説明

ポリフェノール含有素材の製造方法及び飲食品

【課題】柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有しつつ品質を低下させる成分の含有量を低減させることが容易なポリフェノール含有素材の製造方法、及び柑橘類由来のポリフェノールを含有しつつ高い品質を備えた飲食品を提供する。
【解決手段】ポリフェノール含有素材の製造方法は、柑橘類の果実又はその構成成分を抽出溶媒に浸漬させてポリフェノールを含む抽出物を得る抽出工程と、該抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備える。処理工程では、前記抽出物を含む溶液(好ましくは水溶液)にベントナイトを添加して共存させた後、該溶液からベントナイトを除去する操作が行われる。抽出工程では、抽出溶媒にペクチナーゼを添加することが好ましい。処理工程では、抽出物に含まれる不快な臭い、苦味及び雑味を呈する成分と、黄み及び赤みを呈する着色成分とが除去される。飲食品はポリフェノール含有素材を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品や医薬品などに添加して利用されるポリフェノール含有素材を製造する方法及び該素材を含有する飲食品に関する。より詳しくは、柑橘類由来のポリフェノールを含有するポリフェノール含有素材の製造方法及び該ポリフェノール含有素材を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類の果汁、果皮、果皮含有物及び/又は搾り粕には、エリオシトリン、6,8−ジ−C−グルコシルジオスミン、6−C−グルコシルジオスミンのような抗酸化性物質が含まれている。これらの抗酸化性物質は、水、有機溶媒又はこれらの混合物で抽出し、得られた抽出物を逆相樹脂処理、液体クロマトグラフィーなどの精製処理を組み合わせて行うことにより製造される(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、特許文献3には、エリオシトリンを高濃度に含有する高濃度エリオシトリン含有食品素材を製造する方法が開示されている。この方法では、柑橘系果実の果汁、果皮、及び果汁の搾汁粕の少なくともひとつを極性溶媒で抽出し、抽出液を合成吸着樹脂に供してエリオシトリンを吸着させた後、水又は温水で合成吸着樹脂を洗浄し、有機溶媒を用いて食品素材を分離、回収している。
【特許文献1】特開平9−48969号公報
【特許文献2】特開平10−245552号公報
【特許文献3】特開2000−217560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1、2に記載の製造方法にて製造されるポリフェノール含有素材では、経口摂取する際に不快な苦味や雑味が感じられるとともに、それらの苦味や雑味が不快な後味として口に長時間残るという問題を抱えていた。さらに、これらのポリフェノール含有素材では、抽出、濃縮、精製の加工を実施する際に、各工程中において熱が加わるために漢方薬のような独特の臭みを感じさせるという問題も抱えていた。加えて、これらのポリフェノール含有素材では、経時による変化臭や褐変が起こりやすかったため、高い品質を長期間保持することが難しかった。また、特許文献3では、苦味を低減させるために、ポリフェノール含有素材を吸着させた樹脂を温水で洗浄しているが、それでもポリフェノール含有素材を高濃度に食品に添加すると、苦味や雑味を感じるという現状がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有しつつ、品質を低下させる成分の含有量を低減させることが容易なポリフェノール含有素材の製造方法を提供することにある。別の目的とするところは、柑橘類由来のポリフェノールを含有しつつ、高い品質を備えた飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、柑橘類由来のポリフェノールを含有する素材を製造する方法であって、該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分を抽出溶媒に浸漬させて前記ポリフェノールを含む抽出物を得る抽出工程と、該抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備え、該処理工程では、前記抽出物を含む溶液にベントナイトを添加して共存させた後、該溶液から前記ベントナイトを除去する操作が行われることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載のポリフェノール含有素材の製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記抽出工程では、前記抽出溶媒にペクチナーゼが添加されることを要旨とする。
請求項3に記載のポリフェノール含有素材の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記処理工程では、前記抽出物に含まれる不快な臭い、苦味及び雑味を呈する成分が前記ベントナイトに吸着され、かつそれらの成分が前記ベントナイトとともに前記溶液から除去されることを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載のポリフェノール含有素材の製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記処理工程では、前記抽出物を含む溶液の黄み及び赤みが低減されることを要旨とする。
【0009】
請求項5に記載のポリフェノール含有素材の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、当該方法はさらに、前記処理工程後に精製工程が実施され、該精製工程では、前記処理工程後の処理液を吸着樹脂に吸着させる吸着処理と、該吸着処理後の前記吸着樹脂を水又は20容量%以下の含水アルコールで洗浄する洗浄処理と、該洗浄処理後の前記吸着樹脂から前記ポリフェノールを溶出させる溶出処理とが実施されることを要旨とする。
【0010】
請求項6に記載の飲食品は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリフェノール含有素材の製造方法により製造されたポリフェノール含有素材を含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有しつつ、品質を低下させる成分の含有量を低減させることが容易なポリフェノール含有素材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、柑橘類由来のポリフェノールを含有しつつ、高い品質を備えた飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリフェノール含有素材の製造方法及び飲食品を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態のポリフェノール含有素材は、柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有するものであり、主に飲食品や医薬品などに添加して利用される。このポリフェノール含有素材は、液状又は粉末状のいずれであってもよい。また、ポリフェノール含有素材は、好ましくはポリフェノールを主成分とする。前記ポリフェノールを主成分とするとは、ポリフェノール含有素材中の可溶性固形分のうち、ポリフェノールの含有量が他のどの成分よりも高いことを指し、ポリフェノールを好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有していることを指す。
【0013】
柑橘類としては、レモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボスなどの香酸柑橘類、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ハッサク、温州ミカン、イヨカン、ポンカン、あま夏、ブンタンなどが挙げられる。本実施形態のポリフェノール含有素材は、これらの柑橘類のうちの一種類又は複数種類の柑橘類に由来するポリフェノールを含有している。また、これら列挙された複数種類の柑橘類の交配種に由来するポリフェノールを含有していても構わない。これらの柑橘類に含まれるポリフェノールとしては、エリオシトリン、ヘスペリジン、6,8−ジ−C−グルコシルジオスミン、6−C−グルコシルジオスミン、ナリンジンなどが挙げられる。これらのポリフェノールは、抗酸化作用を始めとして、生体にとって有用な様々な生理作用を有しているため、健康食品や医薬品の有効成分として高い価値を有している。
【0014】
これらのポリフェノールは、柑橘類の果皮に多量に含まれている。ちなみに、柑橘類の果実は、果皮、果汁、じょうのう膜、さのう及び種子を備えている。柑橘類の果皮には、前記ポリフェノール以外にも、漢方薬様の不快な臭いを感じさせる臭気成分、不快な苦味や雑味を感じさせる呈味成分、視覚的に濁りを感じさせたり新鮮さを損なったりする着色成分などの成分も同時に含まれている。これら臭気成分、呈味成分及び着色成分は、一般に、水やアルコールなどの極性溶媒によって、前記ポリフェノールとともに柑橘類の果皮から抽出されやすい。
【0015】
本実施形態のポリフェノール含有素材は、抽出、濃縮、精製などの加工工程において熱が加わることにより生じる漢方薬様の不快な臭いを感じさせにくいうえ、経時による不快な変化臭の発生が低減可能であるという官能的な特徴を有しているため、飲食品、又は経口剤若しくは経鼻剤の剤形を有する医薬品への利用に適している。さらに、本実施形態のポリフェノール含有素材は、経口摂取する際に、不快な苦味及び雑味を感じさせにくいうえ、該苦味や雑味に起因する不快な後味を持続させにくいという味覚的な特徴を有しているため、飲食品又は経口剤の剤形を有する医薬品への利用に適している。
