説明

ポリビニルアルコール系位相差フィルム

【課題】耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】面内位相差値が70〜400nmであるPVA系位相差フィルムであって、スキン層Aおよびスキン層Bの間にコア層Cが存在する3層構造を有すると共に下記の式(I)〜(IV)を満たすPVA系位相差フィルム。
(I) (d+d)/(d+d+d)≦0.3
(II) Δn≦6.0×10−2
(III) Δn≦6.0×10−2
(IV) Δn≦3.0×10−2
〔上記式中、d、dおよびdはそれぞれスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み(μm)を表し、Δnはスキン層Aの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはスキン層Bの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れるポリビニルアルコール系位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が広く用いられている。液晶表示装置の動作方式として、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Alignment)モード、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensated Bend)モード等、主に液晶分子の配向形態によって定義される様々な方式が提案されている。これらは何れも液晶分子のもつ電気光学特性を利用して表示を行うものであるが、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高める目的で、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。中でも、液晶が本来有する複屈折性に起因する着色を防ぐために位相差フィルムを用いることが知られている。このような液晶表示装置は、多くの場合、液晶分子を封入した電極を有する液晶セルに位相差フィルムおよび偏光板が貼り合わされて構成される。
【0003】
位相差フィルムは複屈折性を有するフィルムであり、位相差フィルムを透過した光では、振動方向が互いに直交する光成分に対する屈折率の差により、これらの光成分の電場ベクトルに位相差が生じる。該位相差フィルムとしては、ポリビニルアルコール〔以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記する場合がある〕系重合体フィルムを延伸してなるものなどが用いられており、実用上、該フィルムの両面に三酢酸セルロースフィルム等の保護フィルムが積層されて、位相差板として用いられることが多い。
【0004】
しかしながら、最近では各種液晶ディスプレイも多様化して、屋外や車内での利用も多く、熱により位相差フィルムの位相差が変化しディスプレイの品質を低下させる恐れがあるため、耐熱性に優れた位相差フィルムが要求されるようになってきた。
【0005】
PVA系位相差フィルムの耐久性を向上させる方法としては、PVA系重合体フィルムを一軸延伸した後に150〜200℃程度の高温で熱処理する方法が知られている(例えば、特許文献1および2等を参照)。また、ホウ素化合物やチタン化合物による架橋処理を行う方法も知られている(例えば、特許文献3および4等を参照)。しかしながら、高温で熱処理を行うと位相差フィルムが黄変しやすく、ディスプレイ用途に用いることが困難になる。また、架橋処理を行うだけでは十分な耐熱性を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−194519号公報
【特許文献2】特開平10−325906号公報
【特許文献3】特開平4−173844号公報
【特許文献4】特開2007−3680号公報
【特許文献5】特開2005−324355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性に優れるPVA系位相差フィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所望の面内位相差値(レタデーション値)を有するPVA系位相差フィルムを製造するにあたり、それが有する両スキン層とコア層の厚み比率および各層の複屈折率を特定することにより、耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムが得られること;並びに、原料となるPVA系重合体フィルムが有する両スキン層とコア層の厚み比率および各層の複屈折率を特定した上で、更に特定の延伸条件で一軸延伸することにより、耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムを製造することができること;を見出し、これらの知見に基づいて更に検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]面内位相差値が70〜400nmであるPVA系位相差フィルムであって、スキン層Aおよびスキン層Bの間にコア層Cが存在する3層構造を有すると共に下記の式(I)〜(IV)を満たすPVA系位相差フィルム;
(I) (d+d)/(d+d+d)≦0.3
(II) Δn≦6.0×10−2
(III) Δn≦6.0×10−2
(IV) Δn≦3.0×10−2
〔上記式中、d、dおよびdはそれぞれスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み(μm)を表し、Δnはスキン層Aの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはスキン層Bの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表す。〕
[2]ホウ素原子含有率が0.7〜2.0質量%である、上記[1]のPVA系位相差フィルム;
[3]面内位相差値が70〜400nmであるPVA系位相差フィルムであって、スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に下記の式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムを原料に用い、且つ、下記の式(IX)を満たすようにPVA系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む方法により製造される、PVA系位相差フィルム;
(V) (dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)≦0.4
(VI) 1.0×10−3≦Δnα≦4.0×10−3
(VII) 1.0×10−3≦Δnβ≦4.0×10−3
(VIII) 5.0×10−4≦Δnγ≦2.0×10−3
(IX) L/W≦1.5
〔上記式中、dα、dβおよびdγはそれぞれスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み(μm)を表し、Δnαはスキン層αの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnβはスキン層βの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnγはコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表し、Lは一軸延伸の際の延伸間距離(cm)を表し、Wは一軸延伸する直前のPVA系重合体フィルムの幅(cm)を表す。〕
[4]面内位相差値が70〜400nmであるPVA系位相差フィルムの製造方法であって、スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に下記の式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムを原料に用い、且つ、下記の式(IX)を満たすようにPVA系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む、製造方法;
