特開昭63−16019号公報参照)。さらに、この濾材は、フッ酸などのある種の化学薬品と接触するとガラス及びバインダーの劣化により、発塵するという問題もあった。
【0003】これらの問題を解決するために合成繊維のエレクトレット濾材(特開昭54−53365号公報参照)を用いることが提案されているが、エレクトレットの減衰の発生が示されている。
【0004】そこで、これらの欠点を防ぎ、清浄空間を得るための手段としてPTFEの延伸多孔膜を補助手段として用いることが提案されている(特開昭63−16019号公報及び特開平2−284614号公報)。しかしこの提案も、圧力損失の増大を防ぐために孔径1μm以上の多孔膜を使用している。この提案などで見られる孔径よりも小さな浮遊粒子を捕集できるとされる理由は次の様な理論である。
【0005】流体中の粒子の除去メカニズムは次の三つの主要メカニズムがあるとされている(ドムニク・ハンター・フィルターズ・リミテッド(Domnick Hunter Filters Limited)カタログ参照):1)直接遮断:比較的大きな粒子はマイクロ・ファイバーによって遮断され、あたかもふるいにかけられたように除去されるメカニズム。
2)慣性衝突:粒子がマイクロ・ファイバーの間の曲りくねった通り道を通過する際、気体ほどには迅速に方向転換できず、結局マイクロ・ファイバーに衝突し付着するメカニズム。
3)拡散/ブラウン運動:非常に小さい粒子は分子間力や静電気に支配され、気体中を螺旋状に回転運動する結果、見掛けの径が大きくなり、慣性衝突と同様に、マイクロ・ファイバーに付着するメカニズム。
その他にエレクトレット繊維の電荷捕集のメカニズムで除去する方法(特開昭54−53365号公報)が提案されているが、特開平2−284614号公報に記載されたデータが示すように、1μm以下の粒子を完全に除去できるものでないことがわかる。
【0006】フィルター濾材として用いられるPTFE多孔膜の代表例は、特公昭56−17216号公報に開示されている。この発明では、圧損の小さいフィルター膜とするために延伸倍率を大きくとり、空孔率を増大させる必要がある。そのために結果として孔径が大きくなる。逆に孔径を小さくしようとすると延伸倍率が大きくできないために圧損の大きい多孔膜となるのである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、微小孔径で、しかも圧損の小さいPTFE多孔膜を提供しようとするものである。さらには本発明は、超微粒子の捕集性能の向上したフィルター濾材を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する為、本発明は、PTFE半焼成体を二軸方向に伸張面積倍率で少なくとも50倍に延伸し、PTFEの融点以上の温度で熱処理することによって、多孔膜が圧倒的にフィブリルからなり、即ち走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、さらに平均孔径が0.2〜0.5μmであるPTFE多孔膜を提供する。
【0009】また、本発明は、厚みが半焼成体の約20分の1以下(半焼成体の元の厚みがたとえば100μmなら、延伸焼成後5μm以下となる)で、平均孔径が0.2〜0.5μmであり、5.3cm/秒の流速で空気を透過させたときの圧力損失が10〜100mmH2Oであることを特徴とするPTFE多孔膜を提供する。
【0010】本発明のPTFE多孔膜は、そのままでも使用できるが、他の低圧損多孔質材料(補強材)とラミネートして補強することもできる。ラミネートしたPTFE多孔膜は、取り扱い性が向上する。ラミネートしたPTFE多孔膜は、プリーツ状に折り畳み、超微粒子捕集用フィルターとして使用することができる。
【0011】補強材としては、不織布、織布、メッシュ、その他の多孔膜が使用できる。補強材の材質としては、オレフィン(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ナイロン、ポリエステル、アラミド、又はこれらを複合したもの(たとえば、芯/鞘構造の繊維から成る不織布、低融点材料と高融点材料の2層不織布など)、更にフッ素系多孔膜(たとえば、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFEの多孔質膜など)が例示できる。
【0012】とりわけ、芯/鞘構造の繊維から成る不織布、低融点材料と高融点材料の2層不織布などが好ましい。このような補強材は、ラミネート時に収縮しない。また、このような補強材とのラミネート膜は、HEPAフィルターとして加工しやすく、フィルターエレメントにする際に折込みピッチが増やせる。
【0013】ラミネートの態様は、補強材の片面または両面に本発明のPTFE多孔膜をラミネートしてもよいし、また、本発明のPTFE多孔膜を2枚の補強材でサンドイッチしてもよい。
【0014】ラミネートの方法は、既知の方法の中から適宜選択すればよく、補強材の一部を溶融して行う熱圧着、ポリエチレン、ポリエステル、PFAなどの粉末を接着材として用いる熱圧着、ホットメルト樹脂を用いる熱圧着などが好ましい。
【0015】粒子捕集メカニズムは、前述したが、粒子を確実に捕集する為にはフィルターの繊維に付着した粒子の再離脱の防止や貫通粒子の遮蔽が必要である。その為には、確実に捕集したい粒子の大きさよりも小さい孔径のフィルター材を用いるべきである。従って、PTFE多孔膜にあっては平均孔径の小さいものが好ましいことは言うまでもない。
【0016】フィルター材料の孔径と空孔率が同一であれば圧力損失は膜厚に比例するので、膜厚は薄い方が好ましい。
【0017】フィルター材料の圧力損失、孔径、空孔率、膜厚が同じであっても粒子捕集性能は異なるものであり、理論上は0.5μm以下の細かい繊維を用い又バインダーを可能なかぎり少量に抑える、すなわち繊維以外の部分を減らすことが好ましいといわれている(化学工学協会52年会江見準講演要旨集参照)。本発明のPTFE多孔膜は、このような諸条件を満足するものである。
【0018】本発明を、製法を含めてより詳細に説明する。本発明で用いるPTFE多孔膜の延伸前の材料は、特開昭59−152825公報で定義されたPTFE半焼成体に準拠するものである。このPTFE半焼成体を二軸方向に伸張面積倍率で少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、さらに好ましくは少なくとも250倍延伸し焼成した延伸多孔体の構造は、ほとんど結節のない微細な繊維からなる特有な膜構造を有する。
【0019】しかも、そのようにして製造したPTFE多孔膜の平均孔径はきわめて小さく、通常0.5μm〜0.2μmであり、さらに膜の厚みも延伸前の20分の1から100分の1程度に減少している。
