説明

ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維

【課題】本発明は、仮撚加工性が良好で、ソフト感、品位の優れた布帛を得ることができるポリエステル部分配向繊維、および、実用的に必要な長期の倉庫保管を経ても、パッケージ形状の経時変化が少ないチーズ状パッケージ、および製糸安定性に優れる、その製造方法を提供するものである。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートが重量%で10/90〜45/55の比率からなるポリエステルポリマーからなり、結晶化度30%以下、伸度70〜200%、70℃温度収縮率40〜80%、ガラス転移点50〜75℃を満足することを特徴とするポリエステル部分配向繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮撚加工性が良好で、ソフト感、品位の優れた布帛を得ることができるポリエステル部分配向繊維、および、実用的に必要な長期の倉庫保管を経ても、パッケージ形状の経時変化が少ないチーズ状パッケージ、および製糸安定性に優れる、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと称する)は、繊維にしたときに、伸長回復性が高く、かつ初期引張抵抗度が低いのでソフト性に優れるという特徴を持っている。加えてその易染性により、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称する)繊維の欠点を補うことのできる魅力あるポリエステル繊維として近年の検討は盛んである。
【0003】
このPTT繊維を仮撚加工することで、さらにソフト性が向上するため、延伸糸よりも仮撚加工に好適である部分配向繊維についても検討が盛んにされている。しかしながら、PTT部分配向繊維は、その収縮の大きさのために、経時での物性変化が大きく、チーズ状パッケージとしたときのパッケージ形状も悪くなり、仮撚加工性が悪化するなどの問題があった。
【0004】
かかる問題に対し、多くの検討がされている。例えば、PTT部分配向繊維の仮撚加工性を良好に、チーズ状パッケージを良好に保つため、冷却しながら巻取る方法が提案されている(特許文献1参照)。該方法で仮撚加工性は良好となり、チーズ状パッケージもある程度良好な形状を保てるが、冷却が必須であるのに、パッケージ採取後、室温に放置するため、経時変化が大きくなり、仮撚加工性とパッケージ形状が徐々に悪化し、実用的には採用できないことが判明した。そこで、部分配向繊維を採取する際に、熱処理を施し、結晶化度を上げ、熱収縮を低下させた後に巻取る方法が提案された(特許文献2、特許文献3参照)。この方法によって、飛躍的にパッケージ形状は良化したものの、結晶化度が上がっているため、仮撚加工性が悪く、製造した布帛の品位が悪くなっていることが判明した。また、部分配向繊維を生産する設備は熱処理設備が必要なことから、従来の熱処理不要なPET繊維の生産設備を使用できず、大量生産には設備投資が必要であるといった問題もある。
【0005】
一方、PTTの伸長回復性を生かし、高度のシボ立て性を有する強撚用ポリエステル原糸を製造するために、PTTとPETをブレンドしてなる繊維の検討が数多くなされている(特許文献4、特許文献5参照)。しかしながら、何れの方法についても、美しいシボの織物を得ることを目的とした延伸糸に関する特許であり、PTTを用いた部分配向繊維特有の仮撚加工性の問題や経時変化に関する問題を解消するものではない。
【0006】
以上のように、PTTの長所であるソフト性を生かし、短所である経時変化を抑える部分配向繊維および品質の良好な布帛を得るための仮撚加工繊維が望まれており、検討はされていたにもかかわらず、実用的に有効な技術が提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−254226号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−020136号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】国際公開WO01/085590号パンフレット(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭58−31114号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2001−89950号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の問題点を解決し、さらにPTT部分配向繊維の約3ヶ月にわたる倉庫での