説明

ポリヒドロキシアルカン酸抽出方法

【課題】操作が簡便かつ低コストであり、大量生産に適するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸抽出方法は、微生物に産生させたポリヒドロキシアルカン酸を当該微生物から抽出するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法であって、冷却媒体を用いて前記ポリヒドロキシアルカン酸を産生させた前記微生物を凍結させる凍結工程S1と、凍結させた前記微生物を解凍する解凍工程S2と、解凍した前記微生物を細胞破砕装置で破砕し、前記ポリヒドロキシアルカン酸を含む不溶物を得る破砕工程S3と、得られた前記不溶物を洗浄して前記ポリヒドロキシアルカン酸を抽出する抽出工程S4とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物に産生させたポリヒドロキシアルカン酸を当該微生物から抽出するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なプラスチックは、石油などの化石原料から製造されており、化学的に安定な物質であるため広く使用されている。しかし、化学的に安定な物質であるため、廃棄された場合には土壌中や水中の微生物による生分解を受けにくく、永年に亘って環境中に残存することになる。また、石油などから製造されているため、焼却すると有毒ガスを排出したり、多量の二酸化炭素を排出したりするため、環境保全の観点から好ましくない。
【0003】
このような状況を鑑みて、近年では、微生物等によって比較的容易に生分解される生分解性プラスチックが脚光を浴びている。生分解性プラスチックは、使用時は一般的なプラスチックと同じような機能を有し、使用後は自然界の土壌中や水中に生息する微生物によって低分子化合物に生分解され、最終的には水や二酸化炭素に生分解される。
【0004】
このような生分解性プラスチックの一つにポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate)などの脂肪族ポリエステルがある。ポリヒドロキシアルカン酸の中でもポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate)は、微生物による生分解性がよく、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属、シノリゾビウム(Sinorhizobium)属、アチオロージウム(Athiorhodium)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ノカルジア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、スピリルム(Spirillum)属など、種々の微生物によって比較的容易かつ大量に産生することができるので、今後、多方面で大いに使用されると考えられている。
【0005】
ここで、微生物によって産生されたポリヒドロキシアルカン酸を、当該微生物から抽出する一般的な方法として、クロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出するソックスレー抽出法がある。また、より簡便なポリヒドロキシアルカン酸抽出方法が、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
【0006】
特許文献1には、ポリヒドロキシ酪酸を含有する微生物の懸濁液を高圧ホモジナイザーで処理することによって当該微生物を破砕してポリヒドロキシ酪酸顆粒体を微生物外に漏出せしめ、次いでこの高圧ホモジナイザー処理液からポリヒドロキシ酪酸以外の微生物構成成分を分離し、ポリヒドロキシ酪酸画分を得、得られたポリヒドロキシ酪酸画分を酸素系漂白剤で処理することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、微生物によりポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生成させて、PHAを含有する微生物を得る工程と、PHAを含有する微生物に塩基性成分を添加して、第1PHA画分を分離する工程と、第1PHA画分に次亜塩素酸塩を添加して、第2PHA画分を分離する工程と、を含むPHA精製方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、ポリヒドロキシ有機酸エステル蓄積微生物から、本発明のポリヒドロキシアルカン酸に相当するポリヒドロキシ有機酸エステルを分離・精製する方法であって、微生物懸濁液へ溶菌酵素を添加して細胞壁を溶解する工程ののち、細胞質中に存在する顆粒皮膜で覆われた粒径0.1μm以上のポリヒドロキシ有機酸エステル顆粒について、これを分離回収して集める工程と、しかるのちに蛋白分解酵素処理によって顆粒皮膜を除去する工程とからなるポリヒドロキシ有機酸エステルの分離・精製法が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−177894号公報