【0020】これらの諸要件は、半導体の微細パターンを加工する高度な清浄空間を維持するためのエアフィルター材料に適している。
【0021】この様な構造のPTFE多孔膜は、従来の製法では到底得られないものである。例えば特公昭56−17216号公報第11頁左欄第23行以下によれば、「第1図には単軸方向の伸張効果が示されているが、二軸方向における伸張でまた全方向における伸張で、同じような小繊維形成が前記方向に生じ、くもの巣様の或は交さ結合された形状が生成され、それに付随して強さが増大される。重合体の結節と小繊維との間の空所が数と大きさとを増大するので、多孔率もまた増大する。」と記載され、延伸倍率の増大は孔径を大きくするのみであった。
【0022】圧力損失は孔径が大きくなるほど又膜厚が薄くなるほど低くなる。そこで孔径が小さく圧力損失が低いエアフィルターを作製するためには薄いPTFE多孔膜を用いれば良いことになるが、従来法(特公昭56−17216号公報)では延伸倍率を増大させても巾も厚みもほとんど減少しない。けれども、極端に延伸倍率を増大させると孔径は大きくなるので、結局、延伸前のフィルム厚みを薄くし、低倍率で延伸せざるを得ない。しかし工業的に利用できるフィルムの延伸前厚みはせいぜい30μm〜50μmまでである。品質及び歩留りを考えると、100μm前後の厚みの延伸前フィルムが通常である。
【0023】本発明の一つの特徴は、工業的に生産性に支障のない厚み100μm程度の延伸前フィルムを用いて目的を達成することができることである。
【0024】本発明における各パラメータの一般的は範囲および好ましい範囲をまとめて示す。
一般的な範囲 好ましい範囲焼成度: 0.30〜0.80 0.35〜0.70延伸倍率: MD 4 〜 30倍 MD 5 〜 25倍 TD 10〜100倍 TD 15 〜 70倍 合計 50〜1000倍 合計 75〜850倍延伸倍率の合計が250倍以上の時には、焼成度が0.35〜0.48であることが好ましい。
平均孔径: 0.2〜0.5μm 0.2〜0.4μm膜厚: 0.5〜15μm 0.5〜10μmフィブリル/結節面積比:99/1〜75/25 99/1〜85/15平均フィブリル径: 0.05〜0.2μm 0.05〜0.2μm結節の最大面積: 2μm2以下 0.05〜1μm2圧力損失: 10〜100mmH2O 10〜70mmH2O
【0025】本発明のPTFE多孔膜は、エアフィルターとして使用できるだけでなく、例えば本発明のPTFE多孔膜を隔壁として液体を気化させた場合、液体中の微粒子を除去した清澄なガス体を得ることができる。そのような具体的な用途の一例はクリーンな加湿器の隔膜である。
【0026】さらに本発明によれば、非常に薄いPTFE多孔膜を工業的に生産することができ、本発明のPTFE多孔膜は撥水性を必要とする用途や通気性を必要とする用途に使用できる。
【0027】
【実施例】
実施例1PTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF−104」)から製造した厚み100μmの未延伸未焼成フィルムを339℃のオーブン中で50秒間加熱処理して、焼成度0.50の連続した半焼成フィルムを得た。
【0028】次にこの半焼成フィルムを約9cm角に裁断し、同時及び逐次に二軸方向に延伸できる装置(株式会社岩本製作所製)を用いて裁断フィルムの四方を装置のクリップではさみ、雰囲気温度320℃で15分間加熱した後、フィルムの長手方向(MD方向と呼ぶ)に100%/秒の延伸速度で5倍に延伸した。次にフィルムの幅方向(TD方向と呼ぶ)にMD方向の長さを固定しつつ連続的に15倍に延伸し、合計で75倍(面積倍率)に延伸された多孔膜を得た。
【0029】この多孔膜を収縮しない様に枠で固定し、雰囲気温度350℃のオーブンに3分間入れてヒートセットを行った。
【0030】実施例2実施例1と同じ焼成度0.5の半焼成フィルムを用い、実施例1と同様にしてMD方向に8倍、TD方向に25倍延伸し、合計で200倍延伸された多孔膜を得た。この多孔膜を実施例1と同様に、350℃で3分間ヒートセットした。
【0031】実施例3PTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104」)からペースト押出、圧延ロール、助剤乾燥の通常の加工法によって製造した、厚み100μmの未延伸・未焼成フィルムを338℃のオーブン中で45秒間加熱処理して焼成度0.40の連続した半焼成フィルムを得た。この工程で、熱処理前のフィルムは、幅215mm、比重1.55g/cm3であり、熱処理後は、幅200mm、比重2.25g/cm3に変化し、厚みはほとんど変化しなかった。
【0032】次に、この半焼成フィルムを参考例の装置を用いて、まず長手方向に20倍の延伸を行った。
この長手方向の延伸条件は次の通りであった。
ロール3、4: 巻出速度0.5m/分、室温、フィルム幅200mmロール6: 周速度4m/分、温度300℃ロール7: 周速度10m/分、温度300℃ロール10: 周速度10m/分、温度25℃ロール2: 巻取速度10m/分、室温、フィルム幅145mmロール6とロール7の外径間距離:5mmこの結果、この長手方向の延伸面積倍率は計算によって14.5倍となる。
【0033】続いて、この長手方向延伸フィルムの両端を連続的にクリップではさむことのできる図25に示す装置により幅方向に約34倍の延伸および引き続きヒートセットを行った。この幅方向の延伸およびヒートセット条件は次の通りであった。
・フィルムの走行速度 3m/分・予熱オーブンの温度 305℃・幅方向延伸オーブンの温度 320℃・熱固定オーブンの温度 350℃この結果、長手方向と幅方向の延伸の総面積倍率は計算によってほぼ490倍になる。
【0034】実施例4実施例3の幅方向延伸フィルムの両面に図25のラミネート装置を用いて不織布をラミネートした。このラミネート条件は次の通りであった。
・上側不織布 エルベスT1003WDO(ユニチカ株式会社製品)
・下側不織布 メルフィットBT030E(ユニセル株式会社製品)
・加熱ロールの温度 150℃この不織布をラミネートした膜の圧力損失を測定したところ平均25mmH2Oであった。(この測定は両端を均等に裁断して幅800mmとしたものを幅方向に4等分した、4ケ所の平均値であり、最大27mmH2O、最小23mmH2Oであった。)
【0035】参考例実施例1と同じ焼成度0.5の半焼成フィルムを用い、図1に示す装置により延伸した。すなわち、フィルム巻出ロール1から半焼成フィルムをロール3,4,5を介して、ロール6,7に送り、ここでMD方向へ6倍に延伸した。延伸されたフィルムは、ロール8,9、ヒートセットロール10、冷却ロール11およびロール12を介して巻取ロール2に巻取った。