【0016】
一般にポリフェノール含有素材の褐色度が大きい場合、飲食品に添加した際に飲食品自体が着色し外観を損なう可能性が高いが、本実施形態のポリフェノール含有素材では、外観の色調に影響を及ぼすことが少なく、良好な色調が容易に得られるとともに、その色調を長期間に亘って持続することができるという視覚的な特徴も有している。このため、ポリフェノール含有素材は、飲料品、液状の食品又は医薬品、特に透明又は着色の程度の低い飲食品や医薬品への利用に適している。前記色調の悪化は、褐変と深い関わりを持っているため、例えば、黄みの強さと、赤みの強さとによって評価可能である。黄みの強さ及び赤みの強さは、ポリフェノール含有素材を含む溶液について、420nm付近及び520nm付近の波長における吸光度をそれぞれ測定することにより、定量的に評価可能である。
【0017】
次に、本実施形態のポリフェノール含有素材の製造方法について説明する。
本実施形態のポリフェノール含有素材の製造方法は、柑橘類の果実又はその構成成分からなる原料を抽出溶媒に浸漬させて抽出物(抽出液)を得る抽出工程と、該抽出工程後の抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備えている。抽出工程では、ポリフェノールとともに上記臭気成分、呈味成分及び着色成分などを含む抽出物が得られ、処理工程では、該抽出物から前記臭気成分、呈味成分及び着色成分が選択的に除去されるため、ポリフェノールを高い濃度で含有する高品質のポリフェノール含有素材が製造される。なお、処理工程は、必要に応じて、複数回実施されても構わない。
【0018】
抽出工程では、原料を抽出溶媒に浸漬させることにより、該原料中に含まれるポリフェノールを抽出溶媒中へと移行させる。このとき、ポリフェノールの抽出速度を高めるために、抽出溶媒を撹拌するとよい。さらに、この抽出工程では、ポリフェノールを抽出溶媒中に十分に移行させた後、固形物(原料)と抽出溶媒(抽出液)とを分離する固液分離が行われる。この固液分離によって、ポリフェノールなどの抽出物が抽出溶媒中に溶解されてなる抽出液が得られる。ちなみに、固液分離後の抽出液には、ポリフェノールを始めとして、上記臭気成分、呈味成分及び着色成分などの抽出物が可溶性固形分として含有されている。
【0019】
原料としては、柑橘類の果実又はその構成成分が使用される。果実の構成成分としては、果皮、果汁、じょうのう膜、さのう及び種子が挙げられる。これらの構成成分のうち、ポリフェノールを多量に得ることが容易であるため、好ましくは果皮又は搾汁残渣が用いられる。搾汁残渣は、果実から果汁を搾汁した後の残渣であり、果皮、じょうのう膜、さのうの一部、種子及び搾汁しきれなかった極少量の果汁が含まれている。ちなみに、抽出工程に搾汁残渣を用いる場合、剥皮により果実の外皮(フラベド)が除去されていることが好ましい。
【0020】
抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、氷酢酸、ヘキサン、酢酸エチルなどの有機溶媒、又は水が使用され、ポリフェノール含有素材を飲食品に添加する場合には水又はエタノールが好適に使用され、安価であることから水が特に好適に使用される。これらの抽出溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、水を使用する場合はアルカリ、酸により適宜pH調整してもよい。なお、抽出工程における抽出時間は、ポリフェノールを抽出溶媒中に十分に移行させるために、30分以上であることが好ましい。ちなみに、柑橘類の果実又はその構成成分には、いずれも水分が多く含まれているため、抽出工程後の抽出液は水を主成分とする水溶液となりやすい。
【0021】
固液分離には、遠心分離や膜分離などの公知の分離方法が採用可能であるが、簡便であることから遠心分離が好適に採用される。遠心分離では、果皮などの固形物と、抽出液とを分離可能な条件が適宜選択されればよい。なお、遠心分離や膜分離の前処理として、必要に応じてメッシュ濾過もしくはデカンテーションにより、果皮等の大きな固形物を予め除去しておくことが好ましい。固液分離後の抽出液は、必要に応じて濃縮又は水希釈した後、処理工程に供される。抽出液の濃縮には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮などが採用可能である。
【0022】
なお、本実施形態の抽出工程では、ポリフェノールの抽出率を高めるとともに、得られる抽出液の清澄度を上げて透明化させやすくするために、抽出溶媒中にペクチナーゼを添加してペクチナーゼ処理を同時に実施することが特に好ましい。ペクチナーゼは、原料中に含まれるペクチンを分解し、果皮や搾汁残渣の塊(固形物)から抽出溶媒中へとポリフェノールを移行させやすくする。なお、抽出溶媒にペクチナーゼを添加する場合、該抽出溶媒は、ペクチナーゼ活性を低下させにくくするために、水又は緩衝液であることが好ましいが、低い濃度であれば、低級アルコール、グリセリン、氷酢酸などが含有されていても構わない。また、抽出工程における抽出温度は、ペクチナーゼ活性の至適温度の範囲内であることが好ましい。
【0023】
処理工程では、抽出工程で抽出された抽出物を含む溶液、特に好ましくは該抽出物を含む水溶液にベントナイトを添加して所定時間静置することによりベントナイト処理を行った後、該ベントナイト処理後の溶液(水溶液)からベントナイトを除去する除去操作が行われる。即ち、この処理工程では、前記溶液(水溶液)中で抽出物とベントナイトとを共存させることにより、該ベントナイトに上記臭気成分、呈味成分及び着色成分を選択的に吸着させた後、それらの成分をベントナイトとともに前記溶液(水溶液)中から除去する。このとき、ポリフェノールは、前記溶液(水溶液)中でベントナイトにほとんど吸着されないため、処理工程後には、ポリフェノールを高い割合で含有する高品質の処理液が回収される。
【0024】
前記抽出物を含む溶液は、前記抽出工程で抽出された抽出物を、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、氷酢酸、ヘキサン、酢酸エチル、水などの任意の溶媒又はそれらの混合溶媒に溶解させたものを指す。一方、前記抽出物を含む水溶液としては、抽出工程で水を主成分とする抽出溶媒を用いた場合には、該抽出工程後の抽出液をそのまま用いることが最も簡便である。しかしながら、上記臭気成分、呈味成分及び着色成分がベントナイトに吸着されにくくなる程度に抽出液中の水の含有量が低い場合には、該抽出液を水希釈したもの、或いは該抽出液を濃縮することにより低級アルコールなどを選択的に揮発させたものが用いられる。抽出物を含む水溶液中の水の含有量は、上記臭気成分、呈味成分及び着色成分をベントナイトに効率的に吸着させるために、好ましくは50容量%以上、より好ましくは60容量%以上、さらに好ましくは70容量%以上であるとよい。
【0025】
ベントナイトとは、火山灰が海水と接触したり、凝灰岩が熱水変質したりすることによって生成された塩基性粘土岩であり、主成分としてのモンモリロナイトと、石英、方解石、α−クリストバライト、オパール、長石、雲母などの随伴鉱物とを含んでいる。ベントナイトは、膨潤性、増粘性及び増結性を示すとともに、カチオン性物質に対する高い吸着性能を有するという特徴を備え、水性塗料、化粧品、医薬品、歯磨、食品などに利用されている。
【0026】
ベントナイト処理は、該処理を迅速に進めるために、前記抽出物を含む溶液に対して、該溶液の溶媒に懸濁(膨潤)された状態のベントナイトを添加することにより実施される。なお、本実施形態のベントナイト処理は、前記抽出物を含む水溶液に対して、水に懸濁(膨潤)された状態のベントナイトを添加することにより実施されることが特に好ましい。このベントナイト処理では、上記臭気成分、呈味成分及び着色成分をベントナイトに十分に吸着させるために、抽出物を含む溶液(水溶液)にベントナイトを添加してから、抽出物とベントナイトとを30分以上共存(反応)させることが好ましい。なお、本実施形態のベントナイト処理では、抽出物を含む溶液(水溶液)に対して、ベントナイトを添加する代わりに、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトを添加することも可能である。
【0027】
除去操作では、遠心分離や膜分離などの公知の分離方法が採用可能であるが、簡便であることから遠心分離が好適に採用される。遠心分離では、抽出物及びベントナイトを含む溶液(水溶液)からベントナイトを分離可能な条件が適宜採用されればよい。除去操作後の処理液は、そのままポリフェノール含有素材として利用することが可能であるうえ、必要に応じて濃縮又は水希釈した状態でポリフェノール含有素材として利用することも可能である。処理液の濃縮には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮などが採用可能である。
【0028】
なお、本実施形態の製造方法において、除去操作後の処理液は、夾雑物を除去してポリフェノールの含有量を高めるための精製工程に供されることが好ましい。夾雑物としては、抽出物中に含まれるポリフェノール以外の成分を指し、具体的には、上記臭気成分、呈味成分及び着色成分を始めとして、ペクチンなどのその他の成分が挙げられる。精製工程で採用される精製方法は、特に限定されないが、吸着樹脂を用いた精製方法を採用することが特に好ましい。なお、吸着樹脂を用いた精製工程では、前記処理工程後の処理液をそのまま用いて実施することが最も簡便である。