【特許文献2】特開2005−348640号公報
【特許文献3】特開平5−336982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ソックスレー抽出法は、例えば、1kgのポリヒドロキシアルカン酸を抽出するのに、最低でも1kgのクロロホルムを必要とするので高コストとなるだけでなく、クロロホルムなどの有機溶媒を大量に用いるので環境保全の観点から大量生産に適さないという問題がある。
特許文献1に記載の技術には、例えば、過酸化水素や過硫酸ナトリウムなどの化学薬品や酵素系漂白剤を用いるため環境保全の観点および大量生産の観点から好ましくないという問題がある。
【0011】
特許文献2に記載の技術には、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった塩基性成分や、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムといった次亜塩素酸塩を用いるため前記と同様に環境保全の観点から大量生産に好ましくないという問題がある。
特許文献3に記載の技術には、高価かつ大量生産品ではないリゾチームなどの溶菌酵素を用いなければならないため大量生産に適さないばかりでなく、高コストになってしまうという問題がある。
また、ソックスレー抽出法および特許文献1、2には、前記したように有機溶媒や各種の化学薬品を使用するために、工業的に大量生産を行うと廃液処理を行わなければならず、操作が煩雑になるという問題がある。
【0012】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、操作が簡便かつ低コストであり、大量生産に適するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)前記課題を解決した本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸抽出方法は、微生物に産生させたポリヒドロキシアルカン酸を当該微生物から抽出するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法であって、冷却媒体を用いて前記ポリヒドロキシアルカン酸を産生させた前記微生物を凍結させる凍結工程と、凍結させた前記微生物を解凍する解凍工程と、解凍した前記微生物を細胞破砕装置で破砕し、前記ポリヒドロキシアルカン酸を含む不溶物を得る破砕工程と、得られた前記不溶物を洗浄して前記ポリヒドロキシアルカン酸を抽出する抽出工程と、を含むことを特徴としている。
【0014】
このように、細胞破砕装置で破砕する前にポリヒドロキシアルカン酸を産生させた微生物を凍結させて解凍することによって微生物を溶菌(死滅)させることができる。そのため、溶菌と、その後に行う細胞破砕装置での破砕によって、微生物やこれに含まれるポリヒドロキシアルカン酸を従来よりも細かく破砕することが可能となる。そして、破砕されて得られたポリヒドロキシアルカン酸を含む不溶物を洗浄することにより、純度の高いポリヒドロキシアルカン酸を得ることができる。
【0015】
(2)本発明においては、前記凍結工程の前に、遠心分離を行って前記微生物を培養した液体培地を除去する液体培地除去工程を含むのが好ましい。
このように凍結工程前に不要な液体培地を予め除去しておくことで、凍結工程における微生物の凍結と、解凍工程における微生物の解凍を短時間で行うことができる。また、細胞破砕装置での破砕を効率的に行うことができるようになる。さらに、細胞破砕装置で微生物やポリヒドロキシアルカン酸を細かく破砕する前に不要な液体培地を除去するので、後に液体培地を除去する際に、液体培地に細かく破砕されたポリヒドロキシアルカン酸が混入して除去されるのを防ぐことができ、ポリヒドロキシアルカン酸の収率の低下をより防ぐことができる。
【0016】
(3)本発明においては、前記解凍工程における解凍が室温で行われるのが好ましい。このようにすれば、凍結させた微生物を室温で放置して解凍するだけであるので操作が簡便である。
【0017】
(4)本発明においては、前記解凍工程後に、解凍した前記微生物を水で懸濁して遠心分離する洗浄工程を行うのが好ましい。このようにすれば、溶菌する際に生じたポリヒドロキシアルカン酸以外の微生物由来の不純物を除くことができる。
【0018】
(5)本発明においては、前記抽出工程における洗浄が、前記不溶物を1回以上遠心分離することにより行われるのが好ましい。このようにすれば、細胞破砕装置で破砕されることによって生じたポリヒドロキシアルカン酸以外の微生物由来の不純物を除くことができる。
【0019】
(6)本発明においては、前記冷却媒体が液体窒素であるのが好ましい。このように、冷却媒体として液体窒素を用いると、急速凍結することが可能であるので、急成長した氷晶によって細胞壁や細胞膜が破壊されやすくなる。そのため、微生物の溶菌を確実に行うことができる。また、液体窒素はコストが安いだけでなく、気化して窒素ガスとなるだけなので環境保全の観点からも好適である。