(V) (dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)≦0.4
(VI) 1.0×10−3≦Δnα≦4.0×10−3
(VII) 1.0×10−3≦Δnβ≦4.0×10−3
(VIII) 5.0×10−4≦Δnγ≦2.0×10−3
(IX) L/W≦1.5
〔上記式中、dα、dβおよびdγはそれぞれスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み(μm)を表し、Δnαはスキン層αの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnβはスキン層βの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnγはコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表し、Lは一軸延伸の際の延伸間距離(cm)を表し、Wは一軸延伸する直前のPVA系重合体フィルムの幅(cm)を表す。〕
[5]前記スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に前記式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムを水で膨潤後、前記式(IX)を満たすように一軸延伸する工程を含む、上記[4]の製造方法;
[6]前記スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に前記式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムの厚みが20〜50μmである、上記[4]または[5]の製造方法;
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPVA系位相差フィルムは高温下でも位相差の変化が少なく耐熱性に優れる。また、本発明のPVA系位相差フィルムの製造方法によれば、耐熱性に優れる上記PVA系位相差フィルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のPVA系位相差フィルムはPVA系重合体を主たる構成成分として含む位相差フィルムであって、その面内位相差値は、70〜400nmの範囲内にあり、150〜350nmの範囲内にあることが好ましく、200〜300nmの範囲内にあることがより好ましい。面内位相差値が上記範囲から外れると、位相差フィルムとして求められる機能が十分に発揮されず、その用途が限定される。当該面内位相差値はPVA系位相差フィルムの任意の1箇所〔例えば、PVA系位相差フィルムの幅方向中央部に位置する線上の機械流れ方向に任意の1箇所〕について測定すればよく、具体的には、実施例の欄において後述する方法により測定することができる。
【0012】
本発明のPVA系位相差フィルムにおいては、外側のスキン層Aおよびスキン層Bの間にコア層Cが存在する3層構造を有すると共に下記の式(I)〜(IV)を満たすことが重要である。
(I) (d+d)/(d+d+d)≦0.3
(II) Δn≦6.0×10−2
(III) Δn≦6.0×10−2
(IV) Δn≦3.0×10−2
【0013】
上記式中、d、dおよびdはそれぞれスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み(μm)を表し、Δnはスキン層Aの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはスキン層Bの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表す。ここで、PVA系位相差フィルムが両面に有する2つのスキン層のうちの任意の一方をスキン層Aとし、他方をスキン層Bとすればよい。また、各層の厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率とは、測定点を通る機械流れ方向の直線と膜厚方向の直線とがなす面に対して垂直な方向の光に基づく複屈折率を意味し、当該複屈折率は各層の任意の1点〔例えば、測定対象となるPVA系位相差フィルムの幅方向中央部に位置する線上の機械流れ方向に任意の1箇所における、各層の厚み方向中央部における1点〕について測定すればよい。なお、PVA系位相差フィルムの機械流れ方向とは、通常、PVA系位相差フィルムを製造する際に一軸延伸された方向に相当する。これらの厚みおよび複屈折率は、具体的には、実施例の欄において後述する方法により測定することができる。
【0014】
上記の式(I)の範囲から外れると、PVA系位相差フィルムにおけるスキン層の厚み比率が高いために、PVA系位相差フィルムの耐熱性が低下する。本発明のPVA系位相差フィルムは、(d+d)/(d+d+d)が0.25以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.17以下であることが更に好ましい。また、(d+d)/(d+d+d)の下限に特に制限はないが、スキン層があまりに薄いPVA系位相差フィルムはその製造が困難であることから、(d+d)/(d+d+d)は、例えば、0.01以上である。
【0015】
上記の式(II)および/または式(III)の範囲から外れると、PVA系位相差フィルムの耐熱性が低下する。本発明のPVA系位相差フィルムは、ΔnおよびΔnのいずれもが5.5×10−2以下であることが好ましく、5.0×10−2以下であることがより好ましい。また、ΔnおよびΔnの下限に特に制限はないが、PVA系位相差フィルムとしての機能を持たせるためには、通常、所定の面内位相差値が必要になるため、ΔnおよびΔnのいずれもが、例えば、1.0×10−2以上である。
【0016】
上記の式(IV)の範囲から外れる場合にも、PVA系位相差フィルムの耐熱性が低下する。本発明のPVA系位相差フィルムは、Δnが2.9×10−2以下であることが好ましく、2.8×10−2以下であることがより好ましい。また、Δnの下限に特に制限はないが、Δnは、例えば、5.0×10−3以上である。
【0017】
本発明のPVA系位相差フィルムは、PVA系重合体フィルムを一軸延伸することにより製造することができ、具体的には、PVA系重合体フィルムを膨潤および一軸延伸し、その後、乾燥処理をすることにより製造することができる。
【0018】
上記のPVA系重合体フィルムを構成するPVA系重合体としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVA系重合体の製造の容易性、入手の容易性、コスト等の点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(HC=CH−O−CO−)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
【0019】
上記のポリビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0020】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸またはその塩などを挙げることができる。上記のポリビニルエステル系重合体は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0021】
上記のポリビニルエステル系重合体に占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
特に上記他の単量体が(メタ)アクリル酸またはその塩、不飽和スルホン酸またはその塩などのように、得られるPVA系重合体の水溶性を促進する単量体単位となり得る単量体である場合には、当該PVA系重合体を用いて製造したPVA系重合体フィルムからPVA系位相差フィルムを製造する際などにおける水溶液中での処理時に、フィルムが溶解したり溶断したりするのを防止するために、ポリビニルエステル系重合体におけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