長期保管においても、パッケージ形状の悪化を抑制し、仮撚加工性の悪化を防止して、大量生産しても物性を保持しつつ保管できるものであり、仮撚加工性が良好で、ソフト感、品位の優れた布帛を得ることができるポリエステル部分配向繊維、および実用的に必要な長期の倉庫保管を経ても、パッケージ形状の経時変化が少ないチーズ状パッケージ、および、製糸安定性に優れる、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、本発明のポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維は、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートが重量%で10/90〜45/55の比率からなるポリエステルポリマーからなり、結晶化度が30%以下であり、伸度が70〜200%であり、70℃温度収縮率が40〜80%であり、さらに、ガラス転移点が50〜75℃であることを特徴とするポリエステル部分配向繊維である。
【0010】
また、本発明のチーズ状パッケージは、上記のポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維が、巻量2kg以上積層されて巻き取られてなり、かつ、パッケージ巻取り後、35℃、60%RHの雰囲気にて90日の保管を経た後に測定したチーズ状パッケージのサドルが0〜10%、バルジが0〜10%であることを特徴とする。
【0011】
さらには、本発明のポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維の製造方法は、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルポリマーを紡糸温度235〜265℃で紡糸し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却風により冷却固化させ、紡糸速度2000〜3500m/minで引き取り、紡糸したフィラメントが接触するローラー全てを20〜40℃とし、紡糸したフィラメントが接触するガイド全てを55℃以下とし、紡糸速度2000〜3500m/minで引き取ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、仮撚加工性が良好で、ソフト感、品位の優れた布帛を得ることができるポリエステル部分配向繊維が得られ、実用的に必要な長期の倉庫保管を経ても、パッケージ形状の経時変化が少ないチーズ状パッケージ得られ、その製造に際して、糸切れが少なく工程的に安定した製糸性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】チーズ状パッケージの説明図
【図2】実施例における製糸プロセスの模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維は、PETとPTTからなるポリエステルポリマーからなり、本発明でいうPETとは、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。また、このPETには、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【0015】
また、本発明でいうPTTとは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリトリメチレンテレフタレートである。ポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。また、このPTTには、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体やリン系耐熱剤、着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【0016】
PTTの固有粘度は0.8以上とすることでタフネスが得られやすいため好ましく、生産性の観点から2.0以下が好ましい。PETの固有粘度は0.4〜0.9とすることでPTTのソフト性などの特性を活かし、遅延収縮などの短所を補うポリエステル繊維となるため好ましい。
【0017】
本発明は、PETとPTTからなるポリエステル部分配向繊維であるが、PETとPTTの混合比率は重量%で10/90〜45/55の比率にすることが重要であり、本発明の部分配向繊維を仮撚加工し、布帛にした際、PTT単独糸と同等のソフト性が得られる。また、遅延収縮が抑制されるため、倉庫に長期保管しても、良好なパッケージが保たれるため、仮撚加工性が低下することがない。PTTが90%より多くなると、PTT単独部分配向繊維と同様に、長期保管の過程で、遅延収縮により、パッケージフォームが悪化し、仮撚加工性が低下する。遅延収縮は部分配向繊維の紡糸の際の熱セットにより、ある程度抑制可能であるが、熱セットにより、結晶化度が上がり、仮撚加工繊維の布帛品位が低下する。PETの混合比率が45%を超えると、布帛にした時にPTT特有のソフト性が失われる。より好ましい混合比率はPETとPTTを重量%で20/80〜40/60である。