【0036】この時の延伸条件は次の通りであった。
ロール6: ロール表面温度300℃、周速度1m/分ロール7: ロール表面温度300℃、周速度6m/分ロール6とロール7の外径間距離: 5mmロール10: ロール表面温度300℃。周速度はロール7に同調
【0037】次に、前記延伸フィルムを長さ1m、幅15cmに裁断し、室温で幅を固定せずにTD方向に4倍に延伸し、実施例1と同様に350℃3分間ヒートセットを行った。なお、この延伸フィルムには、本発明でいう結節は認められなかった。
【0038】実施例1、2及び3、参考例、および比較例として市販の0.1μm多孔膜2種に付いて、平均孔径、膜厚、フィブリル/結節面積比、平均フィブリル径、結節の最大面積及び圧力損失を測定した。測定方法は後記の通りである。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
注: 市販品A:ミリポア社製フロロガートTPカートリッジ0.1μmに使用の多孔膜。
市販品B:アドバンテック東洋社製T300A293−D PTFEメンブレンフィルター実施例3は、延伸膜の両端を均等に裁断して幅800mmとしたのち、さらに幅方向に4等分し、これら4ケ所を測定した平均値である。
【0040】表1の結果より、本発明のPTFE多孔膜の平均孔径は市販品A及び参考例の平均孔径とほぼ同じであるが、圧力損失は非常に小さいこと、逆に、本発明の実施例1、2のPTFE多孔膜の圧力損失は市販品Bの圧力損失と同程度であるが、市販品Bの平均孔径はかなり大きいことが分かる。さらに、実施例3の様に面積倍率を500倍近く延伸することにより、平均孔径はほとんど変わらなくても、圧力損失をさらに低くすることができることが分かる。
【0041】フィブリル/結節面積比からは、市販品Aよりも実施例のものの方が大きい。平均フィブリル径は、参考例のものより実施例のものの方が細い。また、最大結節面積は、本発明のものの方が市販品Aよりかなり小さい。
【0042】本明細書に記載した各特性の測定方法を説明する。
平均孔径ASTM F−316−86の記載に準じて測定されるミーンフローポアサイズ(MFP)を平均孔径とした。実際の測定は、コールター・ポロメーター(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]で測定を行った。
【0043】膜厚株式会社ミツトヨ製1D−110MH型膜厚計を使用し、多孔膜を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その膜厚を5で割り、得られた値を1枚の膜の膜厚とした。
【0044】圧力損失多孔膜を直径47mmの円形に切り出し、透過有効面積12.6cm2のフィルターホルダーにセットし、これの入口側を0.4kg/cm2に加圧し、出口側から出る空気の流量を上島製作所製流量計で調節し、多孔膜透過流速を5.3cm/秒にに合わせた。その時の圧力損失をマノメーターで測定した。
【0045】焼成度本発明のPTFE半焼成体の焼成度は次の様にして決定される。まず、PTFE未焼成体から3.0±0.1mgの試料を秤量して切取り、この試料を用いてまず結晶融解曲線を求める。同様にPTFE半焼成体から3.0±0.1mgの試料を秤量して切取り、この試料を用いて結晶融解曲線を求める。
【0046】結晶融解曲線は、示差走査熱量計(以下、「DSC」という。例えば島津製作所社製DSC−50型)を用いて記録する。まずPTFE未焼成体の試料を、DSCのアルミニウム製パンに仕込み、未焼成体の融解熱および焼成体の融解熱を次の手順で測定する。
(1) 試料を50℃/分の加熱速度で250℃に加熱し、次いで10℃/分の加熱速度で250℃から380℃まで加熱する。この加熱工程において記録された結晶融解曲線の1例を図2の曲線Aとして示す。この工程において現われる吸熱カーブのピーク位置を「PTFE未焼成体の融点」または「PTFEファインパウダーの融点」と定義する。
(2) 380℃まで加熱した直後、試料を10℃/分の冷却速度で250℃に冷却する。
(3) 試料を再び10℃/分の加熱速度で380℃に加熱する。
加熱工程(3)において記録される結晶融解曲線の1例を図2の曲線Bとして示す。加熱工程(3)において現われる吸熱カーブのピーク位置を「PTFE焼成体の融点」と定義する。
【0047】続いてPTFE半焼成体について結晶融解曲線を工程(1)に従って記録する。この場合の曲線の1例を図3に示す。PTFE未焼成体、焼成体、半焼成体の融解熱は吸熱カーブとベースラインとの間の面積に比例し、島津製作所社製DSC−50型では解析温度を設定すれば自動的に計算される。
【0048】そこで焼成度は次の式によって計算される。
焼成度=(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)ここで、ΔH1はPTFE未焼成体の融解熱、ΔH2はPTFE焼成体の融解熱、ΔH3はPTFE半焼成体の融解熱である。PTFE半焼成体に関しては、特開昭59−152825号公報に詳細な説明がある。
【0049】画像解析フィブリルと結節の面積比、平均フィブリル径、最大の結節面積は次に示す方法で測定した。多孔膜表面の写真を走査型電子顕微鏡(日立S−4000型蒸着は日立E1030型)でとる(SEM写真。倍率1000倍〜5000倍)。この写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、結節とフィブリルに分離し、結節のみからなる像と繊維のみからなる像を得る。結節のみからなる像を演算処理することで最大の結節面積を求め、フィブリルのみからなる像を演算処理しフィブリルの平均径を求めた(総面積を総周長の1/2で割る)。フィブリルと結節の面積比は、フィブリル像の面積の総和と結節像の面積の総和の比から求めた。
【0050】図4及び図5は、実施例1及び2で製造したPTFE多孔膜の繊維構造のSEM写真をそれぞれ示す。図6及び図7は、図4及び図5をそれぞれ画像処理した図を示す。図8及び図9は、図6及び図7それぞれから分離したフィブリルの図である。図10及び図11は、図6及び図7それぞれから分離した結節の図である。
【0051】図12及び図13は、市販品A及びBの多孔膜の繊維構造のSEM写真をそれぞれ示す。図14及び図15は、図12及び図13をそれぞれ画像処理した図から分離したフィブリルの図である。図16及び図17は、図12及び図13をそれぞれ画像処理した図から分離した結節の図である。
【0052】結節の定義結節は、次のいずれかを満足するものをいう。
