説明

ポリビニルアセタール多孔質体

【課題】 水分の保持力が大きく、乾燥による収縮率が小さいポリビニルアセタール多孔質体を提供すること。
【解決手段】
ケン化度が60モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)と、ケン化度が60モル%未満で、ケン化度x(モル%)と30重量%水溶液の曇点y(℃)が下記(1)式を満足する部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合物をアセタール化してなる。
lny>0.042x+1.0・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール多孔質体に係り、さらに詳しくは保水性に優れ、乾燥時の収縮が小さいポリビニルアセタール多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)を水溶液とし、これにでんぷん等の気孔形成材を加え、アルデヒド化合物/酸によって該PVAをアセタール化した後、気孔形成材を除去して得られるポリビニルアセタール多孔質体は、湿潤時の弾力性、吸水性、機械強度、耐薬品性等に優れているため、吸水材、給水材、洗浄材、拭浄材、ろ過材、研磨材、微生物担体等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、通常のPVAを用いて得られるポリビニルアセタール多孔質体には、絶乾状態では極めて剛直で、さらに絶乾状態からの吸水速度が遅いため湿潤柔軟化に長時間を要し、即座に使用できないという問題点がある。この問題点を解決するために、(1)界面活性剤、ポリエチレングリコール等の親水性物質を、製造時の反応液中、あるいは得られたポリビニルアセタール多孔質体に添加、内在させる、(2)親水性官能基を有するモノマーを共重合した変性PVAを使用する、等によって、絶乾状態での吸水速度を向上させる試みがなされているが、(1)の方法の場合、繰り返し水洗によって該親水性物質が流出してしまうため効果が持続せず、(2)の方法でも十分な効果が得られていないのが現状である。
【0004】
そのため実際には、一旦湿潤状態にしたポリビニルアセタール多孔質体をポリマーフィルム製チャック付袋などに保管して湿潤状態を保持することで再使用時に吸水柔軟化させる手間を省いているケースが多いが、袋の密閉性や保管状態によっては完全に乾燥を防ぐことは困難である。従って、少しでも長期間湿潤状態を保持するためには、ポリビニルアセタール多孔質体そのものも、より高い水分保持力をもつものが必要であり、かかる課題を解決するために、本出願人もオキシアルキレン基を有する変性PVAをホルマール化したポリビニルアセタール多孔質体を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭60−101126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が上記ポリビニルアセタール多孔質を詳細に検討した結果、通常のPVAによるものと比較してかなり水分の保持力は改善されているものの、高温や低湿度などのより過酷な条件下における保水性については十分とは言えず、まだまだ改良の余地があることが判明した。
また、ポリビニルアセタール多孔質体は湿潤時には膨潤し、乾燥すると収縮する特性をもつが、その差が大きいと変形やそれにともなう薄肉部分の破断、支持体に接着して使用される場合には接着部分の剥離などが起きる可能性が大きく、その課題に対しても上記特許文献に記載のポリビニルアセタール多孔質体では不充分であることが判明した。
すなわち、湿潤状態で保管した際にその乾燥速度が小さく、長期間湿潤状態を保つことで再使用時に即座に使用でき、さらには乾燥による収縮率が小さいポリビニルアセタール多孔質体が求められるところである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ケン化度が60モル%以上のPVA系樹脂(A)と、ケン化度が60モル%未満の部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合物をアセタール化物して得られるポリビニルアセタール多孔質体が上記目的に合致することを見出し、本発明を完成した。また、本発明においては、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)が、ケン化度x(モル%)と30重量%水溶液の曇点y(℃)が下記(1)式を満足する部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)であることが特に好ましい。
lny>0.042x+1.0・・・(1)
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリビニルアセタール多孔質体は本来の特性である湿潤時の吸水性、柔軟性、強度に加え、さらに水分の保持力が大きく、長期間その柔軟性を保持するため再使用時に即座に使用でき、さらには、乾燥した場合の収縮率が小さく、支持体に接着させて使用する場合も剥離などが起こりくにいため、吸水材、給水材、洗浄材、拭浄材、ろ過材、研磨材などに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いるPVA系樹脂(A)について、以下順に詳しく説明する。
【0009】
本発明に用いられるPVA系樹脂(A)はケン化度が60モル%以上であれば特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができるものである。すなわち、ビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化してえられるものである。
【0010】
かかるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸等が単独又は併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0011】