【0018】
次に、本発明の部分配向繊維の物性について説明する。まず、結晶化度は30%以下である。結晶化度が30%以下であることで、本発明の部分配向繊維を仮撚加工する際、熱セットされやすく、加工性が向上し、布帛にした際に染色斑、収縮斑の無い布帛に仕上がる。結晶化度が30%よりも高くなると、仮撚加工の加工性が低下し、その結果、布帛の品位が著しく低下する。より好ましい結晶化度は27%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。結晶化度はPTTとPETの混合比率、熱処理、引取速度により主に決定される。
【0019】
伸度は70〜200%である。伸度が70%以上であることで、製糸工程で熱処理を施すことなく収縮を抑えることが可能となり、仮撚加工性が良くなる。200%以下とすることで、経時変化を抑えることができ、長期に保管しても良好な仮撚加工性が維持できる。より好ましい伸度は85〜190%であり、さらに好ましくは100〜180%である。
【0020】
本発明の部分配向繊維の強度は、布帛を得るうえで問題ない範囲に設定する。強度については1.5cN/dtex以上とすれば仮撚加工時の糸切れが起こりにくいので好ましい。また、3.0cN/dtex以下とすることで、本発明規定の伸度を得ることが容易となるため好ましい。
【0021】
70℃温水収縮率は40〜80%である。70℃温水収縮率が40%以上であると、熱を付与したときに、伸長せずに明確に収縮するため、PET繊維と同様に取り扱うことができる。また、80%以下であると倉庫での長期保管を経てもパッケージの悪化が抑えられ、仮撚加工の際の加工性も良好となる。より好ましい70℃温水収縮率は75%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0022】
本発明は、ガラス転移点が50〜75℃である。ガラス転移点は、DSCにより測定し、ガラス転移点が複数検出しないものが好ましい。ガラス転移点が50℃以上あることで、室温での長期保管を経てもパッケージの悪化が抑制され、仮撚加工性が良好となる。また、ガラス転移点が75℃以下ならば、PET繊維と同様に取り扱うことが可能である。より好ましいガラス転移点は52℃〜65℃である。
【0023】
本発明の部分配向繊維の繊度、単糸繊度は、繊度は10〜1000dtex、単糸繊度は0.3〜30dtex程度が一般的に採用される範囲であるが、繊度を低く、単糸繊度を低くすることにより布帛の発色性やソフト性は向上し、繊度10〜400dtex、単糸繊度0.3〜10dtex、フィラメント数は10〜1000がより好ましい。
【0024】
また、単糸の断面形状は特に限定されるものではなく、丸型、およびY字状、W字状等の異型断面や、中空断面形状などであってもよい。
【0025】
次に、本発明のパッケージ形状について説明する。本発明のポリエステル部分配向繊維は、紙管などに2kg以上巻き取られて、図1に示すようなチーズ状パッケージとして供給される。2kg未満であると、部分配向繊維のパッケージの取り上げ作業や仮撚加工時のパッケージ交換作業が増大し、コストアップにつながる。より好ましくは4kg以上であり、更に好ましくは5kg以上である。巻量の上限は、パッケージの扱いやすさを考えると20kg以下が好ましい。パッケージの形状は、バルジが0〜10%、かつ、サドルが0〜10%である。図1に示すように、パッケージの最大径(Dmax)、最小径(Dmin)、最大幅(Wmax)、および、最小幅(Wmin)を測定し、下式により、サドルおよびバルジを算出する。
サドル(%)={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
バルジ(%)={(Wmax−Wmin)/Wmin}×100
なお、このサドル、バルジは長期保管後の形状を表す必要があり、パッケージ巻取り後、35℃、60%RHの雰囲気にて90日の保管を経た後に測定したものである。
【0026】