(1)複数のフィブリルがつながっているかたまり(図18:点で埋められた部分。)(2)つながっているかたまりがフィブリル径より太い(図21及び図22:斜線部)(3)一次粒子及び一次粒子がかたまっていて、そこからフィブリルが放射線状に伸びている(図19、図20及び図23:斜線部)なお、図24は、結節とは見なさない例である。すなわち、フィブリルが枝分かれしているが、フィブリルと分岐部分の径が同じである場合、分岐分岐は結節とは見なさない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例で使用した延伸装置の模式図。
【図2】 焼成度を測定する場合にDSCにより測定された未焼成PTFE及び焼成PTFEの結晶融解曲線の一例を示す図。
【図3】 焼成度を測定する場合にDSCによる測定された半焼成PTFEの結晶融解曲線の一例を示す図。
【図4】 実施例1で製造したPTFE多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図5】 実施例2で製造したPTFE多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図6】 図4を画像処理した繊維形状を示す写真。
【図7】 図5を画像処理した繊維形状を示す写真。
【図8】 図6から分離した繊維の写真。
【図9】 図7から分離した繊維の写真。
【図10】 図6から分離した結節粒子の写真。
【図11】 図7から分離した結節粒子の写真。
【図12】 市販品Aの多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図13】 市販品Bの多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図14】 図12を画像処理した図から分離した繊維形状の写真。
【図15】 図13を画像処理した図から分離した繊維形状の写真。
【図16】 図12を画像処理した図から分離した結節粒子の写真。
【図17】 図13を画像処理した図から分離した結節粒子の写真。
【図18】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図19】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図20】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図21】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図22】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図23】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図24】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図25】 実施例3および4で使用した延伸装置およびラミネート装置の模式図。
【符号の説明】
1:フィルム巻出ロール、2:巻取ロール、3,4,5,6,7,8,9:ロール、10:ヒートセットロール、11:冷却ロール、12:ロール、13:フィルム巻出ドラム、14:巻出制御機構、15:予熱オーブン、16:幅方向延伸オーブン、17:熱固定オーブン、18,19:ラミネートロール、19:加熱ロール、20:巻取制御機構、21:フィルム幅方向延伸フィルム巻取ドラム、22,23:不織布取付ドラム、
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)多孔膜およびその製法に関し、さらに詳しくは、半導体工業などのクリーンルームで使用される空気及び気体中の浮遊微粒子の捕獲に適し、空気及び気体の圧力損失の小さいエアフィルターとしての優れた新規なPTFE多孔膜およびその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】クリーンルームで使用されるエアフィルターの材料として、ガラス繊維にバインダーを加えて抄紙した濾材が多く使用されている。しかし、このような濾材にはいくつかの欠点がある。例えば、濾材中の付着小繊維の存在、または加工による折り曲げ時の自己発塵の発生、あるいは自己発塵を防ぐためにバインダーを増大させると圧力損失が増大することなどである(特開昭63−16019号公報参照)。さらに、この濾材は、フッ酸などのある種の化学薬品と接触するとガラス及びバインダーの劣化により、発塵するという問題もあった。
【0003】これらの問題を解決するために合成繊維のエレクトレット濾材(特開昭54−53365号公報参照)を用いることが提案されているが、エレクトレットの減衰の発生が示されている。
【0004】そこで、これらの欠点を防ぎ、清浄空間を得るための手段としてPTFEの延伸多孔膜を補助手段として用いることが提案されている(特開昭63−16019号公報及び特開平2−284614号公報)。しかしこの提案も、圧力損失の増大を防ぐために孔径1μm以上の多孔膜を使用している。この提案などで見られる孔径よりも小さな浮遊粒子を捕集できるとされる理由は次の様な理論である。
【0005】流体中の粒子の除去メカニズムは次の三つの主要メカニズムがあるとされている(ドムニク・ハンター・フィルターズ・リミテッド(Domnick Hunter Filters Limited)カタログ参照):1)直接遮断:比較的大きな粒子はマイクロ・ファイバーによって遮断され、あたかもふるいにかけられたように除去されるメカニズム。
2)慣性衝突:粒子がマイクロ・ファイバーの間の曲りくねった通り道を通過する際、気体ほどには迅速に方向転換できず、結局マイクロ・ファイバーに衝突し付着するメカニズム。
3)拡散/ブラウン運動:非常に小さい粒子は分子間力や静電気に支配され、気体中を螺旋状に回転運動する結果、見掛けの径が大きくなり、慣性衝突と同様に、マイクロ・ファイバーに付着するメカニズム。
その他にエレクトレット繊維の電荷捕集のメカニズムで除去する方法(特開昭54−53365号公報)が提案されているが、特開平2−284614号公報に記載されたデータが示すように、1μm以下の粒子を完全に除去できるものでないことがわかる。