【0029】
吸着樹脂としては、ポリフェノールを吸着可能な樹脂が用いられる。吸着樹脂の材質としては、スチレン系合成樹脂やアクリル系合成樹脂などが挙げられる。具体的には、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライトXAD−16、又は、三菱化学社製のSP700シリーズ若しくはSP800シリーズなどが好適に利用される。このような吸着樹脂を用いて精製工程を実施する場合、まず、処理工程後の処理液を吸着樹脂にアプライしてポリフェノールを該吸着樹脂に吸着させる吸着処理を行った後、吸着樹脂を洗浄する洗浄処理を行い、引き続き吸着樹脂からポリフェノールを溶出させる溶出処理が行われる。
【0030】
吸着処理は、カラム内に充填された吸着樹脂に対して処理液をアプライし、処理液中のポリフェノールを吸着樹脂に吸着させるために行われる。処理液中のポリフェノールを吸着樹脂に吸着させ保持しやすくするために、処理液は好ましくは70容量%以上、より好ましくは90容量%以上の水を含む水溶液であるのが望ましい。
【0031】
洗浄処理は、吸着処理後のカラムに洗浄用溶媒を流すことにより、吸着樹脂を洗浄する処理であり、吸着樹脂からポリフェノール以外の夾雑物の多くを取除くために行われる。洗浄用溶媒としては、吸着樹脂に対するポリフェノールの吸着状態を維持可能な溶媒が用いられるが、好ましくは上記極性溶媒が用いられ、より好ましくは水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水アルコールが用いられ、さらに好ましくは温水又は20容量%以下のアルコール濃度の含水エタノールが用いられる。この洗浄処理では、洗浄用溶媒存在下の吸着樹脂に対する一部の夾雑物の吸着性が、ポリフェノールの吸着性よりも低いことにより、該夾雑物は溶出しやすくポリフェノールは吸着樹脂に残存しやすいことを利用している。さらに洗浄用溶媒が水の場合は、加熱していない状態でカラムに流されてもよいが、ポリフェノール以外の夾雑物を効率的に取除くために、40〜100℃に加熱した状態でカラムに流されることが好ましい。また、洗浄用溶媒が含水アルコールの場合は、該溶媒中のアルコール濃度が20容量%を超えると、吸着樹脂からポリフェノールを溶出させやすくするため、最終的な回収率の低下を招くおそれが高くなる。
【0032】
溶出処理は、洗浄処理後のカラムに溶出用溶媒を流すことにより、吸着樹脂に吸着されているポリフェノールを溶出させる処理であり、該ポリフェノールをカラム内から回収するために行われる。この溶出処理によって、ポリフェノールが溶出用溶媒に溶解されてなる溶出液が得られる。溶出用溶媒としては、エタノールなどのアルコール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、グリセリン、氷酢酸などの有機溶媒や水が使用可能であり、ポリフェノールを飲食品に含有させる場合には20容量%を超えるアルコール濃度の含水エタノール、好ましくは30容量%以上のアルコール濃度の含水エタノールが好適に使用される。これら列挙された溶出用溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ちなみに、溶出用溶媒として含水エタノールを用いる場合、該溶媒中のアルコール濃度が20容量%以下では、吸着樹脂からポリフェノールを溶出させることが困難になる。また、溶出用溶媒として含水エタノールを用いる場合、含水エタノールのアルコール濃度の上限値は、ベントナイト処理との併用による改善や最終的に得られるポリフェノールの溶出量より、適宜濃度を設定すればよい。
【0033】
精製工程(溶出処理)によって得られた溶出液は、そのままポリフェノール含有素材として利用することが可能であるうえ、必要に応じて濃縮、乾燥又は水希釈した状態でポリフェノール含有素材として利用することも可能である。溶出液の濃縮及び乾燥には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮、真空乾燥又は凍結乾燥が採用可能である。
【0034】
本実施形態の飲食品は、上述した製造方法により製造されたポリフェノール含有素材を含有するものである。飲食品としては、ドリンク剤などの飲料品やクッキーなどの食料品に加え、健康食品などのサプリメントも含まれる。飲食品中のポリフェノールの含有量は、0.05〜50重量%であることが好ましい。飲食品に含まれるポリフェノールの含有量が0.05重量%未満では、抗酸化作用などの有用な生理作用を十分に発揮させることが困難になり、逆に50重量%を超える場合には不経済である。飲食品は、毎日継続して経口摂取することが好ましい。また、1日数回に分けて経口摂取することが好ましい。飲食品において、ポリフェノールの摂取量は、年齢、体重などによって異なるが、成人1日当たり0.05〜300gであることが好ましく、0.1〜50gであることがより好ましい。ポリフェノールの1日当たりの摂取量が0.05g未満では前記有用な生理作用を十分に発揮させることが困難になり、逆に300gを超える場合には不経済である。また、小人の場合には、前記成人の場合の半量が目安となる。
【0035】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態のポリフェノール含有素材の製造方法は、抽出工程と、該抽出工程で抽出された抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備えている。抽出工程では、ポリフェノールとともに、柑橘類の果皮などに由来する不快な臭気成分、呈味成分及び着色成分が同時に抽出されるが、それらの不快な成分は、ベントナイト処理によって選択的に除去されるため、ポリフェノールを高い濃度で含有する高品質のポリフェノール含有素材を製造することが可能となる。従って、本実施形態の製造方法によれば、柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有しつつ、他の飲食品に添加する際に影響を及ぼさないような低い褐色度の色調を保持しながら、不快な臭い及び苦味を呈さない高い品質を備えたポリフェノール含有素材を提供することが極めて容易である。
【0036】
特に、本実施形態の製造方法では、水を抽出溶媒として用いて抽出工程を実施し、該抽出工程後の水抽出液にそのままベントナイトを添加してベントナイト処理を行った後に遠心分離により除去操作を実施することが最も製造効率がよい。また、抽出工程で、抽出溶媒にペクチナーゼを添加することによって、ポリフェノールの抽出率を高めることができるうえ、濁りの少ない清澄な抽出液を得ることが容易となる。
【0037】
・ 本実施形態の飲食品は、ベントナイト処理を経て製造された高品質のポリフェノール含有素材を含有するものである。このため、この飲食品では、柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有させた場合でも、臭い、呈味及び色調に関して高い品質を備えたものとなりやすい。従って、飲食品を無理なく毎日手軽に摂取することが容易となる。
【実施例1】
【0038】
<ポリフェノール含有素材の製造1>
(比較例1)
レモン果実の搾汁残渣200gに水1L及びペクチナーゼ(アマノエンザイム社製のペクチナーゼPL)500mgを加え攪拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過(メッシュサイズ;500μm/32メッシュ)した後、9000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。この濾液(水抽出液)の可溶性固形分濃度はBrix2.2であった。
【0039】
(試験例1)
比較例1の方法に従って、Brix2.2の可溶性固形分濃度を有する濾液(水抽出液)を得た。次に、得られた濾液(水抽出液)900mLに対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト(ホージュン社製のベンゲルシリーズ)懸濁液を100mL加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。このときの可溶性固形分濃度はBrix2.0であった。次に、ベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液(試験例1のポリフェノール含有素材)を得た。この上澄み液の可溶性固形分濃度はBrix2.0であった。
【0040】
(試験例2)
試験例1の方法に従ってポリフェノール含有素材を得た。次に、得られた上澄み液(ポリフェノール含有素材)に対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を100mL加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、第2回目のベントナイト処理を実施した。第2回目のベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液(試験例2のポリフェノール含有素材)を得た。
【0041】
<ポリフェノール含有素材の色調の評価>
試験例1,2及び比較例1の各サンプルについて、分光光度計(日立ダブルビーム分光光度計U−2000形)を用いて、420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。各サンプルについての測定結果は、比較のために、可溶性固形分濃度をBrix2.0に合わせるように補正した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