サドルやバルジが大きいと、パッケージにおける繊維の硬さに斑が発生する。特に、サドルが大きい場合、最大径の部分では繊維が硬く、逆に、最小径の部分では繊維が柔らかくなりやすい。繊維の硬さに斑があると、それを用いて仮撚加工する際に、加工張力に変動が発生し、糸切れが発生するほか、得られた加工繊維の染めや収縮にバラツキが発生し、布帛の均一性が損なわれ品位が低下する。サドルおよびバルジが上記の範囲であると、パッケージでの繊維の斑が抑制され、加工性が向上するほか、このために発生する布帛表面の品位低下を抑制することができる。バルジのより好ましい範囲は0〜5%、サドルのより好ましい範囲は0〜5%である。
【0027】
サドルおよびバルジを好ましい範囲とするためには、一般的には巻取り時の張力を適切な範囲にすることにより、巻取り直後のパッケージ形状を良好にすることができるが、PTT単独部分配向繊維ではパッケージ巻取り直後では問題ないものの、35℃での長期保管を経ると悪化し良好に保つことは困難である。本発明ではPETとPTTを混合した部分配向繊維とすることで長期保管後でも良好なパッケージを得ることができる。
【0028】
次に本発明のポリトリメチレンテレフタレート系部分配向繊維の製造方法について説明する。本発明の部分配向繊維はPETとPTTからなるが、PETとPTTのブレンド繊維とすることが優れた製糸安定性や仮撚り加工性、布帛としたときの発色性やソフト性を得られるため好ましい。ブレンドする方法としては、チップ状態でブレンドするチップブレンド方式と溶融状態でブレンドする溶融ブレンド方式などがあるが、チップ状態でブレンドする方が、従来のPET単独部分配向繊維の設備でも、ブレンド状態が均一となり、また、溶融温度、紡糸温度を低く設定でき、PTTの熱劣化を抑制できるため好ましい。チップブレンド方法は公知の方法でよく、テーブルフィーダーやチップブレンダーが挙げられるが、これらに限定されない。PETとPTTの混合比率は重量%で10/90〜45/55の比率で混合し、溶融する。溶融方法はプレッシャーメルターによる方法、エクストルーダーによる方法が挙げられるが、エクストルーダーによる溶融がブレンド状態の均一性の観点から好ましく、エクストルーダーは1軸または2軸のものを用いることができる。溶融温度は使用するPTTの融点の10〜40℃高い温度に設定することが好ましい。エクストルーダーで溶融されたブレンドポリマーは235〜265℃の紡糸温度で紡糸することで、繊維のガラス転移点を50〜75℃に制御することができる。235℃に満たない場合は、ポリマーの流動性が悪化し、265℃を超えるとPTTが熱劣化を起こし、製糸性や仮撚り加工性、布帛品位が著しく低下する。より好ましくは260℃以下である。
【0029】
紡出孔より押出した溶融ポリマーは冷却風にて冷却固化させ、油剤を付与した後、紡糸速度2000〜3500m/minの部分配向領域にて引き取り、給油および/または糸道を制御するための、温度を55℃以下とした、1つ以上の複数のガイドを通し、温度を20〜40℃とした、給油および/または工程張力コントロールのため1つ以上の複数のローラーを介した後、巻き取ることによって、製造することができる。
【0030】
紡糸速度を2000〜3500m/minの範囲とすることで、本発明規定の結晶化度、伸度、70℃温水収縮率が得られやすい。紡糸速度が2000m/minに満たない低速では、伸度200%より大きくなり、仮撚加工性が悪化する。また、紡糸速度が3500m/minを超える高速になると、伸度が70%より低くなり、遅延収縮が発生する。紡糸速度は、より好ましくは2250〜3000m/minである。
【0031】
ガイド温度は、55℃を超えると、および/または、ローラー温度が40℃を超えると、ポリエステル部分配向繊維の結晶化度が上がり、仮撚加工性が悪化し、布帛にした際に品位が低下する。ローラー温度を20℃より低く保つには、エネルギー使用量が大幅に増加するため好ましくない。ガイド、または、ローラーの温度を本発明の温度に保つ方法については、雰囲気温度のコントロールや、ガイドやローラーに冷却風を送り続けること等が挙げられる。ガイド温度、ローラー温度の測定方法としては、接触式温度計による測定や非接触の放射温度計を使用しても良い。ガイド温度は、より好ましくは45℃以下である。ローラー温度については、より好ましくは25〜35℃である。
【0032】
また、巻取張力は、安定的な製糸性を得やすいという観点から、0.02cN/dtex以上が好ましく、良好なパッケージフォームを得やすいという観点から、0.5cN/dtex以下が好ましい。
【0033】
また、巻取りまでの間に公知の交絡装置を用い、繊維糸条に交絡を施すことも可能である。必要であれば、交絡を複数回付与することで交絡数を上げることが可能となる。さらには、巻取直前に、追加で油剤を付与することも許容される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0035】
(1)固有粘度