上記のPVA系重合体としてはグラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができるが、本発明の効果を大きく損なわない範囲内であれば、PVA系重合体は1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステル系重合体およびそれをけん化することにより得られるPVA系重合体のうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体におけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0023】
上記のPVA系重合体はその水酸基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また上記のPVA系重合体はその水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0024】
上記のPVA系重合体の重合度は特に制限されないが、2000以上であることが好ましい。PVA系重合体の重合度が2000以上であることにより、得られるPVA系位相差フィルムの耐湿熱性を向上させることができる。PVA系重合体の重合度はあまりに高すぎるとPVA系重合体の製造コストの上昇や製膜時における工程通過性の不良につながる傾向があるので、PVA系重合体の重合度は2000〜10000の範囲内であることがより好ましく、2100〜8000の範囲内であることが更に好ましく、2200〜5000の範囲内であることが特に好ましい。なお本明細書でいうPVA系重合体の重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0025】
PVA系重合体のけん化度は得られるPVA系位相差フィルムの耐湿熱性が良好になることから、99.0モル%以上であることが好ましく、99.8モル%以上であることがより好ましく、99.9モル%以上であることが更に好ましい。なお本明細書におけるPVA系重合体のけん化度とはPVA系重合体が有するけん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0026】
本発明においてPVA系重合体フィルムは上記したPVA系重合体と共に可塑剤を含んでいてもよい。PVA系重合体フィルムが可塑剤を含むことによりPVA系重合体フィルムからPVA系位相差フィルムを製造する際の延伸性の向上等を図ることができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、PVA系重合体フィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでもPVA系重合体フィルムの延伸性がより良好になることからグリセリンが好ましい。
【0027】
PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量はPVA系重合体100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましく、7〜12質量部であることが更に好ましい。PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して3質量部以上であることによりPVA系重合体フィルムの延伸性が向上する。一方、PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して20質量部以下であることによりPVA系重合体フィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVA系重合体フィルムの取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0028】
またPVA系重合体フィルムを後述するPVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液を用いて製造する場合には、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に金属ロールやベルトを使用した際、これらの金属ロールやベルトからのPVA系重合体フィルムの剥離が容易になることから、当該製膜原液中に界面活性剤を配合することが好ましい。界面活性剤が配合された製膜原液からPVA系重合体フィルムを製造した場合には、当該PVA系重合体フィルム中には界面活性剤が含有され得る。PVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液に配合される界面活性剤、ひいてはPVA系重合体フィルム中に含有される界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0029】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0030】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
PVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液中に界面活性剤を配合する場合、製膜原液中における界面活性剤の含有量、ひいてはPVA系重合体フィルム中における界面活性剤の含有量は製膜原液またはPVA系重合体フィルムに含まれるPVA系重合体100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることが更に好ましい。界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.01質量部以上であることにより製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVA系重合体フィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0032】
PVA系重合体フィルムはPVA系重合体のみからなっていても、あるいはPVA系重合体と上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤など、上記したPVA系重合体、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
PVA系重合体フィルムにおける、PVA系重合体、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合は50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0033】
本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いられるPVA系重合体フィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のフィルムの厚みおよび幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができ、例えば、PVA系重合体フィルムを構成する上記したPVA系重合体、および必要に応じて更に可塑剤、界面活性剤、他の成分が液体媒体中に溶解した製膜原液や、PVA系重合体、および必要に応じて更に可塑剤、界面活性剤、他の成分、液体媒体を含み、PVA系重合体が溶融している製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液が可塑剤、界面活性剤および他の成分の少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0034】
製膜原液の調製に使用される上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0035】