【0020】
(7)本発明においては、前記細胞破砕装置が高圧ホモジナイザーであるのが好ましい。このように、高圧ホモジナイザーを用いると、確実かつ効率良く微生物を破砕することができるのでポリヒドロキシアルカン酸を高い純度で抽出することができる。
【0021】
(8)本発明においては、前記微生物がラルストニア・ユートロファであるのが好ましい。このように、ラルストニア・ユートロファを用いると、凍結して解凍することで容易に溶菌することができ、高い純度で確実にポリヒドロキシアルカン酸を抽出することができる。
【0022】
(9)そして、本発明においては、前記ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシ酪酸であるのが好ましい。このようにすれば、生分解性プラスチックであるポリヒドロキシ酪酸を確実に抽出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸抽出方法によれば、冷却媒体を用いてポリヒドロキシアルカン酸を産生させた微生物を凍結させて解凍し、破砕した後に洗浄するだけでポリヒドロキシアルカン酸を抽出することができるので、操作が簡便、かつ低コストであり、大量生産に適する。
特に、有機溶媒や化学薬品等を使用しないので環境保全の観点から非常に好適であり、酵素等を使用しないので非常に低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の特徴は、培養した微生物を液体窒素などの冷却媒体を用いて凍結した後に室温で放置することで、微生物を溶菌させることができ、その後に十分な破砕と洗浄を行うことでポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate;以下、単に「PHA」と称する。)を簡便に抽出できる点にある。
【0025】
なお、本発明では、PHAを産生させた微生物を用いてPHAを抽出するものであるが、微生物の取り扱いや微生物からPHAを抽出する際に行う必要な操作について、発明を実施するための最良の形態および実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001)や、F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いることができる。また、当業者であれば本明細書の記載および前記した標準的なプロトコール集などの記載から容易に本発明を再現することができる。
【0026】
以下、図1を参照して本発明に係るPHA抽出方法について詳細に説明する。なお、図1は、本発明に係るPHA抽出方法のフローを示すフローチャートである。
本発明に係るPHA抽出方法は、微生物に産生させたPHAを当該微生物から抽出する方法であって、図1に示すように、凍結工程S1と、解凍工程S2と、破砕工程S3と、抽出工程S4を含んでいる。
【0027】
ここで、本発明のPHA抽出方法で抽出されるPHAには、例えば、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリリンゴ酸などが含まれる。本発明においては、これらの中でもポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate;以下、単に「PHB」と称する。)であるのが好ましい。PHAの中でも工業的に需要の高いPHBを確実に抽出し、得ることができる。PHAは、用いた微生物株が産生するものであればよく、例えば、遺伝子組み換え等の技術を用いてPHAを産生できるように形質転換した微生物株により産生されたものであってもよい。
【0028】
本発明のPHA抽出方法で用いることのできる微生物としては、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属に属する微生物を用いることができ、中でも、工業的に需要の高いPHBを得ることができるので、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)を用いるのが好ましい。かかる微生物を用いると工業的に需要の高いPHBを得ることができる。
なお、本発明で用いることのできるPHAを産生することのできる微生物は前記したものに限定されるものではなく、例えば、シノリゾビウム(Sinorhizobium)属、アチオロージウム(Athiorhodium)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ノカルジア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、スピリルム(Spirillum)属なども用いることができる。さらに、遺伝子組み換え等の技術により形質転換させた微生物を用いることも可能である。
なお、これらの微生物によるPHAの産生は、各種の微生物に適した培養条件・培養方法で培養したり、培養中に必要な操作等を行ったりすることにより適宜に産生させることができる。そのため、PHAを産生させる方法については特に限定されるものではない。