色調の悪化は、褐変と深い関わりを持っているため、黄みの強さ(420nmにおける吸光度)と、赤みの強さ(520nmにおける吸光度)とによって評価可能である。表1より、試験例1では、ベントナイト処理により、黄み及び赤みがともに低下した。よって、試験例1は、比較例1よりも、色調に関して高い品質を有していることが示された。さらに、ベントナイト処理を2回実施した試験例2では、1回実施した試験例1よりも色調が改善されていることも示された。よって、ベントナイト処理により、色調を改善することができた。
【実施例2】
【0043】
<ポリフェノール含有素材を含むレモン風飲料の製造>
(比較例2)
レモン果実の搾汁残渣2kgに10Lの水及び5gのペクチナーゼPLを加え攪拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過(メッシュサイズ;500μm/32メッシュ)した後、9000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。この濾液の可溶性固形分濃度はBrix2.2であった。
【0044】
次に、得られた濾液を吸着樹脂(ローム・アンド・ハース社製のアンバーライトXAD−16)200mLが充填されたカラムに通し、該カラムを10容量%の含水エタノール1Lで洗浄した。続いて、該カラムに30容量%の含水エタノール1Lを通すことにより、溶出液を得た後、得られた溶出液を減圧濃縮した。濃縮後の溶出液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC;島津製作所LC−10A)で分析することにより、該溶出液中に含まれるエリオシトリン濃度を定量した。なお、HPLCの分析条件としては、0.45μmのフィルターに通液した溶出液10μLをODSカラム(カラム温度;40℃)に注入(インジェクション)し、移動相(メタノール:5%酢酸=30:70)を流速1mL/分で流してピーク分離した後、280nmで検出した。その結果、濃縮後の溶出液(比較例2の水抽出液)には、約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0045】
次に、得られた溶出液(比較例2の水抽出液)100gに、ショ糖64g、無水クエン酸9.1g及びアスコルビン酸0.6gを添加した後、水を加えて1Lのレモン風飲料を作製した。このレモン風飲料を95℃で30秒間殺菌した後、瓶内に100mLずつホットパック充填した。なお、比較例2のレモン風飲料は、可溶性固形分濃度Brix7.2、酸度0.93(クエン酸酸度;w/v%)であり、1800ppm相当のエリオシトリンを含有している。
【0046】
(試験例3)
レモン果実の搾汁残渣2kgに10Lの水及び5gのペクチナーゼPLを加え攪拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液を濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。この濾液の可溶性固形分濃度はBrix2.2であった。
【0047】
次に、得られた濾液9Lに対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を1L加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を得た。
【0048】
次に、得られた上澄み液を吸着樹脂(アンバーライトXAD−16)200mLが充填されたカラムに通し、該カラムを10%含水エタノール1Lで洗浄した。続いて、該カラムに30%含水エタノール1Lを通すことにより、溶出液を得た後、得られた溶出液を減圧濃縮した。濃縮後の溶出液をHPLCで分析することにより、該溶出液中に含まれるエリオシトリン濃度を定量した。その結果、濃縮後の溶出液(試験例3のポリフェノール含有素材)には、約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0049】
次に、得られた溶出液(試験例3のポリフェノール含有素材)100gに、ショ糖64g、無水クエン酸9.1g及びアスコルビン酸0.6gを添加した後、水を加えて1Lのレモン風飲料を作製した。このレモン風飲料を95℃で30秒間殺菌した後、瓶内に100mLずつホットパック充填した。なお、試験例3のレモン風飲料は、可溶性固形分濃度Brix7.2、酸度0.93(クエン酸酸度;w/v%)であり、1800ppm相当のエリオシトリンを含有している。
【0050】
<レモン風飲料の色調の評価>
試験例3及び比較例2の各レモン風飲料をそれぞれ60℃で3日間静置することにより、加速度経時試験を行った。各レモン風飲料について、製造直後のもの(未経時品)及び60℃で3日間静置したもの(経時品)の420nm及び520nmにおける吸光度を、分光光度計を用いてそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