固有粘度[η]は、溶媒として、オルソクロロフェノールを用い、30℃で粘度を測定し、次の定義式に基づいて求められる値である。ここで、Cは溶液の濃度、ηrは相対粘度(溶媒の粘度に対する、ある濃度Cにおける溶液の粘度の比率)である。
【0036】
【数1】

【0037】
(2)結晶化度
サンプル量が10mgの試料を、TA Instruments社製DSC Q100にて、16℃/分で昇温し、20〜280℃の温度範囲で測定し、以下の式にて算出した。
結晶化度Xc(%)=(ΔHm−ΔHcc)/145(Xc100%のΔHm)×100
ΔHm:融解熱量(J/g)
ΔHcc:冷結晶化熱量(J/g)
Xc100%のΔHm:145(J/g) 。
【0038】
(3)強度、伸度
JIS L1013(1999)に従い測定した。
【0039】
(4)70℃温度収縮率
繊維を1m×10回のかせ取りをする。かせに、29×10−3cN/dtexの荷重を掛けたときの、かせ長をL0、かせに0.29×10−3cN/dtexの荷重を掛けたの状態で70℃の温水にて10分間処理し、12時間以上24時間以内の範囲で風乾後、29×10−3cN/dtexの荷重を掛けたときのかせ長をL1とし、下式で、70℃温水収縮率を算出する。
70℃温水収縮率(%)={(L0−L1)/L0}×100
なお、測定試料は、パッケージ採取後12時間以上48時間以内の経時による変化のないものを使用する。
【0040】
(5)ガラス転移点
サンプル量が10mgの試料を、TA Instruments社製DSC Q100にて、16℃/分で昇温し、20〜280℃の温度範囲で測定した。
【0041】
(6)パッケージのサドル、バルジ
各実施例および比較例において、部分配向繊維を巻取るに際して、直径134mmの紙管に巻取り幅114mmにて巻取り、8kgのパッケージ(巻径約340mm)を得る。得られたパッケージを、35℃、60%RHの雰囲気下で90日間放置後、パッケージの形状を測定した。図1に示すように、パッケージの最大径(Dmax)、最小径(Dmin)、最大幅(Wmax)、および、最小幅(Wmin)を測定し、下式により、サドルおよびバルジを算出した。小数第1位を四捨五入し整数値とした。
サドル(%)={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
バルジ(%)={(Wmax−Wmin)/Wmin}×100 。
【0042】
(7)生産性
製糸量5tonの連続紡糸を3回実施し、トンあたりの平均の糸切れ回数を算出した。糸切れ回数に応じ、以下の評価点数とした。
○:糸切れ回数 0.5回/ton未満
△:糸切れ回数 0.5回/ton以上、2.0回/ton未満
×:糸切れ回数 2.0回/ton以上 。
【0043】
(8)仮撚加工繊維満管率
部分配向繊維の8kgのパッケージを用い、ウレタンディスクによるフリクション方式仮撚加工(インドロー仮撚、加工速度400m/分、延伸倍率は仮撚加工繊維の伸度が40%になるように調整、第1ヒーター温度145℃、第2ヒーター温度130℃)を行った。2kg巻の仮撚加工繊維を4本採取し、100本の部分配向繊維から400本の仮撚加工繊維へ分割仮撚した。400本の仮撚加工繊維のうち、糸切れせずに2kgの仮撚加工繊維を採取できた割合を算出した。小数第1位を四捨五入し、整数値とした。なお、使用する部分配向繊維は35℃、60%RHの雰囲気下で90日間保管したものを使用した。
○:90%以上
△:80%以上、90%未満
×:80%未満 。
【0044】
(9)仮撚加工繊維編検
(8)にて採取した仮撚加工繊維のうち、任意のパッケージの部分配向繊維から採取した4本の仮撚加工繊維を用い、28ゲージの丸編地を製作した。染色方法は染料としてテトラシールネイビーブルーSGLを0.275%owf、助剤として正研化工(株)製テトロシンPE−Cを5.0%owf、分散剤として日華化学(株)製ニッカサンソルト#1200を1.0%owf用い、浴比1:100にて50℃、15分、さらに90℃、20分にて染色を行った。染色が完了したサンプルについて染色斑、収縮斑について総合的に評価し、製品として出荷可能であるか否かを経験年数3年以上の評価者3名の合議によって3段階で評価した。
○:非常に均質で優れた品位である
△:安定した品位であり、出荷可能である
×:出荷不可能な重大な欠点が存在する。
【0045】
(10)布帛ソフト性
(9)にて得られた丸編地の肌触りを官能検査し経験年数3年以上の評価者3名の合議によって3段階評価した。
○:非常にやわらかく優れている
△:やわらかく優れている
×:固い。
【0046】
(11)総合評価
前述(7)〜(10)の評価項目について、以下の基準で合否を判定した。
合格:全ての項目で×がないもの
不合格:一項目でも×があるもの。
【0047】
実施例1