製膜原液の揮発分率〔製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合〕は製膜方法、製膜条件等によって異なるが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることが更に好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。
【0036】
上記した製膜原液を用いてPVA系重合体フィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、キャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられ、キャスト製膜法、押出製膜法が好ましい。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でも押出製膜法が、厚みおよび幅が均一で物性の良好なPVA系重合体フィルムが得られることからより好ましい。PVA系重合体フィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0037】
キャスト製膜法または押出製膜法の具体的な方法としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いる方法が挙げられ、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に流延または吐出し、この第1ロール(あるいはベルト)上に流延または吐出された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いて流延または吐出された膜の他方の面を回転する加熱した第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上で更に乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させて更に乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
PVA系重合体フィルムを製造するための装置には、PVA系重合体フィルムを適切な状態に調整するために、熱処理装置;調湿装置;各ロールを駆動するためのモータ;変速機等の速度調整機構などが付設されることが好ましい。
【0038】
PVA系重合体フィルムの製造工程での乾燥処理における乾燥温度は50〜150℃の範囲内であることが好ましく、60〜120℃の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いられるPVA系重合体フィルムは、外側のスキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に下記の式(V)〜(VIII)を満たすことが好ましい。
(V) (dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)≦0.4
(VI) 1.0×10−3≦Δnα≦4.0×10−3
(VII) 1.0×10−3≦Δnβ≦4.0×10−3
(VIII) 5.0×10−4≦Δnγ≦2.0×10−3
【0040】
上記式中、dα、dβおよびdγはそれぞれスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み(μm)を表し、Δnαはスキン層αの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnβはスキン層βの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnγはコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表す。ここで、PVA系重合体フィルムが両面に有する2つのスキン層のうちの任意の一方をスキン層αとし、他方をスキン層βとすればよい。また、各層の厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率とは、測定点を通る機械流れ方向の直線と膜厚方向の直線とがなす面に対して垂直な方向の光に基づく複屈折率を意味し、当該複屈折率は各層の任意の1点〔例えば、測定対象となるPVA系重合体フィルムの幅方向中央部に位置する線上の機械流れ方向に任意の1箇所における、各層の厚み方向中央部における1点〕について測定すればよい。なお、PVA系重合体フィルムの機械流れ方向とは、通常、PVA系位相差フィルムを製造する際に一軸延伸される方向に相当する。これらの厚みおよび複屈折率は、具体的には、実施例の欄において後述する方法により測定することができる。
【0041】
上記の式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムを原料に用い、且つ、後述する延伸条件でPVA系重合体フィルムを一軸延伸することにより、上記の式(I)〜(IV)を満足する耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムを効率よく製造することができる。得られるPVA系位相差フィルムの耐熱性の観点から、上記のPVA系重合体フィルムは、(dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)が0.39以下であることがより好ましく、0.38以下であることが更に好ましい。また、(dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)の下限について、スキン層があまりに薄いPVA系重合体フィルムはその製造が困難であることから、(dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)は、例えば、0.01以上である。
【0042】
また、得られるPVA系位相差フィルムの耐熱性の観点から、上記のPVA系重合体フィルムは、ΔnαおよびΔnβのいずれもが1.0×10−3以上、3.8×10−3以下であることがより好ましく、1.0×10−3以上、3.6×10−3以下であることが更に好ましい。なお、Δnαおよび/またはΔnβが1.0×10−3未満であるPVA系重合体フィルムは、例えば、複数の乾燥ロールを用いて製膜する際にロール周速比を大きく低下させる必要があり、乾燥ロール間でPVA系重合体フィルムにたるみが生じやすく製膜が困難になる傾向がある。
【0043】
更に、得られるPVA系位相差フィルムの耐熱性の観点から、上記のPVA系重合体フィルムは、Δnγが5.0×10−4以上、1.9×10−3以下であることがより好ましく、5.0×10−4以上、1.8×10−3以下であることが更に好ましく、5.0×10−4以上、1.7×10−3以下であることが特に好ましい。なお、Δnγが5.0×10−4未満であるPVA系重合体フィルムは、例えば、複数の乾燥ロールを用いて製膜する際にロール周速比を大きく低下させる必要があり、乾燥ロール間でPVA系重合体フィルムにたるみが生じやすく製膜が困難になる傾向がある。
【0044】
上記の式(V)〜(VIII)のいずれか1つまたは2つ以上を満たさないPVA系重合体フィルムを原料に用いても、上記の式(I)〜(IV)を満たすPVA系位相差フィルムを得ることは可能であるが、PVA系位相差フィルム製造時の膨潤槽温度や延伸槽温度を高くしたり、延伸速度を下げたりする必要がある。しかし、膨潤槽温度や延伸槽温度を高くすると得られるPVA系位相差フィルムにしわが入りやすくなったり、延伸速度を下げると生産性が低下しコストが余分にかかったりする問題がある。そのため、本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムは、上記の式(V)〜(VIII)を満たすことが好ましい。
【0045】
スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有し、上記の式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムの製膜方法は特に限定されないが、上記の式(V)を満たすPVA系重合体フィルムを得るために、使用される製膜装置の第1ロール(あるいはベルト)から剥離する際のPVA系重合体フィルムの揮発分率を調整することが好ましい。具体的には、当該揮発分率を20〜30質量%の範囲内とすることが好ましく、21〜28質量%の範囲内とすることがより好ましく、22〜26質量%の範囲内とすることが更に好ましい。第1ロール(あるいはベルト)から剥離する際のPVA系重合体フィルムの揮発分率が20質量%未満であると、スキン層が厚くなる傾向がある。なお、第1ロール(あるいはベルト)から剥離する際のPVA系重合体フィルムの揮発分率が30質量%を超えると、第1ロール(あるいはベルト)からの剥離が困難になりやすい。