又、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)においては、その他の一般の単量体を水溶性を損なわない範囲で少量存在せしめて重合を行ってもよく、これらの単量体としては、 例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α―オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン、(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン等が挙げられる。
【0012】
かかるPVA系樹脂(A)のケン化度は60モル%以上(更には70モル%以上、特に80モル%以上)であることが好ましく、かかるケン化度が60モル%未満では、充分な保水性が得られなかったり、乾燥時の収縮が大きかったりするため好ましくない。
【0013】
さらに、該PVA系樹脂(A)のJIS K6726に準拠して測定される平均重合度は特に限定されないが、200〜4000(更には300〜3000、特には500〜2500)であることが好ましく、かかる平均重合度が200未満では得られるポリビニルアセタール多孔質体の強度が低下したり、湿潤時にやわらかくなりすぎて変形回復性がなくなったり、逆に4000を越えると反応液の粘度が高くなりすぎ、型に注型する際に型内に完全に液が行き渡らない場合があり好ましくない。
【0014】
つぎに、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)について説明する。
【0015】
本発明で用いられる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)は、ケン化度が60モル%未満であり、さらにはケン化度x(モル%)と30重量%水溶液の曇点y(℃)が、下記(1)式を満足するものが好ましい。
lny>0.042x+1.0・・・(1)
また、ケン化度として好ましい範囲は20モル%以上60モル%未満、更に好ましくは30モル%以上60モル%未満であり、ケン化度x(モル%)と30重量%水溶液の曇点y(℃)が下記(1’)式を満足することが好ましい。
lny>0.042x+1.7・・・(1’)
ケン化度が60モル%以上であると、得られるポリビニルアセタール多孔質体の水分保持力が不十分となったり、乾燥収縮率が大きくなるため不適である。
【0016】
上記(1)または(1’)式をコントロールする方法としては、部分ケン化ビニルエステル系樹脂の分子中にバルキーな親水性基を導入し、ケン化度と重合度とのバランスを工夫することによって達成し得る。バルキーな親水性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基などのアニオン性基、四級アンモニウム塩基などのカチオン性基を含有する長鎖アルキル基や、アルキレンオキサイド基などが挙げられるが、下記(2)式で示される官能基を含有するものが好ましい。
【化1】

[式中R,R,R,Rは水素原子又はアルキル基、X,Xは酸素原子又はイオウ原子、nは正の整数、mは0又は正の整数を表す。]
【0017】
n、mの範囲として好ましくは5≦n+m≦50で、更には8≦n+m≦20である。
n+m<5では得られたポリビニルアセタール多孔質体の水分保持力が不充分となり、n+m>50では湿潤時の変形回復性が乏しくなるため好ましくない。
【0018】
上記(2)式で示される官能基を含有する部分ケン化ビニルエステル系樹脂は任意の方法で製造できる。例えば(I)ポリオキシアルキレンの存在下にビニルエステルを重合した後にケン化する方法、(II)上記(2)式で示される官能基を有する不飽和単量体をコモノマーとしてビニルエステル系化合物と共重合した後にケン化する方法、(III)部分ケン化ビニルエステル系樹脂に酸化アルキレンを後反応させる方法、(IV)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の苛性アルカリ又は酸等を触媒として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等を付加重合させ〔あるいはブチレンオキシド量20重量%以下(好ましくは10重量%以下)のエチレンオキシド、ブチレンオキシド、エチレンオキシドをブロックで付加重合させ〕た後にケン化する方法、(V)チオール含有アルキレングリコール誘導体を分子末端に導入したビニルエステル系化合物をケン化する方法で、具体的にはチオール含有のアルキレングリコール誘導体を、ビニルエステル系化合物の重合系に存在させ、重合系へのチオール含有アルキレングリコール化合物の添加は、重合開始前あるいは重合時適時添加させる。上記の(I)〜(V)の方法のうち(II)の方法が樹脂の製造面等から実用的である。
以下(II)の方法について具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0019】
まず上記(2)式で示される官能基について説明する。
、Xがいずれも酸素原子の場合、上記(2)式で示される官能基は(3)式で示されるオキシアルキレン基となる。
【化2】

(但し、R、R、R、Rは水素又はアルキル基、nは正の整数、mは0又は正の整数を表す。)
【0020】
上記の(2)式あるいは(3)式においては、n+mの数が5〜50程度、好ましくは8〜20のオキシアルキレン基が実用的であり、より具体的には(ポリ)オキシエチレン基、(ポリ)オキシプロピレン基、(ポリ)オキシブチレン基等が効果的であるが、好ましくは(ポリ)オキシエチレン基である。
【0021】
オキシアルキレン基を有する不飽和単量体としては次の様なものが例示される。但し、本発明ではこれらのみに限定されるものではない。
[(メタ)アクリル酸エステル型]
下記の(4)式で示されるもので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【化3】

(但し、Yは水素又はメチル基、Aはフェニレン基、置換フェニレン基のいずれか、lは0又は1以上の整数、R、R、R、Rは水素又はアルキル基、nは正数、mは0又は正数でかつn+mは5〜50、好ましくは8〜20の正数を示す。)
【0022】
[(メタ)アクリル酸アミド型]
下記の(5)式で示されるもので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル等が挙げられる。
【化4】

(但し、Yは水素又はメチル基又は上記の化2又は化3を表し、A、Y、R、R、R、R、l、n、m、n+mは前記と同様。)
【0023】
[(メタ)アリルアルコール型]