固有粘度が0.65のPETチップと固有粘度が1.10のPTTチップをチップブレンダーで混合した後、チップホッパーに仕込み、溶融温度270℃にて、1軸のエクストルーダーで混合チップを溶融し、紡糸温度を250℃に設定し、計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て、丸孔の口金紡出孔から吐出させた。チップ混合比率はPET:PTT=30:70とした。
【0048】
吐出したポリマーは図2に示す製糸装置にて繊維化した。すなわち、冷却、給油ローラーによる給油を経て、ガイド4で糸を収束させ、紡糸速度2600m/分に設定された第1ローラー5にて引き取り、ガイド6、同速の第2ローラー7、ガイド8を経た後、巻取張力0.33cN/dtex、巻取速度2575m/分にて巻き取り、110dtex−24フィラメントのポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル部分配向繊維からなるチーズ状パッケージ10を得た。なお、固化したばかりの繊維の持ち込み熱により温度が上がりやすいガイド4は、冷却風を送りつづけることにより、最大温度が25℃になるように調節した。第1ローラー5は温度可変のローラーを使用し、温度が25℃となるように設定した。第2ローラー7、ガイド6、ガイド8は、雰囲気温度コントロールにより、温度が23〜25℃になるように設定した。ガイド温度は、非接触式の温度計で連続測定した。
【0049】
得られた部分配向繊維は結晶化度15.1、伸度147%、70℃温水収縮率61%と良好な物性を示した。得られたパッケージを35℃、60%RHの雰囲気下に90日保管した後に測定したバルジとサドルも良好であり、生産性、仮撚加工繊維の満管率、編検、布帛ソフト性とも良好であった。結果を表1に示す。
【0050】
実施例2〜5、比較例1〜5
PETチップとPTTチップ混合比率と紡糸温度を表1のように変更した以外は実施例1と同様の手順で部分配向繊維を得た。実施例2〜3については表1に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。実施例4については、本発明の規定範囲内ではあるが、ガラス転移点が51.0℃となり、パッケージの経時変化が進み、仮撚加工繊維満管率が実施例1と比較し、若干劣る結果となった。実施例5についても、本発明の規定範囲内ではあるが、PET比率が45重量%と高めのため、実施例1と比較し、布帛ソフト性が若干劣る結果となった。
【0051】
比較例1については、PETの混合比率が50重量%とPTTの混合比率と同じであるため、布帛ソフト性が著しく劣る結果となった。比較例2については、PETの混合比率が70重量%とPTTの混合比率よりも高く、布帛ソフト性で不十分な結果を得た。比較例3については、PTTの混合比率が95重量%と高いため、ガラス転移点が室温に近くなり、90日後のパッケージフォームが悪化し、仮撚加工繊維満管率が大きく劣るものとなった。比較例4については、PTTの比率が100重量%であり、ガラス転移点が比較例3よりもさらに室温に近づき、90日後のパッケージフォームが悪化し、仮撚加工繊維満管率が大きく劣るものとなった。比較例5について、PETの比率を100重量%としたため、布帛が固くなり、ソフト性が不十分となった。
【0052】
実施例6
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度、第2ローラー7の温度を表2のように変化させた以外は実施例1と同様の条件にて部分配向繊維を製糸し、生産性、仮撚加工繊維の満管率、編検、布帛ソフト性とも良好であった。
【0053】
実施例7、比較例6
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度を表2のように変化させた以外は実施例1と同様の条件にて部分配向繊維を得た。実施例7については、生産性、仮撚加工繊維の満管率、編検、布帛ソフト性とも良好であったが、結晶化度が38.3%となった比較例6では、仮撚加工性の悪化のため、仮撚加工繊維編検が不十分となった。
【0054】
実施例8
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度を表2のように変化させた以外は実施例3と同様の条件にて部分配向繊維を製糸し、生産性、満管率、編検、布帛ソフト性全てについて良好であった。
【0055】
実施例9〜10、比較例7
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度を表2のように変化させた以外は実施例2と同様の条件にて部分配向繊維を得た。実施例9については、実施例2と同様に良好な結果であったが、実施例10については、結晶化度が25.9%となり、良好ではあるものの、仮撚加工繊維の編検で若干の斑が認められた。結晶化度が32.8%となった比較例7では、編検で染め斑が認められた。