【0046】
一方、上記の式(VI)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムは特許文献5に記載されている方法を参考にして、上記した第1ロール(あるいはベルト)から剥離する際のPVA系重合体フィルムの揮発分率の他、第1ロール(あるいはベルト)での熱風乾燥条件や、第1ロール(あるいはベルト)から剥離して第1ロール(あるいはベルト)非接触面を第2ロール(あるいは乾燥ロール)に対向させて第2ロール(あるいは乾燥ロール)で乾燥させる際の第1ロール(あるいはベルト)の周速(S)に対する第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周速(S)の比(S/S)などを適宜制御することにより、容易に得ることができる。
【0047】
本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いられるPVA系重合体フィルムの厚みは、あまりに薄すぎるとPVA系位相差フィルムを製造するための一軸延伸の際に延伸切れが発生しやすくなったり所望の面内位相差値を有するPVA系位相差フィルムを得ることができなくなったりする傾向があり、またあまりに厚すぎるとやはり所望の位相差値を有するPVA系位相差フィルムを得ることができなくなる傾向があることから、15〜120μmの範囲内であることが好ましく、18〜100μmの範囲内であることがより好ましく、20〜80μmの範囲内であることが更に好ましい。また、得られるPVA系位相差フィルムの耐熱性をより向上させることができることから、当該厚みは20〜50μmの範囲内であることが特に好ましい。なお、PVA系重合体フィルムの厚みは任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0048】
本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いられるPVA系重合体フィルムの形状は特に制限されないが、搬送および使用が容易であることなどから、機械流れ方向に略平行な一対の辺を有する長方形(正方形を含む)であることが好ましい。この場合、幅方向(機械流れ方向に対して垂直なフィルム面上の方向)の長さとしては、5〜80cmの範囲内であることが好ましく、10〜50cmの範囲内であることがより好ましく、20〜40cmの範囲内であることが更に好ましい。また、PVA系重合体フィルムは、連続的にPVA系位相差フィルムを製造することができることから、長尺のフィルムであることも好ましい。当該長尺のフィルムにおける長さに特に制限はないが、例えば、5〜10,000mの範囲内とすることができる。また、長尺のフィルムにおける幅に特に制限はないが、5cm〜4mの範囲内であることが好ましく、10cm〜2mの範囲内であることがより好ましく、20cm〜1mの範囲内であることが更に好ましい。
【0049】
本発明のPVA系位相差フィルムの原料に用いられるPVA系重合体フィルムはその膨潤度が210〜225%の範囲内であることが好ましく、215〜220%の範囲内であることがより好ましい。当該PVA系重合体フィルムの膨潤度が低すぎるとフィルムが硬くなってPVA系位相差フィルムを製造する際における一軸延伸時の延伸槽での破断が発生しやすくなる。一方、膨潤度があまりに高すぎると一軸延伸をする前に当該PVA系重合体フィルムを膨潤させる場合に膨潤槽で拡幅してしわが発生し外観が不良になるとともに、光学的均質性に優れたPVA系位相差フィルムを得ることが困難になる傾向がある。PVA系重合体フィルムの膨潤度はPVA系重合体フィルムを製造する際の熱処理温度および熱処理時間を変更することで適宜調整することができ、通常、熱処理温度を高くして熱処理時間を長くすることにより膨潤度を低下させることができる。なお、PVA系重合体フィルムの膨潤度は、3〜5mm四方に裁断した質量約3gのPVA系重合体フィルムの裁断片(試験片)を、30℃の温水中に15分間浸漬した後、3000rpmで5分間遠心脱水した後の試験片の質量(W1)と、該遠心脱水後の試験片を105℃で16時間乾燥した後の試験片の質量(W2)とから、次式により求めることができる。
膨潤度(%)=(W1)/(W2)×100
【0050】
本発明の位相差フィルムを製造するための製造方法に特に制限はないが、式(V)〜(VIII)を満たす上記したPVA系重合体フィルムを原料に用いる方法であって、且つ、下記の式(IX)を満たすようにPVA系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む方法によれば、目的とする面内位相差値を有するPVA系位相差フィルムを得るために所望の延伸倍率でPVA系重合体フィルムを一軸延伸しても、耐熱性に優れる上記PVA系位相差フィルムを効率よく製造することができることから好ましい。本発明は、面内位相差値が70〜400nmであるPVA系位相差フィルムであって、スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に上記の式(V)〜(VIII)を満たすPVA系重合体フィルムを原料に用い、且つ、下記の式(IX)を満たすようにPVA系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む方法により製造される、PVA系位相差フィルムを包含する。
(IX) L/W≦1.5
【0051】
上記式中、Lは一軸延伸の際の延伸間距離(cm)を表し、Wは一軸延伸する直前のPVA系重合体フィルムの幅(cm)を表す。ここで延伸間距離とは、一軸延伸時における延伸方向の長さを表す。すなわち、PVA系重合体フィルムをバッチ式で一軸延伸する場合には延伸間距離は延伸後の長さに該当し、周速の異なる複数のロールを用いて連続的に一軸延伸する場合には、PVA系重合体フィルムにおいて一軸延伸されている流れ方向の長さに該当する〔例えば、周速の異なる2つの延伸ロールを用いて一軸延伸する場合には、両延伸ロール間の距離に相当する〕。
【0052】
上記のL/Wは、耐熱性により優れるPVA系位相差フィルムが得られることから、1.3以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましい。なお、L/Wの下限に特に制限はないが、L/Wがあまりに小さい場合は延伸時に破断しやすくなることから、L/Wは、例えば、0.3以上である。
【0053】
上記のPVA系重合体フィルムを原料に用い、且つ、上記の式(IX)を満たすようにPVA系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む、上記した方法の好ましい具体例としては、上記のPVA系重合体フィルムを水で膨潤後、得られたPVA系重合体フィルムを上記の式(IX)を満たすように一軸延伸する工程を含む方法が挙げられる。ここで、水での膨潤後であって一軸延伸する前のPVA系重合体フィルムは、式(V)〜(VIII)を満たしていてもよいし、式(V)〜(VIII)のいずれか1つまたは2つ以上を満たしていなくてもよい。
【0054】
PVA系重合体フィルムの水での膨潤は、PVA系重合体フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20〜40℃の範囲内であることが好ましく、25〜35℃の範囲内であることがより好ましく、30〜35℃の範囲内であることが更に好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば、0.5〜5分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であることがより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0055】