下記の(6)式で示されるもので、具体的にはポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
【化5】

(但しY、R、R、R、R、n、m、n+mは前記と同様。)
【0024】
[ビニルエーテル型]
下記の(7)式で示されるもので、具体的にはポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等が挙げられる。
【化6】

(但し、A、R、R、R、R、l、n、m、n+mは前記と同様。)
これらのオキシアルキレン基を含有する単量体の中でも(6)式で示される(メタ)アリルアルコール型のものが好適に使用される。
【0025】
本発明では、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)が上記(1)式を満足する官能基を有するのが好ましいが、更にイオン性基も含有するのが好ましく、該イオン性基の好ましい含有量は0.05〜1.0モル%であり、更には0.1〜1.0モル%である。イオン性基を含有させるには、上記(2)式で示される官能基を有する不飽和単量体とともにイオン性基を有する単量体をコモノマーとしてビニルエステル系化合物を共重合した後ケン化する方法が主に用いられ、該イオン性基を有する単量体としては特に限定されず、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、アミノ基含有単量体、アンモニウム基含有単量体等が用いられる。
【0026】
カルボキシル基含有単量体としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、又はエチレン性不飽和ジカルボンモノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)又はエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)又はエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、あるいは(メタ)アクリル酸等の単量体およびその塩が挙げられ、その中でもエチレン性不飽和カルボン酸、又はエチレン性不飽和カルボン酸モノエステルおよびその塩が好適に使用される。
【0027】
上記の単量体と共重合するビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが、工業的には酢酸ビニルが好適である。
【0028】
共重合するに当たっては特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、普通メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、乳化重合、懸濁重合等も可能である。かかる溶液重合において単量体の仕込み方法としては、ビニルエステルの重合を開始し、単量体を重合期間中に連続的に又は分割的に添加する方法、単量体を重合初期に一括仕込み、又重合初期よりビニルエステルと単量体を同時に仕込む方法等任意の手段を用いて良い。連鎖移動剤を共存させ重合する場合は所定の変性量になるように重合系のビニルエステルの反応率に応じて連鎖移動剤を添加することにより、反応系の連鎖移動量がビニルエステルに対してあまり変化しないようにすることが好ましい。共重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や低温活性触媒を用いて行われる。又反応温度は30℃〜沸点程度の範囲から選択される。
ビニルエステル成分は、それを更にケン化してビニルアルコール成分に変えられ、このときのケン化度は60モル%以下であることが必要で、好ましくは20〜60モル%、特に好ましくは30〜60モル%である。
【0029】
ケン化に当たっては共重合体をアルコール、ベンゼン、酢酸メチル等に溶解しアルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は20〜50重量%の範囲から選ばれる。
ケン化触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることが必要である。かかる触媒の使用量はモノマー単位のビニルエステル1モルに対して1〜100ミリモル当量、好ましくは1〜50ミリモル、更に好ましくは1〜30ミルモルである。
また、硫酸、塩酸等の酸触媒を用いてケン化を行うことも可能である。
【0030】
しかして、本発明に用いる上記(2)式で示される官能基を有する部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)が得られるわけであるが、本発明で用いる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)中の上記(2)式で示される官能基の含有量は、0.5〜5.0モル%であることが好ましく、更に好ましくは1.0〜4.0モル%、特に好ましくは1.0〜3.0モル%である。該含有量が0.5モル%未満では得られたポリビニルアセタール多孔質体の水分保持力が十分ではなく、乾燥収縮率も大きくなり、また5.0モル%を超えると、変形回復性が乏しくなるため好ましくない。
【0031】
また、該部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の重合度は、完全ケン化物とした場合の4重量%水溶液の粘度(20℃)が0.5〜10mPa・sであることが好ましく、更に好ましくは1.0〜5.0mPa・s、特に好ましくは1.5〜4.0mPa・sである。
【0032】
本発明におけるPVA系樹脂(A)と部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合割合は特に制限されないが、(A/B)が99.9/0.1〜50/50(重量比)であることが好ましく、更には99.5/0.5〜60/40、特には99/1〜70/30であることが好ましい。かかる混合割合(A/B)が50/50未満、あるいは99.9/0.1を超えると充分な優れた保水性が得られなかったり、乾燥時の収縮が大きかったりする場合があるため好ましくない。
【0033】
本発明におけるポリビニルアセタール多孔質体は、通常、気孔形成材の存在下で、PVA系樹脂(A)と部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合物を、酸触媒によりアセタール化して得られる。