【0029】
図1に戻って説明を続ける。
図1に示す凍結工程S1は、冷却媒体を用いてPHAを産生させた微生物を凍結させる工程である。なお、凍結工程S1では、PHAを産生させた微生物を用いるのであるから、当該凍結工程S1の前に、微生物にPHAを産生させるための培養工程S11があることはいうまでもない。培養工程S11は、前記したように用いる微生物に適した培養条件・培養方法で培養することができる。
【0030】
凍結工程S1で微生物を凍結させる際は、当該微生物を容器に入れ、容器の外表面を冷却媒体が接触するようにして凍結させるとよい。微生物の凍結に用いる冷却媒体は、例えば、凍結速度やコストの観点から液体窒素を用いるのが好適であるがこれに限定されるものではない。例えば、−20〜−80℃程度の冷凍庫内に放置して凍結させてもよい。この場合、−20〜−80℃程度に冷却された空気が冷却媒体となる。
【0031】
凍結工程S1における凍結は、当該微生物を凍結することができればよく、特定の温度や凍結時間に限定されない。微生物の量が多くなればこれを確実に凍結させるために、冷却媒体の温度を低くしたり、凍結時間を長くしたりすることができる。また、液体窒素を用いた場合は液体窒素への浸漬時間を長くすることにより、確実に凍結することができる。凍結の条件は予め試験等を行うことで任意に設定することができる。
【0032】
なお、培養工程S11の後であって、凍結工程S1の前に、微生物を培養した液体培地を除去する液体培地除去工程S12を行うのが好ましい。凍結工程S1による微生物の凍結と、後記する解凍工程S2による微生物の解凍を迅速に行うことができるからである。
液体培地除去工程S12は、例えば、4℃から室温程度で15000回転/分(rpm)、3分間の遠心分離を行い、PHAを産生させた微生物を沈殿させ、得られた上清、すなわち液体培地をデカントで廃棄することで行うことができる。なお、前記した遠心分離は、PHAを産生させた微生物と液体培地を分けて液体培地のみを廃棄することができればよく、前記した条件に限定されるものではない。また、液体培地除去工程S12においては、液体培地を除去することができればよく、濾別するなどの他の手段によって行うこともできる。
【0033】
次に行う解凍工程S2は、凍結工程S1で凍結させた微生物を解凍する工程である。
解凍工程S2における微生物の解凍は、例えば、室温で放置することにより行うことができる。また、例えば、解凍時間をより短くするために30〜40℃程度に加温して解凍することもできる。このように、凍結させた微生物を解凍すると微生物は死滅して溶菌する。そのため、後記する破砕工程S3によって微生物に内包されているPHAを効率良く当該微生物外に放出させることができる。なお、解凍工程S2における解凍温度が前記した温度よりも高いとPHAが低分子化するおそれがあるため、あまり温度が高くならないようにするのが好ましい。
また、解凍工程S2による微生物の溶菌を確実に行わせるために、微生物を解凍した後、約1時間程度さらに室温などで放置させておくとよい。なお、この放置時間は微生物の溶菌を行えればよく、凍結した微生物の菌体量等によって適宜変更することができる。
【0034】
なお、この解凍工程S2後に解凍した微生物を水で懸濁して遠心分離する洗浄工程S21を行うのが好ましい。
かかる洗浄工程S21は、例えば、菌体量の1〜5倍量程度、具体的には2倍量程度の蒸留水を加えて懸濁させ、4℃から室温程度で15000rpm、3分間の遠心分離を1回以上行うのがよい。なお、前記した蒸留水は、微生物を懸濁することができるだけの量を加えればよく、懸濁させる微生物の種類や菌体量によって適宜変更することができる。遠心分離による洗浄工程S21の実施回数が多くなるほど得られるPHAの純度が高くなる可能性があるものの、収率が低くなるおそれがある。したがって、遠心分離による洗浄工程S21は1〜5回程度、具体的には3回程度行うのがよい。
【0035】
次に行う破砕工程S3は、解凍工程S2で解凍した微生物を細胞破砕装置で破砕し、PHAを含む不溶物を得る工程である。なお、不溶物とは、破砕工程S3により微生物を破砕した際に懸濁液に溶解しないものをいい、現段階では微生物を破砕しただけであり未洗浄であるためこの不溶物に前記したPHAが含まれている。
破砕工程S3で用いる細胞破砕装置は、前記した微生物の細胞壁や細胞膜などを破壊し、当該微生物に内包されているPHAを微生物外に放出させることのできるものであればよく、例えば、微生物を高圧・高速で小さな固定穴に通すことで微生物を剪断して破砕する高圧ホモジナイザーを好適に用いることができる。かかる高圧ホモジナイザーを用いると、微生物の破砕処理が早く、大量処理ができ、かつ安価で行うことができる。例えば、高圧ホモジナイザーを用いる場合は、添付の説明書に従って、解凍した微生物を水に懸濁或いは濃縮等して適切な濃度の懸濁液とした上で、例えば、破砕圧力約276MPa(40kpsi)程度で5分間という条件の破砕を2回繰り返すことにより行うことができる。