PVA系重合体フィルムの一軸延伸方法に特に制限はなく、バッチ式で一軸延伸する場合には、例えば、一軸延伸される方向に対して垂直な2辺を固定した状態で一軸延伸する方法が挙げられる。一方、連続的に一軸延伸する場合には、例えば、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、周速の異なる複数のロールを使用する縦一軸延伸法などが挙げられる。これらの中でも、より耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムを得ることができることから、一軸延伸される方向に対して垂直な2辺を固定した状態で一軸延伸する方法、または、周速の異なる複数のロールを使用する縦一軸延伸法が好ましい。
【0056】
一軸延伸倍率〔一軸延伸前の長さに対する一軸延伸後の長さの倍率〕は、得られるPVA系位相差フィルムに付与すべき面内位相差値に応じて適宜設定することができる。通常、一軸延伸倍率を高くすれば、得られるPVA系位相差フィルムの面内位相差値も高くなる。一軸延伸倍率の具体的な数値としては、3.0〜4.5倍の範囲内であることが好ましく、3.2〜4.3倍の範囲内であることがより好ましく、3.5〜4.2倍の範囲内であることが更に好ましい。
【0057】
一軸延伸の際の延伸速度に特に制限はないが、あまりに遅いと生産性が低下することから、11cm/分以上であることが好ましく、12cm/分以上であることがより好ましく、13cm/分以上であることが更に好ましい。また、延伸速度があまりに速すぎるとPVA系重合体フィルムが破断しやすくなることから、延伸速度は200cm/分以下であることが好ましい。
【0058】
PVA系重合体フィルムの一軸延伸をホウ酸水溶液中で行うか、一軸延伸前後にPVA系重合体フィルムをホウ酸水溶液に浸漬させることにより、PVA系重合体フィルムにホウ酸架橋を導入することができるが、上記の式(I)〜(IV)を満たし耐熱性により優れた位相差フィルムを得るためには、一軸延伸後にPVA系重合体フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することが好ましい。このときのホウ酸水溶液の温度および浸漬時間は特に限定されないが、例えば、40〜60℃のホウ酸水溶液に1〜2分間程度浸漬する方法を好ましく例示することができる。耐熱性により優れたPVA系位相差フィルムとするためには、得られるPVA系位相差フィルムのホウ素原子含有率〔PVA系位相差フィルム中に含まれるホウ素原子の質量のPVA系位相差フィルムの質量に対する百分率〕が0.7〜2.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.2〜1.5質量%の範囲内であることがより好ましい。当該ホウ素原子含有率とするために、上記したホウ酸水溶液中のホウ酸濃度は1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。PVA系位相差フィルムのホウ素原子含有率があまりに高すぎると、PVA系位相差フィルムの耐熱性が低下したり、延伸方向に裂けやすくて取り扱い性が低下したりする場合がある。一方、PVA系位相差フィルムのホウ素原子含有率があまりに低すぎると、耐熱性が低下する場合がある。
【0059】
上記したような水での膨潤、一軸延伸、ホウ酸水溶液への浸漬などの各工程を経た後、得られたフィルムを乾燥することによりPVA系位相差フィルムを得ることができる。乾燥の温度は40〜150℃の範囲内であることが好ましく、80〜130℃の範囲内であることがより好ましい。当該乾燥時間は2〜10分間の範囲内であることが好ましく、4〜6分間の範囲内であることがより好ましい。
【0060】
本発明のPVA系位相差フィルムの厚みは、8〜20μmの範囲内であることが好ましく、10〜15μmの範囲内であることがより好ましい。PVA系位相差フィルムの厚みが8μm未満の場合には取り扱い性が悪くなる傾向があり、20μmを超える場合には膜厚むらが相対的に大きくなって位相差むらが大きくなる傾向がある。なお、PVA系位相差フィルムの厚みは任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0061】
本発明のPVA系位相差フィルムは耐熱性に優れる。本発明のPVA系位相差フィルムの耐熱性の具体的な値としては、130℃で10分間熱処理した際の、熱処理前および熱処理後における面内位相差値の変化率〔実施例において後述するR値変化率〕が8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましい。当該変化率が上記範囲にあることにより高温下での位相差の変化をより低減させることができ、ディスプレイの品質の低下が殆どない液晶表示装置を得ることができる。
【0062】
本発明のPVA系位相差フィルムは、その機械的強度、耐久性を更に向上させるために、その片面または両面に保護フィルムを積層して位相差板としてもよい。保護フィルムとしては光学異方性の小さなプラスチックフィルムを用いることができ、その例としては、酢酸セルロース系フィルム、アクリル系フィルム等が挙げられ、これらの中でも、表面を部分けん化した三酢酸セルロースフィルムが特に好ましい。
【0063】
本発明のPVA系位相差フィルムやそれから製造される位相差板の用途に特に制限はなく、例えば、電子卓上計算機、ワープロ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、立体メガネ、表示素子用反射低減層などに用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において採用された、PVA系位相差フィルムおよびPVAフィルム原反のスキン層とコア層の厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、およびスキン層とコア層の厚み、並びに、PVA系位相差フィルムの面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性、および外観の各測定または評価方法を以下に示す。
【0065】
[PVA系位相差フィルムおよびPVAフィルム原反のスキン層とコア層の厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率]
(i)以下の実施例または比較例で得られたPVA系位相差フィルムまたはPVAフィルム原反の機械流れ方向(一軸延伸された、または一軸延伸される方向;MD)の任意の位置で、フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=2mm×10mmの大きさの細片を切り出し、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それを更に木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付けた。
(ii)次に、前記で採取した細片を、細片の機械流れ方向と平行に約10μm間隔でスライスし、観察用のスライス片(MD×TD=2mm×10μm)を作製し、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)でスライス厚み(約10μm)を正確に計測した。
(iii)次いで、スライス片の断面を上向きとしてスライドガラス上に載せて偏光顕微鏡へセットした。
(iv)偏光顕微鏡(オリンパス株式会社製)の鏡基のフィルター受けに干渉フィルター(IF546)をのせ、べレックコンペンセータ(オリンパス株式会社製)のハンドルを回して視野中心の測定部位が最も暗くなる位置に合わせ、そのときの角度aを読み取った。次にコンペンセータのハンドルを反対に回し、視野中心の測定部位が最も暗くなる位置の角度bを読み取った。この操作を5回繰り返し、角度a、bともに計5回の平均値を読み取り値とした。
(v)上記で得られたa、bの角度から補償値i=(a−b)/2(ただしa>b)を求め、換算表を用いてレタデーション値を求め、(ii)で正確に計測したスライス厚みで除して複屈折率を求めた。