【0034】
気孔形成材としては、米、麦、トウモロコシ、馬鈴薯などから得られるでんぷん、各種の加工でんぷん、デキストリン、界面活性剤、パルプ粉、無機塩、有機系発泡剤、無機系発泡剤などが挙げられるが、でんぷんが好ましく用いられる。これらの気孔形成材の種類や量によって得られる多孔質体の湿潤時の弾性や強度、気孔率が異なるが、でんぷんを用いた場合にはPVA系樹脂(A)および部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の総量100重量部に対して10〜100重量部、更には20〜80重量部、特には30〜70重両部であることが好ましく、かかるでんぷんの量が10重量部未満では、得られたポリビニルアセタール多孔質体の気孔率が小さくなるため吸水量が乏しくなり、逆に100重量部を超えると、気孔率が大きくなりすぎるため湿潤時の硬度や弾性が不足したり、形状保持が困難になる場合があり、好ましくない。
【0035】
アルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等の脂肪族モノアルデヒド類、グリオキザール、グルタルジアルデヒド等の脂肪族ジアルデヒド類、ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒド類等を挙げることができるが、通常はホルムアルデヒドが用いられる。
アルデヒド化合物の種類や量を変えることで多孔質体の湿潤時の弾性、強度などを変えることが可能である。その使用量は、アルデヒド化合物の種類によって異なるが、ホルムアルデヒドの場合は、好ましくはPVA系樹脂(A)と部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の総量100重量部に対して10〜100重量部、更には20〜90重量部、特には30〜80重量部であることが好ましく、かかるホルムアルデヒドの量が10重量部未満ではアセタール化反応に長時間を要したり、得られたポリビニルアセタール多孔質体の湿潤時の強度が不足する場合があり、逆に100重量部を超えると未反応のホルムアルデヒドが多量に残存する場合があるため好ましくない。
【0036】
酸としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸、燐酸などの無機酸、酢酸、トリクロロ酢酸、マレイン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸を挙げることができるが、通常は硫酸が用いられる。かかる酸の使用量は、酸の種類によって異なるが、硫酸の場合は、好ましくはPVA系樹脂(A)と部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の総量100重量部に対して30〜200重量部、更には50〜180重量部、特には70〜150重量部であることが好ましく、かかる酸の量が30重量部未満ではアセタール化に長時間を要し、逆に200モル%を超えると、急速にアセタール化反応が進むため、反応液を調整した後、型に注型する途中で増粘したり、均一にアセタール化されなかったりする場合があり、好ましくない。
【0037】
ポリビニルアセタール多孔質体のアセタール化度は、PVA、アルデヒドの種類や量、所望するポリビニルアセタール多孔質体の硬度や弾性率によって異なるが、30〜85モル%(更には35〜80モル%、特には40〜75モル%)であることが好ましく、かかるアセタール化度が30モル%より少ないと得られたポリビニルアセタール多孔質体の湿潤時の強度や弾性率が不足することがあり、逆に85モル%を越えると湿潤時の柔軟性が不足することがあるため好ましくない。
【0038】
ポリビニルアセタール多孔質体の製造方法としては、公知の方法を使用することができる。通常は、PVA系樹脂(A)および部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を含む5〜15重量%程度の水溶液を調整し、そこへ、気孔形成材であるでんぷんの水分散液を投入し、更に硫酸とホルムアルデヒドの水溶液を加えた後、十分に攪拌混合し均一スラリー状原液とする。この原液を所定の型枠中に所定量注型し、該型枠を恒温器あるいは水浴中に静置し、30〜80℃で5〜24時間反応させ、反応修了後、水あるいは温水にて水洗して、未反応のアルデヒド類、酸類、及びでんぷん類を除去することで、ポリビニルアセタール多孔質体を得ることができる。
【0039】
また、該ポリビニルアセタール多孔質体の製造時に、他の物質を添加混合することも可能である。これらの物質としては、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、ケブラー、ポリエステル、ナイロンなどの有機合成繊維、綿、麻、毛等の天然繊維、クレー、タルク、シリカ、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、食塩、硫酸ナトリウムなどの無機塩などが挙げられる。また、網目体、織布あるいは不織布等の支持体上で該ポリビニルアセタール多孔質体を形成させれば、複合構造の多孔質体を得ることができる。
【0040】
かくして得られたポリビニルアセタール多孔質体は、水分の保持力が大きく、長期間その柔軟性を保持するため再使用時に即座に使用でき、さらには、乾燥した場合の収縮率が小さく、支持体に接着させて使用する場合も剥離などが起こりくにいため、吸水材、給水材、洗浄材、拭浄材、ろ過材、研磨材などに好適である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0042】
実施例1