表2より、未経時品同士を比較すると、試験例3は、比較例2よりも色調に関して高い品質を有していることが示された。さらに、試験例3の経時品は、比較例2の未経時品よりも色調に関して高い品質を有していることも示された。よって、ベントナイト処理により、色調に関する品質を長期に亘って持続することができた。
【0052】
<レモン風飲料の臭い及び呈味の評価>
10名の熟練パネリストに試験例3及び比較例2の各レモン風飲料を飲用してもらい、表3に示す各評価項目について、同表に示す評価基準に従ってそれぞれ7段階評価を行うとともに、各評価結果に基づいて総合評価を行った。なお、各評価においては、比較例2の未経時品を標準品(即ち、評価点0)とした。評価点の平均値を表3に示す。
【0053】
【表3】

表3に示す各評価項目においては、いずれも小さい数値である方が高い品質を有していることを示している。一方、総合評価においては、大きい数値であるほうが高い品質を有していることを示している。表3より、試験例3のレモン風飲料は、比較例2よりも臭い及び呈味に優れていることが示された。よって、ベントナイト処理により、臭い及び呈味に関する品質が改善されるとともに、該品質を長期に亘って高く維持することが可能であることが示された。
【実施例3】
【0054】
<ベントナイト処理条件の検討1>水抽出液中におけるベントナイト量の検討
ベントナイト処理の条件を最適化するために、該処理におけるポリフェノール量とベントナイト量との相対的な量比の検討を行った。まず、比較例1の水抽出液(Brix2.2)を減圧濃縮によりBrix10まで濃縮し、その後ベントナイト膨潤液を加えた際に表4に示す可溶性固形分濃度となるように希釈した各種水抽出液をそれぞれ準備した。次に、各水抽出液に終濃度が0.5%となるようにベントナイトを加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、それぞれベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の各液を9000rpmで10分間遠心分離し上澄み液を得た。
【0055】
各上澄み液及び比較例1の水抽出液について、Brix2.0となるように水で希釈した後、分光光度計を用いて、420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。さらに、各上澄み液及び比較例1の水抽出液をそれぞれ、Brix2.0となるように水で希釈した後、HPLC分析することにより、エリオシトリン濃度を定量した。得られたエリオシトリン濃度を用いて、各上澄み液中に回収されたエリオシトリンの回収率(%)を求めた。これらの結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

表4より、水抽出液の可溶性固形分濃度(ポリフェノール量)に対して、ベントナイト量を相対的に多く設定してベントナイト処理を実施することにより、色調に関する品質の高いポリフェノール含有素材が得られることが示された。
【0057】
さらに、本試験では、水抽出液の可溶性固形分濃度(ポリフェノール量)に対してベントナイト量を多く設定してベントナイト処理を実施した場合と、ベントナイト量を少なく設定してベントナイト処理を実施した場合とを比較すると、驚くべきことに、エリオシトリンの回収率がほぼ同じ値となっていた。即ち、ベントナイト処理では、用いられるベントナイトの添加量に比例して品質を低下させる成分を多く除去することができる一方で、ポリフェノールを高い割合で回収することが可能であることが示された。従って、ベントナイト処理は、ポリフェノールの回収ロスを少なく保ちしつつ、品質を低下させる成分を選択的に除去する処理であることが示された。
【0058】
<参考例1>活性炭処理におけるポリフェノール及び活性炭の相対的な量比の検討
参考までに、活性炭を用いて、比較例1の水抽出液から品質を低下させる成分を除去する試験を行った。まず、比較例1の水抽出液(Brix2.2)をBrix8の可溶性固形分濃度となるように濃縮した。次に、一定量の比較例1の濃縮液に、活性炭(フタムラ化学社製の太閤FC)を表5に示す量を添加し、常温で1時間静置した。その後、濾過により活性炭を除去した後、Brix4の可溶性固形分濃度となるように水で希釈した。
【0059】
希釈後の各希釈液について、分光光度計を用いて420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。また、活性炭を添加していないサンプルで得られた各吸光度を100%としたときの各サンプルの吸光度の割合についても求めた。さらに、各希釈液をHPLC分析することにより、エリオシトリン濃度をそれぞれ定量した。得られたエリオシトリン濃度を用いて、各希釈液中に回収されたエリオシトリンの回収量(mg)及び回収率(%)をそれぞれ求めた。これらの結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