【0006】フィルター濾材として用いられるPTFE多孔膜の代表例は、特公昭56−17216号公報に開示されている。この発明では、圧損の小さいフィルター膜とするために延伸倍率を大きくとり、空孔率を増大させる必要がある。そのために結果として孔径が大きくなる。逆に孔径を小さくしようとすると延伸倍率が大きくできないために圧損の大きい多孔膜となるのである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、微小孔径で、しかも圧損の小さいPTFE多孔膜を提供しようとするものである。さらには本発明は、超微粒子の捕集性能の向上したフィルター濾材を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する為、本発明は、PTFE半焼成体を二軸方向に伸張面積倍率で少なくとも50倍に延伸し、PTFEの融点以上の温度で熱処理することによって、多孔膜が圧倒的にフィブリルからなり、即ち走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、さらに平均孔径が0.2〜0.5μmであるPTFE多孔膜を提供する。
【0009】また、本発明は、厚みが半焼成体の約20分の1以下(半焼成体の元の厚みがたとえば100μmなら、延伸焼成後5μm以下となる)で、平均孔径が0.2〜0.5μmであり、5.3cm/秒の流速で空気を透過させたときの圧力損失が10〜100mmH2Oであることを特徴とするPTFE多孔膜を提供する。
【0010】本発明のPTFE多孔膜は、そのままでも使用できるが、他の低圧損多孔質材料(補強材)とラミネートして補強することもできる。ラミネートしたPTFE多孔膜は、取り扱い性が向上する。ラミネートしたPTFE多孔膜は、プリーツ状に折り畳み、超微粒子捕集用フィルターとして使用することができる。
【0011】補強材としては、不織布、織布、メッシュ、その他の多孔膜が使用できる。補強材の材質としては、オレフィン(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ナイロン、ポリエステル、アラミド、又はこれらを複合したもの(たとえば、芯/鞘構造の繊維から成る不織布、低融点材料と高融点材料の2層不織布など)、更にフッ素系多孔膜(たとえば、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFEの多孔質膜など)が例示できる。
【0012】とりわけ、芯/鞘構造の繊維から成る不織布、低融点材料と高融点材料の2層不織布などが好ましい。このような補強材は、ラミネート時に収縮しない。また、このような補強材とのラミネート膜は、HEPAフィルターとして加工しやすく、フィルターエレメントにする際に折込みピッチが増やせる。
【0013】ラミネートの態様は、補強材の片面または両面に本発明のPTFE多孔膜をラミネートしてもよいし、また、本発明のPTFE多孔膜を2枚の補強材でサンドイッチしてもよい。
【0014】ラミネートの方法は、既知の方法の中から適宜選択すればよく、補強材の一部を溶融して行う熱圧着、ポリエチレン、ポリエステル、PFAなどの粉末を接着材として用いる熱圧着、ホットメルト樹脂を用いる熱圧着などが好ましい。
【0015】粒子捕集メカニズムは、前述したが、粒子を確実に捕集する為にはフィルターの繊維に付着した粒子の再離脱の防止や貫通粒子の遮蔽が必要である。その為には、確実に捕集したい粒子の大きさよりも小さい孔径のフィルター材を用いるべきである。従って、PTFE多孔膜にあっては平均孔径の小さいものが好ましいことは言うまでもない。
【0016】フィルター材料の孔径と空孔率が同一であれば圧力損失は膜厚に比例するので、膜厚は薄い方が好ましい。
【0017】フィルター材料の圧力損失、孔径、空孔率、膜厚が同じであっても粒子捕集性能は異なるものであり、理論上は0.5μm以下の細かい繊維を用い又バインダーを可能なかぎり少量に抑える、すなわち繊維以外の部分を減らすことが好ましいといわれている(化学工学協会52年会江見準講演要旨集参照)。本発明のPTFE多孔膜は、このような諸条件を満足するものである。
【0018】本発明を、製法を含めてより詳細に説明する。本発明で用いるPTFE多孔膜の延伸前の材料は、特開昭59−152825公報で定義されたPTFE半焼成体に準拠するものである。このPTFE半焼成体を二軸方向に伸張面積倍率で少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、さらに好ましくは少なくとも250倍延伸し焼成した延伸多孔体の構造は、ほとんど結節のない微細な繊維からなる特有な膜構造を有する。
【0019】しかも、そのようにして製造したPTFE多孔膜の平均孔径はきわめて小さく、通常0.5μm〜0.2μmであり、さらに膜の厚みも延伸前の20分の1から100分の1程度に減少している。
【0020】これらの諸要件は、半導体の微細パターンを加工する高度な清浄空間を維持するためのエアフィルター材料に適している。
【0021】この様な構造のPTFE多孔膜は、従来の製法では到底得られないものである。例えば特公昭56−17216号公報第11頁左欄第23行以下によれば、「第1図には単軸方向の伸張効果が示されているが、二軸方向における伸張でまた全方向における伸張で、同じような小繊維形成が前記方向に生じ、くもの巣様の或は交さ結合された形状が生成され、それに付随して強さが増大される。重合体の結節と小繊維との間の空所が数と大きさとを増大するので、多孔率もまた増大する。」と記載され、延伸倍率の増大は孔径を大きくするのみであった。
【0022】圧力損失は孔径が大きくなるほど又膜厚が薄くなるほど低くなる。そこで孔径が小さく圧力損失が低いエアフィルターを作製するためには薄いPTFE多孔膜を用いれば良いことになるが、従来法(特公昭56−17216号公報)では延伸倍率を増大させても巾も厚みもほとんど減少しない。けれども、極端に延伸倍率を増大させると孔径は大きくなるので、結局、延伸前のフィルム厚みを薄くし、低倍率で延伸せざるを得ない。しかし工業的に利用できるフィルムの延伸前厚みはせいぜい30μm〜50μmまでである。品質及び歩留りを考えると、100μm前後の厚みの延伸前フィルムが通常である。
【0023】本発明の一つの特徴は、工業的に生産性に支障のない厚み100μm程度の延伸前フィルムを用いて目的を達成することができることである。
【0024】本発明における各パラメータの一般的は範囲および好ましい範囲をまとめて示す。
一般的な範囲 好ましい範囲焼成度: 0.30〜0.80 0.35〜0.70延伸倍率: MD 4 〜 30倍 MD 5 〜 25倍 TD 10〜100倍 TD 15 〜 70倍 合計 50〜1000倍 合計 75〜850倍延伸倍率の合計が250倍以上の時には、焼成度が0.35〜0.48であることが好ましい。
平均孔径: 0.2〜0.5μm 0.2〜0.4μm膜厚: 0.5〜15μm 0.5〜10μmフィブリル/結節面積比:99/1〜75/25 99/1〜85/15平均フィブリル径: 0.05〜0.2μm 0.05〜0.2μm結節の最大面積: 2μm2以下 0.05〜1μm2圧力損失: 10〜100mmH2O 10〜70mmH2O