なお、本発明で用いることのできる細胞破砕装置はこれに限定されるものではなく、超音波によって微生物を破砕する超音波細胞破砕装置、ビーズによって微生物を破砕するビーズ式細胞破砕装置なども好適に用いることができる。
【0036】
次に行う抽出工程S4は、破砕工程S3で得られたPHAを含む不溶物を洗浄してPHAを抽出する工程である。
抽出工程S4における洗浄は、得られた不溶物を前記と同様に、4℃から室温程度で15000rpm、3分間の遠心分離を1回以上することにより行われるのが好ましい。このようにして洗浄されたPHAの純度が低い場合は、必要に応じて前記した遠心分離によって得られたPHAに再度蒸留水を加えて懸濁し、遠心分離する洗浄を複数回繰り返してもよい。なお、遠心分離による洗浄の実施回数が多くなるほど得られるPHAの純度が高くなる可能性があるものの、収量が低くなるおそれがある。したがって、抽出工程S4における遠心分離による洗浄は1〜3回程度行うのがよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
(1)ラルストニア・ユートロファの培養
PHBを産生する微生物としてラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)を用いた。ラルストニア・ユートロファはテクノスルガ社から購入した。
ラルストニア・ユートロファを培養する液体培地は、5mLでの前々培養および100mLでの前培養はNB培地(肉エキス1%、バクトペプトン1%、NaCl0.5%、pH7.0)を用いた。また、ファーメンターでの本培養は下記表1に示す組成のTESを添加した下記表2に示す組成のMSM培地を用いた。MSM培地は塩酸水溶液や水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7に調整した。かかるNB培地およびMSM培地は、120℃、20分間の条件でオートクレーブを行ったものをラルストニア・ユートロファの培養に使用した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
ラルストニア・ユートロファを1Lあたり8gのNutrient Browth試薬を溶解して作製したNB培地にて5mLでの前々培養を行い、100mLでの前培養を行った。前々培養および前培養はいずれも34℃、24時間という条件で120rpmの旋回振とうを行いつつ培養した。
【0041】
得られた100mLの前培養液3つをファーメンター(MBS社製CULLAN CLN-10000)に投入し、ファーメンターによる本培養を行った。ファーメンターでの本培養は、前記したMSM培地を1.7L用い、前培養液300mLと合わせて2.0Lとなるようにした。ファーメンターでの本培養の条件は、32℃、48時間とした。撹拌速度を200〜350rpmの範囲で調整して溶存酸素がMSM培地中に十分にいきわたるようにした。
【0042】
ファーメンターでの本培養は流加培養を基本とし、主栄養源の炭素源はMSM培地中の濃度が5%程度を維持するように40%Na-Gluconate水溶液を流加し、窒素源はMSM培地中の濃度が0.05%程度を維持するように20%NHCl水溶液を流加した。常時pH7程度を維持するように4N塩酸水溶液と4NNaOH水溶液を適宜添加してpHを調整した。
【0043】
(2)ラルストニア・ユートロファの凍結、解凍、破砕とPHBの抽出
ファーメンターでの本培養終了後、本培養液を500mL分取し、4℃で15000rpm、3分間の遠心分離を行い、PHBを産生したラルストニア・ユートロファの湿菌体を得た。
その後、湿菌体を入れた遠心チューブを液体窒素中に1分間浸漬させて湿菌体を凍結させた。
液体窒素への浸漬後、凍結した湿菌体が入った遠心チューブを室温で60分間放置して湿菌体を解凍した。解凍とともに湿菌体は溶菌し、粘性の高い湿菌体となった。
【0044】
そして、室温で十分に放置した湿菌体を2倍量の蒸留水で懸濁して、4℃で15000rpm、3分間の遠心分離を3回繰り返して行い、湿菌体の洗浄を行った。
その後、湿菌体が十分に懸濁する量の蒸留水を加え、コンスタントシステム社製せん断式破砕機で破砕圧力276MPa(40kpsi)、5分間の破砕を2回行った。
破砕して得られたPHBを含む不溶物を蒸留水で懸濁して、4℃で15000rpm、3分間の遠心分離を3回繰り返して行い、PHBを抽出した(試料1)。
【0045】
なお、各工程のPHBの純度を測定して比較するため、本培養終了後の遠心分離を行った湿菌体(試料2)と、凍結後解凍して溶菌した湿菌体(試料3)とを適量分取しておいた。また、本培養終了後の遠心分離を行った後、湿菌体の凍結および解凍を行わないで直ぐにコンスタントシステム社製せん断式破砕機で前記と同様の条件で破砕処理のみを行ってPHBを含む不溶物(試料4)を得ておいた。
【0046】
(3)PHBの純度の測定