表5より、水抽出液の可溶性固形分濃度(ポリフェノール量)に対して、活性炭の添加量を相対的に多く設定して活性炭処理することにより、色調が改善されることが示された。しかしながら、色調の改善に反比例して、エリオシトリンの回収率が低下することも示された。従って、活性炭処理は、品質を低下させる成分及びポリフェノールの両方を非選択的に除去する処理であることが示された。以上の結果を踏まえると、活性炭処理によっても色調に関する品質の向上は可能ではあるが、ポリフェノールの精製という観点からは、品質を低下させる成分を選択的に除去できるベントナイト処理がより有効な処理方法であると言える。
【実施例4】
【0061】
<ベントナイト処理条件の検討2>ポリフェノール濃度及びベントナイト濃度の検討
ベントナイト処理の条件を最適化するために、水抽出液中のポリフェノール濃度及びベントナイト濃度について検討を行った。試験は、各水抽出液に表6に示す終濃度となるようにベントナイトを添加してベントナイト処理を行ったこと以外は、上記実施例3と全く同様に実施した。結果を表6に示す。
【0062】
【表6】

表6より、可溶性固形分濃度(ポリフェノール濃度)及びベントナイト濃度が低い程、色調の改善及びエリオシトリンの回収率がともに高められる傾向が見られた。
【実施例5】
【0063】
<ベントナイト処理条件の検討3>ベントナイト処理時間の検討
比較例1の水抽出液(Brix2.2)をおよそBrix8(詳しくは表7参照)となるように濃縮した後、表7に示す終濃度となるようにベントナイトを添加し、常温でベントナイト処理を開始した。ベントナイト処理の開始から、0.5時間、3時間及び5時間後に処理液を少量ずつ採取し、それぞれ9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を得た。得られた各上澄み液について、分光光度計を用いて420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。結果を表7に示す。
【0064】
【表7】

表7より、ベントナイト処理を0.5時間以上実施すれば、色調が十分に改善されることが示された。また、水抽出液の可溶性固形分濃度(ポリフェノール量)に対して、ベントナイト量を相対的に多く設定してベントナイト処理を実施することにより、色調に関する品質の高いポリフェノール含有素材が得られることが再確認された。
【実施例6】
【0065】
<ベントナイト処理条件の検討4>ベントナイト処理回数の検討
比較例1の水抽出液(Brix2.2)をおよそBrix8となるように濃縮した後、終濃度が0.5%となるようにベントナイトを加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、第1回目のベントナイト処理を実施した。第1回目のベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液を得た。
【0066】
次に、得られた上澄み液に対し、終濃度が0.5%となるようにベントナイトを加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、第2回目のベントナイト処理を実施した。第2回目のベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液を得た。このようにしてベントナイト処理を第4回目まで実施した。
【0067】
各ベントナイト処理で得られた上澄み液と、比較例1の水抽出液(Brix8)とについて、分光光度計を用いて420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定するとともに、Brix2となるように水で希釈した後、HPLC分析することにより、エリオシトリン濃度をそれぞれ定量した。得られたエリオシトリン濃度を用いて、各上澄み液中に回収されたエリオシトリンの回収率(%)を求めた。これらの結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

表8より、ベントナイト処理回数が増える程、色調が改善されることが示された。しかしながら、ベントナイト処理回収が増えると、最終的なエリオシトリンの回収量が減少するとともに、製造にかかる手間及び時間が増大することから、ベントナイト処理は2回までが適当であると考えられる。
【実施例7】
【0069】
<レモン以外の柑橘類由来のポリフェノール含有素材の製造>
(試験例4)
ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ブンタン区に属する柑橘類として、グレープフルーツ、スウィーティー、ブンタン、ハッサクなどが知られている。これらブンタン区に属する柑橘類のうち、代表的な柑橘類であるグレープフルーツ(スタールビー種)より、ポリフェノール含有素材を製造した。
【0070】
まず、グレープフルーツの搾汁残渣200gに1Lの水及び500mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ(500μm/32メッシュ、以下の試験例、比較例も同様)濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を得た。次に、得られた上澄み液900mLに対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を100mL加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を得た後、該上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix2となるように純水で希釈することにより、試験例4のポリフェノール含有素材とした。
【0071】
(比較例3)
グレープフルーツの搾汁残渣200gに1Lの水及び500mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を得た。次に、得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix2となるように純水で希釈することにより、比較例3の水抽出液とした。
【0072】
(試験例5)
ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区に属する柑橘類として、ライム、ベルガットなどが知られている。これらライム区に属する柑橘類のうち、代表的な柑橘類であるライムより、ポリフェノール含有素材を製造した。即ち、上記試験例4におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、ライムの搾汁残渣200gを用いて、上記実施例4と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.4となるように純水で希釈することにより、試験例5のポリフェノール含有素材とした。
【0073】
(比較例4)
上記比較例3におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、ライムの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例3と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.4となるように純水で希釈することにより、比較例4の水抽出液とした。
【0074】
(試験例6)
ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ダイダイ区に属する柑橘類として、オレンジ、ダイダイ、イヨカンなどが知られている。これらダイダイ区に属する柑橘類のうち、代表的な柑橘類であるオレンジ(ネーブル)より、ポリフェノール含有素材を製造した。即ち、上記試験例4におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、オレンジの搾汁残渣200gを用いて、上記実施例4と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.4となるように純水で希釈することにより、試験例6のポリフェノール含有素材とした。
【0075】
(比較例5)
上記比較例3におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、オレンジの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例3と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.4となるように純水で希釈することにより、比較例5の水抽出液とした。
【0076】
(試験例7)
ミカン科カンキツ属後生カンキツ亜属ミカン区に属する柑橘類として、温州ミカン、シークワサー、マンダリン、ポンカンなどが知られている。これらミカン区に属する柑橘類のうち、本試験例では、代表的な柑橘類である温州ミカンより、ポリフェノール含有素材を製造した。即ち、上記試験例4におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、温州ミカンの搾汁残渣200gを用いて、上記実施例4と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix2.5となるように純水で希釈することにより、試験例7のポリフェノール含有素材とした。
【0077】
(比較例6)
上記比較例3におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、温州ミカンの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例3と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix2.5となるように純水で希釈することにより、比較例6の水抽出液とした。
【0078】
(試験例8)
ミカン区に属する柑橘類のうち、本試験例では、代表的な柑橘類であるシークワサーより、ポリフェノール含有素材を製造した。即ち、上記試験例4におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、シークワサーの搾汁残渣200gを用いて、上記実施例4と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.2となるように純水で希釈することにより、試験例8のポリフェノール含有素材とした。
【0079】
(比較例7)
上記比較例3におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、シークワサーの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例3と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.2となるように純水で希釈することにより、比較例7の水抽出液とした。
【0080】
(試験例9)
ミカン科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区に属する柑橘類として、ユズ、スダチ、カボス、日向夏などが知られている。これらユズ区に属する柑橘類のうち、代表的な柑橘類であるユズより、ポリフェノール含有素材を製造した。即ち、上記試験例4におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、ユズの搾汁残渣200gを用いて、上記実施例4と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.7となるように純水で希釈することにより、試験例9のポリフェノール含有素材とした。
【0081】
(比較例8)
上記比較例3におけるグレープフルーツの搾汁残渣200gの代わりに、ユズの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例3と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.7となるように純水で希釈することにより、比較例8の水抽出液とした。
【0082】
<ポリフェノール含有素材の評価1>
試験例4〜9及び比較例3〜8の各サンプルについて、420nm及び520nmにおける吸光度をそれぞれ測定することにより、色調に関する品質を評価した。次に、各サンプルを上記分析条件でHPLC分析し、各ポリフェノールのピーク面積から、各サンプル中の各ポリフェノール濃度をそれぞれ定量した。そして、各サンプルについて、得られた各ポリフェノール濃度を用いて、ベントナイト処理前の液180g中に含まれるポリフェノール量(mg)を求めた。続いて、各サンプルについて、熟練パネリストによる風香味評価(苦味・雑味に関する官能評価)を行った。これらの結果を表9に示す。なお、同表には、ベントナイト処理によって、各ポリフェノール量及び各吸光度の値が変化した割合(減少率)も併記する。
【0083】
【表9】