【0025】本発明のPTFE多孔膜は、エアフィルターとして使用できるだけでなく、例えば本発明のPTFE多孔膜を隔壁として液体を気化させた場合、液体中の微粒子を除去した清澄なガス体を得ることができる。そのような具体的な用途の一例はクリーンな加湿器の隔膜である。
【0026】さらに本発明によれば、非常に薄いPTFE多孔膜を工業的に生産することができ、本発明のPTFE多孔膜は撥水性を必要とする用途や通気性を必要とする用途に使用できる。
【0027】
【実施例】
実施例1PTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF−104」)から製造した厚み100μmの未延伸未焼成フィルムを339℃のオーブン中で50秒間加熱処理して、焼成度0.50の連続した半焼成フィルムを得た。
【0028】次にこの半焼成フィルムを約9cm角に裁断し、同時及び逐次に二軸方向に延伸できる装置(株式会社岩本製作所製)を用いて裁断フィルムの四方を装置のクリップではさみ、雰囲気温度320℃で15分間加熱した後、フィルムの長手方向(MD方向と呼ぶ)に100%/秒の延伸速度で5倍に延伸した。次にフィルムの幅方向(TD方向と呼ぶ)にMD方向の長さを固定しつつ連続的に15倍に延伸し、合計で75倍(面積倍率)に延伸された多孔膜を得た。
【0029】この多孔膜を収縮しない様に枠で固定し、雰囲気温度350℃のオーブンに3分間入れてヒートセットを行った。
【0030】実施例2実施例1と同じ焼成度0.5の半焼成フィルムを用い、実施例1と同様にしてMD方向に8倍、TD方向に25倍延伸し、合計で200倍延伸された多孔膜を得た。この多孔膜を実施例1と同様に、350℃で3分間ヒートセットした。
【0031】実施例3PTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104」)からペースト押出、圧延ロール、助剤乾燥の通常の加工法によって製造した、厚み100μmの未延伸・未焼成フィルムを338℃のオーブン中で45秒間加熱処理して焼成度0.40の連続した半焼成フィルムを得た。この工程で、熱処理前のフィルムは、幅215mm、比重1.55g/cm3であり、熱処理後は、幅200mm、比重2.25g/cm3に変化し、厚みはほとんど変化しなかった。
【0032】次に、この半焼成フィルムを参考例の装置を用いて、まず長手方向に20倍の延伸を行った。
この長手方向の延伸条件は次の通りであった。
ロール3、4: 巻出速度0.5m/分、室温、フィルム幅200mmロール6: 周速度4m/分、温度300℃ロール7: 周速度10m/分、温度300℃ロール10: 周速度10m/分、温度25℃ロール2: 巻取速度10m/分、室温、フィルム幅145mmロール6とロール7の外径間距離:5mmこの結果、この長手方向の延伸面積倍率は計算によって14.5倍となる。
【0033】続いて、この長手方向延伸フィルムの両端を連続的にクリップではさむことのできる図25に示す装置により幅方向に約34倍の延伸および引き続きヒートセットを行った。この幅方向の延伸およびヒートセット条件は次の通りであった。
・フィルムの走行速度 3m/分・予熱オーブンの温度 305℃・幅方向延伸オーブンの温度 320℃・熱固定オーブンの温度 350℃この結果、長手方向と幅方向の延伸の総面積倍率は計算によってほぼ490倍になる。
【0034】実施例4実施例3の幅方向延伸フィルムの両面に図25のラミネート装置を用いて不織布をラミネートした。このラミネート条件は次の通りであった。
・上側不織布 エルベスT1003WDO(ユニチカ株式会社製品)
・下側不織布 メルフィットBT030E(ユニセル株式会社製品)
・加熱ロールの温度 150℃この不織布をラミネートした膜の圧力損失を測定したところ平均25mmH2Oであった。(この測定は両端を均等に裁断して幅800mmとしたものを幅方向に4等分した、4ケ所の平均値であり、最大27mmH2O、最小23mmH2Oであった。)
【0035】参考例実施例1と同じ焼成度0.5の半焼成フィルムを用い、図1に示す装置により延伸した。すなわち、フィルム巻出ロール1から半焼成フィルムをロール3,4,5を介して、ロール6,7に送り、ここでMD方向へ6倍に延伸した。延伸されたフィルムは、ロール8,9、ヒートセットロール10、冷却ロール11およびロール12を介して巻取ロール2に巻取った。
【0036】この時の延伸条件は次の通りであった。
ロール6: ロール表面温度300℃、周速度1m/分ロール7: ロール表面温度300℃、周速度6m/分ロール6とロール7の外径間距離: 5mmロール10: ロール表面温度300℃。周速度はロール7に同調
【0037】次に、前記延伸フィルムを長さ1m、幅15cmに裁断し、室温で幅を固定せずにTD方向に4倍に延伸し、実施例1と同様に350℃3分間ヒートセットを行った。なお、この延伸フィルムには、本発明でいう結節は認められなかった。
【0038】実施例1、2及び3、参考例、および比較例として市販の0.1μm多孔膜2種に付いて、平均孔径、膜厚、フィブリル/結節面積比、平均フィブリル径、結節の最大面積及び圧力損失を測定した。測定方法は後記の通りである。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
注: 市販品A:ミリポア社製フロロガートTPカートリッジ0.1μmに使用の多孔膜。
市販品B:アドバンテック東洋社製T300A293−D PTFEメンブレンフィルター実施例3は、延伸膜の両端を均等に裁断して幅800mmとしたのち、さらに幅方向に4等分し、これら4ケ所を測定した平均値である。
【0040】表1の結果より、本発明のPTFE多孔膜の平均孔径は市販品A及び参考例の平均孔径とほぼ同じであるが、圧力損失は非常に小さいこと、逆に、本発明の実施例1、2のPTFE多孔膜の圧力損失は市販品Bの圧力損失と同程度であるが、市販品Bの平均孔径はかなり大きいことが分かる。さらに、実施例3の様に面積倍率を500倍近く延伸することにより、平均孔径はほとんど変わらなくても、圧力損失をさらに低くすることができることが分かる。
【0041】フィブリル/結節面積比からは、市販品Aよりも実施例のものの方が大きい。平均フィブリル径は、参考例のものより実施例のものの方が細い。また、最大結節面積は、本発明のものの方が市販品Aよりかなり小さい。
【0042】本明細書に記載した各特性の測定方法を説明する。