【0056】
実施例11、比較例8
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度を表2のように変化させた以外は実施例4と同様の条件にて部分配向繊維を得た。実施例11については、仮撚加工繊維の満管率は若干低下し、また、結晶化度が29.3%となり、編検にも若干の斑が見られた。結晶化度が34.6%となった比較例8では、編検に染め斑が発生した。
【0057】
比較例9
図2におけるガイドの最大温度、平均温度、第1ローラー5の温度を表2のように変化させた以外は比較例4と同様の条件にて部分配向繊維を得た。結晶化度が45.2%であったため、90日後のパッケージフォームは改善されたものの、仮撚加工繊維の編検が不十分となった。
【0058】
実施例12〜15、比較例10〜11
図2における第1ローラー5の速度、すなわち紡糸速度と巻取張力を表3のように変化させた以外は実施例1と同様の条件にて部分配向繊維を得た。なお、図2における第2ローラー7の速度は第1ローラー5と同速とした。本発明の結晶化度、伸度、70℃温水収縮率、ガラス転移点、パッケージのサドル、バルジである実施例12〜13では生産性、満管率、編検、布帛ソフト性は良好な結果を得ることができた。本発明の範囲内ではあるが、伸度が189%となった実施例14では、仮撚加工繊維の編検が若干悪化した。また、伸度を75%とした実施例15では、若干の遅延収縮により、仮撚加工繊維の満管率が若干低下し、また、結晶化度が28.5%となり、仮撚加工繊維に若干の染め斑が発生した。伸度が208%となった比較例10では、仮撚加工繊維の編検が悪化した。また、伸度を65%とした比較例11では、遅延収縮により、90日保管後のパッケージ形状が悪化し、仮撚加工繊維の満管率が著しく低下した。また、結晶化度が32.1%となり、編検で出荷不可である欠点を認めた。
【0059】
実施例16〜19、比較例12
紡糸温度と巻取張力を表4のように変化させた以外は実施例2と同様の条件にて部分配向繊維を得た。実施例16〜18については、実施例1と同様に良好な結果となったが、紡糸温度を265℃とした実施例19については、良好ではあるものの、PTTの熱劣化に起因すると思われる生産性と編検の若干の悪化と、ガラス転移点が50.8℃となったことで、遅延収縮し、満管率の若干の低下が認められた。一方、紡糸温度を270℃とした比較例12について、PTTの熱劣化が原因と考えられる生産性と編検の悪化が発生した。また、ガラス転移点が49.2℃となり、満管率の低下が見られ、不十分な結果をなった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【符号の説明】
【0064】
1:口金
2:冷却装置
3:給油装置
4:第1ガイド
5:第1ローラー
6:第2ガイド
7:第2ローラー
8:第3ガイド
9:コンタクトローラー
10:パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートが重量%で10/90〜45/55の比率からなるポリエステルポリマーからなり、以下の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とするポリエステル部分配向繊維
(1)結晶化度:30%以下
(2)伸度:70〜200%
(3)70℃温度収縮率:40〜80%
(4)ガラス転移点:50〜75℃
【請求項2】
請求項1記載のポリエステル部分配向繊維が巻量2kg以上で積層され、パッケージ巻取り後、35℃、60%RHの雰囲気にて90日の保管を経た後に、以下に示す(1)、(2)の要件を満足することを特徴とするチーズ状パッケージ
(1)チーズ状パッケージのサドル:0〜10%
(2)チーズ状パッケージのバルジ:0〜10%
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルポリマーを235〜265℃の温度で紡糸し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却風により冷却固化させ、紡糸速度2000〜3500m/minで引き取り、紡糸したフィラメントが接触するローラー全てを20〜40℃とし、紡糸したフィラメントが接触するガイド全てを55℃以下とし、巻き取ることを特徴とする請求項1記載のポリエステル部分配向繊維の製造方法

【図1】
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【図2】
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