表9に示すように、レモン以外の他の区に属する柑橘類でも、レモンの場合と全く同様の結果が得られた。従って、本実施形態のポリフェノール含有素材の製造方法は、柑橘類全般に関して、該柑橘類由来のポリフェノールを高い濃度で含有しつつ品質を低下させる成分の含有量を低減させることが可能であることが確認された。なお、表9には、ポリフェノール量の減少率がマイナスで表示されているケースが見られるが、これらはいずれもポリフェノールの含有量が微量であるための分析誤差に起因するものである。
【実施例8】
【0084】
本実施例では、ポリフェノール含有素材の製造方法を最適化する諸条件を検討した。
<剥皮の影響>
(比較例9)
レモン果実から剥皮によりフラベド部を除去した後、インライン搾汁機にて果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣200gに1Lの水及び500mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.8となるように純水で希釈することにより、比較例9の水抽出液とした。
【0085】
(試験例10)
レモン果実から剥皮によりフラベド部を除去した後、インライン搾汁機にて果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣200gに1Lの水及び500mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。
【0086】
得られた上澄み液900mLに対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を100mL加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を得た後、該上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.8となるように純水で希釈することにより、試験例10のポリフェノール含有素材とした。
【0087】
(比較例10)
フラベド部を除去していないレモン果実全体を用いて、インライン搾汁機にて果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。得られた搾汁残渣200gを用いて、比較例9と同様に水抽出液を製造した。即ち、比較例9においてフラベド部除去後のレモンの搾汁残渣200gの代わりに、本比較例のフラベド部を除去していないレモンの搾汁残渣200gを用いて、上記比較例9と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.8となるように純水で希釈することにより、比較例10の水抽出液とした。
【0088】
(試験例11)
フラベド部を除去していないレモン果実全体を用いて、インライン搾汁機にて果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。得られた搾汁残渣200gを用いて、試験例10と同様にポリフェノール含有素材を製造した。即ち、試験例10においてフラベド部除去後のレモンの搾汁残渣200gの代わりに、本試験例のフラベド部を除去していないレモンの搾汁残渣200gを用いて、上記試験例10と同様にして透明な濾液を得た。得られた濾液をBrix1.8となるように純水で希釈することにより、試験例11のポリフェノール含有素材とした。
【0089】
<ポリフェノール含有素材の評価2>
試験例10,11及び比較例9,10の各サンプルについて、上記実施例7の<ポリフェノール含有素材の評価1>と同様に評価した。結果を表10に示す。
【0090】
【表10】

表10に示すように、フラベド部を除去した果実の搾汁残渣から製造されたポリフェノール含有素材では、フラベド部を除去していない果実の搾汁残渣から製造されたポリフェノール含有素材よりも、色調及び苦味・雑味における品質が高いことが示された。さらに、剥皮によるフラベド部の除去と、ベントナイト処理とを併用することにより、ポリフェノール含有素材の品質がより一層高められることも確認された。
【0091】
<ペクチナーゼ処理の影響>
(参考例2)
インライン搾汁機にてレモン果実から果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣100gに、常温(27℃)の純水500gを加え撹拌した後、常温(27℃)で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(参考例2の水抽出液)475.7gを得た。得られた濾液の可溶性固形分濃度はBrix1.0であった。
【0092】
(参考例3)
インライン搾汁機にてレモン果実から果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣100gに、45℃の純水500gを加え撹拌した後、45℃で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(参考例3の水抽出液)479.7gを得た。得られた濾液の可溶性固形分濃度はBrix1.1であった。
【0093】
(参考例4)
インライン搾汁機にてレモン果実から果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣100gに、45℃の純水500g及び250mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、45℃で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(参考例4の水抽出液)480.2gを得た。得られた濾液の可溶性固形分濃度はBrix1.2であった。
【0094】
(参考例5)
インライン搾汁機にてレモン果実から果汁を搾汁して搾汁残渣を得た。次に、得られた搾汁残渣100gに、45℃の純水500g及び500mgのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、45℃で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離することにより、上澄み液を得た。得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(参考例5の水抽出液)484.4gを得た。得られた濾液の可溶性固形分濃度はBrix1.3であった。
【0095】
<ポリフェノール含有素材の評価3>
参考例2〜5の各サンプルについて、上記実施例7の<ポリフェノール含有素材の評価1>と同様に評価した。結果を表11に示す。
【0096】
【表11】