平均孔径ASTM F−316−86の記載に準じて測定されるミーンフローポアサイズ(MFP)を平均孔径とした。実際の測定は、コールター・ポロメーター(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]で測定を行った。
【0043】膜厚株式会社ミツトヨ製1D−110MH型膜厚計を使用し、多孔膜を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その膜厚を5で割り、得られた値を1枚の膜の膜厚とした。
【0044】圧力損失多孔膜を直径47mmの円形に切り出し、透過有効面積12.6cm2のフィルターホルダーにセットし、これの入口側を0.4kg/cm2に加圧し、出口側から出る空気の流量を上島製作所製流量計で調節し、多孔膜透過流速を5.3cm/秒にに合わせた。その時の圧力損失をマノメーターで測定した。
【0045】焼成度本発明のPTFE半焼成体の焼成度は次の様にして決定される。まず、PTFE未焼成体から3.0±0.1mgの試料を秤量して切取り、この試料を用いてまず結晶融解曲線を求める。同様にPTFE半焼成体から3.0±0.1mgの試料を秤量して切取り、この試料を用いて結晶融解曲線を求める。
【0046】結晶融解曲線は、示差走査熱量計(以下、「DSC」という。例えば島津製作所社製DSC−50型)を用いて記録する。まずPTFE未焼成体の試料を、DSCのアルミニウム製パンに仕込み、未焼成体の融解熱および焼成体の融解熱を次の手順で測定する。
(1) 試料を50℃/分の加熱速度で250℃に加熱し、次いで10℃/分の加熱速度で250℃から380℃まで加熱する。この加熱工程において記録された結晶融解曲線の1例を図2の曲線Aとして示す。この工程において現われる吸熱カーブのピーク位置を「PTFE未焼成体の融点」または「PTFEファインパウダーの融点」と定義する。
(2) 380℃まで加熱した直後、試料を10℃/分の冷却速度で250℃に冷却する。
(3) 試料を再び10℃/分の加熱速度で380℃に加熱する。
加熱工程(3)において記録される結晶融解曲線の1例を図2の曲線Bとして示す。加熱工程(3)において現われる吸熱カーブのピーク位置を「PTFE焼成体の融点」と定義する。
【0047】続いてPTFE半焼成体について結晶融解曲線を工程(1)に従って記録する。この場合の曲線の1例を図3に示す。PTFE未焼成体、焼成体、半焼成体の融解熱は吸熱カーブとベースラインとの間の面積に比例し、島津製作所社製DSC−50型では解析温度を設定すれば自動的に計算される。
【0048】そこで焼成度は次の式によって計算される。
焼成度=(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)ここで、ΔH1はPTFE未焼成体の融解熱、ΔH2はPTFE焼成体の融解熱、ΔH3はPTFE半焼成体の融解熱である。PTFE半焼成体に関しては、特開昭59−152825号公報に詳細な説明がある。
【0049】画像解析フィブリルと結節の面積比、平均フィブリル径、最大の結節面積は次に示す方法で測定した。多孔膜表面の写真を走査型電子顕微鏡(日立S−4000型蒸着は日立E1030型)でとる(SEM写真。倍率1000倍〜5000倍)。この写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、結節とフィブリルに分離し、結節のみからなる像と繊維のみからなる像を得る。結節のみからなる像を演算処理することで最大の結節面積を求め、フィブリルのみからなる像を演算処理しフィブリルの平均径を求めた(総面積を総周長の1/2で割る)。フィブリルと結節の面積比は、フィブリル像の面積の総和と結節像の面積の総和の比から求めた。
【0050】図4及び図5は、実施例1及び2で製造したPTFE多孔膜の繊維構造のSEM写真をそれぞれ示す。図6及び図7は、図4及び図5をそれぞれ画像処理した図を示す。図8及び図9は、図6及び図7それぞれから分離したフィブリルの図である。図10及び図11は、図6及び図7それぞれから分離した結節の図である。
【0051】図12及び図13は、市販品A及びBの多孔膜の繊維構造のSEM写真をそれぞれ示す。図14及び図15は、図12及び図13をそれぞれ画像処理した図から分離したフィブリルの図である。図16及び図17は、図12及び図13をそれぞれ画像処理した図から分離した結節の図である。
【0052】結節の定義結節は、次のいずれかを満足するものをいう。
(1)複数のフィブリルがつながっているかたまり(図18:点で埋められた部分。)(2)つながっているかたまりがフィブリル径より太い(図21及び図22:斜線部)(3)一次粒子及び一次粒子がかたまっていて、そこからフィブリルが放射線状に伸びている(図19、図20及び図23:斜線部)なお、図24は、結節とは見なさない例である。すなわち、フィブリルが枝分かれしているが、フィブリルと分岐部分の径が同じである場合、分岐分岐は結節とは見なさない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例で使用した延伸装置の模式図。
【図2】 焼成度を測定する場合にDSCにより測定された未焼成PTFE及び焼成PTFEの結晶融解曲線の一例を示す図。
【図3】 焼成度を測定する場合にDSCによる測定された半焼成PTFEの結晶融解曲線の一例を示す図。
【図4】 実施例1で製造したPTFE多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図5】 実施例2で製造したPTFE多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図6】 図4を画像処理した繊維形状を示す写真。
【図7】 図5を画像処理した繊維形状を示す写真。
【図8】 図6から分離した繊維の写真。
【図9】 図7から分離した繊維の写真。
【図10】 図6から分離した結節粒子の写真。
【図11】 図7から分離した結節粒子の写真。
【図12】 市販品Aの多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図13】 市販品Bの多孔膜の繊維形状のSEM写真。
【図14】 図12を画像処理した図から分離した繊維形状の写真。
【図15】 図13を画像処理した図から分離した繊維形状の写真。
【図16】 図12を画像処理した図から分離した結節粒子の写真。
【図17】 図13を画像処理した図から分離した結節粒子の写真。