ケン化度98.1モル%、平均重合度1750のPVA系樹脂(A)81部と、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)として、ポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット53モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)9部を含む水溶液750部を調整し、この水溶液に馬鈴薯でんぷん45部を含む水分散液300部を加え、60℃で30分間攪拌混合して均一な水分散液とした。該分散液に30%硫酸300部と30%ホルムアルデヒド水溶液150部とを加えて均一に混合した後、ガラス型に流し込み、60℃の恒温水槽に浸漬し18時間後、反応生成物を取り出し、水洗してでんぷんおよび未反応物を除去し、ポリビニルアセタール多孔質体を得た。なお、該部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは45℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln45=3.81>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。また、得られたポリビニルアセタール多孔質体を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
〔水分保持率〕
ポリビニルアセタール多孔質体を直径43mm、厚さ5mmの円盤状に裁断し、測定用の試料とする。試料を真空乾燥器中、40℃で12時間乾燥させて、絶乾重量a(g)を求める。この試料に絶乾重量の2〜3倍の水を吸収させ、その重量b(g)を測定した後、高温・低湿度条件として40℃、30%RHに調整した恒温恒湿器中に静置、12時間後に取り出し、その重量c(g)を測定する。水分保持率を下式より求める。
水分保持率(%)={(c−a)/(b−a)}×100
【0044】
〔乾燥収縮率〕
同様の試料を用い、絶乾時の直径d(mm)および湿潤時の直径e(mm)を求め、下式より乾燥収縮率を求める。
乾燥収縮率(%)={(e−d)/e}×100
【0045】
実施例2
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット53モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が1mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは43℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln43=3.76>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0046】
実施例3
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット53モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が5mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは47℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln47=3.85>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。また、
【0047】
実施例4
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット43モル%、ビニルアルコールユニット55モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは55モル%で、30重量%水溶液の曇点yは65℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln65=4.17>0.042×55+1.0=3.31となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0048】
実施例5
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=8)ユニット3モル%、酢酸ビニルユニット52モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が5mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは47℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln47=3.85>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0049】
実施例6
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンアクリル酸アミド(n=30)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット53モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは49℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln49=3.89>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0050】
実施例7
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンビニルエーテル(n=50)ユニット1モル%、酢酸ビニルユニット49モル%、ビニルアルコールユニット50モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは50モル%で、30重量%水溶液の曇点yは52℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln52=3.95>0.042×50+1.0=3.10となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0051】
実施例8
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、マレイン酸モノメチルユニット0.6モル%、酢酸ビニルユニット52.4モル%、ビニルアルコールユニット45モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは45モル%で、30重量%水溶液の曇点yは47℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln47=3.85>0.042×45+1.0=2.89となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0052】