表11に示すように、抽出工程でペクチナーゼを添加することにより、ポリフェノールを多量に抽出できることが示された。なおこの場合、苦味・雑味も同時に多量に抽出されるが、本実施形態のベントナイト処理を実施することにより、苦味・雑味を効果的に低減可能であることは容易に推察される。
【0097】
<精製工程の最適化>
レモンの搾汁残渣2kgに10Lの水及び5gのペクチナーゼPLを加え撹拌した後、常温で30分間静置することにより、抽出工程を実施した。抽出工程後の水抽出液をメッシュ濾過した後、9000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を得た。次に、得られた上澄み液を分画分子量20000の限外濾過に供することにより、透明な濾液(水抽出液)を得た。得られた濾液の可溶性固形分濃度はBrix2であった。得られた濾液を6つの区分に分け、以下に記載する比較例11〜13及び試験例12〜14のサンプルをそれぞれ調製した。
【0098】
(比較例11)
前記水抽出液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを常温(27℃)の純水1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、比較例11の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0099】
(試験例12)
前記水抽出液90重量部に対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を10重量部加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を得た。
【0100】
次に、得られた上澄み液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを常温(27℃)の純水1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、試験例12の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0101】
(比較例12)
前記水抽出液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを70℃の純水1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、比較例12の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0102】
(試験例13)
前記水抽出液90重量部に対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を10重量部加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を得た。
【0103】
次に、得られた上澄み液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを70℃の純水1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、試験例13の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0104】
(比較例13)
前記水抽出液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを常温(27℃)の10容量%含水エタノール1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、比較例13の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0105】
(試験例14)
前記水抽出液90重量部に対し、予め水で膨潤させた2%のベントナイト懸濁液を10重量部加えてよく撹拌した後、常温で30分間静置することにより、ベントナイト処理を実施した。ベントナイト処理後の液を9000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を得た。
【0106】
次に、得られた上澄み液を200mLのアンバーライトXAD−16が充填されたカラムに通すことにより吸着処理を行った後、該カラムを常温(27℃)の10容量%含水エタノール1Lで洗浄し、さらに該カラムに常温(27℃)の純水1Lを流すことにより洗浄処理を行った。次に、前記カラムに30容量%の含水エタノールを流すことにより溶出処理を行った。得られた溶出液を減圧濃縮した後、該濃縮液をHPLC分析することにより、エリオシトリンの濃度を定量した。その結果、試験例14の濃縮液には約18000ppmのエリオシトリンが含まれていた。
【0107】
<レモン風飲料の製造及び評価>
比較例11〜13及び試験例12〜14の各サンプル(濃縮液)100gに、ショ糖64g、無水クエン酸9.1g及びアスコルビン酸0.6gを添加した後、水を加えて1Lのレモン風飲料をそれぞれ作製した。各レモン風飲料を95℃で30秒間殺菌した後、瓶内に100mLずつホットパック充填した。なお、各レモン風飲料は、可溶性固形分濃度Brix7.2、酸度0.93(クエン酸酸度;w/v%)であり、1800ppm相当のエリオシトリンを含有している。
【0108】
次に、各レモン風飲料をそれぞれ60℃で3日間静置することにより、加速度経時試験を行った。各レモン風飲料について、製造直後のもの(未経時品)及び60℃で3日間静置したもの(経時品)の420nm及び520nmにおける吸光度を、分光光度計を用いてそれぞれ測定した。さらに、各レモン風飲料について、上記実施例7の<ポリフェノール含有素材の評価1>における風香味評価を実施した。結果を表12に示す。
【0109】
【表12】

表12に示すように、精製工程において、洗浄処理に用いる洗浄用溶媒として、常温よりも高い温度の水(温水)又は10容量%の含水エタノールを用いることにより、常温の水を用いる場合よりも、苦味・雑味の少ないポリフェノール含有素材を製造可能であることが示された。また、ベントナイト処理により、褐変及び苦味・雑味の少ないポリフェノール含有素材を容易に製造できることも再確認された。
【0110】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記処理工程では、前記抽出物を含む溶液に含まれる前記ポリフェノールの濃度の低下は少なく、臭い、苦味及び雑味を呈する成分の含量を大幅に低下させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリフェノール含有素材の製造方法。
【0111】
・ 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリフェノール含有素材の製造方法により製造されたポリフェノール含有素材。
・ 柑橘類由来のポリフェノールを含有する素材を製造する方法であって、該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分を抽出溶媒に浸漬させて前記ポリフェノールを含む抽出物を得る抽出工程と、該抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備え、該処理工程では、前記抽出物を含む水溶液にベントナイトを添加して共存させた後、該水溶液から前記ベントナイトを除去する操作が行われることを特徴とするポリフェノール含有素材の製造方法。
【0112】
・ 柑橘類由来のポリフェノールを含有する素材を製造する方法であって、該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分を水に浸漬させて前記ポリフェノールを含む水抽出液を得る抽出工程と、該水抽出液に対してベントナイト処理する処理工程とを備え、該処理工程では、前記水抽出液にベントナイトを添加して共存させた後、該水抽出液から前記ベントナイトを除去する操作が行われることを特徴とするポリフェノール含有素材の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類由来のポリフェノールを含有する素材を製造する方法であって、
該方法は、前記柑橘類の果実又はその構成成分を抽出溶媒に浸漬させて前記ポリフェノールを含む抽出物を得る抽出工程と、該抽出物に対してベントナイト処理する処理工程とを備え、
該処理工程では、前記抽出物を含む溶液にベントナイトを添加して共存させた後、該溶液から前記ベントナイトを除去する操作が行われることを特徴とするポリフェノール含有素材の製造方法。
【請求項2】
前記抽出工程では、前記抽出溶媒にペクチナーゼが添加されることを特徴とする請求項1に記載のポリフェノール含有素材の製造方法。
【請求項3】
前記処理工程では、前記抽出物に含まれる不快な臭い、苦味及び雑味を呈する成分が前記ベントナイトに吸着され、かつそれらの成分が前記ベントナイトとともに前記溶液から除去されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリフェノール含有素材の製造方法。
【請求項4】
前記処理工程では、前記抽出物を含む溶液の黄み及び赤みが低減されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリフェノール含有素材の製造方法。
【請求項5】
当該方法はさらに、前記処理工程後に精製工程が実施され、
該精製工程では、前記処理工程後の処理液を吸着樹脂に吸着させる吸着処理と、該吸着処理後の前記吸着樹脂を水又は20容量%以下の含水アルコールで洗浄する洗浄処理と、該洗浄処理後の前記吸着樹脂から前記ポリフェノールを溶出させる溶出処理とが実施されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリフェノール含有素材の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリフェノール含有素材の製造方法により製造されたポリフェノール含有素材を含有する飲食品。

【公開番号】特開2007−112852(P2007−112852A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303538(P2005−303538)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】