【図18】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図19】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図20】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図21】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図22】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図23】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図24】 フィブリル−結節構造の一例の模式図。
【図25】 実施例3および4で使用した延伸装置およびラミネート装置の模式図。
【符号の説明】
1:フィルム巻出ロール、2:巻取ロール、3,4,5,6,7,8,9:ロール、10:ヒートセットロール、11:冷却ロール、12:ロール、13:フィルム巻出ドラム、14:巻出制御機構、15:予熱オーブン、16:幅方向延伸オーブン、17:熱固定オーブン、18,19:ラミネートロール、19:加熱ロール、20:巻取制御機構、21:フィルム幅方向延伸フィルム巻取ドラム、22,23:不織布取付ドラム、
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を延伸したのちこれをポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上の温度でヒートセットしてなるポリテトラフルオロエチレン多孔膜であって、走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、かつ平均孔径が0.2μm〜0.5μmであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項2】 平均孔径が0.2μm〜0.5μmであり、かつ5.3cm/秒の流速で空気を透過させた時の圧力損失が10mmH2O〜100mmH2Oであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項3】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を二軸方向に少なくとも50倍の伸張面積倍率で延伸し、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上でヒートセットされたことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項4】 オレフィン系多孔質材料又はフッ素系多孔質材料の上に、接着剤を介しもしくは介さずにラミネートされた請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項5】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を二軸方向に少なくとも50倍の伸張面積倍率で延伸し、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上でヒートセットすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜の製法。
【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなるエアフィルター。
【請求項1】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を延伸したのちこれをポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上の温度でヒートセットしてなるポリテトラフルオロエチレン多孔膜であって、走査型電子顕微鏡写真の画像処理によるフィブリルと結節の面積比が99:1〜75:25であり、平均フィブリル径が0.05μm〜0.2μmであり、結節の最大面積が2μm2以下であり、かつ平均孔径が0.2μm〜0.5μmであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項2】 平均孔径が0.2μm〜0.5μmであり、かつ5.3cm/秒の流速で空気を透過させた時の圧力損失が10mmH2O〜100mmH2Oであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項3】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を二軸方向に少なくとも50倍の伸張面積倍率で延伸し、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上でヒートセットされたことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項4】 オレフィン系多孔質材料又はフッ素系多孔質材料の上に、接着剤を介しもしくは介さずにラミネートされた請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜。
【請求項5】 ポリテトラフルオロエチレン半焼成体を二軸方向に少なくとも50倍の伸張面積倍率で延伸し、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融点以上でヒートセットすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜の製法。
【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなるエアフィルター。
【図1】
【図4】
【図6】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
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【図25】
【公開番号】特開平5−202217
【公開日】平成5年(1993)8月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−196663
【出願日】平成4年(1992)7月23日
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【公開日】平成5年(1993)8月10日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)7月23日
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
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