なお、PVA系位相差フィルムまたはPVAフィルム原反において、スキン層の複屈折率の測定はスキン層の厚み方向の中央部の1点で行い、コア層の複屈折率の測定はコア層の厚み方向の中央部の1点で行った。得られたPVA系位相差フィルムのスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を、それぞれ、Δn、ΔnおよびΔnとした。同様に、得られたPVAフィルム原反のスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を、それぞれ、Δnα、ΔnβおよびΔnγとした。
【0066】
[PVA系位相差フィルムおよびPVAフィルム原反のスキン層とコア層の厚み]
上記複屈折率の測定方法における(iii)の状態で、PVA系位相差フィルムのスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの各厚みを偏光顕微鏡(オリンパス株式会社製)によって測定し、それぞれd、dおよびdとした。PVAフィルム原反についても同様にスキン層α、スキン層βおよびコア層γの各厚みを測定し、それぞれdα、dβおよびdγとした。
【0067】
[PVA系位相差フィルムの面内位相差値]
以下の実施例または比較例で得られたPVA系位相差フィルムの幅方向中央部における任意の1箇所において、大塚電子株式会社製 セルギャップ検査装置「RETS−1100」を用いて、540nmの単色光での面内位相差値〔PVA系位相差フィルムのフィルム面に対する位相差値〕を測定した。
【0068】
[PVA系位相差フィルムのホウ素原子含有率]
以下の実施例または比較例で得られたPVA系位相差フィルムを酸素フラスコ燃焼法により前処理を行った後、ジャーレルアッシュ社製 ICP発光分析装置(IRIS−AP)を用いてそのホウ素原子の含有量を測定し、PVA系位相差フィルムのホウ素原子含有率を算出した。測定条件は、出力:1150W、補助ガス流量(Ar):0.5L/分、ネブライザー流量(Ar):26.00spi、ポンプ回転数:130rpmとした。
【0069】
[PVA系位相差フィルムの耐熱性]
以下の実施例または比較例で得られたPVA系位相差フィルムの幅方向の中央部から、機械流れ方向(一軸延伸方向)12cm×幅方向2cmの長方形の試験用フィルムを切り出し、中央部の面内位相差値(R)を上記したのと同様の方法により測定した。次に、両端にクリップを用いて200gの重りをつけた後、130℃の乾燥機中に設置された曲率半径5cmで湾曲させた鉄板上(サイズ30cm×35cmの鉄板の長辺が曲線となるように曲げ、湾曲部(凸部)を上部とした)に試験用フィルムを密着させるように置いて10分間熱処理を行った。熱処理後の試験用フィルムの中央部の面内位相差値(R)を上記したのと同様の方法により測定した。面内位相差値の変化率〔以下、R値変化率と称することがある〕を下記式により算出し、耐熱性の指標とした。
R値変化率(%)=100×|R−R|/R
【0070】
[PVA系位相差フィルムの外観]
以下の実施例または比較例で得られたPVA系位相差フィルムの外観を目視により観察し、以下の基準により外観を評価した。
○・・・しわがなく、問題なし
△・・・しわがあるが、実用上問題ないレベル
×・・・しわがあり、実用上問題あり
【0071】
[実施例1]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を22質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=7(μm)、dβ=8(μm)、dγ=25(μm)、Δnα=3.6×10−3、Δnβ=3.0×10−3、Δnγ=1.6×10−3、膨潤度218%〕の幅方向中央部から、機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×30cmの試験片を採取し、当該試験片の機械流れ方向の両端を、延伸部分のサイズが機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=4cm×30cm(W=30(cm))となるように延伸治具に固定し、30℃の水中に1分間浸漬して膨潤させた。次いで、43℃水中で13cm/分の延伸速度で、幅方向が収縮可能な状態で4倍(L=16(cm))に一軸延伸し、ホウ酸を0.5質量%含む水溶液に1分間浸漬した後、120℃で5分間乾燥し、厚み15μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0072】
[実施例2]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を22質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=7(μm)、dβ=8(μm)、dγ=25(μm)、Δnα=3.7×10−3、Δnβ=3.8×10−3、Δnγ=1.8×10−3、膨潤度218%〕の幅方向中央部から、機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=14cm×30cmの試験片を採取し、当該試験片の機械流れ方向の両端を、延伸部分のサイズが機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=8cm×30cm(W=30(cm))となるように延伸治具に固定し、30℃の水中に1分間浸漬して膨潤させた。次いで、43℃水中で13cm/分の延伸速度で、幅方向が収縮可能な状態で4倍(L=32(cm))に一軸延伸し、ホウ酸を0.5質量%含む水溶液に1分間浸漬した後、120℃で5分間乾燥し、厚み15μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0073】
[比較例1]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を18質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=12(μm)、dβ=8(μm)、dγ=20(μm)、Δnα=4.5×10−3、Δnβ=4.8×10−3、Δnγ=3.0×10−3、膨潤度216%〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み15μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0074】
[比較例2]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を18質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=10(μm)、dβ=9(μm)、dγ=21(μm)、Δnα=3.5×10−3、Δnβ=3.3×10−3、Δnγ=1.6×10−3、膨潤度217%〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み14μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0075】
[比較例3]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を22質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=8(μm)、dβ=7(μm)、dγ=25(μm)、Δnα=4.1×10−3、Δnβ=4.5×10−3、Δnγ=2.4×10−3、膨潤度218%〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み14μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0076】