実施例9
実施例1においてPVA(A)としてケン化度96.0モル%、平均重合度1700のPVAを用いた以外は同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
実施例10
実施例1においてPVA(A)としてケン化度88.2モル%、平均重合度1400のPVAを用いた以外は同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例11
実施例1において、PVA(A)を89.1部、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B−1)を0.9部とした以外は同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例12
実施例1において、PVA(A)を63部、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を27部とした以外は同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
実施例1においてPVA(A)を90部とし、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用いなかった以外は同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
実施例1において部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)としてポリオキシエチレンモノアリルエーテル(n=15)ユニット2モル%、酢酸ビニルユニット33モル%、ビニルアルコールユニット65モル%からなり4%水溶液粘度が3mPa・sの部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)を用い、同様にポリビニルアセタール多孔質体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、かかる部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)のケン化度xは65モル%で、30重量%水溶液の曇点yは85℃であり、これらを本文中の(1)式に代入すると、ln85=4.44>0.042×65+1.0=3.73となり、かかる(1)式を満足するものであった。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリビニルアセタール多孔質体は水分の保持力が大きく、長期間その柔軟性を保持するため再使用時に即座に使用でき、さらには、乾燥した場合の収縮率が小さく、支持体に接着させて使用する場合も剥離などが起こりくにいため、吸水材、給水材、洗浄材、拭浄材、ろ過材、研磨材などに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が60モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂(A)と、ケン化度が60モル%未満の部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合物をアセタール化して得られることを特徴とするポリビニルアセタール多孔質体。
【請求項2】
ケン化度が60モル%未満の部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)が、ケン化度x(モル%)と30重量%水溶液の曇点y(℃)が下記(1)式を満足する部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアセタール多孔質体。
lny>0.042x+1.0・・・(1)
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)、部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)、および気孔形成材を含有する反応液をアセタール化した後、気孔形成材を除去して得られることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアセタール多孔質体。
【請求項4】
部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)が、下記(2)式で示される官能基を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリビニルアセタール多孔質体。
【化1】

[式中R,R,R,Rは水素原子又はアルキル基、X,Xは酸素原子又はイオウ原子、nは正の整数、mは0又は正の整数を表す。]
【請求項5】
部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)中に上記(2)式で示される官能基を0.5〜5.0モル%含有することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のポリビニルアセタール多孔質体。
【請求項6】
部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)にイオン性基を含有することを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のポリビニルアセタール多孔質体。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)と部分ケン化ビニルエステル系樹脂(B)の混合割合(A/B)が99.9/0.1〜50/50(重量比)であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のポリビニルアセタール多孔質体。

【公開番号】特開2006−28436(P2006−28436A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212494(P2004−212494)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】