得られた試料1〜4のPHBをガスクロマトグラフィーにかけてPHBの純度を、G. Braunegg, B.Sonnleitner, R. M. Lafferty, Europian Journal of Applied Microbiology and Biotechnology, 6, 29-37 (1978)に準じて、以下のようにして測定した。まず、予め調製した1mLのメチルエステル反応液(ナカライテスク社製のメタノール97mL、濃硫酸3mL、安息香酸0.29g(いずれもナカライテスク社製))と、1mLのクロロホルム(ナカライテスク社製)と、正確に秤量した5mgの試料1〜4のPHBとを容器に入れて密封し、100℃で4時間反応させた。水冷後、蒸留水を1mL入れて激しく撹拌した。その後、静置して水層と有機溶剤層とを分離した後、有機溶剤層をガスクロマトグラフィーで分析した。なお、ガスクロマトグラフィーで使用したカラムは、Bio-Rad社製Aminex HPX-87H Ion Exclusion Column 300mm x 7.8mmを用いた。ガスクロマトグラフィーの条件は、インジェクション温度250℃、カラム温度160℃、FID(水素、air)、キャリアーガスはヘリウムを用い、サンプル量は3μL程度であった。
【0047】
測定されたPHBの純度は、試料1が92%、試料2が62%、試料3が68%、試料4が78%であり、試料1のPHBの純度は、他のものと比べて14〜30%も高かった。
試料1は、PHBを抽出する操作が湿菌体を凍結し、解凍し、破砕し、洗浄して抽出するだけという、非常に簡便なものであったにも関わらず、非常に純度の高いPHBを得ることができた。また、有機溶媒や化学薬品等を使用しないので環境保全の観点から非常に好適であり、酵素等を使用しないので非常に低コストであり、大量生産に適することも分かった。
【0048】
以上、本発明のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法について、発明を実施するための最良の形態および実施例を示して具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に何ら限定されるものではなく、その権利範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、当業者であれば、本明細書の発明を実施するための最良の形態および実施例の記載に基づいて容易に変更、改変して本発明のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法と均等な方法を得ることができ、そのようなものも本発明のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸抽出方法のフローを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
S1 凍結工程
S11 培養工程
S12 液体培地除去工程
S2 解凍工程
S21 洗浄工程
S3 破砕工程
S4 抽出工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に産生させたポリヒドロキシアルカン酸を当該微生物から抽出するポリヒドロキシアルカン酸抽出方法であって、
冷却媒体を用いて前記ポリヒドロキシアルカン酸を産生させた前記微生物を凍結させる凍結工程と、
凍結させた前記微生物を解凍する解凍工程と、
解凍した前記微生物を細胞破砕装置で破砕し、前記ポリヒドロキシアルカン酸を含む不溶物を得る破砕工程と、
得られた前記不溶物を洗浄して前記ポリヒドロキシアルカン酸を抽出する抽出工程と、
を含むことを特徴とするポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項2】
前記凍結工程の前に、遠心分離を行って前記微生物を培養した液体培地を除去する液体培地除去工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項3】
前記解凍工程における解凍が室温で行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項4】
前記解凍工程後に、解凍した前記微生物を水で懸濁して遠心分離する洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項5】
前記抽出工程における洗浄が、前記不溶物を1回以上遠心分離することにより行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項6】
前記冷却媒体が液体窒素であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項7】
前記細胞破砕装置が高圧ホモジナイザーであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項8】
前記微生物がラルストニア・ユートロファであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシ酪酸であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸抽出方法。

【図1】
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