[比較例4]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を24質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=6(μm)、dβ=8(μm)、dγ=26(μm)、Δnα=4.2×10−3、Δnβ=4.8×10−3、Δnγ=1.8×10−3、膨潤度220%〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み14μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0077】
[比較例5]
第1ロールから剥離する際の揮発分率を22質量%にして得られた、PVA100質量部に対しグリセリンを12質量部およびラウリン酸ジエタノールアミドを0.1質量部含有するPVAフィルム原反〔PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、厚み40μm、幅3m、dα=8(μm)、dβ=7(μm)、dγ=25(μm)、Δnα=3.8×10−3、Δnβ=3.7×10−3、Δnγ=2.5×10−3、膨潤度220%〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み14μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0078】
[比較例6]
実施例1と同様にして得られたPVAフィルム原反の幅方向中央部から、機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×10cmの試験片を採取し、当該試験片の機械流れ方向の両端を、延伸部分のサイズが機械流れ方向(MD)×幅方向(TD)=4cm×10cm(W=10(cm))となるように延伸治具に固定し、30℃の水中に1分間浸漬して膨潤させた。次いで、43℃水中で13cm/分の延伸速度で、幅方向が収縮可能な状態で4倍(L=16(cm))に一軸延伸し、ホウ酸を0.5質量%含む水溶液に1分間浸漬した後、120℃で5分間乾燥し、厚み16μmのPVA系位相差フィルムを得た。
得られたPVA系位相差フィルムについて、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、スキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み、面内位相差値、ホウ素原子含有率、耐熱性並びに外観を上記の方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0079】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高温下でも位相差の変化が少なく耐熱性に優れるPVA系位相差フィルムが得られる。そのため、当該PVA系位相差フィルムを用いることで、屋外で使用したり自動車用途に使用したりすることが可能な、ディスプレイ品質の低下が殆どない液晶表示装置を得ることができる。そのため本発明のPVA系位相差フィルムは、これらの特性を活かして、光学フィルターや液晶表示装置をはじめとする各種光学用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内位相差値が70〜400nmであるポリビニルアルコール系位相差フィルムであって、スキン層Aおよびスキン層Bの間にコア層Cが存在する3層構造を有すると共に下記の式(I)〜(IV)を満たすポリビニルアルコール系位相差フィルム。
(I) (d+d)/(d+d+d)≦0.3
(II) Δn≦6.0×10−2
(III) Δn≦6.0×10−2
(IV) Δn≦3.0×10−2
〔上記式中、d、dおよびdはそれぞれスキン層A、スキン層Bおよびコア層Cの厚み(μm)を表し、Δnはスキン層Aの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはスキン層Bの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnはコア層Cの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表す。〕
【請求項2】
ホウ素原子含有率が0.7〜2.0質量%である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系位相差フィルム。
【請求項3】
面内位相差値が70〜400nmであるポリビニルアルコール系位相差フィルムであって、スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に下記の式(V)〜(VIII)を満たすポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料に用い、且つ、下記の式(IX)を満たすようにポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む方法により製造される、ポリビニルアルコール系位相差フィルム。
(V) (dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)≦0.4
(VI) 1.0×10−3≦Δnα≦4.0×10−3
(VII) 1.0×10−3≦Δnβ≦4.0×10−3
(VIII) 5.0×10−4≦Δnγ≦2.0×10−3
(IX) L/W≦1.5
〔上記式中、dα、dβおよびdγはそれぞれスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み(μm)を表し、Δnαはスキン層αの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnβはスキン層βの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnγはコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表し、Lは一軸延伸の際の延伸間距離(cm)を表し、Wは一軸延伸する直前のポリビニルアルコール系重合体フィルムの幅(cm)を表す。〕
【請求項4】
面内位相差値が70〜400nmであるポリビニルアルコール系位相差フィルムの製造方法であって、スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に下記の式(V)〜(VIII)を満たすポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料に用い、且つ、下記の式(IX)を満たすようにポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸する工程を含む、製造方法。
(V) (dα+dβ)/(dα+dβ+dγ)≦0.4
(VI) 1.0×10−3≦Δnα≦4.0×10−3
(VII) 1.0×10−3≦Δnβ≦4.0×10−3
(VIII) 5.0×10−4≦Δnγ≦2.0×10−3
(IX) L/W≦1.5
〔上記式中、dα、dβおよびdγはそれぞれスキン層α、スキン層βおよびコア層γの厚み(μm)を表し、Δnαはスキン層αの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnβはスキン層βの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率、Δnγはコア層γの厚み方向中央部における機械流れ方向と膜厚方向がなす面の複屈折率を表し、Lは一軸延伸の際の延伸間距離(cm)を表し、Wは一軸延伸する直前のポリビニルアルコール系重合体フィルムの幅(cm)を表す。〕
【請求項5】
前記スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に前記式(V)〜(VIII)を満たすポリビニルアルコール系重合体フィルムを水で膨潤後、前記式(IX)を満たすように一軸延伸する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記スキン層αおよびスキン層βの間にコア層γが存在する3層構造を有すると共に前記式(V)〜(VIII)を満たすポリビニルアルコール系重合体フィルムの厚みが20〜50μmである、請求項4または5に記載の製造方法。